説明

限界電流式酸素センサ

【目的】 優れた特性と高い信頼性を有する限界電流式酸素センサを提供する。
【構成】 アルミナ基板1に、一部が拡散律速性を持つ酸素ガス供給部21,22として基板周辺に導出されたポーラスな絶縁膜2が形成され、この上にベタ構造のPtカソード電極3、安定化ジルコニア膜4及び櫛型パターンのPtアノード電極5がドライプロセスにより積層形成される。絶縁膜2の一部は酸素ガス供給部21,22として基板周辺部に導出される。安定化ジルコニア膜4及び絶縁膜2の周辺部を覆い、かつアノード電極5の形成された面及び絶縁膜2の酸素ガス供給部21,22を露出させた中抜きパターンをもってガラス封止層6が形成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄膜の酸化物セラミックイオン伝導体を用いた限界電流式酸素センサに関する。
【0002】
【従来の技術】イットリウム(Y)で安定化した酸化ジルコニウム、即ちジルコニア−イットリア(ZrO2 −Y2 O3 )をイオン伝導体(固体電解質)として用いたセラミック酸素センサが知られている。バルク型のセラミック酸素センサでは、ZrO2 −Y2 O3 イオン伝導体バルクをプレス成形,焼成により得て、これに触媒作用を有し且つ酸素ガス透過性を有するPt電極を厚膜技術即ちPtペーストの印刷焼成により形成している。
【0003】このようなバルク型セラミック酸素センサに対して、最近は、素子を小型化するため、酸化物イオン伝導体をスパッタリング等の薄膜技術により形成する薄膜型セラミック酸素センサが作られている。イオン伝導体の両面に設けられる電極の形成法としては、スパッタリング法や印刷法が用いられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】セラミック酸素センサにおいて限界電流特性を得るためには、電極が酸素ガス透過性を有し、且つ酸素ガスが拡散律速された状態でカソード電極界面に供給されるようにすることが必要である。Ptペーストの印刷,焼成によりアノード,カソード電極を形成する方法は、ポーラス膜を得ることが容易であり、また焼結助剤等の添加によりイオン伝導体膜との強固な接合を得ることができる。しかし反面、添加剤によりイオン伝導体膜との界面に粒成長をもたらしたり、高温焼成による膜収縮が大きいためにはがれが生じ易い。一方、スパッタリング等のドライプロセスによりアノード,カソード電極を形成する方法では、電極膜が緻密になり易く、酸素ガス透過性を有するポーラス膜を得ることが難しい。
【0005】また、酸素ガスの拡散律速性を得るための方法として、基板自体をポーラスにしてこれを酸素ガス供給部とする方法、基板とは別にポーラスな拡散律速絶縁層を形成する方法等が既に提案されている。しかしこれらの方法では、薄膜を用いた小型の酸素センサにおいて安定な拡散律速を得ることは難しい。更にセラミック酸素センサにヒータを一体化する構造として、従来は一般的に封止層上にヒータを配設することが行われている。しかしこの構造では、ヒータの一方の面が露出しているため熱効率が悪く、従ってヒータ寿命も短く、また電気的安全性にも問題があった。
【0006】本発明は、上記した問題を解決して、優れた特性と高い信頼性を有する限界電流式酸素センサを提供することを目的としている。本発明はまた、ヒータの熱効率及び安全性が高く且つ優れた特性を示す限界電流式酸素センサを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る限界電流式酸素センサは、第1に、基板と、この基板上に形成された、一部が拡散律速性を持つ酸素ガスガス供給部として基板周辺に導出されたポーラスな絶縁膜と、この絶縁膜上に形成されたカソード電極と、このカソード電極上に形成された酸化物イオン伝導体膜と、このイオン伝導体膜上に形成された櫛形パターンのアノード電極と、このアノード電極の形成された面及び前記絶縁膜の酸素ガス供給部を露出させた中抜きパターンをもって、前記酸化物イオン伝導体膜及び絶縁膜の周辺部を覆うように形成された封止層とを有することを特徴としている。
【0008】本発明に係る限界電流式酸素センサは、第2に、酸化物セラミックイオン伝導体とこれに接触するアノード及びカソード電極を有する素子基板と、この素子基板のカソード電極を覆うように配設され、一部が拡散律速性を有する酸素ガス供給部として基板周辺に導出されたポーラス絶縁膜と、このポーラス絶縁膜上に配設されたヒータと、このヒータが配設されたポーラス絶縁膜上に前記酸素ガス供給部を露出させた状態で形成された封止層とを有することを特徴としている。
【0009】
【作用】第1の発明においては、基板上に絶縁膜を介してカソード電極,酸化物イオン伝導体膜及びアノード電極をこの順に積層した構造が用いられる。絶縁膜はポーラス膜として、その一部が封止層の外側に導出されて拡散律速性を有する酸素ガス供給部として用いられる。このように絶縁膜の一部がその形状と大きさによって酸素ガス透過性が制御されて、優れた拡散律速性が得られる。またカソード電極は、下地がポーラスであれば、スパッタリング法により形成してもポーラス膜となり、従って例えばベタ構造であって且つ充分な酸素ガス透過性を有するものとすることができる。イオン伝導体膜上に形成されるアノード電極は、スパッタリング法によると比較的緻密なものとなるが、櫛形パターンとすることでイオン伝導体膜との反応面積を稼ぐと共に、その上部は開放することにより、酸素ガスを排出することができる。更に、基板としては汎用性の高い緻密なアルミナ基板やシリコン基板を用いることができるので、量産性も高くなる。
【0010】第2の発明においては、ヒータが封止層とポーラス絶縁膜の間に挟まれて埋め込まれた状態で配設されるため、熱効率及びヒータ寿命が改善され、また電気的安全性も向上する。また、ポーラス絶縁膜は全体として封止層により覆われ、一部が封止層の外側に導出されて拡散律速性を有する酸素ガス供給部として用いられる。このようにポーラス絶縁膜の一部がその形状と大きさによって酸素ガス透過性が制御される結果、安定した拡散律速性が得られ、従って優れた限界電流特性が得られる。
【0011】
【実施例】以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。図1は本発明の一実施例の薄膜型酸素センサを示すレイアウト図であり、図2(a)及び(b)はそれぞれ、図1のA−A′及びB−B′断面図である。この実施例では基板として緻密なアルミナ基板1を用いている。このアルミナ基板1上にまず、酸素ガス透過性を有するポーラスな絶縁膜2が形成される。具体的にこの実施例では、この絶縁膜2は、結晶化ガラスにステアタイト粉を約30wt%添加したペーストを印刷焼成して形成した。なお絶縁膜2の一部は、基板周辺部に形状,大きさを限定した帯状パターンで突出させることで、酸素ガス供給部21,22としている。
【0012】絶縁膜2上には、その内側にベタ構造のPtカソード電極3が形成され、このカソード電極3を覆うように酸化物イオン伝導体として安定化ジルコニア膜4が形成され、更にその上に櫛形パターンのPtアノード電極5が形成されている。これらカソード電極3,安定化ジルコニア膜4及びアノード電極5は、いずれもスパッタリングにより形成した。安定化ジルコニア膜4のスパッタには、ZrO2 −8mol %Y2 O3 ターゲットを用いた。
【0013】カソード電極3の一部は端子部31として、基板1の周辺部に導出されている。同様にアノード電極5の一部は端子部51として、基板1の周辺部に導出されている。そして安定化ジルコニア膜4及び絶縁膜2の周辺部を覆って、アノード電極5が形成された面、カソード,アノードの各端子部31,51及び酸素ガス供給部21,22は露出させた状態のリング状パターンの封止層6が形成されている。封止層6はこの実施例では結晶化ガラスペーストを印刷し、1000℃,10分の焼成を行って形成した。なおこの封止層には非晶質ガラスを用いることもできる。
【0014】この実施例によると、ベタ構造のカソード電極3,安定化ジルコニア膜4及び櫛形パターンのアノード電極5の積層構造とすることで、これらを全てドライプロセスにより形成して良好な特性を得ることができる。即ち、カソード電極3の下地には酸素ガス透過性を有するポーラス絶縁膜2が予め形成され、安定化ジルコニア膜4及び絶縁膜2の周辺は封止層6により覆われて、絶縁膜2の一部が所定の大きさに制限された拡散律速性を持つ酸素ガス供給部21,22として基板周辺に導出されている。またカソード電極3は下地の影響を受けてポーラスになる。以上により、良好な拡散律速性をもって酸素ガス供給ができる。またアノード電極5はカソード電極3に比べて緻密になるが、櫛形パターンとし、且つ電極形成面を露出させておくことより、酸素ガス排出は良好に行われる。図5は、この実施例による酸素センサを、大気雰囲気中,200℃の条件で測定した電圧−電流特性である。非常にクリアな限界電流特性が得られている。また信頼性も充分高いものであることが確認された。
【0015】またこの実施例によれば、基板上に気体拡散層となるポーラスな絶縁膜が形成されるから、基板の自由度が高い。例えば実施例では緻密なアルミナ基板を用いたが、この他にシリコンウェハや各種セラミック基板等の汎用性の高い基板を用いることができる。
【0016】図3(a)及び(b)は本発明の別の実施例の薄膜型酸素センサを示すレイアウトとそのA−A′断面図である。この実施例では基板としてポーラスなアルミナ基板11を用いている。このアルミナ基板11上にまず、スパッタによりPtアノード電極12が形成され、これを覆うようにスパッタにより安定化ジルコニア膜13が形成され、更にその上にスパッタによりPtカソード電極14が形成される。安定化ジルコニア膜13のスパッタには、ZrO2 −8mol %Y2 O3ターゲットを用いる。
【0017】アノード電極12はベタ構造である。これに対してカソード電極14は、図4に具体的に示したような櫛形パターンとしている。アノード電極12は、下地がポーラス基板であるために、ベタ構造であってもポーラスで充分な気体透過性を持ったものとすることができる。カソード電極14はアノード電極12に比べると緻密になるため、反応面積を稼ぐ目的で櫛形パターンとしているのである。アノード電極12及びカソード電極14はそれぞれ一部が電極端子部121,141として基板周辺部まで導出されている。
【0018】このようにして形成されたアノード電極/イオン伝導体/カソード電極のサンドイッチ構造のカソード電極14が形成された面を覆うように、気体透過性を有するポーラス絶縁膜15が形成される。具体的にこの実施例では、この絶縁膜15は、結晶化ガラスにステアタイト粉を約30wt%添加したペーストを印刷焼成して形成した。なお絶縁膜15の一部は、基板周辺部に形状,大きさを限定した帯状パターンで突出させることで、拡散律速性を有する酸素ガス供給部151,152としている。この絶縁膜15の上に更にPtペーストの印刷,焼成によりヒータ16が配設されている。ヒータ端子部161,162は図示のように基板周辺部まで導出されている。
【0019】そして、ヒータ16が配設された絶縁膜15の表面を覆うように、封止層17が形成されている。封止層17はこの実施例では結晶化ガラスペーストを印刷し、1000℃,10分の焼成を行って形成した。アノード,カソードの各電極端子部121,141、ヒータ端子部161,162、及び酸素ガス供給部151,152は露出させた状態で素子領域全体を覆うように封止層17が形成される。なおこの封止層17には非晶質ガラスを用いることもできる。
【0020】この実施例によると、ベタ構造のアノード電極12,安定化ジルコニア膜13及び櫛形パターンのカソード電極14の積層構造をドライプロセスにより形成して、良好な特性を得ることができる。即ち、カソード電極14は櫛形パターンとされ、この上に酸素ガス透過性を有するポーラス絶縁膜15及び封止層17が形成されて、絶縁膜15の一部が所定の大きさに制限された拡散律速性を持つ酸素ガス供給部151,152として基板周辺に導出されている。これにより安定した拡散律速性をもって酸素ガス供給ができる。またアノード電極12は下地基板の影響でポーラスになるため、酸素ガス排出は良好に行われる。この実施例による酸素センサを大気雰囲気中,200℃の条件で測定した電圧−電流特性は、先の実施例の図5と同様、非常にクリアな限界電流特性が得られている。また信頼性も充分高いものであることが確認された。
【0021】またこの実施例では、ヒータ16が気体拡散層としての絶縁膜15と封止層17との間に挟まれて埋め込まれた状態になっているため、ヒータの一面が開放している従来構造に比べて熱効率が高く、従ってヒータ寿命も高くなっている。更にヒータ16が埋め込み構造であることから、電気的安全性にも優れている。
【0022】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、ポーラスな絶縁膜の一部を拡散律速性を有する酸素ガス供給部としてパターン形成して、櫛形パターンのアノード電極との組み合わせを利用して、良好な特性と高い信頼性を実現した薄膜型の限界電流式酸素センサを提供することができる。また本発明によれば、ヒータを埋め込み構造として熱効率及び安全性の向上をはかり、またポーラス絶縁膜の一部を拡散律速性を有する酸素ガス供給部としてパターン形成して安定な拡散律速性による良好な特性を実現した限界電流式酸素センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例による酸素センサのレイアウトを示す。
【図2】 同実施例のA−A′及びB−B′断面を示す。
【図3】 本発明の他の実施例による酸素センサのレイアウトを示す。
【図4】 同実施例の電極レイアウトを示す。
【図5】 実施例の酸素センサの特性を示す。
【符号の説明】
1…アルミナ基板、2…ポーラス絶縁膜、21,22…酸素ガス供給部、3…Ptカソード電極、31…端子部、4…安定化ジルコニア膜、5…Ptアノード電極、51…端子部、6…封止層、11…アルミナ基板、12…Ptアノード電極、13…安定化ジルコニア膜、14…Ptカソード電極、121,141…電極端子部、15…ポーラス絶縁膜、151,152…酸素ガス供給部、16…ヒータ、161,162…ヒータ端子部、17…封止層、。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板と、この基板上に形成された、一部が拡散律速性を持つ酸素ガス供給部として基板周辺に導出されたポーラスな絶縁膜と、この絶縁膜上に形成されたカソード電極と、このカソード電極上に形成された酸化物イオン伝導体膜と、このイオン伝導体膜上に形成された櫛形パターンのアノード電極と、このアノード電極の形成された面及び前記絶縁膜の酸素ガス供給部を露出させた中抜きパターンをもって、前記酸化物イオン伝導体膜及び絶縁膜の周辺部を覆うように形成された封止層とを有することを特徴とする限界電流式酸素センサ。
【請求項2】 酸化物セラミックイオン伝導体とこれに接触するアノード及びカソード電極を有する素子基板と、この素子基板のカソード電極を覆うように配設され、一部が拡散律速性を有する酸素ガス供給部として基板周辺に導出されたポーラス絶縁膜と、このポーラス絶縁膜上に配設されたヒータと、このヒータが配設されたポーラス絶縁膜上に前記酸素ガス供給部を露出させた状態で形成された封止層とを有することを特徴とする限界電流式酸素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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