説明

除染方法および除染装置

【課題】放射性物質を含む酸化皮膜が形成された系統配管等の配管・機器の除染効果が高く、除染工期を短縮することができる除染方法および除染装置を提供すること。
【解決手段】除染装置10は、放射性物質を含む酸化皮膜からなる除去対象酸化皮膜が表面に付着された金属製の除染対象部位3に、化学除染処理系統から供給した化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により除去対象酸化皮膜を除去する除染装置であって、化学除染処理系統20は、除染対象部位3に化学除染処理液を供給する除染処理液配管21と、除染処理液配管21に化学除染処理液を供給する薬液タンク30と、薬液タンク30内の化学除染処理液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生装置40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントや放射性物質取扱施設の配管・機器等の放射線量を低減するため、配管等の金属材表面に生成した金属酸化皮膜を除去する除染方法、および除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントや放射性物質取扱施設等の配管・機器の一部は、機器や配管を構成する金属材の表面に、ヘマタイト、酸化クロム、ニッケルフェライト(NiFe)等からなる放射性物質を含む酸化皮膜が付着して放射能汚染される。この酸化皮膜が付着した金属材については、金属材の表面から酸化皮膜を除去する除染処理が必要である。
【0003】
効率的な除染処理方法としては、たとえば、研磨材の噴射、水の流動、水中でのキャビテーション、マイクロバブル等を用いる物理的手法(物理除染)や、薬剤を用いる化学的手法(化学除染)、または化学的手法と物理的手法とを併用する方法が多数提案されている。また、化学除染法としては、酸化剤を用いた酸化除染、還元剤を用いた還元除染や、酸化除染と還元除染とを行う酸化還元除染が知られている。
【0004】
物理除染方法のうち水流や蒸気流を利用する方法としては、例えば、特許文献1(特開2000−75095号公報)に、蒸気を媒体として研磨材を除染対象物に噴射して汚染された酸化皮膜を研削除去する除染法が記載されている。また、特許文献2(特開2002−116295号公報)には、ウォータージェットによる物理除染と薬剤による化学除染とを併用して汚染された酸化皮膜を除去する除染法が記載されている。さらに、特許文献3(特許第4302097号公報)には、水を媒体としたキャビテーションジェットとその流れに研磨材を供給することで汚染された酸化皮膜を剥離する方法が記載されている。なお、特許文献2および3に記載された発明は、水の流動による効果に加えキャビテーションの効果をも利用するものである。
【0005】
物理除染方法のうちキャビテーションを利用する方法としては、例えば、特許文献4(特開2008−62162号公報)に、超音波により水中にキャビテーションを生じさせて接液表面を洗浄する方法が記載されている。また、特許文献5(特開2005−351771号公報)には、除染を目的としないが、超音波により流体中にキャビテーションを発生させる方法が記載されている。
【0006】
化学除染方法のうちオゾンによる酸化除染方法としては、例えば、特許文献6(特開2007−309864号公報)に、オゾンのマイクロバブルを含んだ液体を除染対象物に接触させる除染方法が記載されている。また、特許文献7(特開2009−125684号公報)には、オゾンマイクロバブルを用いた原子力発電所の除染工程水の水処理技術が開示されている。なお、特許文献6および7に記載された発明は、マイクロバブルを用いているが、明細書中の記載より、マイクロバブルを利用した物理除染方法ではなく、オゾンを利用した酸化除染方法であると判断される。
【0007】
近年、原子力発電プラントの系統配管では、化学除染が頻繁に実施されている。ところが、原子力発電プラントで用いられる水質や除染対象物の材質の種類によっては、配管や機器の表面に生成する酸化皮膜が、例えば、ニッケルフェライト(NiFe)等の化学的に溶解し難いものになる場合がある。このような難溶性の酸化皮膜については、化学除染方法単独で除染しても除染効率が悪く、除染工期が長くなる。このため、化学除染方法と物理除染方法とを併用することにより、除染を効率化することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−75095号公報
【特許文献2】特開2002−116295号公報
【特許文献3】特許第4302097号公報
【特許文献4】特開2008−62162号公報
【特許文献5】特開2005−351771号公報
【特許文献6】特開2007−309864号公報
【特許文献7】特開2009−125684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、物理除染法として、上記特許文献1〜6に示された方法を用いると、配管内に挿入することが困難な機器、噴射ノズルや超音波振動子等を用いるため、一次冷却系統の配管の除染には適用が難しいという課題がある。
【0010】
たとえば、特許文献2に記載されたウォータージェットの噴射ノズルでは、配管内にノズルを挿入する作業が熟練を要する上、複雑な配管構成には対応できず、またノズル挿入口を確保できないプラントには適用できない。
【0011】
また、特許文献4や5に記載されたキャビテーション発生装置は、配管外部から超音波によって流体中にキャビテーションを発生させるものである。特許文献4や5に記載されたキャビテーション発生装置において、キャビテーションを効率よく発生させるためには、複数の発生器を設置したり配管厚と複合共振する材料を設置したりする等の工夫が必要であることから、系統配管全体を満たす除染液体にキャビテーションを発生させることは困難である。
【0012】
本発明は上記課題を解決するものであり、放射性物質を含む酸化皮膜が形成された系統配管等の配管・機器の除染効果が高く、除染工期を短縮することができる除染方法および除染装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、放射性物質を含む酸化皮膜が形成された系統配管等の配管・機器の化学除染時に微小気泡を流体全体に供給すると、除染効果が高いために除染工期を短縮することができることを見出してなされたものである。
【0014】
すなわち、本発明の除染方法は、上記課題を解決するためのものであり、放射性物質を含む酸化皮膜からなり金属材の表面に付着した除去対象酸化皮膜に、化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により前記除去対象酸化皮膜を除去する除染方法において、前記化学除染処理は、除染剤を含む化学除染処理液で前記除去対象酸化皮膜を除染処理する除染工程と、この除染工程後の化学除染処理液中の除染剤を分解する除染剤分解工程と、この除染剤分解工程後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する浄化工程とを有する処理であり、前記除染工程、除染剤分解工程、および浄化工程から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の除染装置は、上記課題を解決するためのものであり、放射性物質を含む酸化皮膜からなる除去対象酸化皮膜が表面に付着された金属製の除染対象部位に、化学除染処理系統から供給した化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により前記除去対象酸化皮膜を除去する除染装置であって、前記化学除染処理系統は、前記除染対象部位に化学除染処理液を供給する除染処理液配管と、この除染処理液配管に化学除染処理液を供給する薬液タンクと、この薬液タンク内の化学除染処理液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の除染方法および除染装置によれば、放射性物質を含む酸化皮膜が形成された系統配管等の配管・機器の除染効果が高く、除染工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る除染装置の第1の実施形態を示す概略構成図。
【図2】本発明に係る除染方法の工程の一例を示す流れ図。
【図3】超音波振動によるキャビテーションで水中に発生した気泡による破壊力の水温による影響を示すグラフ。
【図4】化学除染処理液のpHと、金属酸化物および微小気泡のゼータ電位との関係を示すグラフ。
【図5】微小気泡が除去対象酸化皮膜のゼータ電位と反対の符号の電荷を有する状態における、微小気泡による除染の作用を模式的に示す説明図。
【図6】微小気泡の有無による除染効果の差異を示すグラフ。
【図7】本発明に係る除染装置の第2の実施形態を示す概略構成図。
【図8】本発明に係る除染装置の第2の実施形態で発生させた微小気泡の気泡径の分布を示すグラフ。
【図9】本発明に係る除染装置の第3の実施形態を示す概略構成図。
【図10】本発明に係る除染装置の第3の実施形態に用いられる微小気泡発生装置を模式的に示す断面図。
【図11】本発明に係る除染装置の第3の実施形態で発生させた微小気泡の気泡径の分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る除染装置および除染方法について説明する。
【0019】
[除染装置]
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る除染装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。図1に示す除染装置10は、沸騰水型原子炉(BWR)を有する原子力発電プラント1の原子炉冷却材再循環系統3を除染処理する除染装置である。
【0020】
本実施形態において除染対象部位である原子炉冷却材再循環系統3は、原子力発電プラント1の通常運転時に冷却材が循環する系統であり、原子炉再循環系配管4とこの原子炉再循環系配管4の途中に設けられる再循環ポンプ5等とを含む。
【0021】
なお、本実施形態では、沸騰水型原子炉(BWR)を有する原子力発電プラント1の原子炉冷却材再循環系統3を除染処理する除染装置の例を示したが、本発明では、原子力発電プラント1として、図示しない加圧水型原子炉(PWR)を有する原子力発電プラントの一次系統を除染処理する除染装置としてもよい。
【0022】
原子炉再循環系配管4は、再循環ポンプ5の出口(デリベリ)側から略垂直方向に延設されて再循環ポンプ5からの冷却材を上方に移送するPLR(Primary Loop Re-circulation System:一次冷却材再循環系)垂直管6と、PLR垂直管6の上方端に連通してPLR垂直管6の上方に位置しかつ図示しない原子炉圧力容器の周囲に略水平な環状に設置されるPLR水平管7と、このPLR水平管7の管壁に連通するとともに上方に延設されるPLRライザー管8とを有する。また、PLR垂直管6の途中には、除染装置10から化学除染処理液が供給される枝管9が設けられる。
【0023】
除染対象部位である原子炉冷却材再循環系統3を構成する、原子炉再循環系配管4や図示しない機器は、冷却材に接液する部分が、通常、低炭素ステンレス鋼等の金属からなる金属材で構成されている。
【0024】
これらの金属材は、原子力発電プラント1の冷却材に接液すること等により、表面にヘマタイト、酸化クロム、ニッケルフェライト(NiFe)等からなる腐食性酸化物が生じる。この腐食性酸化物は、剥離すると冷却材とともに移動して炉心等に到達し、放射化されて放射性酸化物になることがある。そして、この放射性酸化物は冷却材とともに原子炉冷却材再循環系統3を循環し、原子炉冷却材再循環系統3の金属材の表面に再び付着して放射性物質を含む酸化皮膜となる。
【0025】
この放射性物質を含む酸化皮膜は、腐食性酸化物と同様に、通常、ヘマタイト、酸化クロム、ニッケルフェライト(NiFe)等からなる。なお、ニッケルフェライト(NiFe)は従来の化学除染で除染しにくい難溶性の酸化物である。
【0026】
本発明では、このような酸化皮膜、すなわち除染対象部位である金属材の表面に付着した放射性物質を含む酸化皮膜を、除去対象酸化皮膜という。除染装置10は、除染対象部位である原子炉冷却材再循環系統3の除去対象酸化皮膜を除去する装置である。
【0027】
本発明において、除染装置10から枝管9に供給される化学除染処理液とは、除染装置10から除染対象部位としての原子炉冷却材再循環系統3に供給される液体を意味する。なお、除染装置10から除染対象部位3に供給される液体の組成は、除染工程、除染剤分解工程、および浄化工程等の除染作業の状況により変化するため、除染装置10の化学除染処理液の組成は一定ではない。
【0028】
具体的には、化学除染処理液は、冷却材と同様の純水や、純水中に除染剤が含まれる水溶液や、化学的に分解された除染剤や除染対象部位としての原子炉冷却材再循環系統3から剥離した金属のイオンが純水中に含まれた水溶液等である。
化学除染処理液中に含まれる除染剤としては、たとえば、シュウ酸等の還元除染剤や、オゾンガス、過マンガン酸塩等の酸化除染剤が挙げられる。
【0029】
除染装置10は、放射性物質を含む酸化皮膜からなる除去対象酸化皮膜が表面に付着された金属製の除染対象部位としての原子炉冷却材再循環系統3に、化学除染処理系統20から供給した化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により前記除去対象酸化皮膜を除去する除染装置である。
【0030】
除染装置10の化学除染処理系統20は、除染対象部位3に化学除染処理液を供給する除染処理液配管としての除染処理液主循環ライン21と、この除染処理液主循環ライン21に化学除染処理液を供給する薬液タンク30と、この薬液タンク30内の化学除染処理液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生装置40と、を備える。
【0031】
また、化学除染処理系統20は、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中にミキサ51を用いてオゾンを供給するオゾン発生器50と、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中の除染剤を分解する除染剤分解装置62と、化学除染処理液中のカチオン性の不純物イオンを吸着して除去するカチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)63と、化学除染処理液中のアニオン性の不純物イオンを吸着して除去するアニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)64と、をさらに備える。
【0032】
除染処理液主循環ライン21は、一方端が原子炉再循環系配管4の枝管9に接続されるとともに、他方端が原子炉再循環系配管4の除染液排出口93に接続される。また、除染処理液主循環ライン21には、除染処理液主循環ライン21内を流通する化学除染処理液を送液する化学除染処理液循環ポンプ22が設けられる。これにより、原子力発電プラント1では、除染処理液主循環ライン21と原子炉再循環系配管4の一部との間で化学除染処理液がループ状に循環可能になっている。
【0033】
<薬液タンク>
薬液タンク30は、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中に除染剤を供給するためのタンクである。
【0034】
薬液タンク30は、除染処理液主循環ライン21の一部をバイパスして除染処理液主循環ライン21に再び合流する薬液ライン31の途中に設けられる。薬液ライン31の途中には、薬液タンク30から排出された化学除染処理液を除染処理液主循環ライン21に送液する薬液ラインポンプ32が設けられる。これにより、除染装置10では、除染処理液主循環ライン21中を流通する化学除染処理液と別に、薬液タンク30で化学除染処理液を調製可能になっている。
【0035】
また、薬液タンク30には、薬液タンク30中の化学除染処理液(薬液)を一旦取り出して薬液タンク30中に戻す薬液加熱ライン35と、この薬液加熱ライン35中の化学除染処理液を加熱するヒータ33と、薬液加熱ライン35中の化学除染処理液を薬液タンク30に送液する薬液加熱ラインポンプ34とが設けられる。ヒータ33により、除染装置10では、薬液加熱ライン35中の化学除染処理液の温度調整が容易になっている。
【0036】
薬液タンク30では、通常、薬液タンク30中に新たに装入された溶液に、または除染処理液主循環ライン21から導入された化学除染処理液に、除染剤等の薬剤が添加されて薬液が調製される。薬液タンク30で添加される薬液としては、たとえば、シュウ酸またはこの水溶液等の還元剤、過マンガン酸塩またはこの水溶液等の酸化剤が挙げられる。
【0037】
なお、薬液タンク30では、常に薬液が調製される必要はない。たとえば、薬液タンク30は、除染処理液主循環ライン21から導入された化学除染処理液に、薬剤を添加せずに、微小気泡を含ませるためだけの目的でも使用される。
【0038】
<微小気泡発生装置>
微小気泡発生装置40は、薬液タンク30内の化学除染処理液中に微小気泡を発生させる装置である。微小気泡発生装置40は、薬液タンク30中の化学除染処理液を取り出して再び薬液タンク30に戻す薬液循環ライン41に設けられる。
【0039】
なお、図1に示される微小気泡発生装置40は、微小気泡発生装置40が薬液循環ライン41の途中にのみ設けられる例であるが、本発明で用いられる微小気泡発生装置40は、薬液循環ライン41の途中にのみ設けられるものに限られない。たとえば、微小気泡発生装置40は、薬液タンク30内にのみ設けられるものであってもよいし、薬液循環ライン41の途中と薬液タンク30内との両方に設けられた複数の装置が協働するものであってもよい。
【0040】
本発明において微小気泡とは、化学除染処理液中において、圧壊現象、すなわち気泡径が時間の経過とともに縮小して最後にゼロになり気泡が消滅する現象を生じる気泡を意味する。
【0041】
化学除染処理液中において気泡が圧壊現象を生じるためには気泡径が所定の値以下である必要があると言われている。この圧壊現象を生じる気泡径の上限値は限界気泡径と称され、限界気泡径は65μm程度と言われている。このため、微小気泡とは、気泡径が最大であるときの気泡径が、通常65μm以下の気泡である。
【0042】
微小気泡は気泡径が小さいほど圧壊現象による気泡消滅時のエネルギーが大きくなりこの結果除染効率が高くなると考えられている。このため、微小気泡は、気泡径が最大であるときの気泡径が、65μmよりも小さくなるほど好ましい。微小気泡の気泡径は、好ましくは56μm以下、さらに好ましくは10μm〜50μm、より好ましくは10μm〜30μmである。
【0043】
圧壊現象について説明する。圧壊現象では、微小気泡は、気泡の縮小により気泡内の圧力は急上昇すると共に、断熱圧縮的な作用により気泡内の温度が急激に高くなると言われている。この結果、微小気泡の気泡消滅時には気泡消滅部分に微視的に数千度かつ数千気圧の領域が生じ、この数千度かつ数千気圧の領域は、周囲の媒体に強い衝撃力を生じさせると言われている。除染装置10は、この強い衝撃力を利用して、除染対象部位である原子炉冷却材再循環系統3の表面の除去対象酸化皮膜を剥離して除去するものである。
【0044】
なお、本発明の微小気泡の圧壊現象によって周囲の媒体に強い衝撃力を生じさせる現象は、超音波振動によるキャビテーションの発生、崩壊と同じ現象であると考えられる。ところで、汎用的な低周波45kHzの超音波振動によるキャビテーションで発生した気泡の気泡径は30〜50μm程度である。本発明の微小気泡発生装置40の発生する微小気泡の気泡径は、通常65μm以下、好ましくは56μm以下、さらに好ましくは10μm〜50μm、より好ましくは10μm〜30μmであるから、気泡径が30μm未満である微小気泡を用いた場合は、超音波振動によるキャビテーションで発生した気泡を用いる場合よりも、気泡による物理除染の効果が高くなると推測される。
【0045】
また、微小気泡は、一般的に気泡径が小さいほど液中の気泡の上昇速度が小さくなる。たとえば、微小気泡の気泡径が10μm〜数十μmである場合、微小気泡の上昇速度は3mm/分程度と非常に小さくなる。
【0046】
ところで、原子力発電プラント1が沸騰水型原子炉を有する原子力発電プラントである場合、原子炉冷却材再循環系統3の系統除染の際の化学除染処理液の系統内滞留時間は通常10分程度である。このため、気泡径が10μm〜数十μmの微小気泡を含む化学除染処理液を用いて除染すると、系統内滞留時間である10分間の微小気泡の上昇速度は3cm程度になる。
【0047】
原子炉冷却材再循環系統3の原子炉再循環系配管4、PLR垂直管6、PLR水平管7、PLRライザー管8等の配管の配管径は、通常50cm程度である。このため、気泡径が10μm〜数十μmの微小気泡を含む化学除染処理液を用いて原子炉冷却材再循環系統3の配管を除染する場合には、微小気泡の大部分を化学除染処理液中に保持したままで、化学除染処理液を原子炉冷却材再循環系統3の配管に滞留させることが可能になり、原子炉冷却材再循環系統3全体の内表面に付着した除去対象酸化皮膜が効率的に除染される。
【0048】
微小気泡発生装置40において、微小気泡を形成するために用いられる気体としては、特に限定されず、たとえば、空気、酸素、窒素等の安価な気体が用いられる。なお、微小気泡を形成するために用いられる気体として酸素を用いると、酸素が酸化剤であるため、微小気泡を酸化性の除染剤として作用させることもできる。
【0049】
微小気泡発生装置40としては、薬液タンク30内の化学除染処理液中に微小気泡を発生させることができる装置であればよく、特に限定されないが、たとえば、加圧式微小気泡発生装置、旋回流型微小気泡発生装置等が用いられる。
【0050】
ここで加圧式微小気泡発生装置とは、気体を加圧することにより化学除染処理液中に気体を過飽和に溶解させた後、この化学除染処理液に加わる圧力を低下させることにより、化学除染処理液中に微小気泡を発生させる装置である。
【0051】
また旋回流型微小気泡発生装置とは、化学除染処理液と気体とで化学除染処理液と気体との二相旋回流を形成し、この二相旋回流を流速の遅い化学除染処理液中に放出することにより、高速旋回した気体に剪断力を付与して化学除染処理液中に微小気泡を発生させる装置である。
【0052】
微小気泡発生装置40の具体例である加圧式微小気泡発生装置および旋回流型微小気泡発生装置等は、後の実施形態において加圧式微小気泡発生装置40Aおよび旋回流型微小気泡発生装置等40Bとして詳述する。
【0053】
<オゾン発生器>
オゾン発生器50は、酸化除染剤としてのオゾンを発生し、除染処理液主循環ライン21の途中に設けられたミキサ51を用いて除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中にオゾンを供給する装置である。
【0054】
オゾン発生器50は、オゾン供給ライン52を介して除染処理液主循環ライン21の途中に設けられたミキサ51に接続される。ミキサ51に導入されたオゾンは、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液と混合され、化学除染処理液中に含まれる。
オゾンは酸化剤であり、化学除染処理液中に含まれたオゾンは酸化性の除染剤として機能する。
【0055】
<除染剤分解装置>
除染剤分解装置62は、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中に含まれた除染剤を分解する装置である。
【0056】
除染剤分解装置62は、除染処理液主循環ライン21の一部をバイパスして除染処理液主循環ライン21に再び合流する除染剤分解・イオン交換ライン61の途中に設けられる。除染剤分解・イオン交換ライン61により、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液の一部または全部が除染剤分解・イオン交換ライン61に送液されることが可能になっている。
【0057】
また、除染剤分解・イオン交換ライン61の途中には、除染剤分解・イオン交換ライン61中の化学除染処理液を除染処理液主循環ライン21に送液する除染剤分解・イオン交換ラインポンプ65が設けられる。
除染剤分解装置62としては、たとえば、紫外線照射装置、過酸化水素水注入装置、またはこれらを組み合わせた装置等が挙げられる。
除染剤分解装置62が紫外線照射装置である場合、たとえば、シュウ酸等の還元剤からなる除染剤を分解することができる。
【0058】
<カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)>
カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)63は、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中に含まれたカチオン性の不純物イオンを吸着して除去する装置である。カチオン交換樹脂塔63に充填されるカチオン交換樹脂としては、公知のカチオン交換樹脂を用いることができる。
【0059】
化学除染処理液中に含まれ、カチオン交換樹脂塔63で吸着・除去されるカチオン性の不純物イオンとしては、たとえば、除去対象酸化皮膜が化学除染により分解された、鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+等の金属イオンが挙げられる。
【0060】
<アニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)>
アニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)64は、除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中に含まれたアニオン性の不純物イオンを吸着して除去する装置である。アニオン交換樹脂塔64に充填されるアニオン交換樹脂としては、公知のアニオン交換樹脂を用いることができる。
【0061】
化学除染処理液中に含まれ、アニオン交換樹脂塔64で吸着・除去されるアニオン性の不純物イオンとしては、たとえば、酸化工程で生成される酸化クロムが酸化溶解した二クロム酸イオンCr2−、除染剤であるシュウ酸イオンC2−、シュウ酸が分解されてなる炭酸イオンCO2−等が挙げられる。
【0062】
<作用>
次に、図2を参照して除染装置10の作用について説明する。
【0063】
図2は、除染装置10を用いた本発明に係る除染方法の工程の一例を示す流れ図である。
【0064】
図2に示す除染方法は、放射性物質を含む酸化皮膜からなり、原子力発電プラント1の原子炉冷却材再循環系統3を構成する金属材の表面に付着した除去対象酸化皮膜に、化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により除去対象酸化皮膜を除去する除染方法である。
【0065】
図2に示す除染方法の化学除染処理は、複数のステップからなる第1化学除染処理部分(ステップ群S100)と、この第1化学除染処理部分(S100)の後に行い複数のステップからなる第2化学除染処理部分(ステップ群S200)と、この第2化学除染処理部分(S200)の後に行う最終浄化工程(ステップS301)とを含む処理である。
【0066】
この第1化学除染処理部分(ステップ群S100)と、第2化学除染処理部分(ステップ群S200)と、最終浄化工程(ステップS301)とは、この順番で行われる。また、第2化学除染処理部分(ステップ群S200)は、最終浄化工程(ステップS301)の前に、1回または2回以上繰り返して行われる。たとえば、第1化学除染処理部分(ステップ群S100)と、最終浄化工程(ステップS301)との間において、第2化学除染処理部分(ステップ群S200)を1回だけ行ってもよいし2回以上繰り返して行ってもよい。第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の繰り返し回数は、除染の具合等の事情に応じて適宜行う。
【0067】
[第1化学除染処理部分]
第1化学除染処理部分(ステップ群S100)は、還元剤を含む化学除染処理液を用いて除去対象酸化皮膜を還元除染処理する第1還元工程(ステップS101)と、この第1還元工程後の化学除染処理液中の還元剤を分解する第1還元剤分解工程(ステップS102)と、この第1還元剤分解工程後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する第1浄化工程(ステップS103)とを有する処理である。
【0068】
(第1還元工程)
第1還元工程(ステップS101)は、還元剤を含む化学除染処理液を用いて除去対象酸化皮膜を還元除染処理する工程である。
【0069】
本工程で用いられる還元剤としては、たとえば、シュウ酸が挙げられる。還元剤は、たとえば、薬液タンク30内に貯留された化学除染処理液、または薬液タンク30内に新たに装入された水等に添加されることにより、薬液タンク30内で還元剤を含む化学除染処理液が調製される。この還元剤を含む化学除染処理液としては、たとえば、純水にシュウ酸を溶解したシュウ酸水溶液が挙げられる。
【0070】
本工程の化学除染処理液の温度は、除去対象酸化皮膜の溶解性を高めるために、通常80℃〜100℃の高温に調整される。
本工程の化学除染処理液の温度の調節は、通常、ヒータ33の加熱の制御により行われる。
【0071】
本工程の化学除染処理液のpHは、通常1〜3、好ましくは1.5〜2.5程度である。
【0072】
薬液タンク30内で調製された還元剤を含む化学除染処理液は、除染処理液主循環ライン21を介して原子炉冷却材再循環系統3に供給され、原子炉冷却材再循環系統3の金属材の除去対象酸化皮膜を還元除染処理する。
【0073】
具体的には、原子炉再循環系配管4のバルブ91を閉塞しバルブ92を開放した後、薬液タンク30内の還元剤を含む化学除染処理液は、薬液ラインポンプ32で除染処理液主循環ライン21に送液され、さらに化学除染処理液循環ポンプ22で原子炉再循環系配管4の枝管9に供給する。
【0074】
枝管9から原子炉再循環系配管4に供給された還元剤を含む化学除染処理液は、たとえば、原子炉再循環系配管4、再循環ポンプ5、PLR垂直管6、PLR水平管7、およびPLRライザー管8内に満たされる。そして、これら原子炉再循環系配管4等の金属材の表面に付着した除去対象酸化皮膜は、還元剤を含む化学除染処理液に接液して除染される。
【0075】
この際に、図1に示すバルブ92を開放し、薬液ラインポンプ32および化学除染処理液循環ポンプ22を稼働させておくと、除染処理液主循環ライン21と原子炉再循環系配管4の一部との間で化学除染処理液がループ状に循環可能になる。
【0076】
除去対象酸化皮膜は、たとえば、放射性物質を含む、ヘマタイト、酸化クロム、ニッケルフェライト(NiFe)等からなる。除去対象酸化皮膜のうちのたとえばヘマタイトやニッケルフェライト(NiFe)は、還元剤を含む化学除染処理液に接液して除染されると、溶解して、たとえば、鉄イオンFe2+、Fe3+やニッケルイオンNi2+が溶出する。また、除染時に除去対象酸化皮膜中に取り込まれている放射性のコバルトイオンCo2+も溶出する。この溶出した鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+やニッケルイオンNi2+は、本工程を経た化学除染処理液中に不純物イオンとして含まれる。
【0077】
本工程後(第1還元工程)の化学除染処理液は、通常、放射性の、鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+等の不純物イオンを含む。また、本工程後の化学除染処理液は、残存した還元剤を含むことがある。
【0078】
本工程を終えた化学除染処理液は、原子炉冷却材再循環系統3の原子炉再循環系配管4から除染処理液主循環ライン21に戻される。なお、本工程を終えた化学除染処理液は、必要により、原子炉冷却材再循環系統3の原子炉再循環系配管4の一部と、除染処理液主循環ライン21との間でループ状に循環させてもよい。
【0079】
なお、本工程後は、以下に示す工程を行う。この際に、薬液ラインポンプ32および化学除染処理液循環ポンプ22を停止させて、原子炉冷却材再循環系統3から化学除染処理液を抜液してもよいが、化学除染処理液循環ポンプ22を稼働させ続けることにより化学除染処理液を抜液しなくてもよい。具体的には、化学除染処理液循環ポンプ22を稼働させて、化学除染処理液を、除染処理液主循環ライン21と原子炉冷却材再循環系統3との間でループ状に循環させることにより、原子炉冷却材再循環系統3中に化学除染処理液を満たしたまま、以下に示す工程を行うことが可能である。
【0080】
(第1還元剤分解工程)
第1還元剤分解工程(ステップS102)は、第1還元工程後の化学除染処理液中の還元剤を分解する工程である。
【0081】
化学除染処理液中の還元剤の分解方法としては、たとえば、紫外線照射装置である除染剤分解装置62を用いて、除染剤分解・イオン交換ライン61中の還元剤を含む化学除染処理液に紫外線を照射する方法が挙げられる。たとえば、還元剤を含む化学除染処理液がシュウ酸水溶液である場合、シュウ酸またはシュウ酸イオンは紫外線により分解されて二酸化炭素を生成する。
本工程の化学除染処理液の温度は、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃である。
【0082】
本工程での化学除染処理液中の還元剤の分解には、第1還元工程(ステップS101)のような化学除染処理液の高温が不要である。また、化学除染処理液の温度が低いほうが、本工程の次工程である第1浄化工程(ステップS103)での化学除染処理液のイオン交換効率が向上する。これらの観点からは、本工程の化学除染処理液の温度は、低いことが好ましい。
【0083】
一方で、本工程の後工程である第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)や第2還元工程(ステップS202)においては、除去対象酸化皮膜の溶解性を高くするために、化学除染処理液の温度は高いことが好ましい。このため、本工程の化学除染処理液の温度は、第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)や第2還元工程(ステップS202)での再加熱を速やかかつ効率的に行うために、ある程度高いことが好ましい。
【0084】
以上の事情から、本工程では、化学除染処理液の温度を、第1還元工程(ステップS101)の化学除染処理液よりもやや低めの温度である、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃としている。
【0085】
なお、本工程の化学除染処理液の温度は、たとえば、ヒータ33での加熱を行わないことにより容易に上記の温度範囲にすることができる。すなわち、本工程でヒータ33での加熱を行わないと、化学除染処理液の温度は、第1還元工程の通常80℃〜100℃の高温から自然に低下して、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃になる。
【0086】
本工程の化学除染処理液のpHは、通常4以上、好ましくは4〜8である。
【0087】
本工程を経た化学除染処理液は、還元剤を実質的に含まないが、通常、放射性の、鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+等の不純物イオンを含む。本工程を終えた化学除染処理液は、除染剤分解装置62から排出される。
【0088】
除染剤分解装置62から排出された化学除染処理液は、通常、カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)63やアニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)64に通水される。カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)63やアニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)64では、第1浄化工程が行われる。
【0089】
(第1浄化工程)
第1浄化工程(ステップS103)は、第1還元剤分解工程後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する工程である。
【0090】
本工程で用いられる第1還元剤分解工程後の化学除染処理液は、具体的には、除染剤分解装置62から排出された化学除染処理液は、通常、除去対象酸化皮膜に由来する鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+やニッケルイオンNi2+等のカチオン性の不純物イオン(不純物カチオン)を含む。また、第1還元剤分解工程後の化学除染処理液は、第1還元工程(ステップS101)で用いられた還元剤に由来するシュウ酸イオンC2−等のアニオン性の不純物イオン(不純物アニオン)を含む場合がある。
【0091】
この不純物イオンを含む化学除染処理液は、カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)63やアニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)64に通水されることにより、不純物イオンが除去される。
【0092】
具体的には、化学除染処理液が鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+等の不純物カチオンを含む場合には、化学除染処理液をカチオン交換樹脂塔63に通水すると、化学除染処理液中の不純物カチオンがイオン交換により除去される。
【0093】
また、化学除染処理液がシュウ酸イオンC2−等の不純物アニオンを含む場合には、化学除染処理液をアニオン交換樹脂塔64に通水すると、化学除染処理液中の不純物アニオンがイオン交換により除去される。
【0094】
本工程の化学除染処理液の温度は、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃である。
本工程の不純物イオンのイオン交換効率を高くするためには、化学除染処理液の温度は低いことが好ましい。
【0095】
一方で、本工程の後工程である第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)や第2還元工程(ステップS202)においては、除去対象酸化皮膜の溶解性を高くするために、化学除染処理液の温度は高いことが好ましい。このため、本工程の化学除染処理液の温度は、第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)や第2還元工程(ステップS202)での再加熱を速やかかつ効率的に行うために、ある程度高いことが好ましい。
【0096】
以上の事情から、本工程では、化学除染処理液の温度を、第1還元工程(ステップS101)の化学除染処理液よりもやや低めで第1還元剤分解工程(ステップS102)の化学除染処理液と同程度の温度である、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃としている。
【0097】
本工程の化学除染処理液の温度は、たとえば、ヒータ33での加熱をしない等の制御をすることにより自然に低下するため、容易に上記の温度範囲内の温度にすることができる。
【0098】
本工程の化学除染処理液のpHは、通常4以上、好ましくは4〜8である。
【0099】
カチオン交換樹脂塔63およびアニオン交換樹脂塔64に通水され、排出された本工程(第1浄化工程)後の化学除染処理液は、不純物イオンが除去されて浄化された化学除染処理液になる。
【0100】
[第2化学除染処理部分]
第2化学除染処理部分(ステップ群S200)は、前記第1化学除染処理部分の浄化工程後の化学除染処理液に酸化剤を加えた化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を酸化除染処理する酸化工程(ステップS201)と、この酸化工程後の化学除染処理液に還元剤を加えた化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を還元除染処理する第2還元工程(ステップS202)と、この第2還元工程後の化学除染処理液中の還元剤を分解する第2還元剤分解工程(ステップS203)とを有する処理である。
【0101】
(酸化工程)
酸化工程(ステップS201)は、第1化学除染処理部分の浄化工程後の化学除染処理液に酸化剤を加えた化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を酸化除染処理する工程である。
本工程で用いられる酸化剤としては、たとえば、過マンガン酸塩またはこの水溶液や、オゾンが挙げられる。
【0102】
酸化剤が過マンガン酸塩等の固体または液体である場合、酸化剤は、たとえば、薬液タンク30内に貯留された化学除染処理液、または薬液タンク30内に新たに装入された水等に添加されることにより、薬液タンク30内で酸化剤を含む化学除染処理液が調製される。この酸化剤を含む化学除染処理液としては、たとえば、純水に酸化剤を溶解した過マンガン酸塩水溶液が挙げられる。
【0103】
薬液タンク30内の過マンガン酸塩等の酸化剤を含む化学除染処理液は、除染処理液主循環ライン21を介して原子炉冷却材再循環系統3に供給され、原子炉冷却材再循環系統3の除去対象酸化皮膜を酸化除染処理する。
【0104】
具体的には、原子炉再循環系配管4の図1に示したバルブ91を閉塞しバルブ92を開放した状態で、薬液タンク30内の過マンガン酸塩等の酸化剤を含む化学除染処理液は、薬液ラインポンプ32で除染処理液主循環ライン21に送液され、さらに化学除染処理液循環ポンプ22で原子炉再循環系配管4の枝管9に供給される。
【0105】
また、酸化剤がオゾンである場合、オゾンは、オゾン発生器50で発生した後、ミキサ51を介して除染処理液主循環ライン21の化学除染処理液中に供給される。これにより、除染処理液主循環ライン21中でオゾンを含む化学除染処理液が調製される。
【0106】
除染処理液主循環ライン21中のオゾンを含む化学除染処理液は、除染処理液主循環ライン21を介して原子炉冷却材再循環系統3に供給され、原子炉冷却材再循環系統3の除去対象酸化皮膜を酸化除染処理する。
【0107】
具体的には、原子炉再循環系配管4のバルブ91を閉塞しバルブ92を開放した状態で、除染処理液主循環ライン21中のオゾンを含む化学除染処理液は、化学除染処理液循環ポンプ22で原子炉再循環系配管4の枝管9に供給される。
【0108】
酸化剤が過マンガン酸塩等の固体または液体である場合、および酸化剤がオゾンである場合のいずれの場合も、枝管9から原子炉再循環系配管4に供給された酸化剤を含む化学除染処理液は、第1還元工程(ステップS101)と同様に、たとえば、原子炉再循環系配管4、再循環ポンプ5、PLR垂直管6、PLR水平管7、およびPLRライザー管8内に満たされる。そして、これら原子炉再循環系配管4等の金属材の表面に付着した除去対象酸化皮膜は、酸化剤を含む化学除染処理液に接液して除染される。
【0109】
除去対象酸化皮膜は、たとえば、放射性物質を含む、ヘマタイト、酸化クロム、ニッケルフェライト(NiFe)等からなる。除去対象酸化皮膜のうちのたとえば酸化クロムは、酸化剤を含む化学除染処理液に接液して除染されると、酸化溶解して二クロム酸イオンCr2−となる。
【0110】
本工程の化学除染処理液の温度は、除去対象酸化皮膜の溶解性を高めるために、通常80℃〜100℃の高温に調整される。
本工程の化学除染処理液の温度の調節は、通常、ヒータ33の加熱の制御により行われる。
【0111】
なお、酸化剤がオゾンである場合は、酸化剤(オゾン)を含む化学除染処理液の調製はオゾン発生器50とミキサ51とを用いて行われるため、オゾンを含む化学除染処理液の調製のために薬液タンク30を用いる必要はない。しかし、酸化剤がオゾンである場合でも、オゾンを含む化学除染処理液の温度調整のために、通常、薬液タンク30およびこの薬液タンク30に設けられたヒータ33が用いられる。
【0112】
本工程(酸化工程)後の化学除染処理液は、通常、放射性の、二クロム酸イオンCr2−等の不純物イオンを含む。また、本工程後の化学除染処理液は、残存した酸化剤を含むことがある。
【0113】
本工程を終えた化学除染処理液は、原子炉冷却材再循環系統3の原子炉再循環系配管4から除染処理液主循環ライン21に戻される。なお、本工程を終えた化学除染処理液は、必要により、原子炉冷却材再循環系統3の原子炉再循環系配管4の一部と、除染処理液主循環ライン21との間でループ状に循環させてもよい。
【0114】
(第2還元工程)
第2還元工程(ステップS202)は、酸化工程後の化学除染処理液に還元剤を加えた化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を還元除染処理する工程である。
【0115】
第2還元工程(ステップS202)は、第1化学除染処理部分(ステップ群S100)の第1還元工程(ステップS101)に比較して、化学除染処理液の組成が若干異なる以外は、同じである。
【0116】
具体的には、第1還元工程(ステップS101)の還元剤を含む化学除染処理液は不純物イオンや酸化剤を実質的に含まないのに対し、第2還元工程(ステップS202)の還元剤が加えられた化学除染処理液は、通常、二クロム酸イオンCr2−等の酸化剤で除染される不純物イオンや酸化剤等を含む点で、化学除染処理液の組成が若干異なる。なお、本工程で用いられる化学除染処理液が酸化剤を含んでいたとしても、本工程で添加された還元剤の作用により酸化剤の作用が相殺されるため、特に問題は生じない。
【0117】
第2還元工程(ステップS202)と第1還元工程(ステップS101)とは、化学除染処理液の組成以外の点で同じであるため、第2還元工程の構成および作用の説明を省略または簡略化する。
【0118】
第2還元工程で用いられる還元剤の種類、還元剤を含む化学除染処理液の調製方法、および還元剤を含む化学除染処理液を用いた、原子炉再循環系配管4等の金属材の除去対象酸化皮膜の除染作用は、第1還元工程と同じである。
本工程の化学除染処理液の温度は、除去対象酸化皮膜の溶解性を高めるために、通常80℃〜100℃の高温に調整される。
本工程の化学除染処理液の温度の調節は、通常、ヒータ33の加熱の制御により行われる。
【0119】
本工程の化学除染処理液のpHは、通常1〜3、好ましくは1.5〜2.5程度である。
【0120】
本工程では、還元剤を加えた化学除染処理液を用いた除染により除去対象酸化皮膜から、たとえば、放射性の、鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+やニッケルイオンNi2+が溶出する。本工程で用いられる酸化工程後の化学除染処理液は、はじめから二クロム酸イオンCr2−等の不純物イオンを含んでいるため、本工程を経た化学除染処理液は、鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+、二クロム酸イオンCr2−等の不純物イオンを含む。
【0121】
(第2還元剤分解工程)
第2還元剤分解工程(ステップS203)は、第2還元工程後の化学除染処理液中の還元剤を分解する工程である。
【0122】
第2還元剤分解工程(ステップS203)は、第1化学除染処理部分(ステップ群S100)の第1還元剤分解工程(ステップS102)に比較して、工程中に用いられる化学除染処理液の組成が若干異なる以外は、同じである。
【0123】
具体的には、第1還元剤分解工程(ステップS102)の工程開始時の化学除染処理液である第1還元工程(ステップS101)後の化学除染処理液は二クロム酸イオンCr2−等の酸化剤で除染される不純物イオンを実質的に含まないのに対し、第2還元剤分解工程(ステップS203)の工程開始時の化学除染処理液である第2還元工程(ステップS202)後の化学除染処理液は、通常、二クロム酸イオンCr2−等の酸化剤で除染された不純物イオンを含む点で、化学除染処理液の組成が若干異なる。
【0124】
第2還元剤分解工程(ステップS203)と第1還元剤分解工程(ステップS102)とは、化学除染処理液の組成以外の点で同じであるため、第2還元剤分解工程の構成および作用の説明を省略または簡略化する。
【0125】
本工程の化学除染処理液の温度は、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃である。この理由は、第1還元剤分解工程(ステップS102)の化学除染処理液の温度が通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃である理由と同じであるため、説明を省略する。
【0126】
本工程の化学除染処理液のpHは、通常4以上、好ましくは4〜8である。
【0127】
本工程を経た化学除染処理液は、還元剤を実質的に含まないが、通常、放射性の、鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+や二クロム酸イオンCr2−等の不純物イオンを含む。本工程を終えた化学除染処理液は、除染剤分解装置62から排出される。
【0128】
除染剤分解装置62から排出された化学除染処理液は、最終浄化工程(ステップS301)、または第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)に供される。
【0129】
除染剤分解装置62から排出された化学除染処理液が第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)に供される場合は、上記の第2化学除染処理部分(ステップ群S200)、すなわち、酸化工程(ステップS201)、第2還元工程(ステップS202)、および第2還元剤分解工程(ステップS203)からなるステップ群を繰り返す。
【0130】
[最終浄化工程]
最終浄化工程(ステップS301)は、前記第2化学除染処理部分(ステップ群S200)終了後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する工程である。
【0131】
最終浄化工程(ステップS301)は、第1化学除染処理部分(ステップ群S100)の第1浄化工程(ステップS103)に比較して、工程中に用いられる化学除染処理液の組成が若干異なる以外は、同じである。
【0132】
具体的には、第1浄化工程(ステップS103)の工程開始時の化学除染処理液である第1還元剤分解工程(ステップS102)後の化学除染処理液は二クロム酸イオンCr2−等の酸化剤で除染される不純物イオンを実質的に含まないのに対し、第1浄化工程(ステップS103)の工程開始時の化学除染処理液である第2還元剤分解工程(ステップS203)後の化学除染処理液は、通常、二クロム酸イオンCr2−等の酸化剤で除染された不純物イオンを含む点で、化学除染処理液の組成が若干異なる。
【0133】
最終浄化工程(ステップS301)と第1浄化工程(ステップS103)とは、化学除染処理液の組成以外の点で同じであるため、最終浄化工程の構成および作用の説明を省略または簡略化する。
【0134】
本工程の出発物質である第2化学除染処理部分(ステップ群S200)後の化学除染処理液は、具体的には、除染剤分解装置62から排出された化学除染処理液は、通常、除去対象酸化皮膜に由来する鉄イオンFe2+、Fe3+、コバルトイオンCo2+、ニッケルイオンNi2+等のカチオン性の不純物イオン(不純物カチオン)を含む。また、第2化学除染処理部分後の化学除染処理液は、第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の第2還元工程(ステップS202)で用いられた還元剤に由来するシュウ酸イオンC2−等のアニオン性の不純物イオン(不純物アニオン)を含む場合がある。
【0135】
この不純物イオンを含む化学除染処理液は、第1浄化工程(ステップS103)と同様に、カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)63やアニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)64に通水されることにより、不純物イオンが除去される。
【0136】
具体的には、化学除染処理液が鉄イオンFe2+、Fe3+、ニッケルイオンNi2+、コバルトイオンCo2+等の不純物カチオンを含む場合には、化学除染処理液をカチオン交換樹脂塔63に通水すると、化学除染処理液中の不純物カチオンがイオン交換により除去される。
【0137】
また、化学除染処理液が二クロム酸イオンCr2−、シュウ酸イオンC2−等の不純物アニオンを含む場合には、化学除染処理液をアニオン交換樹脂塔64に通水すると、化学除染処理液中の不純物アニオンがイオン交換により除去される。
【0138】
本工程の化学除染処理液の温度は、通常50℃〜80℃、好ましくは50℃〜70℃である。本工程の化学除染処理液の温度が、この範囲内にあると、本工程の不純物イオンのイオン交換効率が高いため好ましい。
本工程の化学除染処理液の温度は、たとえば、ヒータ33での化学除染処理液の加熱をしないことにより容易に調整することができる。
【0139】
なお、第1浄化工程(ステップS103)の化学除染処理液の温度は、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃であるから、本工程の化学除染処理液の温度のほうが低い。これは、第1浄化工程の場合には、後に第2化学除染処理部分(ステップ群S200)の酸化工程(ステップS201)や第2還元工程(ステップS202)等の加熱する工程があるため、後の酸化工程(ステップS201)や第2還元工程(ステップS202)での化学除染処理液の再加熱を考慮して温度を下げすぎないようにする必要があるのに対し、本工程では、後に加熱する工程がないため後工程での化学除染処理液の再加熱を考慮する必要がないからである。
【0140】
本工程の化学除染処理液の温度は、たとえば、ヒータ33での加熱をしない等の制御をすることにより自然に低下するため、容易に上記の温度範囲内の温度にすることができる。
【0141】
本工程の化学除染処理液のpHは、通常4以上、好ましくは4〜8である。
【0142】
カチオン交換樹脂塔63およびアニオン交換樹脂塔64に通水され、排出された化学除染処理液は、不純物イオンが除去されて浄化された化学除染処理液になる。
【0143】
[化学除染処理液が微小気泡を含む工程]
本発明に係る除染方法は、前記化学除染処理中から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含む。
【0144】
すなわち、本発明に係る除染方法は、第1還元工程(ステップS101)、第1還元剤分解工程(ステップS102)、第1浄化工程(ステップS103)、酸化工程(ステップS201)、第2還元工程(ステップS202)、第2還元剤分解工程(ステップS203)、および最終浄化工程(ステップS301)から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が微小気泡を含む。
【0145】
化学除染処理液が微小気泡を含むと、除去対象酸化皮膜の化学除染の効果に加え、微小気泡による除去対象酸化皮膜の物理除染の効果も発揮されて、除染の効果が向上するため好ましい。
【0146】
微小気泡による物理除染について説明する。
【0147】
本発明で用いられる微小気泡、すなわち、気泡径が限界気泡径以下の微小気泡は、化学除染処理液中において圧壊現象を生じる。この圧壊現象では、微小気泡は、気泡の縮小により気泡内の圧力は急上昇すると共に、断熱圧縮的な作用により気泡内の温度が急激に高くなると言われている。この結果、微小気泡の気泡消滅時には気泡消滅部分に微視的に数千度かつ数千気圧の領域が生じ、この数千度かつ数千気圧の領域は、周囲の媒体に強い衝撃力を生じさせると言われている。除染装置10を用いた除染方法は、この強い衝撃力を利用して、除染対象部位である原子炉冷却材再循環系統3の表面の除去対象酸化皮膜を剥離して除去するものである。なお、微小気泡の圧壊現象によって周囲の媒体に強い衝撃力を生じさせる現象は、超音波振動によるキャビテーションの発生、崩壊と同じ現象であると考えられる。
【0148】
微小気泡を用いた物理除染は、化学除染のように除去対象酸化皮膜を溶解するものでなく、微小気泡の気泡消滅時の衝撃力を用いて除去対象酸化皮膜を金属材から剥離するものである。このため、微小気泡を用いた物理除染は、除去対象酸化皮膜がニッケルフェライト(NiFe)等の化学的に溶解が困難な物質であり化学除染が効果的でない場合でも、効果的な除染が可能であるというメリットがある。
【0149】
なお、微小気泡を用いた物理除染において、微小気泡の気泡消滅時の衝撃力(破壊力)は、微小気泡が含まれる化学除染処理液の温度の影響を受ける。化学除染処理液の温度と微小気泡による破壊力との関係について図面を参照して説明する。
【0150】
図3は、超音波振動によるキャビテーションで水中に発生した気泡による破壊力の水温による影響を示すグラフである。図3の横軸はキャビテーションが発生した水の水温である。図3の縦軸はキャビテーション破壊力相対値であり、キャビテーションで水中に発生した気泡が対象物に対して有する破壊力を示す指標である。
【0151】
図3に示されるように、キャビテーションで発生した気泡による破壊力は、水温が60℃付近で最大であり、60℃付近から温度が高くなるにつれてまたは低くなるにつれて破壊力が低下する。具体的には、気泡による破壊力は、50℃において91、60℃において100、70℃において87、75℃において66、80℃において40、85℃において20、90℃において4である。このように、微小気泡による破壊力の大きさの観点からすると、化学除染処理液の温度は60℃付近であることが好ましい。
【0152】
一方、化学除染処理液の好適な温度は、上記のように各工程の事情により異なる。
【0153】
具体的には、第1還元工程(ステップS101)、酸化工程(ステップS201)および第2還元工程(ステップS202)等の除染工程では、化学除染処理液の温度は、通常80℃〜100℃である。この温度範囲のうち、たとえば、化学除染処理液の温度が90℃の場合には、図3より気泡による破壊力は4である。以下、第1還元工程(ステップS101)、酸化工程(ステップS201)、および第2還元工程(ステップS202)等の除染工程を、「化学除染処理液高温工程」という。
【0154】
また、第1還元剤分解工程(ステップS102)および第2還元剤分解工程(ステップS203)等の除染剤分解工程、ならびに第1浄化工程(ステップS103)では、化学除染処理液の温度は、通常70℃〜90℃、好ましくは75℃〜85℃である。この温度範囲のうち、たとえば、化学除染処理液の温度が70℃、80℃の場合には、図3より気泡による破壊力はそれぞれ87、40である。以下、第1還元剤分解工程(ステップS102)および第2還元剤分解工程(ステップS203)等の除染剤分解工程、ならびに第1浄化工程(ステップS103)を、「化学除染処理液中温工程」という。
【0155】
さらに、最終浄化工程(ステップS301)では、化学除染処理液の温度は、通常50℃〜80℃、好ましくは50℃〜70℃である。この温度範囲のうち、たとえば、化学除染処理液の温度が50℃、60℃の場合には、図3より気泡による破壊力はそれぞれ91、100である。以下、最終浄化工程(ステップS301)を、「化学除染処理液低温工程」という。
【0156】
このため、図3と各工程の化学除染処理液の好適な温度とに鑑みると、化学除染処理液の微小気泡による破壊力が最も大きく、微小気泡による物理除染を行うのに最も適した工程としては、化学除染処理液低温工程、すなわち、通常、化学除染処理液の温度が最も低い工程である最終浄化工程(ステップS301)が挙げられる。
【0157】
また、化学除染処理液の微小気泡による破壊力が化学除染処理液低温工程、すなわち、最終浄化工程(ステップS301)の次に大きく、最終浄化工程(ステップS301)の次に微小気泡による物理除染を行うのに適した工程としては、化学除染処理液中温工程、すなわち、通常、化学除染処理液の温度が最終浄化工程(ステップS301)よりも少し高い工程である、第1還元剤分解工程(ステップS102)および第2還元剤分解工程(ステップS203)等の除染剤分解工程、ならびに第1浄化工程(ステップS103)が挙げられる。
【0158】
さらに、化学除染処理液の微小気泡による破壊力が化学除染処理液中温工程、すなわち、第1還元剤分解工程(ステップS102)および第2還元剤分解工程(ステップS203)等の除染剤分解工程、ならびに第1浄化工程(ステップS103)よりも小さく、通常、微小気泡による物理除染を行うのにあまり適さない工程としては、化学除染処理液高温工程、すなわち、通常、化学除染処理液の温度が化学除染処理液低温工程および化学除染処理液中温工程よりも高い工程である、第1還元工程(ステップS101)、酸化工程(ステップS201)、および第2還元工程(ステップS202)等の除染工程が挙げられる。
【0159】
なお、第1還元剤分解工程(ステップS102)等の化学除染処理液中温工程は、第1還元工程(ステップS101)等の化学除染処理液高温工程に比べて、微小気泡による破壊力が10倍程度大きいから、微小気泡による物理除染に充分に好適な工程である。
【0160】
たとえば、第1還元工程(ステップS101)等の化学除染処理液高温工程の化学除染処理液の温度は通常90℃程度であるが、90℃だと図3から微小気泡による破壊力は4である。これに対し、第1還元剤分解工程(ステップS102)等の化学除染処理液中温工程の化学除染処理液の温度は通常80℃程度であるが、80℃だと図3から微小気泡による破壊力は40である。
【0161】
したがって、第1還元剤分解工程(ステップS102)等の化学除染処理液中温工程の微小気泡による破壊力は、第1還元工程(ステップS101)等の化学除染処理液高温工程の微小気泡による破壊力に比較して10倍大きく、微小気泡による物理除染に充分に好適な工程である。
【0162】
このため、本発明に係る除染方法では、化学除染処理液中温工程である第1還元剤分解工程(ステップS102)、第2還元剤分解工程(ステップS203)、および第1浄化工程(ステップS103)、ならびに化学除染処理液低温工程である最終浄化工程(ステップS301)から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が微小気泡を含むと、微小気泡による除染効果が大きいため好ましい。
【0163】
また、微小気泡を含む化学除染処理液の温度は、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは50℃〜80℃、より好ましくは50℃〜70℃である。化学除染処理液の温度が80℃以下であると、80℃を超える場合に比べて、微小気泡による破壊力が大きいからである。
【0164】
なお、この温度範囲の微小気泡を含む化学除染処理液は、化学除染処理液中温工程である第1還元剤分解工程(ステップS102)、第2還元剤分解工程(ステップS203)、および第1浄化工程(ステップS103)、ならびに化学除染処理液低温工程である最終浄化工程(ステップS301)から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液であると好ましいが、これらの工程で用いられる化学除染処理液に限定されるものではない。
【0165】
これら以外の上記温度範囲の微小気泡を含む化学除染処理液が用いられる工程としては、たとえば、化学除染処理液高温工程である第1還元工程(ステップS101)、酸化工程(ステップS201)、および第2還元工程(ステップS202)等の除染工程が挙げられる。以下、第1還元工程(ステップS101)、酸化工程(ステップS201)、および第2還元工程(ステップS202)等の除染工程が挙げられる。
【0166】
このように、本発明に係る除染方法では、微小気泡を含む化学除染処理液が用いられる工程の温度が重要である。しかし、化学除染処理液の温度は、化学除染の工程の除染工程、浄化工程等の事情により定まるものであり、化学除染処理液の温度の変更は容易でない。このため、本発明に係る除染方法を用いる場合には、上記のように化学除染処理液に微小気泡を含ませるのに適した温度となる工程を選択して、この工程において化学除染処理液中に微小気泡を含ませると、効率的であるため好ましい。
【0167】
また、本発明に係る除染方法では、酸化工程(ステップS201)において、化学除染処理液が酸素からなる微小気泡を含むようにすると、化学除染処理液の溶存酸素量が高くなり化学除染処理液の全体を酸化的雰囲気にするとともに、化学除染処理液において局所的に極めて強い酸化的状態を作り出すことができるため、酸化効果が高くなり、酸化除染能力が向上するため好ましい。
【0168】
すなわち、化学除染処理液が酸素からなる微小気泡を含むと、微小気泡の消滅により微小気泡中の酸素が極めて効率的に化学除染処理液に溶解して化学除染処理液中の溶存酸素量を高くすることができる。たとえば、常温の化学除染処理液に酸素からなる微小気泡を供給すると、溶存酸素濃度が通常の飽和濃度の1.5倍程度になる。
【0169】
また、化学除染処理液が酸素からなる微小気泡を含むと、微小気泡の圧壊時のエネルギーにより化学除染処理液中にOHラジカルが発生し、化学除染処理液中に局所的に極めて強い酸化的状態を作り出すことができる。
【0170】
このように、酸化工程(ステップS201)において化学除染処理液が酸素からなる微小気泡を含むようにすると、微小気泡による物理除染効果に加え、化学除染処理液の酸化効果が高くなり酸化除染能力も向上させることができる。
【0171】
なお、酸化工程(ステップS201)は、化学除染処理液高温工程であり、通常、化学除染処理液の温度が高いため、微小気泡による物理除染効果は大きくない。しかし、化学除染処理液中に酸素からなる微小気泡が含まれると、化学除染処理液の酸化効果が高くなり酸化除染能力が向上するため、総合的に好ましくなる。
【0172】
この酸化工程(ステップS201)において化学除染処理液が酸素からなる微小気泡を含むことは、第1還元工程(ステップS101)、第1還元剤分解工程(ステップS102)、第1浄化工程(ステップS103)、酸化工程(ステップS201)、第2還元工程(ステップS202)、第2還元剤分解工程(ステップS203)、および最終浄化工程(ステップS301)から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が酸素に限定されない気体からなる微小気泡を含むことと、併用することができる。併用した場合は、酸素に限定されない気体からなる微小気泡による物理除染効果と、酸素からなる微小気泡による酸化除染効果および物理除染効果とを発現させることができるため好ましい。
【0173】
[微小気泡のゼータ電位とpH]
化学除染処理液中の微小気泡を用いて除去対象酸化皮膜の除染を効果的に行うためには、化学除染処理液中の微小気泡が、化学除染処理液に接液した除去対象酸化皮膜の表面またはその近傍に存在させることが好ましい。これは、微小気泡の圧壊現象による物理除染や、酸素を含む微小気泡による酸化除染や物理除染を、除去対象酸化皮膜の表面またはその近傍で行うと除染効果が高いからである。
【0174】
化学除染処理液中の微小気泡を、化学除染処理液に接液した除去対象酸化皮膜の表面またはその近傍に存在させる方法としては、化学除染処理液中の微小気泡が、化学除染処理液に接液した除去対象酸化皮膜のゼータ電位と反対の符号の電荷を有する状態にして、微小気泡を電気的に除去対象酸化皮膜の表面に引き寄せたり吸着させたりする方法が挙げられる。
【0175】
化学除染処理液中の微小気泡が、化学除染処理液に接液した除去対象酸化皮膜のゼータ電位と反対の符号の電荷を有する状態にする方法としては、化学除染処理液のpHを5〜7にして化学除染処理液中の微小気泡のゼータ電位をマイナス電位とし、このマイナスに帯電した微小気泡を、上記pH範囲内でプラス電位の除去対象酸化皮膜に吸着させる方法が挙げられる。
【0176】
化学除染処理液のpHと、除去対象酸化皮膜および微小気泡のゼータ電位との関係について図面を参照して説明する。
【0177】
図4は、化学除染処理液のpHと、除去対象酸化皮膜に相当する金属酸化物および微小気泡のゼータ電位との関係を示すグラフである。ここで測定試料である金属酸化物としては、原子炉再循環系配管4の内表面に付着、生成すると考えられる、ヘマタイトと、ニッケルフェライト(NiFe)とを用いた。また、化学除染処理液としては、純水にpH調整剤を適宜添加したものを用いた。pH調整剤としては、希塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を用いた。さらに、微小気泡は、空気からなる微小気泡とした。
【0178】
図4に示されるように、ヘマタイト、ニッケルフェライト、および微小気泡のいずれも、pHが小さくなるとゼータ電位がプラスの値、pHが大きくなるとゼータ電位がマイナスの値を示すことが分かる。
【0179】
具体的には、微小気泡、ヘマタイト、およびニッケルフェライトの等電点は、それぞれpH4.5、pH6.3、およびpH6.7であり、微小気泡、ヘマタイト、およびニッケルフェライトは、いずれも、pHが等電点より小さいとゼータ電位がプラス、pHが等電点より大きいとゼータ電位がマイナスになることが分かる。
【0180】
ここで、pH4.5〜6.3の範囲内では、微小気泡のゼータ電位がマイナスであるのに対し、ヘマタイトのゼータ電位はプラスになる。また、pH4.5〜6.7の範囲内では、微小気泡のゼータ電位がマイナスであるのに対し、ニッケルフェライトのゼータ電位はプラスになる。
【0181】
このため、化学除染処理液のpHが、通常pH4.5〜6.5、好ましくはpH4.5〜6.3の範囲内にあると、化学除染処理液中において、マイナスの電荷を有する微小気泡が、プラスの電荷を有するヘマタイト、ニッケルフェライト等からなる除去対象酸化皮膜に、電気的に引かれて吸着されやすくなるため好ましい。
【0182】
図5は、微小気泡が除去対象酸化皮膜のゼータ電位と反対の符号の電荷を有する状態における、微小気泡による除染の作用を模式的に示す説明図である。なお、図5においては、金属配管71の表面に付着した一塊の除去対象酸化皮膜72が、微小気泡74の作用により時間の経過につれて金属配管71の表面から剥離する様子を、時間の経過の順番にP1、P2、P3、P4、およびP5のように示した。
【0183】
はじめに、化学除染処理液73中に微小気泡74が含まれない状態等のように、除去対象酸化皮膜72の近傍に微小気泡74が存在しない状態では、一塊の除去対象酸化皮膜72が金属配管71の表面に付着している(P1)。
【0184】
次に、化学除染処理液73中の除去対象酸化皮膜72の近傍に、除去対象酸化皮膜72のゼータ電位と反対の符号の電荷を有する微小気泡74が存在する場合には、微小気泡74は除去対象酸化皮膜72の表面に吸着する(P2)。
【0185】
この除去対象酸化皮膜72の表面に吸着した微小気泡74は徐々に縮小して最後に消滅し、この気泡消滅時の圧壊現象等により金属配管71の表面から除去対象酸化皮膜72が剥離される。なお、除去対象酸化皮膜72の表面に吸着した微小気泡74が消滅した後でも、化学除染処理液73中に存在する新たな微小気泡74が除去対象酸化皮膜72の表面に順次吸着するため、微小気泡74による除去対象酸化皮膜72の剥離作用は継続して行われる(P3、P4)。このように、除去対象酸化皮膜72の表面では、微小気泡74の吸着と消滅が繰り返され、除去対象酸化皮膜72は金属配管71の表面から徐々に剥離する。
【0186】
除去対象酸化皮膜72が金属配管71の表面から完全に剥離すると、剥離、浮上した除去対象酸化皮膜72は化学除染処理液73中に取り込まれ、除去対象酸化皮膜72の除染が終了する(P5)。
【0187】
なお、第1還元工程および第2還元工程においては、化学除染処理液のpHが通常1〜3と低いため、微小気泡74の電荷と除去対象酸化皮膜72のゼータ電位とが共にプラスになりやすい。すなわち、これらの工程においては、微小気泡74の電荷が化学除染処理液73中に接液した除去対象酸化皮膜72のゼータ電位に対して正負反対になりにくい。このため、第1還元工程および第2還元工程では、化学除染処理液73中の微小気泡74は除去対象酸化皮膜72の表面に吸着しにくい。
【0188】
しかし、第1還元剤分解工程および第2還元剤分解工程の後期、ならびに第1浄化工程および最終浄化工程においては、化学除染処理液のpHは通常4以上になるため、微小気泡74の電荷がマイナスになるとともに、除去対象酸化皮膜72のゼータ電位がプラスになりやすい。すなわち、これらの工程においては、微小気泡74の電荷が化学除染処理液73中に接液した除去対象酸化皮膜72のゼータ電位に対して正負反対になりやすい。このため、第1還元剤分解工程、第2還元剤分解工程、第1浄化工程、および最終浄化工程では、化学除染処理液73中の微小気泡74は除去対象酸化皮膜72の表面に吸着しやすくなる。
【0189】
[微小気泡の有無による除染効果の差異]
化学除染処理液が微小気泡を含む場合と含まない場合との除染効果の差異を確認するため、試験片を用いて除染試験を行った。汚染金属試験片としては、ステンレス製金属材の表面に化学的に溶解し難いニッケルフェライト(NiFe)皮膜が成長した試験片を用いた。
【0190】
除染試験の試験条件としては、化学除染処理液が微小気泡を含まない場合と含む場合との2個とした。全工程を通じて化学除染処理液が微小気泡を含まない実験例を実験例1という。また、化学除染処理液が微小気泡を含む工程を有する実験例を実験例2という。
【0191】
実験例1と実験例2とは、化学除染処理液が微小気泡を含むか否か以外は、同一試験条件とした。
【0192】
なお、実験例1および実験例2は、汚染金属試験片を用いた簡易な試験であるため、本発明に係る除染方法の第1還元剤分解工程等の還元剤分解工程や最終浄化工程等の浄化工程に代えて、第1洗浄工程等の洗浄工程を行った。
【0193】
実験例1と実験例2とに共通する実験手順は、以下のとおりである。具体的には、以下の3サイクルの工程を行った。
【0194】
(1サイクル目)
1サイクル目は、以下の、第1還元工程および第1洗浄工程を行った。
<第1還元工程>
はじめに、還元性除染液として、シュウ酸を2000ppm含む95℃のシュウ酸水溶液を用意し、このシュウ酸水溶液に汚染金属試験片を5時間浸漬した。
<第1洗浄工程>
次に、汚染金属試験片を純水で洗浄した。
【0195】
(2サイクル目)
2サイクル目は、以下の第2酸化工程、第2還元工程、および第2洗浄工程を行った。
<第2酸化工程>
はじめに、酸化性除染液として、オゾンを3ppm含む80℃のオゾン水を用意し、このオゾン水に汚染金属試験片を2時間浸漬した。
<第2還元工程>
次に、1サイクル目の第1還元工程と同じ工程を行った。
<第2洗浄工程>
さらに、1サイクル目の第1洗浄工程と同じ工程を行った。
【0196】
(3サイクル目)
3サイクル目は、2サイクル目と同じ工程(第2酸化工程、第2還元工程、および第2洗浄工程)を行った。これらの工程を第3酸化工程、第3還元工程、および第3洗浄工程という。
【0197】
以上が実験例1および実験例2に共通する実験手順である。なお、実験例1および実験例2のそれぞれについて、同様の試験片をA、Bの2個ずつ準備して、試験を2回行った。実験例1の試験片AおよびBの試験をそれぞれ実験例1−Aおよび実験例1−B、実験例2の試験片AおよびBの試験をそれぞれ実験例2−Aおよび実験例2−Bという。
【0198】
また、実験例2は、3サイクル目の第3洗浄工程において45kHzの超音波を用いキャビテーション効果を利用した超音波洗浄を5分間行った以外は、実験例1と同様にした。このキャビテーション効果を利用した超音波洗浄は、微小気泡の効果を模したものである。
【0199】
図6は、微小気泡の有無による除染効果の差異を示すグラフである。図6の縦軸は除染係数を示す。なお、図6では、実験例1−Aおよび実験例1−Bにおいて、3サイクル終了時の除染係数に加え1サイクル終了時および2サイクル終了時の除染係数についてもデータを記載した。
【0200】
図6より、化学除染処理液が微小気泡を含まない実験例1−Aおよび実験例1−Bの2サイクル終了時の除染係数は共に2であり、化学除染処理液が微小気泡を含む実験例2−Aおよび実験例2−Bの除染係数は約300および約1000であることが分かった。
【0201】
この実験例1および実験例2の結果より、化学除染の際に、化学除染処理液が微小気泡を含む場合は、化学除染処理液が微小気泡を含まない場合に比べて、格段に除染効率が高いことが分かった。
【0202】
<効果>
本実施形態に係る除染装置および除染方法によれば、除染効果が高いために除染工期を短縮することができる。
【0203】
なお、上記除染方法では、化学除染処理が、図2に示すように、第1還元工程(ステップS101)と、第1還元剤分解工程(ステップS102)と、第1浄化工程(ステップS103)と、酸化工程(ステップS201)と、第2還元工程(ステップS202)と、第2還元剤分解工程(ステップS203)と、最終浄化工程(ステップS301)とを含む処理である例を示した。
【0204】
しかし、本発明の除染方法では、このような化学除染処理が第1還元工程(ステップS101)から最終浄化工程(ステップS301)までの工程を全て含む化学除染処理に代えて、化学除染処理が、除染工程と除染剤分解工程と浄化工程とを有する除染方法であってもよい。以下、この除染工程と除染剤分解工程と浄化工程とを有する除染方法を、「簡略化された除染方法」という。
【0205】
ここで、除染工程とは、還元性または酸化性の除染剤を含む化学除染処理液で除去対象酸化皮膜を除染処理する工程を意味する。除染工程は、たとえば、第1還元工程(ステップS101)、第2還元工程(ステップS202)、および酸化工程(ステップS201)のうち少なくとも1つの工程を含む。
【0206】
また、除染剤分解工程とは、除染工程後の化学除染処理液中の還元性または酸化性の除染剤を分解する工程を意味する。除染剤分解工程は、たとえば、第1還元剤分解工程(ステップS102)、および第2還元剤分解工程(ステップS203)のうち少なくとも1つの工程を含む。
【0207】
さらに、浄化工程とは、除染剤分解工程後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する工程を意味する。浄化工程は、たとえば、第1浄化工程(ステップS103)、および最終浄化工程(ステップS301)のうち少なくとも1つの工程を含む。
【0208】
簡略化された除染方法は、除染工程、除染剤分解工程、および浄化工程から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含む。化学除染処理液が微小気泡を含むと、除去対象酸化皮膜の化学除染の効果に加え、微小気泡による除去対象酸化皮膜の物理除染の効果も発揮されて、除染の効果が向上するため好ましい。
【0209】
また、簡略化された除染方法では、除染剤分解工程および浄化工程から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含むと、微小気泡による除染効果が大きいため好ましい。
【0210】
すなわち、除染剤分解工程は上記のように化学除染処理液中温工程であり、浄化工程は上記のように化学除染処理液低温工程であるから、微小気泡を含む化学除染処理液の温度が比較的低く、微小気泡による除染効果が大きいため好ましい。
【0211】
さらに、簡略化された除染方法では、除染工程が酸化工程(ステップS201)である場合、この酸化工程で用いられる化学除染処理液が、酸素からなる微小気泡を含むと、化学除染処理液の溶存酸素量が高くなり化学除染処理液の全体を酸化的雰囲気にするとともに、化学除染処理液において局所的に極めて強い酸化的状態を作り出すことができるため、酸化効果が高くなり、酸化除染能力が向上するため好ましい。
【0212】
(第2の実施形態)
図7は、本発明に係る除染装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。図7に示す除染装置10Aは、沸騰水型原子炉(BWR)を有する原子力発電プラント1Aの原子炉冷却材再循環系統3を除染処理する除染装置である。
【0213】
図7に示す原子力発電プラント1Aは、図1に示した原子力発電プラント1に比較して、除染装置10に代えて、除染装置10Aを用いた以外は同じである。
【0214】
また、図7に第2の実施形態として示す除染装置10Aは、図1に第1の実施形態として示した除染装置10に比較して、微小気泡発生装置40に代えて、より具体的な構成の微小気泡発生装置40Aを用いたこと以外は同じである。
【0215】
このため、図7に第2の実施形態として示す除染装置10Aと、図1に第1の実施形態として示した除染装置10との間で同一の部材には同一の符号を付し、部材および作用の説明を省略または簡略化する。
【0216】
<微小気泡発生装置>
微小気泡発生装置40Aは、加圧式微小気泡発生装置であり、薬液タンク30内の化学除染処理液を薬液タンク30外に取り出した後に薬液タンク30内に戻す薬液循環ライン41に設けられ、化学除染処理液中に気体を過飽和に溶解させる気体溶解装置45と、この気体が過飽和に溶解した化学除染処理液を薬液タンク30内の化学除染処理液中に噴出させるノズル46とを含む。
【0217】
具体的には、微小気泡発生装置40Aは、薬液循環ライン41中の化学除染処理液に気体注入ライン43を介して気体を注入する気体タンク42と、薬液循環ライン41中の気体が注入された化学除染処理液を加圧する薬液循環ラインポンプ44と、気体が注入されかつ加圧された化学除染処理液がタンク内に導入されて、タンク内において化学除染処理液中に気体を過飽和に溶解させる気体溶解タンク(気体溶解装置)45と、薬液循環ライン41中の気体が溶解した化学除染処理液を薬液タンク30内の化学除染処理液中に噴出させるノズル46とを含む。
【0218】
気体溶解タンク45としては、公知の気体溶解タンクを用いることができる。たとえば、気体が注入されかつ加圧された薬液循環ライン41中の化学除染処理液がタンク内の底部から導入されることにより、気体が化学除染処理液に溶解するタンクが挙げられる。
【0219】
ノズル46としては、気体を液中に噴出する公知のノズルを用いることができる。
【0220】
<作用>
次に、図7を参照して除染装置10Aの作用について説明する。
【0221】
図7に第2の実施形態として示す除染装置10Aは、図1に第1の実施形態として示した除染装置10に比較して、微小気泡発生装置40に代えて、より具体的な構成の微小気泡発生装置40Aを用いたこと以外の作用は同じである。このため、以下、微小気泡発生装置40Aによる微小気泡の発生作用についてのみ説明する。
【0222】
本発明の除染方法において、加圧式微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Aを用い、加圧溶解型発生法により、化学除染処理液中に微小気泡を含ませる手順は、以下のとおりである。
【0223】
はじめに、薬液タンク30内に化学除染処理液が貯留した状態で薬液循環ラインポンプ44を稼働させ、化学除染処理液を薬液タンク30と薬液循環ライン41との間で循環させる。
【0224】
次に、気体タンク42から気体注入ライン43を介して薬液循環ライン41内に気体を注入する。なお、注入する気体は、空気、酸素等であり、微小気泡を構成する気体として所望する種類の気体とする。たとえば、第1還元剤分解工程(ステップS102)、第1浄化工程(ステップS103)等で化学除染処理液に微小気泡を含ませる場合は空気を用い、酸化工程(ステップS201)で化学除染処理液に微小気泡を含ませる場合は酸素を用いる。
【0225】
薬液循環ライン41内の気体が注入された化学除染処理液は、薬液循環ラインポンプ44で加圧され、気体溶解タンク45に導入される。気体溶解タンク45内では、化学除染処理液中に気体が過飽和になるように溶解される。
【0226】
気体が過飽和になるように溶解された化学除染処理液は、薬液循環ライン41を介して薬液タンク30内に設けられたノズル46から薬液タンク30内の化学除染処理液中に放出または噴出される。ノズル46から放出または噴出された化学除染処理液は、気体が過飽和になるように溶解しているため、薬液タンク30内で圧力が開放されることにより、過飽和分の気体が薬液タンク30内の化学除染処理液中で微小気泡が発生して微小気泡流87が形成される。
【0227】
図8は、本発明に係る除染装置の第2の実施形態10Aで発生させた微小気泡の気泡径の分布を示すグラフである。具体的には、微小気泡発生装置40Aを用いて薬液タンク30内の化学除染処理液中に発生させた微小気泡の気泡径の分布を示すグラフである。
【0228】
図8に示されるように、加圧式微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Aを用いて化学除染処理液中に発生させた微小気泡では、気泡径のピークが2個存在する2ピーク型の分布を示した。具体的には、気泡径12μmにピーク値を有するナローなピークと、気泡径40μm〜56μmに亘って幅広く分布するブロードなピークとが存在する2ピーク型の分布を示した。
【0229】
なお、原因は明らかでないが、一般的に、2ピーク型の分布を有する微小気泡は、高濃度の微小気泡を発生させた場合に見られる。このため、気泡径の分布が2ピーク型であっても、微小気泡が高濃度に発生していると考えられるため、微小気泡発生装置40Aは本発明の微小気泡発生装置として好適である。
【0230】
また、ナローなピークの気泡径のピーク値は12μmと非常に小さいとともに、ブロードなピークの気泡径の範囲は40μm〜56μmと限界気泡径65μm以下になっている。このため、気泡径の分布が2ピーク型であっても、微小気泡の圧壊現象による衝撃力は十分に大きく、かつ、微小気泡の浮遊時間も十分に長いと考えられるため、微小気泡発生装置40Aは本発明の微小気泡発生装置として好適である。
【0231】
<効果>
本実施形態に係る除染装置および除染方法によれば、気泡径のピーク値が12μm程度と非常に小さい微小気泡を高濃度に発生させることができるため、第1の実施形態に係る除染装置および除染方法よりも除染効果がより高くなり、除染工期をより短縮することができる。
【0232】
(第3の実施形態)
図9は、本発明に係る除染装置の第3の実施形態に用いられる微小気泡発生装置を示す概略構成図である。図9に示す除染装置10Bは、沸騰水型原子炉(BWR)を有する原子力発電プラント1Bの原子炉冷却材再循環系統3を除染処理する除染装置である。
【0233】
図9に示す原子力発電プラント1Bは、図1に示した原子力発電プラント1に比較して、除染装置10に代えて、除染装置10Bを用いた以外は同じである。
【0234】
また、図9に第3の実施形態として示す除染装置10Bは、図1に第1の実施形態として示した除染装置10に比較して、微小気泡発生装置40に代えて、より具体的な構成の微小気泡発生装置40Bを用いたこと以外は同じである。
【0235】
このため、図9に第3の実施形態として示す除染装置10Bと、図1に第1の実施形態として示した除染装置10との間で同一の部材には同一の符号を付し、部材および作用の説明を省略または簡略化する。
【0236】
<微小気泡発生装置>
微小気泡発生装置40Bは、旋回流型微小気泡発生装置であり、化学除染処理液と気体との二相旋回流を形成し、この二相旋回流を薬液タンク30内の化学除染処理液中に排出する。
【0237】
図10は、本発明に係る除染装置の第3の実施形態10Bに用いられる微小気泡発生装置40Bを模式的に示す断面図である。図10では、微小気泡発生装置40Bが薬液タンク30内のバルクな化学除染処理液86中に配置された様子を示す。なお、図10と図9とでは、微小気泡発生装置40Bの向きが左右逆に示されている。
【0238】
図10に示すように、微小気泡発生装置40Bは、旋回流型微小気泡発生装置本体80に、外部から供給された液体が流れる液体流路88と、外部から供給された気体が流れる気体流路89とが形成されるとともに、液体流路88内に配置された、旋回流発生機構としての固定旋回板82を備える。
【0239】
ここで、旋回流発生機構とは、流路内を流れる液体の直線状の流れを、旋回流、すなわち流路の断面から見たときに回転しつつ流路の流れ方向に移動する流れ、に変える機構を意味する。固定旋回板82としては、たとえば、固定されたファンが挙げられる。
【0240】
また、微小気泡発生装置40Bの外部には、微小気泡発生装置40Bの液体流路88に液体を供給する図示しない装置、たとえばポンプが設けられる。
【0241】
<作用>
次に、図9および図10を参照して除染装置10Bの作用について説明する。
【0242】
図9に第3の実施形態として示す除染装置10Bは、図1に第1の実施形態として示した除染装置10に比較して、微小気泡発生装置40に代えて、より具体的な構成の微小気泡発生装置40Bを用いたこと以外の作用は同じである。このため、以下、微小気泡発生装置40Bによる微小気泡の発生作用についてのみ説明する。
【0243】
本発明の除染方法において、旋回流型微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Bを用い、旋回流型発生法により、化学除染処理液中に微小気泡を含ませる手順は、以下のとおりである。
【0244】
はじめに、微小気泡発生装置40Bを、薬液タンク30内の化学除染処理液86中に配置し、図示しないポンプ等を用いて化学除染処理液を液体流路88内に供給する。液体流路88内に供給された化学除染処理液は、液体流路88内で直線状の液体の流れ81を形成する。液体流路88内での化学除染処理液の直線状の液体の流れ81は、液体流路88内に配置された、旋回流発生機構としての固定旋回板82に当たると、液体流路88内で高速旋回流を生じ、高速旋回流の中心に負圧の空洞部が形成される。
【0245】
次に、外部から気体流路89を介して空気、酸素等の気体83を液体流路88内の固定旋回板82近傍の化学除染処理液に導入すると、化学除染処理液中で発生した気泡84が化学除染処理液の高速旋回流の負圧の空洞部に巻き込まれて、高速旋回流をなす化学除染処理液と、負圧の空洞部を構成する気体と、を含む竜巻状の二相旋回流85が形成される。
【0246】
ここで、導入する気体83としては、たとえば、第1還元剤分解工程(ステップS102)、第1浄化工程(ステップS103)等で化学除染処理液に微小気泡を含ませる場合は空気を用い、酸化工程(ステップS201)で化学除染処理液に微小気泡を含ませる場合は酸素を用いる。
【0247】
さらに、液体流路88内の二相旋回流85を微小気泡発生装置40Bから薬液タンク30内の化学除染処理液86中に放出すると、化学除染処理液86中に微小気泡流87が形成される。
【0248】
すなわち、薬液タンク30内のバルクの化学除染処理液86は流れがないかまたは遅く流れているため、液体流路88内の二相旋回流85が、薬液タンク30内の化学除染処理液86中に放出されると、二相旋回流85と化学除染処理液86との間に大きな速度差が生じるため、二相旋回流85と化学除染処理液86との間に剪断力が生じる。そして、この剪断力により、二相旋回流85が破壊され、二相旋回流85中に含まれる気体は、バラバラに切断、粉砕されて化学除染処理液中で微小気泡を発生する。この微小気泡を含む化学除染処理液が微小気泡発生装置40Bから放出されると、薬液タンク30内の化学除染処理液86中に微小気泡流87が形成される。
【0249】
図11は、本発明に係る除染装置の第3の実施形態10Bで発生させた微小気泡の気泡径の分布を示すグラフである。具体的には、微小気泡発生装置40Bを用いて薬液タンク30内の化学除染処理液中に発生させた微小気泡の気泡径の分布を示すグラフである。
【0250】
図11に示されるように、旋回流型微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Bを用いて化学除染処理液中に発生させた微小気泡では、気泡径のピークが1個存在する1ピーク型の分布を示した。具体的には、気泡径28μmにピーク値を有し、このピーク値から気泡径の下限側および上限側になだらかに下降した、きれいな山型の分布を示した。このように、微小気泡発生装置40Bを用いると、化学除染処理液中に十分に微小な微小気泡を発生させることができる。
【0251】
なお、図11に示すように微小気泡発生装置40Bで発生する微小気泡の気泡径のピーク値は28μmであり、図8に示すように微小気泡発生装置40Aで発生する微小気泡の気泡径の小さい方のピーク値は12μmである。すなわち、微小気泡発生装置40Bで発生する微小気泡は、微小気泡発生装置40Aで発生する微小気泡に比べると気泡径の中心がやや大きい。
【0252】
このため、微小気泡の気泡径の観点のみから判断すると、図8に示した加圧式微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Aのほうが、図11に示した旋回流型微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Bよりも優れているようにみえる。
【0253】
しかし、微小気泡発生装置40Bは、旋回流型微小気泡発生装置であるため、発生した微小気泡内の気体の圧力が、微小気泡発生装置40Aで発生させた微小気泡に比べて低い。すなわち、旋回流型微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Bでは、微小気泡は、化学除染処理液の高速旋回流の中心に形成された負圧の空洞部を構成する気体から発生するため、微小気泡内の気体の圧力が低い。
【0254】
そして、この内部の気体の圧力が低い微小気泡は、化学除染処理液中で収縮しやすいため、収縮、圧壊効果の大きい微小気泡となる。このため、微小気泡の内部の気体の圧力の観点から判断すると、図11に示した旋回流型微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Bのほうが、図8に示した加圧式微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Aよりも優れており、好適であるといえる。
【0255】
このように、旋回流型微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Bと、加圧式微小気泡発生装置である微小気泡発生装置40Aとは、微小気泡の気泡径の大きさの点や微小気泡の内部の気体の圧力の点で、ともに優れた面があり、両者とも微小気泡発生装置として好適である。
【0256】
<効果>
本実施形態に係る除染装置および除染方法によれば、微小気泡の内部の気体の圧力が低く、収縮、圧壊効果の大きい微小気泡を発生させることができるため、第1の実施形態に係る除染装置および除染方法よりも除染効果がより高くなり、除染工期をより短縮することができる。
【0257】
なお、上記第1の実施形態〜第3の実施形態に係る除染装置およびこの除染装置を用いる除染方法では、金属材が、沸騰水型原子炉(BWR)を有する原子力発電プラント1の原子炉冷却材再循環系統3の構成部材である例を示した。
【0258】
しかし、本発明の除染装置およびこの除染装置を用いる除染方法では、金属材が、加圧水型原子炉(PWR)を有する原子力発電プラントの原子炉冷却材再循環系統の構成部材や、放射性物質取扱施設において用いられる構成部材であってもよい。
【0259】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0260】
1、1A、1B 原子力発電プラント
3 原子炉冷却材再循環系統(除染対象部位)
4 原子炉再循環系配管
5 再循環ポンプ
6 PLR垂直管
7 PLR水平管
8 PLRライザー管
9 枝管
10、10A、10B 除染装置
20 化学除染処理系統
21 除染処理液主循環ライン(除染処理液配管)
22 化学除染処理液循環ポンプ
30 薬液タンク
31 薬液ライン
32 薬液ラインポンプ
33 ヒータ
34 薬液加熱ラインポンプ
35 薬液加熱ライン
40 微小気泡発生装置
40A 加圧式微小気泡発生装置
40B 旋回流型微小気泡発生装置(微小気泡発生装置)
41 薬液循環ライン
42 気体タンク
43 気体注入ライン
44 薬液循環ラインポンプ
45 気体溶解タンク(気体溶解装置)
46 ノズル
50 オゾン発生器
51 ミキサ
52 オゾン供給ライン
61 除染剤分解・イオン交換ライン
62 除染剤分解装置
63 カチオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)
64 アニオン交換樹脂塔(イオン交換樹脂塔)
65 除染剤分解・イオン交換ラインポンプ
71 金属配管(除染対象部位の金属配管)
72a、72b、72c、72d、72e 除去対象酸化皮膜
73 化学除染処理液
74 微小気泡
80 旋回流型微小気泡発生装置本体
81 液体の流れ
82 固定旋回板(旋回流発生機構)
83 気体
84 気泡
85 二相旋回流
86 バルク液体(化学除染処理液)
87 微小気泡流
88 液体流路
89 気体流路
91、92 バルブ
93 除染液排出口
S100 第1化学除染処理部分
S101 第1還元工程
S102 第1還元剤分解工程
S103 第1浄化工程
S200 第2化学除染処理部分
S201 酸化工程
S202 第2還元工程
S203 第2還元剤分解工程
S301 最終浄化工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含む酸化皮膜からなり金属材の表面に付着した除去対象酸化皮膜に、化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により前記除去対象酸化皮膜を除去する除染方法において、
前記化学除染処理は、除染剤を含む化学除染処理液で前記除去対象酸化皮膜を除染処理する除染工程と、この除染工程後の化学除染処理液中の除染剤を分解する除染剤分解工程と、この除染剤分解工程後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する浄化工程とを有する処理であり、
前記除染工程、除染剤分解工程、および浄化工程から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含むことを特徴とする除染方法。
【請求項2】
前記除染剤分解工程および前記浄化工程から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含むことを特徴とする請求項1に記載の除染方法。
【請求項3】
前記除染工程が酸化工程を含む場合、この酸化工程で用いられる化学除染処理液が、酸素からなる微小気泡を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の除染方法。
【請求項4】
前記化学除染処理は、第1化学除染処理部分と、この第1化学除染処理部分の後に行う第2化学除染処理部分と、この第2化学除染処理部分の後に行う最終浄化工程とを含む処理であり、
前記第1化学除染処理部分は、還元剤を含む化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を還元除染処理する第1還元工程と、この第1還元工程後の化学除染処理液中の還元剤を分解する第1還元剤分解工程と、この第1還元剤分解工程後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する第1浄化工程とを有する処理であり、
前記第2化学除染処理部分は、前記第1化学除染処理部分の浄化工程後の化学除染処理液に酸化剤を加えた化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を酸化除染処理する酸化工程と、この酸化工程後の化学除染処理液に還元剤を加えた化学除染処理液を用いて前記除去対象酸化皮膜を還元除染処理する第2還元工程と、この第2還元工程後の化学除染処理液中の還元剤を分解する第2還元剤分解工程とを有する処理であり、
前記第2化学除染処理部分は、1回または2回以上繰り返して行われ、
前記最終浄化工程は、前記第2化学除染処理部分終了後の化学除染処理液中の不純物イオンを除去する工程であり、
前記化学除染処理中から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含むことを特徴とする請求項1に記載の除染方法。
【請求項5】
前記第1還元剤分解工程、前記第2還元剤分解工程、前記第1浄化工程、および前記最終浄化工程から選ばれる少なくとも1つの工程で用いられる化学除染処理液が、微小気泡を含むことを特徴とする請求項4に記載の除染方法。
【請求項6】
前記酸化工程で用いられる化学除染処理液が、酸素からなる微小気泡を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の除染方法。
【請求項7】
前記金属材は、原子力発電プラントまたは放射性物質取扱施設において用いられる構成部材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項8】
前記構成部材は、原子力発電プラントの冷却材再循環系統の構成部材であることを特徴とする請求項7に記載の除染方法。
【請求項9】
前記微小気泡を含む化学除染処理液の温度は、80℃以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項10】
前記化学除染処理液中の微小気泡は、平均気泡径が65μm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項11】
前記化学除染処理液中の微小気泡は、前記化学除染処理液に接液した除去対象酸化皮膜のゼータ電位と反対の符号の電荷を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項12】
前記除去対象酸化皮膜は、ニッケルフェライトを主として含む難溶解性の酸化皮膜であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項13】
前記化学除染処理液中の微小気泡は、加圧溶解型発生法または旋回流型発生法を用いて得られたものであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項14】
放射性物質を含む酸化皮膜からなる除去対象酸化皮膜が表面に付着された金属製の除染対象部位に、化学除染処理系統から供給した化学除染処理液を接液させて、化学除染処理により前記除去対象酸化皮膜を除去する除染装置であって、
前記化学除染処理系統は、
前記除染対象部位に化学除染処理液を供給する除染処理液配管と、
この除染処理液配管に化学除染処理液を供給する薬液タンクと、
この薬液タンク内の化学除染処理液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生装置と、
を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項15】
前記微小気泡発生装置は、化学除染処理液中に前記気体を過飽和に溶解させる気体溶解装置とこの気体が過飽和に溶解した化学除染処理液を前記薬液タンク内の化学除染処理液中に噴出させるノズルとからなる加圧式微小気泡発生装置、または化学除染処理液と気体とを含む二相旋回流を形成し、この二相旋回流を前記薬液タンク内の化学除染処理液中に排出する旋回流型微小気泡発生装置であることを特徴とする請求項14に記載の除染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−108073(P2012−108073A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258816(P2010−258816)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】