説明

除電器

【課題】 電圧印加式の除電器において、イオン送風用のファンの風量を大きくせずに、オゾン発生量の増加を抑えつつ、除電性能を向上させる。
【解決手段】 正負のイオンを発生させる放電電極と、前記放電電極と対向する低電位電極と、交流高電圧を発生する交流高電圧電源とを有し、前記交流高電圧電源から発生させた交流高電圧を前記放電電極と低電位電極間に印加させてコロナ放電を発生させる除電器において、前記放電電極は複数のイオン発生部と、少なくとも一つの放電電位安定部を有することを特徴とする除電器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流高電圧を放電電極に印加して正負イオンを発生させ、その正負イオンによって対象物の静電気を低減する交流高電圧印加式の除電器に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の電圧印加式の除電器で除電性能を簡単に向上させるために、一般的には第1の従来例のように、イオン送風用のファンの風量を大きくして、イオン発生電極で発生したイオンを強制的に製品から吹出す方法がとられている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、除電対象物が風に飛ばされやすい物体、例えば粉体などの場合は、大風量の送風用ファンを使用することはできない。
【0003】
すなわち、風に飛ばされやすい物体を除電するには、イオン送風用のファンを使用しないか、もしくは風量の弱いファンを使用する必要がある。この場合、除電性能を向上させるためには、一般的にはイオン発生電極への印加電圧を高くしてイオンがより多く発生させる方法がとられている。しかしながら、通常、電圧印加式の除電器はイオンと共にオゾンも発生させており、印加電圧を高くするとオゾン発生量も増加させてしまう。
【0004】
オゾンは、濃度が高くなると人体に悪い影響を与えてしまう。したがって、イオン発生電極への印加電圧を高くして除電性能を向上させようとした場合、オゾン発生量も増加させてしまうので、人体へのオゾン影響の面から限界が生じてしまう。特に高周波数の高電圧を使用する場合は、オゾン発生量が元々多いため問題となる。
【0005】
その対策として、第2の従来例のように、接地電極を絶縁体で被覆する等してイオン発生電極と接地電極間の絶縁距離を長くして、印加電圧を高くする方法があるが、この方法では構造が複雑になることに加え、樹脂を絶縁体として使用した場合、樹脂は耐放電性が弱いため、放電による絶縁破壊を起こす恐れがある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、第3の従来例のように、一般的にイオン発生器の用途においては、オゾンを発生させないために接地電極を使用しない。その場合、オゾン発生量増加に最も影響を与える接地電極への放電エネルギーがなくなるため、接地電極への放電を利用した場合と比較して、大幅にオゾン発生量が減少する。しかしながら、接地電極がない場合、正負イオンの発生量の割合が不均一になるため、除電器として使用すると対象物を正負どちらかの電位に帯電させてしまう恐れがある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−100596号公報(第3頁、第1図)
【特許文献2】特開2000−123956号公報(第4頁、第1図)
【特許文献3】特開2002−260822号公報(第5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、電圧印加式の除電器において、イオン送風用のファンの風量を大きくせずに、イオン発生を増加させ、オゾン発生量の増加を抑えつつ、除電性能を向上させることである。
【0009】
上記問題を解決する手段として、第1の従来例である「イオン送風用のファンの風量を大きくして、イオン発生電極で発生したイオンを強制的に製品から吹出す」方法については、除電性能は向上するが、除電対象物が風に飛ばされやすい物体の除電に使用すると、対象物を飛散させてしまうため不適切である。
【0010】
また、第2の従来例である「接地電極を絶縁体で被覆する等してイオン発生電極と接地電極間の絶縁距離を長くして、印加電圧を高くする」方式については、構造が複雑となることに加え、樹脂を絶縁体として使用した場合、樹脂は耐放電性が低いため放電による絶縁破壊が発生する恐れがある。
【0011】
また、第3の従来例である「接地電極を使用しない」方式については、接地電極がないために正負イオン発生量の割合が不均一になる。一般的に正イオンよりも負イオンの方が、粒子が小さく拡散しやすいので、この方式を除電器に使用すると、対象物を負電位に帯電させる恐れがある。また、第1、2の従来例のようにイオン発生電極の全ての先端部に接地電極を設けた場合、イオン発生電極の電位は安定するが、全ての先端部と接地電極の間でコロナ放電が起こるため、オゾン発生量が増加してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような問題を解決し、尚且つ目的を達成するために、請求項1記載の発明によれば、正負のイオンを発生させる放電電極と、前記放電電極と対向する低電位電極と、交流高電圧を発生する交流高電圧電源とを有し、前記交流高電圧電源から発生させた交流高電圧を前記放電電極と低電位電極間に印加させてコロナ放電を発生させる除電器において、前記放電電極は複数のイオン発生部と、少なくとも一つの放電電位安定部を有することを特徴とするため、全ての前記イオン発生部を放電電位安定部として、低電位電極との間にコロナ放電を発生させる除電器と比較すると、オゾン発生量を抑えて、なおかつイオンを増加させることできる。
【0013】
また、請求項2記載の発明によれば、請求項1に記載の除電器において、前記放電電位安定部のみ、所定の空間距離にて前記低電位電極と対向し、コロナ放電を発生させることを特徴とするため、放電電極と低電位電極との間で電位を安定させることができ、その結果、オゾン発生量の増加を抑えつつ、除電性能を向上させることが可能となる。
【0014】
また、請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の除電器において、イオン発生部は鋭角状の略三角形形状で形成していることを特徴とするため、先端部に電界が集中しやすい形状であるため、イオン発生を安定して供給することが可能となる。
【0015】
また、請求項4記載の発明によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の除電器において、前記低電位電極は少なくとも1個以上の鋭角状の先端部を持つことを特徴とするため、両電極先端部同士の点と点での安定した強い電界が生じる。そのため、鋭角状の先端部を持たない形状に比べて、両電極間距離を離すことが可能となる。両電極間距離を離すことで、イオン発生電極から低電位電極への放電エネルギーを減少させることができ、その結果オゾン発生量も減少させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正負のイオンを発生させる放電電極と、前記放電電極と対向する低電位電極と、交流高電圧を発生する交流高電圧電源とを有し、前記交流高電圧電源から発生させた交流高電圧を前記放電電極と低電位電極間に印加させてコロナ放電を発生させる除電器において、前記放電電極は複数のイオン発生部と、少なくとも一つの放電電位安定部を有することを特徴とするため、イオン送風用のファンの風量を大きくせずに、イオン発生を増加させ、オゾン発生量の増加を抑えつつ、除電性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
正負のイオンを発生させる放電電極と、前記放電電極と対向する低電位電極と、交流高電圧を発生する交流高電圧電源とを有し、前記交流高電圧電源から発生させた交流高電圧を前記放電電極と低電位電極間に印加させてコロナ放電を発生させる除電器において、前記放電電極は複数のイオン発生部と、少なくとも一つの放電電位安定部を有する薄い板状であり、前記放電電位安定部のみ、所定の空間距離にて前記低電位電極と対向した構造を最良の形態とする。
【実施例】
【0018】
図1に、本発明の除電器の実施例1を示す。本除電器6は、高電圧発生器1収納部6a、イオン発生用風路6bとイオン吹出口6cから成り、高電圧発生器1から高電圧出力線5aを介して放電電極2aに交流の高電圧を印加し、高電圧発生器1のGND電位に接続されたGND出力線5bに接続された低電位電極2bと放電電極2aの放電電位安定部Aとの間にコロナ放電を発生させて、放電電極2aから正イオン及び負イオンを発生させる。発生した正イオン及び負イオンは、ファン7からの送風を利用してイオン吹出口6cから除電器6外部へ送出され、対象物の静電気を低減する。
また、放電電極2aと低電位電極2bの三次元的に配置して空間距離を稼いでいる。このようにして、コンパクトな大きさで、イオン送風用のファンの風量を大きくせずに、イオン発生を増加させ、なおかつオゾン発生量の増加を抑えることができる。
【0019】
なお、本発明に使用する高電圧発生器1は、+入力リード線3と−入力リード線4間に印加された入力電圧を、高電圧発生器1内の圧電トランスで昇圧し、高電圧出力線5aから交流の高電圧を発生させるものである。
【0020】
また、高電圧発生器1は出力電圧調整手段を有しており、5kVp−p〜12kVp−pの範囲で放電電極2aへの印加電圧を可変することができ、それに応じて放電電極2aからの正負イオン発生量も変化する。本実施例1では印加電圧を6.6kVp−pに設定している。ここで、出力電圧測定には、岩通社製の高圧プローブHV−P30を使用した。
【0021】
次に、本除電器に使用しているファン7は、大きさは25mm角で、風量は0.04m/分程度の小型のファンである。
【0022】
また、イオン発生用風路6bのエアー吸込口には、25mm角の埃除去用フィルター8が設置されており、本フィルター8のメッシュサイズは1.5mm角であり、このメッシュを通過できない大きさの埃は6bへ進入しない。
【0023】
図2に、本実施例1に使用する放電電極2aの概略図を、図3に、本実施例1に使用する低電位電極2bを示す。電極2a、2bは、厚さ0.2mmのステンレスの板を加工したものであり、先端部は電界が集中し易いように鋭利にしてある。
また、複数の先端部A、B、Cを設けているので、イオン発生を増加することができる。
【0024】
図4に、実施例1の放電電極2aと低電位電極2bとの位置関係図を示す。放電電極2aは、尖った鋭角状の放電電位安定部Aとイオン発生部B、Cを有し、放電電位安定部Aと低電位電極2bの鋭角状の先端部とは対向するように配置され、両先端部の距離L1は10mmである。また、イオン発生部B及びCは、放電電位安定部Aよりも低電位電極2bから離れた位置に配置され、低電位電極2bとの距離はそれぞれ、L2=14mm、L3=18mmに設定している。
前述のように、放電電位安定部Aと低電位電極2bとで、安定的にコロナ放電が行われるような距離で設定されている。
【0025】
ここで、放電電極2aの各先端部A、B、Cから低電位電極2bへ向かう放電エネルギーは、ほぼ距離の2乗に反比例するので、放電電位安定部Aからの放電エネルギーPが最も強く、イオン発生部Bからの放電エネルギーはP/(1.4×1.4)、イオン発生部Cからの放電エネルギーはP/(1.8×1.8)と、低電位電極2bからの距離が大きくなるほど放電エネルギーは小さくなる。
【0026】
一般的に、放電電極2aの鋭角状のイオン発生部が多くなると、イオン発生量は多くなることが知られており、本実施例1の全ての先端部A、B、Cでの正負イオンの発生総量、つまり放電エネルギーが等しいと考えると、イオン発生部B及びCから低電位電極2bへ向かう放電エネルギーは放電電位安定部Aよりも小さいが、逆に除電器外部に向かう放電エネルギーの割合は放電安定部Aよりも大きくなっていると考えられる。
【0027】
また、放電電極2aの先端部A、B、Cから低電位電極2bへ向かう放電エネルギーが大きくなればなるほど、オゾン発生量は多くなるため、低電位電極2bからの距離が小さいほどその放電エネルギーは大きくなり、オゾン発生量は多くなる。したがって、本実施例1では、低電位電極との距離が一番近い放電電位安定部Aとで安定的にコロナ放電が行われ、支配的にオゾンを発生する。しかし、低電位電極との距離が遠くなるイオン発生部B、Cの順にオゾン発生量が大きく減少する。その変化の割合は、前述した放電電極2aの先端部から低電位電極2bへの放電エネルギーと同様、ほぼ距離の2乗に反比例する。
【0028】
以上のことから、イオン発生部C、B、放電電位安定部Aの順に、正負イオン発生量のオゾン発生量に対する割合が大きく、つまり正負イオンの発生効率が良いことが分かる。
【0029】
図5に、本実施例1の除電時間及びオゾン濃度の測定結果を示す。本測定で除電時間を測定するための帯電プレートモニタには、ヒューグルエレクトロニクス社製のMODEL700Aを使用し、正電荷除電時間(+1,000Vを+100Vまで減少させる時間)、負電荷除去時間(−1,000Vを−100Vまで減少させる時間)をそれぞれ測定した。ここで、イオン吹出口6cから吹出されたイオンが帯電プレートの中央に当たり、イオン吹出口6cと帯電プレートモニタとの距離は10cmになるように設置した。
【0030】
また、オゾン発生量測定には、荏原実業社製オゾン濃度計EG−2001Eを使用し、イオン吹出口6cから送出されたエアーを漏斗状の筒で収集し、1.5L/分のエアーでオゾン濃度計に吸引して測定した。
【0031】
ここでは、比較用として図6に示す従来例1の除電器及び図7に示す従来例2の除電器でも同様に試験した。本従来例1の除電器は、放電電極の鋭角状の先端部全てに対向するように、低電位電極の鋭角状の先端部を配置し、対抗する両電極の先端間距離は全て約10mmとしてある。同様に本従来例2の除電器も、放電電極の鋭角状の先端部全てに対向するように低電位電極を配置し、全ての放電電極の先端部と低電位電極との最短距離は全て約10mmとしてある。
【0032】
図5から分かるように、本実施例1の除電器は、従来例1の除電器及び従来例2の除電器と比較すると、正電荷及び負電荷の除電時間はほぼ等しいが、オゾン発生量は少ないことが分かる。
【0033】
本実施例1の放電電位安定部Aにのみ低電位電極2bを対向させた構造は、従来例1、2のような全ての先端部と低電位電極2bとの距離が等しい構造と比較すると、除電時間、すなわち正負イオン発生量をほぼ等しく調整した場合、オゾン発生量が少なくなることが分かる。
【0034】
低電位電極2bから10mmの距離での先端部から低電位電極2bへ向かう放電エネルギーをPとすると、従来例1、2の放電エネルギーは約P×3となるが、本実施例1の放電エネルギーは約P×1.96となり、3つの例のオゾン発生量の実測値の割合とほぼ等しいことが分かる。
【0035】
つまり、本実施例1と従来例1、2は、イオン吹出口6cから放出される正負イオンの量及び除電器外部に向かう放電エネルギーはほぼ等しいため、除電時間がほぼ等しいが、低電位電極2bに向かう放電エネルギーに差があるために、オゾン発生量に差が生じていると考えられる。
【0036】
また、図8に示す放電電極2cを示す。ここでは先端部D、E、Fの長さを変えている。この長さを変えることにより低電位電極2bを先端部と対向するように配置してもイオン・オゾンの発生量も変えることができる。つまり本実施例1の放電電極2aの代わりに、図8に示す放電電極2cを用いて、前述したように放電電位安定部Dに低電位電極2bが対向するように配置しても実施例1と同様の結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の除電器により、イオン送風用のファンの風量を大きくせずに、オゾン発生量の増加を抑えつつ、除電性能を向上させることで、粉体等の風に飛ばされやすい物体の静電気を効率良く除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の除電器の実施例1である。
【図2】本実施例1に使用する放電電極2aの概略図である。
【図3】本実施例1に使用する低電位電極2bの概略図である。
【図4】実施例1の放電電極2aと低電位電極2bとの位置関係図である。
【図5】本実施例1の除電時間及びオゾン濃度の測定結果である。
【図6】従来例1の除電器である。
【図7】従来例2の除電器である。
【図8】放電電極2cの概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1…高電圧発生器、2a…放電電極、2b…低電位電極、2c…放電電極
3…+入力リード線、4…−入力リード線、
5a…高電圧出力線、5b…GND出力線、6…除電器、
6a…高電圧発生器1収納部、6b…イオン発生用風路、6c…イオン吹出口、
7…ファン、8…埃除去用フィルター、
A…放電電位安定部、B,C…イオン発生部、
D…放電電位安定部、E,F…イオン発生部、
L1…放電電位安定部Aと低電位電極2b先端部との距離
L2…イオン発生部Bと低電位電極2b先端部との距離
L3…イオン発生部Cと低電位電極2b先端部との距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負のイオンを発生させる放電電極と、前記放電電極と対向する低電位電極と、交流高電圧を発生する交流高電圧電源とを有し、前記交流高電圧電源から発生させた交流高電圧を前記放電電極と低電位電極間に印加させてコロナ放電を発生させる除電器において、前記放電電極は複数のイオン発生部と、少なくとも一つの放電電位安定部を有することを特徴とする除電器。
【請求項2】
請求項1に記載の除電器において、前記放電電位安定部のみ、所定の空間距離にて前記低電位電極と対向し、コロナ放電を発生させることを特徴とする除電器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の除電器において、イオン発生部は鋭角状の略三角形形状で形成していることを特徴とする除電器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の除電器において、前記低電位電極は少なくとも1個以上の鋭角状の先端部を持つことを特徴とする除電器。






















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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