除振方法およびその装置
【課題】機器の除振に係り、地動外乱の絶縁を目的とするパッシブ除振のみならず、ばね上の外乱にも対処できるアクティブ除振をも可能とする除振方法およびその装置に関する。NC機械、マシニングセンター等の工作機械からIC業界のステッパーに代表される各種機器にまで採用され、加工テーブル等を外乱から絶縁して高精度加工を達成することができる。
【解決手段】床6と第1部材1との間に所定の正のばね特性を有するばね5を配設して床6から第1部材1に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材1と負荷を載置する第2部材2との間に、アクチュエータ25と制御装置26から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材1から第2部材2に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法である。
【解決手段】床6と第1部材1との間に所定の正のばね特性を有するばね5を配設して床6から第1部材1に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材1と負荷を載置する第2部材2との間に、アクチュエータ25と制御装置26から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材1から第2部材2に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の除振に係り、地動外乱の絶縁を目的とするパッシブ除振のみならず、ばね上の外乱にも対処できるアクティブ除振をも可能とする除振方法およびその装置に関するもので、NC機械、マシニングセンター等の工作機械からIC業界のステッパーに代表される各種機器にまで採用され、加工テーブル等を外乱から絶縁して高精度加工を達成せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体デバイス製造システムや極微小領域計測システム等では、急速に高精度化、高性能化してきており、これらのシステムでは、振動等の外乱を除去する除振、防振装置の重要性が増大している。除振装置で除去すべき振動外乱は、設置床からの振動に起因する地動外乱と、装置のばね上に入力される直動外乱とに大別でき、前者には低剛性の機構が適しており、後者には高剛性の機構が適している。図11は、地動外乱を絶縁して除振する従来のパッシブ除振システムを示すのもので、床36からの振動伝達率を低くするためにばね定数kを小さくしてばね剛性を小さくすると、除振テーブル32(質量m)上の質量変化Δmや除振テーブル32に作用する荷重の変化等のばね上での外乱に対して弱くなってしまう。逆に、ばね上での外乱に対してはある程度ばね剛性を大きくする必要がある。このような外乱吸収のための低剛性機構と、位置、姿勢保持のための高剛性機構という相反する特性が要求される。
【0003】
一般に、正のばね定数k1 、k2 を有する2つのばね35−1、35−2を直列に結合して1つの除振機構を構成すると、そのばね定数は次式で求められる。
kc =k1 k2 /(k1 +k2 ) (1)
つまり、通常の正のばね定数を有するばねを直列に結合すると、結合してできたばね定数は、結合前のばね定数より必ず小さくなるものである。したがって、これら従来のばねのみを使用した除振装置では、質量変化や振動等のばね上での外乱に対して高い剛性を確保することが極めて困難であることから、アクティブ除振制御装置が提案された。
【0004】
図12は、一般的なアクティブ除振制御装置の原理を示したもので、除振台110上に設置された加速度センサ114による検出信号に基づいてコントローラ115によって除振台110の振動を抑制する制御入力を計算し、求められた制御入力によって、ばね111および減衰器112と並列に設置されたアクチュエータ113を動作させることによって除振制御を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなアプローチは、除振台や床の振動が正確に検出されることを前提としており、実現化されるには、低周波の振動まで感度良く検出できるサーボ型加速度センサを用いる必要があるために高価格になる上、採用されるサーボ型加速度センサによっては、直動外乱に対する剛性が未だ充分とは言い難く、完全な振動絶縁性能を確保するには不充分であった。
【0006】
そこで本発明では、前記従来の除振方法およびその装置の課題を解決して、地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にする除振方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明が採用した技術解決手段は、
床と第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と負荷を載置する第2部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法である。
また、床から立設した支柱と第1部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与して前記支柱から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材に対向して配置した第2部材と、前記第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法である。
また、前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする除振方法である。
また、床と、所定の正のばね定数を有するばねと、そのばねによって前記床上に支持される第1部材と、該第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材とを備え、前記第1部材と第2部材との間には、アクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置である。
また、床に立設した支柱と、前記支柱に対向して配置した第1部材と、前記第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材と、前記第1部材と第2部材との間に配置される正のばね定数を有するばねとを備え、前記支柱と第1部材との間にはアクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置である。
また、前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする除振装置である。
また、前記ばねと併設して所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする除振装置である。
また、前記アクチュエータと併設して所定のばね定数のばねおよび所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする除振装置である。
また、前記アクチュエータの伸びを荷重の増減に応じて増減させるように構成したことを特徴とする除振装置である。
また、前記アクチュエータがボイスコイルモータ、リニアモータ、空気圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等のリニアアクチュエータであり、前記制御装置が変位センサおよび制御回路ならびに電力増幅器から構成されたことを特徴とする除振装置である。
【発明の効果】
【0008】
以上、詳細に説明したように、本発明では、床と第1部材との間にばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と第2部材との間にアクチュエータと制御装置からなる負のばね特性を付与することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁するように構成したことにより、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁して、除振テーブルの地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にすることは無論のこと、負のばね特性を得るために種々のアクチュエータの採用が可能となって設計の自由度が向上する。
【0009】
また、前記床と中間台との間に、前記ばねと併設して所定の減衰率の減衰装置を設置した場合は、共振の発生を抑制して全体としてより高い除振機能を発揮させることができる。さらに、前記中間台に設けられた電磁石の吸引力を永久磁石が設けられた除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合、あるいは前記中間台に設けられたアクチュエータの伸びを除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合は、除振テーブルへの配線を避けることができるので、制御設備が簡素化される。
【0010】
また、前記中間台に設けられた電磁石と永久磁石から構成される複合磁石の、強磁性体が設けられた除振テーブルに対する吸引力を除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合には、除振テーブルへの配線を避けることができると同時に、強磁性体だけが設置される除振テーブルの製作が容易になる。さらにまた、前記除振テーブルに設けられた電磁石の、永久磁石が設けられた中間台に対する吸引力を除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合は、永久磁石のみが設置される中間台の構成を簡素化できる。また、前記除振テーブルに設けられた電磁石と永久磁石から構成される複合磁石の、強磁性体が設けられた中間台に対する吸引力を除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合には、強磁性体だけが設置される中間台の製作が容易になる。
【0011】
また、床と第1部材との間にゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を配設した場合、あるいは床に対してアクチュエータと制御装置から構成されて所定の負のばね特性を有する支持機構によって支持された中間台と、該中間台に所定の正のばね定数を有するばねによって支持された除振テーブルとから構成された場合は、磁気浮上機構の磁力制御、あるいはアクチュエータの制御が静止側である床との間にて行えるので、配線等の取りまわしが簡素化される。さらに、前記中間台と除振テーブルとの間に、前記アクチュエータと併設して所定のばね定数のばねおよび所定の減衰率の減衰装置を設置した場合は、ばねで除振テーブルの重量を支持することによりアクチュエータのエネルギ消費を低減し、さらに除振系の共振を避けて減衰特性を改善することができる。かくして、本発明によれば、地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にする除振方法およびその装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、床と第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と負荷を載置する第2部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁して、除振テーブルの地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にすることは無論のこと、負のばね特性を得るために種々のアクチュエータの採用が可能となって設計の自由度が向上する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の除振方法およびその装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明は、正のばね特性を有する支持機構と、負のばね特性を有する支持機構とを直列に接続することによって、装置上で発生する直動外乱に対して略無限大の剛性を有せしめるとともに、床に対する振動を絶縁することを特徴とするもので、先ず、負のばね特性を有する支持機構として、ゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を用いた実施の形態について説明する。図1は本発明の除振方法およびその装置の第1実施の形態を示すもので、本発明は、床6と中間台である第1部材1との間にばね5を配設して床6から第1部材1に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材1と除振テーブルである第2部材2との間に永久磁石3と電磁石4とから構成されるゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を配設することによって、前記第1部材1から第2部材2に伝わる振動を絶縁することを特徴とする。本実施の形態では、床6に対して所定の正のばね定数kP のばね5によって支持された中間台1と、該中間台1に対して永久磁石3と電磁石4とから構成されて所定の負のばね定数ksのゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持された除振テーブル2とから構成され、図示の例では、中間台1に設けられた電磁石4の吸引力を永久磁石3が設けられた除振テーブル2の質量増加等に起因する荷重の増減に応じて増減させるように適宜の制御装置(図示省略)により制御するように構成したものである。
【0014】
なお、図2(A)に示すように、磁石による吸引力を増加させるために、永久磁石3と併用して強磁性体7を除振テーブル2側に配置してもよい。あるいは、図2(B)に示すように、永久磁石3を電磁石4の鉄心に埋め込んで複合磁石とし、除振テーブル2側には強磁性体7だけを設置してもよい。また、電磁石と永久磁石との配置を逆、すなわち除振テーブル2側に電磁石4を、中間台1側に永久磁石3を設け、電磁石4の吸引力を除振テーブル2に作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成してもよい。この場合も、図2(C)に示すように、永久磁石3と併用して強磁性体7を中間台1側に設置してもよい。あるいは、図2(D)に示すように、永久磁石3を電磁石4の鉄心に埋め込んで複合磁石とし、中間台1側には強磁性体7だけを設置してもよい。
【0015】
次に、図3および図4を用いて本発明における中間台と除振テーブルとの間にて採用されるゼロパワー磁気浮上制御系について説明する。ゼロパワー制御は、電磁石と永久磁石とを組み合わせて構成された吸引型磁気浮上系で、図3に示すように、浮上対象物である除振テーブル12の重量を永久磁石13の吸引力のみで支持するとともに、支持固定側11における電磁石14のコイル電流を定常的にゼロに保持する制御方法である。aの静止状態では、除振テーブル12は力が釣り合った状態にて静止位置に停まっているが、bの荷重時に示すように、除振テーブル12に下向きの一定の外力(質量増加Δm等)が加わると、電磁石14のコイルに電流を流して除振テーブル12を引き上げようとする吸引力を発生させ、前記永久磁石13による吸引力と下向きの力が釣り合うように制御され、cに示すように、ギャップが狭くなる位置で電磁石14に流れる電流がゼロとなり静止状態となる。上記のような作用をする制御系は、図1では省略されているが、dに示すように、浮上対象物である除振テーブル12の支持固定側(図1の装置では中間台)に対する位置を検出する変位センサ21、該センサ21の出力信号に基づいて電磁石14のコイル電流を定常的にゼロに保持しながら除振テーブル12を浮上保持するための制御信号を生成する制御回路22と、該制御回路22の出力にしたがって電磁石14のコイルに所定の電流を流す電力増幅器23等から構成される制御装置20を用いて実現される。
【0016】
図4は通常のばね系との比較を説明するもので、図面左側に示すように、通常のばね系では、所定の正のばね定数のばねにより支持された質量m22が質量増加Δmを生じると、質量増加(荷重)方向に移動する、いわゆるパッシブ除振制御がなされる。これに対して、ゼロパワー制御では、図面右側に示すように、質量増加Δmが生じると、前記ばね系とは逆方向に質量m12が上方に移動してギャップを狭くするように電磁石14が制御される。そのため、見かけ上は負のばね定数を有するかのような挙動を示す。このゼロパワー制御によって実現される負のばね定数の性質を利用し、本発明では、通常の正のばね定数によるパッシブ除振制御と組み合わせることによって、ばね上での質量変化が生じても、質量mすなわち除振テーブル等が変位を生じないように構成したものである。
【0017】
すなわち、図1(b)に示すように、除振テーブル2に質量増加Δm等によって下向きの一定外力F0 (=Δmg)が加わると、ゼロパワー制御の作用によって、中間台1に設置された電磁石4と除振テーブルとの距離はF0 /ks だけ短くなる(ks はゼロパワー制御によって実現される負のばね定数)。したがって、ks =kP なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブルは全く変位しないことになる。前記数式(1)kc =k1 k2 /(k1 +k2 )を用いて説明すると、ゼロパワー制御によってk1 =−k2 なる関係を満たす負のばね定数が実現できると、
|kc |=+∞ (2)
なるばね定数が得られる。すなわち、ばね定数の大きさが等しい正のばねと負のばねとを結合することによって、ばね定数が無限大のばねが得られる。これはコンプライアンスがゼロとなることを意味している。
【0018】
以下に、図1に示した本発明の除振制御系について理論解析を行う。
<基本方程式>本解析では各質量および床の垂直方向の変位のみを扱う。この系の運動方程式は次式のように求められる。
【数1】
【数2】
ここで、x1 、x2 :中間台、除振テーブルの平衡点からの変位
x0 :床の振動変位
kP :床から中間台を支持するばねのばね定数
fc :磁石の吸引力の動作点からの変動分
fd :除振テーブルに作用する直動外乱
また、cP は、図1には示されていないが、ばね5と並列に設置された減衰装置の減衰係数である。減衰装置がない場合はcP =0とすればよい。磁石の吸引力の変動分は、近似的に次のように表される。
fc =ks (x2 −x1 )+ki i (6)
ここで、ks :磁石の変位・吸引力係数
ki :磁石の電流・吸引力係数
i:制御電流
【0019】
<ゼロパワー制御系>ここでは、中間台と除振テーブルの相対変位から制御入力を構成する。この場合、ゼロパワー制御を達成する制御入力は一般に次のように表すことができる。
I(s)=−c2 (s)s(X2 (s)−X1 (s)) (7)
ここで、c2 (s)はゼロを極に持たない強プロパーな伝達関数で、制御系が安定になるように選定される。中間台のダイナミクスが無視できる場合には、2以上の次数を持つ制御器によって安定化が可能となる。
【0020】
<基本特性の解析>簡単のため初期条件をゼロと仮定してラプラス変換すると、式(4)〜(7)から次式が求められる。
X1 (s)=(cP s+kP )t2 (s)X0 (s)/tc (s)+(ki c2 (s)s−ks )Fd (s)/tc (s) (8)
X2 (s)=(cP s+kP )(ki c2 (s)s−ks )X0 (s)/tc (s)+(m1 s2+(cP +ki c2 (s))s+kP −ks )Fd (s)/tc (s) (9)
ここで、 t1 (s)=m1 s2 +cP s+kP (10)
t2 (s)=m2 s2 +ki c2 (s)s−ks (11)
t3 (s)=t1 (s)t2 (s)+m2 s2 (ki c2 (s)s−ks )
(12)
【0021】
各変数のラプラス変換は、対応する大文字で表している。直動外乱に対する剛性を評価するために、 Fd =F0 /s (F0 :const) (13)
とする。床の振動の影響を無視すると(x0 =0)、除振テーブルの定常変位x2 (∞)は、次のように求められる。
x2 (∞)/F0 =lim(m1 s2 −(cP +k1 c2 (s))s+kP
s→0
−ks )/lc (s)=(kP −ks )/kP (−ks )=1/kP −1/ks (14)
したがって、 kP =ks (15)
を満たすように除振装置が設計されていれば、
x2 (∞)/F0 =0 (16)
となる。これは、コンプライアンスがゼロ、すなわち剛性が無限大となることを意味する。また、中間台の変位x1 (∞)および電磁石と除振テーブルとのギャップの変動量(x1 (∞)−x2 (∞))は、それぞれ次のように求められる。
x1 (∞)/F0 =1/kP (17)
(x1 (∞)−x2 (∞))/F0 =1/ks (18)
したがって、除振テーブルに下向きの力(F0 <0)が作用するとき、中間台は下向きに変位するのに対し、除振テーブルは中間台に近づくように上向きに変位することが確認できた。このように、ゼロパワー磁気浮上機構を利用した除振装置では、中間台を支持する機械式ばねのばね定数と磁石の変位・吸引力係数の大きさを等しく設定することによって、直動外乱に対する剛性が無限大となることが理論的に示された。
【0022】
図5は本発明の除振方法およびその装置の基礎実験装置を示すもので、図5(A)は実験装置の正面図、図5(B)はその側面図である。床に固定されたベース10から立設されたリニアシャフト9a、9bに嵌挿されたばね5a、5bを介設して中間台1が設置され、前記リニアシャフト9a、9bを嵌合して中間台1に設置されたリニアブッシュ8a、8bによって、中間台1の運動が垂直方向の1自由度の並進運動に拘束される。一方、除振テーブル2の下部両側に設置されたガイドブロック15a、15bが、ベース10に立設されたガイドレール16a、16bに係合し、除振テーブル2の運動を垂直方向の1自由度の並進運動に拘束する。除振テーブル2の下端部には上方に向いた永久磁石3、3が設置され、対向する中間台1の下部には電磁石4が設置される。除振テーブル2の中間台1に対する相対変位はセンサ17が検出し、ベース10に対する中間台1の相対変位はセンサ18が検出するように構成される。
【0023】
次に、図6および図7により、前記試作した基礎実験装置を用いて行った実験結果について説明する。図6はゼロパワー磁気浮上系の負のばね特性についての実験結果で、中間台1を固定して、除振テーブルの質量を1700g、1310g、700gについて付加質量Δmを増大させていった場合のテーブルの変位量を測定したもので、どの質量でも線型的にテーブル変位は上昇しており、ゼロパワー制御が線型的な負のばねとして動作していることがわかった。また、ゼロパワー制御の持つばね定数は除振テーブルの質量を操作することで、様々な値に設定することができることもわかる。
【0024】
図7は中間台をばねによって支持した状態での除振テーブルの床に対する変位についての実験結果で、正のばね定数は6.825(kN/m)で、正と負のばね定数がほぼ一致するところは、テーブル質量が1300g付近を基準として、1280g〜1400gの範囲と推定できる。因みに1310gのときの負のばね定数は約7kN/mである。図によれば、テーブル質量が1380gのとき除振テーブル変位量は20μmで、テーブル位置はほぼ初期位置を保持したまま、良好な動作をしていることがわかる。この1380gという値は実験前に推測した範囲内の値で、また正と負のばね定数の差が大きくなるにつれて動作性能が低下することもわかる。
【0025】
これらの関係から、先に示した理論解析の有効性が確認できた。ゼロパワー磁気浮上機構とばね機構を組み合わせたゼロコンプライアンス機構は、式の上では除振テーブルの床に対する変位をゼロにするとともに直動外乱に対する無限大のテーブル剛性を可能にしている。実測された範囲ではテーブルの床に対する最大剛性は約490kN/mで、このとき、除振テーブルの床に対する変位も最小値を示している。これは、ゼロパワー磁気浮上機構とばねを組み合わせることにより、コンプライアンスをほぼゼロとすることができ、これによって、直動外乱に対する剛性をきわめて大きくできることが確認できた。
【0026】
図8は本発明の除振方法およびその装置の第2実施の形態を示すもので、床206に設置された支柱207に対して永久磁石203と電磁石204とから構成されて所定の負のばね定数KS を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持された中間台201と、該中間台201に所定の正のばね定数KP のばね205によって支持された除振テーブル202とから構成され、図示の例では、支柱207に設けられた電磁石204の吸引力を永久磁石203が設けられた中間台201への荷重の増減に応じて増減させるように適宜の制御装置(図示省略)により、電磁石204と中間台201との距離を制御するように構成したものである。
【0027】
このような構成によって、除振テーブル202に質量増加Δm等により下向きの一定外力F0 (=Δmg)が加わると、除振テーブル202を支持するばね205はF0 /KP だけ圧縮されて短くなる。同時に、ばね205の反力によって中間台201にも下向きの外力F0 が加わることになり、ゼロパワー制御の作用によって、電磁石204と中間台201との距離はF0 /KS だけ短くなり、中間台201はこの分だけ上向きに変位することになる。したがって、KS =KPなる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル202は全く変位しないことになる。これは、コンプライアンスがゼロ、すなわち剛性が無限大になることを意味している。つまり、図8に示された除振装置は前記図1に示された除振装置と同じ除振性能を有していることが理解される。
【0028】
図9は本発明の除振方法およびその装置の第3実施の形態を示すもので、床300に所定の正のばね定数KP のばね301および減衰装置302によって支持された中間台303と、該中間台303に対して永久磁石304と電磁石305とから構成され所定の負のばね定数KS を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構と、床300に所定の正のばね定数KP ’のばね311および減衰装置312によって支持された中間台313と、該中間台313に対して永久磁石314と電磁石315とから構成され所定の負のばね定数KS ’を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構とによって支持された除振テーブル320とから構成されたものである。
【0029】
このような構成において、KS =KP およびKS ’=KP ’なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル320の左側(中間台303側)および右側(中間台313側)においてコンプライアンスがゼロすなわち剛性が無限大となるので、除振テーブル320上のどの位置に垂直方向の一定外力が作用しても、除振テーブル320は全く変位しない。このような特性から、除振テーブル320上に可動ステージ321を設置した場合、移動負荷322がどの位置にあっても除振テーブル320は変位せず、その姿勢を水平に保つことができる。
【0030】
図10は本発明の除振方法およびその装置の第4実施の形態を示すもので、床400に、垂直方向には所定の正のばね定数KP 1 のばね401および減衰装置402、水平方向には所定の正のばね定数KP 2 のばね403および減衰装置404によって支持された中間台405と、該中間台405に対して、垂直方向には永久磁石406と電磁石407とから構成された所定の負のばね定数KS 1 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構、水平方向には永久磁石408と電磁石409とから構成された所定の負のばね定数KS 2 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持され、さらに、床400に、垂直方向には所定の正のばね定数KP 3 のばね411および減衰装置412、水平方向には所定の正のばね定数KP 4 のばね413および減衰装置414によって支持された中間台415と、該中間台415に対して、垂直方向には永久磁石416と電磁石417とから構成された所定の負のばね定数KS 3 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構、水平方向には永久磁石418と電磁石419とから構成された所定の負のばね定数KS 4 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持された除振テーブル420とから構成されたものである。
【0031】
このような構成において、KS 1 =KP 1 、KS 2 =KP 2 、KS 3 =KP 3およびKS 4 =KP 4 なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル420の左側(中間台405側)および右側(中間台415側)においてコンプライアンスがゼロすなわち剛性が無限大となり、同時に除振テーブル420上の水平方向のコンプライアンスもゼロとなるので、除振テーブル420のどの位置に垂直方向および水平方向の一定外力が作用しても、除振テーブル420は全く変位しない。
【0032】
次に、図13〜図27を用いて、負のばね特性を有する支持機構として、アクチュエータと制御装置からなる支持機構を用いた除振方法およびその装置についての理論解析と実施の形態について説明する。図13に示したものは、床6に所定の正のばね定数を有するばね5によって支持された中間台1と、該中間台1に対してアクチュエータ25と制御装置26から構成されて所定の負のばね定数を有する支持機構によって支持された除振テーブル2とから構成されたもので、前記アクチュエータ25としては、ボイスコイルモータ、リニアモータ、空気圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等のリニアアクチュエータが採用され、前記制御装置26としては、除振テーブル2の中間台1に対する変位を検出する変位センサ27および制御回路28ならびに電力増幅器29から構成される。
【0033】
図14に示したものは、床6と中間台1との間に、ばね5と併設して所定の減衰率の減衰装置19を設置することにより、除振系の共振を避けて減衰特性を改善したものである。図15に示したものは、中間台1と除振テーブル2との間に、アクチュエータ25と併設して所定のばね定数のばね30および所定の減衰率の減衰装置31を設置したもので、ばね30で除振テーブル2の重量を支持することによりアクチュエータ25のエネルギ消費を低減し、さらに除振系の共振を避けて減衰特性を改善することができる。図16に示したものは、前記図14および図15に示したものを併用したものである。つまり、床6と中間台1との間に、ばね5と併設して所定の減衰率の減衰装置19を設置するとともに、中間台1と除振テーブル2との間に、アクチュエータ25と併設して所定のばね定数のばね30および所定の減衰率の減衰装置31を設置したものである。
【0034】
図17〜図20によって、負のばね特性について説明する。
<通常のばね特性(正のばね特性)>図17(a)に示すように、所定の正のばね定数(k)を有する通常のばねによって支持されている質量mのテーブル24上に、図17(b)に示すような新たに質量Δmが生じて下向きの外力Δmが加わったとすると、ばねはΔmg/kだけ縮み、テーブル24は外力と同方向にΔmg/kだけ変位して、床6との距離がL−Δmg/kとなる。
<負のばね特性>図18(a)では、質量mのテーブル24に作用する重力mgとアクチュエータ25に発生する力が釣り合った状態にあり、床6と質量mの距離がLに保たれているとする。図18(b)に示すように、テーブル24上に新たに質量増加Δmが生じて下向きの外力Δmgが加わったときに、アクチュエータ25が伸びて質量mの床6からの距離がL+ΔLに増加するという特性を有するとする。このとき、テーブル24は外力と逆方向にΔLだけ変位する。この系は負のばね特性を有すると言える。負のばね定数の大きさks は、ks =Δmg/ΔLで与えられる。
【0035】
図19に示したものは、図15および図16で示した除振装置のように、アクチュエータ25と並列にばね30と減衰装置31を併設した系が負のばね特性を有するときの挙動を示すもので、図19(a)では質量mのテーブル24に作用する重力mgとアクチュエータ25に発生する力およびばね30のばね力とが釣り合った状態にあり、床6と質量mとの距離がLに保たれているとする。図19(b)に示すように、テーブル24上に新たに質量増加Δmが生じて下向きの外力Δmgが加わったときに、アクチュエータ25が伸びて、質量mのテーブル24の床6からの距離がL+ΔLに増加するという特性を有するとする。このとき、図18に示した場合と同様に、テーブル24は外力と逆方向にΔLだけ変位するので、この系は負のばね特性を有すると言える。負のばね定数の大きさks =Δmg/ΔLで与えられる。
【0036】
<除振装置の直動外乱に対する応答>ここでは、図13に示した除振装置の直動外乱に対する応答を図20を用いて説明する。除振テーブル2に質量増加Δm等によって下向きの一定力F0 (=Δmg)が加わったとすると、負のばね特性が実現されているので、除振テーブル2と中間台1との距離はΔmg/kS だけ増加する。一方、ばね5については、そのばね定数をk1 とすると、Δmg/k1 だけ縮むので、中間台1と床6との距離はΔmg/k1 だけ減少する。したがって、kS =k1 なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル2は全く変位しないことになる。すなわち、ばね定数の大きさの等しい正のばねと負のばねと直列に接続することによって、ばね定数が無限大のばねが実現される。
【0037】
<負のばね特性を実現する第1の制御方法>図19に示した系において負のばね特性を実現する方法を図21を用いて説明する。図19に示した系に、変位センサ27、制御回路28、電力増幅器29からなる制御装置28が付加されている。これらの要素は、図13〜図16における変位センサ27、制御回路28、電力増幅器29に対応する。制御回路28は次のような機構から構成される。外力推定機構28Aでは、変位センサ27の情報に基づいて、テーブル24に作用する外力fd (図19に示した例では−Δmgに相当する)を推定する。推定値をf^d と表すと、目標変位発生機構28Bでは、前記外力推定機構28Aからの出力に基づいて、実現する負のばね特性から決まる目標変位を計算する。設定する負のばね定数の大きさをkS とすると、目標変位xref は、次式から求められる。
xref =−f^d /kS (19)
ただし、変位の符号は外力の方向と同じ場合を正とする。位置制御機構28Cでは、目標変位に一致するようにテーブル24の変位を制御する。具体的には式19で求めた目標変位分だけアクチュエータ25を伸縮するための制御信号を生成して、電力増幅回路29に出力する。電力増幅回路29は、制御信号にしたがってアクチュエータ25を駆動する。
【0038】
<理論解析>ここでは、アクチュエータ25としてボイスコイルモータを用いる場合について述べる。他のアクチュエータを用いる場合も同様にして負のばね特性を実現できる。図22に力学的モデルを示す。この系の運動方程式は、次式のように求められる。
【数3】
ここで、
m2 :テーブル24の質量
x :テーブル24の平衡点からの変位
ka :アクチュエータ25と並列に挿入されたばね30のばね定数
ca :アクチュエータ25と並列に挿入された減衰装置31の減衰係数
fa :アクチュエータ25の発生力
fd :テーブル24に作用する直動外乱
アクチュエータ25に発生する力は、コイル電流に比例するので、次のように表される。fa =ki i, (21)
ここで、
ki :ボイスコイルモータの推力定数
i :制御電流
【0039】
式(21)を式(20)に代入すると次式が得られる。
【数4】
制御系を設計するときには、直動外乱fd は一定であるとする。すなわち、
【数5】
式(22)(23)をまとめて状態空間表示すると、次式が得られる。
【数6】
ここで、
【数7】
u=i,a0 =ka /m2 ,a1 =ca /m2 ,b0 =ki /m2 ,d0 =1/m2オブザーバ理論を適用することによって、センサ27によって検出されるテーブル24の変位xから、テーブル24に作用する外力を推定することができる。
【0040】
同一次元オブザーバを用いる場合、オブザーバの動特性は、次式によって表される。
【数8】
ここで、
【数9】
行列Eは、オブザーバのゲインと呼ばれる行列で、これを定める手順を以下に述べる。実際の状態ベクトルx(t)とその推定値x^(t)との間の誤差ベクトル
【数10】
は次式を満足する。
【数11】
したがって、行列(A−EC)の固有値がすべて負の実部を持てば、
【数12】
となる。
【0041】
行列(A−EC)の固有値はオブザーバの極と呼ばれるが、これは行列(A−EC)の特性多項式
det〔sI−(A−EC)〕=s3 +(a1 +e1 )s 2+(a0 +a1 e1 +e2 )s+d0 e3 (29)
から求められる。ここでは、オブザーバの極が、
Λ={−λ1 , −λ2 ,−λ3 } (30)
となるようにオブザーバのゲインEを定めることにする。ただし、λ1 は、
Re〔λ1 〕>0 (i=1,2,3) (31)
を満たすように選定されているとする。配置したい極から決まる特性多項式は次次式のように求められる。
td (s)=(s+λ1 )(s+λ2 )(s+λ3 )=s3 +(λ1 +λ2 +λ3 )s2 +(λ1 λ2 +λ2 λ3 +λ3 λ1 )s+λ1 λ2 λ3 (32)
式(29)と式(32)とを比較することによって、オブザーバのゲインEは次式のように定められる。
e1 =λ1 +λ2 +λ3 −a1 (33)
e2 =λ1 λ2 +λ2 λ3 +λ3 λ1 −a0 −a1 e1 (34)
e3 =λ1 λ2 λ3 /d0 (35)
【0042】
前記のようにオブザーバのゲインEを定めたとき、f^d をfd 推定値とすると、次式のような関係が成立する。
f^d =fd +c1 exp( −λ1t) +c2 exp( −λ2t) +c3 exp( −λ3t) (36)
ここで、c1 、c2 、c3 は制御対象とオブザーバの初期条件から定まる定数である。式31の条件から、
【数13】
が成立する。設定する負のばね定数の大きさをks とすると、目標変位xref は次式から求められる。
【数14】
オブザーバ(25)によって求められるfd の推定値である。位置制御には、I−PD制御を適用する。すなわち、制御入力を次式のように定める。
【数15】
【0043】
式(35)を式(21)に代入し、ラプラス変換した式を整理すると、次式が得られる。
【数16】
ここで、ラプラス変換された変数は、対応する大文字で示している。フィードバックゲインpI 、pd 、pV が閉ループ系の極が安定になるように選定さているとき、式(36)(40)から、式(23)を満たすfd に対して、
【数17】
が成立する。したがって、ばね定数の大きさks の負のばね特性が実現される。
【0044】
<負のばね特性を実現する第2の制御方法>ここでは、オブザーバや位置制御系を陽には用いないで、負のばね特性を実現する制御入力を直接構成する方法を示す。制御側の導出には、伝達関数表現方法を用いる。簡単のため初期条件を零としてラプラス変換すると、式(20)(21)から次式が求められる。
X(s)=(b0 I(s)+d0 Fd (s))/(s2 +a1 s+a0 )
(42)
制御入力i(t)(I(s))は、変位センサの信号に基づいて、定めることにすると、時不変ゲインの線形制御を実施する場合には、制御則は一般に次式のように表すことができる。
I(s)=−p(s)X(s) (43)
コントローラとしてプロパーな伝達関数を持つものを用いる場合には、一般に次式のように表すことができる。
p(s)=h(s)/g(s)=(hn sn +hn-1 sn-1 +・・・+h1 s+h0 )/(sn +gn-1 sn-1 +・・・+g1 s+g0 ) (44)
厳密にプロパーな伝達関数を持つコントローラを用いる場合には、 hn =0 (45)
となる。
【0045】
式(43)を式(42)に代入して整理すると、次式が得られる。
X(s)=(g(s)/((s2 +a1 s+a0 )g(s)+b0 h(s)
))d0 Fd (s) (46)
直動外乱に対する剛性を評価するために、
Fd (s)=F0 /s (F0 は一定) (47)
とする。閉ループ系が安定となるように制御則が選定されているとすると、定常変位x(∞)は次式のように求められる。
x2 (∞)/F0 =lim((g(s)/((s2 +a1 s+a0 )g(s
t→0
)+b0 h(s)))d0 =d0 g0 /(a0 g0 +b0 h0 ) (48)
式(48)から、この系が大きさks の負のばね剛性を有するようにするには、次式を満たすように、g(s)、h(s)を選定すればよいことが分かる。
d0 g0 /(a0 g0 +b0 h0 )=−1/ks (49)
∴ka +ki h0 /g0 =−ks (50)
プロパーな伝達関数を持つコントローラを用いる場合、式(49)を満たすと同時に閉ループ系を安定とするためには、n=2以上の次数を持つことが必要となる。逆に、この条件が満たされれば、閉ループ系の極を任意に配置することができる。n=2の場合、式(46)から閉ループ系の特性多項式tc (s)は次式のように求められる。
tc (s)=s4 +(a1 +g1 )s3 +(a0 +g0 +a1 g1 +b0 h2 )s2 +(a0 g1 +a1 g0 +b0 h1 )s+(a0 g0 +b0 h0 ) (51)
【0046】
配置したい極から定まる特性多項式が次式によって与えられているとする。 td (s)=s4 +c3 s3 +c2 s2 +c1 s+c0 (52)
式(50)(51)(52)から、設定された大きさの負のばね剛性を持ち、かつ望ましい極を持つ閉ループ系を実現するコントローラの係数が次のように求められる。
g0 =−c0 /d0 ks =−c0 m/ks (53)
g1 =c3 −a1 (54)
h0 =(c0 −a0 g0 )/b0 (55)
h1 =(c1 −a0 g1 −a1 g0 )/b0 (56)
h2 =(c2 −a0 −g0 −a1 g1 )/b0 (57)
厳密にプロパーな伝達関数を持つコントローラを用いる場合には、式(50)を満足し、かつ閉ループ系の極を任意に配置するためには、3つ以上の次数を持つコントローラが必要となる。n=3の場合、配置したい極から定まる特性多項式を、
【数18】
とすると、コントローラの係数が次のように求められる。
g0 =−c0 /d0 kn =−c0 m/ks (59)
g2 =c4 −a1 (60)
g1 =c3 −a0 −a1 g2 (61)
h0 =c0 (a0 /d0 ks +1)/b0 =c0 (k/ks +1)/b0 (62)
h1 =(c1 −a0 g1 −a1 g0 )/b0 (63)
h2 =(c2 −a0 g2 −a1 g1 −g0 )/b0 (64)
【0047】
<除振装置の動作解析>図16に示した除振装置について理論解析を行う。図23にその力学モデルを示す。負のばね特性を実現する制御方法についての前述の各理論解析と同様に、アクチュエータとしてはボイスコイルモータを用いているものとする。<基本方程式>図23における各質量1、2および床6は、垂直方向に並進運動するものとする。この系の運動方程式は、次式のように求められる。
【数19】
ここでx1 :中間台1の平衡点からの変位
x2 :除振テーブル2の平衡点からの変位
x0 :床6の振動変位
k1 :ばね5のばね定数
c1 :減衰装置19の減衰係数
ka :アクチュエータ25と併設されたばね30のばね定数
ca :アクチュエータ25と併設された減衰装置31の減衰係数
fd :除振テーブル2に作用する直動外乱
fa :アクチュエータ25(ボイスコイルモータ)の推力アクチュエータの発生する力は、コイル電流に比例するもで、次のように表される。
fa =ki i (67)
ここで、
ki :ボイスコイルモータの推力定数
i :制御電流
【0048】
<負の剛性を実現する制御系(制御方法2)>ここでは、前記第2の制御方法を適用する。中間台と除振テーブルの相対変位から制御入力を構成することにすると、制御入力は、一般に次のように表すことができる。
I(s)=−p(s)(X2 (s)−X1 (s))=((hn sn +hn-1 sn-1 +・・・+h1 s+h0 )/(sn +gn-1 sn-1 +・・・+g1 s+g0 ))(X2 (s)−X1 (s)) (68)
ここで、p(s)は、閉ループ系を安定にし、かつ次式を満たすように選定されているとする(式(50)を参照)。
k0 +ki h0 /g0 =−ks (69)
中間台1のダイナミックが無視できる場合には、n=2以上の次数を持つ制御器を用いれば、閉ループを安定化すると同時に、式(69)を満たすようにすることができる。
【0049】
<基本特性の解析>簡単のため初期条件を零と仮定してラプラス変換すると、式(65)〜(68)から、次式が求められる。
X1 (s)=(c1 s+k1 )(m2 s2 +ca s+ka +ki p(s))
X0 (s)/tc (s)+(ca s+ka +ki p(s))Fd (s)/tc (s)
(70)
X2 (s)=(c1 s+k1 )(ca s+ka +ki p(s))X0 (s)
/tc (s)+(m1 s2 +c1 s+k1 +ca s+ka +ki p(s))Fd (s)/tc (s)
(71)
ここで、 tc (s)=(m1 s2 +c1 s+k1 )(m2 s2 +ca s+ka +ki p(s))+m2 s2 (ca s+ka +ki p(s)) (72)
【0050】
直動外乱に対する剛性を評価するために、
Fd =F0 /s (F0 :一定) (73)
とする。床6の振動の影響を無視すると(x0 =0)、除振テーブル2の定常変位x2 (∞)は次のように求められる。
x2 (∞)/F0 =lim(m1 s2 +c1 s+k1 +ca s+ka +ki
t→0
p(s))/tc (s)=(k1 +ka +ki h0 /g0 )/k1 (ka +ki h0 /g0 ) (74)
式(69)から x2 (∞)/F0 =−(k1 −ks )/k1 ks (75)
したがって、k1 =ks (76)
を満たすように除振装置が設計されているならば、
x2 (∞)/F0 =0 (77)
となる。これは、コンプライアンスが零、すなわち剛性が無限大であることを意味する。なお、前記の解析において、c1 =0,ka =0,ca =0とおくと、図13で示した除振装置に関する解析結果が得られ、ka =0,ca =0とおくと、図14で示した除振装置に関する解析結果が得られ、c1 =0とおくと、図15で示した除振装置に関する解析結果が直ちに得られる。
【0051】
図24は、本発明の除振方法およびその装置の基礎実験装置を示すもので、一対の平行板ばね101、102を介してベース100に結合されている中間台103には、ボイスコイルモータ104が取り付けられている。中間台103の運動は、平行板ばね101、102によって垂直方向の1自由度の並進運動に拘束される。一方、ボイスコイルモータの可動部105には除振テーブル106が取り付けられ、ボイスコイルモータによって垂直方向に並進運動をするように駆動される。除振テーブル106の中間台103に対する相対変位はセンサ107が検出し、ベース100に対する中間台103の相対変位はセンサ108が検出するように構成される。
【0052】
次に、図25および図26により、前記試作した基礎実験装置を用いて行った実験結果について説明する。図25は負のばね特性を実現する第2の制御方法(段落0039〜段落0041)を用いて実現した負のばね特性に関する実験結果で、中間台103を固定して制御系を設計する際に負のばね定数を、(a)15kN/m、(b)20kN/m、(c)25kN/mに設定して、テーブルへの付加質量Δmを増大させていった場合のテーブル変位量を測定したものである。図において、縦軸は付加質量Δmによる荷重(=Δmg)〔N〕、横軸はテーブルの上向きの変位〔mm〕を表している。図25から、(a)〜(c)のいずれの場合も、線形的にテーブル変位は上昇しており、負のばね特性が実現されていることが分かった。また、実測された負のばね定数の大きさは、(a)14.9kN/m、(b)19.7kN/m、(c)25.1kN/mであり、制御系を設計するときの設定値とほぼ一致していることが分かった。この結果から、負のばね定数の大きさは、制御系を設計する祭に設定するk3 の値によって自由に設定することができることも分かる。
【0053】
図26は、中間台を平行板ばねによって支持した状態での除振テーブルのベースに対する変位および中間台のベースに対する変位についての実験結果である。平行板ばねによる正のばね定数の値は16.4kN/mで、制御系を設計する祭に設定する負のばね定数の大きさも16.4kN/mとしている。図から、テーブルへの荷重を増加させていった場合、中間台は線形的に下降していくのに対して、テーブルの変位はほとんど生じないことが分かる。テーブルへの荷重が5Nの場合のテーブルの変位量は5μm程度であり、ベースに対する剛性は約1000kN/mで、正のばね定数や設定した負のばね定数の大きさの約61倍となっている。
【0054】
これらの関係から、先に示した理論解析の有効性が確認できた。ボイスコイルモータ(アクチュエータ)と制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構とばね機構を組み合わせた零コンプライアンス機構は、理論上は除振テーブルのベース(床)に対する変位を零にするとともに、直動外乱に対して無限大の剛性を持つことを可能にする。実測された範囲では、テーブルのベース(床)に対する剛性は約1000kN/mで、このときの除振テーブルの床に対する変位は5Nの直動外乱に対して5μmである。これは、ボイスコイルモータ(アクチュエータ)と制御装置から構成される負のばね特性を持つ支持機構とばね機構とを組み合わせることによって、コンプライアンスをほぼ零にすることができ、これにより、直動外乱に対する剛性をきわめて大きくできることが確認された。
【0055】
図27〜図30に別の実施の形態を示す。基本的な構造は前記図13〜図16に示したものと同様であるが、図13〜図16に示したものが中間台1と床6との間にばね5、あるいはばね5および減衰装置19が配設され、かつ中間台1と除振テーブル2との間にアクチュエータ25、あるいはアクチュエータ25とばね30および減衰装置31が配設されていたのに対して、図27〜図30に示したものでは、中間台1を支持する機構と除振テーブル2を支持する機構とを交換した形態が採用されたものである。つまり、図27〜図30に示したものでは、床6と中間台1との間にて、アクチュエータと制御装置からなる負のばね特性を付与して床から中間台1に伝わる振動を絶縁するように構成されている。このように構成することによって、変位センサ27、制御回路28、電力増幅器29およびアクチュエータ25からなる制御装置26の制御が静止側である床6との間にて行えるので、配線等の取りまわし等が簡素化される。
【0056】
以上、本発明の除振方法およびその装置の実施の形態を説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、中間台および除振テーブルの形状、形式、電磁石および永久磁石の形状、形式およびそれらの配設形態(電磁石を中間台あるいは除振テーブルに設置するか、永久磁石を除振テーブルあるいは中間台に設置するか、永久磁石に加えて強磁性体を併設するか、もしくは永久磁石を電磁石の鉄心に組み込んで除振テーブルあるいは中間台のいずれか一方にのみ設置し、他方には強磁性体を設置するように構成してもよい)、アクチュエータ、ばねおよび減衰装置の形状、形式およびその中間台への配設形態(床と中間台との間にはばねに加えて適宜の減衰装置を併設してもよい)、ゼロパワー制御手段、アクチュエータの制御手段(変位センサの種類、制御回路の形式、電力増幅形態およびそれらによるアクチュエータの制御形態)、除振の方向(前述の各実施の形態では、主として垂直方向の除振について説明したが、水平方向の除振、あるいは垂直方向および水平方向を同時に除振するように構成できることは言うまでもない。)等については適宜選定できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、車両用の加速度センサに利用できる。さらに自動車用に限定することなく、広く産業上における加速度を検出する必要のある箇所で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の除振方法およびその装置のゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を用いた第1実施の形態を示す説明図である。
【図2】同、第1実施の形態の変形例を示す図である。
【図3】本発明で使用されるゼロパワー制御系の特徴の説明図である。
【図4】ばね系とゼロパワー制御系の動作比較図である。
【図5】本発明の除振方法およびその装置の基礎実験装置を示す図である。
【図6】ゼロパワー磁気浮上系の負のばね特性の実験結果図である。
【図7】除振テーブルの床に対する変位の実験結果図である。
【図8】本発明の除振方法およびその装置の第2実施の形態を示す説明図である。
【図9】本発明の除振方法およびその装置の第3実施の形態を示す説明図である。
【図10】本発明の除振方法およびその装置の第4実施の形態を示す説明図である。
【図11】従来のばね系の除振システム図である。
【図12】従来のアクティブ除振装置の説明図である。
【図13】本発明の除振方法およびその装置のアクチュエータと制御装置を用いた負のばね特性を有する支持機構を用いた第5実施の形態を示す説明図である。
【図14】本発明の除振方法およびその装置の第6実施の形態を示す説明図である。
【図15】本発明の除振方法およびその装置の第7実施の形態を示す説明図である。
【図16】本発明の除振方法およびその装置の第8実施の形態を示す説明図である。
【図17】正のばね特性の説明図である。
【図18】負のばね特性の説明図である。
【図19】ばねと減衰装置を併設したアクチュエータによる負のばね特性挙動図である。
【図20】除振装置の直動外乱に対する応答図である。
【図21】アクチュエータを用いた負のばね特性を実現する制御方法の説明図である。
【図22】アクチュエータとしてボイスコイルモータを用いた力学的モデル図である。
【図23】図16の除振装置の力学的モデル図である。
【図24】負のばね特性を有する支持機構の基礎実験装置図である。
【図25】荷重とテーブルの変位との関係図である。
【図26】テーブルと中間台の変位図である。
【図27】本発明の除振方法およびその装置の第9実施の形態を示す説明図である。
【図28】本発明の除振方法およびその装置の第10実施の形態を示す説明図である。
【図29】本発明の除振方法およびその装置の第11実施の形態を示す説明図である。
【図30】本発明の除振方法およびその装置の第12実施の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 中間台(第1部材)
2 除振テーブル(第2部材)
3 永久磁石
4 電磁石
5 ばね
6 床
7 強磁性体
19 減衰装置
25 アクチュエータ
26 制御装置
27 変位センサ
28 制御回路
29 電力増幅器
30 ばね
31 減衰装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の除振に係り、地動外乱の絶縁を目的とするパッシブ除振のみならず、ばね上の外乱にも対処できるアクティブ除振をも可能とする除振方法およびその装置に関するもので、NC機械、マシニングセンター等の工作機械からIC業界のステッパーに代表される各種機器にまで採用され、加工テーブル等を外乱から絶縁して高精度加工を達成せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体デバイス製造システムや極微小領域計測システム等では、急速に高精度化、高性能化してきており、これらのシステムでは、振動等の外乱を除去する除振、防振装置の重要性が増大している。除振装置で除去すべき振動外乱は、設置床からの振動に起因する地動外乱と、装置のばね上に入力される直動外乱とに大別でき、前者には低剛性の機構が適しており、後者には高剛性の機構が適している。図11は、地動外乱を絶縁して除振する従来のパッシブ除振システムを示すのもので、床36からの振動伝達率を低くするためにばね定数kを小さくしてばね剛性を小さくすると、除振テーブル32(質量m)上の質量変化Δmや除振テーブル32に作用する荷重の変化等のばね上での外乱に対して弱くなってしまう。逆に、ばね上での外乱に対してはある程度ばね剛性を大きくする必要がある。このような外乱吸収のための低剛性機構と、位置、姿勢保持のための高剛性機構という相反する特性が要求される。
【0003】
一般に、正のばね定数k1 、k2 を有する2つのばね35−1、35−2を直列に結合して1つの除振機構を構成すると、そのばね定数は次式で求められる。
kc =k1 k2 /(k1 +k2 ) (1)
つまり、通常の正のばね定数を有するばねを直列に結合すると、結合してできたばね定数は、結合前のばね定数より必ず小さくなるものである。したがって、これら従来のばねのみを使用した除振装置では、質量変化や振動等のばね上での外乱に対して高い剛性を確保することが極めて困難であることから、アクティブ除振制御装置が提案された。
【0004】
図12は、一般的なアクティブ除振制御装置の原理を示したもので、除振台110上に設置された加速度センサ114による検出信号に基づいてコントローラ115によって除振台110の振動を抑制する制御入力を計算し、求められた制御入力によって、ばね111および減衰器112と並列に設置されたアクチュエータ113を動作させることによって除振制御を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなアプローチは、除振台や床の振動が正確に検出されることを前提としており、実現化されるには、低周波の振動まで感度良く検出できるサーボ型加速度センサを用いる必要があるために高価格になる上、採用されるサーボ型加速度センサによっては、直動外乱に対する剛性が未だ充分とは言い難く、完全な振動絶縁性能を確保するには不充分であった。
【0006】
そこで本発明では、前記従来の除振方法およびその装置の課題を解決して、地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にする除振方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明が採用した技術解決手段は、
床と第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と負荷を載置する第2部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法である。
また、床から立設した支柱と第1部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与して前記支柱から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材に対向して配置した第2部材と、前記第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法である。
また、前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする除振方法である。
また、床と、所定の正のばね定数を有するばねと、そのばねによって前記床上に支持される第1部材と、該第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材とを備え、前記第1部材と第2部材との間には、アクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置である。
また、床に立設した支柱と、前記支柱に対向して配置した第1部材と、前記第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材と、前記第1部材と第2部材との間に配置される正のばね定数を有するばねとを備え、前記支柱と第1部材との間にはアクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置である。
また、前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする除振装置である。
また、前記ばねと併設して所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする除振装置である。
また、前記アクチュエータと併設して所定のばね定数のばねおよび所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする除振装置である。
また、前記アクチュエータの伸びを荷重の増減に応じて増減させるように構成したことを特徴とする除振装置である。
また、前記アクチュエータがボイスコイルモータ、リニアモータ、空気圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等のリニアアクチュエータであり、前記制御装置が変位センサおよび制御回路ならびに電力増幅器から構成されたことを特徴とする除振装置である。
【発明の効果】
【0008】
以上、詳細に説明したように、本発明では、床と第1部材との間にばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と第2部材との間にアクチュエータと制御装置からなる負のばね特性を付与することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁するように構成したことにより、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁して、除振テーブルの地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にすることは無論のこと、負のばね特性を得るために種々のアクチュエータの採用が可能となって設計の自由度が向上する。
【0009】
また、前記床と中間台との間に、前記ばねと併設して所定の減衰率の減衰装置を設置した場合は、共振の発生を抑制して全体としてより高い除振機能を発揮させることができる。さらに、前記中間台に設けられた電磁石の吸引力を永久磁石が設けられた除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合、あるいは前記中間台に設けられたアクチュエータの伸びを除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合は、除振テーブルへの配線を避けることができるので、制御設備が簡素化される。
【0010】
また、前記中間台に設けられた電磁石と永久磁石から構成される複合磁石の、強磁性体が設けられた除振テーブルに対する吸引力を除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合には、除振テーブルへの配線を避けることができると同時に、強磁性体だけが設置される除振テーブルの製作が容易になる。さらにまた、前記除振テーブルに設けられた電磁石の、永久磁石が設けられた中間台に対する吸引力を除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合は、永久磁石のみが設置される中間台の構成を簡素化できる。また、前記除振テーブルに設けられた電磁石と永久磁石から構成される複合磁石の、強磁性体が設けられた中間台に対する吸引力を除振テーブルへ作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成した場合には、強磁性体だけが設置される中間台の製作が容易になる。
【0011】
また、床と第1部材との間にゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を配設した場合、あるいは床に対してアクチュエータと制御装置から構成されて所定の負のばね特性を有する支持機構によって支持された中間台と、該中間台に所定の正のばね定数を有するばねによって支持された除振テーブルとから構成された場合は、磁気浮上機構の磁力制御、あるいはアクチュエータの制御が静止側である床との間にて行えるので、配線等の取りまわしが簡素化される。さらに、前記中間台と除振テーブルとの間に、前記アクチュエータと併設して所定のばね定数のばねおよび所定の減衰率の減衰装置を設置した場合は、ばねで除振テーブルの重量を支持することによりアクチュエータのエネルギ消費を低減し、さらに除振系の共振を避けて減衰特性を改善することができる。かくして、本発明によれば、地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にする除振方法およびその装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、床と第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と負荷を載置する第2部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁して、除振テーブルの地動外乱に対する振動絶縁性能を損なうことなく、直動外乱に対する高い剛性を確保して、高い除振機能を発揮して精密加工等を可能にすることは無論のこと、負のばね特性を得るために種々のアクチュエータの採用が可能となって設計の自由度が向上する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の除振方法およびその装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明は、正のばね特性を有する支持機構と、負のばね特性を有する支持機構とを直列に接続することによって、装置上で発生する直動外乱に対して略無限大の剛性を有せしめるとともに、床に対する振動を絶縁することを特徴とするもので、先ず、負のばね特性を有する支持機構として、ゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を用いた実施の形態について説明する。図1は本発明の除振方法およびその装置の第1実施の形態を示すもので、本発明は、床6と中間台である第1部材1との間にばね5を配設して床6から第1部材1に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材1と除振テーブルである第2部材2との間に永久磁石3と電磁石4とから構成されるゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を配設することによって、前記第1部材1から第2部材2に伝わる振動を絶縁することを特徴とする。本実施の形態では、床6に対して所定の正のばね定数kP のばね5によって支持された中間台1と、該中間台1に対して永久磁石3と電磁石4とから構成されて所定の負のばね定数ksのゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持された除振テーブル2とから構成され、図示の例では、中間台1に設けられた電磁石4の吸引力を永久磁石3が設けられた除振テーブル2の質量増加等に起因する荷重の増減に応じて増減させるように適宜の制御装置(図示省略)により制御するように構成したものである。
【0014】
なお、図2(A)に示すように、磁石による吸引力を増加させるために、永久磁石3と併用して強磁性体7を除振テーブル2側に配置してもよい。あるいは、図2(B)に示すように、永久磁石3を電磁石4の鉄心に埋め込んで複合磁石とし、除振テーブル2側には強磁性体7だけを設置してもよい。また、電磁石と永久磁石との配置を逆、すなわち除振テーブル2側に電磁石4を、中間台1側に永久磁石3を設け、電磁石4の吸引力を除振テーブル2に作用する荷重の増減に応じて増減させるように構成してもよい。この場合も、図2(C)に示すように、永久磁石3と併用して強磁性体7を中間台1側に設置してもよい。あるいは、図2(D)に示すように、永久磁石3を電磁石4の鉄心に埋め込んで複合磁石とし、中間台1側には強磁性体7だけを設置してもよい。
【0015】
次に、図3および図4を用いて本発明における中間台と除振テーブルとの間にて採用されるゼロパワー磁気浮上制御系について説明する。ゼロパワー制御は、電磁石と永久磁石とを組み合わせて構成された吸引型磁気浮上系で、図3に示すように、浮上対象物である除振テーブル12の重量を永久磁石13の吸引力のみで支持するとともに、支持固定側11における電磁石14のコイル電流を定常的にゼロに保持する制御方法である。aの静止状態では、除振テーブル12は力が釣り合った状態にて静止位置に停まっているが、bの荷重時に示すように、除振テーブル12に下向きの一定の外力(質量増加Δm等)が加わると、電磁石14のコイルに電流を流して除振テーブル12を引き上げようとする吸引力を発生させ、前記永久磁石13による吸引力と下向きの力が釣り合うように制御され、cに示すように、ギャップが狭くなる位置で電磁石14に流れる電流がゼロとなり静止状態となる。上記のような作用をする制御系は、図1では省略されているが、dに示すように、浮上対象物である除振テーブル12の支持固定側(図1の装置では中間台)に対する位置を検出する変位センサ21、該センサ21の出力信号に基づいて電磁石14のコイル電流を定常的にゼロに保持しながら除振テーブル12を浮上保持するための制御信号を生成する制御回路22と、該制御回路22の出力にしたがって電磁石14のコイルに所定の電流を流す電力増幅器23等から構成される制御装置20を用いて実現される。
【0016】
図4は通常のばね系との比較を説明するもので、図面左側に示すように、通常のばね系では、所定の正のばね定数のばねにより支持された質量m22が質量増加Δmを生じると、質量増加(荷重)方向に移動する、いわゆるパッシブ除振制御がなされる。これに対して、ゼロパワー制御では、図面右側に示すように、質量増加Δmが生じると、前記ばね系とは逆方向に質量m12が上方に移動してギャップを狭くするように電磁石14が制御される。そのため、見かけ上は負のばね定数を有するかのような挙動を示す。このゼロパワー制御によって実現される負のばね定数の性質を利用し、本発明では、通常の正のばね定数によるパッシブ除振制御と組み合わせることによって、ばね上での質量変化が生じても、質量mすなわち除振テーブル等が変位を生じないように構成したものである。
【0017】
すなわち、図1(b)に示すように、除振テーブル2に質量増加Δm等によって下向きの一定外力F0 (=Δmg)が加わると、ゼロパワー制御の作用によって、中間台1に設置された電磁石4と除振テーブルとの距離はF0 /ks だけ短くなる(ks はゼロパワー制御によって実現される負のばね定数)。したがって、ks =kP なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブルは全く変位しないことになる。前記数式(1)kc =k1 k2 /(k1 +k2 )を用いて説明すると、ゼロパワー制御によってk1 =−k2 なる関係を満たす負のばね定数が実現できると、
|kc |=+∞ (2)
なるばね定数が得られる。すなわち、ばね定数の大きさが等しい正のばねと負のばねとを結合することによって、ばね定数が無限大のばねが得られる。これはコンプライアンスがゼロとなることを意味している。
【0018】
以下に、図1に示した本発明の除振制御系について理論解析を行う。
<基本方程式>本解析では各質量および床の垂直方向の変位のみを扱う。この系の運動方程式は次式のように求められる。
【数1】
【数2】
ここで、x1 、x2 :中間台、除振テーブルの平衡点からの変位
x0 :床の振動変位
kP :床から中間台を支持するばねのばね定数
fc :磁石の吸引力の動作点からの変動分
fd :除振テーブルに作用する直動外乱
また、cP は、図1には示されていないが、ばね5と並列に設置された減衰装置の減衰係数である。減衰装置がない場合はcP =0とすればよい。磁石の吸引力の変動分は、近似的に次のように表される。
fc =ks (x2 −x1 )+ki i (6)
ここで、ks :磁石の変位・吸引力係数
ki :磁石の電流・吸引力係数
i:制御電流
【0019】
<ゼロパワー制御系>ここでは、中間台と除振テーブルの相対変位から制御入力を構成する。この場合、ゼロパワー制御を達成する制御入力は一般に次のように表すことができる。
I(s)=−c2 (s)s(X2 (s)−X1 (s)) (7)
ここで、c2 (s)はゼロを極に持たない強プロパーな伝達関数で、制御系が安定になるように選定される。中間台のダイナミクスが無視できる場合には、2以上の次数を持つ制御器によって安定化が可能となる。
【0020】
<基本特性の解析>簡単のため初期条件をゼロと仮定してラプラス変換すると、式(4)〜(7)から次式が求められる。
X1 (s)=(cP s+kP )t2 (s)X0 (s)/tc (s)+(ki c2 (s)s−ks )Fd (s)/tc (s) (8)
X2 (s)=(cP s+kP )(ki c2 (s)s−ks )X0 (s)/tc (s)+(m1 s2+(cP +ki c2 (s))s+kP −ks )Fd (s)/tc (s) (9)
ここで、 t1 (s)=m1 s2 +cP s+kP (10)
t2 (s)=m2 s2 +ki c2 (s)s−ks (11)
t3 (s)=t1 (s)t2 (s)+m2 s2 (ki c2 (s)s−ks )
(12)
【0021】
各変数のラプラス変換は、対応する大文字で表している。直動外乱に対する剛性を評価するために、 Fd =F0 /s (F0 :const) (13)
とする。床の振動の影響を無視すると(x0 =0)、除振テーブルの定常変位x2 (∞)は、次のように求められる。
x2 (∞)/F0 =lim(m1 s2 −(cP +k1 c2 (s))s+kP
s→0
−ks )/lc (s)=(kP −ks )/kP (−ks )=1/kP −1/ks (14)
したがって、 kP =ks (15)
を満たすように除振装置が設計されていれば、
x2 (∞)/F0 =0 (16)
となる。これは、コンプライアンスがゼロ、すなわち剛性が無限大となることを意味する。また、中間台の変位x1 (∞)および電磁石と除振テーブルとのギャップの変動量(x1 (∞)−x2 (∞))は、それぞれ次のように求められる。
x1 (∞)/F0 =1/kP (17)
(x1 (∞)−x2 (∞))/F0 =1/ks (18)
したがって、除振テーブルに下向きの力(F0 <0)が作用するとき、中間台は下向きに変位するのに対し、除振テーブルは中間台に近づくように上向きに変位することが確認できた。このように、ゼロパワー磁気浮上機構を利用した除振装置では、中間台を支持する機械式ばねのばね定数と磁石の変位・吸引力係数の大きさを等しく設定することによって、直動外乱に対する剛性が無限大となることが理論的に示された。
【0022】
図5は本発明の除振方法およびその装置の基礎実験装置を示すもので、図5(A)は実験装置の正面図、図5(B)はその側面図である。床に固定されたベース10から立設されたリニアシャフト9a、9bに嵌挿されたばね5a、5bを介設して中間台1が設置され、前記リニアシャフト9a、9bを嵌合して中間台1に設置されたリニアブッシュ8a、8bによって、中間台1の運動が垂直方向の1自由度の並進運動に拘束される。一方、除振テーブル2の下部両側に設置されたガイドブロック15a、15bが、ベース10に立設されたガイドレール16a、16bに係合し、除振テーブル2の運動を垂直方向の1自由度の並進運動に拘束する。除振テーブル2の下端部には上方に向いた永久磁石3、3が設置され、対向する中間台1の下部には電磁石4が設置される。除振テーブル2の中間台1に対する相対変位はセンサ17が検出し、ベース10に対する中間台1の相対変位はセンサ18が検出するように構成される。
【0023】
次に、図6および図7により、前記試作した基礎実験装置を用いて行った実験結果について説明する。図6はゼロパワー磁気浮上系の負のばね特性についての実験結果で、中間台1を固定して、除振テーブルの質量を1700g、1310g、700gについて付加質量Δmを増大させていった場合のテーブルの変位量を測定したもので、どの質量でも線型的にテーブル変位は上昇しており、ゼロパワー制御が線型的な負のばねとして動作していることがわかった。また、ゼロパワー制御の持つばね定数は除振テーブルの質量を操作することで、様々な値に設定することができることもわかる。
【0024】
図7は中間台をばねによって支持した状態での除振テーブルの床に対する変位についての実験結果で、正のばね定数は6.825(kN/m)で、正と負のばね定数がほぼ一致するところは、テーブル質量が1300g付近を基準として、1280g〜1400gの範囲と推定できる。因みに1310gのときの負のばね定数は約7kN/mである。図によれば、テーブル質量が1380gのとき除振テーブル変位量は20μmで、テーブル位置はほぼ初期位置を保持したまま、良好な動作をしていることがわかる。この1380gという値は実験前に推測した範囲内の値で、また正と負のばね定数の差が大きくなるにつれて動作性能が低下することもわかる。
【0025】
これらの関係から、先に示した理論解析の有効性が確認できた。ゼロパワー磁気浮上機構とばね機構を組み合わせたゼロコンプライアンス機構は、式の上では除振テーブルの床に対する変位をゼロにするとともに直動外乱に対する無限大のテーブル剛性を可能にしている。実測された範囲ではテーブルの床に対する最大剛性は約490kN/mで、このとき、除振テーブルの床に対する変位も最小値を示している。これは、ゼロパワー磁気浮上機構とばねを組み合わせることにより、コンプライアンスをほぼゼロとすることができ、これによって、直動外乱に対する剛性をきわめて大きくできることが確認できた。
【0026】
図8は本発明の除振方法およびその装置の第2実施の形態を示すもので、床206に設置された支柱207に対して永久磁石203と電磁石204とから構成されて所定の負のばね定数KS を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持された中間台201と、該中間台201に所定の正のばね定数KP のばね205によって支持された除振テーブル202とから構成され、図示の例では、支柱207に設けられた電磁石204の吸引力を永久磁石203が設けられた中間台201への荷重の増減に応じて増減させるように適宜の制御装置(図示省略)により、電磁石204と中間台201との距離を制御するように構成したものである。
【0027】
このような構成によって、除振テーブル202に質量増加Δm等により下向きの一定外力F0 (=Δmg)が加わると、除振テーブル202を支持するばね205はF0 /KP だけ圧縮されて短くなる。同時に、ばね205の反力によって中間台201にも下向きの外力F0 が加わることになり、ゼロパワー制御の作用によって、電磁石204と中間台201との距離はF0 /KS だけ短くなり、中間台201はこの分だけ上向きに変位することになる。したがって、KS =KPなる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル202は全く変位しないことになる。これは、コンプライアンスがゼロ、すなわち剛性が無限大になることを意味している。つまり、図8に示された除振装置は前記図1に示された除振装置と同じ除振性能を有していることが理解される。
【0028】
図9は本発明の除振方法およびその装置の第3実施の形態を示すもので、床300に所定の正のばね定数KP のばね301および減衰装置302によって支持された中間台303と、該中間台303に対して永久磁石304と電磁石305とから構成され所定の負のばね定数KS を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構と、床300に所定の正のばね定数KP ’のばね311および減衰装置312によって支持された中間台313と、該中間台313に対して永久磁石314と電磁石315とから構成され所定の負のばね定数KS ’を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構とによって支持された除振テーブル320とから構成されたものである。
【0029】
このような構成において、KS =KP およびKS ’=KP ’なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル320の左側(中間台303側)および右側(中間台313側)においてコンプライアンスがゼロすなわち剛性が無限大となるので、除振テーブル320上のどの位置に垂直方向の一定外力が作用しても、除振テーブル320は全く変位しない。このような特性から、除振テーブル320上に可動ステージ321を設置した場合、移動負荷322がどの位置にあっても除振テーブル320は変位せず、その姿勢を水平に保つことができる。
【0030】
図10は本発明の除振方法およびその装置の第4実施の形態を示すもので、床400に、垂直方向には所定の正のばね定数KP 1 のばね401および減衰装置402、水平方向には所定の正のばね定数KP 2 のばね403および減衰装置404によって支持された中間台405と、該中間台405に対して、垂直方向には永久磁石406と電磁石407とから構成された所定の負のばね定数KS 1 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構、水平方向には永久磁石408と電磁石409とから構成された所定の負のばね定数KS 2 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持され、さらに、床400に、垂直方向には所定の正のばね定数KP 3 のばね411および減衰装置412、水平方向には所定の正のばね定数KP 4 のばね413および減衰装置414によって支持された中間台415と、該中間台415に対して、垂直方向には永久磁石416と電磁石417とから構成された所定の負のばね定数KS 3 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構、水平方向には永久磁石418と電磁石419とから構成された所定の負のばね定数KS 4 を持つゼロパワー特性を有する磁気浮上機構によって支持された除振テーブル420とから構成されたものである。
【0031】
このような構成において、KS 1 =KP 1 、KS 2 =KP 2 、KS 3 =KP 3およびKS 4 =KP 4 なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル420の左側(中間台405側)および右側(中間台415側)においてコンプライアンスがゼロすなわち剛性が無限大となり、同時に除振テーブル420上の水平方向のコンプライアンスもゼロとなるので、除振テーブル420のどの位置に垂直方向および水平方向の一定外力が作用しても、除振テーブル420は全く変位しない。
【0032】
次に、図13〜図27を用いて、負のばね特性を有する支持機構として、アクチュエータと制御装置からなる支持機構を用いた除振方法およびその装置についての理論解析と実施の形態について説明する。図13に示したものは、床6に所定の正のばね定数を有するばね5によって支持された中間台1と、該中間台1に対してアクチュエータ25と制御装置26から構成されて所定の負のばね定数を有する支持機構によって支持された除振テーブル2とから構成されたもので、前記アクチュエータ25としては、ボイスコイルモータ、リニアモータ、空気圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等のリニアアクチュエータが採用され、前記制御装置26としては、除振テーブル2の中間台1に対する変位を検出する変位センサ27および制御回路28ならびに電力増幅器29から構成される。
【0033】
図14に示したものは、床6と中間台1との間に、ばね5と併設して所定の減衰率の減衰装置19を設置することにより、除振系の共振を避けて減衰特性を改善したものである。図15に示したものは、中間台1と除振テーブル2との間に、アクチュエータ25と併設して所定のばね定数のばね30および所定の減衰率の減衰装置31を設置したもので、ばね30で除振テーブル2の重量を支持することによりアクチュエータ25のエネルギ消費を低減し、さらに除振系の共振を避けて減衰特性を改善することができる。図16に示したものは、前記図14および図15に示したものを併用したものである。つまり、床6と中間台1との間に、ばね5と併設して所定の減衰率の減衰装置19を設置するとともに、中間台1と除振テーブル2との間に、アクチュエータ25と併設して所定のばね定数のばね30および所定の減衰率の減衰装置31を設置したものである。
【0034】
図17〜図20によって、負のばね特性について説明する。
<通常のばね特性(正のばね特性)>図17(a)に示すように、所定の正のばね定数(k)を有する通常のばねによって支持されている質量mのテーブル24上に、図17(b)に示すような新たに質量Δmが生じて下向きの外力Δmが加わったとすると、ばねはΔmg/kだけ縮み、テーブル24は外力と同方向にΔmg/kだけ変位して、床6との距離がL−Δmg/kとなる。
<負のばね特性>図18(a)では、質量mのテーブル24に作用する重力mgとアクチュエータ25に発生する力が釣り合った状態にあり、床6と質量mの距離がLに保たれているとする。図18(b)に示すように、テーブル24上に新たに質量増加Δmが生じて下向きの外力Δmgが加わったときに、アクチュエータ25が伸びて質量mの床6からの距離がL+ΔLに増加するという特性を有するとする。このとき、テーブル24は外力と逆方向にΔLだけ変位する。この系は負のばね特性を有すると言える。負のばね定数の大きさks は、ks =Δmg/ΔLで与えられる。
【0035】
図19に示したものは、図15および図16で示した除振装置のように、アクチュエータ25と並列にばね30と減衰装置31を併設した系が負のばね特性を有するときの挙動を示すもので、図19(a)では質量mのテーブル24に作用する重力mgとアクチュエータ25に発生する力およびばね30のばね力とが釣り合った状態にあり、床6と質量mとの距離がLに保たれているとする。図19(b)に示すように、テーブル24上に新たに質量増加Δmが生じて下向きの外力Δmgが加わったときに、アクチュエータ25が伸びて、質量mのテーブル24の床6からの距離がL+ΔLに増加するという特性を有するとする。このとき、図18に示した場合と同様に、テーブル24は外力と逆方向にΔLだけ変位するので、この系は負のばね特性を有すると言える。負のばね定数の大きさks =Δmg/ΔLで与えられる。
【0036】
<除振装置の直動外乱に対する応答>ここでは、図13に示した除振装置の直動外乱に対する応答を図20を用いて説明する。除振テーブル2に質量増加Δm等によって下向きの一定力F0 (=Δmg)が加わったとすると、負のばね特性が実現されているので、除振テーブル2と中間台1との距離はΔmg/kS だけ増加する。一方、ばね5については、そのばね定数をk1 とすると、Δmg/k1 だけ縮むので、中間台1と床6との距離はΔmg/k1 だけ減少する。したがって、kS =k1 なる関係を満たすように除振装置が設計されていれば、除振テーブル2は全く変位しないことになる。すなわち、ばね定数の大きさの等しい正のばねと負のばねと直列に接続することによって、ばね定数が無限大のばねが実現される。
【0037】
<負のばね特性を実現する第1の制御方法>図19に示した系において負のばね特性を実現する方法を図21を用いて説明する。図19に示した系に、変位センサ27、制御回路28、電力増幅器29からなる制御装置28が付加されている。これらの要素は、図13〜図16における変位センサ27、制御回路28、電力増幅器29に対応する。制御回路28は次のような機構から構成される。外力推定機構28Aでは、変位センサ27の情報に基づいて、テーブル24に作用する外力fd (図19に示した例では−Δmgに相当する)を推定する。推定値をf^d と表すと、目標変位発生機構28Bでは、前記外力推定機構28Aからの出力に基づいて、実現する負のばね特性から決まる目標変位を計算する。設定する負のばね定数の大きさをkS とすると、目標変位xref は、次式から求められる。
xref =−f^d /kS (19)
ただし、変位の符号は外力の方向と同じ場合を正とする。位置制御機構28Cでは、目標変位に一致するようにテーブル24の変位を制御する。具体的には式19で求めた目標変位分だけアクチュエータ25を伸縮するための制御信号を生成して、電力増幅回路29に出力する。電力増幅回路29は、制御信号にしたがってアクチュエータ25を駆動する。
【0038】
<理論解析>ここでは、アクチュエータ25としてボイスコイルモータを用いる場合について述べる。他のアクチュエータを用いる場合も同様にして負のばね特性を実現できる。図22に力学的モデルを示す。この系の運動方程式は、次式のように求められる。
【数3】
ここで、
m2 :テーブル24の質量
x :テーブル24の平衡点からの変位
ka :アクチュエータ25と並列に挿入されたばね30のばね定数
ca :アクチュエータ25と並列に挿入された減衰装置31の減衰係数
fa :アクチュエータ25の発生力
fd :テーブル24に作用する直動外乱
アクチュエータ25に発生する力は、コイル電流に比例するので、次のように表される。fa =ki i, (21)
ここで、
ki :ボイスコイルモータの推力定数
i :制御電流
【0039】
式(21)を式(20)に代入すると次式が得られる。
【数4】
制御系を設計するときには、直動外乱fd は一定であるとする。すなわち、
【数5】
式(22)(23)をまとめて状態空間表示すると、次式が得られる。
【数6】
ここで、
【数7】
u=i,a0 =ka /m2 ,a1 =ca /m2 ,b0 =ki /m2 ,d0 =1/m2オブザーバ理論を適用することによって、センサ27によって検出されるテーブル24の変位xから、テーブル24に作用する外力を推定することができる。
【0040】
同一次元オブザーバを用いる場合、オブザーバの動特性は、次式によって表される。
【数8】
ここで、
【数9】
行列Eは、オブザーバのゲインと呼ばれる行列で、これを定める手順を以下に述べる。実際の状態ベクトルx(t)とその推定値x^(t)との間の誤差ベクトル
【数10】
は次式を満足する。
【数11】
したがって、行列(A−EC)の固有値がすべて負の実部を持てば、
【数12】
となる。
【0041】
行列(A−EC)の固有値はオブザーバの極と呼ばれるが、これは行列(A−EC)の特性多項式
det〔sI−(A−EC)〕=s3 +(a1 +e1 )s 2+(a0 +a1 e1 +e2 )s+d0 e3 (29)
から求められる。ここでは、オブザーバの極が、
Λ={−λ1 , −λ2 ,−λ3 } (30)
となるようにオブザーバのゲインEを定めることにする。ただし、λ1 は、
Re〔λ1 〕>0 (i=1,2,3) (31)
を満たすように選定されているとする。配置したい極から決まる特性多項式は次次式のように求められる。
td (s)=(s+λ1 )(s+λ2 )(s+λ3 )=s3 +(λ1 +λ2 +λ3 )s2 +(λ1 λ2 +λ2 λ3 +λ3 λ1 )s+λ1 λ2 λ3 (32)
式(29)と式(32)とを比較することによって、オブザーバのゲインEは次式のように定められる。
e1 =λ1 +λ2 +λ3 −a1 (33)
e2 =λ1 λ2 +λ2 λ3 +λ3 λ1 −a0 −a1 e1 (34)
e3 =λ1 λ2 λ3 /d0 (35)
【0042】
前記のようにオブザーバのゲインEを定めたとき、f^d をfd 推定値とすると、次式のような関係が成立する。
f^d =fd +c1 exp( −λ1t) +c2 exp( −λ2t) +c3 exp( −λ3t) (36)
ここで、c1 、c2 、c3 は制御対象とオブザーバの初期条件から定まる定数である。式31の条件から、
【数13】
が成立する。設定する負のばね定数の大きさをks とすると、目標変位xref は次式から求められる。
【数14】
オブザーバ(25)によって求められるfd の推定値である。位置制御には、I−PD制御を適用する。すなわち、制御入力を次式のように定める。
【数15】
【0043】
式(35)を式(21)に代入し、ラプラス変換した式を整理すると、次式が得られる。
【数16】
ここで、ラプラス変換された変数は、対応する大文字で示している。フィードバックゲインpI 、pd 、pV が閉ループ系の極が安定になるように選定さているとき、式(36)(40)から、式(23)を満たすfd に対して、
【数17】
が成立する。したがって、ばね定数の大きさks の負のばね特性が実現される。
【0044】
<負のばね特性を実現する第2の制御方法>ここでは、オブザーバや位置制御系を陽には用いないで、負のばね特性を実現する制御入力を直接構成する方法を示す。制御側の導出には、伝達関数表現方法を用いる。簡単のため初期条件を零としてラプラス変換すると、式(20)(21)から次式が求められる。
X(s)=(b0 I(s)+d0 Fd (s))/(s2 +a1 s+a0 )
(42)
制御入力i(t)(I(s))は、変位センサの信号に基づいて、定めることにすると、時不変ゲインの線形制御を実施する場合には、制御則は一般に次式のように表すことができる。
I(s)=−p(s)X(s) (43)
コントローラとしてプロパーな伝達関数を持つものを用いる場合には、一般に次式のように表すことができる。
p(s)=h(s)/g(s)=(hn sn +hn-1 sn-1 +・・・+h1 s+h0 )/(sn +gn-1 sn-1 +・・・+g1 s+g0 ) (44)
厳密にプロパーな伝達関数を持つコントローラを用いる場合には、 hn =0 (45)
となる。
【0045】
式(43)を式(42)に代入して整理すると、次式が得られる。
X(s)=(g(s)/((s2 +a1 s+a0 )g(s)+b0 h(s)
))d0 Fd (s) (46)
直動外乱に対する剛性を評価するために、
Fd (s)=F0 /s (F0 は一定) (47)
とする。閉ループ系が安定となるように制御則が選定されているとすると、定常変位x(∞)は次式のように求められる。
x2 (∞)/F0 =lim((g(s)/((s2 +a1 s+a0 )g(s
t→0
)+b0 h(s)))d0 =d0 g0 /(a0 g0 +b0 h0 ) (48)
式(48)から、この系が大きさks の負のばね剛性を有するようにするには、次式を満たすように、g(s)、h(s)を選定すればよいことが分かる。
d0 g0 /(a0 g0 +b0 h0 )=−1/ks (49)
∴ka +ki h0 /g0 =−ks (50)
プロパーな伝達関数を持つコントローラを用いる場合、式(49)を満たすと同時に閉ループ系を安定とするためには、n=2以上の次数を持つことが必要となる。逆に、この条件が満たされれば、閉ループ系の極を任意に配置することができる。n=2の場合、式(46)から閉ループ系の特性多項式tc (s)は次式のように求められる。
tc (s)=s4 +(a1 +g1 )s3 +(a0 +g0 +a1 g1 +b0 h2 )s2 +(a0 g1 +a1 g0 +b0 h1 )s+(a0 g0 +b0 h0 ) (51)
【0046】
配置したい極から定まる特性多項式が次式によって与えられているとする。 td (s)=s4 +c3 s3 +c2 s2 +c1 s+c0 (52)
式(50)(51)(52)から、設定された大きさの負のばね剛性を持ち、かつ望ましい極を持つ閉ループ系を実現するコントローラの係数が次のように求められる。
g0 =−c0 /d0 ks =−c0 m/ks (53)
g1 =c3 −a1 (54)
h0 =(c0 −a0 g0 )/b0 (55)
h1 =(c1 −a0 g1 −a1 g0 )/b0 (56)
h2 =(c2 −a0 −g0 −a1 g1 )/b0 (57)
厳密にプロパーな伝達関数を持つコントローラを用いる場合には、式(50)を満足し、かつ閉ループ系の極を任意に配置するためには、3つ以上の次数を持つコントローラが必要となる。n=3の場合、配置したい極から定まる特性多項式を、
【数18】
とすると、コントローラの係数が次のように求められる。
g0 =−c0 /d0 kn =−c0 m/ks (59)
g2 =c4 −a1 (60)
g1 =c3 −a0 −a1 g2 (61)
h0 =c0 (a0 /d0 ks +1)/b0 =c0 (k/ks +1)/b0 (62)
h1 =(c1 −a0 g1 −a1 g0 )/b0 (63)
h2 =(c2 −a0 g2 −a1 g1 −g0 )/b0 (64)
【0047】
<除振装置の動作解析>図16に示した除振装置について理論解析を行う。図23にその力学モデルを示す。負のばね特性を実現する制御方法についての前述の各理論解析と同様に、アクチュエータとしてはボイスコイルモータを用いているものとする。<基本方程式>図23における各質量1、2および床6は、垂直方向に並進運動するものとする。この系の運動方程式は、次式のように求められる。
【数19】
ここでx1 :中間台1の平衡点からの変位
x2 :除振テーブル2の平衡点からの変位
x0 :床6の振動変位
k1 :ばね5のばね定数
c1 :減衰装置19の減衰係数
ka :アクチュエータ25と併設されたばね30のばね定数
ca :アクチュエータ25と併設された減衰装置31の減衰係数
fd :除振テーブル2に作用する直動外乱
fa :アクチュエータ25(ボイスコイルモータ)の推力アクチュエータの発生する力は、コイル電流に比例するもで、次のように表される。
fa =ki i (67)
ここで、
ki :ボイスコイルモータの推力定数
i :制御電流
【0048】
<負の剛性を実現する制御系(制御方法2)>ここでは、前記第2の制御方法を適用する。中間台と除振テーブルの相対変位から制御入力を構成することにすると、制御入力は、一般に次のように表すことができる。
I(s)=−p(s)(X2 (s)−X1 (s))=((hn sn +hn-1 sn-1 +・・・+h1 s+h0 )/(sn +gn-1 sn-1 +・・・+g1 s+g0 ))(X2 (s)−X1 (s)) (68)
ここで、p(s)は、閉ループ系を安定にし、かつ次式を満たすように選定されているとする(式(50)を参照)。
k0 +ki h0 /g0 =−ks (69)
中間台1のダイナミックが無視できる場合には、n=2以上の次数を持つ制御器を用いれば、閉ループを安定化すると同時に、式(69)を満たすようにすることができる。
【0049】
<基本特性の解析>簡単のため初期条件を零と仮定してラプラス変換すると、式(65)〜(68)から、次式が求められる。
X1 (s)=(c1 s+k1 )(m2 s2 +ca s+ka +ki p(s))
X0 (s)/tc (s)+(ca s+ka +ki p(s))Fd (s)/tc (s)
(70)
X2 (s)=(c1 s+k1 )(ca s+ka +ki p(s))X0 (s)
/tc (s)+(m1 s2 +c1 s+k1 +ca s+ka +ki p(s))Fd (s)/tc (s)
(71)
ここで、 tc (s)=(m1 s2 +c1 s+k1 )(m2 s2 +ca s+ka +ki p(s))+m2 s2 (ca s+ka +ki p(s)) (72)
【0050】
直動外乱に対する剛性を評価するために、
Fd =F0 /s (F0 :一定) (73)
とする。床6の振動の影響を無視すると(x0 =0)、除振テーブル2の定常変位x2 (∞)は次のように求められる。
x2 (∞)/F0 =lim(m1 s2 +c1 s+k1 +ca s+ka +ki
t→0
p(s))/tc (s)=(k1 +ka +ki h0 /g0 )/k1 (ka +ki h0 /g0 ) (74)
式(69)から x2 (∞)/F0 =−(k1 −ks )/k1 ks (75)
したがって、k1 =ks (76)
を満たすように除振装置が設計されているならば、
x2 (∞)/F0 =0 (77)
となる。これは、コンプライアンスが零、すなわち剛性が無限大であることを意味する。なお、前記の解析において、c1 =0,ka =0,ca =0とおくと、図13で示した除振装置に関する解析結果が得られ、ka =0,ca =0とおくと、図14で示した除振装置に関する解析結果が得られ、c1 =0とおくと、図15で示した除振装置に関する解析結果が直ちに得られる。
【0051】
図24は、本発明の除振方法およびその装置の基礎実験装置を示すもので、一対の平行板ばね101、102を介してベース100に結合されている中間台103には、ボイスコイルモータ104が取り付けられている。中間台103の運動は、平行板ばね101、102によって垂直方向の1自由度の並進運動に拘束される。一方、ボイスコイルモータの可動部105には除振テーブル106が取り付けられ、ボイスコイルモータによって垂直方向に並進運動をするように駆動される。除振テーブル106の中間台103に対する相対変位はセンサ107が検出し、ベース100に対する中間台103の相対変位はセンサ108が検出するように構成される。
【0052】
次に、図25および図26により、前記試作した基礎実験装置を用いて行った実験結果について説明する。図25は負のばね特性を実現する第2の制御方法(段落0039〜段落0041)を用いて実現した負のばね特性に関する実験結果で、中間台103を固定して制御系を設計する際に負のばね定数を、(a)15kN/m、(b)20kN/m、(c)25kN/mに設定して、テーブルへの付加質量Δmを増大させていった場合のテーブル変位量を測定したものである。図において、縦軸は付加質量Δmによる荷重(=Δmg)〔N〕、横軸はテーブルの上向きの変位〔mm〕を表している。図25から、(a)〜(c)のいずれの場合も、線形的にテーブル変位は上昇しており、負のばね特性が実現されていることが分かった。また、実測された負のばね定数の大きさは、(a)14.9kN/m、(b)19.7kN/m、(c)25.1kN/mであり、制御系を設計するときの設定値とほぼ一致していることが分かった。この結果から、負のばね定数の大きさは、制御系を設計する祭に設定するk3 の値によって自由に設定することができることも分かる。
【0053】
図26は、中間台を平行板ばねによって支持した状態での除振テーブルのベースに対する変位および中間台のベースに対する変位についての実験結果である。平行板ばねによる正のばね定数の値は16.4kN/mで、制御系を設計する祭に設定する負のばね定数の大きさも16.4kN/mとしている。図から、テーブルへの荷重を増加させていった場合、中間台は線形的に下降していくのに対して、テーブルの変位はほとんど生じないことが分かる。テーブルへの荷重が5Nの場合のテーブルの変位量は5μm程度であり、ベースに対する剛性は約1000kN/mで、正のばね定数や設定した負のばね定数の大きさの約61倍となっている。
【0054】
これらの関係から、先に示した理論解析の有効性が確認できた。ボイスコイルモータ(アクチュエータ)と制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構とばね機構を組み合わせた零コンプライアンス機構は、理論上は除振テーブルのベース(床)に対する変位を零にするとともに、直動外乱に対して無限大の剛性を持つことを可能にする。実測された範囲では、テーブルのベース(床)に対する剛性は約1000kN/mで、このときの除振テーブルの床に対する変位は5Nの直動外乱に対して5μmである。これは、ボイスコイルモータ(アクチュエータ)と制御装置から構成される負のばね特性を持つ支持機構とばね機構とを組み合わせることによって、コンプライアンスをほぼ零にすることができ、これにより、直動外乱に対する剛性をきわめて大きくできることが確認された。
【0055】
図27〜図30に別の実施の形態を示す。基本的な構造は前記図13〜図16に示したものと同様であるが、図13〜図16に示したものが中間台1と床6との間にばね5、あるいはばね5および減衰装置19が配設され、かつ中間台1と除振テーブル2との間にアクチュエータ25、あるいはアクチュエータ25とばね30および減衰装置31が配設されていたのに対して、図27〜図30に示したものでは、中間台1を支持する機構と除振テーブル2を支持する機構とを交換した形態が採用されたものである。つまり、図27〜図30に示したものでは、床6と中間台1との間にて、アクチュエータと制御装置からなる負のばね特性を付与して床から中間台1に伝わる振動を絶縁するように構成されている。このように構成することによって、変位センサ27、制御回路28、電力増幅器29およびアクチュエータ25からなる制御装置26の制御が静止側である床6との間にて行えるので、配線等の取りまわし等が簡素化される。
【0056】
以上、本発明の除振方法およびその装置の実施の形態を説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、中間台および除振テーブルの形状、形式、電磁石および永久磁石の形状、形式およびそれらの配設形態(電磁石を中間台あるいは除振テーブルに設置するか、永久磁石を除振テーブルあるいは中間台に設置するか、永久磁石に加えて強磁性体を併設するか、もしくは永久磁石を電磁石の鉄心に組み込んで除振テーブルあるいは中間台のいずれか一方にのみ設置し、他方には強磁性体を設置するように構成してもよい)、アクチュエータ、ばねおよび減衰装置の形状、形式およびその中間台への配設形態(床と中間台との間にはばねに加えて適宜の減衰装置を併設してもよい)、ゼロパワー制御手段、アクチュエータの制御手段(変位センサの種類、制御回路の形式、電力増幅形態およびそれらによるアクチュエータの制御形態)、除振の方向(前述の各実施の形態では、主として垂直方向の除振について説明したが、水平方向の除振、あるいは垂直方向および水平方向を同時に除振するように構成できることは言うまでもない。)等については適宜選定できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、車両用の加速度センサに利用できる。さらに自動車用に限定することなく、広く産業上における加速度を検出する必要のある箇所で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の除振方法およびその装置のゼロパワー特性を有する磁気浮上機構を用いた第1実施の形態を示す説明図である。
【図2】同、第1実施の形態の変形例を示す図である。
【図3】本発明で使用されるゼロパワー制御系の特徴の説明図である。
【図4】ばね系とゼロパワー制御系の動作比較図である。
【図5】本発明の除振方法およびその装置の基礎実験装置を示す図である。
【図6】ゼロパワー磁気浮上系の負のばね特性の実験結果図である。
【図7】除振テーブルの床に対する変位の実験結果図である。
【図8】本発明の除振方法およびその装置の第2実施の形態を示す説明図である。
【図9】本発明の除振方法およびその装置の第3実施の形態を示す説明図である。
【図10】本発明の除振方法およびその装置の第4実施の形態を示す説明図である。
【図11】従来のばね系の除振システム図である。
【図12】従来のアクティブ除振装置の説明図である。
【図13】本発明の除振方法およびその装置のアクチュエータと制御装置を用いた負のばね特性を有する支持機構を用いた第5実施の形態を示す説明図である。
【図14】本発明の除振方法およびその装置の第6実施の形態を示す説明図である。
【図15】本発明の除振方法およびその装置の第7実施の形態を示す説明図である。
【図16】本発明の除振方法およびその装置の第8実施の形態を示す説明図である。
【図17】正のばね特性の説明図である。
【図18】負のばね特性の説明図である。
【図19】ばねと減衰装置を併設したアクチュエータによる負のばね特性挙動図である。
【図20】除振装置の直動外乱に対する応答図である。
【図21】アクチュエータを用いた負のばね特性を実現する制御方法の説明図である。
【図22】アクチュエータとしてボイスコイルモータを用いた力学的モデル図である。
【図23】図16の除振装置の力学的モデル図である。
【図24】負のばね特性を有する支持機構の基礎実験装置図である。
【図25】荷重とテーブルの変位との関係図である。
【図26】テーブルと中間台の変位図である。
【図27】本発明の除振方法およびその装置の第9実施の形態を示す説明図である。
【図28】本発明の除振方法およびその装置の第10実施の形態を示す説明図である。
【図29】本発明の除振方法およびその装置の第11実施の形態を示す説明図である。
【図30】本発明の除振方法およびその装置の第12実施の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 中間台(第1部材)
2 除振テーブル(第2部材)
3 永久磁石
4 電磁石
5 ばね
6 床
7 強磁性体
19 減衰装置
25 アクチュエータ
26 制御装置
27 変位センサ
28 制御回路
29 電力増幅器
30 ばね
31 減衰装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床と第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と負荷を載置する第2部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法。
【請求項2】
床から立設した支柱と第1部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与して前記支柱から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材に対向して配置した第2部材と、前記第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法。
【請求項3】
前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の除振方法。
【請求項4】
床と、所定の正のばね定数を有するばねと、そのばねによって前記床上に支持される第1部材と、該第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材とを備え、前記第1部材と第2部材との間には、アクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置。
【請求項5】
床に立設した支柱と、前記支柱に対向して配置した第1部材と、前記第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材と、前記第1部材と第2部材との間に配置される正のばね定数を有するばねとを備え、前記支柱と第1部材との間にはアクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置。
【請求項6】
前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする請求項4または5に記載の除振装置。
【請求項7】
前記ばねと併設して所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の除振装置。
【請求項8】
前記アクチュエータと併設して所定のばね定数のばねおよび所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の除振装置。
【請求項9】
前記アクチュエータの伸びを荷重の増減に応じて増減させるように構成したことを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の除振装置。
【請求項10】
前記アクチュエータがボイスコイルモータ、リニアモータ、空気圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等のリニアアクチュエータであり、前記制御装置が変位センサおよび制御回路ならびに電力増幅器から構成されたことを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の除振装置。
【請求項1】
床と第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設して床から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材と負荷を載置する第2部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与し、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法。
【請求項2】
床から立設した支柱と第1部材との間に、アクチュエータと制御装置から構成される支持機構により負のばね特性を付与して前記支柱から第1部材に伝わる振動を絶縁するとともに、前記第1部材に対向して配置した第2部材と、前記第1部材との間に所定の正のばね特性を有するばねを配設することによって、前記第1部材から第2部材に伝わる振動を絶縁することを特徴とする除振方法。
【請求項3】
前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の除振方法。
【請求項4】
床と、所定の正のばね定数を有するばねと、そのばねによって前記床上に支持される第1部材と、該第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材とを備え、前記第1部材と第2部材との間には、アクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置。
【請求項5】
床に立設した支柱と、前記支柱に対向して配置した第1部材と、前記第1部材に対して対向して配置され負荷を載置するための第2部材と、前記第1部材と第2部材との間に配置される正のばね定数を有するばねとを備え、前記支柱と第1部材との間にはアクチュエータと制御装置から構成される負のばね特性を有する支持機構を配置したことを特徴とする除振装置。
【請求項6】
前記第1部材は中間部材であり、前記第2部材は除振テーブルであることを特徴とする請求項4または5に記載の除振装置。
【請求項7】
前記ばねと併設して所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の除振装置。
【請求項8】
前記アクチュエータと併設して所定のばね定数のばねおよび所定の減衰率の減衰装置を設置したことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の除振装置。
【請求項9】
前記アクチュエータの伸びを荷重の増減に応じて増減させるように構成したことを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の除振装置。
【請求項10】
前記アクチュエータがボイスコイルモータ、リニアモータ、空気圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等のリニアアクチュエータであり、前記制御装置が変位センサおよび制御回路ならびに電力増幅器から構成されたことを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の除振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2007−107722(P2007−107722A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331501(P2006−331501)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【分割の表示】特願2001−89264(P2001−89264)の分割
【原出願日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【分割の表示】特願2001−89264(P2001−89264)の分割
【原出願日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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