説明

障害物撤去工法および装置

【課題】既存杭やその他の地中に残置された障害物を撤去する工法およびそれに使用する装置であり、ケーシングを有効に活用して、ハンマーグラブでの掘削と、カッターでの切断を効率的かつ確実に行うことにより、合理的な施工が可能となる。
【解決手段】先端に掘削刃2を有する全周回転ケーシング1の内側に長さ方向にガイドレール4を取付け、ケーシング1を回転させて地中に圧入し、ガイドレール4に沿ってハンマーグラブ7をケーシング1内に下降させて掘削を行い、地中障害物13の側方を掘削後、ハンマーグラブ7を引上げ、同じガイドレール4に沿ってカッター10をケーシング1内に下降させ、ケーシング1を回転させて障害物13を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭やその他の地中に残置された障害物を撤去する工法およびそれに使用する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部の再開発や建築物の建て替え等においては、既存の建築物の地上部分の解体と共に、この建築物を支持していた既設地中杭や地下部分の撤去を行う。
【0003】
既設地中杭を例にとると、長期間にわたって地中に埋設された既設地中杭は、地盤に固着安定化されているため、撤去するにあたっては、その既設地中杭と杭周地盤との間の摩擦抵抗を減少させる必要がある。
【0004】
既設地中杭の撤去方法として、下記非特許文献1に示すように、ケーシング先端にカッタービットを取り付け全周回転により地中障害物を切削撤去する地中障害撤去工法(MRO工法)が知られている。
【非特許文献1】“三菱建設株式会社技術研究所”、[online]、平成14年1月、社団法人 電力土木技術協会、[平成20年7月9日検索]、インターネット<URL:http://www.jepoc.or.jp/pub/1401/1401-34.htm>
【0005】
この非特許文献1に提案された地中障害撤去工法を用いた既設地中杭の撤去方法は、既設地中杭の外周を取り囲むように配設したケーシング(チューブ)を地中に掘進させながらケーシングチューブ内の既設地中杭の周辺の土砂をハンマーグラブにて排土することによって、既設地中杭と杭周地盤との間の摩擦抵抗を減少させた後に、既設地中杭を地上に引き上げる方法であると記載されている。
【0006】
また、下記特許文献1は前記非特許文献1の問題点を解決するものとして提案されたものである。すなわち、非特許文献1の既設地中杭の撤去方法は、既設地中杭の撤去に多くの日数と手間とを要するとして、圧力流体噴射口から噴射させた圧力流体によって杭周地盤が流動化あるいは泥状化することで低コスト化かつ容易化を実現しよとするものである。
【特許文献1】特開2007−332559号公報
【0007】
特許文献1は、地中に埋設されたコンクリート杭の杭径よりも大径な内径を有する掘削刃物を下端に備え、圧力流体噴射口を先端部分に設けたケーシングチューブを、そのコンクリート杭の外周を取り囲むように全周回転式掘削機械にセットし、圧力流体噴射口から高圧水を噴射させながら杭周地盤を掘削し、そのコンクリート杭を地上に引き上げるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記非特許文献1の地中障害撤去工法(MRO工法)では、特許文献1の図13等にあるように、ハンマーグラブはクローラクレーンから吊下されて吊り降ろされるだけであり、ケーシングチューブ内の既設地中杭の周辺の土砂をそのハンマーグラブを用いて排土するのも位置決めその他で不安定である。
【0009】
また既設地中杭の切断はケーシングチューブで鉛直方向に切断するものであり長いものを長い方向に切断するので、効率がきわめて悪い。
【0010】
特許文献1は、コンクリート杭の破砕としては、地上のクローラクレーンから吊下された回転バケットを吊り降ろし、その回転バケットを用いてコンクリート杭を短尺にねじ切るもので、このような回転バケットを別途吊り降ろして作業しなければならないのは、面倒で手間のかかる作業となる。
【0011】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、ケーシングを有効に活用して、ハンマーグラブでの掘削と、カッターでの切断を効率的かつ確実に行うことにより、合理的な施工が可能となる障害物撤去工法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記目的を達成するため、障害物撤去工法としては、第1に、先端に掘削刃を有する全周回転ケーシングの内側に長さ方向にガイドレールを取り付け、ケーシングを回転させて地中に圧入し、ガイドレールに沿ってハンマーグラブをケーシング内に下降させて掘削を行い、地中障害物の側方を掘削後、ハンマーグラブを引上げ、同じガイドレールに沿ってカッターをケーシング内に下降させ、ケーシングを回転させて地中障害物を切断することを要旨とするものである。
【0013】
第2に、ガイドレールは下端にストッパーを設け、ハンマーグラブおよびカッターはこのストッパーに当接するまで、下降させること、第3に、カッターは、ケーシングの内周に対応する大円弧辺に対して内側に湾曲する小円弧辺により略二等辺三角形状の水平板体によるものであり、小円弧辺の結合角部近傍に刃を形成してなること、第4に、カッターは、突起長さの異なるものを複数準備し、突起長さの短いものから順次長いものへ変更して複数回下降させて、地中障害物を切断することを要旨とするものである。
【0014】
障害物撤去装置としては、先端に掘削刃を有し、内側に長さ方向にガイドレールを取り付けた全周回転可能なケーシングと、ガイドレール係合部を設け、この係合部によりケーシングのガイドレールに沿って下降可能なハンマーグラブと、ガイドレール係合部を設け、ケーシングの内周に対応する大円弧辺に対して内側に湾曲する小円弧辺により略二等辺三角形状の水平板体によるものであり、小円弧辺の結合角部近傍に刃を形成してなるカッターとからなることを要旨とするものである。
【0015】
請求項1および請求項5記載の本発明によれば、ます、先端に掘削刃を有する全周回転ケーシングを地中に挿入し、ついで、ガイドレールに沿ってハンマーグラブをケーシング内に下降させて掘削を行うことができるので、ガイドレールを介してハンマーグラブをケーシング内側に取り付けた状態で、ハンマーグラブにより安定した掘削を行うことができる。また、カッターをケーシング内に下降させるのも同じガイドレールを用いることができ、カッターでの地中障害物の切断はケーシングを回転させることで、ガイドレールを介して行うことができる。
【0016】
請求項2記載の本発明によれば、前記作用に加えて、ガイドレールは下端にストッパーを設けたので、ハンマーグラブおよびカッターは下降をこのストッパーに当接するまでおこなうことで下降位置の位置決めが簡単にできる。
【0017】
請求項3記載の本発明によれば、ケーシング内に設置するものとして、しかも、ケーシングの正逆いずれの回転でも切断可能なものとして、合理的な形状のカッターとなるものである。
【0018】
請求項4記載の本発明によれば、カッターは、突起長さの異なるものを複数準備し、突起長さの短いものから順次長いものへ変更して複数回下降させて、地中障害物を切断することで、確実に切断を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように本発明の障害物撤去工法および装置は、ケーシングを有効に活用して、ハンマーグラブでの掘削と、カッターでの切断を効率的かつ確実に行うことにより、合理的な施工が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の障害物撤去工法の掘削工程を示す縦断正面図、図2は同上横断平面図で、図中1は図7にも示すように先端周方向に間隔を存して掘削刃2を有する全周回転ケーシング(チューブ)である。
【0021】
ケーシング(チューブ)1の駆動は、図6に示すように全周回転式掘削機械3にセットして行い、この全周回転式掘削機械3を用いて円周方向に全周回転させながら地盤に回転圧入して掘削する。
【0022】
本発明はケーシング1の内側面でこのケーシング1の長さ方向に沿ってガイドレール4を取り付けた。図7にも示すように、このガイドレール4は鉄道の軌道で用いるレールと同じもの、若しくは同じような形状のものでよい。
【0023】
ガイドレール4の下端には鉄板の係止片などによるストッパー5を形成し、このガイドレール4に溝をもって係合する部材が下端から抜け出ないようにする。ストッパー5の位置はケーシング1の内面下端より50cm程度上方である。
【0024】
図中6はケーシング1の内側面に設けるインナーカッターである。
【0025】
図中7はハンマーグラブであるが、このハンマーグラブ7の背後で上下方向に図8に示すような係合溝9を形成したガイドレール係合部として細長のガイド8を取り付ける。
【0026】
図3は本発明の障害物撤去工法の掘削工程を示す縦断正面図、図4は同上横断平面図で、図中10はガイドレール4の係合部としての係合溝11を形成してガイドレール4に沿ってケーシング1内を下降可能なカッターで、このカッター10は、ケーシング1の内周に対応する大円弧辺10aに対して内側に湾曲する小円弧辺10bにより略二等辺三角形状(エイのような形状)の水平板体によるものであり、小円弧辺10b同士の結合角部近傍に刃12を形成してなる。この刃12は左右の小円弧辺10bに設けることで、左右に存在するものとなる。
【0027】
なお、前記係合溝11は直接カッター10に設けてもよいが、前記図8に示すような係合溝9を形成したガイドレール係合部として細長のガイド8をカッター10に立ち上げるようにしてもよい。
【0028】
このような細長のガイド8を介在させてガイドレール4に対してカッター10を昇降自在に係合させることで、カッター10はガイドレール4に必要長さを確保してしっかりと係合でき、ケーシング1の回転とともにカッター10を動かして切断作用を行わせる場合に好適なものとなる。
【0029】
図示は省略するが、カッター10は、大きさの異なるもの、すなわち、突起長さの異なるものを複数準備しておく。
【0030】
以上のように本発明の障害物撤去装置としては、先端に掘削刃2を有し、内側に長さ方向にガイドレール4を取り付けた全周回転ケーシング1と、ガイドレール4の係合部を設け、この係合部によりケーシング1のガイドレール4に沿って下降可能なハンマーグラブ7と、ガイドレール4への係合部を設け、ケーシングの内周に対応する大円弧辺10aに対して内側に湾曲する小円弧辺10bにより略二等辺三角形状の水平板体によるものであり、小円弧辺の結合角部近傍に刃11を形成してなるカッター10とからなる。
【0031】
次に、この本発明の障害物撤去装置を用いて行う本発明の障害物撤去方法について説明する。
【0032】
図1、図2に示すように、図中13が既設地中杭その他の障害物であるとして、機械据付工程で全周回転式掘削機械3にセットされたケーシング1を全周回転式掘削機械3を用いて円周方向に全周回転させながら地盤に回転圧入する。
【0033】
掘削刃2を下端に備えたケーシング1は、このケーシング1を地中に掘進させた時にこのケーシング1の内壁と障害物13との間にハンマーグラブ7を挿入する空間が確保されるように全周回転式掘削機械3にセットする。
【0034】
ケーシング1の圧入とともに通常のハンマーグラブを吊り降ろして排土を行い、掘削を行う。
【0035】
掘削が進むにつれて、下端に掘削刃2を備えたケーシング1の上部に他のケーシングチューブを順次継ぎ足して、掘削坑の内壁の崩落を防止しながら掘削を続ける。
【0036】
地中の障害物13に遭遇したならば、ハンマーグラブで掘削を止め、回転圧入れだけで、障害物13の外周を取り囲むようにケーシング1を地中に掘進させる。
【0037】
このようにケーシング1の先端部分を先行させたならば、ガイドレール4に沿って小型のハンマーグラブ7をケーシング1内に下降させて掘削を行い、障害物13の側方を掘削する。なお、障害物13の側方でハンマーグラブ7の位置を変更するにはケーシング1を回転させればよい。
【0038】
掘削後、ハンマーグラブ7をガイドレール4に沿って引上げ、同じガイドレール4に沿ってカッター10をケーシング1内に下降させる。カッター10は前記ハンマーグラブ7での掘削した空所に入り込み、ガイドレール4の下端のストッパー5の所でとまる。
【0039】
この状態でケーシング1を回転させて図5に示すように障害物13を切断する。
【0040】
前記のようにカッター10は、突起長さの異なるものを複数準備しているので、突起長さの短いものから順次長いものへ変更して複数回下降させて、地中の障害物13を切断する。
【0041】
高さ1m程度に切断された切断片は通常のハンマーグラブ7等で引き上げる。
【0042】
その後、再度ケーシング1の回転圧入にもどり、障害物13が無くなるまで、複数回繰り返す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の障害物撤去工法の掘削工程を示す縦断正面図である。
【図2】本発明の障害物撤去工法の掘削工程を示す横断平面図である。
【図3】本発明の障害物撤去工法の掘削工程を示す縦断正面図である。
【図4】本発明の障害物撤去工法の掘削工程を示す横断平面図である。
【図5】本発明の障害物撤去工法のカターでの切断を示す横断平面図である
【図6】全周回転式掘削機械の正面図である。
【図7】ケーシングの斜視図である。
【図8】ケーシング内のガイドレールの斜視図である。
【図9】ガイドレールのガイドの斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1…ケーシング 2…掘削刃
3…全周回転式掘削機械 4…ガイドレール
5…ストッパー 6…インナーカッター
7…ハンマーグラブ 8…ガイド
9…係合溝 10…カッター
10a…大円弧辺 10b…小円弧辺
11…係合溝 12…刃
13…障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に掘削刃を有する全周回転ケーシングの内側に長さ方向にガイドレールを取り付け、ケーシングを回転させて地中に圧入し、ガイドレールに沿ってハンマーグラブをケーシング内に下降させて掘削を行い、地中の障害物の側方を掘削後、ハンマーグラブを引上げ、同じガイドレールに沿ってカッターをケーシング内に下降させ、ケーシングを回転させて障害物を切断することを特徴とする障害物撤去工法。
【請求項2】
ガイドレールは下端にストッパーを設け、ハンマーグラブおよびカッターはこのストッパーに当接するまで、下降させる請求項1記載の障害物撤去工法。
【請求項3】
カッターは、ケーシングの内周に対応する大円弧辺に対して内側に湾曲する小円弧辺により略二等辺三角形状の水平板体によるものであり、小円弧辺の結合角部近傍に刃を形成してなる請求項1または請求項2記載の障害物撤去工法。
【請求項4】
カッターは、突起長さの異なるものを複数準備し、突起長さの短いものから順次長いものへ変更して複数回下降させて、地中障害物を切断する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の障害物撤去工法。
【請求項5】
先端に掘削刃を有し、内側に長さ方向にガイドレールを取り付けた全周回転可能なケーシングと、ガイドレール係合部を設け、この係合部によりケーシングのガイドレールに沿って下降可能なハンマーグラブと、ガイドレール係合部を設け、ケーシングの内周に対応する大円弧辺に対して内側に湾曲する小円弧辺により略二等辺三角形状の水平板体によるものであり、小円弧辺の結合角部近傍に刃を形成してなるカッターとからなることを特徴とする障害物撤去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−65405(P2010−65405A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230671(P2008−230671)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(508273407)株式会社カネケン (3)
【Fターム(参考)】