説明

除電装置

【課題】 ガラス基板やウェーハの表面の帯電を効果的に除去する除電装置を提供する。
【解決手段】 減圧雰囲気に維持された直管型チューブ3内に電子ビーム6を放出するエミッタ4を配設し、また電子ビーム6の照射を受けて軟X線を発生するタングステンからなるターゲット膜7をチューブ内面に形成した除電装置であって、前記チューブには多数の窓部8が形成され、この窓部は前記ターゲット膜7にて覆われ、この窓部を覆うターゲット膜はベリリウム(Be)膜9で外側から保護されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば帯電した半導体ウェーハ、ガラス基板或いはフィルムから静電気を除去したり、クリーンルーム内を除電する除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ、ガラス基板或いはフィルムは搬送中にローラなどとの接触によって静電気が発生し、静電気によって表面に微細なゴミなどが付着しやすい。
【0003】
また、静電チャックによって吸着された半導体ウェーハやガラス基板に荷電が残留しているとなかなか静電チャックから引き剥がすことができない。
【0004】
このため、従来からコロナ放電によってイオンを発生させ、このイオンによって帯電した電荷を中和したり、アースされた除電バーを半導体ウェーハなどに接触させているが、前者の場合は放電電極からの微粒子の発生、オゾンの発生、イオン極性の偏りなどの問題があり、後者はスパークが発生して製品歩留りの低下を招いている。
【0005】
上記の不利を解消する手段として、特許文献1には、超音波霧化現象を利用して微小ミストの生成と帯電を同時に行い、得られた微小ミストを帯電体に吹きつけて除電する内容が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には軟X線を利用した除電装置が開示されている。この除電装置は図9に示すように、真空状態が維持されたケース(チューブ)の一端をX線が透過する基体で閉塞し、この基体上にタングステン(W)からなるターゲット薄膜を形成し、更にフィラメント(電子源)とターゲット薄膜との間にグリッド電極を配置し、フィラメントから発せられた電子線をターゲット薄膜に照射し、発生した軟X線を前記基体を透過して外部に照射するようにしている。
【特許文献1】特開2005−71899号公報
【特許文献2】特許第2749202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるように、帯電した微小な水滴によって除電を行う場合には、除電に寄与した水滴が除電対象物に付着して除電対象物の表面を濡らすおそれがある。
【0008】
特許文献2に開示される軟X線を用いた除電装置は、ケース内部を高真空に維持する必要がある。このためケースの一部を構成する基体も真空が破壊されないだけの厚みが要求される。このためベリリウム(Be)などの軽い金属を選択することが考えられる。しかしながら、厚みが厚くなると軟X線が透過しにくくなるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る除電装置は、減圧雰囲気に維持されたチューブ内に電子ビームを放出するエミッタを配設し、前記電子ビームの照射を受けて軟X線を発生するターゲット膜を前記チューブ内面に形成した除電装置において、前記チューブには複数の窓部が形成され、この窓部は前記ターゲット膜にて覆われ、この窓部を覆うターゲット膜はベリリウム(Be)膜で外側から保護された構成とした。
【0010】
斯かる構成とすることで、ターゲット膜で発生した軟X線は薄厚のベリリウム(Be)を透過して外部に照射される。
【0011】
前記チューブとしては、パイレックス(登録商標)などのガラス製直管型チューブが除電装置としては好ましい。この場合、エミッタは棒状をなすナノカーボン電極とするのが好ましい。また、前記チューブとしては、偏平なボックス状であってもよい。
【0012】
更に、チャージアップを防ぐとともに電子ビームの幅をコントロールするため、前記エミッタをターゲット膜を形成したチューブ内面と対向するチューブ内面に寄った位置に配置し、その両側にゲート電極を配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
従来の除電装置にあってはチューブ(基体)自体の厚みが厚いため、透過する軟X線の量が少なく、十分な除電効果を発揮することができなかった。しかしながら、本発明に係る除電装置によれば、チューブに窓部を形成し、この窓部をターゲット膜で覆うとともに、薄厚のベリリウム(Be)膜で窓部に露出するターゲット膜を保護したため、内外の圧力差によって真空が破壊されることがなく、またベリリウムの原子は軽いため軟X線が透過しやすい。したがって、効率よく軟X線を取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る除電装置を適用したガラス基板搬送ラインの側面図、図2は本発明に係る除電装置の斜視図、図3は本発明に係る除電装置の断面図、図4(a)は本発明に係る除電装置の要部の拡大断面図、(b)は(a)を下から見た図、図5(a)〜(c)はターゲット膜からベリリウム(Be)膜形成までの工程を説明した図、図6はエミッタとしてのナノカーボン電極表面の拡大写真である。
【0015】
図1において、本実施例に係る除電装置1は直管タイプであり、上方及び側方を保護ケース2で覆われている。また搬送ラインは多数のローラ100を平行に配置して構成され、このローラ100上をガラス基板(半導体ウェーハ)Wが搬送される。
本発明に係る除電装置1は軟X線をガラス基板Wに向けて照射する。軟X線が空気中に存在する分子(原子)に当たると、分子(原子)から電子が飛び出し、プラスイオンになる。また飛び出した電子は他の分子(原子)に結合することで、当該他の分子(原子)はマイナスイオンになる。このようにして軟X線によって、プラスイオンとマイナスイオンが等量づつ生じる。
【0016】
ここで、ガラス基板Wの表面がプラスに帯電していると、前記軟X線によって生じたマイナスイオンがガラス基板Wの表面のプラスの帯電と結合して中和する。
【0017】
前記除電装置1は図2および図3に示すように、減圧状態(1〜1000Torr)に維持されたパイレックス製直管型チューブ3内にエミッタ4を挿入している。エミッタ4はステンレスなどの棒状電極の表面に、ナノカーボン層を形成している。このナノカーボン層は図6に示すように、先端が尖っており、この先端から電子が大量且つ容易に放出される。
【0018】
図6に示すようなナノカーボン層を形成するには、プラズマ雰囲気中にCH+Hガスを導入し、プラズマによってCHを活性化し、基体表面にナノカーボン層を形成する。
【0019】
また、エミッタ4の両脇にはゲート電極5、5を配置し、エミッタ4から放出される電子ビーム6の幅をコントロールしている。ゲート電極5としては、図7に示すように、チャージアップ防止用のエミッタ4の背後に更にもう1本配置してもよい。
【0020】
前記チューブ3には窓部8が形成され。この窓部8を覆うようにタングステンからなるターゲット膜7が形成され、このターゲット膜7を保護するベリリウム(Be)膜(シート)9が外側から貼着されている。
【0021】
前記ターゲット膜7を形成するには、図5(a)に示すように、チューブ3にエッチングなどによって窓部8を形成し、次いで(b)に示すように窓部8を外側からレジスト膜Rで塞ぎ、この状態で(c)に示すように、スパッタリング、CVD或いはアトマイズ法によって窓部内にその一部が埋まるようにターゲット膜7を形成し、次いでレジスト膜Rを除去した後、ベリリウム(Be)膜9を貼り付ける。
【0022】
前記窓部8の径は200〜800μm、チューブ3の厚みは0.5〜1.0mmとし、ベリリウム(Be)層9の厚さはチューブ3の厚みよりも薄い。ただし、チューブ3内の真空が破壊されない厚みは確保している。
【0023】
以上において、ターゲット電圧を4kV以上、ターゲット電流を60μA以上として電子ビームをターゲット膜7に衝突させると、1〜数百Åの波長の軟X線が発生し、発生した軟X線はベリリウム(Be)層9を透過して外部に出てくる。
【0024】
図8は別実施例を示す断面図であり、この別実施例はチューブ3が断面円形ではなく、偏平な矩形状をなしている。そして、チューブ3の上部には複数のエミッタ4を配置し、またエミッタ4と対向する面に窓(貫通穴)8を形成し、この窓8内に薄厚のベリリウム(Be)の薄膜を形成し、真空を維持するようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る除電装置を適用したガラス基板搬送ラインの側面図
【図2】本発明に係る除電装置の斜視図
【図3】本発明に係る除電装置の断面図
【図4】(a)は本発明に係る除電装置の要部の拡大断面図、(b)は(a)を下から見た図
【図5】(a)〜(c)はターゲット膜からベリリウム(Be)膜形成までの工程を説明した図
【図6】エミッタとしてのナノカーボン電極表面の拡大写真
【図7】別実施例を示す断面図
【図8】別実施例を示す断面図
【図9】軟X線を用いた除電装置の概念図
【符号の説明】
【0026】
1…除電装置、2…保護ケース、3…直管型チューブ、4…エミッタ、5…ゲート電極、6…電子ビーム、7…ターゲット膜、8…窓部、9…ベリリウム(Be)膜、100…搬送ラインのローラ、R…レジスト膜、W…ガラス基板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気に維持されたチューブ内に電子ビームを放出するエミッタを配設し、前記電子ビームの照射を受けて軟X線を発生するターゲット膜を前記チューブ内面に形成した除電装置において、前記チューブには複数の窓部が形成され、この窓部は前記ターゲット膜にて覆われ、この窓部を覆うターゲット膜はベリリウム(Be)膜で外側から保護されていることを特徴とする除電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の除電装置において、前記チューブはガラス製の直管型チューブであり、前記エミッタは棒状をなすナノカーボン電極であることを特徴とする除電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の除電装置において、前記エミッタは前記ターゲット膜を形成したチューブ内面と対向するチューブ内面に寄った位置に配置され、且つエミッタの両側にゲート電極を配置したことを特徴とする除電装置。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−92695(P2010−92695A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261075(P2008−261075)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【特許番号】特許第4408941号(P4408941)
【特許公報発行日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(598164267)株式会社ライフ技術研究所 (7)
【出願人】(506376218)ケイ・アンド・アイ有限会社 (14)
【Fターム(参考)】