説明

陽イオン界面活性剤によるタンパク質の精製

本発明は標的タンパク質および混入タンパク質を含む混合物からの、標的タンパク質の精製法を提供するものであって、混合物を、混入タンパク質を選択的に沈降させるのに効果的な量の陽イオン界面活性剤に曝露させるステップおよび標的タンパク質を回収するステップを含む。本発明の方法に従って精製したタンパク質も、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連文献の相互参照
本出願は、参照によりここに援用されるところの、2005年4月11日出願の米国特許仮出願番号第60/670,520号の優先権並びに利益を請求するものである。
【0002】
技術分野
本発明は、界面活性剤を用いたタンパク質の精製に関する。
【0003】
背景技術
生体高分子、特にタンパク質の生産工程には、物理的ならびに物理化学的性質を利用した高純度化工程を含むことが多い。このような加工工程にあっては、可溶性分子と不溶性分子を分離する条件の決定、比較的低率な各処理過程後の目的分子の収率、処理過程の中での生理活性の喪失、pHなどの加工工程の条件へのタンパク質の感受性を含むが、これに限定されない問題が生じる。
【0004】
界面活性剤は、生体高分子の加工に用いられてきた。陽イオン界面活性剤は界面活性剤のサブクラスとして知られており、両親媒性アンモニウム化合物もここに含まれる。両親媒性アンモニウム化合物は、一般式QNで表される第4アンモニウム化合物と、一般式RNHで表されるパラフィン鎖第1アンモニウム化合物を含む。上記2種の両親媒性アンモニウム化合物はどちらも、好ましくは最低6つの炭素原子から成る脂肪族長鎖を有する長鎖アンモニウム界面活性剤を有する(Scott(1960) Methods Biochem.Anal.8:145−197を、参照することによってその全文を本明細書に含む)。長鎖第4アンモニウム界面活性剤は、生体高分子と相互作用することが知られている。長鎖第4アンモニウム化合物は、窒素の位置に、炭素原子6−20個を有する直鎖アルキル鎖から成る置換基を少なくとも1つ持っている。この種類を代表する、最もよく知られている化合物には、ベンズアルコニウム塩(塩化物および臭化物)、塩化ヘキサデシルピリジニウム デカリニウムアセテート、臭化セチルジメチルアンモニウム(CTAB)、塩化ヘキサデシルピリジニウム(CPCI)、および塩化ベンゼトニウムがある。第4アンモニウム界面活性剤には、塩化セチルピリジニウム(CPC)などのセチルピリジニウム塩、ステアリン酸アミド−メチルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、セチルキノリニウム塩、ラウリルアミノプロピオン酸メチルエステル塩、ラウリルアミノプロピオン酸金属塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインおよびベンゼトニウム塩がある。アルキルピリジニウム塩には、ステアリル−トリメチルアンモニウム塩、塩化アルキル−ジメチルベンジル−アンモニウム、塩化ジクロロ−ベンジルジメチル−アルキルアンモニウムがある。
【0005】
生体高分子の精製における陽イオン界面活性剤の既知の用途は、1)タンパク質凝集体を含む凝集体の可溶化、2)クロマトグラフィーカラムに結合した生体高分子の溶出、および3)ヒアルロン酸(HA)、核酸、ヘパリンなどの多価陰イオン(および多価陰イオンと共沈する分子)の沈殿を含む。
【0006】
陽イオン界面活性剤は、タンパク質凝集体を可溶化するのに用いられてきた。オッタ(Otta)とベルティーニ(Bertini)((1975) Acta Physiol.Latinoam.25:451−457を、参照することによってその全文を本明細書に含む)は、齧歯類の肝臓から得たペルオキシソームから、第4アンモニウム界面活性剤であるハイアミン2389を用いて、活性ウリカーゼを可溶化することができることを示した。アンモニウム界面活性剤濃度の増加は、ウリカーゼ(酵素活性に基づく)と総タンパク質両方の溶解を増加させ、従って総タンパク質量に対してのウリカーゼタンパク質の相対量は増加しなかった。すなわち、総タンパク質に対してのウリカーゼタンパク質の選択的な可溶化は認められず、陽イオン界面活性剤による可溶化によって、ウリカーゼタンパク質が総タンパク質中でより高い割合を占めることはなかった。従って、この処理過程にあっては、総タンパク質量に対するウリカーゼの純度は、第4アンモニウム界面活性剤による可溶化によって向上されていないことが示唆される。
【0007】
別の研究では、トゥルスコー(Truscoe)((1967) Enzymologia 33:1 19−32を、参照することによってその全文を本明細書に含む)が数種の陽イオン性、陰イオン性および中性界面活性剤について、ウシ腎臓粉末からの尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ)の抽出効率を調べた。中性界面活性剤および陰イオン界面活性剤は可溶性尿酸オキシダーゼの活性を向上させることが分かったが、第4アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤は、濃度の増加に伴って総酵素活性を低下させることが明らかとなった。著者らは、陽イオン界面活性剤はウシ腎臓尿酸オキシダーゼの精製に有用ではないと結論づけた。
【0008】
E.coli封入体または細胞からの、陽イオン界面活性剤を用いた、組換えタンパク質、ブタ成長ホルモン、メチオニル−ブタ成長ホルモン、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスタンパク質、B−ガラクトシダーゼ融合タンパク質の可溶化は、米国特許番号第4,797,474号、米国特許番号第4,992,531号、米国特許番号第4,966,963号および米国特許番号第5,008,377号に記載されており、これらを参照することによりその全文を本明細書に含む。アルカリ性条件下での可溶化は、塩化セチルトリメチルアンモニウム、混合塩化n−アルキルジメチルベンジルアンモニウム、CPC、塩化N,N−ジメチル−N−[2−[2−[4−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)−フェノキシ]エトキシ]エチル]ベンゼンメタンアンモニウム、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウムを含む第4アンモニウム化合物を用いることで達成される。これらの文献は、溶液はそれぞれの可溶化プロセスの後に遠心分離にかけられるが、それぞれの場合において沈殿物は全く認められないか、それに近い、としている。このような観察結果は、標的タンパク質の選択的な可溶化が起こっておらず、タンパク質の大部分または全てが可溶化されていることを示唆している。回収されたタンパク質の純度は、示されていない。参照することによって全文を本明細書に含む、米国特許番号第5,929,231号は塩化セチルピリジニウム(CPC)による、デンプンを含む顆粒および凝集体の分解を記載している。従って、従来の技術は、陽イオン界面活性剤による、粒子状生体高分子の全体的、非選択的な可溶化に関するものである。これらの既知の方法は、陽イオン界面活性剤を用いて、目的の標的タンパク質の純度を総タンパク質に対して高める方法を示していない。
【0009】
陽イオン界面活性剤は、陽イオン交換樹脂またはアルミニウムを含有するアジュバンドに吸収された生体高分子の溶出にも使われてきた(Antonopoulos,et al.(1961) Biochim.Biophys.Acta 54:213−226、Embery(1976) J.Biol.Buccale 4:229−236およびRinella,et al.(1998) J.Colloid Interface Sci.197:48−56のそれぞれを参照することによってその全文を本明細書に含む)。参照することによって全文を本明細書に含む米国特許番号第4,169,764は、多種多様な陽イオン界面活性剤溶液によってカルボキシメチルセルロースカラムからウロキナーゼを溶出する方法を記載している。著者らは、1つのアルキル基が最高20炭素原子から成る高級アルキル基であり、その他のアルキル基が最高6炭素原子から成る低級アルキル基であるテトラ置換アンモニウム塩の使用が好ましいと記している。このような陽イオン界面活性剤の使用は、固体マトリクスに結合した生体高分子の分離を可能にする。
【0010】
逆に、陽イオン界面活性剤を使用した、ナイロンなどから作られるフィルターの含浸は、多糖類または核酸の固定化を可能にする(Maccari and Volpi(2002)Electrophoresis 23:3270−3277、Benitz,et al.(1990) 米国特許番号第4,945,086号、 Macfarlane(1991) 米国特許番号第5,010,183号を、それぞれを参照することによって全文を本明細書に含む)。この現象は、多価陰イオンの沈降を可能にする、陽イオン界面活性剤−多価陰イオン間の相互作用によるものであると見られている。
【0011】
一般式QNで表される第4アンモニウム化合物と、一般式RNHで表されるパラフィン鎖第1アンモニウム化合物を含む両親媒性アンモニウム化合物は、定められた条件下で多価陰イオンを沈降させることができることは、よく知られている(総説:Scott(1955) Biochim.Biophys.Acta18:428−429、Scott(1960) Methods Biochem.Anal.8:145−197、Laurent,et al.,(1960) Biochim.Biophys.Acta 42:476−485、Scott(1961) Biochem.J.81:418−424、Pearce and Mathieson(1967) Can.J. Biochemistry 45:1565−1576、Lee(1973) Fukushima J.Med.Sci.19:33−39、Balazs,(1979) 米国特許番号第4,141,973号、Takemoto,et al.,(1982) 米国特許番号第4,312,979号、Rosenberg(1981)米国特許番号4,301,153号、Takemoto,et al.,(1984) 米国特許番号第4,425,431号、d’Hinterland,et al.,(1984) 米国特許番号第4,460,575号、Kozma,et al.(2000) Mol.Cell.Biochem.203:103−112をそれぞれ参照することによって全文を本明細書に含む)。このような沈降は、沈降する化学種が、高い多価陰イオン電荷密度および高い分子量を有することに依存する(Saito(1955) Kolloid−Z 143:66を参照することによって全文を本明細書に含む)。塩類の存在は、陽イオン界面活性剤による多価陰イオンの沈降に干渉、またはこれを逆行させることがある。
【0012】
加えて、多価陰イオンはタンパク質混入物を含む溶液から、アルカリpH条件下で分画沈降させることができる。このような場合は、多価陰イオンに化学的に結合していないタンパク質は溶液中に残るが、多価陰イオンおよび多価陰イオンに結合しているその他の分子は沈降する。例えば、多糖類および核酸などの多価陰イオンの沈降は、プロテオグリカンおよび多価陰イオンと相互作用しているタンパク質の共沈を伴う(Blumberg and Ogston(1958) Biochem.J.68:183−188、Matsumura,et al.,(1963) Biochim.Biophys.Acta 69:574−576、Serafini−Fracassini,et al.(1967) Biochem.J.105:569−575、Smith,et al.(1984) J.Biol.Chem.259:11046−11051、Fuks and Vlodavsky(1994) 米国特許番号第5,362,641号、Hascall and Heinegard(1974) J.Biol.Chem.249:4232−4241,4242−4249および4250−4256、Heinegard and Hascall(1974) Arch.Biochem.Biophys.165:427−441、Moreno,et al.(1988) 米国特許番号第4,753,796号、Lee,et al.(1992) J.Cell Biol.116:545−557、Varelas,et al.(1995) Arch. Biochem.Biophys.321:21−30を、それぞれ参照することによって全文を本明細書に含む)。
【0013】
タンパク質の等電点(またはpI)とは、タンパク質が同じ数の陽電荷と負電荷を持っているpH条件のことを言う。溶液のpH値がタンパク質の等電点に近い(特に、等電点より低い)場合、タンパク質はヘパリンなどの強酸性の多価陰イオンと安定な塩を作ることができる。このような多価陰イオンの沈降を促進する条件化では、多価陰イオンと複合体を作っているタンパク質も共に沈降する(LB Jaques(1943) Biochem.J.37:189−195、AS Jones(1953) Biochim.Biophys.Acta 10:607−612、JE Scott(1955) Chem and Ind 168−169、米国特許番号第3,931,399号(Bohn,et al.,1976)、および米国特許番号第4,297,344号(Schwinn,et al.,1981)をそれぞれ参照することによって全文を本明細書に含む)。
【0014】
それぞれ参照することによって本明細書に含める、米国特許第4,421,650号、米国特許番号第5,633,227号およびSmith,et al.((1984) J.Biol.Chem.259:11046−11051)は、陽イオン界面活性剤および硫酸アンモニウム(これは、多価陰イオン−陽イオン界面活性剤複合体の乖離を可能にする)による逐次処理に引き続いて、疎水性相互作用クロマトグラフィーによって、多価陰イオンを精製する方法を記載している。参照することによって全文を本明細書に含める、欧州特許EP055188は、陽イオン界面活性剤によって可能になっている、リポ多糖類からのRTX毒素の分離を記載している。しかしながら、エンドトキシン活性測定によって定量されるリポ多糖類の量で、物質収支がバランスしていない。強い相互作用を有する陽イオン複合体によってエンドトキシン活性が中和されることが、示されている(Cooper JF(1990) J Parenter Sci Technol 44:13−5を参照することによって全文を本明細書に含む)。従って、EP055188における、より多量の陽イオン界面活性剤で処理した後に、沈殿物がエンドトキシン活性を欠くのは、界面活性剤−リポ多糖類複合体が生じることによる活性の中和によるものと考えられる。
【0015】
陽イオン界面活性剤による可溶性タンパク質の精製が可能になるためには、上記の方法は、陽イオン界面活性剤による選択的な可溶性を有するタンパク質を含む、媒介多価陰イオン、固形支持体または凝集体を必要とする。従って、従来の技術は、標的タンパク質以外のタンパク質、すなわち混入タンパク質を選択的に沈降させるのに効果的な量の陽イオン界面活性剤をタンパク質に作用させることで、標的タンパク質を精製する方法、特に、このような処理を媒介多価陰イオン、固形支持体またはタンパク質凝集体の非存在下で行う方法を提供していない。当該分野に精通している技術者は、しばしば可溶性タンパク質の混合物に遭遇し、これを前にして目的のタンパク質を精製するシンプルで効率的な方法を欠く。本明細書に記載の、この新規のタンパク質精製法は、標的タンパク質以外のタンパク質を選択的に沈降させるために陽イオン界面活性剤を用いることで、標的タンパク質の効率的な精製を可能にする。好ましくは、このような混入タンパク質の沈降は直接的であって、混入タンパク質およびその他の分子を含む多価陰イオン、固形支持体または凝集体の存在に依存しない。
【0016】
発明の要約
本発明は標的タンパク質および混入タンパク質を含む混合物からの、標的タンパク質の精製法を提供するものであって、混合物を、混入タンパク質を選択的に沈降させるのに効果的な量の陽イオン界面活性剤に曝露させるステップおよび標的タンパク質を回収するステップを含む。
【0017】
図の簡単な説明
図1はCPC濃度のウリカーゼ活性およびその純度への影響を示した図である。
【0018】
溶解したE.coli封入体から得た哺乳類ウリカーゼのタンパク質濃度(A)および酵素活性(B)を、示された通りのCPC処理および遠心分離の後に測定した。それぞれの単離物の比活性度(C)は、これらの値の比として計算した(活性/タンパク質濃度)。
【0019】
図2は、封入体から調製し、0.075% CPCで処理した後の哺乳類粗ウリカーゼのHPLCサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を示した図である。
【0020】
AはCPC処理を施さない可溶化したE.coli封入体の、BはCPC(0.075%)沈殿および濾過を施した後の上清の、HPLCサイズ排除クロマトグラフィー分析のプロファイルを示した図である。それぞれのピークのエリアおよびその総エリアに対する比率は、その下の表にまとめた。
【0021】
図3は、CPC処理を施したウリカーゼのSDS−PAGE分析(15%ゲル)の結果を示した図である。
【0022】
ウリカーゼを含有するサンプルは、実施例1に記載の通りの方法で調製した。様々なプロセスステップから得たサンプルは、次のように分割した。レーン1:溶解したIB、 レーン2:CPC処理後の上精、レーン3:CPC処理後のペレット。
【0023】
図4は0.02% CPC処理後の粗scFv抗体のHPLCサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を示した図である。
【0024】
Aは標準試料BTG−271scFv抗体の、Bは可溶化した封入体の、CはリフォールディングおよびCPC(0.02%)沈殿および濾過処理後の上精の、HPLCサイズ排除クロマトグラフィープロファイルの分析の結果を示した図である。それぞれのピークのエリアおよびその総エリアに対する比率は、その下の表にまとめた。
【0025】
図5は、CPC処理を施したscFv抗体のSDS−PAGE分析(15%ゲル)の結果を示した図である。
【0026】
様々なプロセスステップから得たscFv抗体を含むサンプルおよび標準試料は、次の順序で示してある。レーン1:分子量マーカー、レーン2:溶解したIB、レーン3:リフォールディングしたタンパク質、レーン4:CPCペレット、レーン5:CPC処理後の上精。
【0027】
図6は、CPC処理前および処理後のインターフェロンベータのHPLCゲル濾過クロマトグラフィー分析を示している。
A. CPC処理前
B. CPC処理後
0.1mg/mlのインターフェロンベータ溶液から200μlをカラムに分注した。
【0028】
発明の詳細な説明
タンパク質は陽電荷、負電荷両方を持つため、両性電解質である。溶液のpHおよび、タンパク質と相互作用する荷電分子は、そのタンパク質の正味荷電に影響する。タンパク質の正味電荷が中性(等電点)であるとき、タンパク質間で強い相互作用が起こりえる。溶液のpHがタンパク質の等電点より下である場合、そのタンパク質は正味の正電荷を帯びており、他のタンパク質を含むカチオン性分子との間に静電反発力を生じる場合がある。
【0029】
本発明は、標的タンパク質と混入タンパク質の混合物を含む溶液から、可溶化された標的タンパク質を精製する方法を提供することを目的とするものであって、可溶化された混合物に、効果的な量の陽イオン界面活性剤を作用させ、標的タンパク質を回収する工程を含む。陽イオン界面活性剤とは、正電荷を帯びた界面活性分子である。一般的にこれらの化合物は、加えて少なくとも一つの非極性脂肪族基を有する。好ましくは、標的タンパク質の等電点は7よりも大きい。特定の一実施形態にあっては、溶液のpHは標的タンパク質の等電点と概ね等しい。好ましい実施形態にあっては、溶液のpHは標的タンパク質の等電点よりも小さい。特定の一実施形態にあっては、溶液のpHが標的タンパク質の等電点よりも大きい場合、溶液のpHは標的タンパク質の等電点から、1〜2pH単位の範囲内である。特定の一実施形態にあっては、溶液のpHが標的タンパク質の等電点よりも大きい場合、溶液のpHは標的タンパク質の等電点から、1pH単位の範囲内である。
【0030】
特定の一実施形態にあっては、混入タンパク質または混入タンパク質群は選択的に沈降され、よって標的タンパク質を代表とする、溶液に残存するタンパク質の比率を増加させる。例えば、総タンパク質量のうち、標的タンパク質が20%を占めている、標的タンパク質と混入タンパク質の溶液から出発して、ここに提供された方法を用いて、標的タンパク質が溶液に残存する総タンパク質の30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上を占める溶液に到達するよう、標的タンパク質を精製することができる。
【0031】
本明細書では、「選択的沈殿」を、任意のタンパク質またはタンパク質群が、他のタンパク質またはタンパク質群より、より多く沈殿することを意味する語として用いる。例えば、標的タンパク質と混入タンパク質の混合物にあっては、混入タンパク質の20%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質の20%未満しか沈殿しない場合は、混入タンパク質が、標的タンパク質に対して選択的に沈殿したものとする。混入タンパク質は高い割合で沈殿され、標的タンパク質は低い割合で沈殿されることが好ましい。好ましい実施形態にあっては、混入タンパク質の30%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は30%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の40%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は40%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の50%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は50%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の60%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は60%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の70%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は70%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の80%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は80%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の90%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は90%未満の割合で沈殿する;混入タンパク質の95%以上が沈殿すると同時に、標的タンパク質は95%未満の割合で沈殿する。標的タンパク質の少ない割合が沈殿することが好ましい。例えば、標的タンパク質の60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、1%未満が沈殿する。
【0032】
特定の一実施形態にあっては、本発明の精製法を実施する前の、溶液中の総タンパク質量(標的タンパク質と混入タンパク質を加えたもの)は、0.1〜10mg/mlである。特定の実施形態にあっては、本発明の精製法を実施する前の、溶液中の総タンパク質量は、0.1〜3mg/ml、0.3〜2mg/ml、0.5〜2mg/ml、0.5〜1mg/ml、1〜2mg/mlまたは約1mg/mlである。
【0033】
特定の実施形態にあっては、混入タンパク質の選択的沈殿は直接的であり、多価陰イオンの存在に実質的に依存することはないか、または依存しない。他の実施形態にあっては、混入タンパク質の選択的沈殿は直接的であり、固形支持体の存在に実質的に依存することはないか、または依存しない。他の実施形態にあっては、混入タンパク質の選択的沈殿は直接的であり、混入タンパク質と他の分子の間の凝集体の存在に実質的に依存することはないか、または依存しない。混入タンパク質の選択的沈殿にあっては、例えば、その要素の存在に実質的に依存することはないか、または依存しない場合、任意の要素(例えば、多価陰イオン、固形支持体、混入タンパク質と他の分子の凝集体)を除いた場合でも、混入タンパク質の選択的沈殿に影響しないか、または大きく影響しない。ある要素の除去による影響が実質的に影響しない例としては、その要素の存在下および非存在下両方の条件で混入タンパク質が選択的に沈殿することが挙げられる。さらなる例としては、その要素の存在下および非存在下両方の条件で、混入タンパク質が同程度に選択的に沈殿することが挙げられる。好ましくは、その要素の非存在下、または実質的な非存在下で、要素の存在下と同量または実質的に同量の混入タンパク質が沈殿する。
【0034】
他の実施形態にあっては、本方法は多価陰イオンの非存在下または実質的に存在しない条件下で実施される。他の実施形態にあっては、本方法は固形支持体の非存在下または実質的に存在しない条件下で実施される。他の実施形態にあっては、本方法は混入タンパク質と他の分子の間の凝集体の非存在下または実質的に存在しない条件下で実施される。好ましくは、本方法は多価陰イオン、固形支持体、混入タンパク質と他の分子の間の凝集体のうち2つまたは3つの要素の非存在下または実質的に存在しない条件下で実施される。
【0035】
本発明の方法が一旦提供されれば、当該分野に精通している技術者にとっては、使用する特定の界面活性剤、および例えばpH、温度、塩分、陽イオン界面活性剤濃度、総タンパク質濃度などの条件を、特定の標的タンパク質の精製効率を高めるように本方法が適用できるよう選定することは容易である。例えば、異なったpH値および界面活性剤濃度の下で実施された精製の結果を比較して、最適な精製条件を求めることができる。この方法の例を、下記の実施例のセクションに示している。特定の一実施形態にあっては、溶液のpHは、標的タンパク質の回収量を実質的に減少させない範囲で、最も高い値となるように選ばれる。
【0036】
本発明のさらなる目的は、陽イオン界面活性剤の作用下における可溶性に基づいて、標的タンパク質の効率的な精製を可能にする条件を決定する方法を提供することである。
【0037】
効果的な陽イオン界面活性剤の量とは、混入タンパク質の選択的沈殿を生じさせる界面活性剤の量である。特定の実施形態にあっては、効果的な量の界面活性剤は混入タンパク質の40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%を沈殿させる。
【0038】
本発明の一実施形態にあっては、陽イオン界面活性剤はその濃度が0.001%〜5.0%となるように加えられ、好ましくは、陽イオン界面活性剤はその濃度が0.01%〜0.5%となるように加えられ、さらに好ましくは、陽イオン界面活性剤はその濃度が0.03%〜0.2%となるように加えられる。特定の実施形態にあっては、陽イオン界面活性剤はその濃度が0.01%〜0.1%、0.01%〜0.075%、0.01%〜0.05%または0.01%〜0.03%となるように加えられる。
【0039】
本発明の一実施形態にあっては、上記の方法は、陽イオン界面活性剤が両親媒性アンモニウム化合物の際に達成される。
【0040】
好ましい実施形態にあっては、可溶化された標的タンパク質は、混入タンパク質を選択的に沈殿させた後に、さらなる処理を施される。このようなさらなる処理には、追加的な精製ステップ、活性または濃度の測定、透析、クロマトグラフィー(例えばHPLCサイズ排除クロマトグラフィー)、電気泳動などを含めることができる。
【0041】
本明細書で用いる定義では、両親媒性アンモニウム化合物はカチオン性および非極性要素を有し、一般式QNまたはRNH表される化合物を含む。Qは、窒素が第4アンモニウム(4つの、互いに結合を有するかまたは有しない有機基と共有結合を為している)であることを示している。有機基が互いに結合を有している場合、環状構造を作る要素間の結合の電気的構成に依存して、環式脂肪族化合物または芳香族化合物を形成する。選択した両親媒性アンモニウム化合物が一般式RNHで表される場合は、化合物はRが脂肪族基である第1アミンである。脂肪族基は開鎖有機基である。
【0042】
一実施形態にあっては、選択された両親媒性アンモニウム化合物はハロゲン化物と塩を形成する場合がある。一般に、ハロゲン化物塩とはフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物イオンを含むものを指す。
【0043】
本発明の一実施形態にあっては、両親媒性アンモニウム化合物は6〜20炭素原子を含む脂肪族鎖を少なくとも1本を有し、好ましくは、両親媒性アンモニウム化合物は8〜18炭素原子を含む脂肪族鎖を少なくとも1本有する。
【0044】
本発明の一実施形態にあっては、選択した両親媒性アンモニウム化合物は、セチルピリジニウム塩、ステアリン酸アミド−メチルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、セチルキノリニウム塩、ラウリルアミノプロピオン酸メチルエステル塩、ラウリルアミノプロピオン酸金属塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインおよびベンゼトニウム塩からなる化合物群から選択される。
【0045】
使用することのできる両親媒性アンモニウム化合物は、塩化ヘキサデシルピリジニウムデカリニウムアセテート、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、混合塩化n−アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化N,N−ジメチル−N−[2−[2−[4−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)−フェノキシ]エトキシ]エチル]ベンゼンメタンアンモニウム、塩化アルキル−ジメチルベンジル−アンモニウムおよび塩化ジクロロ−ベンジルジメチル−アルキルアンモニウム、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインを含むが、これに限定されない。
【0046】
本発明の一実施形態にあっては、両親媒性アンモニウム化合物は塩化セチルピリジニウムなどのセチルピリジニウム塩である。
【0047】
本発明の一実施形態にあっては、目的のタンパク質を含む混合物は、さらに、例えばE.coliなどのバクテリアなどの微生物を由来とする細胞成分などの、細胞成分を含む。
【0048】
本発明の一実施形態にあっては、細胞成分は1つまたはそれ以上のタンパク質である。
【0049】
本発明の一実施形態にあっては、標的タンパク質は組換えタンパク質、例えば、酵素であり得る。
【0050】
本発明の方法は、多様なタンパク質の精製に用いることができる。このようなタンパク質は、抗体、ウリカーゼ、インターフェロンベータ、ヒル凝固因子X阻害剤、II型酸性デオキシリボヌクレアーゼ、エラスターゼ、リゾチーム、パパイン、ペルオキシダーゼ、膵臓リボヌクレアーゼ、トリプシノーゲン、トリプシン、シトクロムc、エラブトキシン、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンC1およびモノアミンオキシダーゼAおよびその他の、アルカリ性条件下で正電荷を帯びているタンパク質を含むが、これに限定されない。
【0051】
本発明の一実施形態にあっては、標的タンパク質は抗体、受容体、酵素、輸送タンパク質、ホルモン、またはこれらの断片または複合体、例えば第2のタンパク質または化学物質または毒素に結合したものであり得る。
【0052】
抗体はモノクローナル、ヒト化、キメラ、単鎖、二特異性、Fabフラグメント、F(ab‘)2フラグメント、Fab発現ライブラリーより作製された断片、抗イディオタイプ(anti−Id)抗体、および上記全てのエピトープ結合断片を含むがこれに限定されない。ただし、精製条件下で抗体が正電荷を帯びている事が条件である。
【0053】
モノクローナル抗体の調製には、株化細胞の連続培養を用いて抗体分子を産生するあらゆる技術を用いることができる。これには、Kohler&Milstein(1975, Nature 256,495−497および米国特許番号第4,376,110号)のハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al.,1983,Immunology Today 4,72、Cole et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80,2026−2030)およびヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole et al.,1985,Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)を含むが、これに限定されない。
【0054】
このような抗体は、クローン化をおこなうベースとして用いることができ、よって単一の重鎖と軽鎖を組み換えタンパク質として発現させることができる。2つの鎖は、組換えにより同じ細胞で発現させるか、別個に発現させ、精製してin vitroで組み合わせることができる。目的の重鎖または軽鎖、または目的の重鎖または軽鎖の可変領域を含む分子をコードする核酸(例えば、プラスミドベクター上の)を、異なった抗体の重鎖または軽鎖、または重鎖または軽鎖を含む分子を発現している細胞に形質転換し、多量体タンパク質を発現させることができる。加えて、重鎖または、重鎖の可変領域またはその相補性決定領域を含む分子を発現することもでき、これは相補的な軽鎖または軽鎖可変領域の非存在下で用いることができる。他の実施形態にあっては、このような抗体やタンパク質のNまたはC末端の修飾を、例えばC末端アミド化またはN末端アセチル化によって行うことができる。
【0055】
キメラ抗体とは、異なった部分が異なった動物種由来である分子で、例えばマウスmAb由来の可変領域とヒト免疫グロブリン定常部からなるようなものである(例えばCabilly et al.,米国特許番号第4,816,567号およびBoss et al.,米国特許番号第5,816,397号を参照)。キメラ抗体の産生に用いる技術には、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子の遺伝子と、適切な生理活性を有するヒト抗体分子の遺伝子とを接合する技術が含まれる(例えば、Morrison,et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.,81,6851−6855、Neuberger,et al.,1984,Nature 312,604−608、Takeda,et al.,1985,Nature 314,452−454を参照)。
【0056】
ヒト化抗体とは、非ヒト由来の抗体分子のうち、1つまたはそれ以上の非ヒト由来相補性決定領域(CDR)およびヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有するものである。ヒト化抗体の産生に用いる技術は、例えばQueen(米国特許番号第5,585,089号)およびWinter(米国特許番号第5,225,539号)に記載されている。フレームワーク領域およびCDRの範囲は、正確に定義されている(”Sequences of Proteins of Immunological Interest”,Kabat,E.et al.,米国保険社会福祉省(1983)を参照)。
【0057】
単鎖抗体は、Fv領域の重鎖および軽鎖断片をアミノ酸架橋を介して結合させることによって形成され、単鎖ポリペプチドとなる。単鎖抗体の産生に用いる技術は、例えば米国特許番号第4,946,778号、Bird,1988,Science 242,423−426、Huston,et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,5879−5883およびWard,et al.,1989,Nature 334,544−546に記載されている。
【0058】
二特異性抗体とは遺伝的に改変した抗体であって、例えば(1)1つの特異的なエピトープおよび、(2)例えば骨髄細胞上のFc受容体などの、「トリガー」分子、のように、2種類の標的を認識するものである。このような二特異性抗体は、化学的な接合、ハイブリドーマ、または組換え分子生物学的技術によって調製することができる。
【0059】
抗体断片は、抗体分子のペプシン処理によって得られるF(ab’)2フラグメント、F(ab’)2フラグメントのジスフィルド架橋を還元することで得られるF(ab‘)断片を含むが、これに限定されない。加えて、目的の特異性を有するモノクローナルFab断片を迅速、容易に同定するために、Fab発現ライブラリを作製(Huse,et al.,1989,Science 246,1275−1281)することができる。
【0060】
本発明の一実施形態にあっては、タンパク質はウリカーゼである。
【0061】
本発明の他の実施形態にあっては、ウリカーゼは哺乳類ウリカーゼである。
【0062】
本発明の他の実施形態にあっては、哺乳類ウリカーゼは変異型哺乳類ウリカーゼである。
【0063】
本発明の他の実施形態にあっては、哺乳類ウリカーゼはブタウリカーゼである。
【0064】
本発明の他の実施形態にあっては、ブタウリカーゼ変異体はPKSΔNウリカーゼと命名されている。
【0065】
本発明の他の実施形態にあっては、タンパク質は抗体である。
【0066】
本発明の他の実施形態にあっては、抗体は単鎖抗体である。
【0067】
本発明の他の実施形態にあっては、タンパク質はインターフェロンである。
【0068】
本発明の他の実施形態にあっては、インターフェロンはインターフェロンベータである。本発明の他の実施形態にあっては、インターフェロンはインターフェロンベータ1bである。Nagola,S.et al.,Nature,284:316(1980)、Goeddel,D.V.et al.,Nature,287:411(1980)、Yelverton,E.et al.,Nuc.Acid Res.,9:731(1981)、Streuli,M.et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.(U.S.),78:2848(1981)、1981年5月6日公開の欧州特許出願番号第28033号、1981年6月15日公開の第321134号、1981年8月26日公開の、第34307号、および1981年7月1日発行のベルギー特許第837379号は、組換えDNA技術を用いたベータインターフェロンの産生法を記載している。バクテリアによって生産したIFNの回収および精製の方法は、米国特許番号第4,450,103号、第4,315,852号、第4,343,735、第4,343,736号、およびDerynckら,Nature(1980)287:193−197およびScandella&Kornberg,Biochemistry,10:4447(1971) に記載されている。
【0069】
特定の実施形態にあっては、標的タンパク質はヒル凝固因子Xa阻害物質である。ヒル凝固因子Xa阻害物質は、当該分野に精通する者に知られているあらゆる方法、例えば、米国特許番号第6,211,341号および国際公開第94/23735号パンフレットに記載されている方法によって生産されうる。
【0070】
本発明の一実施形態にあっては、処理時間は約1〜約48時間の間であって、より好ましくは約10分〜約24時間、約30分から約12時間、約30分から約8時間、約30分から約6時間、約30分〜約4時間、約30分〜約2時間、約30分から約1時間、または約1時間〜2時間である。
【0071】
本発明の一実施形態にあっては、処理の際の温度条件は約4℃〜約36℃、より好ましくは約4℃〜約26℃である。
【0072】
本発明はさらに、陽イオン界面活性剤を、アルカリ性条件下で等電点が7以上であるタンパク質の精製に単剤として用いる方法をも提供する。
【0073】
本発明はさらに、混合物を塩化セチルピリジニウムを加えることによってアルカリ性条件下で混合物から精製したウリカーゼをも提供する。
【0074】
本発明の一実施形態にあっては、ウリカーゼは、ウリカーゼをコードするDNA配列を含むバクテリア細胞から、バクテリア細胞にDNA配列を発現させ、ウリカーゼを産生させる処理およびウリカーゼの回収を含む方法によって、得る。
【0075】
本発明の一実施形態にあっては、ウリカーゼはバクテリア細胞内の沈殿物から回収される。
【0076】
本発明はさらに、ウリカーゼポリマー複合体の調製に用いる精製ウリカーゼをも提供する。
【0077】
本発明はさらに、タンパク質を含む混合物を効果的な量の陽イオン界面活性剤によって、タンパク質が正電荷を帯びるまたは正電荷を帯びた表面を有するような条件下で処理し、タンパク質を回収するステップを含む方法によって、得られることが可能となる等電点が7以上である精製されたタンパク質をも提供する。
【0078】
本発明は、等電点が7以上であるタンパク質の精製にセチルピリジニウム塩を用いる方法を提供する
【0079】
pHに関しては、混合物を効果的な量の陽イオン界面活性剤によって、タンパク質が正電荷を帯びるような条件下で処理する実施形態にあっては、pHは標的タンパク質の性質によって異なる。しかしながら、pHは好ましくはpH7〜pH11、好ましい範囲は、約pH7〜約pH10、約pH7〜約pH9、約pH8〜約pH11、約pH8〜約pH10、または約pH8〜約pH9である。
【0080】
実施例
以下の実施例は本発明の理解を助けるために提供するものであり、決して本発明を限定することを意図するものではなく、またそう解釈されるものではない。
実施例 1.CPCを用いた、組換え哺乳類ウリカーゼの精製
【0081】
1.1.背景
医薬品グレードのウリカーゼは、基本的に非ウリカーゼタンパク質を全く含まないものでなければならない。E.coliで産生された哺乳類ウリカーゼ(等電点8.67)は、さらなる精製処理を施すために容易に単離できる、封入体(IB)と称される細胞内小器官に似た沈殿物に、細胞内で蓄積した。IBはスクランブル/ミスフォールドされて発現されたタンパク質を含むものと従来考えられてきたが、対照的に、これらのIB様エレメントは正しい折りたたみ構造を有するウリカーゼを沈殿物の形態で含んでいる。ウリカーゼIB様エレメントのアルカリ性pH、例えば約pH9〜11への曝露によって、沈殿しているタンパク質は再溶解した。可溶化されたIB様エレメントのウリカーゼ含有率は約40〜60%であり、均質なウリカーゼ調製物を得るためには、高度な精製を要した。ここに、多様な方法によって評価可能である、CPCを用いた、ウリカーゼならびにその他のタンパク質の精製を示す。例えば、哺乳類ウリカーゼの純度は、比活性度の測定、SDS−PAGEゲルでの電気泳動および染色処理後に現れるバンドの数、HPLCサイズ排除クロマトグラフィー分析で現れるピークのサイズと数によって評価することができる。
【0082】
1.2.材料と方法
1.2.1.50 mM NaHCO バッファー (pH 10.3)
このバッファーは、NaHCOを最終濃度が50mMになるように溶解して調製した。pHは10.2〜10.4になるように調整した。pHの初期値によって、0.1M HClまたは1N NaOHを用いることができる。
1.2.2.10% CPC 溶液
【0083】
10% CPC溶液は、CPCを最終濃度が10g/100mlとなるように、蒸留水に溶解して調製した。
【0084】
1.2.3.組換えブタウリカーゼの発現
組換え哺乳類ウリカーゼ(尿酸オキシダーゼ)は、参照することによって全文を本明細書に含む、デューク大学の国際公開第00/08196号パンフレットおよび米国特許番号第60/095,489号に記載のとおり、E.coli K−12株W3110 Fで発現させた。
【0085】
1.2.4.ウリカーゼを産生するバクテリアの培養と回収
バクテリアは、カゼイン加水分解産物、酵母抽出物、塩、グルコース、アンモニアを含有する成長培地中で、37℃で培養した。
【0086】
培養の後、ウリカーゼを蓄積したバクテリアを遠心処理によって回収し、残存する成長
【0087】
培地を除くために、水で洗浄した。
1.2.5.細胞破壊および回収
回収した細胞ペレットをpH8.0の50mMトリスバッファーと10mMのEDTA溶液に懸濁し、最終的に乾燥菌体重量(DCW)のほぼ20倍の体積となるように調製した。撹拌中のペレット懸濁液に、2000−3000 units/mlの濃度でライソザイムを加え、4℃〜8℃で、16〜20時間インキュベートした。
【0088】
細胞可溶化液は、強くせん断混合した後、超音波処理を施した。懸濁液を等量の脱イオン水で希釈し、遠心処理した。ウリカーゼ封入体を含んだペレットを、脱イオン水(w/w)で希釈して遠心処理し、さらに不純物を除いた。この最後の洗浄ステップで得たペレットをこの後の処理に用い、上精は廃棄した。
【0089】
1.2.6.溶解
封入体(IB)ペレットをpH10.3〜0.1±0.1の50 mM NaHCOバッファーに懸濁した。懸濁液を25±2℃で約0.5〜2時間インキュベーションし、IB由来のウリカーゼが溶解できるようにした。
【0090】
1.2.7.CPC処理
ホモジェナイズしたIB(pH10.3)のアリコットに、目的のCPC濃度が得られるよう、活発に混和しながら10%CPC溶液を加えた。示したとおりに、サンプルを1時間から24時間インキュベートし、この間に沈殿物のフレークが生じた。サンプルを、12,000 x gで15分間遠心した。ペレットと上精を分離し、ペレットは50mM NaHCO バッファー(pH 10.3)に、元の体積となるよう懸濁した。それぞれの分画の酵素活性を測定し、分画は濃縮し透析して、残ったCPCを除いた。
【0091】
1.2.8.タンパク質アッセイ
処理したIBサンプルと非処理のIBサンプルのアリコットの、タンパク質含有量を、改変ブラッドフォード法によって測定した(Macart and Gerbaut (1982) Clin Chim Acta 122:93−101)。
【0092】
1.2.9.ウリカーゼアッセイ
1.2.9.1.酵素活性
ウリカーゼの活性を、UV法(Fridovich,I.(1965)The competitive inhibition of uricase by oxonate and by related derivatives of s−triazines.J Biol Chem,240,2491−2494を、1mg/ml BSAを含めることで改変)用いて測定した。酵素反応速度は、2つのサンプルで、尿酸のアラントインへの酸化による、292nm波長分光の吸光度の減少を測定することによって求めた。1活性単位は、定められた条件下で、25℃で1分間に1μモルの尿酸を分解するのに要するウリカーゼの量と定義する。ウリカーゼの力価は、1mgタンパク質あたりの活性単位(U/mg)として表す。
【0093】
測定光路長が1cmの場合の、1mM尿酸の292nmにおける消衰係数は12.2である。よって、反応溶液1mlあたりの1μモルの尿酸の酸化は、12.2mA292の吸光度減少となる。吸光度の経時的な変化(ΔA292/分)は、曲線の直線部から得た。よって、ウリカーゼ活性は、次のように算出した:
【数1】



ただし:DF= 希釈係数、
RM=反応液の総量(単位はμl)
=反応液に分注した希釈したサンプル(単位はμl)
【0094】
1.2.9.2.Superdex 200を用いたHPLC分析
未変性のウリカーゼ酵素ならびに混入物の、量およびその相対的な割合は、Superdex 200カラムを用いたHPLCによって得た溶出プロファイルより定量された。2つのウリカーゼ溶液のサンプルをカラムに分注した。それぞれのピークならびに総エリアに占める割合は自動的に計算され、これを図の次に示した表にまとめた。
【0095】
1.2.10.SDS−PAGE分析
1レーンあたり〜20□gのタンパク質を含むサンプルを、15%SDS−PAGEゲル上で分離した。得られたゲルは、クーマシーブリリアントブルーで染色した。
【0096】
1.3.結果
上精に回収されたウリカーゼ活性および純度への、CPC処理(0.005%〜0.075%、1〜24時間)の影響は、表1および図1に示した。(pH10.3の下での)CPC処理前にあっては、タンパク質濃度は1.95mg/mlであり、比酵素活性度は3.4−4.67U/mgであった。図1Bに示した結果は、それぞれのインキュベーション時間で、CPC濃度が増えるにつれ、上精のタンパク質濃度が減少していることを示している。0.04%以下の濃度では、CPCのタンパク質濃度に与える影響は比較的小さかった。0.04%〜0.075%の濃度では、CPCはタンパク質濃度を元の濃度の約50%にする場合がある。
【0097】
CPCの総タンパク質への影響とは対照的に、総可溶性ウリカーゼ活性はCPC濃度およびインキュベーション時間の増加に顕著な影響を受けなかった(図1A)。それぞれのインキュベーション時間の中で、比酵素活性度(図1C)は0.04%〜0.075%の範囲内で、CPC濃度の関数として一貫して増加した。この増加は、非ウリカーゼタンパク質の特異的な除去によるものである。最終的に得た精製酵素の比酵素活性度が約9 U/mgであったことから、混入タンパク質の大部分が、CPC沈殿によって除去されたことが分かる。HPLCおよびSDS−PAGEによる分析でも、この結論を指示する結果が得られた。
表1: CPCへの暴露のウリカーゼの活性および純度への影響
【表1】

【0098】
1.4.CPCによるウリカーゼの高純度化の確認
ウリカーゼを含有するIBを、1.3に記載したとおりの方法で単離し、可溶化した。CPC処理前、およびCPCにより沈殿したタンパク質を濾過で除いた後の可溶物のサンプルを分析した。
【0099】
1.4.1. 0.075%CPC処理後の、非ウリカーゼタンパク質のHPLC分析
可溶化したIBのHPLC分析は、ウリカーゼのピーク(保持時間(RT)〜25.5分)が、粗IBサンプルのタンパク質の約46%を占めることを示した(図2A)。CPC処理後は、ウリカーゼのピークがタンパク質の約92%にまで増加し(図2B)、RT15〜22分の間で溶出する混入物が顕著に減少している(図2A)。ウリカーゼピークのエリアは、図2Aの約70%である。従って、これらの結果は、CPC処理による非ウリカーゼタンパク質の除去によって、ウリカーゼの純度が2倍になったことを示している。
【0100】
1.4.2. 0.075% CPCの、酵素活性への影響
(表2に示した)結果は、ウリカーゼ活性の物質収支が、処理過程を通じて保持されていたことを示している。CPCへの曝露は、溶液中の総タンパク質の60%を沈殿させることが示された。溶液の酵素活性の85%以上が残存したので、外来タンパク質の除去は、生成された上精の比酵素活性度を110%以上増加させたことになる。ほとんどの精製処理でそうであるように、目的の活性の一部は、ペレットに残存した。この例では、元の活性の17.6%のみがペレットに残存し(これを、分析のため50mM重炭酸ナトリウム(7m Si、pH 10.3)で抽出した)、総量に占める割合は比較的低かった。
表2:CPC処理のウリカーゼの活性への影響
【表2】

【0101】
1.4.3. 0.075% CPC 後のSDS−PAGE分析
粗ウリカーゼのCPC処理前および、その後の可溶性物質と不溶性物質の分離、CPC処理、遠心処理による分画、遠心によって得たペレットの再構成、の各処理過程から得た、等量のタンパク質を含むサンプルを、SDS−PAGEによって分析した。結果(図3参照)は、CPC処理前では、混入タンパク質が存在していることを示している。CPC処理後では、ペレットにほとんどの混入タンパク質が含まれており、上精ではウリカーゼが主要な単バンドを形成していた。
【0102】
実施例 2. CPC処理の、単鎖(scFv)抗体の精製に与える影響
2.1.材料と方法
2.1.1.緩衝液
2.1.1.1.封入体溶解液
溶解バッファーは、6M尿素、50mMトリス、1mM EDTAおよび0.1Mシステインを含有する。バッファーのpHは8.5に滴定した。
【0103】
2.1.1.2.フォールディングバッファー
フォールディングバッファーは、1M尿素、0.25mM NaCl、1mM EDTAおよび0.1Mシステインを含有する。バッファーのpHは10.0に滴定した。
【0104】
2.1.2.バクテリアでの、scFv抗体の発現
scFv抗体(pI8.9)は、参照することによって全文を本明細書に含むPCT公報WO02/059264に記載の、カルボキシ末端にシステイン−リシン−アラニン−リシンを有するscFvをコードするベクターで形質転換したE.coliで発現させた。
【0105】
2.1.3.scFv抗体を産生するバクテリアの培養と回収
scFvを含有するバクテリア細胞は、誘導を行う前培養として、5時間、最終濃度0.5%となるようにL−アルギニンを加え、pHを7.2に調整した最小培地で培養した。scFv発現の誘導は、培地のグルコース量を限定することで行った。scFvを含有するバクテリア細胞の培地からの回収は、限外濾過によって行った。
【0106】
2.1.4.細胞破壊および封入体の回収
回収した細胞ペレットをpH8.0の50mMトリスバッファーと10mMのEDTA溶液に懸濁し、最終的に乾燥菌体重量(DCW)の20倍の体積となるように調製した。撹拌中のペレット懸濁液に、2000−3000 units/mlの濃度でライソザイムを加え、4℃で、16〜20時間インキュベートした。
【0107】
細胞可溶化液は、強くせん断混合した後、超音波処理を施した。scFv抗体含有封入体は10,000x gの遠心処理で回収した。ペレットは脱イオン水(w/w)で約16倍に希釈して遠心処理し、さらに不純物を除いた。この最後の洗浄ステップで得たペレットをこの後の処理に用いた。
【0108】
2.1.5.溶解およびリフォールディング
IBを多く含んだペレットを、封入体溶解バッファー(上記参照)に懸濁し、室温で5時間インキュベーションし、in vitroでアルギニン/酸化型グルタチオンをベースとする溶液でリフォールドさせた。リフォールディング後、タンパク質に透析処理を施し、尿素/リン酸を含有するバッファーに対して、タンジェンシャルフロー濾過によって濃縮した。
【0109】
2.1.6.CPC処理
scFvを含有するリフォールディング混合物に、最終濃度が0.02%となるよう10%CPC溶液を加えた。室温で1〜2時間インキュベーションした後、沈殿物は濾過によって除去した。上精が、scFv抗体を含有する。
【0110】
2.2.結果
2.2.1.回収可能なscFv抗体への、CPC濃度の影響
(pH7.5または10における)CPC処理の、scFv抗体の純度および回収に与える影響は、表3に示してある。CPC処理前の、IBタンパク質の初期量は73mgであり、Superdex 75によるHPLC分析で15.87mgのscFv抗体を含んでいることが示された。scFv抗体を含有するピークの保持時間(RT)は約20.6分であった。結果は、CPC濃度の増加に伴って総タンパク質の回収量が減少し、CPC濃度が0.03%未満であるときは、scFv抗体の回収量は80%より高い範囲に留まったことを示していた。pH10の条件下に比べて、pH7.5の条件下では、より効率的な混入タンパク質の除去が達成された。従って、scFv抗体の精製は、0.01から0.03% CPC処理によって達成された。
表3:CPC処理のscFv抗体の回収および純度への影響
【表3】

【0111】
2.3.CPCによるscFv 抗体の高純度化の確認
2.3.1.CPC処理後の、 scFv 回収物のHPLC分析
リフォールドされたタンパク質のHPLC分析は、scFv抗体のピーク(保持時間(RT)〜20.6分)が総タンパク質量の22.7%を占めることを示した(図4B)。図4Cのクロマトグラムは、0.02%CPC処理の後に、上精のscFv抗体のピークが、注入した総タンパク質の約75.9%を占めたことを示しており、これは3.3倍の精製となる。従って、CPC処理は、scFv抗体溶液のタンパク質混入物を除去した。
【0112】
2.3.2.CPC処理後のscFv回収物のSDS−PAGE分析
結果(図5参照)は、CPC処理前には、サンプルには多くの種類のタンパク質が、相当量含まれていたことを示している。同様に、CPC処理後では、ペレットに多くの種類のタンパク質が含まれていた。これに比して、CPC処理後の上精は、scFv抗体の、1本の大きなバンドを示した。
【0113】
実施例 3.CPCの、組み換えインターフェロンベータの精製に与える影響
インターフェロンベータ(IFN−beta、pI8.5〜8.9)は、既知の方法によって、E.coliで発現させた。Nagola,S.et al.,Nature,284:316(1980)、Goeddel,D.V.et al.,Nature,287:411(1980)、Yelverton,E.et al.,Nuc.Acid Res.,9:731(1981)、Streuli,M.et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.(U.S.),78:2848(1981)、1981年5月6日公開の欧州特許出願番号第28033号、1981年6月15日公開の第321134号、1981年8月26日公開の、第34307号、および1981年7月1日発行のベルギー特許第837379号は、組換えDNA技術を用いたベータインターフェロンの産生法を記載している。バクテリアによって生産したIFNの回収および精製の方法は、米国特許番号第4,450,103号、第4,315,852号、第4,343,735、第4,343,736号、およびDerynckら,Nature(1980)287:193−197および Scandella and Kornberg,Biochemistry,10:4447(1971)に記載されている。IFN−betaを含む封入体を単離し、可溶化した。
【0114】
得た溶液を、CPCで処理した。図6に示した結果は、CPC処理後、混入タンパク質量が顕著に減少したことを示している。CPC処理後の、IFN−betaの実際の量(ピークの下のエリア)の検出できる変化は認められなかった。
【0115】
表4は、CPC処理の影響をまとめたものである。総タンパク質量(ブラッドフォード法)は40%減少し、UV吸光度は40%減少したが、IFN−betaの量は変化しなかった。
【表4】


a Vydac C4カラムによって定量
b SECプロファイルはいくつかのピークを含んでいた。13分(保持時間13分)で溶出したピークは、CPC処理によって減少し、この領域は高分子量のタンパク質ならびにその変異型が溶出するところにあたる。
【0116】
実施例 4.CPC処理の、ヒル凝固Xa因子阻害物質の精製に与える影響
CPCを、ヒル凝固Xa因子阻害物質の精製に用いた。ヒル凝固因子阻害剤(FXaI、pI 8.4〜9.1)は、米国特許番号第6,211,341号および国際公開第94/23735号パンフレットに記載されている方法によって生産されうる。FXaIを含有する封入体(IB)の単離の後、実施例1に記したとおりに、FXaIはこの封入体から実質的に精製された。IBペレットの溶解の後、調整物を10%CPC溶液と共にインキュベーションした。この後、混合物を12,000xgで15分間遠心処理した。ペレットと、上精が分離された。ペレットを50 mM NaHCOバッファーに、元の体積に等しくなるように懸濁した。ペレットと上精は、それぞれ別に濃縮および透析し、残存したCPCを除いた。含有タンパク質ならびに活性を測定し、FXaIが、上精で主要なコンポーネントを占めており、ペレットにはほとんど存在していないことが示された。これらの結果は、CPC処理が、回収したFxaIの収率ならびに純度を向上させたことを示している。
【0117】
実施例 5.CPCによる、カルボキシペプチダーゼB(CPB)の精製
CPBを発現しているクローンから得た等量の封入体を、8M尿素pH 9.5で可溶化した(対照及び試験)。CPBの生成法については、国際公開第96/23064号パンフレットならびに米国特許番号第5,948,668号に記載されている。試験サンプルは、0.11%CPCで処理し、リフォールディング前に濾過によって不溶物を除いた。コントロールならびにテストサンプルのリフォールディングは、溶液をリフォールディングバッファーに1:8で希釈することによって行った。室温で一晩、エンドプロテイナーゼで処理した後、等量のコントロール溶液ならびに試験溶液を、DEAEセファロースカラムにロードした。カラムをウォッシュし、引き続いて活性酵素を、60mM塩化ナトリウムによって、20mMトリスバッファーpH8に溶出した。
【表5】


(*) タンパク質含有量はブラッドフォード法によって測定した。
(**) リフォールディング前には、タンパク質は不活性であった。
【0118】
表5に示した結果は、CPCで処理した物質の総ODが49.5%減少し、総タンパク質量が44.5%減少したことを示している。興味深いことに、CPC処理を施したサンプルでは、酵素活性が79%増加した。これは、CPCが、活性を持った酵素の生成を部分的に阻害していた成分を除いたことを示唆している。
【0119】
本出願に引用される全ての文献を、各個々の刊行物、特許または特許出願を具体的かつ個々に、参照することによって援用すると示したのと同程度に、全ての目的のためにその全文を参照することによって本明細書に含める。
【0120】
当該分野に精通する者は、本発明にあっては、その思想および範囲から逸脱することなく、様々な変更ならびに形態様が可能であることを理解するであろう。上記の具体的な実施例は単に例を示すのみであって、本発明は添付した特許請求項、ならびに、このような請求に権利が与えられるあらゆる等価例によってのみ制限されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1はCPC濃度のウリカーゼ活性およびその純度への影響を示した図である。
【図2】図2は、封入体から調製し、0.075% CPCで処理した後の哺乳類粗ウリカーゼのHPLCサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を示す。
【図3】図3は、CPC処理を施したウリカーゼのSDS−PAGE分析(15%ゲル)の結果を示す。
【図4】図4は0.02% CPC処理後の粗scFv抗体のHPLCサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を示す。
【図5】図5は、CPC処理を施したscFv抗体のSDS−PAGE分析(15%ゲル)の結果を示す。
【図6】図6は、CPC処理前および処理後のインターフェロンベータのHPLCゲル濾過クロマトグラフィー分析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質の精製法であって、標的タンパク質を同定し、可溶化された標的タンパク質および可溶化された1つまたはそれ以上の混入タンパク質を含む溶液を、1つまたはそれ以上の混入タンパク質を選択的に沈殿させるのに効果的な量の、1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤で処理することを含む、標的タンパク質の精製法。
【請求項2】
可溶化された標的タンパク質の回収ステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤が両親媒性アンモニウム化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
両親媒性アンモニウム化合物が、一般式QNで表される第4アンモニウム化合物と、一般式RNHで表されるパラフィン鎖第1アンモニウム化合物、およびそれらの塩から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
両親媒性アンモニウム化合物を、セチルピリジニウム塩、ステアリン酸アミド−メチルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、セチルキノリニウム塩、ラウリルアミノプロピオン酸メチルエステル塩、ラウリルアミノプロピオン酸金属塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインおよびベンゼトニウム塩からなる群から選択する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
両親媒性アンモニウム化合物が、塩化ヘキサデシルピリジニウム、デカリニウムアセテート、塩化ヒキサデシルピリジニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、混合塩化n−アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化N,N−ジメチル−N−[2−[2−[4−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)−フェノキシ]エトキシ]エチル]ベンゼンメタンアンモニウム、塩化アルキル−ジメチルベンジル−アンモニウム、塩化ジクロロ−ベンジルジメチル−アルキルアンモニウム、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
両親媒性アンモニウム化合物がセチルピリジニウム塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
セチルピリジニウム塩がハロゲン化物塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
セチルピリジニウムハロゲン化物塩が塩化セチルピリジニウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
両親媒性アンモニウム化合物が、6〜20炭素原子を有する脂肪族鎖を少なくとも1本有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
脂肪族鎖が炭素原子8〜18個を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶液が、さらに1つまたはそれ以上の細胞成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1つまたはそれ以上の細胞成分が微生物由来である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
微生物がバクテリアである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
バクテリアがE.coliである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
1つまたはそれ以上の細胞成分が1つまたはそれ以上のタンパク質である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
標的タンパク質が組み換えタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
組み換えタンパク質が酵素である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
標的タンパク質が、抗体、ウリカーゼ、インターフェロンベータ、凝固因子X阻害剤、II型酸性デオキシリボヌクレアーゼ、エラスターゼ、リゾチーム、パパイン、ペルオキシダーゼ、膵臓リボヌクレアーゼ、トリプシノーゲン、トリプシン、シトクロムc、エラブトキシン、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンC1、インターフェロンおよびモノアミンオキシダーゼAから成る群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
標的タンパク質がウリカーゼである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ウリカーゼが哺乳類ウリカーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
哺乳類ウリカーゼがブタウリカーゼである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
標的タンパク質が抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
抗体が単鎖抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
標的タンパク質がインターフェロンである、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
インターフェロンがインターフェロンベータである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤が0.001%〜5.0%の濃度となるように加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤が0.01%〜0.5%の濃度となるように加えられる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤が0.003%〜0.2%の濃度となるように加えられる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
処理が5分から48時間施される、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
処理が10分から24時間施される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
処理が4℃〜36℃の温度条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
処理が4℃〜26℃の温度条件下で行われる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
溶液に多価陰イオンが実質的に含まれない、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
溶液に固形支持体が実質的に含まれない、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
溶液に混入タンパク質と他分子の凝集体が実質的に含まれない、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
溶液に多価陰イオン、固形支持体、並びに混入タンパク質と他分子の凝集体が実質的に含まれない、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
陽イオン界面活性剤がセチルピリジニウム塩である、請求項35、36または37に記載の方法。
【請求項39】
セチルピリジニウム塩が塩化セチルピリジニウムである、請求項37、38または39に記載の方法。
【請求項40】
標的タンパク質の等電点が7以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項41】
請求項1に記載の方法で調製した、精製タンパク質。
【請求項42】
請求項1に記載の方法で調製した、精製ウリカーゼ。
【請求項43】
ウリカーゼが哺乳類ウリカーゼである、請求項42に記載のウリカーゼ。
【請求項44】
ウリカーゼがブタウリカーゼである、請求項43に記載のウリカーゼ。
【請求項45】
ウリカーゼが、ウリカーゼをコードするDNAを含んでおり、このDNAの発現によってウリカーゼが産生されているバクテリア細胞から得たウリカーゼである、請求項42に記載のウリカーゼ。
【請求項46】
ウリカーゼが、バクテリア細胞が産生した封入体から回収したウリカーゼである、請求項45に記載のウリカーゼ。
【請求項47】
以下の工程を含む、標的タンパク質の精製法;
a.標的タンパク質を同定する工程、
b.可溶化された標的タンパク質および可溶化された1つまたはそれ以上の混入タンパク質を含む溶液を、1つまたはそれ以上の混入タンパク質を選択的に沈殿させるのに効果的な量の、1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤で、処理する工程;および
c.可溶性の標的タンパク質を回収する工程。
【請求項48】
下記の工程を含む、複数のタンパク質の溶液において標的タンパク質の割合を増加させる方法;
a.標的タンパク質と混入タンパク質を含んでおり、標的タンパク質が溶液の総タンパク質重量に対して第1の百分率を為している、複数のタンパク質が溶解した溶液を得る工程;
b.前記の溶液を、混入タンパク質を選択的に沈殿させるのに効果的な量の、1つまたはそれ以上の陽イオン界面活性剤で処理する工程;
ここで、標的タンパク質が工程bの溶液において総タンパク質重量に対して第2の百分率を為しており、この第2の百分率は、第1の百分率よりも大きい。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−533429(P2009−533429A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505340(P2009−505340)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/013751
【国際公開番号】WO2008/051178
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(507334679)サビエント ファーマセウティカルズ インク. (4)
【Fターム(参考)】