説明

階段構造

【課題】低コストで高い強度を持ちながら、人の昇降時に隣室及び下階及びその隣室に発生する騒音を大幅に低減することができる階段構造を提供することを目的とする。
【解決手段】階段本体(10)と、前記階段本体(10)の少なくとも一方に固定される階段側板(20)と、前記階段側板(20)内に配置された第1の衝撃緩衝部材(30)とを備え、前記第1の衝撃緩衝部材(30)が壁(60)に直接的に固定されることを特徴とする階段構造(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建住宅並びに、集合住宅であっても主にメゾネットタイプのように階段が建物内に配置されるような建築物において、階段の昇降時に発生した騒音が隣室或いは下階及びその隣室に伝播するのを低減する為の、衝撃緩衝部材を用いた階段構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な階段構造の仕様においては、階段の両側の側板が壁(界壁または間仕切り壁)を介して柱へビスで固定されている。そのため、人が昇降する場合、階段踏板に加えられる衝撃が階段の側板から界壁または間仕切り壁へ直接伝播し、壁や柱を介して隣室や下階及びその隣室に騒音という形でエネルギー放射される。こうした人の昇降時に発生する騒音に対しては、特許文献1にその一形態としての階段構造が記載されている。この階段構造では、各階段踏板に夫々制振材または吸音材(符号111,112)を設置することで、階段昇降時の衝撃の緩和ないし吸音機構により騒音を低減している。また、特許文献2には、ゴム弾性材(符号23)を挟み込んだ2個のブラケット(符号21,22)を介して階段の側板(符号11)を壁面に固定することで、階段昇降時の衝撃を緩和し、発生する騒音を低減することができる階段構造が開示されている。
【特許文献1】特開2004−162450号公報(第1,3,4図)
【特許文献2】特開2007−138426号公報(第1,3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1による階段構造の場合、踏板ごとに制振材または吸音材を設置施工する必要がある為、材料費、工事費を含めた施工コストが高くなってしまう。また、特許文献2による階段構造の場合、幅の狭い階段側板の下面がブラケットを介して壁面に間接的に固定されているから、直接的に固定された一般的な階段構造と比較して、強度や耐久性の面で劣る。
【0004】
そこで、本発明は、上記の問題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、低コストで高い強度を持ちながら、人の昇降時に隣室及び下階及びその隣室に発生する騒音を大幅に低減することができる階段構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る階段構造(1)は、階段本体(10)と、前記階段本体(10)の少なくとも一方に固定される階段側板(20)と、前記階段側板(20)内に配置された第1の衝撃緩衝部材(30)とを備え、前記第1の衝撃緩衝部材(30)が壁(60)に直接的に固定されることを特徴とする。
【0006】
この階段構造(1)によれば、階段側板(20)が衝撃緩衝部材(30)を介して壁(60)に固定されるため、階段昇降時に発生する衝撃の階段側板(20)から壁(60)への伝播を緩和し、隣室及び下階及びその隣室に発生する騒音を大幅に低減することができる。
【0007】
また、階段側板(20)内の壁(60)との固定箇所に衝撃緩衝部材(30)を配置して、この衝撃緩衝部材(30)を、ブラケット等を介さずに壁(60)へ直接的に固定するため、階段構造(1)と壁(60)との固定を強固にすることができる。
【0008】
さらに、踏板ごとに制振材または吸音材を設置施工する必要がない為、材料費、工事費を含めた施工コストを低減することができる。
前記第1の衝撃緩衝部材(30)を壁(60)に取り付ける前の状態において、前記第1の衝撃緩衝部材(30)が壁(60)方向に突出しており、該突出した部分が壁(60)に当接して押圧されて弾性的に縮むように構成することができる。前記突出した部分は、少なくとも3mmとすることが好ましい。このように構成することで、階段側板(20)が壁(60)に直接接触することを防止し、階段昇降時に発生する衝撃が階段側板(20)から壁(60)への伝播することを効果的に緩和することができる。
【0009】
また、前記第1の衝撃緩衝部材(30)は、柱状の衝撃緩衝部(32)とプレート(31)とから成り、前記第1の衝撃緩衝部材(30)が階段側板(20)を貫通して配置されたときに、プレート(31)が階段側板(20)に固定されるように構成することができる。
【0010】
この場合、第1の衝撃緩衝部材(30)を簡易に製造し、取り付けることが可能である。また、プレート(31)により、第1の衝撃緩衝部材(30)の取り付け状態での強度を十分に確保することができる。
【0011】
また、前記階段構造(1)と壁(60)との間及び前記階段構造(1)と床面(70)との間の少なくとも一方に、第2の衝撃緩衝部材(40;50)を更に配置することが可能である。
【0012】
階段構造(1)と壁(60)との間に第2の衝撃緩衝部材(40)を更に配置した場合には、階段昇降時に発生する衝撃の壁(60)への伝播をより緩和させることができる。階段構造(1)と床面(70)との間に第2の衝撃緩衝部材(50)を更に配置した場合には、壁(60)への衝撃の伝播に加え、床面(70)への伝播をも緩和することができる。
【0013】
本発明に係る階段構造(1)のための衝撃緩衝部材(30)は、柱状の衝撃緩衝部(32)とプレート(31)とから成り、前記衝撃緩衝部材(30)が階段側板(20)を貫通して配置されたときに、プレート(31)が階段側板(20)に固定されることを特徴とする。
【0014】
柱状の衝撃緩衝部(32)を階段側板(20)に貫通させて、プレート(31)で階段側板(20)に固定することにより、階段昇降時に発生する衝撃の階段側板(20)から壁(60)への伝播を緩和し、騒音を低減することができる。
【0015】
また、階段側板(20)内の壁(60)との固定箇所に衝撃緩衝部材(30)を配置して、この衝撃緩衝部材(30)を、ブラケット等を介さずに壁(60)へ直接的に固定することができるため、階段構造(1)と壁(60)との固定を強固にすることができる。
【0016】
さらに、踏板ごとに制振材または吸音材を設置施工する必要がない為、材料費、工事費を含めた施工コストを低減することができる。
また、プレート(31)によって、衝撃緩衝部材(30)を階段側板(20)に強固に固定することができる。
【0017】
本発明に係る階段構造(1)のための衝撃緩衝部材(30)の製造方法は、階段構造(1)のための衝撃緩衝部材(30)の製造方法であって、プレート(31)を成形型内に配置する工程と、前記成形型内にゴム材料を導入する工程と、前記成形型内でゴム材料を加硫成形する際に、ゴム材料からなる柱状の衝撃緩衝部(32)を前記プレート(31)に加硫接着する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
この製造方法により、上記に記載した衝撃緩衝部材(30)を容易に製造することができる。
本発明に係る階段構造(1)の組立方法は、階段本体(10)と、前記階段本体(10)の少なくとも一方に固定される階段側板(20)とを有する階段構造(1)の組立方法であって、前記階段側板(20)に貫通孔(23)を設ける工程と、前記貫通孔(23)に衝撃緩衝部材(30)を挿入して固定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
この組立方法により、上述した作用効果を奏する階段構造(1)を容易に組み立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る階段構造の側面図を示す。また、この階段構造1の全体を図6及び図7に示す。図6は、隣接する居住区画SA及びSBの居住区画SAに階段構造1を配置した平面図である。図7は、図6中線VII−VIIにおける断面図を示す。
【0021】
階段構造1は、図6に示すように、踏板10aからなる複数の段ST1〜ST5を含む階段本体10と、階段本体10の両側に配置される階段の側板20とを備える。この階段構造1は、階段側板20の外側面21(図2も参照)において間仕切り壁60A及び界壁60Bに固定されるものである。図6中、間仕切り壁60Aは、同一居住区画SA内を仕切る壁であり、界壁60Bは、隣接する居住区画SAとSBとを仕切る壁である。なお、以下の説明では、適宜、間仕切り壁60A及び界壁60Bを総称して壁60として参照する。
【0022】
階段側板20の壁60への固定箇所には、図1及び図2に示すように、複数の円筒状の貫通孔23が形成されている。これらの貫通孔23には、階段側板20の内側(階段本体10側)から外側(壁60側)に向かって(図1中、紙面奥側から手前側に向かって、図2中上方から下方に向かって)、衝撃緩衝部材30が貫通して配置されている。これらの衝撃緩衝部材30がビス又はボルト34によって壁60及び柱65に固定されることで、階段構造1が衝撃緩衝部材30を介して壁60及び柱65に固定される。さらに、階段側板20の外側面21には、最上段部近傍、最下段部近傍および中央部近傍において、シート状の緩衝パッド40(図1、2参照)が配置されている。さらに、階段側板20の下端面24と床面70との間には、衝撃緩衝マット50(図1参照)が配置されている。
【0023】
図2は、階段構造1の壁60への固定箇所の詳細図であり、図1中II−II線に沿う断面図である。また、図3は、衝撃緩衝部材30の斜視図を示し、図4は、衝撃緩衝部材30の縦断面図を示す。また、図5は、緩衝パッド40の断面図を示す。
【0024】
衝撃緩衝部材30は、図3及び図4に示すように、プレート31と、プレート31の片面に固定された衝撃緩衝部32とを有する。衝撃緩衝部32は、概ね円柱状に形成された衝撃緩衝ゴムで構成され、成形時にプレート31に加硫接着されている。
【0025】
衝撃緩衝部32は、円柱状部分32aと鍔状部32bとから一体になり、鍔状部32bがプレート31に当接される。固定用のプレート31は、略矩形状であり、十分な機械的な強度を有する材質である。プレート31の材料としては、金属、非鉄金属は勿論のこと、合板などの木材、ナイロンなどの高強度プラスチックも用いることができる。プレート31の4隅に相当する位置には側板固定孔31aが形成されている。また、プレート31の略中心には、コーチスクリューボルト34(後述)が挿入される壁固定孔31bが形成されている。
【0026】
衝撃緩衝部材30の製造方法としては、例えば、プレート31を成形型内に配置し、成形型内にゴム材料を導入し、成形型内でゴム材料を加硫成形する際に、ゴム材料からなる柱状の衝撃緩衝部(32)をプレート(31)に加硫接着する方法がある。成形方法としては、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、射出圧縮成形等の何れの成形方法を用いても良い。
【0027】
このような衝撃緩衝部材30は、図2に示すように、その衝撃緩衝部32の円柱状部分32aが階段側板20の内側面22側から貫通孔23に挿入され、プレート31及び鍔状部32bが階段側板20の内側面22に当接される。この状態でビス33をプレート31の側板固定孔31aから挿入し、衝撃緩衝部32の鍔状部32bを貫通させて、プレート31及び鍔状部32bを階段側板20にねじ止めすることにより、衝撃緩衝部材30が階段側板20に固定される。
【0028】
階段構造1の組み立ては、階段側板20を階段本体10に固定した後に、上述のように衝撃緩衝部材30を階段側板20に固定することにより行う。なお、先に衝撃緩衝部材30を階段側板20に固定した後に、階段側板20を階段本体10に固定して、階段構造1を組み立てても良い。
【0029】
このように組み立てられた階段構造1を壁60及び柱65に固定する際には、図2に示すように、プレート31の中央部に開口された壁固定孔31bからコーチスクリューボルト34を挿入し、さらに衝撃緩衝部32を貫通させて、衝撃緩衝部材30を壁60及び柱65にねじ止めする。これにより、階段構造1が壁60及び柱65に固定される。
【0030】
衝撃緩衝部材30が階段側板20に固定された状態で、階段側板20が壁60及び柱65に固定される前においては、衝撃緩衝部32の円柱状部分32aの先端が階段側板20の外側面21から突出する長さは3mm以上であることが好ましい。突出する長さが3mmである場合、階段側板20が壁60及び柱65に固定されたとき、衝撃緩衝部32の円柱状部分32aの先端が壁60により押圧され弾性的に縮んで1mm程度の長さになり、階段側板20と壁60とが直接接触することが防止される。これにより、階段昇降時に発生する衝撃の階段側板20から壁60への伝播を効果的に緩和することができる。
【0031】
緩衝パッド40は、図5に示すように、フェルトシート41及び非加硫ゴムシート42とからなり、非加硫ゴムシート42側において階段側板20の外側面21に接着固定される(図1、図2参照)。階段構造1が壁60及び柱65に固定されると、緩衝パッド40は、階段側板20と壁60との間に挟まれて配置され、階段昇降時に発生する衝撃の階段側板20から壁60への伝播をさらに効果的に緩和する効果を奏する。
【0032】
また、階段側板20の下端面24と床面70との間に配置される衝撃緩衝マット50は、例えば、シート状のゴムマットとすることができる。衝撃緩衝マット50は、階段昇降時に発生する衝撃の階段側板20から床面70への伝播を緩和する機能を果たす。
【0033】
上述した衝撃緩衝部材30の衝撃緩衝部32を構成するゴム材料は、例えば、ゴム、熱可塑性樹脂、エラストマー、軟化剤、加硫剤を含む。
ゴムとしては、例えばブタジエン−スチレン系ゴム、スチレンブタジェンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルニトリルブタジェンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム及びこれらの水添物を好ましく挙げることができる。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアクリレート(EVA)、アタクチックポリプロピレン(APP)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、ABS、AS、ウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニルを好ましく挙げることができる。
【0035】
エラストマーとしては、SBS、SISを主としたスチレン系、1−2ポリブタジェン、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、二トリル系、ポリアミド系、フッ素系、シリコン系のものを好ましく挙げることができる。
【0036】
衝撃緩衝部32の衝撃緩衝ゴムの衝撃緩衝性能としては、JIS K 6301に規定される試験方法に基づいて、硬度30Hs以上80Hs以下であることが好ましく、硬度45Hs以上70Hs以下であることがより好ましい。硬度が45Hsよりも低いと、階段昇降時の衝撃緩衝ゴムの変位が大きく、構造体としての強度に不安感が発生してしまう。また、硬度が70Hsよりも高いと、階段昇降時の衝撃緩衝ゴムの衝撃緩衝効果が低下してしまう。
【実施例1】
【0037】
実施例1の階段構造試験体では、天然ゴム、SBR、炭酸カルシウム、軟化剤、カーボン、加硫剤の混合物を加硫成型することで硬度50Hsの衝撃緩衝ゴム(衝撃緩衝部材30の衝撃緩衝部32)を作成した。また、この工程で、緩衝ゴムを固定用金属プレート31と加硫接着して、衝撃緩衝部32及びプレート31からなる衝撃緩衝部材30を作成した。
【0038】
こうして作成した衝撃緩衝部材30を上述したように階段側板20に固定し、更に階段側板20と間仕切り壁60Aまたは界壁60Bとの間に、図5に示す緩衝パッド40を介装した上で、固定用金属プレート31側からφ6.5のコーチスクリューボルト34を用い、間仕切り壁60Aまたは界壁60Bを介して柱65へ固定した。また、階段側板20の厚さは25mm、衝撃緩衝部材30の衝撃緩衝部32の長さは28mmとし、壁固定前において衝撃緩衝部32の円柱状部分32aが階段側板20から突出する長さが3mm、壁固定後において突出する長さが1mmとした。また、階段側板20と床面70との間には厚さ9mm、幅25mmの加硫ゴムマット50を設置し、図6及び図7に示す階段構造試験体1を作成した。
【0039】
尚、緩衝パッド40は、天然ゴム、変性ポリプロピレン、SIS、EVA、炭酸カルシウム、軟化剤、カーボンの混合物を、厚み0.8mmに成型加工して作成した非加硫ゴムシート42に、ポリエチレンテレフタレート繊維を原料とする厚み3.0mm、面重量90g/mのフェルトシート41を貼り合わせてなるものである。
【比較例1】
【0040】
実施例1の階段構造試験体1から衝撃緩衝部材30、緩衝パッド40、加硫ゴムマット50を除いたごく一般的な階段構造を比較例1の階段構造試験体とする。

実験室での防音性能試験)
実施例1及び比較例1の階段構造試験体に対して防音性能試験を実験室にて行った。実験室構造を図6及び7に示す。図6及び図7中、居住区画SAと居住区画SBとの間には、居住区画SAと居住区画SBとを区分するための界壁60Bが配置されている。居住区画SB内には、界壁60Bに隣接して室Bが配置されている。居住区画SA内には、界壁60Bに隣接して階段構造1が配置されている。階段構造1の一方の階段側板20は界壁60Bに固定されており、他方の階段側板20は間仕切り壁60Aに固定されている。間仕切り壁60Aを挟んで階段構造1の反対側には、室Aが配置されている。
【0041】
階段への衝撃源として、JIS A 1418に規定される標準重量衝撃源であるインパクトボールを、階段本体10の階段踏板10a(例えば、段ST5)から200mmだけ更に高い位置から落下させた場合と、実際に人が歩いて降りた場合に発生する騒音(音圧レベルdB)を室A及び室Bに設置したマイクにより計測した。
【0042】
防音性能は、JIS Z 8731に規定されている環境騒音の表示・測定方法に準拠して行い、発生した騒音レベルdB(A)値及び室内における騒音等級(N値)にて評価を行った。尚、測定条件は、動特性FAST、最大値レベルである。その結果を図8〜11及び表1に示す。
【0043】
図8は、インパクトボール落下の場合の間仕切り壁60Aを介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を、実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。図9は、インパクトボール落下の場合の界壁60Bを介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を、実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。図10は、実際に人が歩いて降りた場合の間仕切り壁60Aを介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を、実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。図11は、実際に人が歩いて降りた場合の界壁60Bを介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を、実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。
【0044】
図中、白丸が上記実施例1の測定結果を示し、黒丸が上記比較例1の測定点を示す。図8中、右下がりの曲線N−35〜N−80は、騒音等級を決定する基準となるN値が一定のN曲線(基準曲線)を示す。即ち、N−35とは、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)の変化に関わらず、N値が35である曲線を示し、その他も同様である。N値は、日本建築学会「建築物の遮音性能規準と設計指針」の中で示されたもので、室内騒音の基準を表す。N値による騒音の評価は、まず、対象騒音を周波数分析して各バンドレベル(音圧レベルdB)を求め、バンドレベルをN曲線上に記入して、全てのバンドにおいて音圧レベルdB値が下回る最小の基準曲線(N曲線)を求める。最小の基準曲線を求める際には、各バンドの値をそれぞれ2dB減ずることができる。得られたN値を適用等級(騒音等級)で評価する。騒音等級は、N値及び建築物の種類によって決まる等級である。同一種類の建築物では、N値における5の改善は、騒音等級で1ランク分防音性能の向上に対応する。
【0045】
図8において、比較例1(黒丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=250Hz、音圧レベルdB=84dBであり、この値が下回る最小の基準曲線はN−80である。一方、実施例1(白丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=125Hz、音圧レベルdB=82dBであり、この値が下回る最小の基準曲線はN−70である。よって、実施例1は、比較例1に比べて、N値で10(騒音等級で2ランク分)だけ防音性能が向上している。
【0046】
図9において、比較例1(黒丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=250Hz、音圧レベルdB=76dBであり、この値が下回る最小の基準曲線はN−70である。一方、実施例1(白丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=250Hz、音圧レベルdB=71dBであり、この値が下回る最小の基準曲線はN−65である。よって、実施例1は、比較例1に比べて、N値で5(騒音等級で1ランク分)だけ防音性能が向上している。
【0047】
図10において、比較例1(黒丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=250Hz、音圧レベル=67dBであり、2dBを減じた65dBの点が下回る最小の基準曲線はN−60である。一方、実施例1(白丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=250Hz、音圧レベル=58dBであり、2dBを減じた56dBの点が下回る最小の基準曲線はN−50である。よって、実施例1は、比較例1に比べて、N値で10(騒音等級で2ランク分)だけ防音性能が向上している。
【0048】
図11において、比較例1(黒丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=250Hz、音圧レベル=64dBであり、この値が下回る最小の基準曲線はN−60である。一方、実施例1(白丸)の場合、N値増加方向に最大となる測定点は、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)=63Hz、音圧レベル=72dBであり、この値が下回る最小の基準曲線はN−50である。よって、実施例1は、比較例1に比べて、N値で10(騒音等級で2ランク分)だけ防音性能が向上している。
【0049】
表1には、騒音レベルdB(A)値と、上記で説明したN値(騒音等級)とを合わせて示す。ここで、騒音レベルdB(A)値は、騒音の物理的な音の強さを示す音圧レベルdBを、人の聴感に合わせて補正するフィルタを通して聴覚補正した物理量である。
【0050】
表1より、実施例1の方が比較例1よりも、騒音レベルdB(A)、N値(騒音等級)ともに小さいから、本発明の衝撃緩衝部材を用いると、騒音の低減に効果があることが分かる。例えば、実際に人が歩いて降りた場合において、間仕切り壁を介した騒音は、騒音レベルdB(A)で62.2dB(比較例1)から54.3dB(実施例1)まで7.9dBだけ減少している。また、実際に人が歩いて降りた場合において、界壁を介した騒音は、騒音レベルdB(A)で59.3dB(比較例1)から51.1dB(実施例1)まで8.2dBだけ減少している。体感的には10dBの減少で半分程度の音に感じるので、体感する騒音がかなり低減されることが分かる。また、実際に人が歩いて降りた場合において、間仕切り壁及び界壁を介した騒音はともに、N値でN−60(比較例1)からN−50(実施例1)まで10(騒音等級で2ランク分)だけ防音性能が向上していることがわかる。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る階段構造の側面図。
【図2】階段構造の壁への固定箇所の詳細図。
【図3】衝撃緩衝部材の斜視図。
【図4】衝撃緩衝部材の縦断面図。
【図5】緩衝パッドの側面図。
【図6】階段構造試験体が配置された実験室構造の平面図。
【図7】階段構造試験体が配置された実験室構造の断面図。
【図8】インパクトボール落下の場合の間仕切り壁を介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。
【図9】インパクトボール落下の場合の界壁を介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。
【図10】実際に人が歩いて降りた場合の間仕切り壁を介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。
【図11】実際に人が歩いて降りた場合の界壁を介した防音性能試験結果を示すもので、1/1オクターブバンド中心周波数(Hz)に対する音圧レベル(dB)の変化を実施例1及び比較例1の場合において比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 階段構造
10 階段本体
10a 踏板
20 階段側板
21 外側面
22 内側面
23 貫通孔
30 衝撃緩衝部材
31 プレート
31a 側板固定孔
31b 壁固定孔
32 衝撃緩衝部
32a 円柱状部分
32b 鍔状部
33 ビス
34 コーチスクリューボルト
40 緩衝パッド
41 フェルトシート
42 非加硫ゴムシート
50 緩衝マット
60 壁
60A 間仕切り壁
60B 界壁
65 柱
70 床面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段構造(1)において、
階段本体(10)と、
前記階段本体(10)の少なくとも一方に固定される階段側板(20)と、
前記階段側板(20)内に配置された第1の衝撃緩衝部材(30)と、
を備え、
前記第1の衝撃緩衝部材(30)が壁(60)に直接的に固定されることを特徴とする、階段構造。
【請求項2】
請求項1に記載の階段構造(1)において、
前記第1の衝撃緩衝部材(30)を壁(60)に取り付ける前の状態において、前記第1の衝撃緩衝部材(30)が壁(60)方向に突出しており、該突出した部分が壁(60)に当接して押圧されて弾性的に縮むことを特徴とする、階段構造。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかに記載の階段構造(1)において、
前記第1の衝撃緩衝部材(30)は、柱状の衝撃緩衝部(32)と、プレート(31)とから成り、
前記第1の衝撃緩衝部材(30)が階段側板(20)を貫通して配置されたときに、プレート(31)が階段側板(20)に固定されることを特徴とする、階段構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の階段構造(1)において、
前記階段構造(1)と壁(60)との間及び前記階段構造(1)と床面(70)との間の少なくとも一方に、第2の衝撃緩衝部材(40;50)を更に配置したことを特徴とする、階段構造。
【請求項5】
階段構造(1)のための衝撃緩衝部材(30)であって、
前記衝撃緩衝部材(30)は、柱状の衝撃緩衝部(32)と、プレート(31)とから成り、
前記衝撃緩衝部材(30)が階段側板(20)を貫通して配置されたときに、プレート(31)が階段側板(20)に固定されることを特徴とする衝撃緩衝部材(30)。
【請求項6】
階段構造(1)のための衝撃緩衝部材(30)の製造方法であって、
プレート(31)を成形型内に配置する工程と、
前記成形型内にゴム材料を導入する工程と、
前記成形型内でゴム材料を加硫成形する際に、ゴム材料からなる柱状の衝撃緩衝部(32)を前記プレート(31)に加硫接着する工程と、
を含むことを特徴とする衝撃緩衝部材(30)の製造方法。
【請求項7】
階段本体(10)と、前記階段本体(10)の少なくとも一方に固定される階段側板(20)とを有する階段構造(1)の組立方法であって、
前記階段側板(20)に貫通孔(23)を設ける工程と、
前記貫通孔(23)に衝撃緩衝部材(30)を挿入して固定する工程と、
を含むことを特徴とする階段構造(1)の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−71048(P2010−71048A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243002(P2008−243002)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(596025652)埼玉ゴム工業株式会社 (6)
【出願人】(591093726)セブン工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】