説明

陽極酸化処理装置、処理槽、インプリント用ロール状モールドの製造方法、および複数の凸部を表面に有する物品の製造方法

【課題】細孔の深さのバラツキが抑えられたインプリント用ロール状モールドを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、陽極酸化槽の電解液に浸漬されたアルミニウムからなる円筒状のアルミニウム基材に、通電部材を用いて通電して陽極酸化処理を行い、表面に複数の凹凸を有するロール状モールドを製造する方法であって、前記通電部材が前記アルミニウム基材に当接した状態で、前記アルミニウム基材の中心軸を回転中心として、前記アルミニウム基材を回転させながら、前記通電部材を通じて前記アルミニウム基材に通電を行う陽極酸化工程、を含むロール状モールドの製造方法等に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状のアルミニウム基材の外周面に複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成されたインプリント用ロール状モールドを製造するための陽極酸化処理装置およびインプリント用ロール状モールドの製造方法、および前記インプリント用ロール状モールドを用いて、複数の凸部を表面に有する物品を製造する方法に関する。
また、本発明は、円柱状の基材を電解液中で電解処理するための処理槽、および円柱状の基材を電解液中で電解処理する電解処理装置に関する。
本願は、2010年3月25日に、日本に出願された特願2010−070280号、2010年6月15日に、日本に出願された特願2010−136227号、2010年7月29日に、日本に出願された特願2010−170458号、2011年1月31日に、日本に出願された特願2011−018226号、および2011年3月4日に、日本に出願された特願2011−047561号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面を処理する方法としては、めっき等の皮膜処理や、陽極酸化等の化成処理などがある。
基材の表面を処理する際は、例えば図7Aおよび7Bに示すように、直方体状の処理槽170の下部に設置された供給管171から電解液等の処理液1L’を処理槽170に供給し、多孔板172によって処理槽170内の処理液1L’の流動を調整しつつ、処理槽170の上部から処理液1L’をオーバーフローさせながら、円柱状の基材1Aを処理槽170内の処理液1L’に浸漬させて表面処理を行うのが一般的である。
【0003】
また、特許文献1には、直方体状のめっき槽と、前記めっき槽の四方を囲むオーバーフロー部と、前記オーバーフロー部と連通するリザーブ槽と、前記リザーブ槽からめっき槽へめっき液を補給するポンプとを備えためっき処理装置が開示されている。このめっき処理装置は、ポンプの液吐出部にU字状の多孔管が設けられ、前記多孔管の上部にはめっき槽の内部を上下に仕切る多孔板が設置され、被めっき物(基材)は多孔板の上部に位置するように、めっき槽に収容される。
このめっき処理装置によれば、ポンプによってめっき液をめっき槽へ導入させ、多孔管の吐出口よりめっき槽上方へ吐出させることで、めっき槽内のめっき液に流動が与えられるとともに、多孔間の上部の多孔板によってめっき液の流動を均一化できるとしている。
【0004】
しかしながら、図7Aおよび7Bに示すような処理槽170や特許文献1に記載のめっき槽を用いて基材の表面を処理する場合、多孔板172の下側において処理液1L’の流動状態に斑が生じやすかった。その結果、処理槽170の下部から上部へと移動し、オーバーフローする処理液1L’の流れが乱れ、部分的に処理液1L’が滞留することがあった(滞留部の発生)。滞留部が発生すると、基材1Aの表面を均一に処理することが困難となる。
このような傾向は、図7Aおよび7Bに示すように、基材1Aが長尺な形状の場合に起こりやすく、長手方向の長さが長くなるほど顕著であった。かかる理由は以下のように考えられる。
【0005】
通常、供給管171は、処理槽170の端面からこれに対向する端面に向かって奥まで伸びている。従って、基材1Aが長尺になるほど、前記基材1Aを収容する処理槽170の形状も長尺になり、供給管171も処理槽170の長手方向の長さに合わせて長くなる。処理液1L’はポンプ173によって供給管171から処理槽170に押出されるので、ポンプ173からの距離によって処理液1L’が受ける圧力が異なりやすい。供給管171が長くなるほどポンプ173から遠ざかるため、ポンプ173に近い手前側とポンプ173から離れた奥側とでは圧力差が生じやすくなる。そのため、処理液1L’の流動状態に斑がより生じやすくなり、滞留部が発生しやすくなると考えられる。
【0006】
また、基材1Aが長くなると、前記基材1Aを収容する処理槽170も大きくなるため、装置が大型化になり、処理液1L’の使用量も増大する。
【0007】
ところで、近年、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する光学フィルムなどの物品は、反射防止効果、ロータス効果等を発現することから、その有用性が注目されている。特に、モスアイ構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から物品の材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止機能を発現することが知られている。
【0008】
微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法としては、基材フィルム等の被転写体の表面に、モールドの表面に形成された微細凹凸構造を転写するインプリント法が挙げられる。前記インプリント法としては、例えば、下記の方法が知られている(特許文献2)。
【0009】
複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが外周面に形成されたロール状モールドと、透明な基材フィルムとの間に、紫外線硬化性樹脂が介在した状態で、紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させて、陽極酸化アルミナの細孔が反転した複数の凸部を表面に有する硬化樹脂層を形成し、前記硬化樹脂層とともに基材フィルムをロール状モールドから剥離する光インプリント法。
【0010】
このインプリント法で用いるモールドを製造する方法としては、例えば円柱状(ロール状)のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化し、アルミニウム基材の周面に複数の細孔(凹部)を有する陽極酸化アルミナを形成する方法が知られている(特許文献2,3)。
【0011】
しかし、図7Aおよび7Bに示すような処理槽170を用いて円柱状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化した場合、処理槽170内で滞留部が発生すると、特に多孔板172の上部において処理液(電解液)1L’に温度斑が生じやすくなる。基材1Aの表面温度は処理液1L’の温度斑に影響を受けやすく、処理液1L’に温度斑が生じると、基材1Aの表面も温度斑が生じやすくなる。
陽極酸化によって基材表面に形成される細孔の深さは、処理中の温度に影響を受けやすい。従って、電解液や基材表面に温度斑が生じると、場所によって細孔の深さにバラツキがあるモールドが得られる場合がある。こうしたモールドを用い、前記モールドの表面に形成された微細凹凸構造をインプリント法にて転写すると、場所によって凸部の高さにバラツキがある、すなわち、反射率にバラツキがある物品となってしまう。
【0012】
陽極酸化のムラが生じてしまう原因として、電解液の温度、電流密度、電解電圧等が影響しており、ロール状のアルミニウム表面の温度ムラや、安定した電流を供給するための通電部材とアルミニウム基材が電気的に緊密に接触していない為の通電不良等が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−242878号公報
【特許文献2】特開2009−174007号公報
【特許文献3】国際公開第2006/059686号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の第1の側面は、細孔の深さのバラツキが抑えられたインプリント用ロール状モールドを製造する方法を提供する。
本発明の第2の側面は、凸部の高さのバラツキが抑えられた、複数の凸部を表面に有する物品を製造する方法を提供する。
【0015】
本発明の第3の側面は、細孔の深さのバラツキが抑えられたインプリント用ロール状モールドを製造できる陽極酸化処理装置を提供する。
【0016】
本発明の第4の側面は、長尺な基材を処理する場合でも電解液の滞留を防止し、さらに電解液の使用量も抑制できる電解処理装置を提供する。
本発明の第5の側面は、上記電解処理装置に好適に用いられる処理槽を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、陽極酸化槽の電解液に浸漬されたアルミニウムからなる円筒状のアルミニウム基材に、通電部材を用いて通電して陽極酸化処理を行い、表面に複数の凹凸を有するロール状モールドを製造する方法であって、
前記通電部材が前記アルミニウム基材に当接した状態で、前記アルミニウム基材の中心軸を回転中心として、前記アルミニウム基材を回転させながら、前記通電部材を通じて前記アルミニウム基材に通電を行う陽極酸化工程、を含むロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第2の態様は、前記アルミニウム基材と、前記通電部材とが同期して回転する、第1の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第3の態様は、前記通電部材は、導電性の軸部材と、前記軸部材に固定され、前記アルミニウム基材に当接される触子と、を含み、前記触子が円筒状の前記アルミニウム基材の内周面に当接され、前記軸部材の少なくとも一方の端部が、前記軸部材に給電を行う導電性の給電部材と接触する位置に配置されている第1の態様または第2の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第4の態様は、前記軸部材の少なくとも一方の端部が前記アルミニウム基材の軸方向に沿って前記アルミニウム基材の外側に位置し、前記少なくとも一方の端部の形状が円錐状であり、前記軸部材の少なくとも一方の端部は、前記給電部材と摺動しながら回転する第3の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第5の態様は、前記アルミニウム基材は、前記アルミニウム基材の軸方向端部に固定された回転治具を回転させることにより、中心軸を中心として回転し、前記軸部材は、前記回転治具に固定され、前記アルミニウム基材に同期して回転する、第3の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第6の態様は、前記回転治具は、前記アルミニウム基材の端部を止水する、第5の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第7の態様は、前記陽極酸化槽から前記電解液の一部を排出しつつ、前記陽極酸化槽に同量の電解液が供給される、第1の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第8の態様は、前記陽極酸化槽のアルミニウム基材よりも上側から電解液をオーバーフローさせて前記電解液の一部を排出させ、オーバーフローした前記電解液を前記アルミニウム基材よりも下側に設けられた供給口から陽極酸化槽内に返送する、第7の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第9の態様は、前記陽極酸化槽の形状が、半円柱状の形状であり、一方の側面から電解液を均一に供給し、他方の側面からオーバーフローさせる、第7の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第10の態様は、前記陽極酸化槽は、電解液を収容し、前記アルミニウム基材が浸漬する長尺な形状であり、前記処理槽本体に浸漬された基材の周面に沿うように、底部が円弧状に湾曲した処理槽本体、処理槽本体に電解液を供給する電解液供給部、および処理槽本体から電解液を排出するオーバーフロー部を備え、処理槽本体の長手方向に沿うように設けられた前記電解液供給部から、処理槽本体の一方の側面上方から電解液を供給し、処理槽本体の長手方向に沿うように処理槽本体の他方の側面上部に設けられた前記オーバーフロー部から、前記電解液を排出する、第9の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第11の態様は、前記電解液供給部から供給された前記電解液が前記オーバーフロー部へ流れる方向とは反対方向に、前記アルミニウム基材を回転させる、第10の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第12の態様は、前記通電部材が、前記アルミニウム基材の一端面または両端面に面接触する通電部材である第1の態様または第2の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第13の態様は、前記通電部材が前記アルミニウム基材の一端面または両端面に当接し、前記アルミニウム基材が軸方向に挟持されるように配置されており、前記通電部材を回転させ、前記通電部材と前記アルミニウム基材とを当接した状態で回転させる、第12の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第14の態様は、前記回転治具は、前記アルミニウム基材の端部を止水する、第13の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第15の態様は、前記通電部材を前記アルミニウム基材の軸方向に沿って移動させ、前記アルミニウム基材と前記通電部材とを接触させる、第12の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
本発明の第16の態様は、前記アルミニウム基材の一端面または両端面に第1テーパ面が含まれ、前記通電部材は、前記第1テーパ面に面接触する第2テーパ面を有し、前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面とを接触させて前記アルミニウム基材と前記通電部材とを当接させる、第12の態様に記載のロール状モールドの製造方法に関する。
【0018】
本発明の別の側面として、本発明のインプリント用ロール状モールドの製造方法は、ロール状のアルミニウム基材の外周面に、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成されたインプリント用ロール状モールドを製造する方法であって、アルミニウム基材を陽極酸化槽の電解液中で陽極酸化する際に、アルミニウム基材の中心軸を回転軸としてアルミニウム基材を回転させることを特徴とする。
【0019】
上記の側面において、陽極酸化槽から電解液の一部を排出しつつ、陽極酸化槽に同量の電解液を供給することが好ましく;陽極酸化槽から電解液をオーバーフローさせ、オーバーフローした電解液をアルミニウム基材よりも下側に設けられた供給口から陽極酸化槽内に返送することがより好ましい。
上記の側面において、陽極酸化槽への電解液の供給量は、陽極酸化槽の容積に対して、循環回数が3分間に1回以上が好ましい。そうする事で、陽極酸化槽は頻繁な液更新が行え、除熱、発生した水素除去を効率よく行える。例えば、槽容量が105Lの時、35L/分〜60L/分であることが好ましく、41L/分〜55L/分がより好ましい。
上記の側面において、陽極酸化の際には、アルミニウム基材を陽極とし、少なくとも1枚の陰極板をアルミニウム基材の中心軸に略平行に、かつアルミニウム基材を挟んで対向配置させることが好ましい。
本発明の第17の態様は、複数の凹凸を表面に有する物品を製造する方法であって、第1の態様に記載の製造方法で得られたインプリント用ロール状モールドの外周面に形成された陽極酸化アルミナの複数の細孔を、インプリント法によって被転写体に転写してすること、前記細孔が反転して転写された形状の複数の凸部を表面に有する物品を得ることを含む、前記物品の製造方法に関する。
【0020】
本発明の第18の態様は、円柱状の基材を電解液中で電解処理するための処理槽において、電解液を収容し、前記基材が浸漬する長尺な処理槽本体、処理槽本体に電解液を供給する電解液供給部、および処理槽本体から電解液を排出するオーバーフロー部を備え、前記処理槽本体の底部の内面は、前記処理槽本体に浸漬された基材の周面に沿うように、円弧状に湾曲し、前記電解液供給部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の一方の側面上方に設けられ、前記オーバーフロー部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の他方の側面上部に設けられている処理槽に関する。
本発明の第19の態様は、円柱状の基材を電解液中で電解処理する電解処理装置において、電解液を収容し、前記基材が浸漬する長尺な処理槽本体、処理槽本体に電解液を供給する電解液供給部、および処理槽本体から電解液を排出するオーバーフロー部を備えた処理槽と、前記処理槽本体に浸漬された基材を挟むように配置された電極板とを具備し、前記処理槽本体の底部の内面は、前記処理槽本体に浸漬された基材の周面に沿うように、円弧状に湾曲し、前記電解液供給部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の一方の側面上方に設けられ、前記オーバーフロー部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の他方の側面上部に設けられている電解処理装置に関する。
【0021】
ここで、前記電極板は、前記処理槽本体の底部の内面形状に沿うように湾曲していることが好ましい。
さらに、前記基材の中心軸を回転中心として、前記基材を回転させる回転手段を具備することが好ましい。
また、前記回転手段は、電解液供給部から供給された電解液がオーバーフロー部へ流れる方向とは反対方向に、前記基材を回転させることが好ましい。
【0022】
本発明の第20の態様は、アルミニウムからなるロール状のアルミニウム基材を陽極酸化槽の電解液にて陽極酸化処理を行う陽極酸化処理装置であって、前記アルミニウム基材の一端面または両端面に面接触する通電部材を有し、中心軸を回転中心として回転する前記アルミニウム基材に前記通電部材を同期させて回転させながら、前記アルミニウム基材に対して通電を行う陽極酸化処理装置に関する。
また、本発明の第20の態様に係る陽極酸化処理装置は、前記アルミニウム基材を回転させる回転駆動手段を有することを特徴とする。
また、本発明の第20の態様に係る陽極酸化処理装置は、前記通電部材を前記アルミニウム基材の軸方向に進退動させる軸方向駆動手段を有し、前記軸方向駆動手段にて、前記アルミニウム基材と前記通電部材とを接触または離反させることを特徴とする。
また、本発明の第20の態様に係る陽極酸化処理装置では、前記アルミニウム基材の一端面または両端面に第1テーパ面が含まれ、前記通電部材は、前記第1テーパ面に面接触する第2テーパ面を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の第21の態様は、アルミニウムからなるロール状のアルミニウム基材を陽極酸化槽の電解液にて陽極酸化処理を行う陽極酸化処理装置であって、前記アルミニウム基材を通電させる導電性の触子を有し、前記アルミニウム基材の中心軸を回転中心として前記アルミニウム基材を回転させるとともに、前記触子を前記アルミニウム基材に当接させた状態で前記アルミニウム基材に同期させて回転させ、前記アルミニウム基材に対して通電を行う陽極酸化処理装置に関する。
また、本発明の第21の態様に係る陽極酸化処理装置は、前記触子を固定し前記アルミニウム基材の軸方向に沿って延びる導電性の回転軸と、前記回転軸の端部に当接して前記回転軸に給電を行う導電性の給電プレート部材とを有し、前記回転軸を前記アルミニウム基材に同期させて回転させることで、前記触子を前記アルミニウム基材に同期させて回転させることを特徴とする。
また、本発明の第21の態様に係る陽極酸化処理装置は、前記回転軸の前記給電プレート部材と接触する部位の形状が円錐状であることを特徴とする。
また、本発明に係る陽極酸化処理装置は、前記アルミニウム基材は、端部に固定された回転治具によって中心軸を回転中心として回転され、前記回転軸は、前記回転治具に固定されることで、前記アルミニウム基材に同期して回転することを特徴とする。
また、本発明の第21の態様に係る陽極酸化処理装置は、前記アルミニウム基材の内部には電解液が入らないよう、止水可能な構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のインプリント用ロール状モールドの製造方法によれば、細孔の深さのバラツキが抑えられたインプリント用ロール状モールドを製造できる。
本発明の第20の態様によれば、アルミニウム基材と通電部材を面接触させ、同期させて回転させながらアルミニウム基材に通電を行うので、通電不良なく安定した通電を行える。また、接触面積が大きい為、アルミニウム基材と通電部材の接触部の回転でのこすれ等の回転が要因の電流値の触れも抑える事ができ、ロール状モールドの歩留まりの向上を一層図る事ができる。
本発明の第21の態様によれば、アルミニウム基材と触子とを当接させた状態でアルミニウム基材と触子とを同期させて回転させながら触子からアルミニウム基材に通電を行うので、アルミニウム基材と触子との間の摩耗をなくして通電不良を抑えることができ、ロール状モールドの歩留まりの向上を一層図ることができる。
本発明の物品の製造方法によれば、凸部の高さのバラツキが抑えられた、複数の凸部を表面に有する物品を製造できる。
【0025】
本発明の処理槽は、長尺な基材を処理する場合でも電解液の滞留を防止し、さらに電解液の使用量も抑制できる電解処理装置の処理槽として好適である。
また、本発明の電解処理装置は、長尺な基材を処理する場合でも電解液の滞留を防止し、さらに電解液の使用量も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の処理槽の一例を示す側面図である。
【図2】図1の1I−1I’線に沿う断面図である。
【図3】オーバーフロー部の他の例を示す側面図である。
【図4】本発明の電解処理装置の一例を示す断面図である。
【図5A】図5Aは図4の1II−1II’線に沿う断面図である。
【図5B】図5Bは図4に示す電解処理装置に備わる処理槽と電極板の斜視図である。
【図6】陽極酸化アルミナの細孔の形成過程を示す断面図である。
【図7A】従来の処理装置の一例を示す図であり、図7Aは、その側面図である。
【図7B】従来の処理装置の一例を示す図であり、図7Bは図7Aの1III−1III’線に沿う断面図である。
【図8】本発明の処理槽と直方体状の処理槽で電解処理をした時の電解液温度を比較するグラフであり、処理槽壁面付近の数点にて上昇した最大温度を示したグラフである。
【図9】本発明の処理槽と直方体状の処理槽で電解処理をした時の電解液温度を比較するグラフであり、基材表面の長手方向数点での最大温度差を示したグラフである。
【図10】本発明の実施の形態に係る陽極酸化処理装置の断面図である。
【図11】図10の2A−2A線に沿う断面図である。
【図12A】本発明の実施例2に係る陽極酸化処理装置におけるアルミニウム基材に対する通電状態を説明するグラフを示した図である。
【図12B】図12Aに示すグラフの特定範囲を拡大して示した図である。
【図13】比較例3に係る陽極酸化処理装置の概略構成を示した断面図である。
【図14】比較例3に係る陽極酸化処理装置におけるアルミニウム基材に対する通電状態を説明するグラフを示した図である。
【図15】陽極酸化処理装置の一例を示す断面図である。
【図16】物品の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図17】ロール状モールドの外周を円周六等分する位置を番号で示した断面図である。
【図18】本発明の実施の形態に係る陽極酸化処理装置の断面図である。
【図19】図18の4A−4A線に沿う断面図である。
【図20】図19に示される部材の詳細を説明する要部断面図である。
【図21】陽極酸化処理装置におけるアルミニウム基材に対する通電状態を説明するグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1〜16の態様であるロール状モールドの製造方法は、本発明の第18の態様である、円柱状の基材を電解液中で電解処理するための処理槽;本発明の第19の態様である、円柱状の基材を電解液中で電解処理する電解処理装置;または本発明の第20もしくは第21の態様である、陽極酸化処理装置を適用することにより実施することができる。
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[処理槽]
本発明の処理槽は、円柱状の基材を電解液中で電解処理するためのものである。
図1は、本実施形態に係る処理槽110の一例を示す図であり、後述する電解液供給部側から見た側面図である。図2は、図1の1I−1I’線に沿う断面図である。
なお、図2には、図1に示す処理槽110を収容する外槽140を追加した。
また、本発明において、電解処理の対象となる基材の形状は円柱状であるが、図1,2に示すような中空状(円筒状)でもよいし、中空状でなくてもよい。
【0029】
図1,2に示す処理槽110は、電解液1Lを収容し、中空円柱状の基材1Aが浸漬する長尺な処理槽本体111と、処理槽本体111に電解液1Lを供給する電解液供給部112と、処理槽本体111から電解液1Lを排出するオーバーフロー部113とを備えて構成されている。
この処理槽110は、図2に示すように外槽140に収容されている。
【0030】
<処理槽本体>
処理槽本体111は、電解液1Lを収容するものであり、前記電解液1L中に基材1Aが浸漬する。
処理槽本体111の底部111aの内面111a’は、処理槽本体111に浸漬された基材1Aの周面(外周面)1A’に沿うように、円弧状に湾曲している。底部111aの内面111a’が円弧状に湾曲していることで、後述する電解液供給部112から供給された電解液1Lがオーバーフロー部113へとスムーズに流動できる。
なお、本発明において「円弧状」は真円状に限定されない。
【0031】
底部111aの内面111a’の形状としては、半円形状、半楕円形状など、屈曲点がなく滑らかに一方向に沿って曲げられた形状が好ましいが、中でも、半円形状がより好ましい。底部111aの内面111a’の形状が半円形状であれば、電解液供給部112から供給された電解液1Lが底部111aの内面111a’をよりスムーズな流れを保ったままオーバーフロー部113へ流れる。
【0032】
処理槽本体111の材質については、電解液1Lによって腐食しにくいものであれば特に制限されず、例えばステンレス、ポリ塩化ビニル(PVC)などが挙げられる。
【0033】
処理槽本体111の大きさについては、基材1Aを収容できる大きさであれば特に制限されないが、例えば図2に示すように基材1Aを処理槽本体111内に配置したときに、基材1Aの外周面1A’と底部111aの内面111a’との間に空隙Sが形成される大きさである。具体的には、基材1Aの中心軸Pから底部111aの内面111a’までの距離Dが、基材1Aの半径(r)の1.25〜2倍であることが好ましい。
なお、底部111aの内面111a’の形状が半円形状の場合は、この半円の直径上の中心と基材1Aの中心軸Pとが重なるように、基材1Aを処理槽本体111内に配置するのが好ましい。
【0034】
ところで、上述したように、基材を陽極酸化して周面に細孔を形成させる場合、細孔の深さは電解液や基材表面(外周面)の温度斑に影響を受けやすいため、温度斑を軽減する必要がある。
電解液や基材表面の温度斑は、主に電解液が処理槽内で滞留することで生じるが、基材と処理槽の内面の間隔が狭いと温度斑が生じる場合がある。これは、陽極酸化を行うと発熱により処理槽が加熱されやすく、この処理槽の熱によって処理槽近傍の基材表面が直接かつ不均一に温められ、温度斑が生じるものと考えられる。この傾向は、基材と処理槽の内面との距離が近いほど起こりやすいと考えられる。
【0035】
しかし、基材1Aの中心軸Pから底部111aの内面111a’までの距離Dが、基材1Aの半径(r)の1.25倍以上であれば、基材1Aの外周面1A’と処理槽本体111の底部111aの内面111a’との間に十分な隙間が形成される。よって、基材1Aと処理槽本体111の間に位置する電解液1Lが緩衝材の役割を十分に果たすことができるので、陽極酸化時の発熱により処理槽本体111が加熱されても、基材1Aが処理槽本体111によって直接温められるのを抑制できる。従って、基材1Aの外周面1A’の温度斑をより効果的に防止でき、深さのバラツキが抑えられた細孔を基材の外周面に形成できる。
なお、距離Dは、基材1Aの半径(r)の2倍以下であることが好ましい。距離1Dが基材1Aの半径(r)の2倍を超えても、温度斑の防止効果は頭打ちとなるばかりか、処理槽本体111が大型となるため、電解液1Lの使用量が多くなる。
【0036】
<電解液供給部>
図示例の電解液供給部112は、供給管112aと、前記供給管112aに接続された、長尺な吐出部112bとで構成される。
ポンプ(図示略)等によって供給管112a内に電解液が送り込まれ、供給管112a内に充満した電解液が吐出口1121aから吐出部112bに排出される。
【0037】
吐出口1121aは供給管112aの長手方向に沿って連続的(スリット状)に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。
【0038】
吐出部112bの先端は処理槽本体111に収容された電解液1Lに浸漬しており、吐出部112bの吐出口1121bから電解液1Lが処理槽本体111に供給される。
吐出口1121bは、吐出部112bの長手方向に沿って連続的に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。
【0039】
吐出部112bから排出された電解液が、処理槽111本体の長手方向に対して均一な流動状態を保つ為には、電解液供給部内の正圧を保てるような構造にすれば、幅方向に対して均一な流れが形成できる。正圧を保つには供給管112aの吐出口1121aの面積が吐出部112bの吐出口1121bの開口面積より大きくなるように設ければよい。
【0040】
供給管112aおよび吐出部112bの材質については、電解液1Lによって腐食しにくいものであれば特に制限されず、例えばステンレス、ポリ塩化ビニル(PVC)などが挙げられる。
【0041】
<オーバーフロー部>
オーバーフロー部113は、処理槽本体111から溢れる電解液1Lを処理槽本体111の外へ排出するものであり、処理槽本体111の長手方向に沿うように、処理槽本体111の他方の側面111c上部に設けられている。
図示例のオーバーフロー部113は、処理槽本体111の一方の側面111bと他方の側面111cの高さを異ならせる、具体的には他方の側面111cを一方の側面111bよりも低くすることで形成されている。
【0042】
<作用効果>
以上説明した本発明の処理槽110は、電解液Lを処理槽本体111の一方の側面111b上方から供給し、他方の側面111cの上部から排出する。このとき、処理槽本体111の底部111aの内面111a’が円弧状に湾曲しているため、電解液1Lが滞留することなくスムーズにオーバーフロー部113へと移動できる。
なお、電解液供給部112へ電解液1Lを送り込む際はポンプ(図示略)等を用いるが、電解液1Lは重力に従って電解液供給部112から送り出される。従って、本発明の処理槽110は、図8に示す従来の処理槽170のように、この処理槽170の下部に設けられた供給管171から、ポンプ173によって電解液1L’を処理槽170の上方へ(すなわち、重力に逆らって)吐出させる場合に比べて、ポンプの圧力の影響を受けにくい。そのため、電解処理する基材1Aが長くなり、処理槽本体111の長手方向の長さや電解液供給部112が長くなっても、電解液供給部112の両端において、ポンプから受ける電解液の圧力差が小さい。
【0043】
従って、本発明の処理槽110を用いれば、処理槽本体111内において電解液1Lが部分的に滞留するのを防止できるので、基材1Aの外周面1A’を均一に電解処理できる。
特に、アルミニウム基材を陽極酸化処理する場合は、電解液や基材表面の温度斑を抑制することが重要となるが、本発明の処理槽110を用いれば、処理槽本体111内での電解液1Lの滞留部が発生しにくいので、温度斑が生じにくい。よって、基材1Aの外周面1A’に形成される細孔の深さのバラツキが抑えられる。
【0044】
また、本発明の処理槽110は、処理槽本体111の底部111aの内面111a’が円弧状に湾曲しているので、図8に示すような直方体状の処理槽170に比べて容積を縮小できる。よって、電解液の使用量も抑制できる。
なお、本発明の処理槽110を用いれば、電解液1Lがスムーズに処理槽本体111内を流動するので、多孔板などの流動を調整する部材を設ける必要がない。
【0045】
<他の実施形態>
本発明の処理槽は図1,2に示す処理槽110に限定されない。例えば図1,2に示す処理槽110の電解液供給部112は長手方向に均一に供給できる形状であれば、管状の構造でもかまわない。
【0046】
また、図1,2の処理槽110は、オーバーフロー部113が処理槽本体111の他方の側面111cを一方の側面111bよりも低くすることで形成されているが、例えば図3に示すように、他方の側面111cに、処理槽本体111の長手方向に伸びる孔113’を設け、これをオーバーフロー部113としてもよい。ただし、この場合は、処理槽本体111に浸漬される基材1Aよりも高い位置に孔113’を設けるのが好ましい。
孔113’は図3に示すように連続的でもよいし、断続的でもよい。
なお、図3においては処理槽本体111と孔113’と基材1Aのみを示し、電解液供給部は省略した。
【0047】
[電解処理装置]
本発明の電解処理装置は、円柱状の基材を電解液中で電解処理する装置である。
図4は、本実施形態に係る電解処理装置1の一例を示す側断面図であり、図5Aは図4の1II−1II’線に沿う断面図であり、図5Bは図4示す電解処理装置に備わる処理槽110と電極板120の斜視図である。
【0048】
この例の電解処理装置11は、電解液Lで満たされた処理槽110と、この処理槽110の処理槽本体111に浸漬された基材1Aを挟むように配置された電極板120と、基材1Aの中心軸を回転中心として、基材1Aを回転させる回転手段130と、処理槽110を収容し、処理槽110からオーバーフローした電解液1Lを受けるための外槽140と、電解液1Lを一旦貯留する貯留槽150と、外槽140で受けた電解液1Lを貯留槽150へ流下させる流下流路141と、貯留槽150の電解液1Lを処理槽110の電解液供給部112へ返送する返送流路151と、返送流路151の途中に設けられたポンプ152とを備えている。
【0049】
以下、本発明の電解処理装置11を陽極酸化処理装置として用いる場合を例にとり、具体的に説明する。
電解処理装置11には、上述した本発明の処理槽110が備えられており、図5A,5Bに示すように、電極板120は、この処理槽110の処理槽本体111の底部111aの内面111a’形状に沿うように湾曲した形状となっている。電極板120が湾曲した形状であることにより、電解液1Lの流動が妨げられにくくなるため、電解液1Lが滞留することなく、よりスムーズにオーバーフロー部113へと移動できる。
なお、図5Aにおいては外槽140を省略した。また、図5Bにおいては処理槽110の処理槽本体111およびオーバーフロー部113と、電極板120と、基材1Aのみを示し、これ以外の電解処理装置11の構成部材は省略した。
【0050】
処理槽本体111の端面111d,111eは、図5Bに示すように、U字状になっている。従って、端面111d,111eから電解液が漏れないように、端面111d,111eにはその形状に合わせた封止材(図示略)が取り付けられる。
さらに、端面111d,111eの下部側には、図4,図5Aに示すように、回転手段130として、水平方向に軸方向を沿わせて基材1Aを支持する支持軸131が設けられている。
支持軸131は、図4,図5Aに示すように処理槽本体111の端面111d,111eにそれぞれ水平方向に並んで一対設けられ、各支持軸131は、処理槽本体111の端面111d,111eを貫通し、これら処理槽本体111の端面111d,111eに対して回転可能に支持されている。
【0051】
各支持軸131の処理槽本体111内の端部には、樹脂材料からなる円筒状の弾性部材132が挿通して設けられ、基材1Aはその両端部外周面を各弾性部材132の上に載置されるようにして、支持軸131上に支持されている。各支持軸131は、例えばモータ等の回転駆動部(図示略)と接続されており、この回転駆動部によって各支持軸131が同一方向に回転されることで、この電解処理装置11では弾性部材132と接触した基材1Aが回転するようになっている。
特に、回転手段130は、図5Aに示すように、処理槽110の電解液供給部112から処理槽本体111へ供給された電解液1Lが、オーバーフロー部113へ流れる方向とは反対方向に、基材1Aを回転させるのが好ましい。電解液1Lの流れる方向と基材1Aの回転方向が反対になることで、基材1Aに対する表面付近での電解液1Lの流れは相対的に速くなり、電解処理時に基材1Aから発生した熱の移動が効率良く行える。電解液1Lの流れる方向と基材1Aの回転方向が同じである場合、基材1A表面付近での電解液1Lの流れは相対的に遅く、速度が無い状態では熱の移動が悪いため、処理槽110全体での電解液の温度上昇に繋がってしまう。
【0052】
支持軸131の上方には、水平方向に軸方向を沿わせた通電用シャフト133が、端面111d,111eに取り付けられた封止材114を貫通して設けられ、この通電用シャフト133は外槽140も貫通して外側に露出する。通電用シャフト133は導電性を有する材料からなり、端面111d,111eに取り付けられた封止材それぞれに回転可能に支持されている。なお、通電用シャフト133は全体が導電性を有する材料からなっていなくてもよく、後述の通電部材134を介して基材110に電流を印加可能とされていればよい。具体的には、通電用シャフト133の外部が絶縁物質によりコーティングされた構成であってよく、端面111d,111eに取り付けられた封止材に接触する部位に耐摩耗性に優れるコーティング等が施されても構わない。
【0053】
各通電用シャフト133の処理槽本体111内の端部には、円盤状の通電部材134が一体に設けられている。通電部材134は、中空円柱状の基材1Aの両端面に面接触する。ここで、基材1Aを挟むように配置された電極板120と、通電用シャフト133とには、電源121が電気的に接続され、電流が印可可能とされている。
【0054】
通電部材134は、通電シャフト133あるいは基材1Aの軸方向にエアシリンダ等の進退動を行う駆動部(図示略)によって、進退動ができるように設置されている。基材1Aを支持軸131に設置した後、基材1Aの軸方向の両側から、通電部材134を基材1Aの両端面に接触させることで通電可能となる。なお、図4に示した例においては、基材1Aの両端面に通電部材134を設けたが、通電部材134を基材1Aの一方の端面にだけ設け、他方を押さえ部材としてもよい。また、通電部材134は、厳密に基材1Aの端面において基材1Aと接触する必要はなく、基材1Aの内周面等他の位置において基材1Aと接触する構成であっても構わない。
【0055】
通電シャフト133は処理槽110および外槽140を貫通して進退動を行うため、通電シャフト133と処理槽110および外槽140との間には、通電シャフト133を回転可能および軸方に移動可能に支持する滑り軸受け135が設けられている。
【0056】
図示例の基材1Aの両端部の内径側角部は面取りされ、基材1Aの両端面の一部には、テーパ面1aが形成される一方、通電部材134の外径側角部は面取りされ、基材1Aのテーパ面1aに面接触するテーパ面134aが形成され、両者の傾斜は同一勾配を設定されていることが好ましい。基材1Aのテーパ面1aと、通電部材134のテーパ面134aとを面接触させることにより、両者は電気的に緊密に接触することができ、かつ基材1Aもしくは通電部材134側が回転した場合に、接触させた抵抗により回転を伝達することができ、同期させて回転させることができる。
このような構造とすることにより、接触面積が大きく、また、回転した際の滑りの影響や摩耗の影響も軽減されるため、安定した電流供給が可能となる。
【0057】
また、通電部材134が接続された通電シャフト133は、基材1Aと同期して回転するため、通電シャフト133と電源121は回転給電可能なコネクタ(図示略)にて電気的に接触(接続)されている。回転給電可能なコネクタとしてロータリーコネクタ、スリップリング等があるが、ロータリーコネクタが回転時の電流安定性がよく好ましい。また、通電部材134を基材1Aの一端面にのみ面接触させて、通電を行うようにしてもよい。
【0058】
外槽140は処理槽110を収容するものであり、図2,4に示すように、処理槽110内の電解液1Lはオーバーフロー部113から排出され、外槽140へと流れる。外槽140で受けた電解液1Lは、流下流路141を通って貯留槽150へ流下する。
貯留槽150には電解液1Lの調温手段153が設けられ、貯留槽150内で調温された電解液1Lは、ポンプ152によって返送流路151を通って処理槽110の電解液供給部112から、処理槽本体111へ返送される。なお、貯留槽150に設けられた調温手段153としては、水、オイル等を熱媒とした熱交換器、電気ヒータ等が挙げられる。
【0059】
<作用効果>
以上説明した本発明の電解処理装置11は、本発明の処理槽110を備える。よって、処理槽110の処理槽本体111内で電解液1Lが滞留しにくい。
なお、電解液供給部112へ電解液1Lを送り込む際はポンプ(図示略)等を用いるが、電解液1Lは重力に従って電解液供給部112から送り出される。従って、本発明の処理槽110は、図7A、7Bに示す従来の処理槽170のように、この処理槽170の下部に設けられた供給管171から、ポンプ173によって電解液1L’を処理槽170の上方へ(すなわち、重力に逆らって)吐出させる場合に比べて、ポンプの圧力の影響を受けにくい。そのため、電解処理する基材1Aが長くなり、処理槽本体111の長手方向の長さや電解液供給部112が長くなっても、電解液供給部112の両端において、ポンプから受ける電解液の圧力差が小さい。
【0060】
従って、本発明の電解処理装置11であれば、処理槽110の処理槽本体111内において電解液Lが部分的に滞留するのを防止できるので、基材1Aの外周面を均一に電解処理できる。
特に、アルミニウム基材を陽極酸化処理する場合は、電解液や基材表面の温度斑を抑制することが重要となるが、本発明の電解処理装置11であれば、処理槽本体111内での電解液1Lの滞留部が発生しにくいので、温度斑が生じにくい。よって、基材1Aの外周面に形成される細孔の深さのバラツキが抑えられる。
【0061】
また、本発明の電解処理装置11は、処理槽本体111の底部が円弧状に湾曲しているので、図7A、7Bに示すような直方体状の処理槽170に比べて容積を縮小できる。よって、電解液の使用量も抑制できる。
なお、本発明の電解処理装置11であれば、電解液1Lがスムーズに処理槽本体111内を流動するので、多孔板などの流動を調整する部材を処理槽110内に設ける必要がない。
【0062】
<他の実施形態>
本発明の電解処理装置は図4,5A,5Bに示す電解処理装置11に限定されない。例えば図4,5A,5Bに示す電解処理装置11は、基材1Aを回転させる回転手段130として支持軸131を備えているが、通電部材134に接続された通電用シャフト133を回転手段としてもよい。その場合、支持軸131は上記で説明した回転駆動部に接続せず、基材1Aと同期して回転できるような構造になっていればよい。
【0063】
また、通電部材134は、上述したように全体が導電性を有する材料から構成されている必要はなく、基材Aと通電用シャフト133とを電気的に接続可能な構成とされていればよい。具体的には、通電部材134のテーパ面134aと、通電用シャフト133とを電気的に接続する部分以外が絶縁物質によりコーティングされた構成であっても構わない。また、テーパ部134aについても、安定的に基材1Aと通電部材134とを電気的に接続可能であれば、その表面の一部が導電性物質以外からなっても構わない。
また、上述した実施形態では、基材1Aの両端部の内径側角部を面取りして、テーパ面1aを形成し、通電部材134の外径側角部を面取りして、テーパ面134aを形成したが、基材1Aの両端部の外径側角部を面取りし、通電部材134の内径側角部を面取りしてテーパ面を形成してもよい。
さらに、それぞれの通電部材134に形成されるテーパ面134aは、同一の形状である必要はなく、異なる形状であっても構わない。また、テーパ面134aは、通電部材134の少なくとも一方に形成される構成で合っても構わない。
【0064】
<用途>
本発明の電解処理装置は、陽極酸化等の化成処理や、めっき等の皮膜処理など、基材の表面を電解処理する装置として用いることができるが、特にアルミニウム基材を陽極酸化する陽極酸化処理装置として好適である。
以下、本発明の電解処理装置を用い、アルミニウム基材を陽極酸化してモールドを製造する方法の一例について説明する。
【0065】
まず、図4,5A,5Bに示すように、基材1Aとしてアルミニウム基材を支持軸131の上に設置する。この際、図2に示すように、基材1Aの外周面1A’と処理槽本体111の底部111aの内面111a’との間に空隙Sが形成されるように、基材1Aを支持軸131上に設置する。具体的には、基材1Aの中心軸Pから底部111aの内面111a’までの距離Dが、基材1Aの半径(r)の1.5倍となるように、基材1Aを設置するのが好ましい。
なお、底部111aの内面111a’の形状が半円形状の場合は、この半円の直径上の中心と基材1Aの中心軸Pとが重なるように、基材1Aを設置するのが好ましい。
【0066】
その後、前後移動を行う上記駆動部(図示略)を用いて通電シャフト133を両側から同時に動かして、通電部材134を基材1Aに接触させる。なお、通電部材134に基材1Aを接触させてから電解液1Lを処理槽本体111に供給してもよいし、処理槽本体111に電解液1Lが入っている状態で、通電部材134を基材Aに接触させても構わない。通電部材134と基材1Aが接触した状態で上記回転駆動部(図示略)を駆動させて、支持軸131を回転させて基材1Aを回転させる。
基材1Aを回転させながら通電シャフト133、通電部材134を介して、陽極となる基材1Aと陰極となる電極板120に電圧を印加し、基材1Aの陽極酸化を行う。
【0067】
基材1Aに通電部材134を接触させる際、接触させる為の押し圧は0.2MPa以上が好ましい。回転時に接触させたテーパ面で滑りが発生することや、緊密に接触しきれていないために安定した電流供給に影響がある。しかし、押し圧があまりに大きいと基材1Aの歪の原因になったり、回転が伝達できず止まったりすることもあるため、ワーク形状と回転駆動源の仕様により適宜選択を行う必要がある。
【0068】
基材1Aの陽極酸化を行う間は、基材1Aを回転させながら、処理槽本体111から電解液1Lの一部を排出しつつ、処理槽本体111に同量の電解液を供給する。具体的には、処理槽110のオーバーフロー部113において処理槽本体111から外槽140へと電解液1Lを排出させ、排出した電解液Lを外槽140から貯留槽150に流下させ、電解液1Lの温度を貯留槽150で調節した後、前記電解液1Lを、処理槽本体111の長手方向に沿うように、一方の側面上方に設けられた電解液供給部112に返送し、この電解液供給部112から処理槽本体111内に供給する。
このとき、処理槽本体111の底部111aの内面111a’が円弧状に湾曲しているため、電解液1Lのほぼ均一な流れが形成され、電解液1Lが滞留することなくスムーズにオーバーフロー部113へと移動できる。
なお、電界液1Lの流れる方向とは反対方向に基材1Aを回転させるのが好ましい。
【0069】
電解液供給部112から処理槽本体111への電解液1Lの供給量は、処理槽本体111の容積に対して、循環回数が3分間に1回以上が好ましい。そうすることで、処理槽本体111は頻繁な液更新を行うことができ、除熱、発生した水素除去を効率よく行える。
【0070】
基材1Aの周速は、0.1m/分以上が好ましい。基材1Aの周速が0.1m/分以上であれば、基材1Aの周囲における電解液1Lの濃度や温度のムラがより効果的に抑えられる。駆動装置の能力の点から、基材1Aの周速は、25.1m/分以下が好ましい。
【0071】
上述のようにして基材1Aを陽極酸化すると、図6(a)に示す状態から図6(b)に示すように細孔161を有する酸化皮膜162が形成される。
基材1Aとして用いられるアルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上がさらに好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した際に、不純物の偏析により可視光線を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で形成される細孔161の規則性が低下したりする。電解液としては、シュウ酸、硫酸等が挙げられる。
【0072】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
ある所定の周期で規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得るには、所定の周期に合った化成電圧をかける必要がある。例えば周期が100nmの陽極酸化アルミナの場合、化成電圧は30〜60Vが好ましい。所定の周期に合った化成電圧をかけない場合、規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0073】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
ある所定の周期で規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得るには、所定の周期に合った化成電圧をかける必要がある。例えば周期が63nmの陽極酸化アルミナの場合、化成電圧は25〜30Vが好ましい。所定の周期に合った化成電圧をかけない場合、規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がよりに好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0074】
そして、図6(b)に示すように細孔161を有する酸化皮膜162を形成した後は、本発明の電解処理装置11を用いて陽極酸化することにより複数の細孔を有する陽極酸化アルミナを形成する工程(陽極酸化処理)と、前記細孔の径を拡大させる工程(細孔径拡大処理)とを繰り返すことで、ロール状モールドが製造される。
【0075】
陽極酸化処理工程と、細孔径拡大処理とを繰り返す場合は、先ず、図6(c)に示すように、酸化皮膜162を一旦除去する。ここで、これを陽極酸化の細孔発生点163にすることで細孔の規則性を向上することができる。
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0076】
そして、酸化皮膜を除去した基材1Aを再度、陽極酸化すると、図6(d)に示すように、円柱状の細孔161を有する酸化皮膜162が形成される。
陽極酸化は、上述した電解処理装置11を用いて行う。条件は、図6(b)に示した酸化皮膜162を形成した際と同様な条件であればよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0077】
そして、図6(e)に示すように、細孔161の径を拡大させる処理を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0078】
そして、再度、陽極酸化すると、図6(f)に示すように、円柱状の細孔161の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔161がさらに形成される。
陽極酸化は、上述した電解処理装置11を用いて行う。条件は、上述と同様な条件であればよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0079】
そして、上述したような、細孔径拡大処理と、陽極酸化処理を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔161を有する陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))が形成された、図6(g)に示すようなロール状モールド160が得られる。最後は細孔径拡大処理で終わることが好ましい。
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を転写して製造され光学フィルムの反射率低減効果は不十分である。
【0080】
細孔161の形状としては、略円錐形状、角錐形状等が挙げられる。細孔161間の平均周期は、可視光線の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔161間の平均周期は、25nm以上が好ましい。
【0081】
細孔161のアスペクト比(細孔の深さ/細孔の開口部の幅)は、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。
【0082】
細孔161の深さは、100〜500nmが好ましく、150〜400nmがより好ましい。図6に示すような細孔161を転写して製造された光学フィルムの表面は、いわゆるモスアイ構造となる。
【0083】
以上に記載した本実施形態に係る電解処理装置11では、基材1Aとしてロール状のアルミニウム基材を処理槽本体111の電解液1L中で陽極酸化する際に、電解液1Lを処理槽本体111の一方の側面上方から供給し、他方の側面の上部から排出する。このとき、処理槽本体111の底部の内面が円弧状に湾曲しているため、電解液1Lが滞留することなくスムーズにオーバーフロー部へと移動できる。従って、電解液や基材表面の温度斑が抑制されるので、基材1Aの外周面全体にわたってほぼ均一に陽極酸化が行われ、その結果、細孔の深さのバラツキが抑えられたロール状のモールドを製造できる。
【0084】
特に、基材1Aの中心軸を回転軸として基材1Aを回転させれば、基材の周囲における電解液の濃度や温度の斑が抑えられるので、より均一に基材1Aを陽極酸化でき、細孔の深さのバラツキがより抑えられたロール状のモールドを製造できる。
さらに、基材1Aの外周面と処理槽本体の底部の内面との間に特定の大きさの空隙が形成されるように基材1Aを処理槽本体111内に設置すれば、基材1Aと処理槽本体111の間に位置する電解液1Lが緩衝材の役割を十分に果たすことができる。その結果、陽極酸化時の発熱により処理槽本体111が加熱されても、基材1Aが処理槽本体111によって直接温められるのを抑制できる。従って、基材の外周面の温度斑をより効果的に防止でき、深さのバラツキがより抑えられたロール状のモールドを製造できる。
【0085】
ロール状モールド160の外周面は、被転写体との分離が容易になるように、離型剤で処理されていてもよい。離型剤としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フッ素化合物等が挙げられ、離型性に優れる点、ロール状モールド160との密着性に優れる点から、加水分解性シリル基を有するフッ素化合物が好ましい。フッ素化合物の市販品としてはフルオロアルキルシラン、ダイキン工業社製の「オプツール」シリーズが挙げられる。
【0086】
図10は本実施形態に係る陽極酸化処理装置210の側断面図である。図11は図10の2A−2A線に沿う断面図である。
【0087】
図10に示すように陽極酸化処理装置210は、電解液で満たされた陽極酸化槽211と、陽極酸化槽211の周囲を囲い、陽極酸化槽211からオーバーフローした電解液を受けるための外槽212と、電解液を一旦貯留する貯留槽225と、外槽212で受けた電解液を貯留槽225へ流下させる流下流路229とを備えている。陽極酸化槽211には、ロール状のアルミニウム基材220が収容され電解液に浸漬されている。
【0088】
アルミニウム基材220よりも下側の陽極酸化槽211の底部には供給口218が形成され、陽極酸化処理装置210はさらに、貯留槽225の電解液を陽極酸化層211へ返送する返送流路228と、返送流路228の途中に設けられたポンプ227と、供給口218から吐出された電解液の流れを調整する整流板217とを備えている。
【0089】
貯留槽225には電解液の調温手段226が設けられ、貯留槽225内で調温された電解液は、ポンプ227によって返送流路228を通って陽極酸化槽211へ向かう流れを形成されるとともに、供給口218から勢いを付けて吐出される。これによって、陽極酸化槽211の底部から上部へ上昇する電解液の流れが形成される。なお、貯留槽225に設けられた調温手段226としては、水、オイル等を熱媒とした熱交換器、電気ヒータ等が挙げられる。
【0090】
整流板217は、供給口218から吐出された電解液が陽極酸化槽211の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整する、複数の貫通孔が形成された板状部材である。整流板217は、表面(面方向)が略水平となるようにアルミニウム基材220と供給口218との間に配置されている。また、図11に示す2枚の陰極板221は、アルミニウム基材220の中心軸に対して平行に配置され、かつアルミニウム基材220を水平方向から挟むように、アルミニウム基材220から間隙をあけて対向配置された金属板である。
【0091】
図10を参照し、陽極酸化槽211において互いに向き合う側壁211A,211Bの下部側には、水平方向に軸方向を沿わせてアルミニウム基材220を支持する支持軸215が設けられている。支持軸215は、図11に示すように側壁211A,211Bにそれぞれ水平方向に並んで一対設けられ、各支持軸215は、側壁211A,211Bを貫通し、これら側壁211A,211Bに対して回転可能に支持されている。
【0092】
各支持軸215の陽極酸化槽211内の端部には、Oリング等の樹脂材料からなる円筒状の弾性部材216が挿通して設けられ、アルミニウム基材220は、その両端部外周面を各弾性部材216の上に載置されるようにして、支持軸215上に支持されている。各支持軸215は、例えばモータ等の回転駆動部(図示略)と接続されており、この回転駆動部によって各支持軸215が同一方向に回転される事で、この陽極酸化処理装置210では弾性部材216と接触したアルミニウム基材220が回転するようになっている。
【0093】
側壁211A,211Bにおいて支持軸215の上方には、水平方向に軸方向を沿わせた通電用シャフト214が貫通して設けられ、この通電用シャフト214は外槽212も貫通して外側に露出する。通電用シャフト214は導電性を有する材料からなり、側壁211A,211Bそれぞれに回転可能に支持されている。なお、通電用シャフト214は全体が導電性を有する材料からなっていなくてもよく、後述の通電部材213を介してアルミニウム基材220に電流を印加可能とされていればよい。具体的には、通電用シャフト214の外部が絶縁物質によりコーティングされた構成であってよく、側壁211Aおよび211Bに接触する部位に耐摩耗性に優れるコーティング等が施されても構わない。
【0094】
各通電用シャフト214の陽極酸化槽211内の端部には、円盤状の通電部材213が一体に設けられている。通電部材213は、陽極となる中空円柱状のアルミニウム基材220の両端面に面接触する。ここで、アルミニウム基材220を挟んで対向配置された2枚の陰極板221と、通電用シャフト214とには、電源224が電気的に接続され、電流が印可可能とされている。
【0095】
通電部材213は、通電シャフト214あるいはアルミニウム基材220の軸方向にエアシリンダ等の進退動を行う駆動部(図示略)によって、進退動ができるように設置されている。アルミニウム基材220を支持軸215に設置した後、アルミニウム基材220の軸方向の両側から、通電部材213をアルミニウム基材220の両端面に接触させることで通電可能となる。なお、図10に示した例においては、アルミニウム基材220の両端面に通電部材213を設けたが、通電部材213をアルミニウム基材220の一方の端面にだけ設け、他方を押さえ部材としても良い。また、通電部材213は、厳密にアルミニウム基材220の端面において、アルミニウム基材と接触する必要はなく、アルミニウム基材220の内周面等他の位置においてアルミニウム基材220と接触する構成であっても構わない。
【0096】
通電シャフト214は陽極酸化槽211および外槽212を貫通して進退動を行う為、通電シャフト214と陽極酸化槽211および外槽212との間には、通電シャフト214を回転可能および軸方に移動可能に支持する滑り軸受け219が設けられている。
【0097】
アルミニウム基材220の両端部の内径側角部は面取りされ、アルミニウム基材220の両端面の一部には、テーパ面220Aが形成される一方、通電部材213の外径側角部は面取りされ、テーパ面220Aに面接触するテーパ面213Aが形成され、両者の傾斜は同一勾配を設定されていることが好ましい。アルミニウム基材220のテーパ面220Aと、通電部材213のテーパ面213Aとを面接触させる事により、両者は電気的に緊密に接触する事ができ、且つアルミニウム基材220もしくは通電部材213側が回転した場合に、接触させた抵抗により回転を伝達する事ができ、同期させて回転させる事ができる。
この為、接触面積が大きく、また回転した際の滑りの影響や摩耗の影響も無い為、安定した電流供給が可能となる。
【0098】
アルミニウム基材220および通電部材213のテーパ角度については、軸方向(0°)に対して15〜45°が好ましく、22.5〜37.5°がより好ましい。テーパ角度が小さいと接触させた時に接触面の抵抗が大きく拘束してしまう場合があり、アルミニウム基材220が変形してしまう恐れがある。また、テーパ角度が大きいと接触させて回転させる時に接触面にて滑りが発生しやすくなる為である。
【0099】
また、アルミニウム基材220および通電部材213のテーパ面220A,213Aの表面粗さはRa3.2以下の仕上げ面が好ましく、Ra1.6以下の精密な仕上げ面がより好ましい。テーパ面の表面粗さが粗い場合、アルミニウム基材220と通電部材213を接触させた際に、接触部の一部で浮きが発生し、緊密な接触ができなくなる事や、通電部材213のテーパ面213Aの浮いている箇所にて陽極酸化アルミナが形成されてしまうため、安定した電流供給に影響してしまう為である。
【0100】
また、通電部材213が接続された通電シャフト214は、アルミニウム基材220と同期して回転する為、通電シャフト214と電源224は回転給電可能なコネクタ(図示略)にて電気的に接触(接続)されている。回転給電可能なコネクタとしてロータリーコネクタ、スリップリング等があるが、ロータリーコネクタが回転時の電流安定性が良く好ましい。また、通電部材213をアルミニウム基材220の一端面にのみ面接触させて、通電を行うようにしてもよい。
【0101】
尚、通電部材213とアルミニウム基材220を同期させて回転させる手段としては、支持軸215ではなく、回転部材213に接続された通電部材214が回転駆動源になっていても良い。その場合、支持軸215は上記で説明した回転駆動部に接続せず、アルミニウム基材220と同期して回転できるような構造になっていれば良い。また、この実施形態では、アルミニウム基材220の両端部の内径側角部を面取りして、テーパ面220Aを形成し、通電部材213の外径側角部を面取りして、テーパ面213Aを形成したが、アルミニウム基材220の両端部の外径側角部を面取りし、通電部材213の内径側角部を面取りしてテーパ面を形成してもよい。また、通電部材213は、上述したが全体が導電性を有する材料から構成されている必要はなく、アルミニウム基材220と通電用シャフト214とを電気的に接続可能な構成とされていればよい。具体的には、通電部材のテーパ面220Aと、通電用シャフト214とを電気的に接続する部分以外が絶縁物質によりコーティングされた構成であっても構わない。また、テーパ部213Aについても、安定的にアルミニウム基材220と通電部材213とを電気的に接続可能であれば、その表面の一部が導電性物質以外からなっても構わない。
また、それぞれの通電部材213に形成されるテーパ面213Aは、同一の形状である必要はなく、異なる形状であっても構わない。また、テーパ面213Aは、通電部材213の少なくとも一方に形成される構成で合っても構わない。
【0102】
この陽極酸化処理装置210を用いたアルミニウム基材220の陽極酸化は、下記のように行う。
アルミニウム基材220を支持軸215の上に設置する。その後、前後移動を行う上記駆動部(図示略)を用いて通電シャフト214を両側から同時に動かして、通電部材213をアルミニウム基材220に接触させる。なお、通電部材213にアルミニウム基材220を接触させてから電解液を陽極酸化層211に加えても良く、陽極酸化層211に電解液が入っている状態で、通電部材213をアルミニウム基材220に接触させても構わない。通電部材213とアルミニウム基材220が接触した状態で上記回転駆動部(図示略)を駆動させて、支持軸215を回転させてアルミニウム基材220を回転させる。
アルミニウム基材220を回転させながら通電シャフト214、通電部材213を介してアルミニウム基材220と陰極板221に電圧を印加し、アルミニウム基材220の陽極酸化を行う。
【0103】
アルミニウム基材220に通電部材213を接触させる際、接触させる為の押し圧は0.2MPa以上が好ましい。回転時に接触させたテーパ面で滑りが発生する事や、緊密に接触しきれていない為に安定した電流供給に影響がある。しかし、押し圧があまりに大きいとアルミニウム基材220の歪の原因になったり、回転が伝達できず止まったりする事もあるため、ワーク形状と回転駆動源の仕様により適宜選択を行う必要がある。
【0104】
アルミニウム基材220の陽極酸化を行う間は、アルミニウム基材220を回転させながら、陽極酸化槽211から電解液の一部を排出しつつ、陽極酸化槽211に同量の電解液を供給する。具体的には、陽極酸化槽211から電解液をオーバーフローさせ、オーバーフローした電解液を貯留槽225に流下させ、電解液の温度を貯留槽225で調節した後、前記電解液を、アルミニウム基材220よりも下側に設けられた供給口218から陽極酸化槽211内に返送する。
この際、ポンプ227によって供給口218から勢いを付けて電解液を吐出させ、さらに整流板217によって供給口218から吐出された電解液が陽極酸化槽211の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整することによって、陽極酸化槽211の底部から上部へ上昇する電解液のほぼ均一な流れが形成される。
【0105】
陽極酸化槽211への電解液の供給量(供給口218からの電解液の吐出量)は、陽極酸化槽211の容積に対して、循環回数が3分間に1回以上が好ましい。そうする事で、陽極酸化槽211は頻繁な液更新が行え、除熱、発生した水素除去を効率よく行える。具体的には、槽容量が107Lの時、供給流量を36L/分程度にするのが好ましい。
【0106】
アルミニウム基材220の周速は、0.1m/分以上が好ましい。アルミニウム基材220の周速が0.1m/分以上であれば、アルミニウム基材220の周囲における電解液の濃度や温度のムラが充分に抑えられる。駆動装置の能力の点から、アルミニウム基材220の周速は、25.1m/分以下が好ましい。
【0107】
上述のようにしてアルミニウム基材220を陽極酸化して、複数の細孔を有する酸化皮膜が形成する工程は、前記図6に示したように基材1Aを陽極酸化してロール状モールド160を形成する工程と同様に行われる。
【0108】
以上に記載した本実施形態に係る陽極酸化処理装置210では、ロール状のアルミニウム基材220を陽極酸化槽211の電解液中で陽極酸化する際に、アルミニウム基材220の中心軸を回転軸としてアルミニウム基材220を回転させているため、アルミニウム基材220の周囲における電解液の濃度や温度のムラが抑えられ、アルミニウム基材220の外周面全体にわたってほぼ均一に陽極酸化が行われ、その結果、細孔の深さのバラツキが抑えられたロール状モールドを製造できる。
【0109】
そして、アルミニウム基材220と通電部材213を面接触させた状態でアルミニウム基材220と通電部材213を同期させて回転させながら、アルミニウム基材220に給電を行うようにしたので、接触面積が大きく、回転した際の滑りの影響や磨耗の影響も無い為に通電不良を抑える事ができ、ロール状モールドの歩留まりの向上を一層図る事ができる。
【0110】
本発明の1つの態様であるインプリント用ロール状モールド(本明細書では、単にロール状モールドとも記す。)の製造方法は、ロール状のアルミニウム基材の外周面に、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))が形成されたロール状モールドを製造する方法であって、アルミニウム基材を陽極酸化槽の電解液中で陽極酸化する際に、アルミニウム基材の中心軸を回転軸としてアルミニウム基材を回転させることを特徴とする。
以下、ロール状モールドの製造方法の一例について詳細に説明する。
【0111】
ロール状モールドの製造方法としては、例えば、下記の工程(a)〜(f)を有する方法が挙げられる。
(a)中空円柱状のアルミニウム基材を電解液中、定電圧下で陽極酸化して、外周面に酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)前記工程(b)の後、電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)前記工程(c)の後、細孔の径を拡大させる工程。
(e)前記工程(d)の後、電解液中、再度陽極酸化する工程。
(f)前記工程(d)と工程(e)を繰り返し行う工程。
【0112】
(工程(a))
図15は、陽極酸化処理装置の一例を示す断面図である。
陽極酸化処理装置310は、電解液で満たされた陽極酸化槽312と、陽極酸化槽312の上部を覆い、陽極酸化槽312からオーバーフローした電解液を受けるための樋部314が周縁に形成された上部カバー316と、電解液を一旦貯留する貯留槽318と、樋部314で受けた電解液を貯留槽318へ流下させる流下流路320と、貯留槽318の電解液を、アルミニウム基材330よりも下側の、陽極酸化槽312の底部近傍に形成された供給口322へ返送する返送流路324と、返送流路324の途中に設けられたポンプ326と、供給口322から吐出された電解液の流れを調整する整流板328と、陽極となる中空円柱状のアルミニウム基材330に挿入され、中心軸332が水平に保持された軸心334と、軸心334の中心軸332(すなわちアルミニウム基材330に中心軸)を回転軸として軸心334およびアルミニウム基材330を回転させる駆動装置(図示略)と、アルミニウム基材330を挟んで対向配置された2枚の陰極板336と、軸心334の中心軸332および2枚の陰極板336に電気的に接続された電源338と、貯留槽318の電解液の温度を調節する調温手段340とを有する。
【0113】
ポンプ326は、貯留槽318から返送流路324を通って陽極酸化槽312へ向かう電解液の流れを形成するとともに、供給口322から勢いを付けて電解液を吐出させることによって、陽極酸化槽312の底部から上部へ上昇する電解液の流れを形成するものである。
整流板328は、供給口322から吐出された電解液が陽極酸化槽312の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整する、複数の貫通孔が形成された板状部材であり、表面が略水平となるようにアルミニウム基材330と供給口322との間に配置される。
【0114】
駆動装置(図示略)は、リング状のチェーンまたは、ギヤ等の部材(図示略)によって軸心334の中心軸332に接続されたモーター等である。
2枚の陰極板336は、アルミニウム基材330の中心軸に対して平行に配置され、かつアルミニウム基材330を水平方向から挟むように、アルミニウム基材330から間隙をあけて対向配置された金属板である。
調温手段340としては、水、オイル等を熱媒とした熱交換器、電気ヒータ等が挙げられる。
【0115】
陽極酸化処理装置310を用いたアルミニウム基材330の陽極酸化は、例えば、下記のように行う。
アルミニウム基材330を陽極酸化槽312の電解液に浸漬させた状態にて、駆動装置(図示略)を駆動させ、軸心334の中心軸332(すなわちアルミニウム基材330に中心軸)を回転軸として軸心334およびアルミニウム基材330を回転させる。
アルミニウム基材330を回転させながら、アルミニウム基材330と陰極板336との間に電圧を印加し、アルミニウム基材330の陽極酸化を行う。
【0116】
アルミニウム基材330の陽極酸化を行う間、アルミニウム基材330を回転させながら、陽極酸化槽312から電解液の一部を排出しつつ、陽極酸化槽312に同量の電解液を供給する。具体的には、陽極酸化槽312から電解液をオーバーフローさせ、オーバーフローした電解液を貯留槽318に流下させ、電解液の温度を貯留槽318で調節した後、前記電解液を、アルミニウム基材330よりも下側に設けられた供給口322から陽極酸化槽312内に返送する。この際、ポンプ326によって供給口322から勢いを付けて電解液を吐出させ、さらに整流板328によって供給口322から吐出された電解液が陽極酸化槽312の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整することによって、陽極酸化槽312の底部から上部へ上昇する電解液のほぼ均一な流れが形成される。
【0117】
陽極酸化槽312への電解液の供給量(供給口322からの電解液の吐出量)は、陽極酸化槽312の容積に対して、循環回数が3分間に1回以上が好ましい。そうする事で、陽極酸化槽312は頻繁な液更新が行え、除熱、発生した水素除去を効率よく行える。例えば、槽容量が105Lの時、35L/分以上が好ましく、41L/分以上がより好ましい。電解液の供給量が41L/分以上であれば、陽極酸化槽312全体に電解液の充分な流れが生じる。ポンプ326の能力の点から、電解液の供給量は、60L/分以下が好ましく、55L/分以下がより好ましい。
【0118】
アルミニウム基材330の周速は、0.1m/分以上が好ましい。アルミニウム基材330の周速が0.1m/分以上であれば、アルミニウム基材330の周囲における電解液の濃度や温度のムラが充分に抑えられる。駆動装置の能力の点から、アルミニウム基材330の周速は、25.1m/分以下が好ましい。
【0119】
上述のようにしてアルミニウム基材330を陽極酸化して、複数の細孔を有する酸化皮膜を形成する工程は、前記図6に示したように基材1Aを陽極酸化してロール状モールド160を形成する工程と同様に行われる。
【0120】
以上説明した本発明のインプリント用ロール状モールドの製造方法にあっては、ロール状のアルミニウム基材330を陽極酸化槽312の電解液中で陽極酸化する際に、アルミニウム基材330の中心軸を回転軸としてアルミニウム基材330を回転させているため、アルミニウム基材330の周囲における電解液の濃度や温度のムラが抑えられ、アルミニウム基材330の外周面全体にわたってほぼ均一に陽極酸化が行われる。その結果、細孔の深さのバラツキが抑えられたロール状モールドを製造できる。
【0121】
また、陽極酸化槽312から電解液の一部を排出しつつ、陽極酸化槽312に同量の電解液を供給しているため、陽極酸化槽312内に電解液の流れが生じ、アルミニウム基材330の周囲における電解液の濃度や温度のムラがさらに抑えられる。その結果、細孔の深さのバラツキがさらに抑えられたロール状モールドを製造できる。
【0122】
さらに、陽極酸化槽312から電解液をオーバーフローさせ、オーバーフローした電解液をアルミニウム基材330よりも下側に設けられた供給口322から陽極酸化槽312内に返送すれば、陽極酸化槽312の底部から上部へ上昇する電解液の流れが生じ、アルミニウム基材330の周囲における電解液の濃度や温度のムラがさらに抑えられる。その結果、細孔の深さのバラツキがさらに抑えられたロール状モールドを製造できる。
【0123】
また、2枚の陰極板336を、アルミニウム基材330の中心軸に対して略平行に、かつアルミニウム基材330を水平方向から挟むように、アルミニウム基材330から間隙をあけて対向配置しているため、陰極板336が陽極酸化槽312内に生じた電解液の流れを妨げることがない。その結果、アルミニウム基材330の周囲における電解液の濃度や温度のムラがさらに抑えられ、細孔の深さのバラツキがさらに抑えられたロール状モールドを製造できる。
【0124】
<物品の製造方法>
本発明の物品の製造方法は、本発明のインプリント用ロール状モールドの製造方法で得られたインプリント用ロール状モールドの外周面に形成された陽極酸化アルミナの複数の細孔を、インプリント法によって被転写体に転写して、前記細孔が反転した複数の凸部を表面に有する物品を得る方法である。
【0125】
インプリント法としては、後述する光インプリント法、または、熱可塑性樹脂からなる被転写体に加熱されたロール状モールドを押し当てて陽極酸化アルミナの複数の細孔を被転写体に転写する熱インプリント法が挙げられ、設備面および生産性等の点から、光インプリント法が好ましい。
以下、光インプリント法による物品の製造方法について詳細に説明する。
【0126】
光インプリント法による物品の製造方法としては、例えば、下記の工程(I)〜(III)を有する方法が挙げられる。
(I)基材フィルムを、回転するロール状モールドの表面に沿って移動させつつ、基材フィルムの表面とロール状モールドの表面との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を挟持させる工程。
(II)基材フィルムの表面とロール状モールドの表面との間に挟持された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、陽極酸化アルミナの細孔が反転した複数の凸部を表面に有する硬化樹脂層を形成する工程。
(III)硬化樹脂層とともに基材フィルムをロール状モールドから剥離する工程。
【0127】
基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム等が挙げられる。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、例えば、特開2009−174007号公報(特許文献1)の段落[0046]〜[0055]に記載の活性エネルギー線硬化性組成物、特開2009−241351号公報の段落[0052]〜[0094]に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等が挙げられる。
【0128】
光インプリント法によって物品を製造する場合、例えば、図16に示す製造装置を用いて、下記のようにして製造される。
複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが外周面に形成されたロール状モールドと、ロール状モールドの表面に沿って移動する帯状の基材フィルム352との間に、タンク354から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356を供給する。
【0129】
ロール状モールドと、空気圧シリンダ358によってニップ圧が調整されたニップロール360との間で、基材フィルム352および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356をニップし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356を、基材フィルム352とロール状モールド350との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状モールドの外周面の細孔内に充填する。
【0130】
ロール状モールドと基材フィルム352との間に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356が挟まれた状態で、ロール状モールドの下方に設置された活性エネルギー線照射装置362を用い、基材フィルム352側から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356を硬化させることによって、ロール状モールドの外周面の複数の細孔が転写された硬化樹脂層364を形成する。
剥離ロール366によって、硬化樹脂層364が表面に形成された基材フィルム352をロール状モールドから剥離することによって、物品368を得る。
【0131】
活性エネルギー線照射装置362としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が好ましく、この場合の光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cm2が好ましい。
物品368としては、光学フィルム(反射防止フィルム等)等が挙げられる。
【0132】
以上説明した本発明の物品の製造方法にあっては、本発明のインプリント用ロール状モールドの製造方法で得られた、細孔の深さのバラツキが抑えられたインプリント用ロール状モールドを用いているため、凸部の高さのバラツキが抑えられた、複数の凸部を表面に有する物品を製造できる。
【0133】
図18は本実施形態に係る陽極酸化処理装置410の断面図である。図19は図18の4A−4A線に沿う断面図である。図20は、図19に示される部材の詳細を説明する要部断面図である。
【0134】
図18に示すように陽極酸化処理装置410は、電解液で満たされた陽極酸化槽412と、陽極酸化槽412の上部を覆い、陽極酸化槽412からオーバーフローした電解液を受けるための樋部414が周縁に形成された上部カバー416と、電解液を一旦貯留する貯留槽418と、樋部414で受けた電解液を貯留槽418へ流下させる流下流路420と、貯留槽418の電解液を、アルミニウム基材430よりも下側の、陽極酸化槽412の底部近傍に形成された供給口422へ返送する返送流路424と、返送流路424の途中に設けられたポンプ426と、供給口422から吐出された電解液の流れを調整する整流板428とを備えている。
【0135】
図19も参照し、陽極酸化処理装置410は、陽極となる中空円柱状のアルミニウム基材430の両端の開口431A、431Bにそれぞれ挿入された円板形状の一対の回転治具432A、432Bと、これら回転治具432A、432Bをそれぞれ回転可能に支持すると共に、これら回転治具432A、432Bを介してアルミニウム基材430を支持する一対の保持板433A、433B(図19参照)と、アルミニウム基材430を挟んで対向配置された2枚の陰極板436と、アルミニウム基材430および2枚の陰極板436に電気的に接続された電源438と、貯留槽418の電解液の温度を調節する調温手段440とを備えている。
【0136】
ポンプ426は、貯留槽418から返送流路424を通って陽極酸化槽412へ向かう電解液の流れを形成するとともに、供給口422から勢いを付けて電解液を吐出させることによって、陽極酸化槽412の底部から上部へ上昇する電解液の流れを形成するものである。
【0137】
整流板428は、供給口422から吐出された電解液が陽極酸化槽412の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整する、複数の貫通孔が形成された板状部材であり、表面が略水平となるようにアルミニウム基材430と供給口422との間に配置されている。
【0138】
2枚の陰極板436は、アルミニウム基材430の中心軸に対して平行に配置され、かつアルミニウム基材430を水平方向から挟むように、アルミニウム基材430から間隙をあけて対向配置された金属板である。また貯留槽418に設けられた調温手段440としては、水、オイル等を熱媒とした熱交換器、電気ヒータ等が挙げられる。
【0139】
図19を参照し、保持板433A、433Bは、アルミニウム基材430を軸方向4C1から挟むように間隙をあけて対向配置された金属板であり、それぞれアルミニウム基材430の軸方向4C1延長上に、回転治具432A、432Bを回転可能に嵌挿させる開口である軸受け部434A、434Bを有している。軸受け部434A、434Bの内周面に、樹脂材料または金属材料からなるドライベアリング435A、435Bが設けられ、これらドライベアリング435A、435Bによって回転治具432A、432Bは、保持板433A、433Bに対して回転可能に支持されている。
【0140】
互いに離間した保持板433A、433Bの上部には、これらに跨って貫通する複数のバー部材441が設けられている(図18も参照)。保持板433A、433Bは、これらバー部材441から垂下するようにして互いに平行した状態で、これらバー部材441によって連結されている。
【0141】
図20を参照し、回転治具432A、432Bは、アルミニウム基材430の開口431A、431Bに嵌め合い、もしくは軽圧入状態で挿入されている。同時にアルミニウム基材430の開口部両端面には止水用パッキン470が取付けられ、回転冶具432A、432Bは、その外径方向に突出させたフランジ部471A、471Bにて止水用パッキン470に当接し、アルミニウム基材430を両端側から挟むように固定している。これによりアルミニウム基材430は止水用パッキン470と回転冶具432A、432Bにより内部を密閉された構造となっている。なお、密閉する為の止水方法としてはパッキン以外にOリング等のシール部材でもよく、また、アルミニウム基材430の開口部両端面以外に、挿入した回転冶具432A、432Bの周面上にパッキン等を設ける等してもよい。
【0142】
アルミニウム基材430を回転冶具432A、432Bにて挟むように固定する事により、アルミニウム基材430は回転冶具432A、432Bに対しての周方向への回転を規制された状態で回転冶具432A、432Bに支持され、より詳しくは、アルミニウム基材430は、回転冶具432A、432Bによって、その軸方向4C1(図19)が水平状態となるように支持されている。すなわち、アルミニウム基材430は、回転冶具432A、432Bによって陽極酸化槽412の底部と平行の状態となるように支持されている。
【0143】
図19において紙面左側に位置する回転治具432Aの回転中心領域には、アルミニウム基材430の軸方向4C1に貫通する貫通孔442が形成され、貫通孔442には導電性材料からなる棒状体の通電メインバー443が貫通した状態で、貫通孔442に対して相対回転不能に挿入保持されている。通電メインバー443は、回転治具432Aに対して一体的に固定されており、回転治具432Aの回転に連動して回転する。図20を参照し、通電メインバー443を回転治具432Aに固定する際は、貫通孔442から電解液が流入しないように、Oリング472を設けて止水をしている。貫通孔からの電解液流入は無くなり、上述の止水用パッキン470と併せてアルミニウム基材430の内部は完全に密閉構造となる。Oリング472は回転治具432Aの貫通孔442の周囲に形成された溝473に嵌め込まれ、通電メインバー443に形成されたフランジ474によって覆われるようにして設けられている。通電メインバー443の回転治具432Aに対する固定方法としては、通電メインバー443にフランジ部を形成し、ボルト締結する等といった態様が考えられるが、その他の態様であっても構わない。
【0144】
なお、アルミニウム基材430を密閉構造とする理由としては、後述する触子448のような通電部材を電解液が介在する中でアルミニウム基材430に当接させて通電させると、触子448が当接するアルミニウム基材430の接触面にも導電性の悪い酸化皮膜が形成してしまい、通電状態に影響が出て酸化皮膜形成に影響がでるおそれがあるからである。
また、密閉構造とする事によれば、アルミニウム基材430の内部に電解液が入る事が無くなり、複数に渡る処理槽を経由する際などに発生する、アルミニウム基材430内部に残った電解液の他の処理槽へ持ち込みが無くなる。これにより、処理槽の処理液の成分や濃度の変化が無くなる。また、密閉構造とする事で、陽極酸化処理槽412の電解液使用量も少なくなり、廃液や電解液コスト削減に繋がる。
【0145】
通電メインバー443の一端は円錐状に形成され、この円錐状端部444は、バー部材441から垂下された給電フラットバー445の下端側に形成される回転受け部446に当接されている。回転受け部446は円錐状の凹部447を有し、この凹部447の最下面に円錐状端部444の先端を当接させるとともに、凹部447の側面領域によって円錐状端部444の周囲を囲うようにして位置規制している。通電メインバー443は、給電フラットバー445および回転受け部446を介して電源438(図18)に電気的に接続されており、電源438から電流を供給される。なお、円錐状端部444は通電メインバー443と一体のものであっても、脱着可能に取り付けられる別体のものであっても構わない。
【0146】
通電メインバー443の他端側には、径方向に突出する一対の導電性材料からなる通電部材である触子448が一体的に通電可能に固定され、触子448は、アルミニウム基材430の内周面に通電可能な程度に当接するように寸法設定および形状設定がなされている。これにより、触子448はアルミニウム基材430に当接し、アルミニウム基材430に対して電流を供給することが可能となっている。より詳しくは、触子448は、アルミニウム基材430側に位置する先端側を折り曲げられており、この折り曲げられた部位にアルミニウム基材430の内周面に当接する平坦な当接面448Aを有し、ここからアルミニウム基材430に電流を通電させるようになっている。
【0147】
上述のようにして構成された陽極酸化処理装置410では、図示しないモータの駆動力を伝達しアルミニウム基材430を回転させた際に、開口431A側の回転治具432Aは、回転治具432Bによって回転されたアルミニウム基材430に連動して回転する。このため、回転治具432Aに固定された通電メインバー443は、アルミニウム基材430の内周面の所定の領域に常時当接し通電可能な状態で、アルミニウム基材430と同期(すなわち連動)して回転するようになっている。
【0148】
この陽極酸化処理装置410を用いたアルミニウム基材430の陽極酸化は、下記のように行う。
アルミニウム基材430を陽極酸化槽412の電解液に浸漬させた状態にて、モータ(図示略)を駆動させ、回転治具432Bを回転させ、アルミニウム基材430をその軸方向4C1を回転中心として回転させる。
アルミニウム基材430を回転させながら、給電フラットバー445、回転受け部446、および触子448を介してアルミニウム基材430と陰極板436との間に電圧を印加し、アルミニウム基材430の陽極酸化を行う。
【0149】
アルミニウム基材430の陽極酸化を行う間は、アルミニウム基材430を回転させながら、陽極酸化槽412から電解液の一部を排出しつつ、陽極酸化槽412に同量の電解液を供給する。具体的には、陽極酸化槽412から電解液をオーバーフローさせ、オーバーフローした電解液を貯留槽418に流下させ、電解液の温度を貯留槽418で調節した後、前記電解液を、アルミニウム基材430よりも下側に設けられた供給口422から陽極酸化槽412内に返送する。
この際、ポンプ426によって供給口422から勢いを付けて電解液を吐出させ、さらに整流板428によって供給口422から吐出された電解液が陽極酸化槽412の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整することによって、陽極酸化槽412の底部から上部へ上昇する電解液のほぼ均一な流れが形成される。
【0150】
陽極酸化槽412への電解液の供給量(供給口422からの電解液の吐出量)は、陽極酸化槽412の容積に対して、循環回数が3分に1回以上が好ましい。そうする事で、陽極酸化槽411は頻繁な液更新が行え、除熱、発生した水素除去を効率良く行える。具体的には、槽容量が107Lの時、供給流量を36L/分程度にするのが好ましい。
【0151】
アルミニウム基材430の周速は、0.1m/分以上が好ましい。アルミニウム基材430の周速が0.1m/分以上であれば、アルミニウム基材430の周囲における電解液の濃度や温度のムラが充分に抑えられる。駆動装置の能力の点から、アルミニウム基材430の周速は、25.1m/分以下が好ましい。
【0152】
上述のようにしてアルミニウム基材430を陽極酸化して、複数の細孔を有する酸化皮膜が形成する工程は、前記図6に示したように基材1Aを陽極酸化してロール状モールド160を形成する工程と同様に行われる。
【0153】
以上に記載した本実施形態に係る陽極酸化処理装置410では、ロール状のアルミニウム基材430を陽極酸化槽412の電解液中で陽極酸化する際に、アルミニウム基材430の中心軸を回転軸としてアルミニウム基材430を回転させているため、アルミニウム基材430の周囲における電解液の濃度や温度のムラが抑えられ、アルミニウム基材430の外周面全体にわたってほぼ均一に陽極酸化が行われ、その結果、細孔の深さのバラツキが抑えられたロール状モールドを製造できる。
【0154】
そして、アルミニウム基材430と触子448とを当接させた状態でアルミニウム基材430と触子448とを同期させて回転させながら、触子448からアルミニウム基材430に通電を行うようにしているので、アルミニウム基材430と触子448との間の摩耗をなくして通電不良を抑えることができ、ロール状モールドの歩留まりの向上を一層図ることができる。
【0155】
つまり、触子448をアルミニウム基材430に同期させないでアルミニウム基材430のみを回転させる態様(触子448をアルミニウム基材430の内周面に当接した状態で固定し、アルミニウム機材430のみを回転させる態様)であると、触子448がアルミニウム基材430の内周面に摺動しながら通電を行うことになり、触子448とアルミニウム基材430との間で接触摩耗が発生し、触子448とアルミニウム基材430との間で通電不良が起こる可能性があるが、本発明は、アルミニウム基材430と触子448とを当接させた状態でアルミニウム基材430と触子448とを同期させて回転させることで、このような通電不良の発生を防止している。なお、触子448とアルミニウム基材430とは、完全に同期して回転する必要はない。例えば、触子448とアルミニウム基材430とが別々の動力源により回転されるような場合、これらの部材を完全に同期させて回転させることは困難である。従って、本願発明においては、触子448とアルミニウム基材430とが相対的にほぼ固定された状態で連動して回転している状態も、同期して回転していることに含むものとする。
【0156】
ここで、図21に、陽極酸化処理装置410におけるアルミニウム基材430に対する通電状態を実測した実験例が示されている。図21において、横軸は時間軸(秒)を示し、アルミニウム基材430に対して通電した電流値(A)を示している。同図から明らかなように、初期に印加した電流値が安定した状態の後は、長期にわたり一定の電流値が安定した状態でアルミニウム基材430に通電されていることが確認された。この実験例からも本発明による通電不良抑制の効果が確認できた。
【0157】
また、本実施形態では通電メインバー443の端部を円錐状としているが(円錐状端部444)、これによれば、回転受け部446との接触面積を小さくして、接触摩耗での発粉を最小限に抑えることができ、また、表面を更新させることができる。このため、電気絶縁性の高いアルミナ層が形成されることなく、通電状態を保持することが可能となる。
【実施例】
【0158】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0159】
(陽極酸化アルミナの細孔)
陽極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧:3.00kVの条件にて断面を観察し、細孔の深さを測定した。
陽極酸化の際にアルミニウム基材を回転させない場合:
最後の陽極酸化を終了した後、図17に示すロール状モールド350の外周を円周六等分する位置1〜6について、それぞれ10箇所の細孔の深さを測定し、平均値を求めた。
陽極酸化の際にアルミニウム基材を回転させる場合:
最後の陽極酸化を終了した直後、アルミニウム基材の回転を停止した状態における、図17に示すロール状モールド350の外周を円周六等分する位置1〜6について、それぞれ10箇所の細孔の深さを測定し、平均値を求めた。
【0160】
(反射率)
分光光度計(日立製作所社製、U−4000)を用い、入射角:5°、波長380〜780nmの範囲で硬化樹脂層の表面の相対反射率を測定した。
陽極酸化の際にアルミニウム基材を回転させない場合:
最後の陽極酸化を終了した後、図17に示すロール状モールド350の外周を円周六等分する位置1〜6に対応する硬化樹脂層の表面について、それぞれフィルムの幅方向の一方の端、中央、他方の端の3箇所の反射率を測定した。
陽極酸化の際にアルミニウム基材を回転させる場合:
最後の陽極酸化を終了した直後、アルミニウム基材の回転を停止した状態における、図17に示すロール状モールド350の外周を円周六等分する位置1〜6に対応する硬化樹脂層の表面について、それぞれフィルムの幅方向の一方の端、中央、他方の端の3箇所の反射率を測定した。
【0161】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物A)
コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物の45質量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製)の45質量部、ラジカル重合性シリコーンオイル(信越化学工業社製、X−22−1602)の10質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア(登録商標)184、波長340nm以上に吸収波長域を有する。)の3質量部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア(登録商標)819、波長340nm以上に吸収波長域を有する。)の0.2質量部を混合し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Aを得た。
【0162】
〔実施例1〕
中空円柱状のアルミニウム基材(純度:99.99%、長さ:280mm、外径:200mm、内径:155mm)に羽布研磨処理を施した後、これを過塩素酸/エタノール混合溶液中(体積比=1/4)で電解研磨した。
【0163】
ついで、図15に示す陽極酸化処理装置を用いて、アルミニウム基材を、0.3Mシュウ酸水溶液からなる107Lの電解液中で、浴温:15.7℃、直流:40V、電解液の供給量:41L/分、アルミニウム基材の周速:3.8m/分の条件下で30分間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した(工程(a))。
【0164】
形成された酸化皮膜を、6質量%のリン酸と1.8質量%のクロム酸混合水溶液中で一旦溶解除去した(工程(b))後、再び工程(a)と同一条件下において、45秒間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した(工程(c))。
【0165】
その後、5質量%リン酸水溶液(31.7℃)中に8分間浸漬して、酸化皮膜の細孔を拡径する孔径拡大処理(工程(d))を施した。
さらに、工程(a)と同一条件下において、45秒間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した(工程(e))。
さらに工程(d)と工程(e)を繰り返し、工程(d)を合計で5回、工程(e)を合計で4回行った(工程(f))。アルミニウム基材の外周面に略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成されたロール状モールドAを得た。陽極酸化アルミナの細孔の深さを測定した。結果を表1に示す。
ついで、離型剤(ダイキン工業社製、オプツールDSX(商品名))の0.1質量%溶液にロール状モールドAを10分間ディッピングし、24時間風乾して離型処理を行った。
【0166】
図16に示す製造装置を用いて、複数の凸部を表面に有する物品を製造した。
ロール状モールド350としては、ロール状モールドAを用いた。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物356としては、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物3Aを用いた。
基材フィルム352としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、商品名:A4300、厚さ:75μm)を用いた。
基材フィルム352側から、積算光量1100mJ/cm2の紫外線を、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Aに照射し、活性エネルギー線化性樹脂組成物Aの硬化を行った。
得られた物品の硬化樹脂層の表面の相対反射率を測定した。結果を表2に示す。
【0167】
〔比較例1〕
電解液中でアルミニウム基材を回転させない以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム基材の外周面に略円錐形状のテーパ状の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成されたロール状モールドBを得た。陽極酸化アルミナの細孔の深さを測定した。結果を表1に示す。
ついで、実施例1と同様にして、ロール状モールドBの離型処理を行った。
ついで、ロール状モールド350としてロール状モールドBを用いた以外は、実施例1と同様にして、複数の凸部を表面に有する物品を製造した。得られた物品の硬化樹脂層の表面の相対反射率を測定した。結果を表3に示す。
【0168】
【表1】

【0169】
【表2】

【0170】
【表3】

【0171】
電解液中でアルミニウム基材を回転させながら陽極酸化を行って製造された実施例1のロール状モールドAは、細孔の深さのバラツキが少なかった。その結果、複数の凸部を表面に有する物品においても、凸部の高さのバラツキ、すなわち反射率のバラツキが少なかった。
一方、電解液中でアルミニウム基材を回転させずに陽極酸化を行って製造された比較例1のロール状モールドBは、細孔の深さのバラツキが大きかった。その結果、複数の凸部を表面に有する物品においても、凸部の高さのバラツキ、すなわち反射率のバラツキが大きくなった。
【0172】
〔実施例2〕
本実施例2では、図10に示す陽極酸化処理装置210に具体的な条件を設定し、運転を行った。中空円柱状のアルミニウム基材220(純度:99.99%、長さ:280mm、外径:200mm、内径:155mm)の両端面および通電部材213の端面を軸方向に対してテーパ角度30°とし、それぞれのテーパ面220A,213Aの表面粗さをRa1.6とした。
【0173】
アルミニウム基材220を0.3mol/L水溶液からなる106Lの電解液中で、浴温:15.7℃、電解液の供給量:36L/分、両部通電部材213の押し圧:0.2MPa、アルミニウム基材220の周速:3.8m/分の条件下で、電圧:40Vの条件で、60分間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した。
【0174】
図12Aには、本陽極酸化処理装置210で60分間通電した際の電流値の状態を実測した実験例(グラフ)が示されている。図12Aにおいて、横軸は積算時間(秒)を示し、縦軸は電流値の振れ幅(A)である。また、図12Bは、図12Aに示した測定結果における1800秒までの電流値の振れ幅の測定結果を示している(なお、図12Bにおいては、電流値の振れ幅(A)のスケールを詳細に示している)。
本実施例2では、これらの図から明らかなように、長期にわたり安定した一定の電流値が大きく変動する事なく、アルミニウム基材220に通電されていることが確認された。この実施例2からも本発明による通電不良抑制の効果が確認できた。
【0175】
(比較例2)
以下、本発明の処理装置と直方体状の処理槽にて電解処理を行った時の温度を比較した例を説明する。
【0176】
基材に中空円柱状のアルミニウム基材(純度:99.99%、長さ:1000mm、外径:200mm、内径:155mm)を用い、本発明の処理槽と直方体状の処理槽にて、陽極酸化処理を行った。本発明の処理槽は図2において、中心軸Pから底部111aの内面111a’までの距離Dの距離を400mmとし、直方体状の処理槽は図7A、7Bと同形状である。各処理槽は循環回数が3分に1回になる流量にて循環を行い、各処理槽には16℃に温調した電解液を供給している。
【0177】
図8、図9は各処理槽にて陽極酸化処理をした際の電解液温度を比較したグラフである。図8は処理槽壁面から50mm離れた箇所の電解液温度を処理槽全域にて数点測定した際のグラフである。陽極酸化処理を行う事で処理槽内は通電による発熱、酸化反応の熱などの影響で温度上昇するが、図8を見るとわかるように、本発明の処理槽は温度上昇が少ない事がわかる。これは直方体状の処理槽では循環効率が悪い滞留部が発生し、滞留部は発熱した際の熱が溜まり、滞留部以外の箇所と比べると温度が高くなってしまうためである。
また、図9は基材表面の基材長手数点での最大温度差を示した際のグラフである。基材表面の温度差とは基材表面に生じる温度斑であり、陽極酸化処理を行った際には細孔の深さのバラつきに影響する。図9を見るとわかるように、本発明の処理槽は温度差が小さい事がわかる。これも直方体状の処理槽で発生してしまう滞留部が原因であり、滞留部近くの基材表面の電解液温度も高くなってしまうためである。
【0178】
また、今回の基材を処理した処理槽であるが、直方体処理槽の容積が250Lに対し、本発明の処理槽は130Lであった。
【0179】
上記の比較により、本発明の処理槽では電解液の滞留が防止でき、さらに電解液の使用量も抑制できた事が確認できた。
【0180】
(比較例3)
以下では、比較例3として、アルミニウム基材に通電部材を点で接触させたときの電流値の測定値を説明する。図13を参照し、この比較例3で用いた陽極酸化処理装置では、アルミニウム基材220の両端側の内面に接する滑り軸受け241が設けられ、滑り軸受け241の外周面に環状のハウジング240がアルミニウム基材220に固定されるように接続されている。アルミニウム基材220は外部回転機構(図示略)によって回転するようになっている。
アルミニウム基材220の内面に通電部材243から伸びた接触子242が接触し通電が行えるようになっている。
【0181】
そして、図13の状態にて上記実施例2と同様の条件下にてアルミニウム基材220に通電させた状態を実測した結果が図14に示されている。図14において、横軸は積算時間(秒)を示し、縦軸は電流値の振れ幅(A)である。なお、図14においては、積算時間1200秒(20分)までの測定結果が示されている。
図12A、図12Bの本発明の陽極酸化処理装置での実験例と図14とを比較してもわかるように、比較例3においては、常に電流値に若干の振れがある事がわかる。さらに所々に大きく電流値が変動した箇所が発生している。原因として、アルミニウム基材220と接触子242は点で接触をしている為接触面積が小さく、アルミニウム基材220が回転した際、回転周期による接触面の変動が大きいため安定して接触できない事や、アルミニウム基材220と接触子242が接触面で磨耗や滑りが発生して、瞬間的に接触してない状態があり、電流値が大きく変動したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明に係る製造方法で得られたロール状モールドは、モスアイ構造と呼ばれる微細凹凸構造を表面に有する光学フィルムの製造に有用である。
【符号の説明】
【0183】
11 電解処理装置
110 処理槽
111 処理槽本体
111a 底部
111a’ 内面
111b,111c 側面
112 電界液供給部
113 オーバーフロー部
120 電極板
130 回転手段
1A 基材
1A’ 周面(外周面)
1L 電解液
210 陽極酸化装置
211 陽極酸化槽
213 通電部材
213A テーパ面
215 支持軸(回転駆動手段)
220 アルミニウム基材
220A テーパ面
312 陽極酸化槽
322 供給口
330 アルミニウム基材
336 陰極板
342 細孔
344 酸化皮膜(陽極酸化アルミナ)
350 ロール状モールド
352 基材フィルム(被転写体)
368 物品
410 陽極酸化装置
412 陽極酸化槽
430 アルミニウム基材
432A,432B 回転治具
443 通電メインバー(回転軸)
446 回転受け部(回転受け部)
448 触子(通電部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化槽の電解液に浸漬されたアルミニウムからなる円筒状のアルミニウム基材に、通電部材を用いて通電して陽極酸化処理を行い、表面に複数の凹凸を有するロール状モールドを製造する方法であって、
前記通電部材が前記アルミニウム基材に当接した状態で、前記アルミニウム基材の中心軸を回転中心として、前記アルミニウム基材を回転させながら、前記通電部材を通じて前記アルミニウム基材に通電を行う陽極酸化工程、を含むロール状モールドの製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム基材と、前記通電部材とが同期して回転する、請求項1に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項3】
前記通電部材は、導電性の軸部材と、前記軸部材に固定され、前記アルミニウム基材に当接される触子と、を含み、
前記触子が円筒状の前記アルミニウム基材の内周面に当接され、
前記軸部材の少なくとも一方の端部が、前記軸部材に給電を行う導電性の給電部材と接触する位置に配置されている、請求項1または2に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項4】
前記軸部材の少なくとも一方の端部が前記アルミニウム基材の軸方向に沿って前記アルミニウム基材の外側に位置し、
前記少なくとも一方の端部の形状が円錐状であり、
前記軸部材の少なくとも一方の端部は、前記給電部材と摺動しながら回転する請求項3に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム基材は、前記アルミニウム基材の軸方向端部に固定された回転治具を回転させることにより、中心軸を中心として回転し、
前記軸部材は、前記回転治具に固定され、前記アルミニウム基材に同期して回転する、請求項3に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項6】
前記回転治具は、前記アルミニウム基材の端部を止水する、請求項5に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項7】
前記陽極酸化槽から前記電解液の一部を排出しつつ、前記陽極酸化槽に同量の電解液が供給される、請求項1に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項8】
前記陽極酸化槽のアルミニウム基材よりも上側から電解液をオーバーフローさせて前記電解液の一部を排出させ、オーバーフローした前記電解液を前記アルミニウム基材よりも下側に設けられた供給口から陽極酸化槽内に返送する、請求項7に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項9】
前記陽極酸化槽の形状が、半円柱状の形状であり、一方の側面から電解液を均一に供給し、他方の側面からオーバーフローさせる、請求項7に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項10】
前記陽極酸化槽は、電解液を収容し、前記アルミニウム基材が浸漬する長尺な形状であり、前記処理槽本体に浸漬された基材の周面に沿うように、底部が円弧状に湾曲した処理槽本体、処理槽本体に電解液を供給する電解液供給部、および処理槽本体から電解液を排出するオーバーフロー部を備え、
処理槽本体の長手方向に沿うように設けられた前記電解液供給部から、処理槽本体の一方の側面上方から電解液を供給し、
処理槽本体の長手方向に沿うように処理槽本体の他方の側面上部に設けられた前記オーバーフロー部から、前記電解液を排出する、請求項9に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項11】
前記通電部材が、前記アルミニウム基材の一端面または両端面に面接触する通電部材である、請求項1または2に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項12】
前記通電部材が前記アルミニウム基材の一端面または両端面に当接し、前記アルミニウム基材が軸方向に挟持されるように配置されており、
前記通電部材を回転させ、前記通電部材と前記アルミニウム基材とを当接した状態で回転させる、請求項11に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項13】
前記回転治具は、前記アルミニウム基材の端部を止水する、請求項12に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項14】
前記通電部材を前記アルミニウム基材の軸方向に沿って移動させ、前記アルミニウム基材と前記通電部材とを接触させる、請求項11に記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項15】
前記アルミニウム基材の一端面または両端面に第1テーパ面が含まれ、前記通電部材は、前記第1テーパ面に面接触する第2テーパ面を有し、前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面とを接触させて前記アルミニウム基材と前記通電部材とを当接させる、請求項11記載のロール状モールドの製造方法。
【請求項16】
複数の凹凸を表面に有する物品を製造する方法であって、請求項1に記載の製造方法で得られたインプリント用ロール状モールドの外周面に形成された陽極酸化アルミナの複数の細孔を、インプリント法によって被転写体に転写してすること、前記細孔が反転して転写された形状の複数の凸部を表面に有する物品を得ることを含む、前記物品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−197504(P2012−197504A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230669(P2011−230669)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【分割の表示】特願2011−516172(P2011−516172)の分割
【原出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】