説明

除電シートを用いた塗装方法

【課題】 被塗装物を塗装する際に、簡易な方法で任意な場所での塗装施工の自由度が有り、設備及び運用コストが低く、効率よく被塗装物表面の帯電を除去して塗装の信頼性を確保できる除電シートを用いた塗装方法を提供する。
【解決手段】 清浄性が保持される空間において被塗装物の表面を塗装する前に被塗装物表面に付着した塵埃を除去する第1の除塵工程と、構成糸の全部又は一部に極細に延伸した銅繊維糸を用いた織物又は編物からなる清浄な除電シートを被塗装物表面の全部又は一部に覆い被せることにより被塗装物の帯電を除去する除電シート覆被工程と、除電シート覆被状態の被塗装物表面に再付着した塵埃を除去する第2の除塵工程と、被塗装物を塗装する塗装工程に入る直前に、当該塗装部分に覆被された除電シートを除去する除電シート除去工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の塗装に先立ち被塗装物表面に付着した塵埃を除去した後、被塗装物を塗装する前又は/及び塗装中に亘り、銅繊維糸を用いた織物又は編物からなる除電シートを用いて当該被塗装物表面の帯電を除去する処理を行う除電シートを用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、被塗装物例えば車両に塗装を施す際には、塗装前又は塗装中に、ゴミ、ホコリ等の粉塵が車両に付着したままの状態で塗装するのを防ぐために、塗装前に車両表面に除電を行うことにより粉塵の車両への付着を防止した状態で塗装作業を行っている。従来、このような車両の除電方法には、次の代表的な4例がある。
【0003】
第1の例は、図4に示すように、エアー供給管125からエアーが供給される筐体123を有し、この筐体123内部のエアー室124には多数の除電繊維128が接続されたアース線126が配設され、このアース線126に接続された除電繊維128は筐体123に穿孔された多数の挿通孔127から筐体123外部にブラシ状に突出するように構成され、この筐体123外部に突出する除電繊維128をワーク表面に接触摺動させて除電しつつエアー供給管125から供給されて挿通孔127から噴出するエアーによりワーク表面の塵埃を吹き飛ばす方法である(例えば、特許文献1)。この場合、除電繊維128としてはアクリルポリマーをベースにカーボンブラックの粒子を均一に筋状に分散配列させた繊維が使用されている。
【0004】
第2の例は、図5(a)に示すように、塗装ブース201の空気流入ダクト203内にイオン化気体発生器202が配置され、塗装ブース201の床面に強制排出ダクト207を配置して、空気流入ダクト203から流入する空気が外部に排出される。塗装ブース201内にはイオン化気体が充満しており、被塗装面の静電荷を中和する方法である(例えば、特許文献2)。イオン化気体発生器202として用いられる図5(b)に示す除電ガン211は、複数の針電極213が対向電極212の回りに放射状に配置され、均質なイオン分布が得られる。コンプレッサー等の高圧空気発生器に接続する圧縮空気管206がこの筒状の対向電極212に接続され圧縮空気と、高圧電源205からの約7000ボルトの高電圧とが除電ガン211に供給される。
【0005】
第3の例は、図6に示すように、車両を収容して塗装作業を行うための作業空間301と、作業空間301の上部に作業空間301の前端から後端に亘って設けられた給気空間302と、給気空間302の下部に配設されたイオン化気体発生装置304と、イオン化気体発生装置304と作業空間301の間に配設された多孔板306と、作業空間301の後部に隣接された排気装置307と、給気装置303とからなる除電機能付き塗装ブースであって、給気装置303の給気ダクト334を給気空間302の後端面に連結するとともに、給気ダクト334から給気空間302に取り入れた空気をイオン化気体発生装置304を介してイオン化空気として作業空間301に供給し、作業空間301全体において天井から床へ向かう略均一なイオン化気体の流れを形成する方法である(例えば、特許文献3)。
【0006】
第4の例は、図7(a)、(b)に示すように、塗装ラインの下塗塗装又は中塗塗装後の塗装検査部で研削された研ぎ粕を吸塵ブースで車体400表面から除去する際の除塵装置であって、前記吸塵ブース内の吸塵ヘッド410のハウジング414下端部を鍔部状に形成し、この鍔部のうち、搬路上流側の縁部を除く残りの縁部に除電性を有する可撓性のソルディオンゴムテープ(東レ株式会社製)からなる除電カバー416を配設する方法である。(例えば、特許文献4)。
【特許文献1】特開平5−277420号公報
【特許文献2】特開平8−84948号公報
【特許文献3】特開2000−189866号公報
【特許文献4】特開2005−34786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、第1の例(特許文献1)のブラシ状の除電繊維128を用いた塗装方法では、除電繊維128としてのアクリルポリマーにカーボンブラックの粒子を分散配列させた繊維自身の導電性が極めて低いため、例えば車本体又は部品などのワークに蓄えられた静電気の除電機能、即ち、静電防止機能が十分でなく、ブラシ状の除電繊維128とワーク塗装面との間の摩擦により新たに静電気が発生してしまい、塗装ブース内を浮遊する静電気を帯びた粉塵がワーク塗装面に付着し易い。また、車両などの塗装では多層状に重ね塗りが必要であるため、一層毎の除電作業が必要であって非常に面倒である等の問題点がある。
【0008】
また、第2の例(特許文献2)の除電ガン211を用いた塗装方法では、除電ガン211から発生される噴流と被塗装面との間の摩擦により新たに静電気が発生してしまい、塗装ブース201内を浮遊する静電気を帯びた粉塵が被塗装面に付着し易いという問題がある。また、車両などの塗装では、多層状に重ね塗りする際の一層毎の除電作業が必要であり非常に面倒である等々の問題点がある。
【0009】
また、第3の例(特許文献3)のイオン化気体発生装置304及び多孔板306を備えた除電機能付き塗装ブースを用いた塗装方法では、上記第1、第2の例の問題点等を改善し、作業空間301全体において天井から床へ向かう略均一なイオン化気体の流れが形成されるので、作業空間301に収容された車両全体を効率よく除電状態とすることができる。しかしながら、給気装置303、多孔板306、排気装置307、特に給気装置303内に設けられたイオン化気体発生装置304などを備えた除電機能付き塗装ブースは大掛かりで非常に高価な設備となる。また、イオン化気体発生装置304の電極には数千ボルト(5000〜7000V)の高電圧が印加されるため、安全対策として多孔板306が用いられているものの、電極に作業空間301に充満する有機溶剤等が接触した場合には引火爆発の危険性がある。さらに、このような除電機能付き塗装ブースを使用する場合、相当の電力を消費するなど運用コストが嵩む等々の問題点がある。
【0010】
また、第4の例(特許文献4)の除電カバー416を備えた吸塵ヘッド410を用いた塗装方法では、除電カバー416のソルディオンゴムテープ自身の導電性が低いため、例えば車両などの被塗装面に蓄えられた静電気の除電機能、即ち、静電防止機能が十分でなく、吸塵ヘッド410の除電カバー416と被塗装面との間の摩擦により新たに静電気が発生してしまい、塗装ブース内を浮遊する静電気を帯びた粉塵がワーク塗装面に付着し易い。また、車両などの塗装では、多層状に重ね塗りする際の一層毎の除電作業が必要であり非常に面倒である等々の問題点がある。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、被塗装物を塗装する前又は/及び塗装中に亘り、簡易な方法で任意な場所での施工の自由度があり、設備及び運用コストが低く、確実に効率よく被塗装物表面の帯電を除去して塗装の信頼性を確保することが可能な除電シートを用いた塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の除電シートを用いた塗装方法は、清浄性が保持される空間において被塗装物の表面を塗装する際に、構成糸の全部又は一部に極細に延伸した銅繊維糸を用いた織物又は編物からなる清浄な除電シートを用い当該被塗装物に蓄えられた静電気を除電する塗装方法であって、前記被塗装物の塗装に先立ち被塗装物表面に付着した塵埃を除去する第1の除塵工程と、前記塵埃が除去された被塗装物を塗装する前又は/及び塗装中に亘り、前記清浄な除電シートを当該被塗装物表面の全部又は一部に覆い被せることにより当該被塗装物に蓄えられた静電気を除電する除電シート覆被工程と、前記除電シート覆被状態の当該被塗装物表面に再付着した塵埃を除去する第2の除塵工程と、前記被塗装物の除電シートが覆被された部分を塗装する塗装工程に入る直前に、当該塗装部分に覆被された除電シートを除去する除電シート除去工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の除電シートを用いた塗装方法であって、前記清浄性が保持される空間は、塗装ブース内に設けられた作業空間であって、該塗装ブースの一端部には作業空間の全面に亘り清浄な空気を流入する空気供給装置と、他端部には該作業空間内に供給された空気を排気する排気装置とを少なくとも備え、該作業空間内に前記被塗装物を収容するとともに密閉状態としていることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の除電シートを用いた塗装方法であって、前記除電シート除去工程において、前記除電シートは、前記被塗装物表面に少なくとも5分以上覆い被せた後で除去することを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の除電シートを用いた塗装方法であって、前記作業空間に設けられ、上下移動及び水平移動自在に構成され、真空吸引管の先端に多孔板面からなる複数の吸着部を備えたシート把持装置を用いて、前記吸着部で前記除電シートを吸引して把持し、その後吸引解除して該除電シートを離脱することにより、前記被塗装物の任意な場所への覆被あるいは除去を自動的に行なうことを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の除電シートを用いた塗装方法であって、前記除電シートの銅繊維糸は、芯糸に極細の銅繊維を巻き付けてなるカバーリング糸、極細の銅繊維を集束したマルチフィラメント糸、銅繊維束同士を撚り合わせるか、銅繊維束と他の繊維束とを撚り合せてなるスパン糸、又は銅繊維をカットしてなる短繊維と他の繊維との紡毛糸のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、清浄な空間において被塗装物の塵埃を除去した後で、極細に延伸した銅繊維糸を用いた織物又は編物からなり除電性能に優れた除電シートを被塗装物の全部又は一部に塗装前又は/及び塗装中に亘り覆い被せることにより、コロナ放電(自己放電)による電荷の中和効果と、帯電体(被塗装物)に接触することによる直接漏洩との組み合せにより除電(静電防止)効果が確実に得られ、被塗装物に蓄えられた静電気を除電する簡易な塗装方法であるので、塗装施工の自由度があり、設備及び運用コストが低く、確実に効率よく被塗装物表面の帯電を除去して塗装の信頼性を確保することができるという効果がある。
【0018】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様な効果を有するのに加えて、空気供給装置及び排気装置を少なくとも備えた塗装ブース内の清浄な作業空間内に被塗装物を収容するとともに密閉状態としているため、十分な清浄性が保持され、塗装の信頼性が確保されるという効果がある。
【0019】
請求項3の発明によれば、請求項1又は請求項2の発明と同様な効果を有するのに加えて、除電シート除去工程において、除電シートは被塗装物表面に少なくとも5分以上覆い被せた後で除去することにより、被塗装物表面の帯電を十分に除去する効果を確保することができるという効果がある。
【0020】
請求項4の発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項の発明と同様な効果を有するのに加えて、清浄な作業空間においてシート把持装置を用いて人手を介さずに除電シートを被塗装物の任意な場所への覆被あるいは除去を自動的に行なうため、十分な清浄性が保持され塗装の信頼性が確保されるとともに塗装作業の効率が一層高められるという効果を有する。
【0021】
請求項5の発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか1項の発明と同様な効果を有するのに加えて、除電シートの銅繊維糸が芯糸に極細の銅繊維を巻き付けてなるカバーリング糸、極細の銅繊維を集束したマルチフィラメント糸、銅繊維束同士を撚り合わせるか、銅繊維束と他の繊維束とを撚り合せてなるスパン糸、又は銅繊維をカットしてなる短繊維と他の繊維との紡毛糸のいずれかであるため、被塗装物表面の摩擦による静電気の帯電を防止すると同時に帯電した静電気を空気中に放電する除電性能に優れた除電シートが得られるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図示する実施例により具体的に説明する。
【0023】
図1(a)は本発明の除電シートを用いた塗装方法の基本例を示す概念図、(b)は(a)における塗装方法が塗装ブース内で行なわれる例を示す概念図である。
【0024】
本発明の除電シートを用いた塗装方法は、清浄性が保持される空間例えば塗装ブース10内に設けられた作業空間11において車両の本体又は部品などの被塗装物1の表面を塗装する際に、構成糸の全部又は一部に極細に延伸した銅繊維糸を用いた織物又は編物からなる清浄な除電シート2を用い被塗装物1に蓄えられた静電気を除電する塗装方法である。
【0025】
塗装ブース10は、その一端部に作業空間11の全面に亘り清浄な空気を流入する空気供給装置12と、他端部に作業空間11内に供給された空気を排気する排気装置13とを少なくとも備え、作業空間11内に被塗装物1を収容するとともに密閉状態としている。
【0026】
また、塗装ブース10の作業空間11内には、上下移動及び水平移動自在に構成され、真空吸引管14bの先端に多孔板面からなる複数の吸着部14aを備えたシート把持装置14が設けられている。
【0027】
図2(a)は本発明における除電シート2の組織を示す拡大断面図、(b)は本発明における除電シート2とポリエステル生地の帯電量を比較したグラフ例である。図3は除電シート2の構成糸の拡大斜視図で、(a)はカバーリング糸、(b)はマルチフィラメント糸、(c)はスパン糸、(d)は紡毛糸である。
【0028】
除電シート2は、先に本願の発明人及び出願人(いずれも同一人)が提案している特願2002−315090(特開2004−149945)における導電性が良好で、優れた除電(静電防止)性能を備えるとともに金属イオンによる抗菌性も期待できる機能性生地を好適に使用することができる。
【0029】
この機能性生地を適用した除電シート2の生地3は、織物又は編物からなり、その構成糸(織物では経糸又は緯糸、編物では編糸)の全部又は一部には銅繊維糸4が用いられている。図2(a)における生地3は経糸3aと緯糸3bとを交絡してなる織物で、その表面にあらわれる緯糸3bには銅繊維糸4が用いられている。この銅繊維糸4は、導電性に優れた「純銅」からなり、銅繊維糸4を車両1に接触させることにより車両1に帯電した静電気を除去すると同時に、銅繊維糸4自体から発生する銅イオンにより抗菌・防臭機能も得られるため清浄性を保持することもできる。
【0030】
銅繊維糸4は、具体的には、図3(a)に示すように、伸縮性を有するプラスチック繊維糸などからなる芯糸5に極細に延伸した銅繊維6を巻き付けてなるカバーリング糸4aであっても、図3(b)に示すように、極細に延伸した銅繊維6を複数集束したマルチフィラメント糸4bであっても、図3(c)に示すように、銅繊維束同士或いは銅繊維束6′と他の繊維束7とを撚り合わせてなるスパン糸4cであっても、図3(d)に示すように、銅繊維6をカットしてなる短繊維6″と他の短繊維7′との紡毛糸4dであっても、その他の繊維糸形態でもよい。
【0031】
カバーリング糸4aは、銅繊維6がカバーリング側の糸であるため、その太さが10μ〜30μ、伸度が1.26%、引張強度が0.3N(gf)しか期待できないとしても、織物や編物の構成糸として使用して支障をきたすことがないばかりでなく、車両1との接触によるカバーリング側の糸が銅繊維6となるため除電効果は有効に機能するし、銅イオン発生によるイオン効果も最大限に発揮できるものとなる。
【0032】
マルチフィラメント糸4bとスパン糸4cは、単独の銅繊維6の伸度及び引張強度を、集束することにより補い、優れた寸法安定性が得られるようにしている。また、紡毛糸4dは銅繊維からなる短繊維6″が糸周囲にはみ出すため、恰も無数のアンテナを立てたかのような外観を呈し、車両1との接触を効率的に高めることができる。
【0033】
ここで、生地3の除電(静電防止)効果を説明する。図示しないが、静電誘導などにより帯電(+)した車両1に、構成糸の全部又は一部に銅繊維糸4を用いた生地3を近づけると、生地3が車両1と逆の電荷(−)を帯び強い電界が生じ、空気が電離(コロナ放電)し、各々逆電荷の方向へ移動し中和される。このようにして、除電シート2を車両1に覆被し少なくとも5乃至10分以上保持することにより、車両1に蓄えられた静電気を十分に放電して除電効果が得られるのである。
【0034】
例えば、芯糸に極細に延伸した純銅からなる太さ20μの銅繊維6を巻き付けてなるカバーリング糸4aを緯糸に織り込んだ生地3の100cm×50cmサイズの小片(除電シート2の生地)Aと、同サイズの銅繊維糸を用いないポリエステル生地の小片Bを用い、温度20°C、湿度33%の雰囲気下で、それぞれ摩擦布(綿)により摩擦帯電させ、その帯電帯電圧減衰測定法(JIS L−1094−1997)に基づいて、帯電量を測定した結果が、図2(b)に示すグラフである。
【0035】
図2(b)によれば、除電シート2の生地Aでは、計測直後から帯電圧1,100Vである。この値は人体が感じ取れる静電気レベル(4,000V位)より大幅に低いことが判る。これに対し、ポリエステル生地Bでは、計測直後から帯電圧20,000Vに限りなく近くあり、減衰した60秒後の値でも人体が感じ取れる静電気レベルより大幅に高い(15,000V)ことがわかる。
【0036】
したがって、生地3を用いてなる除電シート2を上記したように、車両1に覆被すると、除電シート2はコロナ放電(自己放電)による電荷の中和効果と、帯電体(車両1)に接触することによる直接漏洩との組み合せにより確実に除電(静電防止)する除電効果が得られる。
【0037】
このような除電シート2を用いた本発明の一実施例として塗装ブース10内の作業空間11内に収容された被塗装物1である車両の表面を塗装する場合の塗装方法について、以下に説明する。
【0038】
まず、被塗装物(以下「車両」と言う)1の塗装に先立ち、洗浄後塗装ブース10内の作業空間11内に収容された車両1の表面に付着した塵埃を空気供給装置12から作業空間11内に流入する空気流により十分に除去する(第1の除塵工程)。
【0039】
前記塵埃が除去された車両1を塗装する前に、清浄な除電シート2を車両1表面の全部又は一部例えばボンネット上に覆い被せることにより車両1に蓄えられた静電気を除電する(除電シート覆被工程)。この除電シート覆被状態を少なくとも5乃至10分以上保持することにより、車両1に蓄えられた静電気を十分に除電することができる。
【0040】
したがって、除電シート2は、後述する塗装工程の直前まで、さらには塗装工程中も車両1表面のボンネット上など少なくとも一部に覆被した状態すなわち除電状態を保持することが望ましい。これにより、車両1表面への塵埃の再付着を防止し十分な清浄性が保持され、塗装の信頼性が確保される。
【0041】
そして、塗装工程に入る前に空気供給装置12からの空気流により十分に前記除電シート覆被状態の車両1表面に再付着した塵埃を除去する(第2の除塵工程)。
【0042】
その後、車両1の除電シート2が覆被された部分を塗装する塗装工程に入る直前に、当該塗装部分に覆被された除電シート2を除去する(除電シート除去工程)。
【0043】
次いで、車両1を塗装する(塗装工程)。
【0044】
車両1の塗装ラインにおいては、通常、搬送台車等で車両1を搬送しながら、表面処理、下塗り(電着)、中塗り、上塗りの順序で一連の塗装処理を連続的に行うようにしており、上記各工程の説明における「塗装」は、これらの各処理工程の塗装に順次適用されるものである。
【0045】
また、下塗りや中塗り後においては塗装検査工程で塗装面の検査が行われる。そこで不良が発見されると、サンドペーパー等を使用した修正処理が行われ、塗装不良部位を平滑に削るような作業が行われる。このような修正処理では研ぎ粕が発生するため、この研ぎ粕をいずれも図示しないそれぞれの塗装検査部の下流に配設される除塵ブースなどで除塵装置により除去するようにしている。
【0046】
この際、いずれも図示しないが、エアブロー装置により、車両の近傍から車両表面に向けて搬送方向と逆の斜め方向に向けてエアを吹き付け、車両表面から飛散した塵埃を例えば筒状のバキューム装置で吸引し、ブース外に排出する除塵装置が用いられる。
【0047】
このような除塵工程においても車両に蓄えられた静電気を除電することが望ましく、清浄な除電シートを車両表面の少なくとも一部に覆い被せることにより車両に蓄えられた静電気を除電することができる。
【0048】
以上説明した本発明によれば、従来の前記諸問題点を改善し、極細に延伸した銅繊維糸を用いた織物又は編物からなり除電性能に優れた除電シート2を被塗装物1の全部又は一部に塗装前又は/及び塗装中に亘り覆い被せることにより被塗装物に蓄えられた静電気を除電する簡易な塗装方法であるので、この方法は十分に清浄性が保持される塗装ブースあるいは除塵ブース内に限らず比較的清浄な他の場所においても適用することができる塗装施工の自由度が有り、設備及び運用コストが低く、確実に効率よく被塗装物表面の帯電を除去して塗装の信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)は本発明の除電シートを用いた塗装方法の基本例を示す概念図、(b)は(a)における塗装方法が塗装ブース内で行なわれる例を示す概念図である。
【図2】(a)は本発明における除電シートの組織を示す拡大断面図、(b)は本発明における除電シートとポリエステル生地の帯電量を比較したグラフ例である。
【図3】本発明の除電シートの構成糸の拡大斜視図で、(a)はカバーリング糸、(b)はマルチフィラメント糸、(c)はスパン糸、(d)は紡毛糸である。
【図4】従来の第1の例(特許文献1)における除電装置の内部構造を示す縦断面図である。
【図5】(a)は従来の第2の例(特許文献2)における塗装ブース内にイオン化気体が充満した状態の概略説明図、(b)は(a)のイオン化気体発生器である除電ガンの縦断面図である。
【図6】従来の第3の例(特許文献3)における塗装ブースにおけるイオン化空気の流れを示す縦断面図である。
【図7】(a)は従来の第4の例(特許文献4)における吸塵ブース内の吸塵ヘッドの側面図、(b)は(a)の吸塵ヘッドの正面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 被塗装物(車両)
2 除電シート
3 (除電シートの)生地
3a 経糸
3b 緯糸
4 銅繊維糸
4a カバーリング糸
4b マルチフィラメント糸
4c スパン糸
4d 紡毛糸
5 芯糸
6 極細の銅繊維
6′ 銅繊維束
6″ 銅繊維をカットした短繊維
7 他の繊維束
7′ 他の短繊維
A 本願発明の除電シート
B ポリエステル生地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
清浄性が保持される空間において被塗装物の表面を塗装する際に、構成糸の全部又は一部に極細に延伸した銅繊維糸を用いた織物又は編物からなる清浄な除電シートを用い当該被塗装物に蓄えられた静電気を除電する塗装方法であって、
前記被塗装物の塗装に先立ち被塗装物表面に付着した塵埃を除去する第1の除塵工程と、
前記塵埃が除去された被塗装物を塗装する前又は/及び塗装中に亘り、前記清浄な除電シートを当該被塗装物表面の全部又は一部に覆い被せることにより当該被塗装物に蓄えられた静電気を除電する除電シート覆被工程と、
前記除電シート覆被状態の当該被塗装物表面に再付着した塵埃を除去する第2の除塵工程と、
前記被塗装物の除電シートが覆被された部分を塗装する塗装工程に入る直前に、当該塗装部分に覆被された除電シートを除去する除電シート除去工程と、を有することを特徴とする除電シートを用いた塗装方法。
【請求項2】
前記清浄性が保持される空間は、塗装ブース内に設けられた作業空間であって、
該塗装ブースの一端部には作業空間の全面に亘り清浄な空気を流入する空気供給装置と、他端部には該作業空間内に供給された空気を排気する排気装置とを少なくとも備え、該作業空間内に前記被塗装物を収容するとともに密閉状態としていることを特徴とする請求項1記載の除電シートを用いた塗装方法。
【請求項3】
前記除電シート除去工程において、
前記除電シートは、前記被塗装物表面に少なくとも5分以上覆い被せた後で除去することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の除電シートを用いた塗装方法。
【請求項4】
前記作業空間に設けられ、上下移動及び水平移動自在に構成され、真空吸引管の先端に多孔板面からなる複数の吸着部を備えたシート把持装置を用いて、
前記吸着部で前記除電シートを吸引して把持し、その後吸引解除して該除電シートを離脱することにより、前記被塗装物の任意な場所への覆被あるいは除去を自動的に行なうことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の除電シートを用いた塗装方法。
【請求項5】
前記除電シートの銅繊維糸は、芯糸に極細の銅繊維を巻き付けてなるカバーリング糸、極細の銅繊維を集束したマルチフィラメント糸、銅繊維束同士を撚り合わせるか、銅繊維束と他の繊維束とを撚り合せてなるスパン糸、又は銅繊維をカットしてなる短繊維と他の繊維との紡毛糸のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の除電シートを用いた塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−55321(P2008−55321A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235443(P2006−235443)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(595020355)株式会社セイホウ (3)
【Fターム(参考)】