説明

陽電子放出放射性同位元素放射線源

【課題】放射線源から放出される消滅放射線の角度分布が全角度領域あるいは不要な一部を除く角度領域において球対称であり、かつ、放射線源吸収体を構成する材料の主たる材質が陽電子の空間的な広がりと消滅放射線の相互作用確率を小さくするため適切に選択され、かつ、使用上の利便性や安全性にも配慮された微小球対称放射線源を現実に加工・製作・使用が可能な形で提供する。
【解決手段】放射線源吸収体14を構成する部品として外形が球形状である固体材料を用い、陽電子放出放射性同位元素を含む放射線源中央部分12、13の空間的な広がりの範囲を有限ではあるが微小とし、放射線源吸収体の厚さと材質は陽電子放出放射性同位元素から放出された陽電子の殆ど全てを吸収するのに十分であり、かつ、放射線源吸収体の全体形状が球対称あるいは近似的に球対称とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出放射性同位元素から放出される陽電子の消滅により生じる消滅放射線を放射線検出器により検出し陽電子放出放射性同位元素の放射能あるいは放射能分布を計測する装置あるいは計測し画像化する装置(陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置)を評価・校正するための陽電子放出放射性同位元素放射線源に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置の検出感度及び放射能測定精度等の絶対感度及び定量測定精度などを評価・校正するための陽電子放出放射性同位元素放射線源(以下放射線源)には、陽電子放出放射性同位元素から放出された陽電子が放射線源から放出されないように陽電子放出放射性同位元素の周囲を覆う物質(以下放射線源吸収体)が十分な厚さ(必要な厚さは放射線源吸収体の材質に依存する)を有していることが求められる。
【0003】
このため、従来は、非特許文献1〜3に記されているように、様々な形状の容器に入れた水などに陽電子放出放射性同位元素を一様に攪拌した線源、あるいは線状のチューブに陽電子放出放射性同位元素を入れたものに金属性の吸収体物質を被せた線状線源などが用いられてきた。
【0004】
【特許文献1】特開平9−501326号公報
【特許文献2】特開2002−522184号公報
【特許文献3】特開2007−101439号公報
【特許文献4】特開平6−148395号公報
【特許文献5】特開平7−270598号公報
【非特許文献1】日本放射線機器工業会「PET装置の性能評価法」JESRA X-73, 1993
【非特許文献2】日本アイソトープ協会「PET装置の性能評価のための測定指針」RADIOISOTOPES,43(9), 115-135, 1994
【非特許文献3】National Electrical Manufacturers Association (NEMA)「Performance measurements of positron emission tomographs」NEMA Standards Publication NU2-2001, 1-40, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来手法では、陽電子放出放射性同位元素の空間的な分布が微小な領域に限定されておらず、放出される消滅放射線の角度分布が球対称であるようには考えられていなかった。その他、円筒形状の樹脂及び金属に封入された円筒型放射線源などが用いられる場合もあったが、やはり、放出される消滅放射線の角度分布が球対称となるようには考えられていなかった。
【0006】
なお、放射線源中央部については、球形状あるいはその他の形状に加工した微小なイオン交換樹脂やモレキュラーシーブなどに陽電子放出放射性同位元素含有物質を吸着、吸収、付着したもの、あるいは、陽電子放出放射性同位元素を含有する粉末状あるいは粘性のある物質などが考えられ、これらは従来技術により実現可能である。放射線源中央部を構成する物質の材質に関しては、陽電子放出放射性同位元素から放出される陽電子を吸収する必要は無い。
【0007】
一方、特許文献を見てみると、球状の放射線源に関わる発明は、特許文献1及び2などに記されているが、これら技術では陽電子放出放射性同位元素を用いて、近似的に球対称な消滅放射線角度分布を得ることはできない。
【0008】
放射性同位元素を用いた円筒型の固体放射線源に関わる発明は、特許文献3などに記されているが、この技術では陽電子放出放射性同位元素を用いて、近似的に球対称な消滅放射線角度分布を得ることはできない。
【0009】
陽電子放出放射性同位元素を用いた線源に関わる発明は、特許文献4及び5などに記されているが、いずれも球対称な角度分布の消滅放射線を得ることができる技術ではない。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、陽電子放出放射性同位元素の空間的分布が十分に小さな領域に限られ、かつ、陽電子放出放射性同位元素から放出された陽電子は構成物質により吸収され、かつ、外部に放出される消滅放射線の角度分布が全角度領域あるいは一部を除く角度領域において球対称である放射線源を、実際に加工・製作・利用が可能な形で近似的に実現し、陽電子放出放射性同位元素放射能・分布計測装置の評価・校正のために提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
点入力に対する応答関数は、陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置の最も基本的な物理特性の1つと考えられるが、これを絶対感度及び放射能測定精度として評価・校正するためには、微小球対称放射線源が有用と考えられる。
【0012】
図1に、理想的な球対称微小放射線源10の形状・構造の一例の断面図を示す。理想的には、放射線源中央部12の大きさはゼロであり、放射線源吸収体14を含む放射線源全体の構造と形状が球対称であって欲しい。しかしながら、このような理想的な微小球対称放射線源を実際に加工・製作するのは困難と考えられ実現されておらず、そのような放射線源による装置評価・校正は実施されていない。
【0013】
この課題を解決できるかどうかは、理想的には微小・球対称な構造・形状であるべき放射線源を、放出される消滅放射線の角度分布の一様性すなわち球対称性を必要とされる精度で近似的に達成するという条件を確認した上で、現実に加工・製作・利用が可能な形でどのよう提供するかという点にかかっている。
【0014】
ここで、放射線源中央部12と放射線源吸収体14を組み合わせる際に、放射線源中央部12に含まれる陽電子放射性同位元素が、放射線源吸収体14の不要な箇所に付着することを妨げる策も提供する必要がある。又、放射線源中央部12が自ら形状を保つ固体形態ではない場合、例えば、粉末状あるいは粘性のある物質状であった場合にも微小球対称放射線源を加工・製作できるような策も提供する必要がある。更に、微小で球形状な放射線源の加工・製作を実現することを前提として、その利用時において、その紛失を防止し、その取り扱いを容易にするための策も提供しなければならない。又、放射線源を液体中などに入れて使用することを前提に、防水性あるいは気密性が求められる場合には、防水性と気密性を維持しやすいような策も提供しなければならない。又、性能評価・校正の利便性を高めると同時に、性能評価・校正時と測定対象を実際に測定する時との特性の変化などの影響を低減するために、実際の測定時に性能評価・校正を同時に実施する策を提供することも課題と位置づけられる。又、微小球対称放射線源を識別するためには、製品番号あるいは関連する特徴などを微小球対称放射線源に付すことも課題となる。
【0015】
本発明は、陽電子放出放射性同位元素を含む放射線源中央部分と、外形が球形状で放射線源中央部分を覆う放射線源吸収体とから構成され、放射線源吸収体は放射線源中央部分から放出された陽電子を吸収できる厚さと構造を有し、放射線源吸収体の外側に放出される消滅放射線の角度分布が全角度領域あるいは一部を除く角度領域において近似的に球対称性であることを特徴とする陽電子放出放射性同位元素放射線源により、前記課題を解決したものである。
【0016】
ここで、放射線源吸収体は、放射線源中央部を挿入するための穴が中心部まで開けられ、その底面形状が平面あるいは球内面の形状であり、その穴を開口側から棒状物質を挿入して塞いだ構造を持つことができる。
【0017】
あるいは、放射線源吸収体は、放射線源中央部を挿入するための穴が貫通され、その穴を両開口側から棒状物質を挿入して塞いだ構造を持つことができる。
【0018】
又、放射線源吸収体材料に開けた穴を塞ぐ棒状物質が、放射線源中央部側端面を球内面形状あるいはそれ以外の凹状形状に加工され、その加工された部分に放射線源中央部が位置することができる。
【0019】
更に、前記凹状形状に加工された部分の外径が、穴を塞ぐ棒状物質のそこに近接する部分の外径よりも細く加工されていることができる。
【0020】
あるいは、放射線源吸収体に開けた穴を塞ぐ棒状物質の側面の所定位置に凹状形状加工部が設けられ、その加工部に放射線源中央部が位置することができる。
【0021】
又、放射線源吸収体材料を開けた穴を塞ぐ棒状物質が、放射線源吸収体の外形面よりも外側まで棒状に延長されていることができる。
【0022】
あるいは、放射線源吸収体材料を開けた穴を塞ぐ棒状物質とは別の棒状物質が、放射線源吸収体あるいは穴を塞ぐ棒状物質に固定されていることができる。
【0023】
本発明は、又、陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置の感度特性評価及び校正に用いるための陽電子放出放射性同位元素放射線源を提供するものである。
【0024】
又、陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置あるいはそれに付帯する装置・器具に自動あるいは手動で装備あるいは装着することにより、装置感度特性評価及び校正に用いるための陽電子放出放射性同位元素放射線源を提供するものである。
【0025】
又、陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置において、測定対象の測定と同時に用いるための陽電子放出放射性同位元素放射線源を提供するものである。
【0026】
又、陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置あるいはそれに付帯する装置に、陽電子放出放射性同位元素放射線源を用いた性能評価・校正のためのデータ処理システムが組み込まれていることを特徴とする陽電子放出放射性同位元素放射線源を提供するものである。
【0027】
又、放射能値が国家標準に対して校正され、陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置の評価及び校正に用いるための陽電子放出放射性同位元素放射線源を提供するものである。
【0028】
又、防水性があり液体中に挿入しながら使用することが可能な陽電子放出放射性同位元素放射線源を提供するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、微小球対称放射線源を近似的に提供することができる。又、微小球対称放射線源による陽電子放出放射性同位元素放射能・分布計測装置の評価・校正が可能となる。又、複数多種の陽電子放出放射性同位元素放射能・分布計測装置の微小球対称放射線源に対する特性の相互比較が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
本発明は、図1に示した理想的な放射線源を実現するのではなく、放射線源吸収体14を構成する部品として外形が球形状である固体材料を用い、陽電子放出放射性同位元素を含む放射線源中央部12の空間的な広がりの範囲を有限ではあるが微小(最大径1.0〜0.2mm以下)とし、放射線源吸収体14の厚さと材質は陽電子放出放射性同位元素から放出された陽電子の殆ど全て(統計変動によるばらつきを除き99.9%以上)を吸収するのに十分であり、かつ、放射線源吸収体14の全体形状が球対称あるいは近似的に球対称であることにより放射線源から放出される消滅放射線の角度分布が全角度領域あるいは不要な一部を除く角度領域において球対称(一様性の偏差が、統計変動によるばらつきを除き概ね0.5〜0.2%以内)であり、かつ、放射線源吸収体14を構成する材料の主たる材質が陽電子の空間的な広がりと消滅放射線の相互作用確率を小さくするため適切に選択されていることにより、微小球対称放射線源10を現実に加工・製作が可能な形で提供するものである。
【0032】
放射線源中央部12に含まれる陽電子放出放射性同位元素としては、フッ素18、ナトリウム22、ガリウム68(ゲルマニウム68)、その他、β+崩壊により陽電子を放出する核種が対象となる。
【0033】
放射線源吸収体14の材質としては、アルミニウムのほか、ベリリウム、炭素(人工ダイヤなど含む)、チタニウム、銅、黄銅、ステンレス、白金、鉛、樹脂、その他合金、その他様々な材質が考えられる。
【0034】
放射線源吸収体14に必要な厚さのおよその目安は、次の経験的な近似式から求めることができる。
【0035】
Rmax=0.407E1.38、(0.15<E<0.8)
Rmax=0.542E−1.33(0.8<E<3) 近似式(1)
【0036】
ここで、Rmaxは最大飛程(g/cm2)、Eは最大エネルギー(MeV)である。この式は電子(β-)に対する経験的な式であり、物質の密度をもとに大まかな物質依存性を考慮する式であるため、全ての物質に対して正確に成り立つわけではないが、陽電子(β+)に対するおよその最大飛程の目安を知るためには有用である。モンテカルロシミュレーション法を利用することにより、より正確な推定も可能である。近似式(1)により求めたおよその最大飛程と、ナトリウム22を基準とした場合の比を表1に示す。表2には、物質の密度を具体的に仮定した場合の、最大飛程をmm単位で示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
例えば、ナトリウム22でアルミニウムを材質とした場合、近似式(1)で求めた最大飛程は約0.7mmである。この値はシミュレーション結果とも大きくは矛盾しない結果であり、放射線源吸収体製作時の加工精度や傷の影響など含めて余裕を見て、1.0mm程度の厚さにすれば十分であると推定することができる。材質によって原子番号あるいは実効原子番号及び密度が異なり、陽電子の最大飛程のほかに、消滅放射線の吸収確率、散乱確率なども異なってくる。ここで、例えば、アルミニウムの場合には吸収確率よりも散乱確率が高いが、原子番号の高い鉛の場合には、散乱確率よりも吸収確率が高くなる。消滅放射線の吸収確率を抑え、かつ、放射線源吸収体の大きさを小さくしたい場合には、コストや加工のし易さなどから考えアルミニウムなどの材質が1つの有用な候補であるが、一方、特に放射線源からの散乱線成分の影響を少なくするということに重点が置かれる性能評価・校正のためには、実効原子番号が大きめの材質を使うことが適当となる場合もある。また、放射線源吸収体の内側の材質と外側の材質が異なるような多層構造とする形態、例えば、実効原子番号が高い物質を外側に配置して散乱線成分の割合を減じたりする形態も考えられる。このように、性能評価・校正の用途によって、陽電子の最大飛程、消滅放射線の吸収確率及び散乱確率、これら3つの物理特性に特に注目し、コストや加工のし易さなども考え、最適な放射線源構成物質の材質と形状を選択する。
【0040】
又、放射線源吸収体14を加工する際に、図2(A)に示す第1実施形態のように、放射線源中央部を挿入するための穴を球形材料の中心を通る線上に中心部まで開け、その底面形状を平面あるいは球内面あるいはそれ以外の形状とし、その穴を片側から棒状物質16で塞ぐ構造とするか、図2(B)に示す変形例のように、穴を貫通させ、その穴を両側から棒状物質16で塞ぐ構造とすることで、放射線源吸収体14を構成することができる。
【0041】
又、放射線源吸収体材料に開けた穴を塞ぐ棒状物質16を、図3に示すように、放射線源中央部側先端面を(A)球内面形状あるいは(B)それ以外の凹状形状(図示した平底形状やドリル穴の形状等)に加工して、図4に示す如く、その加工された部分に放射線源中央部12を位置させることができる。図において、12は、球形状あるいはそれ以外の固体形状の放射線源中央部、13は球形状以外(固体以外を含む)の放射線源中央部である。
【0042】
更に、図5に示すように、穴を塞ぐ棒状物質16の放射線源中央部側先端部の外形を細く加工して、図6に示す如く、放射線源吸収体14及び放射線源中央部12、13と組合せることができる。
【0043】
あるいは、図7に示すように、穴を塞ぐ棒状物質16の側面に放射線源中央部を入れるための領域を凹状形状に加工し、蓋17をして、図8に示すように、その加工された部分に放射線源中央部12、13を位置させることができる。
【0044】
これらの技術は、放射線源中央部12、13を放射線源吸収体14の中央部に入れる際に、陽電子放射性同位元素が不要な箇所に接触・付着・吸着することを防ぐ機能を提供する。また、この技術は自ら形状を保たない放射線源中央部13についても、凹状形状部分に埋め込むことにより利用可能とする。
【0045】
又、図9(A)(B)に示す第2実施形態のように、放射線源吸収体材料を開けた穴を塞ぐ棒状物質16を放射線源吸収体14の外形面よりも外側まで棒状に延長するか、あるいは、別の棒状物質18を図9(C)に示す変形例のように、穴を塞ぐ棒状物質16あるいは図9(D)に示す他の変形例のように放射線源吸収体14に固定しても、その棒状物質16、18の方向に近接する角度領域を除く角度領域においては、放出される消滅放射線の角度分布を近似的に球対称に保つことができる。この技術は、微小球対称放射線源の取り扱い、使用時における保持・支持を容易にするとともに、紛失防止の機能を提供する。
【0046】
一例として図10に示すように、上記いずれかの微小球対称放射線源10、あるいは複数の微小球対称放射線源を、陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置の感度特性評価及び校正に用いることができる。
【0047】
又、上記いずれかの微小球対称放射線源10、あるいは複数の微小球対称放射線源を、陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置あるいはそれに付帯する装置・器具に自動あるいは手動で装備あるいは装着することにより、装置感度特性評価及び校正に用いることができる。
【0048】
一例として図11に示すように、上記いずれかの微小球対称放射線源10、あるいは複数の微小球対称放射線源を、陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置において、測定対象を測定する際に測定可能領域内に、線源支持移動機構20により自動あるいは手動で配置することにより装置感度特性評価及び校正に用いることができる。図において、22は性能評価・校正データ処理システムである。
【0049】
こうすると、図12に示すように、得られた放射能分布画像の中において測定対象部分と微小球対称放射線源部分を同時に観察することができ、この結果、微小球対称放射線源部分の画素値を必要な領域で積分した値(測定した放射能値)を基準とした定量性の基で放射能分布を観察することができる。
【0050】
又、微小球対称放射線源を測定対称に貼り付けるなどして、微笑球対称放射線源と測定対象の相対的な位置関係を固定した場合、微小球対称放射線源の位置と動きを追跡することにより測定対象の位置や動きをモニターする機能を、定量測定精度を評価・校正する機能とともに合わせ持たせることができる。
【0051】
又、上記いずれかの微小球対称放射線源の放射能値を国家標準に対して校正することにより、陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置の評価及び校正に用いることができる。
【0052】
又、用途により放射線源を高精度で移動させたい場合には、棒状物質16、18を片側ではなく両側に伸ばして、移動の安定性を高めることもできる。
【0053】
又、図13に示す第3実施形態のように、水中などで使用することを前提として、防水性や気密性を高めた微小球対称放射線源を提供することができる。図13(A)〜(C)に示す実施例では、放射線源吸収体部品の穴及び穴を塞ぐ棒状物質のどちらかあるいは両者の径を一定ではなく部分的に変化させることで、接着剤やOリングなどシール材24の効果を高めることができる。
【0054】
図13(D)に示す実施例では、放射線源の外側を、放射線源を挿入する液体と類似する物質(例えば、水中に挿入する場合には、水と組成や密度が類似する水等価プラスチックなど)を主たる材質とする防水カプセル19で密封することにより防水性を維持するようにしている。ここで、防水カプセル19は、放射線源に被せ組み立てる構造を有し、組み立ての接合面は防水性を維持するようになっており、棒状物質16、18が通る部分には防水性を維持するためのシール材が備わっているものとすることができる。
【0055】
この第3実施形態は、図14に示すように、(A)防水性のある線源挿入穴32から水円筒ファントム30中に挿入したり、(B)例えばプラスチック製の円筒ファントム34中の線源挿入用穴36に組み込んで、性能評価・校正用の放射線源とすることができる。
【0056】
又、図15に示す第4実施形態のように、微小球対称放射線源10の一部あるいは複数箇所に製品番号及び微小球対称放射線源に関わる特徴(向きを表す目印40など)などを刻印することができる。
【0057】
又、図16に示す第5実施形態のように、半球状の2つの放射線源吸収体14A、14Bの例えば一方の中央部14Cに放射線源を収容しても良い。
【0058】
以下、図17に断面を示す微小球対象放射線源の実施例について説明する。
【0059】
放射線源吸収体14を構成する部品の材料としは、例えば、ベアリング球を製造する技術を用いて高い真円度で加工された金属球などを用いることができる。材料として、ここではアルミニウムを採用した。その材料の表面から中心を通る線上に穴を開ける。ここでは、直径3.0mmのアルミニウム製球に、直径0.8mmの穴を、その中央部まで開けた。
【0060】
穴を塞ぐ棒状物質16としては、ここでは、直径0.8mmのアルミニウム製棒状材質の端面に、直径0.6mm、深さ0.6mmで凹状形状に加工したものを用いた。
【0061】
放射線源中央部12の材質としては、モレキュラーシーブやイオン交換樹脂など、放射性同位元素あるいはそれを含む化合物あるいは溶液を吸着あるいは吸収あるいは付着できる物質、その他の物質が考えられ、従来技術で実現される。なお、固体状であれば、球形状に加工したものが好ましい。一方、球形状ではなくても、あるいは、自ら形状を保たない物質でも、前記棒状物質の凹状形状加工部に嵌め込むことができる。ここでは、直径約0.6mmのモレキュラーシーブを用いた。
【0062】
放射線源中央部12に含める放射性同位元素としては、陽電子放出核種であるフッ素18、ナトリウム22、ガリウム(ゲルマニウム)68、その他の陽電子放出放射性同位元素が考えられる。ここで、核種によって放出される陽電子の最大エネルギーが異なるため、核種に応じて放射線源吸収体14の厚さを決める必要がある。ここでは、フッ素18を前記モレキュラーシーブ表面に吸着させる場合を想定し、シミュレーション計算に基づき、放射線源吸収体14の外径3.0mmと穴の径が決められた。
【0063】
前記穴を塞ぐ棒状物質16は、放射線源吸収体14の外側まで延長させることができる。このようにしても、後述のシミュレーション計算で示されるように、棒状物質16の方向に近接する角度領域を除く角度領域において近似的に一様性を保つことができる。棒状物質16に、放射線源吸収体14の外側且つ放射線源吸収体14寄りに切り欠きを設けることで、棒状物質16の先端側に許容値以上の力が作用した場合、切り欠き部で切断することにより、放射線源吸収体14から棒状物質16全体が抜けたり、放射線源吸収体14を破損したりすることを防ぐことができる。
【0064】
以下、本発明が提供する微小球対称放射線源が、必要とする性質を達成できることをシミュレーション計算により示す。
【0065】
図18には、シミュレーション計算で仮定した4種類の微小な放射線源を示す。(A)円筒タイプは、従来技術の延長にあると考えられる球対称性の低い放射線源の比較例である。(B)球タイプB及び(C)球タイプC及び(D)球タイプDは、本発明で提供される微小球対称放射線源の一例である。球タイプBは、放射線源吸収体構成部品の加工を工夫することにより、加工・製作を可能としつつ放射線源全体の球対称性を高めたタイプである。球タイプCは、球タイプBに比べると加工が容易であるが、放射線源全体の球対称性が劣ると考えられるタイプである。球タイプDは、棒状物質16を外側に付すことにより、線源の利用や管理を容易にしたタイプであり、棒状物質の方向に近接する角度領域以外において近似的な球対称性を達成することを目指したタイプである。いずれの場合も、放射線源吸収体14の材質はアルミニウム、部品組み合わせに必要なすり合わせ箇所の隙間は10μm以内、放射線源中央部12には直径1.0mmのモレキュラーシーブを仮定している。
【0066】
角度分布を計算するにあたり、図19に示すよう角度αを定義し、放出される消滅放射線の強度分布を、cos(α)の関数として、消滅放射線の吸収や散乱が無いと仮定した完全に球対称な強度分布の場合を100%としてプロットすることにより角度分布を調べた。
【0067】
図20には図18(A)に示した円筒タイプの場合、図21には図18(B)に示した球タイプBの場合、図22には図18(C)に示した球タイプCの場合、図23には図18(D)に示した球タイプDの場合における、微小球対称放射線源から放出される消滅放射線(非散乱線成分)の角度分布を示す。誤差棒は、シミュレーション計算の統計誤差(標準偏差)である。
【0068】
比較例の円筒タイプ(図20)の場合には、角度分布の偏差が最大1%弱になっており、必要とされる近似的な球対称性が得られていないことがわかる。これに対し、実施例の球タイプB(図21)の場合には、シミュレーション計算による統計的変動の影響を除き、ほぼ一様な角度分布が得られている。又、実施例の球タイプC(図22)でも、およそ0.3%以内には収まっている。又、実施例の球タイプD(図23)の場合には、棒状物質を含む一部の角度領域を除き、偏差は0.3%以内に収まっている。なお、放出される消滅放射線の中の散乱線成分の角度分布については、球タイプDの場合でさえ、全ての角度領域において一様な角度分布が得られた。
【0069】
なお、放射線源吸収体構成部品の組み立てに必要な隙間の影響は、今回のシミュレーション結果における統計誤差に比べて十分に小さく無視できる程度であった。また、放射線源中央部の材質や形状などを現実に想定される程度に変更しても、本発明を妨げる結果は得られなかった。
【0070】
陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置の点入力(微小球対称放射線源)に対する絶対感度、定量測定精度、絶対点広がり関数の評価・校正に利用することができる。陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置としては、陽電子放出断層撮像装置(PET装置)、同時計測可能な単一光子放出断層撮像装置(SPECT装置あるいはSPET装置)、放射能測定用ウェル型計測装置、その他、陽電子放出放射性同位元素の放射能あるいは空間的分布を測定する装置が考えられる。又、単一の装置を評価・校正するだけではなく、複数・多種装置の相互比較にも利用することができる。又、使用する陽電子放出放射性同位元素として半減期の長い核種を用いることにより、多施設の装置の評価・校正、あるいは、装置の長期的安定性の評価・校正、あるいは、国家標準に対して校正された線源による評価・校正に利用可能である。又、陽電子放出放射性同位元素放射能・放射能分布計測装置あるいはその評価・校正に関連する装置・器具の構成あるいは機能の一部として微小球対称放射線源などを備えることにより、その装置の有用性・利便性・整備性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】理想的な球対称微小放射線源の断面図
【図2】本発明の第1実施形態の構成を示す断面図
【図3】前記実施形態で用いる棒状物質の先端形状の例を示す断面図
【図4】図3の棒状物質が用いられた放射線源を示す断面図
【図5】棒状物質の先端形状の他の例を示す断面図
【図6】図5の棒状物質が用いられた放射線源を示す断面図
【図7】棒状物質の側面形状の例を示す断面図
【図8】図7の棒状物質が用いられた放射線源を示す断面図
【図9】本発明の第2実施形態の構成を示す断面図
【図10】第2実施形態の使用例を示す図
【図11】第2実施形態の他の使用例を示す図
【図12】図11の使用例で得られる放射能分布画像の一例を示す図
【図13】本発明の第3実施形態の構成を示す断面図
【図14】第3実施形態の使用例を示す斜視図
【図15】本発明の第4実施形態の構成を示す断面図
【図16】本発明の第5実施形態の構成を示す断面図
【図17】放射線源の実施例を示す断面図
【図18】シミュレーションで仮定した放射線源のタイプを示す断面図
【図19】シミュレーションにおける角度の定義を示す図
【図20】円筒タイプの比較例で放出された消滅放射線の角度分布と統計誤差(標準偏差)を示す図
【図21】同じく球タイプBの実施例の場合を示す図
【図22】同じく球タイプCの実施例の場合を示す図
【図23】同じく球タイプDの実施例の場合を示す図
【符号の説明】
【0072】
10…放射線源
12、13…放射線源中央部
14、14A、14B…放射線源吸収体
16、18…棒状物質
19…防水カプセル
24…シール材
30…水円筒ファントム
32…線源挿入穴
34…円筒ファントム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽電子放出放射性同位元素を含む放射線源中央部分と、外形が球形状で放射線源中央部分を覆う放射線源吸収体とから構成され、
放射線源吸収体は放射線源中央部分から放出された陽電子を吸収できる厚さと構造を有し、
放射線源吸収体の外側に放出される消滅放射線の角度分布が全角度領域あるいは一部を除く角度領域において近似的に球対称性であることを特徴とする陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項2】
放射線源吸収体が、放射線源中央部を挿入するための穴が中心部まで開けられ、その底面形状が平面あるいは球内面の形状であり、その穴を開口側から棒状物質を挿入して塞いだ構造を持つことを特徴とする請求項1に記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項3】
放射線源吸収体が、放射線源中央部を挿入するための穴が貫通され、その穴を両開口側から棒状物質を挿入して塞いだ構造を持つことを特徴とする請求項1に記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項4】
放射線源吸収体材料に開けた穴を塞ぐ棒状物質が、放射線源中央部側端面を球内面形状あるいはそれ以外の凹状形状に加工され、その加工された部分に放射線源中央部が位置することを特徴とする請求項2又は3に記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項5】
前記凹状形状に加工された部分の外径が、穴を塞ぐ棒状物質のそこに近接する部分の外径よりも細く加工されていることを特徴とする請求項4に記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項6】
放射線源吸収体に開けた穴を塞ぐ棒状物質の側面の所定位置に凹状形状加工部が設けられ、その加工部に放射線源中央部が位置することを特徴とする請求項2又は3に記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項7】
放射線源吸収体材料に開けた穴を塞ぐ棒状物質が、放射線源吸収体の外形面よりも外側まで棒状に延長されていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項8】
放射線源吸収体材料に開けた穴を塞ぐ棒状物質とは別の棒状物質が、放射線源吸収体あるいは穴を塞ぐ棒状物質に固定されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項9】
陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置の感度特性評価及び校正に用いるための請求項1乃至8のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項10】
陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置あるいはそれに付帯する装置・器具に自動あるいは手動で装備あるいは装着することにより、装置感度特性評価及び校正に用いるための請求項1乃至9のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項11】
陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置において測定対象の測定と同時に用いるための請求項1乃至10のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項12】
陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置あるいはそれに付帯する装置に、陽電子放出放射性同位元素放射線源を用いた性能評価・校正のためのデータ処理システムが組み込まれていることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項13】
放射能値が国家標準に対して校正され、陽電子放出放射性同位元素の放射能・放射能分布を計測する装置の評価及び校正に用いるための請求項1乃至12のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。
【請求項14】
防水性があり液体中に挿入しながら使用することが可能な請求項1乃至13のいずれかに記載の陽電子放出放射性同位元素放射線源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−91391(P2010−91391A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261033(P2008−261033)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(592240622)社団法人日本アイソトープ協会 (1)
【Fターム(参考)】