階段昇降機
【課題】特に複雑な機構を用いることなく、傾斜状態から水平状態、またはその逆の状態に移行する際の揺動を抑え、安定した状態遷移を可能にする階段昇降機を提供する。
【解決手段】階段昇降機1に用いられるクローラベルト34の軌道を画定する軌道フレーム30を、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGと中間部30Cとで構成し、前部接地ガイド部30FG並びに後部接地ガイド部30BGの接地長は、連続する二つの階段の各段鼻を結ぶ最短長Lsより大であり、中間部30Cは、側面視三角形状の屈曲部であって、当該屈曲部の接地面への投影長Lpが、上記最短長Lsより小となるように構成する。
【解決手段】階段昇降機1に用いられるクローラベルト34の軌道を画定する軌道フレーム30を、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGと中間部30Cとで構成し、前部接地ガイド部30FG並びに後部接地ガイド部30BGの接地長は、連続する二つの階段の各段鼻を結ぶ最短長Lsより大であり、中間部30Cは、側面視三角形状の屈曲部であって、当該屈曲部の接地面への投影長Lpが、上記最短長Lsより小となるように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自走式の階段昇降機に関するものであって、自足歩行が困難な者が階段昇降する際に特に好適な階段昇降機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来このような階段昇降機(以後、必要に応じて機体ともいう。)としては、例えば下記特許文献1に記載の車椅子用の階段昇降運搬車100が知られている。この従来技術を図1を用いて説明する(同図(a)は平地移動状態、(b)は階段昇降状態、(c)は、階段の「昇り終わり」または「降り始め」の状態を示す側面図である)。
【0003】
この階段昇降運搬車100の主要構成は、車椅子を搭載するフロア(荷台)104を備えた車椅子搭載部101とクローラ103を備えたクローラ駆動部102からなり、車椅子搭載部101の一端部がクローラ駆動部102に対して回動自在に枢支されている。そして、駆動端が車椅子搭載部101を支持すると共に固定端がクローラ駆動部102で支持された伸縮シリンダ108の伸縮動作によって、クローラ駆動部102に対して車椅子搭載部101を所定の範囲内で傾斜自在な構成となっている。
【0004】
また、クローラ駆動部102におけるクローラ103の接地する面側にある軌道フレームの一部は、2つのフレーム(前部そり部138、後部そり部139)を進行方向に対して前後に連結した構造を有しており、これらフレームの連結軸Oを屈曲点として、接地面とは反対の側(荷台側であって、接地面とは離間する方向)に「へ」の字状に屈曲自在となっている。
【0005】
特許文献1に記載された車椅子用の階段昇降運搬車100によれば、図1(c)に示す様に、例えば運搬車100の階段上昇に伴い階段の最上段の段鼻にさしかかって、走行状態が傾斜状態から水平状態に向きを変える場合に、機体が大きく傾動せずに円滑な走行姿勢の変更をなすべく、後部そり部139に駆動端部を有する伸縮シリンダ107を収縮させて、階段の傾斜面から上階のフロアの水平面(以後、フロア面とも言う。)に沿って後部そり部139を屈曲させている。そして、これに沿ってクローラ103の接地面が屈曲するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−129541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の階段昇降運搬車100において階段最上段の段鼻での軌道フレームの揺動を抑えるためには、屈曲点Oが階段最上段の段鼻の位置に到達するまで前部そり部138と後部そり部139とは屈曲の無い直線状の軌道フレームの状態を維持し、屈曲点Oが最上段の段鼻の位置に到達した際に伸縮シリンダ107を収縮させて屈曲動作に移行するという動作態様となる。
【0008】
そして、このような動作態様により、例えば傾斜状態から水平状態への移行(階段上昇時)においては、後部そり部139の先端が階段最上段の段鼻を越えて連結軸(屈曲点)Oが最上段の段鼻の位置にくるまでの間に、後部そり部139は、フロア面、傾斜面の何れにも接地しない状態が存在する。同様にフロア面から階段の傾斜面への移動(階段下降)時には、前部そり部138がフロア、傾斜面の何れにも接しない状態が存在する。
【0009】
この様に軌道フレームの一部が非接地となる階段最上段において、階段上昇時においては前部そり部138によって、階段下降時には後部そり部139によって、それぞれ機体を傾斜面または水平面上で確実に支持することが求められる。
【0010】
したがって、クローラ駆動部の前部そり部138の長さは、階段上において搭乗者が着座した状態の車椅子を含む機体の合成重量を支持する上で最低限必要となる、連続する2段の階段の各段鼻を結ぶ最短長(以後、階段ピッチと言う。)以上の長さが必要となる。
【0011】
同様に後部そり部139も、機体の合成重量を、階段の最上段に続くフロア面上で支持できるだけの長さが求められる。この際、不慮の外乱の発生によっても機体の合成重心の位置が階段上にある前部そり部138側に移動することを回避できるだけの十分なマージンを持つ長さが必要であり、特許文献1では、前部そり部138と同程度の長さとされている。
【0012】
このように、特許文献1における従来の階段昇降運搬車においては、傾斜状態から水平状態又はその逆の状態への円滑な移行を行うために前部そり部138、後部そり部139に階段ピッチ以上の所要の長さが求められる。
【0013】
一方、前部そり部138と後部そり部139とによって対応できる屈曲角度(つまりは、階段昇降運搬車100が円滑な状態変化に対応できる階段の傾斜角度)は、クローラ駆動部の骨格を成す軌道フレームの高さ(接地側のフレームと、対向する非接地側のフレーム間の距離)で制限を受ける。軌道フレームの高さを大きくとることができれば、対応可能な傾斜角度も拡がるが、前部そり部138、後部そり部139に階段ピッチ以上という所要の長さが必要とされることから、軌道フレームの高さも相応する高さと成らざるを得ず、実用上求められる傾斜角度を有する階段に対応させるためには、機体の大型化が避けられない。
【0014】
本願発明は、上記の課題に鑑みて成されたもので、その目的は、階段昇降に伴う機体の傾斜状態と水平状態との間における姿勢の移行動作時において、より簡単な構成で機体の揺動を抑えた円滑な移行動作を可能にすると共に、機体の小型化を可能にすることで旋回性能を確保する実用的な階段昇降機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の階段昇降機は、連続する2段の段鼻を結ぶ最短長がLsである階段を昇降する階段昇降機であって、クローラベルトと、当該クローラベルトの軌道を画定する軌道フレームと、をそれぞれ左右一対備え、当該軌道フレームに沿って前記クローラベルトを駆動するクローラ駆動部と、当該クローラ駆動部によって搬送される搭載部と、を備え、前記軌道フレームは、前部接地ガイド部と中間部と後部接地ガイド部とを有し、前記前部接地ガイド部並びに前記後部接地ガイド部の接地長は、前記最短長Lsより大であり、前記中間部は、側面視三角形状の屈曲部からなり、当該屈曲部の接地面への投影長が、前記最短長Lsより小であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に記載の階段昇降機は、請求項1に記載の階段昇降機において、前記側面視三角形状の屈曲部における前記投影長を底辺とした時になす前記三角形の底角である前記後部接地ガイド部側の底角αと前記前部接地ガイド部側の底角βは、傾斜角度γを有する前記階段に対して以下の関係式を満たすことを特徴とする。
γ−α≦β<90°−α (但し、α≦γ)
【0017】
また、請求項3に記載の階段昇降機は、請求項2に記載の階段昇降機において、前記屈曲部が前記階段の最上段の段鼻に位置することを検出する検出手段と、前記軌道フレームから繰り出して当該軌道フレームの前記後部接地ガイド部を支持する後部補助輪と、前記検出手段による検出信号に応じて、前記後部補助輪を繰り出して前記軌道フレームを傾斜せしめる機体傾斜手段と、を備えた。
【0018】
また、請求項4に記載の階段昇降機は、請求項3に記載の階段昇降機において、前記搭載部は、車椅子を載置する架台を有し、前記クローラ駆動部は、所定の曲率を有するスライドレールを備えた架台ベースであって、前記架台を当該スライドレール上にスライド自在に連結する前記架台ベースを有し、前記架台の水平からの傾斜状態を検出する傾斜検出手段と、検出した前記架台の傾斜状態に応じて、前記架台をスライドさせることにより、前記架台の水平状態を維持する調整手段と、を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の階段昇降機。
【0019】
また、請求項5に記載の階段昇降機は、請求項4に記載の階段昇降機において、前記クローラ駆動部は、前記架台ベースを前後方向に移動自在に支持する架台フレームを有し、前記機体傾斜手段は、前記後部補助輪の繰り出しに応じて前記架台ベースを後方に移動せしめる。
【0020】
さらに、請求項6に記載の階段昇降機は、請求項5に記載の階段昇降機において、前記側面視三角形状の屈曲部における前記底角αをなす斜辺の長さは40mm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の階段昇降機によれば、クローラベルトの軌道を担う軌道フレームは前部接地ガイド部と後部接地ガイド部と中間部とを有し、前部接地ガイド部と後部接地ガイド部の接地長を昇降対象となる階段の連続する2段の段鼻を結ぶ最短長(階段ピッチ)Lsより大とすると共に、側面視三角形状の屈曲部である中間部の接地面への投影長をLsより小となるように構成した。この様に構成したことにより、中間部には最上段の階段の段鼻のみが食い込むことになるため、水平状態から傾斜状態へ、またはその逆の状態に機体の姿勢が変遷するに際しては、最上段の段鼻との中間部の接触部と、最上段の階段に続くフロア面と側面視三角形状の中間部における後方端部との接触部と、最上段から一段下の階段の段鼻と前部接地ガイド部との接触部と、の内のいずれか2点により、常に機体が支持された状態を確保できることになり、揺動を抑えた安定した状態遷移を行うことが可能となる。しかも、階段上での常態走行においては、中間部が関与することがなく、階段昇降中における走行姿勢への中間部による影響を受けることがない。この様に、本発明によれば、状態遷移時を含め、常に安定した階段昇降を行うことができる。
【0022】
また、従来のように、軌道フレームそのものを状態遷移の都度機械的に屈曲させるという大掛かりな機構を用いる必要がなく、従来技術と比較して、全体として小型にすることが可能となり、特に奥行きが狭い階段の踊り場等において、旋回がし易くなり好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術である階段昇降運搬車の側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るクローラ駆動部3の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の車椅子搭載時の側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の斜視図である。
【図6】図4における後部ホイール部と架台ベースとを連携する機構を示す図である。
【図7】図4の階段昇降機において、後部フレームを傾斜させた状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の階段昇降状態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における軌道フレーム30の外形を示す側面図である。
【図10】本発明の実施形態における階段昇降機1の階段走行(下降)時の軌道フレーム30の状態を示す図である。
【図11】本発明の実施形態における階段昇降機1の後部補助輪を繰り出した際の側面図である。
【図12】本発明の実施形態における屈曲部を検知するためのアームレバーと検出スイッチの取付例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態における搭載重量に対する合成重心位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、「前後左右上下」という相対的な方向を示す用語は、特に断りが無い限り、本願発明の階段昇降機に車椅子が載置された状態で搭乗者が着座して正面を向いた状態を基準にした時に定まる方向を示すものとする。つまり、以下の説明における「前」とは機体に着座した搭乗者の正面方向を指し、「後」とは同搭乗者の背面方向を指し、「左」とは同搭乗者の左手方向を指し、「右」とは同搭乗者の右手方向を指すものである。同様に、「上」は同搭乗者の頭頂部の方向を指し、「下」は同搭乗者の足元の方向を指す。
【0025】
各構成部について図2乃至図6を参照しながら以下に説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る階段昇降機1の斜視図であり、図3は、クローラ駆動部3を示す斜視図である。また、図4は、図2において車椅子Kを載置した状態での階段昇降機1の側面図であり、図5(a)は階段昇降機1を左上前方からみた斜視図、図5(b)は右下後方から見た斜視図である。また、図6は、図4において後部ホイールBWと架台ベース44とを連係する機構を示す側面図である。
【0026】
本実施形態における階段昇降機1の主要構成部は、搭乗部2と、クローラ駆動部3とから成り、搭乗部2とクローラ駆動部3とは、クローラ駆動部3の左右の軌道フレーム30,30を繋ぐ前後2本のクロスパイプ(連結棒)にそれぞれ設けられた支持フレーム45,45で支持された架台フレーム4に取り付けられた架台ベース44と、車椅子Kを搭載するための架台23とを、レール24,24、ハンドルスライダー27を介してリンクバーLBにより連結することで一体化された構造となっている。
以下、各構成部について説明する。
【0027】
搭乗部2は、車椅子上部固定フレーム21と、車椅子下部固定フレーム22と、架台23と、左右一対のレール24,24と、この左右一対のレール24,24に固着されるハンドルフォーク25b,25bと把持部25aとを備えたハンドル25と、階段昇降機1の動作を統合的に制御するコントローラ26と、クローラ駆動部3に対する搭乗部2の傾斜状態を変える伸縮シリンダCY3とからなる。なお、ハンドル25並びにコントローラ26は、本発明の階段昇降機1を操作する操作者(搭乗者の補助者)が主として使用するために設けられている。
【0028】
車椅子上部固定フレーム21は、図2において21a,21b,21cの符号が付された三つのフレームが連結されたU字状のフレーム構造を有しており、このU字状フレームの開口部(フレーム21bと対向する辺の側)が、搭載される車椅子Kに向かう様、フレーム21bがハンドルフォーク25b,25bにジョイントパイプ21P,21Pを介して固着されている。
なお、ジョイントパイプ21P,21Pは、車椅子Kが車椅子上部固定フレーム21内に収納された際に、ジョイントパイプ21P,21Pが支持するU字状フレームの左右のフレーム21a,21cが、車椅子Kの左右のアームレストを固定することが可能な高さ位置となるように、ハンドルフォーク25b,25bに沿って上下方向にスライドさせることによってその高さを調整可能であり、調整された位置で図示しないネジ等によりハンドルフォーク25b,25bに固定される。
【0029】
また、この車椅子上部固定フレーム21の左右のフレーム21a,21cは、車椅子のアームレストを固定するための固定用プレート21f,21fを備えており、斯かる固定用プレート21f,21fに設けられた長孔にベルトを通して車椅子Kの左右のアームレストに巻きつけて車椅子のアームレストを左右のフレーム21a,21bにそれぞれ締着することができる。
【0030】
車椅子下部固定フレーム22は、パンタグラフジャッキ22aと、このパンタグラフジャッキ22aをジャッキボルトの先端が前側に向くように固定して載置するための下部ブラケット22bと、その一端が下部ブラケット22bの後端にある回動軸22eで回動自在に軸支された上部ブラケット22cと、この上部ブラケット22cの上面の前端において板ばねを二枚重ねて形成された弾性プレートの中間部を溶接等により固着すると共に上部ブラケット22cの左右の端部から所定の傾斜角度を持って左右斜め下方向に延在するように配置された固定用プレート22dからなる。この固定用プレート22dは、車椅子Kの骨格の一部をなす左右の下部パイプフレームをそれぞれ二枚の板ばねの間に通すことにより、かかる2枚の板ばねによる付勢力で車椅子のパイプフレームを挾着する構成となっている(図5(a)も参照のこと)。
【0031】
また、上部ブラケット22cの下面(パンタグラフジャッキ22aと向き合う面)側には上部ブラケット22cを構成する左右の側面を連結する図示しない連結パイプが設けられており、この連結パイプを介して上部ブラケット22cがパンタグラフジャッキ22aのジャッキアップ作用部と連結されている。これにより、パンタグラフジャッキ22aがジャッキボルトの回動によりジャッキアップされると、このジャッキアップ量に応じた傾斜角度で、上部ブラケット22cは下部ブラケット22bに対して回動軸22eを支点に傾斜され、ジャッキアップ量が変わらない限りその状態を維持することになる。つまり、上部ブラケット22c上に載置される車椅子Kもこのジャッキアップ量に応じた傾斜角で傾斜した状態を維持するのである。
【0032】
架台23は、車椅子下部固定フレーム22を載置する平坦部23aと、後述する架台ベース44と当接する曲面部23bと、平坦部23aの水平からの傾斜角度を検出する傾斜角度センサ23cとを備え、平坦部23aにおいて、車椅子下部固定フレーム22における下部ブラケット22bが図示しないボルト等によって固定されている。
【0033】
また、架台23の左右の側面の後端部においてレール24,24が固着されており、これにより車椅子上部固定フレーム21、下部固定フレーム22、架台23、レール24、ハンドル25とが一体化されている。
【0034】
また、左右一対のレール24,24のレール間を跨ぐ様にハンドルスライダー27が配されており、斯かるハンドルスライダー27の前面は、伸縮シリンダCY3の伸縮シャフトの駆動端によって支持されている。ハンドルスライダー27は、伸縮シリンダCY3の収縮動作に応じてレール24,24のレールに沿って上昇し、伸縮シリンダCY3の伸長動作に応じて下降する。斯かる伸縮シリンダCY3の伸縮動作は、架台23に搭載される車椅子Kの水平に対する傾斜状態を所定の角度で一定に維持するために行われるものであるが、この傾斜維持のための制御に関わる説明は後述する。
【0035】
コントローラ26は、ハンドル25の背面であって、伸縮シリンダCY3と干渉しない位置(本実施形態では、操作者が操作し易い様に、よりハンドル25の把持部に近い位置)に配されており、階段昇降機1の動作電源スイッチや、動作モードの切換えスイッチ等の操作ボタンを備え、操作ボタンを介して入力される指示情報に応じて後述する階段昇降に伴う傾斜制御を含む各動作部の統合的な制御に必要な制御信号を対応する階段昇降機1の各動作部に出力するものである。
以上により搭乗部2が構成されている。
【0036】
次に、クローラ駆動部3の構成について説明する。
クローラ駆動部3は、クローラベルト34の軌道を画定する左右一対の軌道フレーム30,30を有し、各軌道フレーム30,30は、前部フレーム30Fと後部フレーム30Bとで2分割されたフレーム構造となっている。
【0037】
左右一対の前部フレーム30F,30Fは、アルミ等の金属からなる複数のクロスパイプを介して互いに連結されており、斯かるクロスパイプを利用して、駆動モータと減速機とを一体化した減速機ケースDMや、架台フレーム4を支持する支持フレーム45、そして、後部フレーム30B,30Bの傾斜制御を成すための第1伸縮シリンダCY1、また、左右に配置された後部ホイールBW,BWをその収納位置と繰り出し位置との間で位置制御するための第2伸縮シリンダCY2,CY2等が、それぞれ固定的に配置されている。なお、第2伸縮シリンダCY2,CY2は、架台フレーム4を挟む様にその左右の両サイドに配置される一対の伸縮シリンダである。
【0038】
減速機ケース(駆動モータ)DMの出力軸である前部駆動軸31の左右の両端には、それぞれ駆動輪32,32が取付られている。さらに、この前部駆動軸31の左右方向の中央部には、補助輪としての前部ホイールFWを支持するブラケットBFが、配されている。このブラケットBFは、前部ホイールFWを設置する設置面BF1と、この設置面BF1の左右の両端で立設された側面部BF2,BF2とからなり、この両サイドの側面部BF2,BF2にそれぞれに設けられた貫通穴を介して前部駆動軸31に嵌通されている。なお、この側面部BF2には、後述する後部連結軸33Rにその一端が連結されたシャフトSHTの他端部が、リンク部材を介して連結されている(図5(a)も参照のこと)。
【0039】
一方、前部フレーム30F,30Fは、その後端部において、左右フレーム間を連結するクロスパイプである中央部連結軸33Cを備えている(図5(b)も参照のこと)。この中央部連結軸33Cは左右の前部フレーム30F,30Fをそれぞれ貫通するように配されており、その先端に左右一対の中央部遊動輪35C、35Cが取り付けられている。
【0040】
また、中央部連結軸33Cには、前部フレーム30F,30Fのそれぞれの内側(機体内部)で、図6に示す様に、後部ホイールBWをその一端で支持するための「く」の字状のホイールリンクLWが、その「く」の字の屈曲点に設けられた貫通穴を介して嵌通されている。このホイールリンクLWは、同じ形状を有する一組のリンク部材からなり、この一組のリンク部材により一つの後部ホイールBWを挾持する構成となっている。また、このホイールリンクLWは、左右それぞれに一組ずつ備えられ、これにより左右一つずつの後部ホイールBWを挾持する。そして、ホイールリンクLW,LWにおける他端部(後部ホイールBW,BWの取付端に対向する端部)は、第2伸縮シリンダCY2,CY2の可動伸縮軸の駆動端とそれぞれ連結されている。これによって、ホイールリンクLW,LWは、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸縮動作に応じて中央部連結軸33C、すなわち、「く」の字状ホイールリンクLWの屈曲点を中心に回動自在となっている。
【0041】
なお、前部フレーム30F,30Fは、その接地側において、クローラベルト34のいわゆる接地ガイドフレームとして機能する前部接地ガイド部30FGと、接地面に対して上方(接地面から離れる方向)に所定の傾斜角度をもって窪み、後述する走行状態の変遷時以外の常態走行(平地走行または階段昇降)時においては走行面(平地または階段の段鼻と段鼻とを結ぶ仮想の傾斜面)とは接しない側面視三角形状の屈曲部30Cとを有している。この屈曲部30Cは、図4に示すように、軌道フレーム30の全長に対する略中央部に位置する様に設けられている。この屈曲部30Cについては、後ほど詳述する。
【0042】
一方、後部フレーム30B,30Bには、その中央部において、左右のフレーム間を連結するクロスパイプである後部連結軸33Rが配されている(図5(b)も参照のこと)。そして、この後部連結軸33Rには、上述した、一端を前部フレーム30F,30Fのクロスパイプに固着された第1伸縮シリンダCY1の伸縮可動軸の先端が、リンク部材を介して連結されている。
【0043】
また、後部連結軸33Rには、上述したシャフトSHTの一端がリンク部材を介して連結されており、これにより、第1伸縮シリンダCY1の伸縮動作に連動して、前部ホイールFWの収納位置とクローラ外部への繰り出し位置との間での移行動作を行うことが可能となっている。また、後部フレーム30B,30Bの後端部にはそれぞれ遊貫軸(支軸)33B,33Bが設けられ、この遊貫軸に後部遊動輪35B,35Bが取り付けられている。
【0044】
以上の構成によって、前後2分割されたフレーム構造をなす前部フレーム30F,30Fと後部フレーム30B,30Bとがその相対的な傾斜状態を伸縮シリンダCY1を介して変えることができる様に一体化されている。これによって、後部フレーム30B,30Bは、第1伸縮シリンダCY1の収縮制御(伸縮可動軸の縮小方向への制御)により、例えば図7に示す様に前部フレーム30Fに対してソリ状に傾斜され、階段上昇時においてクローラベルト34が最初の階段の段鼻をグリップするための傾斜ガイドフレームとして機能する一方で、階段昇降中においては、伸長制御(伸縮可動軸の伸長方向への制御)をすることにより、図4に示す様に前部フレーム30Fと平行状態(前部フレーム30Fとの間で相対的な傾斜の無い状態)とされて階段との接地長を確保するための接地ガイドフレームとしても機能する。
【0045】
なお、前部フレーム30F,30Fの前端部に設けられた左右一対の駆動輪32,32と後部フレーム30B、30Bの後端部に取り付けられた左右一対の後部遊動輪35B、35Bとの間にそれぞれクローラベルト34,34が巻装される。各クローラベルト34は、前部フレーム30Fにより、前部接地ガイド部に案内された後、屈曲部30C、中央部遊動輪35Cを介して後部フレーム30Bに案内され、後部遊動輪35Bを介して再び前部フレーム30Fに案内されることで無端駆動する構成となっている。
【0046】
また、前部フレーム30Fには、その一端が中央部連結軸33Cに回動自在に軸支されると共に、後部フレーム30B内に配されたバネ37によって後部遊動輪35b側に引っ張られることで、常に中央部遊動輪35Cの方向に付勢されている左右一対の抑えローラ36,36が設けられており、この抑えローラ36と中央部遊動輪35Cとの間にクローラベルト34をガイドすることによって、クローラベルト34には常に所望のテンションが加えられた状態とされている。これによって、後部フレーム30Bの傾斜状態によらず、クローラベルト34は常に一定のテンションで巻装された状態を維持している。
【0047】
以上の様に構成された搭乗部2とクローラ駆動部3とは、架台フレーム4と、リンクバーLBと、ベースリンクLA、ホイールリンクLWによって次の様に連結されている。
【0048】
架台フレーム4は、車体の長手方向(前後方向)に平行に配された2本のレールベース41,41と、この2本のレールベースを繋ぐフロント用支持ブラケット42と、リア用支持ブラケット43と、上述の架台23と当接する架台ベース44と、からなる。
【0049】
架台ベース44は、レールベース41,41と当接して、後述する後部ホイールBW,BWの繰り出し動作に連動してこのレールベース41,41上をスライド移動するベース平坦部44aと、架台23の曲面部23bと当接し、当該曲面部23bの曲率と同じ曲率を有して、後述する機体の傾斜に応じて架台23がスライド移動するためのガイド部となるベース曲面部44bと、架台ベース44の左右の側面の前端部に設けられ、架台23のスライド移動を補助するためのローラ44c,44cと、架台ベース44の後端部の側面においてリンクバーLBの一端と連結するベースブラケット44dと、ベース平坦部44aの左右両サイドの側面を嵌通して設けられているロックパイプの端部(以後、ロックパイプ端部と言う。)44e,44eと、からなる(図3も参照のこと)。
【0050】
なお、ベースブラケット44dは、リンクバーLBの一の端部に設けられた回転軸を両側面で支持する構成を有し、これによりリンクバーLBの一の端部を回動自在に支持している。そして、このリンクバーLBの他端は、上述したハンドルスライダー27の背面においてベースブラケット44dと同様のベースブラケットを介して回動自在に支持されている。
【0051】
この様に構成することで、例えば、伸縮シリンダCY3(以後、第3伸縮シリンダCY3と称する。)の伸縮シャフトの伸縮状態に応じて、架台ベース44に対する架台23の相対的位置が、ベース曲面部44bの曲面に沿って変化する。
【0052】
つまり、リンクバーLBによって架台ベース44とハンドルスライダー27とが連結された状態で第3伸縮シリンダCY3の伸縮シャフトが伸長すると、ハンドルスライダー27がレール24,24に沿って架台23の方向に向かって移動しようとするが、架台ベース44がクローラ駆動部3に対して固定され、またリンクバーLBの一端が、この固定された架台ベース44上にあるベースブラケット44dと連結されていることから、ハンドルスライダー27は、リンクバーLBの長さ以上の移動が妨げられることになり、斯かるリンクバーLBは、ハンドルスライダー27の移動をロックする部材として機能することになる。したがって、第3伸縮シリンダCY3の伸長動作によってハンドルスライダー27に加えられる力は、レール24を可動体として、架台23を架台ベース44のベース曲面部44bに沿ってベースブラケット44d側に引き寄せる力として働くことになる。
【0053】
同様に、第3伸縮シリンダCY3の縮小動作においても、リンクバーLBの一端が、クローラ駆動部3に固定された架台ベース44上にあるベースブラケット44dと連結されていることから、リンクバーLBの長さ以上の移動が妨げられることになり、リンクバーLBがハンドルスライダー27の移動をロックする部材として機能する。したがって、第3伸縮シリンダCY3の縮小動作によってハンドルスライダー27に加えられる力は、レール24を可動体として、ベース曲面部44bに沿って架台23をベースブラケット44dから遠ざける力として働く(図2における架台23と架台ベース44の位置関係を参照のこと)。
【0054】
この際、第3伸縮シリンダCY3の伸縮量並びに架台ベース44のベース曲面部44bの曲率を、クローラ駆動部3の水平に対する傾斜角度に応じたものとなるように設定することで、架台23の水平に対する傾斜角度を常に一定とすることが可能となる。
【0055】
具体的には、例えば第3伸縮シリンダCY3を最も伸長させた状態をクローラ駆動部3の水平状態、つまり、傾斜角度0度の状態に対応させ、第3伸縮シリンダCY3を最も収縮させた状態を、階段昇降機1として想定している昇降可能な階段の最大傾斜角度の状態に対応させ、これら両極端の状態においても架台23の曲面部23bが架台ベース44のベース曲面部44bから逸脱することがないことを条件に、第3伸縮シリンダCY3の伸縮可動軸の伸縮量と架台23の円周に沿った移動量とが一致するように架台ベース44のベース曲面部44b及び架台23の曲面部23bの曲率を決定するのである。
【0056】
そして、伸縮可動軸の最大伸縮量と、想定する最大傾斜角度との比をとることにより、傾斜角1度あたりの伸縮量(以後、単位伸縮量と言う。)を求めることができる。
【0057】
コントローラ26は、この単位伸縮量と、架台23の平坦部23aに設けられた傾斜角度センサ23cから得られる架台23の水平からの傾斜角度(目標値0°からの角度差となる。)とに基づいて、第3伸縮シリンダCY3に伸縮動作をなさしめるための伸縮量(角度差を0とするための制御量)を演算し、その伸縮量に応じた伸縮制御を常時行うことにより、架台23が常に水平となるように制御するのである。なお、傾斜センサ23cをクローラ駆動部3に配し、クローラ駆動部3の水平からの傾斜状態に応じてこの傾斜角度を相殺する方向に平坦部23aを駆動させて、平坦部23aが常に水平となる様に制御してもよい。要するに架台23の水平からの傾斜状態を検知し、これに基づいて架台を水平状態に制御する機構であればよい。
【0058】
このように制御することで、架台23は、クローラ駆動部3の傾斜状態に関係なく水平状態を維持できるため、斯かる架台23に搭載される車椅子Kを水平に対して常に一定の角度(この角度は、車椅子下部固定フレーム22のパンタグラフジャッキ22aを介して調整された角度であって、例えば5度である。)とすることができる。この様に、この架台23に搭載される車椅子を常に一定の角度(例えば5度)で維持しながら階段の昇降が可能になるのである。このように、常に車椅子Kが水平に対して若干後傾姿勢となるように傾斜をつけることにより、車椅子にはハンドル25側に付勢する力が働くため、車椅子Kの搭載状態が安定すると共に、車椅子の搭乗者は、階段昇降時に常に一定した角度で斜め上方向に視線を向ける姿勢となるため、階段昇降時において、転倒や転落等の心理的な不安を緩和させることが期待できる。なお、傾斜角度センサをクローラ駆動部3の傾斜状態を
【0059】
一方、架台ベース44には、ベース平坦部44aの左右両サイドの側面を嵌通したロックパイプ端部44e,44eが設けられており、かかるロックパイプ端部44e,44eは、左右にあるベースリンクLA,LAの一端でそれぞれ支持されている。そして、このベースリンクLA,LAの他端は、上述した左右のホイールリンクLW,LWにおける他端部(後部ホイールBW,BWの取付端に対向する端部)と共に、左右の対応する第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸縮可動軸の駆動端と連結されている(図6も参照のこと)。
【0060】
したがって、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸縮動作によって印加される力が、ベースリンクLAを介して架台ベース44に伝えられ、架台ベース44は、架台フレーム4上をスライド移動することになる。
【0061】
この様に構成することで、架台ベース44は、後部ホイールBWの繰り出し制御に連動して架台フレーム4、つまりは、クローラ駆動部3上の相対的位置を変えることができる。
【0062】
後部ホイールBW,BWの繰り出し制御は、後述する階段昇降に伴う機体1の状態変化時に行うものである。架台ベース44をこの後部ホイールBWの繰り出し制御に連動してその位置を変化せしめるのは、機体1の傾斜状態から水平状態、またはその逆の状態への状態変化時において車椅子K並びに搭乗者を含む搭乗部2の合成重心がクローラ駆動部3における軌道フレーム30の上述した屈曲部30C上(より正確には、側面視三角形状の屈曲部30Cの後部斜辺上)に位置するように制御するためである。
【0063】
以上の様に、本発明の実施形態における階段昇降機1は、搭乗部2とクローラ駆動部3とを架台フレーム4、ベースリンクLA、リンクバーLB、ホイールリンクLWによって一体化されている。
【0064】
次に、傾斜状態(階段上)から水平状態(踊り場上)、或いは、水平状態から傾斜状態への状態変化を円滑に行うために用いられる、軌道フレーム30における屈曲部30C、前部接地ガイド部30FG、後部接地ガイド部30BGの構成について説明する。
【0065】
なお、以後の説明では、図9(a)に示す様に、側面視三角形状の屈曲部30Cをなす各頂点に対応する端点を前側からA,B,Cとする。また、前部接地ガイド部30FGにおいて、駆動軸31から接地面方向に延びる垂線と接地面との交点をEとする。そして、斯かる交点Eと上記頂点A(屈曲部30Cの前部斜辺の始点)との長さ(線分EA)を前部接地ガイド部30FGの有効接地長とする。同様に、後部接地ガイド部30BGにおいて、後部遊動輪35Bの遊貫軸33Bから接地面方向に延びる垂線と接地面との交点をDとして、この交点Dと上記端点C(屈曲部30Cの後部斜辺の始点)との長さ(線分CD)を後部接地ガイド部30BGの有効接地長とする。なお、線分ACは、機体1を水平面上に置いた状態での屈曲部30Cの接地面への投影長Lpとなる(必要に応じて開口長Lpとも言う)。
【0066】
まず、本実施形態に示す、軌道フレーム30の接地ガイド側に屈曲部30Cを有する機体1が、階段の常態走行(傾斜状態での移動)をする際に、屈曲部30Cによる揺動の影響を受けない条件について説明する。
【0067】
階段昇降中においては、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとにより少なくとも2段の階段の段鼻で機体1が支持される状態を常に維持することができれば、屈曲部30Cが階段の仮想の傾斜面、つまりは、仮想の傾斜面をなす各階段の段鼻と接することがない。したがって、各階段の段鼻が屈曲部30Cの傾斜に沿った移動を行うことがないため、屈曲部30Cによる機体の揺動は起こらない。例えば、図8に示す様に、前部接地ガイド部30FGの線分EAと後部接地ガイド部30BGの線分CDがそれぞれ階段のピッチLs以上であれば、前部接地ガイド部30FGと、後部接地ガイド部30BGとが、それぞれ少なくとも一の階段の段鼻を必ずグリップする状態となるため、機体の前後にある、これら接地ガイド部30FG、30BGで機体1を支持した状態を維持して階段の昇降が可能となる。このように、各接地ガイド部を階段ピッチLs以上の長さに設定すれば、屈曲部30Cの開口長(線分AC)に関係すること無く、階段昇降中に屈曲部30Cが階段の段鼻に接することは無い。
【0068】
以上から、階段昇降中に揺動を起こすことの無い接地ガイドフレームとしての最低条件は、
EA≧階段ピッチLs、CD≧階段ピッチLs、
ED≧階段ピッチLsの2倍+投影長Lp
である。
但し、車椅子K並びに搭乗者K1を含む搭乗部2の合成重心からの鉛直方向が、線分EDの接地点間に存在していることが前提となる。
【0069】
次に屈曲部30Cの構成について図9を用いて説明する。なお、以下の説明で用いる図9、図10については、説明の便宜上、軌道フレーム30の外形側面のみを模式的に表わしている。
屈曲部30Cは、傾斜状態から水平状態、或いは、その逆の状態変化をできるだけ円滑に行うために設けられたものである。
【0070】
具体的には、図9(a)に示す様に、前部接地ガイド部30FGから角度β(=∠BAC;以後、前部傾斜角という。)の傾斜角度で続く前部傾斜部ABと、屈曲点Bから角度α(=∠BCA;以後、後部傾斜角と言う。)の傾斜角度で後部接地ガイド部30BGに続く後部傾斜部BCとを備えており、A,B,Cの3つの頂点からなる側面視三角形状の屈曲部30Cにおける接地面への投影長Lp(線分AC)が、階段のピッチLsよりも小となるように設定されている。また、後部傾斜角αは、例えば想定する階段の最大傾斜角度とすることができ、図9(b)に示すように、機体1の状態変化を伴う移動に応じて、後部傾斜部BCが階段の最上段の面に接すると共に屈曲部30Cの屈曲点Bが最上段の段鼻P0に位置する際に、屈曲部30Cの端点Aが最上段から一段下の階段の段鼻P1より屈曲点B側に位置し、前部接地ガイド部30FGが段鼻P1と接する状態となる様に、角度βが設定されている。
【0071】
このように構成することにより、機体1の状態変化に応じて以下の様な動作態様となる。なお、ここでは機体1が階段を下降する場合(水平状態から傾斜状態への移行)について図10を用いて説明する。
(1) 最上段の段鼻P0に前部傾斜部ABの端点Aが到達するまで、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとにより水平移動が行われる(図10(a))。
(2) 最上段の段鼻P0に前部傾斜部ABの端点Aが到来すると、以後、前部傾斜部ABが段鼻P0をグリップして移動を続ける。つまり、機体1は、前部傾斜部ABに沿って階段下降方向に向けて傾斜を始める。この際、機体1は、前部傾斜部AB上の段鼻P0との接触部と屈曲部30Cの端点Cの2点で支持される(図10(b))。
(3) 屈曲部30Cの屈曲点Bが段鼻P0の位置に到達すると、後部傾斜部BCが最上段の水平面と接触した状態になると共に、前部接地ガイド部30FGが一段下の階段の段鼻P1と接触した状態となる。これにより、機体1は、後部傾斜部BCの端点Cが段鼻P0に到達するまでの間、前部接地ガイド部30FG上の段鼻P1との接触部と、後部傾斜部BCの端点C(このケースにおいては、後部傾斜部BCと最上段の水平面との接触部)とにより支持される(図10(c))。
(4) 後部傾斜部BCの端点Cが段鼻P0を通過すると、以後、段鼻P0は後部接地ガイド部30BGによりグリップされる。前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとがいずれも階段ピッチLs以上に設定されていることから、以後、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとにより少なくとも2段の階段の段鼻がグリップされた状態を維持しながら階段を下降する(図10(d))。
【0072】
このように、機体1における傾斜状態の変化時において現れる上記(1)〜(4)のどのフェーズにおいても必ず2点以上の支点によって機体1が支持された状態が維持されるので、常に安定した状態で移行ができる。つまり、状態変化による最上段の段鼻P0を支点とする機体の揺動を抑えた円滑な移行となるのである。
【0073】
なお、上記説明においては、後部傾斜角αで規定される最大傾斜角度を有する階段の下降時での状態の移行について説明したものであるが、最大傾斜角より緩い傾斜角度の階段においては、上記(3)の態様において、図10(e)に示す様に常に端点Cと前部接地ガイド部30FGとにより機体1を支持した状態を維持しながら、(4)の前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとによる支持態様に移行する。この場合においても常に2点の支点により機体1を支持する態様に変わりが無く、揺動の無い安定した移行が可能である。
【0074】
また、上記説明においては、階段を下降する場合について説明したが、階段上昇時における最上段の段鼻での状態の移行については、上記とは逆の態様を辿るものであり、その説明は省略する。
【0075】
このように、本発明の実施形態によれば、機体1の状態変化を伴う移動に応じて屈曲点Bが階段最上段の段鼻P0に到達すると同時かそれ以前に一段下の階段の段鼻P1に前部接地ガイド部30FGが接触することになるので、この段鼻P1により機体1が支持されて、後部傾斜部BCの端点Cとの2点以上の支点が確保されることになり、機体1は安定な状態を維持しながら状態の移行ができるのである。この安定状態において各傾斜角は、階段傾斜角度をγとして、以下の条件を満たす。
α≦γ かつ γ−α≦β<90°−α
【0076】
この様な条件を満たす屈曲部30Cであれば、階段傾斜角度γより緩やかな傾斜角を有する階段である限り、状態変化時において機体の揺動の無い、円滑な移行が可能となる。
【0077】
なお、βは小さいほど、そして、前部傾斜部ABは長いほど前方への回転モーメントを抑えることができ、状態変化が円滑に行われることが経験的に判っている。このため、上記条件内において、前部傾斜角βは可及的に小さい角度を採用することが好ましい。
【0078】
また、屈曲部30Cの投影長Lpを階段のピッチLsより小とするのは、屈曲部30Cの開口内に同時に2つ以上の階段の段鼻を存在させない様にするためである。この際、想定する階段ピッチがばらつき等による幅を持つ場合には、その幅における最小の階段ピッチよりも小となるように設定するのが好ましい。
【0079】
ところで、このように屈曲部30Cの投影長Lpを階段ピッチよりも小とする必要があることから、前部傾斜角βをより小さくし、また前部傾斜部ABの長さを大きくとることには限界がある。換言すると、機体1が揺動無しに状態を移行できる階段の最大傾斜角に限界を持つ。
【0080】
そこで、本実施形態では、図10(b)の状態において、屈曲部30Cに最上段の段鼻P0が到達したこと(端点Aを通過したこと)を検知して、後部ホイールBWを繰り出す制御機構を有している(図11を参照のこと)。この機構によれば、後部ホイールBWの繰り出しにより、屈曲部30Cと最上段の段鼻P0との当接点を支点としてクローラ駆動部3全体を傾斜させることができるので、斯かる当接点と後部ホイールBWとの2点により機体を支持した状態で前部接地ガイド部30FGを一段下の階段の段鼻P1に到達させることが可能となる。そして、以後、最上段の段鼻P0を屈曲部30Cが通り過ぎるまで、段鼻P1に当接した前部接地ガイド部30FGの当接点と後部ホイールBWとで傾斜面に沿った移行動作を行う。つまり、段鼻P1と当接した前部接地ガイド部30FGの当接点と、後部ホイールBWを支持する中央部連結軸33Cと、後部ホイールBWの最上段の階段に続くフロア面上の支点とにより、新たな屈曲部を形成することになり、斯かる新たな屈曲部による見掛け上の前部傾斜角が屈曲部30Cの前部傾斜角βに比べて緩やかになると共に同じく見掛け上の前部傾斜部を長くできるのである。したがって、屈曲部30Cで対応できる後部傾斜角αで規定される最大傾斜角度以上の傾斜を有する階段においても最上段の段鼻による機体の揺動を抑えることが可能となる。
【0081】
なお、屈曲部30Cの開口部に食い込むことが出来る段鼻は、最上段の段鼻P0のみであるため、これを利用して、屈曲部30Cが最上段の段鼻P0に位置していることを検知することができる。具体的には、図12に示すように屈曲部30Cの仮想の底辺ACに沿って検出スイッチを押下するためのアームレバーを機体の内側に配置する。斯かるアームレバーを押下できるのは最上段の段鼻P0のみであることから、この検出スイッチが押下されているか否かを判定することで、屈曲部30C内に最上段の段鼻が食い込んだ状態にあることが判るのである。この判定結果を用いて、後部ホイールBWの繰り出し/収納制御を行うことができる。
【0082】
一方、上記説明においては、搭乗者K並びに車椅子K1を含む搭乗部2の合成重心の位置が以下に説明する位置にあることを前提にしている。つまり、図10(a)においては、屈曲部30Cの開口長内に、図10(b)の状態においては段鼻P0と端点Cの間に、図10(c)においては、一段下の段鼻P1と端点Cの間に、図10(d)においては前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGのそれぞれの階段の段鼻との接触点の間に存在するものとしている。
【0083】
このような条件が揃わない場合には、例えば図10(b)において最上段の段鼻P0上にある重心のバランス点を境に段鼻P0を支点に前方への回転モーメントが発生し、前方に転倒する虞がある。
【0084】
そこで、搭乗部2の合成重心は図10(a)の状態において、屈曲部30Cにおける後部傾斜部BC上に位置するように設定する必要がある。搭乗者の体重によって合成重心位置が異なることが考えられるが、本発明者は、一定の架台上で一定の車椅子に着座した者の体重を変えることにより、合成重心の位置がどの様に変動するかを実験により測定している。具体的には、重さ30kgの車椅子搭載フロアにJIS規格番号9201に準拠する重さ15kgの車椅子を載置し、この車椅子に、24kgから135kgのダミー人形を搭載したときの合成重心を測定した。図13(a)に測定結果としての重心位置の変動位置を黒丸で示している。
【0085】
この測定結果によれば、重心位置の変動は、鉛直方向での変動が支配的であって、前後左右方向への変動は40mm以内の変動であることが判った。したがって、状態移行時において合成重心が屈曲部30Cにおける後部傾斜部BC上に位置するようにするためには、後部傾斜部BCの水平面上への投影長を40mm以上確保すればよい(図13(b)を参照のこと)。
【0086】
ところで、本実施形態においては、機体1の傾斜状態に係わらず、架台上に搭載された車椅子の傾斜角度を水平に対して一定(例えば5度)に維持する機構(搭乗部2における架台24、リンクバーLB、ハンドルスライダー27、第3伸縮シリンダCY3による傾斜維持機構)により、機体1の傾斜角度が急に成るほど、第3伸縮シリンダCY3を収縮させてクローラ駆動部3に対する搭乗部2の傾斜をつける(寝かせる状態となる)ように制御するため、架台24は架台ベース44に対して前方に押し出される。これに加えて上記した後部ホイールBWを繰り出すことで機体が傾斜されるため、合成重心位置は前方に移動することになり、合成重心のバランス点(重心の鉛直方向に支持体が存在し、重心による回転モーメントと釣り合う点)が一気にクローラ駆動部で支持できる範囲を越える可能性がある。つまり、搭乗部2の合成重心が極端に前側に移動するため、前のめりの転倒を引き起こす可能性が高くなる。
【0087】
そこで、本実施形態においては、後部ホイールBWの繰り出しに応じて、架台ベース44を、つまり、搭乗部2の合成重心を、機体の後方に移動させる機構(架台ベース44,ロックパイプ端部44e,ベースリンクLA,ホイールリンクLW、第2伸縮シリンダCY2)、を採用している(図6を参照のこと)。
【0088】
この機構によれば、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸長動作によって印加される力が、ホイールリンクLWを介して後部ホイールBWに伝えられる。後部ホイールBWは、第2伸縮シリンダCY2, CY2による可動伸縮軸の伸長量に応じて機体外部に繰り出され、機体を傾斜させる。伸長量と機体の傾斜角度は、「く」の字状のホイールリンクLWの屈曲角度と各辺の長さにより決められている。
【0089】
一方、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸長動作によって印加される力は、ベースリンクLAを介して架台ベース44にも同時に伝えられる。架台ベース44は、伸縮シリンダの伸長量、すなわち、後部ホイールBWによる機体の傾斜量(角度)に応じて架台フレーム4上を後方に向かってスライド移動することになる。後部ホイールBW,BWの繰り出し量、つまり機体の傾斜角度と架台ベースの後方への送り量とを調整することにより、後部ホイールBWの繰り出し制御に連動して合成重心が屈曲部30Cの後部斜辺BC上に位置するように制御されるのである。
【0090】
以上によって、階段を下降するために後部ホイールBW,BWを繰り出して、機体を傾斜させながら最上段の段鼻P0に向かって進入しても屈曲部30Cの後部斜辺BC上に合成重心が位置するように制御されるので、機体1は、常に安定した状態を維持しながら段鼻P0を越えて階段の傾斜に沿った移動に移行することが可能になるのである。
【0091】
なお、後部ホイールBWは、屈曲部30Cから最上段の段鼻P0が離れたことを検知すると、機体1内へ収納するため、第2伸縮シリンダCY2の収縮方向への制御がなされる。これに応じて架台ベース44も後方から前方に向けてスライド移動する。
【0092】
以上説明した通り、本発明の階段昇降機によれば、軌道フレーム30の接地側フレームに側面視三角形状の屈曲部を設けるという極めて単純な構成にも拘らず、階段昇降動作に伴う水平状態から傾斜状態に、又はその逆の状態変化の際に、最上段の階段の段鼻を支点とする軌道フレームの揺動を抑えた安定した移動を行うことが可能となる。
【0093】
なお、上記実施形態において、搭乗部2は、架台23に車椅子を搭載する例について説明したが、これに限定されるものではない。搭乗部2として車椅子ではなく、直接着座可能な座席を架台23上に設けてもよい。この際、必要に応じてパンタグラフジャッキによる傾斜調整ができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 階段昇降機
2 搭乗部
22a パンタグラフジャッキ
22b 下部ブラケット
22c 上部ブラケット
22e 回動軸
23 架台
23a 平坦部
23b 曲面部
24 レール
26 コントローラ
3 クローラ駆動部
30 軌道フレーム
30BG 後部接地ガイド部
30C 中間部(屈曲部)
30FG 前部接地フレーム
34 クローラベルト
4 架台フレーム
41 レールベース
44 架台ベース
44a ベース平坦部
44b ベース曲面部
BW 後部ホイール
CY1 第1伸縮シリンダ
CY2 第2伸縮シリンダ
CY3 第3伸縮シリンダ
K 車椅子
LA ベースリンク
LB リンクバー
Lp 投影長
Ls 階段ピッチ
LW ホイールリンク
【技術分野】
【0001】
この発明は、自走式の階段昇降機に関するものであって、自足歩行が困難な者が階段昇降する際に特に好適な階段昇降機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来このような階段昇降機(以後、必要に応じて機体ともいう。)としては、例えば下記特許文献1に記載の車椅子用の階段昇降運搬車100が知られている。この従来技術を図1を用いて説明する(同図(a)は平地移動状態、(b)は階段昇降状態、(c)は、階段の「昇り終わり」または「降り始め」の状態を示す側面図である)。
【0003】
この階段昇降運搬車100の主要構成は、車椅子を搭載するフロア(荷台)104を備えた車椅子搭載部101とクローラ103を備えたクローラ駆動部102からなり、車椅子搭載部101の一端部がクローラ駆動部102に対して回動自在に枢支されている。そして、駆動端が車椅子搭載部101を支持すると共に固定端がクローラ駆動部102で支持された伸縮シリンダ108の伸縮動作によって、クローラ駆動部102に対して車椅子搭載部101を所定の範囲内で傾斜自在な構成となっている。
【0004】
また、クローラ駆動部102におけるクローラ103の接地する面側にある軌道フレームの一部は、2つのフレーム(前部そり部138、後部そり部139)を進行方向に対して前後に連結した構造を有しており、これらフレームの連結軸Oを屈曲点として、接地面とは反対の側(荷台側であって、接地面とは離間する方向)に「へ」の字状に屈曲自在となっている。
【0005】
特許文献1に記載された車椅子用の階段昇降運搬車100によれば、図1(c)に示す様に、例えば運搬車100の階段上昇に伴い階段の最上段の段鼻にさしかかって、走行状態が傾斜状態から水平状態に向きを変える場合に、機体が大きく傾動せずに円滑な走行姿勢の変更をなすべく、後部そり部139に駆動端部を有する伸縮シリンダ107を収縮させて、階段の傾斜面から上階のフロアの水平面(以後、フロア面とも言う。)に沿って後部そり部139を屈曲させている。そして、これに沿ってクローラ103の接地面が屈曲するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−129541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の階段昇降運搬車100において階段最上段の段鼻での軌道フレームの揺動を抑えるためには、屈曲点Oが階段最上段の段鼻の位置に到達するまで前部そり部138と後部そり部139とは屈曲の無い直線状の軌道フレームの状態を維持し、屈曲点Oが最上段の段鼻の位置に到達した際に伸縮シリンダ107を収縮させて屈曲動作に移行するという動作態様となる。
【0008】
そして、このような動作態様により、例えば傾斜状態から水平状態への移行(階段上昇時)においては、後部そり部139の先端が階段最上段の段鼻を越えて連結軸(屈曲点)Oが最上段の段鼻の位置にくるまでの間に、後部そり部139は、フロア面、傾斜面の何れにも接地しない状態が存在する。同様にフロア面から階段の傾斜面への移動(階段下降)時には、前部そり部138がフロア、傾斜面の何れにも接しない状態が存在する。
【0009】
この様に軌道フレームの一部が非接地となる階段最上段において、階段上昇時においては前部そり部138によって、階段下降時には後部そり部139によって、それぞれ機体を傾斜面または水平面上で確実に支持することが求められる。
【0010】
したがって、クローラ駆動部の前部そり部138の長さは、階段上において搭乗者が着座した状態の車椅子を含む機体の合成重量を支持する上で最低限必要となる、連続する2段の階段の各段鼻を結ぶ最短長(以後、階段ピッチと言う。)以上の長さが必要となる。
【0011】
同様に後部そり部139も、機体の合成重量を、階段の最上段に続くフロア面上で支持できるだけの長さが求められる。この際、不慮の外乱の発生によっても機体の合成重心の位置が階段上にある前部そり部138側に移動することを回避できるだけの十分なマージンを持つ長さが必要であり、特許文献1では、前部そり部138と同程度の長さとされている。
【0012】
このように、特許文献1における従来の階段昇降運搬車においては、傾斜状態から水平状態又はその逆の状態への円滑な移行を行うために前部そり部138、後部そり部139に階段ピッチ以上の所要の長さが求められる。
【0013】
一方、前部そり部138と後部そり部139とによって対応できる屈曲角度(つまりは、階段昇降運搬車100が円滑な状態変化に対応できる階段の傾斜角度)は、クローラ駆動部の骨格を成す軌道フレームの高さ(接地側のフレームと、対向する非接地側のフレーム間の距離)で制限を受ける。軌道フレームの高さを大きくとることができれば、対応可能な傾斜角度も拡がるが、前部そり部138、後部そり部139に階段ピッチ以上という所要の長さが必要とされることから、軌道フレームの高さも相応する高さと成らざるを得ず、実用上求められる傾斜角度を有する階段に対応させるためには、機体の大型化が避けられない。
【0014】
本願発明は、上記の課題に鑑みて成されたもので、その目的は、階段昇降に伴う機体の傾斜状態と水平状態との間における姿勢の移行動作時において、より簡単な構成で機体の揺動を抑えた円滑な移行動作を可能にすると共に、機体の小型化を可能にすることで旋回性能を確保する実用的な階段昇降機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の階段昇降機は、連続する2段の段鼻を結ぶ最短長がLsである階段を昇降する階段昇降機であって、クローラベルトと、当該クローラベルトの軌道を画定する軌道フレームと、をそれぞれ左右一対備え、当該軌道フレームに沿って前記クローラベルトを駆動するクローラ駆動部と、当該クローラ駆動部によって搬送される搭載部と、を備え、前記軌道フレームは、前部接地ガイド部と中間部と後部接地ガイド部とを有し、前記前部接地ガイド部並びに前記後部接地ガイド部の接地長は、前記最短長Lsより大であり、前記中間部は、側面視三角形状の屈曲部からなり、当該屈曲部の接地面への投影長が、前記最短長Lsより小であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に記載の階段昇降機は、請求項1に記載の階段昇降機において、前記側面視三角形状の屈曲部における前記投影長を底辺とした時になす前記三角形の底角である前記後部接地ガイド部側の底角αと前記前部接地ガイド部側の底角βは、傾斜角度γを有する前記階段に対して以下の関係式を満たすことを特徴とする。
γ−α≦β<90°−α (但し、α≦γ)
【0017】
また、請求項3に記載の階段昇降機は、請求項2に記載の階段昇降機において、前記屈曲部が前記階段の最上段の段鼻に位置することを検出する検出手段と、前記軌道フレームから繰り出して当該軌道フレームの前記後部接地ガイド部を支持する後部補助輪と、前記検出手段による検出信号に応じて、前記後部補助輪を繰り出して前記軌道フレームを傾斜せしめる機体傾斜手段と、を備えた。
【0018】
また、請求項4に記載の階段昇降機は、請求項3に記載の階段昇降機において、前記搭載部は、車椅子を載置する架台を有し、前記クローラ駆動部は、所定の曲率を有するスライドレールを備えた架台ベースであって、前記架台を当該スライドレール上にスライド自在に連結する前記架台ベースを有し、前記架台の水平からの傾斜状態を検出する傾斜検出手段と、検出した前記架台の傾斜状態に応じて、前記架台をスライドさせることにより、前記架台の水平状態を維持する調整手段と、を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の階段昇降機。
【0019】
また、請求項5に記載の階段昇降機は、請求項4に記載の階段昇降機において、前記クローラ駆動部は、前記架台ベースを前後方向に移動自在に支持する架台フレームを有し、前記機体傾斜手段は、前記後部補助輪の繰り出しに応じて前記架台ベースを後方に移動せしめる。
【0020】
さらに、請求項6に記載の階段昇降機は、請求項5に記載の階段昇降機において、前記側面視三角形状の屈曲部における前記底角αをなす斜辺の長さは40mm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の階段昇降機によれば、クローラベルトの軌道を担う軌道フレームは前部接地ガイド部と後部接地ガイド部と中間部とを有し、前部接地ガイド部と後部接地ガイド部の接地長を昇降対象となる階段の連続する2段の段鼻を結ぶ最短長(階段ピッチ)Lsより大とすると共に、側面視三角形状の屈曲部である中間部の接地面への投影長をLsより小となるように構成した。この様に構成したことにより、中間部には最上段の階段の段鼻のみが食い込むことになるため、水平状態から傾斜状態へ、またはその逆の状態に機体の姿勢が変遷するに際しては、最上段の段鼻との中間部の接触部と、最上段の階段に続くフロア面と側面視三角形状の中間部における後方端部との接触部と、最上段から一段下の階段の段鼻と前部接地ガイド部との接触部と、の内のいずれか2点により、常に機体が支持された状態を確保できることになり、揺動を抑えた安定した状態遷移を行うことが可能となる。しかも、階段上での常態走行においては、中間部が関与することがなく、階段昇降中における走行姿勢への中間部による影響を受けることがない。この様に、本発明によれば、状態遷移時を含め、常に安定した階段昇降を行うことができる。
【0022】
また、従来のように、軌道フレームそのものを状態遷移の都度機械的に屈曲させるという大掛かりな機構を用いる必要がなく、従来技術と比較して、全体として小型にすることが可能となり、特に奥行きが狭い階段の踊り場等において、旋回がし易くなり好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術である階段昇降運搬車の側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るクローラ駆動部3の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の車椅子搭載時の側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の斜視図である。
【図6】図4における後部ホイール部と架台ベースとを連携する機構を示す図である。
【図7】図4の階段昇降機において、後部フレームを傾斜させた状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の階段昇降状態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における軌道フレーム30の外形を示す側面図である。
【図10】本発明の実施形態における階段昇降機1の階段走行(下降)時の軌道フレーム30の状態を示す図である。
【図11】本発明の実施形態における階段昇降機1の後部補助輪を繰り出した際の側面図である。
【図12】本発明の実施形態における屈曲部を検知するためのアームレバーと検出スイッチの取付例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態における搭載重量に対する合成重心位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、「前後左右上下」という相対的な方向を示す用語は、特に断りが無い限り、本願発明の階段昇降機に車椅子が載置された状態で搭乗者が着座して正面を向いた状態を基準にした時に定まる方向を示すものとする。つまり、以下の説明における「前」とは機体に着座した搭乗者の正面方向を指し、「後」とは同搭乗者の背面方向を指し、「左」とは同搭乗者の左手方向を指し、「右」とは同搭乗者の右手方向を指すものである。同様に、「上」は同搭乗者の頭頂部の方向を指し、「下」は同搭乗者の足元の方向を指す。
【0025】
各構成部について図2乃至図6を参照しながら以下に説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る階段昇降機1の斜視図であり、図3は、クローラ駆動部3を示す斜視図である。また、図4は、図2において車椅子Kを載置した状態での階段昇降機1の側面図であり、図5(a)は階段昇降機1を左上前方からみた斜視図、図5(b)は右下後方から見た斜視図である。また、図6は、図4において後部ホイールBWと架台ベース44とを連係する機構を示す側面図である。
【0026】
本実施形態における階段昇降機1の主要構成部は、搭乗部2と、クローラ駆動部3とから成り、搭乗部2とクローラ駆動部3とは、クローラ駆動部3の左右の軌道フレーム30,30を繋ぐ前後2本のクロスパイプ(連結棒)にそれぞれ設けられた支持フレーム45,45で支持された架台フレーム4に取り付けられた架台ベース44と、車椅子Kを搭載するための架台23とを、レール24,24、ハンドルスライダー27を介してリンクバーLBにより連結することで一体化された構造となっている。
以下、各構成部について説明する。
【0027】
搭乗部2は、車椅子上部固定フレーム21と、車椅子下部固定フレーム22と、架台23と、左右一対のレール24,24と、この左右一対のレール24,24に固着されるハンドルフォーク25b,25bと把持部25aとを備えたハンドル25と、階段昇降機1の動作を統合的に制御するコントローラ26と、クローラ駆動部3に対する搭乗部2の傾斜状態を変える伸縮シリンダCY3とからなる。なお、ハンドル25並びにコントローラ26は、本発明の階段昇降機1を操作する操作者(搭乗者の補助者)が主として使用するために設けられている。
【0028】
車椅子上部固定フレーム21は、図2において21a,21b,21cの符号が付された三つのフレームが連結されたU字状のフレーム構造を有しており、このU字状フレームの開口部(フレーム21bと対向する辺の側)が、搭載される車椅子Kに向かう様、フレーム21bがハンドルフォーク25b,25bにジョイントパイプ21P,21Pを介して固着されている。
なお、ジョイントパイプ21P,21Pは、車椅子Kが車椅子上部固定フレーム21内に収納された際に、ジョイントパイプ21P,21Pが支持するU字状フレームの左右のフレーム21a,21cが、車椅子Kの左右のアームレストを固定することが可能な高さ位置となるように、ハンドルフォーク25b,25bに沿って上下方向にスライドさせることによってその高さを調整可能であり、調整された位置で図示しないネジ等によりハンドルフォーク25b,25bに固定される。
【0029】
また、この車椅子上部固定フレーム21の左右のフレーム21a,21cは、車椅子のアームレストを固定するための固定用プレート21f,21fを備えており、斯かる固定用プレート21f,21fに設けられた長孔にベルトを通して車椅子Kの左右のアームレストに巻きつけて車椅子のアームレストを左右のフレーム21a,21bにそれぞれ締着することができる。
【0030】
車椅子下部固定フレーム22は、パンタグラフジャッキ22aと、このパンタグラフジャッキ22aをジャッキボルトの先端が前側に向くように固定して載置するための下部ブラケット22bと、その一端が下部ブラケット22bの後端にある回動軸22eで回動自在に軸支された上部ブラケット22cと、この上部ブラケット22cの上面の前端において板ばねを二枚重ねて形成された弾性プレートの中間部を溶接等により固着すると共に上部ブラケット22cの左右の端部から所定の傾斜角度を持って左右斜め下方向に延在するように配置された固定用プレート22dからなる。この固定用プレート22dは、車椅子Kの骨格の一部をなす左右の下部パイプフレームをそれぞれ二枚の板ばねの間に通すことにより、かかる2枚の板ばねによる付勢力で車椅子のパイプフレームを挾着する構成となっている(図5(a)も参照のこと)。
【0031】
また、上部ブラケット22cの下面(パンタグラフジャッキ22aと向き合う面)側には上部ブラケット22cを構成する左右の側面を連結する図示しない連結パイプが設けられており、この連結パイプを介して上部ブラケット22cがパンタグラフジャッキ22aのジャッキアップ作用部と連結されている。これにより、パンタグラフジャッキ22aがジャッキボルトの回動によりジャッキアップされると、このジャッキアップ量に応じた傾斜角度で、上部ブラケット22cは下部ブラケット22bに対して回動軸22eを支点に傾斜され、ジャッキアップ量が変わらない限りその状態を維持することになる。つまり、上部ブラケット22c上に載置される車椅子Kもこのジャッキアップ量に応じた傾斜角で傾斜した状態を維持するのである。
【0032】
架台23は、車椅子下部固定フレーム22を載置する平坦部23aと、後述する架台ベース44と当接する曲面部23bと、平坦部23aの水平からの傾斜角度を検出する傾斜角度センサ23cとを備え、平坦部23aにおいて、車椅子下部固定フレーム22における下部ブラケット22bが図示しないボルト等によって固定されている。
【0033】
また、架台23の左右の側面の後端部においてレール24,24が固着されており、これにより車椅子上部固定フレーム21、下部固定フレーム22、架台23、レール24、ハンドル25とが一体化されている。
【0034】
また、左右一対のレール24,24のレール間を跨ぐ様にハンドルスライダー27が配されており、斯かるハンドルスライダー27の前面は、伸縮シリンダCY3の伸縮シャフトの駆動端によって支持されている。ハンドルスライダー27は、伸縮シリンダCY3の収縮動作に応じてレール24,24のレールに沿って上昇し、伸縮シリンダCY3の伸長動作に応じて下降する。斯かる伸縮シリンダCY3の伸縮動作は、架台23に搭載される車椅子Kの水平に対する傾斜状態を所定の角度で一定に維持するために行われるものであるが、この傾斜維持のための制御に関わる説明は後述する。
【0035】
コントローラ26は、ハンドル25の背面であって、伸縮シリンダCY3と干渉しない位置(本実施形態では、操作者が操作し易い様に、よりハンドル25の把持部に近い位置)に配されており、階段昇降機1の動作電源スイッチや、動作モードの切換えスイッチ等の操作ボタンを備え、操作ボタンを介して入力される指示情報に応じて後述する階段昇降に伴う傾斜制御を含む各動作部の統合的な制御に必要な制御信号を対応する階段昇降機1の各動作部に出力するものである。
以上により搭乗部2が構成されている。
【0036】
次に、クローラ駆動部3の構成について説明する。
クローラ駆動部3は、クローラベルト34の軌道を画定する左右一対の軌道フレーム30,30を有し、各軌道フレーム30,30は、前部フレーム30Fと後部フレーム30Bとで2分割されたフレーム構造となっている。
【0037】
左右一対の前部フレーム30F,30Fは、アルミ等の金属からなる複数のクロスパイプを介して互いに連結されており、斯かるクロスパイプを利用して、駆動モータと減速機とを一体化した減速機ケースDMや、架台フレーム4を支持する支持フレーム45、そして、後部フレーム30B,30Bの傾斜制御を成すための第1伸縮シリンダCY1、また、左右に配置された後部ホイールBW,BWをその収納位置と繰り出し位置との間で位置制御するための第2伸縮シリンダCY2,CY2等が、それぞれ固定的に配置されている。なお、第2伸縮シリンダCY2,CY2は、架台フレーム4を挟む様にその左右の両サイドに配置される一対の伸縮シリンダである。
【0038】
減速機ケース(駆動モータ)DMの出力軸である前部駆動軸31の左右の両端には、それぞれ駆動輪32,32が取付られている。さらに、この前部駆動軸31の左右方向の中央部には、補助輪としての前部ホイールFWを支持するブラケットBFが、配されている。このブラケットBFは、前部ホイールFWを設置する設置面BF1と、この設置面BF1の左右の両端で立設された側面部BF2,BF2とからなり、この両サイドの側面部BF2,BF2にそれぞれに設けられた貫通穴を介して前部駆動軸31に嵌通されている。なお、この側面部BF2には、後述する後部連結軸33Rにその一端が連結されたシャフトSHTの他端部が、リンク部材を介して連結されている(図5(a)も参照のこと)。
【0039】
一方、前部フレーム30F,30Fは、その後端部において、左右フレーム間を連結するクロスパイプである中央部連結軸33Cを備えている(図5(b)も参照のこと)。この中央部連結軸33Cは左右の前部フレーム30F,30Fをそれぞれ貫通するように配されており、その先端に左右一対の中央部遊動輪35C、35Cが取り付けられている。
【0040】
また、中央部連結軸33Cには、前部フレーム30F,30Fのそれぞれの内側(機体内部)で、図6に示す様に、後部ホイールBWをその一端で支持するための「く」の字状のホイールリンクLWが、その「く」の字の屈曲点に設けられた貫通穴を介して嵌通されている。このホイールリンクLWは、同じ形状を有する一組のリンク部材からなり、この一組のリンク部材により一つの後部ホイールBWを挾持する構成となっている。また、このホイールリンクLWは、左右それぞれに一組ずつ備えられ、これにより左右一つずつの後部ホイールBWを挾持する。そして、ホイールリンクLW,LWにおける他端部(後部ホイールBW,BWの取付端に対向する端部)は、第2伸縮シリンダCY2,CY2の可動伸縮軸の駆動端とそれぞれ連結されている。これによって、ホイールリンクLW,LWは、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸縮動作に応じて中央部連結軸33C、すなわち、「く」の字状ホイールリンクLWの屈曲点を中心に回動自在となっている。
【0041】
なお、前部フレーム30F,30Fは、その接地側において、クローラベルト34のいわゆる接地ガイドフレームとして機能する前部接地ガイド部30FGと、接地面に対して上方(接地面から離れる方向)に所定の傾斜角度をもって窪み、後述する走行状態の変遷時以外の常態走行(平地走行または階段昇降)時においては走行面(平地または階段の段鼻と段鼻とを結ぶ仮想の傾斜面)とは接しない側面視三角形状の屈曲部30Cとを有している。この屈曲部30Cは、図4に示すように、軌道フレーム30の全長に対する略中央部に位置する様に設けられている。この屈曲部30Cについては、後ほど詳述する。
【0042】
一方、後部フレーム30B,30Bには、その中央部において、左右のフレーム間を連結するクロスパイプである後部連結軸33Rが配されている(図5(b)も参照のこと)。そして、この後部連結軸33Rには、上述した、一端を前部フレーム30F,30Fのクロスパイプに固着された第1伸縮シリンダCY1の伸縮可動軸の先端が、リンク部材を介して連結されている。
【0043】
また、後部連結軸33Rには、上述したシャフトSHTの一端がリンク部材を介して連結されており、これにより、第1伸縮シリンダCY1の伸縮動作に連動して、前部ホイールFWの収納位置とクローラ外部への繰り出し位置との間での移行動作を行うことが可能となっている。また、後部フレーム30B,30Bの後端部にはそれぞれ遊貫軸(支軸)33B,33Bが設けられ、この遊貫軸に後部遊動輪35B,35Bが取り付けられている。
【0044】
以上の構成によって、前後2分割されたフレーム構造をなす前部フレーム30F,30Fと後部フレーム30B,30Bとがその相対的な傾斜状態を伸縮シリンダCY1を介して変えることができる様に一体化されている。これによって、後部フレーム30B,30Bは、第1伸縮シリンダCY1の収縮制御(伸縮可動軸の縮小方向への制御)により、例えば図7に示す様に前部フレーム30Fに対してソリ状に傾斜され、階段上昇時においてクローラベルト34が最初の階段の段鼻をグリップするための傾斜ガイドフレームとして機能する一方で、階段昇降中においては、伸長制御(伸縮可動軸の伸長方向への制御)をすることにより、図4に示す様に前部フレーム30Fと平行状態(前部フレーム30Fとの間で相対的な傾斜の無い状態)とされて階段との接地長を確保するための接地ガイドフレームとしても機能する。
【0045】
なお、前部フレーム30F,30Fの前端部に設けられた左右一対の駆動輪32,32と後部フレーム30B、30Bの後端部に取り付けられた左右一対の後部遊動輪35B、35Bとの間にそれぞれクローラベルト34,34が巻装される。各クローラベルト34は、前部フレーム30Fにより、前部接地ガイド部に案内された後、屈曲部30C、中央部遊動輪35Cを介して後部フレーム30Bに案内され、後部遊動輪35Bを介して再び前部フレーム30Fに案内されることで無端駆動する構成となっている。
【0046】
また、前部フレーム30Fには、その一端が中央部連結軸33Cに回動自在に軸支されると共に、後部フレーム30B内に配されたバネ37によって後部遊動輪35b側に引っ張られることで、常に中央部遊動輪35Cの方向に付勢されている左右一対の抑えローラ36,36が設けられており、この抑えローラ36と中央部遊動輪35Cとの間にクローラベルト34をガイドすることによって、クローラベルト34には常に所望のテンションが加えられた状態とされている。これによって、後部フレーム30Bの傾斜状態によらず、クローラベルト34は常に一定のテンションで巻装された状態を維持している。
【0047】
以上の様に構成された搭乗部2とクローラ駆動部3とは、架台フレーム4と、リンクバーLBと、ベースリンクLA、ホイールリンクLWによって次の様に連結されている。
【0048】
架台フレーム4は、車体の長手方向(前後方向)に平行に配された2本のレールベース41,41と、この2本のレールベースを繋ぐフロント用支持ブラケット42と、リア用支持ブラケット43と、上述の架台23と当接する架台ベース44と、からなる。
【0049】
架台ベース44は、レールベース41,41と当接して、後述する後部ホイールBW,BWの繰り出し動作に連動してこのレールベース41,41上をスライド移動するベース平坦部44aと、架台23の曲面部23bと当接し、当該曲面部23bの曲率と同じ曲率を有して、後述する機体の傾斜に応じて架台23がスライド移動するためのガイド部となるベース曲面部44bと、架台ベース44の左右の側面の前端部に設けられ、架台23のスライド移動を補助するためのローラ44c,44cと、架台ベース44の後端部の側面においてリンクバーLBの一端と連結するベースブラケット44dと、ベース平坦部44aの左右両サイドの側面を嵌通して設けられているロックパイプの端部(以後、ロックパイプ端部と言う。)44e,44eと、からなる(図3も参照のこと)。
【0050】
なお、ベースブラケット44dは、リンクバーLBの一の端部に設けられた回転軸を両側面で支持する構成を有し、これによりリンクバーLBの一の端部を回動自在に支持している。そして、このリンクバーLBの他端は、上述したハンドルスライダー27の背面においてベースブラケット44dと同様のベースブラケットを介して回動自在に支持されている。
【0051】
この様に構成することで、例えば、伸縮シリンダCY3(以後、第3伸縮シリンダCY3と称する。)の伸縮シャフトの伸縮状態に応じて、架台ベース44に対する架台23の相対的位置が、ベース曲面部44bの曲面に沿って変化する。
【0052】
つまり、リンクバーLBによって架台ベース44とハンドルスライダー27とが連結された状態で第3伸縮シリンダCY3の伸縮シャフトが伸長すると、ハンドルスライダー27がレール24,24に沿って架台23の方向に向かって移動しようとするが、架台ベース44がクローラ駆動部3に対して固定され、またリンクバーLBの一端が、この固定された架台ベース44上にあるベースブラケット44dと連結されていることから、ハンドルスライダー27は、リンクバーLBの長さ以上の移動が妨げられることになり、斯かるリンクバーLBは、ハンドルスライダー27の移動をロックする部材として機能することになる。したがって、第3伸縮シリンダCY3の伸長動作によってハンドルスライダー27に加えられる力は、レール24を可動体として、架台23を架台ベース44のベース曲面部44bに沿ってベースブラケット44d側に引き寄せる力として働くことになる。
【0053】
同様に、第3伸縮シリンダCY3の縮小動作においても、リンクバーLBの一端が、クローラ駆動部3に固定された架台ベース44上にあるベースブラケット44dと連結されていることから、リンクバーLBの長さ以上の移動が妨げられることになり、リンクバーLBがハンドルスライダー27の移動をロックする部材として機能する。したがって、第3伸縮シリンダCY3の縮小動作によってハンドルスライダー27に加えられる力は、レール24を可動体として、ベース曲面部44bに沿って架台23をベースブラケット44dから遠ざける力として働く(図2における架台23と架台ベース44の位置関係を参照のこと)。
【0054】
この際、第3伸縮シリンダCY3の伸縮量並びに架台ベース44のベース曲面部44bの曲率を、クローラ駆動部3の水平に対する傾斜角度に応じたものとなるように設定することで、架台23の水平に対する傾斜角度を常に一定とすることが可能となる。
【0055】
具体的には、例えば第3伸縮シリンダCY3を最も伸長させた状態をクローラ駆動部3の水平状態、つまり、傾斜角度0度の状態に対応させ、第3伸縮シリンダCY3を最も収縮させた状態を、階段昇降機1として想定している昇降可能な階段の最大傾斜角度の状態に対応させ、これら両極端の状態においても架台23の曲面部23bが架台ベース44のベース曲面部44bから逸脱することがないことを条件に、第3伸縮シリンダCY3の伸縮可動軸の伸縮量と架台23の円周に沿った移動量とが一致するように架台ベース44のベース曲面部44b及び架台23の曲面部23bの曲率を決定するのである。
【0056】
そして、伸縮可動軸の最大伸縮量と、想定する最大傾斜角度との比をとることにより、傾斜角1度あたりの伸縮量(以後、単位伸縮量と言う。)を求めることができる。
【0057】
コントローラ26は、この単位伸縮量と、架台23の平坦部23aに設けられた傾斜角度センサ23cから得られる架台23の水平からの傾斜角度(目標値0°からの角度差となる。)とに基づいて、第3伸縮シリンダCY3に伸縮動作をなさしめるための伸縮量(角度差を0とするための制御量)を演算し、その伸縮量に応じた伸縮制御を常時行うことにより、架台23が常に水平となるように制御するのである。なお、傾斜センサ23cをクローラ駆動部3に配し、クローラ駆動部3の水平からの傾斜状態に応じてこの傾斜角度を相殺する方向に平坦部23aを駆動させて、平坦部23aが常に水平となる様に制御してもよい。要するに架台23の水平からの傾斜状態を検知し、これに基づいて架台を水平状態に制御する機構であればよい。
【0058】
このように制御することで、架台23は、クローラ駆動部3の傾斜状態に関係なく水平状態を維持できるため、斯かる架台23に搭載される車椅子Kを水平に対して常に一定の角度(この角度は、車椅子下部固定フレーム22のパンタグラフジャッキ22aを介して調整された角度であって、例えば5度である。)とすることができる。この様に、この架台23に搭載される車椅子を常に一定の角度(例えば5度)で維持しながら階段の昇降が可能になるのである。このように、常に車椅子Kが水平に対して若干後傾姿勢となるように傾斜をつけることにより、車椅子にはハンドル25側に付勢する力が働くため、車椅子Kの搭載状態が安定すると共に、車椅子の搭乗者は、階段昇降時に常に一定した角度で斜め上方向に視線を向ける姿勢となるため、階段昇降時において、転倒や転落等の心理的な不安を緩和させることが期待できる。なお、傾斜角度センサをクローラ駆動部3の傾斜状態を
【0059】
一方、架台ベース44には、ベース平坦部44aの左右両サイドの側面を嵌通したロックパイプ端部44e,44eが設けられており、かかるロックパイプ端部44e,44eは、左右にあるベースリンクLA,LAの一端でそれぞれ支持されている。そして、このベースリンクLA,LAの他端は、上述した左右のホイールリンクLW,LWにおける他端部(後部ホイールBW,BWの取付端に対向する端部)と共に、左右の対応する第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸縮可動軸の駆動端と連結されている(図6も参照のこと)。
【0060】
したがって、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸縮動作によって印加される力が、ベースリンクLAを介して架台ベース44に伝えられ、架台ベース44は、架台フレーム4上をスライド移動することになる。
【0061】
この様に構成することで、架台ベース44は、後部ホイールBWの繰り出し制御に連動して架台フレーム4、つまりは、クローラ駆動部3上の相対的位置を変えることができる。
【0062】
後部ホイールBW,BWの繰り出し制御は、後述する階段昇降に伴う機体1の状態変化時に行うものである。架台ベース44をこの後部ホイールBWの繰り出し制御に連動してその位置を変化せしめるのは、機体1の傾斜状態から水平状態、またはその逆の状態への状態変化時において車椅子K並びに搭乗者を含む搭乗部2の合成重心がクローラ駆動部3における軌道フレーム30の上述した屈曲部30C上(より正確には、側面視三角形状の屈曲部30Cの後部斜辺上)に位置するように制御するためである。
【0063】
以上の様に、本発明の実施形態における階段昇降機1は、搭乗部2とクローラ駆動部3とを架台フレーム4、ベースリンクLA、リンクバーLB、ホイールリンクLWによって一体化されている。
【0064】
次に、傾斜状態(階段上)から水平状態(踊り場上)、或いは、水平状態から傾斜状態への状態変化を円滑に行うために用いられる、軌道フレーム30における屈曲部30C、前部接地ガイド部30FG、後部接地ガイド部30BGの構成について説明する。
【0065】
なお、以後の説明では、図9(a)に示す様に、側面視三角形状の屈曲部30Cをなす各頂点に対応する端点を前側からA,B,Cとする。また、前部接地ガイド部30FGにおいて、駆動軸31から接地面方向に延びる垂線と接地面との交点をEとする。そして、斯かる交点Eと上記頂点A(屈曲部30Cの前部斜辺の始点)との長さ(線分EA)を前部接地ガイド部30FGの有効接地長とする。同様に、後部接地ガイド部30BGにおいて、後部遊動輪35Bの遊貫軸33Bから接地面方向に延びる垂線と接地面との交点をDとして、この交点Dと上記端点C(屈曲部30Cの後部斜辺の始点)との長さ(線分CD)を後部接地ガイド部30BGの有効接地長とする。なお、線分ACは、機体1を水平面上に置いた状態での屈曲部30Cの接地面への投影長Lpとなる(必要に応じて開口長Lpとも言う)。
【0066】
まず、本実施形態に示す、軌道フレーム30の接地ガイド側に屈曲部30Cを有する機体1が、階段の常態走行(傾斜状態での移動)をする際に、屈曲部30Cによる揺動の影響を受けない条件について説明する。
【0067】
階段昇降中においては、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとにより少なくとも2段の階段の段鼻で機体1が支持される状態を常に維持することができれば、屈曲部30Cが階段の仮想の傾斜面、つまりは、仮想の傾斜面をなす各階段の段鼻と接することがない。したがって、各階段の段鼻が屈曲部30Cの傾斜に沿った移動を行うことがないため、屈曲部30Cによる機体の揺動は起こらない。例えば、図8に示す様に、前部接地ガイド部30FGの線分EAと後部接地ガイド部30BGの線分CDがそれぞれ階段のピッチLs以上であれば、前部接地ガイド部30FGと、後部接地ガイド部30BGとが、それぞれ少なくとも一の階段の段鼻を必ずグリップする状態となるため、機体の前後にある、これら接地ガイド部30FG、30BGで機体1を支持した状態を維持して階段の昇降が可能となる。このように、各接地ガイド部を階段ピッチLs以上の長さに設定すれば、屈曲部30Cの開口長(線分AC)に関係すること無く、階段昇降中に屈曲部30Cが階段の段鼻に接することは無い。
【0068】
以上から、階段昇降中に揺動を起こすことの無い接地ガイドフレームとしての最低条件は、
EA≧階段ピッチLs、CD≧階段ピッチLs、
ED≧階段ピッチLsの2倍+投影長Lp
である。
但し、車椅子K並びに搭乗者K1を含む搭乗部2の合成重心からの鉛直方向が、線分EDの接地点間に存在していることが前提となる。
【0069】
次に屈曲部30Cの構成について図9を用いて説明する。なお、以下の説明で用いる図9、図10については、説明の便宜上、軌道フレーム30の外形側面のみを模式的に表わしている。
屈曲部30Cは、傾斜状態から水平状態、或いは、その逆の状態変化をできるだけ円滑に行うために設けられたものである。
【0070】
具体的には、図9(a)に示す様に、前部接地ガイド部30FGから角度β(=∠BAC;以後、前部傾斜角という。)の傾斜角度で続く前部傾斜部ABと、屈曲点Bから角度α(=∠BCA;以後、後部傾斜角と言う。)の傾斜角度で後部接地ガイド部30BGに続く後部傾斜部BCとを備えており、A,B,Cの3つの頂点からなる側面視三角形状の屈曲部30Cにおける接地面への投影長Lp(線分AC)が、階段のピッチLsよりも小となるように設定されている。また、後部傾斜角αは、例えば想定する階段の最大傾斜角度とすることができ、図9(b)に示すように、機体1の状態変化を伴う移動に応じて、後部傾斜部BCが階段の最上段の面に接すると共に屈曲部30Cの屈曲点Bが最上段の段鼻P0に位置する際に、屈曲部30Cの端点Aが最上段から一段下の階段の段鼻P1より屈曲点B側に位置し、前部接地ガイド部30FGが段鼻P1と接する状態となる様に、角度βが設定されている。
【0071】
このように構成することにより、機体1の状態変化に応じて以下の様な動作態様となる。なお、ここでは機体1が階段を下降する場合(水平状態から傾斜状態への移行)について図10を用いて説明する。
(1) 最上段の段鼻P0に前部傾斜部ABの端点Aが到達するまで、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとにより水平移動が行われる(図10(a))。
(2) 最上段の段鼻P0に前部傾斜部ABの端点Aが到来すると、以後、前部傾斜部ABが段鼻P0をグリップして移動を続ける。つまり、機体1は、前部傾斜部ABに沿って階段下降方向に向けて傾斜を始める。この際、機体1は、前部傾斜部AB上の段鼻P0との接触部と屈曲部30Cの端点Cの2点で支持される(図10(b))。
(3) 屈曲部30Cの屈曲点Bが段鼻P0の位置に到達すると、後部傾斜部BCが最上段の水平面と接触した状態になると共に、前部接地ガイド部30FGが一段下の階段の段鼻P1と接触した状態となる。これにより、機体1は、後部傾斜部BCの端点Cが段鼻P0に到達するまでの間、前部接地ガイド部30FG上の段鼻P1との接触部と、後部傾斜部BCの端点C(このケースにおいては、後部傾斜部BCと最上段の水平面との接触部)とにより支持される(図10(c))。
(4) 後部傾斜部BCの端点Cが段鼻P0を通過すると、以後、段鼻P0は後部接地ガイド部30BGによりグリップされる。前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとがいずれも階段ピッチLs以上に設定されていることから、以後、前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとにより少なくとも2段の階段の段鼻がグリップされた状態を維持しながら階段を下降する(図10(d))。
【0072】
このように、機体1における傾斜状態の変化時において現れる上記(1)〜(4)のどのフェーズにおいても必ず2点以上の支点によって機体1が支持された状態が維持されるので、常に安定した状態で移行ができる。つまり、状態変化による最上段の段鼻P0を支点とする機体の揺動を抑えた円滑な移行となるのである。
【0073】
なお、上記説明においては、後部傾斜角αで規定される最大傾斜角度を有する階段の下降時での状態の移行について説明したものであるが、最大傾斜角より緩い傾斜角度の階段においては、上記(3)の態様において、図10(e)に示す様に常に端点Cと前部接地ガイド部30FGとにより機体1を支持した状態を維持しながら、(4)の前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGとによる支持態様に移行する。この場合においても常に2点の支点により機体1を支持する態様に変わりが無く、揺動の無い安定した移行が可能である。
【0074】
また、上記説明においては、階段を下降する場合について説明したが、階段上昇時における最上段の段鼻での状態の移行については、上記とは逆の態様を辿るものであり、その説明は省略する。
【0075】
このように、本発明の実施形態によれば、機体1の状態変化を伴う移動に応じて屈曲点Bが階段最上段の段鼻P0に到達すると同時かそれ以前に一段下の階段の段鼻P1に前部接地ガイド部30FGが接触することになるので、この段鼻P1により機体1が支持されて、後部傾斜部BCの端点Cとの2点以上の支点が確保されることになり、機体1は安定な状態を維持しながら状態の移行ができるのである。この安定状態において各傾斜角は、階段傾斜角度をγとして、以下の条件を満たす。
α≦γ かつ γ−α≦β<90°−α
【0076】
この様な条件を満たす屈曲部30Cであれば、階段傾斜角度γより緩やかな傾斜角を有する階段である限り、状態変化時において機体の揺動の無い、円滑な移行が可能となる。
【0077】
なお、βは小さいほど、そして、前部傾斜部ABは長いほど前方への回転モーメントを抑えることができ、状態変化が円滑に行われることが経験的に判っている。このため、上記条件内において、前部傾斜角βは可及的に小さい角度を採用することが好ましい。
【0078】
また、屈曲部30Cの投影長Lpを階段のピッチLsより小とするのは、屈曲部30Cの開口内に同時に2つ以上の階段の段鼻を存在させない様にするためである。この際、想定する階段ピッチがばらつき等による幅を持つ場合には、その幅における最小の階段ピッチよりも小となるように設定するのが好ましい。
【0079】
ところで、このように屈曲部30Cの投影長Lpを階段ピッチよりも小とする必要があることから、前部傾斜角βをより小さくし、また前部傾斜部ABの長さを大きくとることには限界がある。換言すると、機体1が揺動無しに状態を移行できる階段の最大傾斜角に限界を持つ。
【0080】
そこで、本実施形態では、図10(b)の状態において、屈曲部30Cに最上段の段鼻P0が到達したこと(端点Aを通過したこと)を検知して、後部ホイールBWを繰り出す制御機構を有している(図11を参照のこと)。この機構によれば、後部ホイールBWの繰り出しにより、屈曲部30Cと最上段の段鼻P0との当接点を支点としてクローラ駆動部3全体を傾斜させることができるので、斯かる当接点と後部ホイールBWとの2点により機体を支持した状態で前部接地ガイド部30FGを一段下の階段の段鼻P1に到達させることが可能となる。そして、以後、最上段の段鼻P0を屈曲部30Cが通り過ぎるまで、段鼻P1に当接した前部接地ガイド部30FGの当接点と後部ホイールBWとで傾斜面に沿った移行動作を行う。つまり、段鼻P1と当接した前部接地ガイド部30FGの当接点と、後部ホイールBWを支持する中央部連結軸33Cと、後部ホイールBWの最上段の階段に続くフロア面上の支点とにより、新たな屈曲部を形成することになり、斯かる新たな屈曲部による見掛け上の前部傾斜角が屈曲部30Cの前部傾斜角βに比べて緩やかになると共に同じく見掛け上の前部傾斜部を長くできるのである。したがって、屈曲部30Cで対応できる後部傾斜角αで規定される最大傾斜角度以上の傾斜を有する階段においても最上段の段鼻による機体の揺動を抑えることが可能となる。
【0081】
なお、屈曲部30Cの開口部に食い込むことが出来る段鼻は、最上段の段鼻P0のみであるため、これを利用して、屈曲部30Cが最上段の段鼻P0に位置していることを検知することができる。具体的には、図12に示すように屈曲部30Cの仮想の底辺ACに沿って検出スイッチを押下するためのアームレバーを機体の内側に配置する。斯かるアームレバーを押下できるのは最上段の段鼻P0のみであることから、この検出スイッチが押下されているか否かを判定することで、屈曲部30C内に最上段の段鼻が食い込んだ状態にあることが判るのである。この判定結果を用いて、後部ホイールBWの繰り出し/収納制御を行うことができる。
【0082】
一方、上記説明においては、搭乗者K並びに車椅子K1を含む搭乗部2の合成重心の位置が以下に説明する位置にあることを前提にしている。つまり、図10(a)においては、屈曲部30Cの開口長内に、図10(b)の状態においては段鼻P0と端点Cの間に、図10(c)においては、一段下の段鼻P1と端点Cの間に、図10(d)においては前部接地ガイド部30FGと後部接地ガイド部30BGのそれぞれの階段の段鼻との接触点の間に存在するものとしている。
【0083】
このような条件が揃わない場合には、例えば図10(b)において最上段の段鼻P0上にある重心のバランス点を境に段鼻P0を支点に前方への回転モーメントが発生し、前方に転倒する虞がある。
【0084】
そこで、搭乗部2の合成重心は図10(a)の状態において、屈曲部30Cにおける後部傾斜部BC上に位置するように設定する必要がある。搭乗者の体重によって合成重心位置が異なることが考えられるが、本発明者は、一定の架台上で一定の車椅子に着座した者の体重を変えることにより、合成重心の位置がどの様に変動するかを実験により測定している。具体的には、重さ30kgの車椅子搭載フロアにJIS規格番号9201に準拠する重さ15kgの車椅子を載置し、この車椅子に、24kgから135kgのダミー人形を搭載したときの合成重心を測定した。図13(a)に測定結果としての重心位置の変動位置を黒丸で示している。
【0085】
この測定結果によれば、重心位置の変動は、鉛直方向での変動が支配的であって、前後左右方向への変動は40mm以内の変動であることが判った。したがって、状態移行時において合成重心が屈曲部30Cにおける後部傾斜部BC上に位置するようにするためには、後部傾斜部BCの水平面上への投影長を40mm以上確保すればよい(図13(b)を参照のこと)。
【0086】
ところで、本実施形態においては、機体1の傾斜状態に係わらず、架台上に搭載された車椅子の傾斜角度を水平に対して一定(例えば5度)に維持する機構(搭乗部2における架台24、リンクバーLB、ハンドルスライダー27、第3伸縮シリンダCY3による傾斜維持機構)により、機体1の傾斜角度が急に成るほど、第3伸縮シリンダCY3を収縮させてクローラ駆動部3に対する搭乗部2の傾斜をつける(寝かせる状態となる)ように制御するため、架台24は架台ベース44に対して前方に押し出される。これに加えて上記した後部ホイールBWを繰り出すことで機体が傾斜されるため、合成重心位置は前方に移動することになり、合成重心のバランス点(重心の鉛直方向に支持体が存在し、重心による回転モーメントと釣り合う点)が一気にクローラ駆動部で支持できる範囲を越える可能性がある。つまり、搭乗部2の合成重心が極端に前側に移動するため、前のめりの転倒を引き起こす可能性が高くなる。
【0087】
そこで、本実施形態においては、後部ホイールBWの繰り出しに応じて、架台ベース44を、つまり、搭乗部2の合成重心を、機体の後方に移動させる機構(架台ベース44,ロックパイプ端部44e,ベースリンクLA,ホイールリンクLW、第2伸縮シリンダCY2)、を採用している(図6を参照のこと)。
【0088】
この機構によれば、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸長動作によって印加される力が、ホイールリンクLWを介して後部ホイールBWに伝えられる。後部ホイールBWは、第2伸縮シリンダCY2, CY2による可動伸縮軸の伸長量に応じて機体外部に繰り出され、機体を傾斜させる。伸長量と機体の傾斜角度は、「く」の字状のホイールリンクLWの屈曲角度と各辺の長さにより決められている。
【0089】
一方、第2伸縮シリンダCY2,CY2の伸長動作によって印加される力は、ベースリンクLAを介して架台ベース44にも同時に伝えられる。架台ベース44は、伸縮シリンダの伸長量、すなわち、後部ホイールBWによる機体の傾斜量(角度)に応じて架台フレーム4上を後方に向かってスライド移動することになる。後部ホイールBW,BWの繰り出し量、つまり機体の傾斜角度と架台ベースの後方への送り量とを調整することにより、後部ホイールBWの繰り出し制御に連動して合成重心が屈曲部30Cの後部斜辺BC上に位置するように制御されるのである。
【0090】
以上によって、階段を下降するために後部ホイールBW,BWを繰り出して、機体を傾斜させながら最上段の段鼻P0に向かって進入しても屈曲部30Cの後部斜辺BC上に合成重心が位置するように制御されるので、機体1は、常に安定した状態を維持しながら段鼻P0を越えて階段の傾斜に沿った移動に移行することが可能になるのである。
【0091】
なお、後部ホイールBWは、屈曲部30Cから最上段の段鼻P0が離れたことを検知すると、機体1内へ収納するため、第2伸縮シリンダCY2の収縮方向への制御がなされる。これに応じて架台ベース44も後方から前方に向けてスライド移動する。
【0092】
以上説明した通り、本発明の階段昇降機によれば、軌道フレーム30の接地側フレームに側面視三角形状の屈曲部を設けるという極めて単純な構成にも拘らず、階段昇降動作に伴う水平状態から傾斜状態に、又はその逆の状態変化の際に、最上段の階段の段鼻を支点とする軌道フレームの揺動を抑えた安定した移動を行うことが可能となる。
【0093】
なお、上記実施形態において、搭乗部2は、架台23に車椅子を搭載する例について説明したが、これに限定されるものではない。搭乗部2として車椅子ではなく、直接着座可能な座席を架台23上に設けてもよい。この際、必要に応じてパンタグラフジャッキによる傾斜調整ができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 階段昇降機
2 搭乗部
22a パンタグラフジャッキ
22b 下部ブラケット
22c 上部ブラケット
22e 回動軸
23 架台
23a 平坦部
23b 曲面部
24 レール
26 コントローラ
3 クローラ駆動部
30 軌道フレーム
30BG 後部接地ガイド部
30C 中間部(屈曲部)
30FG 前部接地フレーム
34 クローラベルト
4 架台フレーム
41 レールベース
44 架台ベース
44a ベース平坦部
44b ベース曲面部
BW 後部ホイール
CY1 第1伸縮シリンダ
CY2 第2伸縮シリンダ
CY3 第3伸縮シリンダ
K 車椅子
LA ベースリンク
LB リンクバー
Lp 投影長
Ls 階段ピッチ
LW ホイールリンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する2段の段鼻を結ぶ最短長がLsである階段を昇降する階段昇降機であって、
クローラベルトと、当該クローラベルトの軌道を画定する軌道フレームと、をそれぞれ左右一対備え、当該軌道フレームに沿って前記クローラベルトを駆動するクローラ駆動部と、
当該クローラ駆動部によって搬送される搭載部と、
を備え、
前記軌道フレームは、前部接地ガイド部と中間部と後部接地ガイド部とを有し、
前記前部接地ガイド部並びに前記後部接地ガイド部の接地長は、前記最短長Lsより大であり、
前記中間部は、側面視三角形状の屈曲部からなり、当該屈曲部の接地面への投影長が、前記最短長Lsより小であることを特徴とする階段昇降機。
【請求項2】
前記側面視三角形状の屈曲部における前記投影長を底辺とした時になす前記三角形の底角である前記後部接地ガイド部側の底角αと前記前部接地ガイド部側の底角βは、 傾斜角度γを有する前記階段に対して以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の階段昇降機。
γ−α≦β<90°−α (但し、α≦γ)
【請求項3】
前記屈曲部が前記階段の最上段の段鼻に位置することを検出する検出手段と、
前記軌道フレームから繰り出して当該軌道フレームの前記後部接地ガイド部を支持する後部補助輪と、
前記検出手段による検出信号に応じて、前記後部補助輪を繰り出して前記軌道フレームを傾斜せしめる機体傾斜手段と、
を備えた請求項2に記載の階段昇降機
【請求項4】
前記搭載部は、車椅子を載置する架台を有し、
前記クローラ駆動部は、所定の曲率を有するスライドレールを備えた架台ベースであって、前記架台を当該スライドレール上にスライド自在に連結する前記架台ベースを有し、
前記架台の水平からの傾斜状態を検出する傾斜検出手段と、
検出した前記架台の傾斜状態に応じて、前記架台をスライドさせることにより、前記架台の水平状態を維持する調整手段と、を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の階段昇降機。
【請求項5】
前記クローラ駆動部は、前記架台ベースを前後方向に移動自在に支持する架台フレームを有し、前記機体傾斜手段は、前記後部補助輪の繰り出しに応じて前記架台ベースを後方に移動せしめる請求項4に記載の階段昇降機。
【請求項6】
前記側面視三角形状の屈曲部における前記底角αをなす斜辺の長さは、40mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の階段昇降機。
【請求項1】
連続する2段の段鼻を結ぶ最短長がLsである階段を昇降する階段昇降機であって、
クローラベルトと、当該クローラベルトの軌道を画定する軌道フレームと、をそれぞれ左右一対備え、当該軌道フレームに沿って前記クローラベルトを駆動するクローラ駆動部と、
当該クローラ駆動部によって搬送される搭載部と、
を備え、
前記軌道フレームは、前部接地ガイド部と中間部と後部接地ガイド部とを有し、
前記前部接地ガイド部並びに前記後部接地ガイド部の接地長は、前記最短長Lsより大であり、
前記中間部は、側面視三角形状の屈曲部からなり、当該屈曲部の接地面への投影長が、前記最短長Lsより小であることを特徴とする階段昇降機。
【請求項2】
前記側面視三角形状の屈曲部における前記投影長を底辺とした時になす前記三角形の底角である前記後部接地ガイド部側の底角αと前記前部接地ガイド部側の底角βは、 傾斜角度γを有する前記階段に対して以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の階段昇降機。
γ−α≦β<90°−α (但し、α≦γ)
【請求項3】
前記屈曲部が前記階段の最上段の段鼻に位置することを検出する検出手段と、
前記軌道フレームから繰り出して当該軌道フレームの前記後部接地ガイド部を支持する後部補助輪と、
前記検出手段による検出信号に応じて、前記後部補助輪を繰り出して前記軌道フレームを傾斜せしめる機体傾斜手段と、
を備えた請求項2に記載の階段昇降機
【請求項4】
前記搭載部は、車椅子を載置する架台を有し、
前記クローラ駆動部は、所定の曲率を有するスライドレールを備えた架台ベースであって、前記架台を当該スライドレール上にスライド自在に連結する前記架台ベースを有し、
前記架台の水平からの傾斜状態を検出する傾斜検出手段と、
検出した前記架台の傾斜状態に応じて、前記架台をスライドさせることにより、前記架台の水平状態を維持する調整手段と、を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の階段昇降機。
【請求項5】
前記クローラ駆動部は、前記架台ベースを前後方向に移動自在に支持する架台フレームを有し、前記機体傾斜手段は、前記後部補助輪の繰り出しに応じて前記架台ベースを後方に移動せしめる請求項4に記載の階段昇降機。
【請求項6】
前記側面視三角形状の屈曲部における前記底角αをなす斜辺の長さは、40mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の階段昇降機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−192774(P2012−192774A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56791(P2011−56791)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000106634)株式会社サンワ (6)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000106634)株式会社サンワ (6)
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