説明

除電装置

【課題】クリーンルームでの使用に適した、発塵の少ない又はゼロである除電装置(例えばイオナイザ)を提供する。
【解決手段】空気に高電圧を印加して電離させ、イオンを発生させるための少なくとも一の放電電極3と、前記放電電極3に電力を供給するための電源1とを有する除電装置において、前記放電電極3の少なくとも一部が、バナジン酸塩を含む混合物を調製した後に溶融及び急冷して得られる導電性バナジン酸塩ガラス、又は当該ガラスに対して更にアニーリング処理を施した導電性バナジン酸塩ガラスを、水系液体媒体中に浸漬する工程により得られる導電性バナジン酸塩ガラスから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正または負に帯電している帯電体の電荷を除電するための除電装置(例えば、イオナイザ)に関し、特に、低発塵性の除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術開発の進歩により、集積回路はその集積度を著しく高めている。しかし、集積回路の集積度が高まると、回路の線幅が非常に微小になるため、製造過程において外部の影響を受けやすく、歩留まりが悪くなる。とくに、埃などの浮遊微粒子が回路上に付着すると、回路の断線もしくは短絡が発生してしまう。そこで、LSI工場や電子機器組立工場においては、工場全体もしくはその一部をクリーンルームにして、工場内の浮遊微粒子をできるだけ減少させている。ただし、クリーンルーム内は製品の変質を押さえ、微生物の繁殖を防ぐために、低湿度(40〜45%RH程度)に保たれているので、静電気が発生しやすい。例えば、クリーンルーム内の人の動き、空気の流れ(風)等の要因により、人、設備等に静電気が発生する。また、発塵を防止し、耐薬品性を高めるために、プラスチック等の絶縁体が数多く使用されているので、さらに静電気が発生しやすい環境になっている。静電気が発生すると、回路を設けたウェーハが帯電してクリーンルーム内に僅かに残った微粒子を吸引してしまうので、品質の劣化を招く。また、放電によってウェーハ上の回路が破壊されることがある。さらに、電磁波によって製造装置やコンピューターの誤動作を招いたり、電撃ショックにより作業者の作業能率が低下するおそれもある。
【0003】
このような静電気障害を防ぐために、クリーンルーム内に発生する静電気を取り除かなければならないが、静電気を除去する方法としてまず考えられるのが、帯電する物体を接地して、個々の物体ごとに除電する方法である。しかし、この方法は機材が導電性で固定されたものの場合にのみ有効なので、ウェーハやそれを運ぶキャリアのように複数個の独立した物体で、次々に搬送されていくものの場合は、接地によって電荷を逃がす方法をとるのは困難である。
【0004】
そこで、従来から、接地のように個々の物体ごとに除電するのではなく、クリーンルーム内の空気を電離し、イオン化することにより静電気を中和する方法がおこなわれている。この空気イオン化による除電方法は、帯電する物体に接触することなく、広範囲な空間をまとめて除電できるので、クリーンルーム内の除電に適している。空気をイオン化する方法には、コロナ放電、放射線、紫外線等によるものが知られているが、中でもコロナ放電による方法は他の方法に比べて安全で、安価におこなうことができるので、広く利用されている。
【0005】
このようなコロナ放電により空気のイオン化をおこない、物体表面の静電気を中和する装置として、従来から提案されているのが、クリーンルーム用イオナイザーである。このクリーンルーム用イオナイザーは、クリーンルームの天井に設けられた複数のイオナイザー電極と、このイオナイザー電極に電圧を印加する装置から構成されている。そして、このような構成を有するクリーンルーム用イオナイザーは、イオナイザー電極に高電圧を印加したときに生じるコロナ放電によってイオンを発生させ、このイオンによって静電気を中和させている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−325894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のクリーンルーム用イオナイザーは、イオナイザーの電極自体が発塵性を有しており、これにより、クリーンルーム内の空気清浄度が低下する等の問題が発生していた。そこで、本発明は、例えば、クリーンルームでの使用に適した、発塵の少ない又はゼロであるイオナイザーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、
空気に高電圧を印加して電離させ、イオンを発生させるための少なくとも一の放電電極と、
前記放電電極に電力を供給するための電源部と、
を有する除電装置において、
前記放電電極の少なくとも一部が、バナジン酸塩を含む混合物を調製した後に溶融及び急冷して得られる導電性バナジン酸塩ガラス又は当該ガラスに対して更にアニーリング処理を施した導電性バナジン酸塩ガラスを、水系液体媒体中に浸漬する工程により得られる導電性バナジン酸塩ガラスから構成されていることを特徴とする除電装置である。
【0008】
ここで、本明細書における各用語の意味について説明する。まず、「導電性ガラス」とは、電気伝導度が少なくとも1×10−13S/cm(好適には少なくとも1×10−9S/cm、より好適には少なくとも1×10−7S/cm)であるガラスを指す。「導電性ガラス」とは、例えば、イオン伝導ガラス、電子伝導ガラスや、前記二種の伝導性が共存する混合伝導型ガラス等が挙げられる。「イオン伝導ガラス」としては、特に限定されないが、例えば、AgI―AgO―B、AgI−AgO−P、AgI−AgO−WO、LiCl−LiO−B等を含むガラスが挙げられる。「電子伝導ガラス」としては、例えば、荷電子ホッピング伝導ガラス、バンドギャップ伝導ガラス等が挙げられる。荷電子ホッピング伝導ガラスとしては、特に限定されないが、バナジン酸塩を含むガラスが挙げられる。バンドギャップ伝導ガラスとしては、特に限定されないが、Ge−Te−S、Ge−Te−Se、Ge−Te−Sb等のカルコゲナイドガラスが挙げられる。「混合伝導型ガラス」としては、特に限定されないが、バナジン酸塩、AgI及びAgOを含むガラス(特開2004−331416号公報参照)や、LiWOが挙げられる。これらの中でも、導電性が高いという理由から、バナジン酸塩を含むガラスが特に好ましい。「放電針」とは、導電性ガラスをその先端に有する限り特に限定されず、例えば、導電性ガラスのみからなる部材でも、先端にのみ導電性ガラスを有する複合部材でも、別の材料の表面に導電性ガラスを被覆した複合部材であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る除電装置によれば、放電電極自体の発塵を最低限に抑えられるという効果を奏する。更に、導電性バナジン酸塩ガラスは、その導電率をバナジン酸塩の含有量や、アニーリングにより適宜設定できるため、放電するイオン量を容易に調節可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の最良形態を説明する。尚、本発明の技術的範囲は本最良形態に限定されるものではない。また、一つの例について具体的に説明した事項に関しては、そうでないとの特記がある場合を除き、他の例にもそのまま適用されるものと理解すべきである。
【0011】
除電装置
本発明に係る除電装置は、空気に高電圧を印加して電離させ、イオンを発生させるための少なくとも一の放電電極と、前記放電電極に電力を供給するための電源部と、から構成され、前記放電電極が、原料混合物を調製した後に溶融及び急冷して得られる導電性バナジン酸塩ガラス又は当該ガラスに対して更にアニーリング処理を施した導電性バナジン酸塩ガラスを、水系液体媒体中に浸漬する工程により得られる導電性バナジン酸塩ガラスであることを一の特徴とする。尚、電源は、交流電源、直流電源のいずれを利用するタイプであっても適用可能である。更に、電源は高圧電源であることが好ましい。
【0012】
本最良形態に係る一の構成例として、クリーンルーム内の天井に設けられる除電装置を例にとり以下に説明する。即ち、図1に示すように、電源1と、クリーンルームの天井Cに本体ケース2が設けられ、外部に少なくとも先端が突出するように放電電極3が本体ケース2内に設けられている。放電電極3は、棒状の導電性ガラスの下端を、円錐形に加工した部材で、その上端は電源1に接続されている。
尚、放電電極以外の構成は、従来技術{例えば、特開2004−253193号公報、特開2007−66822号公報に示されるようなブロアタイプ、特開2007−141691号公報に示されるようなバータイプ、特開2004−319358号公報に示されるようなガンタイプ}がそのまま適用できるので、以下、放電電極を中心に説明する。
【0013】
導電性ガラス
本発明に係る除電装置は、放電電極として、所定の処理を施された導電性バナジン酸塩ガラスを用いたことを特徴とする。即ち、本発明は、通常の手法により製造した導電性バナジン酸塩ガラスを水系媒体中に浸漬することにより、粉体が表面に析出しない低発塵性導電性ガラスを放電電極として使用することを本質とする。尚、本最良形態に係る放電電極としては、先端の尖った放電針を使用することが好ましく、少なくとも放電電極の放電先端部分が当該導電性バナジン酸塩ガラスから構成されていればよい。そこで、まずは、水処理前の導電性バナジン酸塩ガラス(未処理)を構成する各成分について説明し、続いて、当該導電性バナジン酸塩ガラス(未処理)の性質を説明し、その次に、当該導電性ガラス(未処理)を製造する方法について説明する。次に、低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法及びその性質を説明する。以下の最良形態では、水系液体媒体として水を例に採り詳述するがこれに限定されるものではない。
【0014】
《導電性バナジン酸塩ガラス(未処理)》
本最良形態に係る除電装置の放電電極は、導電性バナジン酸塩ガラスからなる。「導電性バナジン酸塩ガラス」は、バナジン酸塩を含む導電性ガラスである限り特に限定されないが、高導電性であるという理由で、バナジウム、バリウム及び鉄を含む酸化物系ガラス組成物であることが好適である。ここで、まず、バナジウムは、酸化物系ガラスの主骨格を形成させるための構成元素であり、その酸化数が2、3、4、5等に変化して、電子がホッピングする確率を高めることができる。次に、バリウムは、二次元的な構成のバナジウム酸化物のガラス骨格を3次元化するために添加される構成元素である。更に、鉄は、電気伝導度の調整成分であり、この量を変化させることで導電性をコントロールすることができる。
【0015】
ここで、バナジン酸塩ガラス中の酸化バナジウムの含有量は、0.1〜98モル%の範囲とすることが好適であり、40〜98モル%の範囲とすることがより好適である。バナジン酸塩ガラス中の酸化バリウムの含有量は、1〜40モル%の範囲とすることが好適である。バナジン酸塩ガラス中の酸化鉄の含有量は、1〜20モル%の範囲とすることが好適である。更に、酸化バリウム(B)と酸化バナジウム(V)のモル比(B:V)は、好適には5:90〜35:50である。また、酸化鉄(F)と酸化バナジウム(V)のモル比(F:V)は、好適には5:90〜15:50である。
【0016】
更に、前記導電性バナジン酸塩ガラスは、レニウムを含有していてもよい。ここで、レニウムは、導電性に優れている(更には酸化数が変動しうるので電子ホッピング効果を高めることが可能である)ので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導度を更に高めることができる。加えて、ガラス転移温度や結晶化温度を所定範囲に設定できるので、アニーリング処理の容易化も可能となる。尚、レニウムを含有する場合、前記組成物中の量は、1〜15モル%であることが好適である。
【0017】
更に、前記導電性バナジン酸塩ガラスは、他のガラス成分、例えば、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化ストロンチウム、酸化ジルコニウム、酸化銀、ヨウ化銀、酸化リチウム、ヨウ化リチウム、酸化セシウム、ヨウ化ナトリウム、酸化インジウム、酸化錫等を含有してもよい。
【0018】
このようなバナジン酸塩ガラスの電気伝導度は、25℃の室温において、10−4〜10−1S・cm−1、好ましくは10−3〜10−2S・cm−1の範囲とすることが好適である。特に、半導体特性を維持するという観点からは、10−1S・cm−1以下であることが好適である。ここで、本明細書での電気伝導度は、四端子法により測定された体積抵抗率を指す。
【0019】
尚、電気伝導度の調整の観点から、導電性ガラスの前記ベース組成物(バナジウム、バリウム及び酸化物系ガラス組成物)を希釈するために、当該組成物に希釈成分{好適には、SiO(60〜70モル%)、P(10〜20モル%)、Al(2〜10モル%)、ZnO(0〜2モル%)、Sb(0〜2モル%)、TiO(0〜2モル%)}を添加してもよい。
【0020】
ここで、導電性バナジン酸塩ガラスは、酸化バナジウム、酸化バリウム及び酸化鉄(場合により酸化レニウム)を含む混合物を溶融、急冷してそのガラス組成物を得た後、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下又は、結晶化温度以上であっても軟化点温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させることにより製造可能である。
【0021】
例えば、酸化バナジウム50〜90モル%、酸化バリウム5〜35モル%、酸化鉄5〜25モル%を含む混合物(場合により、当該混合物100質量%に対して酸化レニウム1〜10質量%を添加)を白金るつぼ中等で加熱溶融した後、これを急冷してガラス化し、このガラス化物を所定のアニーリング処理条件で熱処理する。
【0022】
《低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス》
更に、使用するバナジン酸塩ガラスは、酸化バナジウムを含む混合物を調製した後に溶融及び急冷して得られる導電性バナジン酸塩ガラス又は当該ガラスに対して更にアニーリング処理を施した導電性バナジン酸塩ガラスを、水系液体媒体(例えば水)中に浸漬することにより得られたものを使用することが好適である。一般に、導電性バナジン酸塩ガラスを長時間水系液体媒体(例えば水)に浸漬させたとき、ガラス表面と水等との反応により表面上に遊離層を形成する場合があることが知られている。そして、導電性バナジン酸塩ガラスに当該遊離層が形成された場合、導電性ガラスの導電率を著しく低下させることに加え、当該遊離層が粉塵の更なる原因となることが危惧されていた。しかしながら、本発明者らは、当該常識に反して実施したところ、当該バナジン酸塩ガラスの電気伝導度を下げることなく、低粉塵性導電性バナジン酸塩ガラスを得ることができることを確認した。ここで、「水系液体媒体」とは、水、例えば、純水、塩化ナトリウム等の他の成分を含有する水(例えば水道水や海水)、アルコール、例えば、エタノール、水とアルコールとの混合液、例えば、エタノールと水との混合液体、を挙げることができる。また、「低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス」は、JIS B 9920:2002に準じた発塵性測定法(例えばシスメックス製モデル110を使用)で測定を行った場合、用途により異なるが、1μm以上の塵が0個であるガラスを指す(好適には、0.5μm以上の塵が0個、更に好適には、0.3μm以上の塵が5個以下)。「アニーリング処理」とは、ガラス転移温度以上結晶化温度以下のみならず、結晶化温度以上であっても軟化点温度以下であればよい。
【0023】
ここで、より詳細に当該水系液体媒体処理法を説明すると、当該方法は、導電性バナジン酸塩ガラス(未処理)を水中に浸漬する工程からなる。尚、本最良形態に係る工程は、前記の導電性バナジン酸塩ガラスの製造工程において、ガラス組成物の溶融・急冷後に行ってもよいし、また、前記アニーリング処理後に行ってもよい。更には、放電針に加工した後に行ってもよい。中でも、放電針に加工した後に本工程を行うことが、特に好ましい。本工程を当該順序で行うことにより、より発塵性の低い放電針を得ることができる。
【0024】
具体的には、水中に導電性バナジン酸塩ガラスを浸して水温を所定温度に設定し、所定時間粉塵由来成分を水中に溶かす処理を実行する。ここで、当該浸漬の際、当該バナジン酸塩ガラスに対して所定の大きさの電気を流すこと、及び/又は、超音波処理を行うことが好適である。これらを組み合わせることにより、粉塵由来成分の抽出を効率的かつ短時間で実行することが出来る。
【0025】
ここで、水系液体媒体の温度は30℃〜沸点以下が好適であり、水の場合には、水温は30〜100℃が好適であり、40〜70℃でより好適である。尚、「沸点」とは、常圧下(1atm)で測定された沸点のことを意味し、共沸しない混合液体の場合、成分のうち最も低い成分の沸点を指し、更に、共沸する混合液体の場合には、共沸点を意味する。また、電気を流す場合には、電源は、交流であっても、直流であってもよく、1〜100mAが好適であり、1〜20mAでより好適である。また、水中で電流を流さず工程を行う場合には、好適には1〜2000時間、更に好適には1〜1500時間の処理を行うのがよい。また、電流を流しながら当該処理を行う場合には、好適には1〜300時間、より好適には1〜150時間、処理を行うのがよい。また、超音波処理をしながら行う場合、超音波の周波数は、30kHz〜4MHzで好適であり、30kHz〜3MHzでより好適であり、30〜80kHzで更に好適である。また超音波処理の時間は、1〜30時間で好適であり、1〜10時間でより好適であり、1〜3時間で更に好適である。
【0026】
尚、当該処理直後に得られる低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスの表面には、黄色の粉が付着しており、これをふき取り、得られた導電性バナジン酸塩ガラスを使用する。
【0027】
超音波処理を行った場合、超音波によるキャビテーション効果を得ることが出来る。当該キャビテーション効果は、超音波照射により、液体が激しく揺さぶられて局所的に圧力が高い部分と低い部分が発生し、これにより圧力が低い部分で液体中に小さな真空の気泡(キャビテーション)が生じ、当該気泡が押しつぶされ破裂することにより衝撃波が生じる現象である。当該キャビテーション効果を利用して低発塵性処理を行うことにより、当該衝撃波が、試料に対して衝撃を与えるため、発塵由来成分の抽出を効率的に行うことができる。更に、試料表面に析出した成分がキャビテーション効果に伴う洗浄効果により層状に張り付くことを防止し、円滑に操作が進められる。
【0028】
このようにして得られる低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスは、後述の発塵性測定法により得られる結果が、好適には、1μm以上の塵が0個であり、より好適には0.5μm以上の塵が0個であり、更に好適には、0.3μm以上の塵が5個以下である。加えて、本最良形態に係る低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスの電気伝導度は、25℃において10−13S・cm−1以上が好適であり、10−9S・cm−1以上がより好適であり、10−7S・cm−1以上が更に好適である。
【0029】
《放電針の製造方法》
次に、本最良形態に係る導電性ガラスからなる放電針の製造方法を詳述する。まず、バナジン酸塩を主成分とした平板状の導電ガラスを製造する。次に、研磨機により当該平板状の導電ガラスを研磨する。この際、研磨剤としては、コランダムやアランダム(アルミナ)、酸化セリウム、コロイダルシリカ等を使用することが好適である。特に、コランダムは粒径が粗く、酸化セリウムやコロイダルシリカは細かいので、前者は初期段階で後者は鏡面仕上げの段階で使用することが好適である。次に、研磨した平板状の導電ガラスを規定サイズに切断する。そして、当該角状の導電ガラスをダイヤモンド研磨機に固定し、長軸回りに回転させながらダイヤモンドで丸棒に削っていく。この際、回転数は1000〜6000rpmとすることが好適である。その後、先端部を円錐状に削る操作を同じダイヤモンド研磨機で行うことにより、放電針を製造することができる。
【0030】
以上のような構成を有する本実施例の作用は以下の通りである。すなわち、電源1から放電電極3に電圧を印加する。すると、放電電極3からコロナ放電が発生し、放電電極周囲の空気がイオン化される。このイオン化された空気が帯電した物質に照射することによって、帯電物質が除電される。
【実施例】
【0031】
製造例1(導電性バナジン酸塩ガラス)
その化学組成が15BaO・70V・15FeOにそれぞれ調整された混合物を作成し、この混合物を白金るつぼ等に移し電気炉中1000℃で60分間加熱し、溶融した。これを直ちに氷水で急冷する(白金るつぼの外側、底部を氷水に浸ける)ことにより、導電性バナジン酸塩ガラス(電気伝導度:7×10−3S・cm−1)を得た。当該ガラスを400℃で1時間アニーリング処理して、以下の低発塵性処理に付される導電性バナジン酸塩ガラス(電気伝導度:7×10−3S・cm−1)を製造した。
【0032】
電気伝導度の測定方法
電気伝導度は、厚さが1ミリメートル以下の導電性バナジン酸塩ガラス片を四端子法により求めた。ここでは、溶融した金属インジウムを用いて、ガラス表面にリード線を固定させたものを電極とした。電気伝導度(σ)の値は、電流密度(Acm−2)の値を電場の大きさで割ったものである。
Acm−2÷Vcm−1=A/Vcm−1=S/cm−1=S・cm−1
尚、電気伝導度(S・cm−1)は、比抵抗(Ω・cm)の逆数である。
【0033】
発塵性の測定方法
導電性バナジン酸塩ガラス自体の発塵性は、図2に示した測定装置100を用いて測定した。測定装置100は、10cm×10cm×10cmの空間101と、当該空間101内に設置された、細い棒からなるY字状の試料ステージ102と、パーティクルカウンター接続用孔103とを有する。前記パーティクルカウンター接続用孔103は、パーティクルカウンター200(シスメックス製モデル110)の空気吸引口に接続されている。
発塵性の測定方法は、以下の工程(1)〜(4)で実施する。
工程(1):脱脂綿を用いて試料A(3mm×3mm×40mmの直方体形状)を純水で洗浄(10秒)した後、十分に乾燥させる。
工程(2):前記工程の後、試料Aを湿度80%及び25℃の条件下で、1日間放置する。
工程(3):温度50℃、湿度0%の条件下で、1時間放置する。
工程(4):空間100内を充分にクリーンな状態(JIS B 9920:2002におけるクラス1)にして、前記工程により得られた試料Aをステージ102に置き、更に、パーティクルカウンター接続用孔103と試料Aが1cmの距離となるように設置した後に、毎分2.83リットルの速度で空間100内の空気をパーティクルカウンターに吸引し、JIS B 9920:2002における粒子の個数測定方法に準じて、0.1〜0.2μm、0.2〜0.3μm、0.3〜0.5μm、0.5μm〜1.0μm、1.0μm以上で分割測定を実施する。
尚、試験回数は基本的には1回であるが、複数回実施した際に1回でも1μm以上の粒子が確認できなかった場合には、「低発塵性」と認定することとする。
【0034】
黄変性の測定方法
黄変性の測定方法は、以下の工程(1)〜(3)で実施する。
工程(1):脱脂綿を用いて試料A(3mm×3mm×40mmの直方体形状)を純水で洗浄(10秒)した後、十分に乾燥させる。
工程(2):前記工程の後、試料Aを湿度80%及び25℃の条件下で、1日間放置する。
工程(3):JIS Z 8701に従ってL表色系を測定した。
【0035】
製造例2(低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス)
製造例1により得られた導電性バナジン酸塩ガラスを、蓋付サンプル瓶に用意した水道水の中に浸して、室温で約二ヶ月間、低発塵性処理を行った。その結果、黄色い成分が水中に溶け出し、水全体が黄色に染まった。その後、サンプル瓶から導電性バナジン酸塩ガラスを取り出し、表面をきれいに洗い流し、製造例2に係る低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスを得た。当該低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスを再度、水道水に浸したが、その後2ヶ月間以上サンプル瓶の水に黄色い成分は溶出しなかった。尚、当該低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスの電気伝導度は、処理前の導電性バナジン酸塩ガラスと変化は無かった(電気伝導度:7×10−3S・cm−1)。また、発塵試験の結果は表1に示す。尚、当該処理前の導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵性試験の工程(2)の前後で、色の変化が観測された(黄色に変化した)。一方、当該処理後の低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵試験の工程(2)の前後で色の変化は観測されなかった(黄色に変化しなかった)。
【0036】
製造例3(低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス)
製造例1により得られた導電性バナジン酸塩ガラスを、15℃の水中に浸け、100℃まで昇温し、5〜10V、1〜5mAの電流を流し、3〜15時間、低発塵性処理を行った後、表面に付着した黄色い成分を拭き取った上できれいに洗い流し、製造例3に係る低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスを得た(電気伝導度:7×10−3〜1×10−2S・cm−1)。尚、低発塵・耐黄変性導電性バナジン酸塩ガラス表面に付着した黄色い成分の分析をXPSにて行った結果、表面に付着した成分は、C:36.7、O:46.7、V:8.0、N:1.4、S:1.8、Fe:1.8、Ba:3.6(atom%)であった。また、図3は、当該処理前の導電性バナジン酸塩ガラスの表面の様子{図3(a)}と、処理後の低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス表面の様子{図3(b)}を示した図である。尚、当該処理前の導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵性試験の工程(2)の前後で、色の変化が観測された(黄色に変化した)。一方、当該処理後の低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵試験の工程(2)の前後で色の変化は観測されなかった(黄色に変化しなかった)。
【0037】
製造例4(低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス)
発信周波数40kHzの洗浄機(シチズン製超音波洗浄機 SW7800)に対して、300ccの水を加え、製造例1により製造した導電性バナジン酸塩ガラスを入れ、5分間、超音波処理を行った。その結果、水中内に発塵し黄色に変色し、耐発塵性導電性バナジン酸塩ガラスが得られた(電気伝導度7×10−3S・cm−1)。また、発塵試験の結果は表1に示す。尚、当該処理前の導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵性試験の工程(2)の前後で、色の変化が観測された(黄色に変化した)。一方、当該処理後の低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵試験の工程(2)の前後で色の変化は観測されなかった(黄色に変化しなかった)。
【0038】
製造例5(低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス)
発信周波数72KHzの洗浄機(Alex社 ATSL3022)に対して、1,000ccの水を加え、製造例1により製造した導電性バナジン酸塩ガラスを入れ、5分間、超音波処理を行った。その結果、水中内に発塵し黄色に変色し、耐発塵性導電性バナジン酸塩ガラスが得られた(電気伝導度:7×10−3S・cm−1)。また、発塵試験の結果は表1に示す。尚、当該処理前の導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵性試験の工程(2)の前後で、色の変化が観測された(黄色に変化した)。一方、当該処理後の低発塵性導電性バナジン酸塩ガラスは、前記発塵試験の工程(2)の前後で色の変化は観測されなかった(黄色に変化しなかった)。
【0039】
【表1】

【0040】
製造例6(放電針)
製造例2に係る板状の導電性バナジン酸塩ガラス部材を、研磨機を用いて平板状の当該導電ガラスを研磨した。この際、最小は500番の粒径の研磨材を使用し、1500番、2000番と段階的に研磨を行った(最終の2000番はコロイダルシリカでの鏡面加工)。尚、当該研磨は、回転しているラップ盤の上に研磨剤を水で分散させた状態で滴下しながら板ガラスを押しつけて実施した(両面)。この際、時間は各々30分行い、平面度が〜±2μmの精度を得るまで鏡面加工を行った。そして、45mm×2.5mm×2.5mmにダイアモンドカッターで切断した後、当該角状の導電ガラスをダイヤモンド研磨機に固定し、先端が円錐状の放電針を作成した。
【0041】
上記のように製造した放電針を、図1に示したクリーンルーム用イオナイザに取り付けた後、発塵検査及び除電検査を実施した。その結果、表2に示すように、放電針として他の材料と比較し、1/2以下の発塵量に抑制できることが判明した。尚、表中の数値は、0.1μm以上の粒子の数である。また、除電検査により、良好に除電されることを確認した。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明に係る除電装置の概念図である。
【図2】図2は、測定装置の概念図である。
【図3】図3は、本最良形態に係る処理前の導電性バナジン酸塩ガラスの表面の様子{図3(a)}と、処理後の低発塵性導電性バナジン酸塩ガラス表面の様子{図3(b)}を示した図である。
【符号の説明】
【0043】
1:電源
2:本体ケース
3:イオナイザー電極
C:天井

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気に高電圧を印加して電離させ、イオンを発生させるための少なくとも一の放電電極と、
前記放電電極に電力を供給するための電源部と、
を有する除電装置において、
前記放電電極の少なくとも一部が、バナジン酸塩を含む混合物を調製した後に溶融及び急冷して得られる導電性バナジン酸塩ガラス又は当該ガラスに対して更にアニーリング処理を施した導電性バナジン酸塩ガラスを、水系液体媒体中に浸漬する工程により得られる導電性バナジン酸塩ガラスから構成されていることを特徴とする除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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