説明

隠しマーク付き容器

【課題】レトルト処理を行った場合でも白化や変色がなく、また容器が摺擦された場合にも影響を受けることがなく、容器の美観に優れ、透明で紫外線による解像度の高い隠しマーク付き容器を提供する。
【解決手段】容器1外面に少なくとも仕上げニス層5が形成されている容器1において、前記仕上げニス層5よりも下に、隠しマーク用インク層3が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工程や流通経路の追跡等用の隠しマークが形成された容器に関するものであり、より詳細には、レトルト殺菌による白化や変色の発生が防止されており、透明で紫外線による解像度の高い隠しマークが形成された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製造工程や流通経路の追跡や、偽造品の防止対策のために、紫外線を照射する等特別な操作を行うことにより視認し得る隠しマークを有する容器は知られている。
このような隠しマークは、例えば、レーザで塗膜や金属を削って印字したものや(特許文献1)、或いは紫外線を照射すると蛍光発光し、視認可能になるインクジェット印刷用インキを用いてマーキングすることにより行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−63730号公報
【特許文献2】特開2004−59831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーザで刻印された隠しマークは、外表面からの反射光により凹凸が判読しやすいことから外観特性に劣り、またレーザで容器に刻印する際にピンホールが発生する等の欠点がある。
また、紫外線照射により視認可能なインクジェット印刷インキを用いて隠しマークを形成する場合には、隠しマークが施された容器がレトルト殺菌等の高温高湿度条件下におかれると、樹脂劣化による白化や着色により、隠しマークが通常の状況(可視光線下)で視認されてしまう場合が生じた。また上記特許文献2に記載のインクジェット印刷インキを用いた場合には、レトルト殺菌による白化等の発生が軽減可能な組成を有しているものの、隠しマークは容器最表面に形成されているため、レトルト殺菌による影響を避けることができず、また容器表面に形成された隠しマークが搬送時に擦れることにより、隠しマークを確実に表示できないおそれがある。
隠しマークが通常の使用状態で視認可能になることは、容器外観の美観が強く要求される、化粧品用途の容器や或いは菓子用途等に多く用いられる美術缶では特に問題であることから、これらの容器に関しては隠しマークが付与されない場合が多かった。
【0005】
従って本発明の目的は、レトルト処理を行った場合でも白化や変色がなく、また容器が摺擦された場合にも影響を受けることがなく、可視光線下での不可視性に優れ、透明で紫外線による解像度の高い隠しマーク付き容器を提供することである。
本発明の他の目的は、従来隠しマークを付与することが困難であった化粧品用途の容器や美術缶等にも適用可能な外観特性に優れた隠しマーク付き容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、容器外面に少なくとも仕上げニス層が形成されている容器において、前記仕上げニス層よりも下に、隠しマーク用インク層が形成されていることを特徴とする隠しマーク付き容器が提供される。
本発明の隠しマーク付き容器においては、
1.仕上げニス層及び隠しマーク用インク層の間に印刷層が形成されていること、
2.隠しマーク用インク層が、スチレン系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくとも1種から成る樹脂(a)、蛍光着色料(b)、導電剤(c)及び有機溶剤(d)から成るインク組成物から形成されていること、
3.樹脂(a)が、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂であること、
4.隠しマーク用インク組成物が、ワックスを含有しないこと、
5.隠しマーク用インク組成物が、樹脂(a)を固形分基準で5乃至25重量%の量で含有すること、
6.容器がシームレス缶であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の隠しマーク付き容器においては、容器外面に少なくとも仕上げニス層が形成されている容器において、前記仕上げニス層よりも下に、隠しマーク用インク層が形成されていることが重要な特徴である。
すなわち、従来の隠しマークは容器最表面に形成されていたことから、レトルト殺菌による白化や変色が低減されたインクを用いて隠しマークを形成しても、レトルト殺菌の影響を直接受けてしまうことから、確実に白化や変色を防止することは困難であったが、本発明の隠しマーク付き容器は、隠しマーク用インク層を仕上げニス層よりも下方に形成しているので、レトルト殺菌による影響を軽減することが可能であり、白化や変色を確実に防止できるだけでなく、レトルト殺菌に起因するインク成分の劣化や溶出というような問題が生じることもない。
しかも従来の隠しマークは容器表面に付加的に形成されていたことから、隠しマーク用インクは室温で乾燥させただけであったのに対し、本発明の隠しマーク用インク層は、隠しマーク用インク層を形成した後に塗布される仕上げニスを硬化させるために、焼付け工程を経ることから、隠しマーク用のインクも同時に熱硬化させることが可能であり、これによりインクの重合度が進み、レトルト殺菌による白化や変色を有効に防止することが可能になる。
【0008】
本発明の隠しマーク付き容器においては、隠しマークが仕上げニスで被覆されていることから、隠しマークの印字の凹凸が容器表面に出ないため反射光等によって隠しマークが判読されてしまうこともなく、また容器の搬送等の際に、容器同士が接触することによって擦れてしまうことも有効に防止されている。
更に隠しマークが仕上げニスや印刷層よりも下方に位置していても、紫外線を照射することにより鮮明に隠しマークを視認することができる。
上記のように本発明の隠しマーク付き容器は、可視光線下での通常の使用状態で判読されることがなく(以下、この効果を「不可視性」ということがある)、しかも隠しマークの印字の凹凸が容器表面にないことから、容器の外観特性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の容器側壁の断面構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(層構成)
図1は、本発明の隠しマーク付き容器の容器側壁の断面構造の一例を示す図である。
本発明の隠しマーク付き容器の容器を構成する基材1の上に、ベースコート層2が形成され、このベースコート層2上にパターン化された隠しマーク用インク層3が形成される。隠しマーク用インク層3上に印刷層4が形成され、印刷層4上に仕上げニス層5が形成されている。
隠しマーク用インク層をベースコート層よりも上に設けることにより、例えば顔料入りのベースコートを施した場合にも紫外線ライト下での隠しマークの判読性を低下させることがない。また製缶ロット管理のために隠しマークを使用する場合には、最終工程に近い工程で印字することが好ましいことから、ベースコート層上に形成することが好ましい。また印刷層よりも下に隠しマーク用インク層を形成することにより、マークの隠れ性が向上すると共に、インクジェット装置で隠しマークを印字した後に、曲面印刷機で印刷と仕上げニスを連続で設けることができるため、製造効率を上げることができる。
【0011】
本発明の隠しマーク付き容器においては、容器外面に少なくとも仕上げニス層が形成されている容器において、仕上げニス層よりも下に、隠しマーク用インク層が形成されていればよく、図1に示すようにベースコート層上に形成される以外に、ベースコート層の下に隠しマーク用インク層が形成されていてもよいし、或いは印刷層の上に隠しマーク用インク層が形成されていてもよい。また、容器外面に印刷ラベルを巻き回し熱融着させたのちその外面に隠しマーク用インク層と仕上げニス層が順次形成されていてもよい。
また印刷層は図1に示すベタ印刷のみならず、印刷のパターンによって部分的に形成されているものであっても勿論よく、従来、容器の分野で使用されている印刷インキ及び印刷方法を採用することができる。
また基材の材質によっては、図1に示すように、ベースコート層及び/又は印刷層を必ずしも有していてもいなくてもよく、基材上に直接隠しマーク層が形成されていてもよいし、或いは後述するようにベースコート層の代わりに、樹脂被覆や表面処理層の上、あるいは直接金属面上に隠しマーク層が形成されていてもよい。
【0012】
(隠しマーク用インク組成物)
本発明においては、隠しマークを形成するインク組成物として、スチレン系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくとも1種から成る樹脂(a)、蛍光着色料(b)、導電剤(c)及び有機溶剤(d)から成るインク組成物を用いることが好ましい。
かかるインク組成物は、透明で、可視光線下では視認することができないが紫外線を照射することにより視認可能な隠しマークを形成することができると共に、レトルト殺菌処理等の高温高湿条件下での熱処理による白化や変色が低減され、前述したように、仕上げニス層よりも下に隠しマーク層を形成することと相俟って、レトルト処理による白化或いは変色を有効に防止することができるものである。
【0013】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−マレイン酸系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂等を挙げることができる。
アクリル系樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。
エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂を臭素等のハロゲンにより置換した難燃性エポキシ樹脂、或いはこれらのエポキシ樹脂の末端にあるエポキシ基を各種封鎖剤で封鎖した末端封鎖エポキシ樹脂を挙げることができる。
ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸やイソフタル酸あるいは脂肪族2塩基酸などの2塩基酸類と各種エチレングリコールやプロピレングリコールなどの各種2価アルコール類との組み合わせからなる樹脂を挙げることができる。このようなポリエステル樹脂の代表的なものとしてバイロン(東洋紡社)やエリテール(ユニチカ社)などの商品名で市販されているものが入手できる。無論これらに限定されるものではない。
【0014】
インク組成物のバインダー樹脂である樹脂(a)としては、スチレン系樹脂、特にスチレン−マレイン酸共重合樹脂を好適に使用することができる。すなわち、スチレン−マレイン酸樹共重合樹脂に比して、アクリル系樹脂は密着性に劣る傾向があり、エポキシ系樹脂は一部仕上げニスの種類によっては可視光線下での不可視性にやや劣る傾向があることから、スチレン−マレイン酸樹脂、特にC2〜C18までのアルコールでエステル化されたスチレン−無水マレイン酸共重合樹脂を用いることが好適であり、これにより可視光線下での不可視性、及び隠しマークの密着性がより向上される。
尚、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂に、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂を混合して使用することも勿論できる。
これらのバインダー樹脂は本発明の効果を最大に発揮するにあたって有効であるが、かならずしもこれらに限定されるものではない。所定の加熱により劣化変色しない樹脂ならばいずれでも使用できる。例えば熱安定化変性ロジン樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、変性テルペン樹脂、塩ビ共重合樹脂、種々アクリル共重合樹脂、アミノ樹脂など、これらは単独あるいは上に挙げた樹脂と併用することもできる。熱硬化型ポリエステル、熱硬化型エポキシエステル、エポキシフェノール、エポキシアクリルや熱硬化型アクリル、非黄変型ウレタン塗料など一般的に焼付け塗料分野で使用される組成物なども使用することができる。
【0015】
また上記樹脂成分(a)に粘稠剤を兼ねたセルロース系樹脂を配合することにより、レトルト殺菌処理における耐白化性が向上するが、セルロース系樹脂を配合すると、仕上げニスの焼付けの際にインクが黄変しやすい傾向があることから、セルロース系樹脂を配合する場合には、樹脂(a)成分中3重量%以下の量で配合することが望ましい。
セルロース系樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げることができる。
【0016】
蛍光着色料(b)としては、従来より隠しマーク用インク組成物に使用されていた蛍光着色料を使用することができ、例えば4,4’−ビス(トリアジン−2−イルアミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体等のスチルベン誘導体であって、トリアジニル基が、適当な置換体、例えば、アニリノ、スルファニル酸、メタニル酸、メチルアミノ、N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ、ビス(ヒドロキシエチルアミノ)、モルフオリノ、ジエチルアミノ等の置換体で置換されているスチルベン誘導体;2−(スチルベン−4−イル)ナフトトリアゾール及び2−(4−フェニルスチルベン−4−イル)ベンゾオキサゾールのようなモノ(アゾール−2−イル)スチルベン;4,4’−ビス(トリアゾール−2−イル)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸等のビス(アゾール−2−イル)スチルベン;1,4−ビス(スチリル)ベンゼンと4,4’−ビス(スチリル)ビフェニル等のベンゼンとビフェニルのスチリル誘導体;1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン等のピラゾリン;フェニル環置換体として、アルキル、COO−アルキル及びSO−アルキルを有するビス(ベンズアゾール−2−イル)誘導体;ビス(ベンズオキサゾール−2−イル)誘導体;2−(ベンゾフラン−2−イル)ベンズイミダゾール等のビス(ベンズイミダゾール−2−イル)誘導体;7−ヒドロキシ及び7−(アミノ置換)クマリン、4−メチル−7−アミノクマリン誘導体、エスクレチン、β−メチルウンベリフェロン、3−フェニル−7−(トリアジン−2−イル−アミノ)クマリン、3−フェニル−7−アミノクマリン、3−フェニル−7−(アゾール−2−イル)クマリン、及び3,7−ビス(アゾリル)クマリン等のクマリン;カルボスチリル、ナフタルイミド、アルコキシナフタルイミド、ジベンゾチオフェン−5,5’−ジオキシドの誘導体、ピレン誘導体、及びピリドトリアゾール等が挙げることができるが、特に、2,5ビス[5−t−ブチルベンゾオキザゾリル(2)]チオフェンを好適に使用することができる。
【0017】
導電剤(c)としては、従来より隠しマーク用インク組成物に使用されていた導電剤を使用することができ、例えば、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロミド及びテトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホネート等が挙げることができる。
これらの導電剤は、単独又は2種以上の組合せで使用することができる。
【0018】
有機溶剤(d)としては、特に制限はなく、通常インキ組成物に使用される有機溶剤はいずれも使用することができる。
好適な有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、アミルアセテート等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができ、またインキ組成物を構成する成分の溶解性を損なわない範囲で、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール等のアルコール類を混合してもよい。また、これらの有機溶剤にさらにカルビトール類、ピロリドン類などの高沸点溶剤を添加すると隠しマークのドットが潰れやすくなりドットからの光線反射が抑えられるため、可視光線下での不可視性が向上する。
【0019】
本発明に用いるインク組成物は、樹脂(a)を固形分基準で5乃至25重量%、特に7乃至15重量%の量で含有し、蛍光着色料(b)を0.1乃至1.5重量%、特に0.3乃至1.0重量%の量で含有すると共に、導電剤(c)を0.1乃至1.5重量%、特に0.3乃至1.0重量%の量で配合することが好適である。
上記範囲よりも樹脂(a)の含有量が多い場合には、インク組成物の印字性能が劣ると共に、可視光線下での不可視性に劣るようになり、また隠しマークの密着性にも劣るようになる。一方上記範囲よりも樹脂(a)の含有量が少ない場合には、鮮明なマークを形成できず、紫外線照射時に判読することが困難になる。
また本発明に用いるインク組成物においては、レベリング剤としてワックスを含有しないことが好適である。すなわち、一般に印字ドットの流動性を向上させ、また隠しマークを容器表面に形成する場合に搬送等の擦れを防止するために、インク組成物中にレベリング剤としてワックスを配合することが好適であったが、本発明の隠しマーク付き容器においては、隠しマークが仕上げニスよりも下方に位置することから必ずしもワックスを配合する必要がなく、しかもワックスを配合しないことによりインク組成物の被印字面に対する濡れ性を向上させることができ、ベースコート層が形成されていない金属容器表面にもインクをはじくことなく印字することが可能になる。
【0020】
本発明に用いるインク組成物は、上記(a)〜(d)成分以外の他のインク組成物用添加剤をインク組成物の性状を損なわない範囲で配合することもできる。このような添加剤としては、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、粘着剤、粘稠剤、高沸点溶剤、助色剤、安定剤等を挙げることができる。
また本発明に用いるインク組成物は、印字性能の点から、温度20℃における粘度が0.5〜1.5mPa・sの範囲にあることが好適である。
【0021】
(仕上げニス)
本発明において、隠しマーク層よりも上に形成される仕上げニスとしては、従来公知の仕上げニスを用いることができ、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂等の樹脂から成る塗料を挙げることができるが、特にレトルト処理耐性を有するものが望ましく、これに限定されないが熱硬化性アクリル樹脂、アクリルエポキシ樹脂、アクリルアミノ樹脂等が用いることができる。
仕上げニスの塗布量は、隠しマークを施す容器の種類によって異なり、一概に規定できないが、金属缶の場合は、50乃至70mg/dmの範囲にあることが好適であり、また仕上げニス層形成のための焼付条件は、容器の基材の種類によって一概に規定できないが、金属缶の場合で170乃至190℃の温度で240乃至360秒焼付けを行うことが好ましい。かかる焼付け工程により、仕上げニス層よりも下に施された隠しマーク用インク組成物も熱硬化して、レトルト殺菌等に対しても影響を受けない安定した隠しマーク層が形成できる。
【0022】
(隠しマーク付き容器)
本発明の隠しマーク付き容器は、上記隠しマーク用インク組成物を容器表面に印刷して隠しマーク層を形成し、この上に仕上げニスを塗布し、これを焼付けすることにより形成される。
本発明においては、隠しマーク層は容器表面に直接形成することもでき、必ずしもベースコート層は必須ではないが、金属缶に適用する場合には、ベースコート層を形成し、ベースコート層上に隠しマーク層を形成することが印刷適性を向上する上で望ましい。またベースコート層を隠しマーク層よりも上に形成することもできる。
ベースコートとしては、上述した仕上げニスに用いられる樹脂と同様の樹脂をベース樹脂とすることができ、このベース樹脂に二酸化チタン等の顔料、雲母等の光輝性顔料等が配合されていてもよい。
また、樹脂被覆金属板や表面処理金属板から常法に従って成形された金属缶等においては、ベースコート層を形成することなく、ポリエステル樹脂被覆や表面処理層上に隠しマーク印刷を施すことができるし、また成形後の金属缶に常法に従って表面処理を行い、この表面処理層上に隠しマーク印刷を施すこともできる。
【0023】
隠しマークを施す容器としては、シームレス缶、溶接缶等の金属容器、ガラス容器、プラスチック又は金属箔及びプラスチックフィルムの積層体等から成るボトル、トレイ、カップ、チューブ、パウチ等従来公知の容器等を挙げることができるが、本発明においては特に表面処理鋼板或いはアルミニウム合金板等の金属板、或いはそれらの金属板の片面あるいは両面にポリエステルなどの熱可塑性樹脂を被覆した樹脂被覆金属板を絞りしごき成形、絞り再絞りしごき成形することにより成形されたシームレス缶を好適に使用することができる。
隠しマークを設ける方法としては、従来公知のインクジェット印字、インクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等従来公知の印刷方法を挙げることができるが、本発明においてはインクジェット印字により隠しマークを形成することが特に好適である。
またパウチに隠しマークを形成する場合には、隠しマークを印刷した後に、紫外線硬化型や電子線硬化型の枚葉印刷、枚葉仕上げニスを施すことが好ましい。
更に、本発明の隠しマーク付き容器は、フィルムのグラビア印刷面に隠しマークを印刷した後、仕上げニス層を形成して成るフィルム或いはラベルを予め成形し、このフィルム又はラベルを容器外面に貼着したものであってもよい。
【0024】
隠しマークの厚みは、0.5μm以上、特に0.5乃至2μmの範囲にあることが、紫外線照射による判読性を確保し且つ可視光線下での判読を不可能にする上で好ましい。
また印刷層を隠しマーク層よりも上に形成する場合であっても、通常包装容器に用いられている印刷インキ及び印刷手法により印刷層を形成する場合は、隠しマーク層の視認性を損なうことはない。
本発明の隠しマーク付き容器は、ブラックライト等により紫外線を照射し、隠しマークを蛍光発色させることにより、視認し判読することができる。
【実施例】
【0025】
<レトルト白化性>
得られたシームレス缶を130℃30分の静置式レトルト処理をしたのち、n=5缶を視覚で次のように評価した。5缶のうち最も劣る缶の評点を表1の評点とした。○と△が許容範囲である。
○:隠しマークに白化がない
△:隠しマークにやや白化があるが許容範囲である
×:隠しマークに明らかな白化がある
【0026】
<蛍光灯下での視覚性>
得られたシームレス缶5缶について隠しマークの「隠れ性(不可視性)」を蛍光灯下で視覚評価した。評価基準は次のとおりである。5缶のうち最も劣る缶の評点を表1の評点とした。○と△が許容範囲である
○:マーク文字があることがわからない
△:マーク文字がわずかにわかるが許容範囲である
×:明らかにマーク文字があることがわかる
【0027】
<UVライト下での判読性>
得られたシームレス缶を130℃30分の静置式レトルト処理をしたのち、5缶についてUVライト下での判読性を視覚で次のように評価した。UVライトのUV波長は254〜365nmであった。5缶のうち最も劣る缶の評点を表1の評点とした。○と△が許容範囲である。
○:明確に文字が判読できる
△:判読しにくいがよく見れば判読可能である
×:判読できない
【0028】
<密着性>
得られたシームレス缶5缶について100℃30分の熱水煮沸処理をしたのち乾燥させ、隠しマークの上にカッターナイフで縦横それぞれに1mm間隔で25個の碁盤目を入れ、ニチバン社製セロテープ(登録商標)を接着させ引き剥がしを2回繰り返して、隠しマーク界面の密着性を評価した。5缶のうち最も劣る缶の評点を表1の評点とした。○と△が許容範囲である。
○:剥離なし
△:2/25個以下の剥離があった
×:3/25個以上の剥離があった
【0029】
<黄変性>
黄変性評価にあたっては、缶胴に印刷層を設けずに隠しマークの上に直接仕上げニスを設けた仕様のシームレス缶にした。
得られたシームレス缶5缶について隠しマークの黄変程度を蛍光灯下で視覚評価した。評価基準は次のとおりである。5缶のうち最も劣る缶の評点を表1の評点とした。○と△が許容範囲である。
○:黄変なし
△:わずかに黄変があるが許容範囲である
×:明らかに黄変がある
【0030】
<総合評価>
以上に述べたレトルト白化性、蛍光灯下での視覚性、UVライト下での判読性、密着性、黄変性それぞれの評価結果に基づき、総合評価を行った。総合評価は次のように評点化した。
○:各評価がすべて「○」であること
△:各評価が「○」あるいは「△」であり、「×」がないこと
×:各評価のいずれかに「×」があること
【0031】
<実施例1>
メチルエチルケトン:メタノール(重量比率7:3)の混合溶剤に、スチレン/無水マレイン酸共重合体(エルフ・アトケム・ジャパン社製SMA1000P)を10重量%、蛍光着色剤として2,5ビス[5−t−ブチルベンゾオキザゾリル(2)]チオフェン(チバスペシャルティケミカルズ社製UVITEX-08)を0.5重量%、導電剤としてテトラ-n-ブチルホスホニウムブロミド(東京化成工業製)を0.5重量%になるように溶解してインク組成物を調製した。
常法により板厚0.7mmのJIS3004アルミ合金板を円盤状に打ち抜き、絞り加工を行った後に再絞りとしごき加工を行い、口部をトリミングし、洗浄し、リン酸ジルコニウム系表面処理を行い、シームレスカップを作製した。
得られたシームレスカップを内面塗装し焼き付けを行った後に、側壁外面にベースコートとしてコーターでポリエステルアミノ系樹脂を塗布しオーブンで175℃6分の焼付を行った。その後、上記で得られたインク組成物をフィルターで濾過した後にインクジェットプリンター(IJP、日立製)を使用して隠しマークとして「ABCDE」とカップ側壁外面に印字した。その後、曲面印刷機により、側壁外面に墨インキをベタ印刷し、次いでアクリルアミノ系の仕上げニスを塗布し、オーブンにて180℃−6分の焼き付けを実施した。その後ネック加工とフランジ加工を行い、直径50mm、高さ175mm、満注内容積294mlのシームレス缶を作製した。得られたシームレス缶は、「金属層/ベースコート層/隠しマーク層/印刷層/仕上げニス層」の層構成であった。
得られたシームレス缶について、レトルト白化性、蛍光灯下での視覚性、UVライト下での判読性、密着性、黄変性を評価した。尚、黄変性評価缶はベタ印刷なしのシームレス缶である。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0032】
<実施例2>
インク組成物中のスチレン/無水マレイン酸共重合体含有量が5重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0033】
<実施例3>
インク組成物中のスチレン/無水マレイン酸共重合体含有量が20重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0034】
<実施例4>
インク組成物中のスチレン/無水マレイン酸共重合体含有量が25重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0035】
<実施例5>
インク組成物中の樹脂をスチレンーアクリル共重合体(ジョンソンポリマー社製ジョンクリル586)含有量10重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0036】
<実施例6>
インク組成物中の樹脂をアクリル共重合体(ロームアンドハース社製パラロイドB−72)含有量10重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0037】
<実施例7>
インク組成物中の樹脂をエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製エピコート#1004)含有量10重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0038】
<実施例8>
インク組成物中の樹脂をポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロン240)含有量10重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0039】
<実施例9>
インク組成物中に粘稠剤としてエチルセルロース(ダウケミカル社製エトセル#10)を3重量%になるように添加した以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0040】
<実施例10>
インク組成物中の樹脂をスチレン/無水マレイン酸共重合体含有量5重量%とアクリル共重合体(ロームアンドハース社製パラロイドB−72)5重量%になるようにした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0041】
<実施例11>
インク組成物の溶剤をメチルエチルケトン:メタノール(重量比率8:2)の混合溶剤にし、粘稠剤としてエチルセルロース(ダウケミカル社製エトセル#10)を2重量%及びレベリング剤としてシリコン系ワックス(日本ユニカー社製FZ−2123)を0.1重量%になるように添加した以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0042】
<実施例12>
ベースコートとしてポリエステルアミノ系樹脂に酸化チタン顔料を25重量%含有させた以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。得られたシームレス缶は、「金属層/顔料入りベースコート層/隠しマーク層/印刷層/仕上げニス層」の層構成であった。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0043】
<実施例13>
ベースコートを設けなかった以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。得られたシームレス缶は、「金属層/隠しマーク層/印刷層/仕上げニス層」の層構成であった。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0044】
<実施例14>
シームレスカップを次のように作製しかつ内面塗装とベースコートを設けなかった以外は実施例1と同様にして、直径66mm、高さ122mm、350ml用のシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。得られたシームレス缶は、「金属層/PET系樹脂層/隠しマーク層/印刷層/仕上げニス層」の層構成であった。シームレスカップの作製方法は次のとおりであった。すなわち、板厚0.28mmのJIS3004アルミ合金の両面にリン酸クロム系表面処理を行い、その上にポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合樹脂をTダイから押出しコートした後急冷して両面樹脂被覆アルミニウム合金板を作製し、常法により円盤状に打ち抜き、絞り加工を行い、再絞りとしごき加工を行い、口部をトリミングし、樹脂の歪み取り加熱を行い、シームレスカップを作製した。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0045】
<実施例15>
隠しマークを印刷後に印字した以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。得られたシームレス缶は、「金属層/ベースコート層/印刷層/隠しマーク層/仕上げニス層」の層構成であった。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0046】
<実施例16>
隠しマークを金属缶に直接印字し、その後にベースコートをした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。得られたシームレス缶は、「金属層/隠しマーク層/ベースコート層/印刷層/仕上げニス層」の層構成であった。
【0047】
<実施例17>
実施例14で作製したシームレスカップに、次に述べる印刷ラベルを巻き回し熱融着し、印刷ラベル外面に隠しマークを印字し、仕上げニスを塗布し焼き付けした以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。印刷ラベルは二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルムの缶内面側にグラビア印刷し更にその上に熱硬化性接着剤を設けたものである。得られたシームレス缶は、「金属層/PET系樹脂層/接着剤層/グラビア印刷層/二軸延伸PET系樹脂層/隠しマーク層/仕上げニス層」の層構成であった。
【0048】
<比較例1>
ベタ印刷前に隠しマークを印字せずネック加工、フランジ加工をした後、缶胴外面の仕上げニス上に隠しマークをインクジェットプリンターで印字した以外は実施例1と同様にしてシームレス缶を作製し、実施例1と同様の評価を行った。容器仕様と評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の隠しマーク付き容器においては、レトルト処理を行った場合でも白化や変色がなく、また容器が摺擦された場合にも影響を受けることがなく、容器の美観に優れ、透明で紫外線による解像度の高い隠しマークが形成されており、従来隠しマークを付与することが困難であった化粧品用途のシームレス缶や美術缶等に好適に適用することができる。
またレトルト処理による白化等が有効に防止されているので、レトルト殺菌が必要なお茶やコーヒー等を内容物とするシームレス缶や、或いはレトルト食品用途のパウチ等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 基材(容器)、2 ベースコート層、3 隠しマーク用インク層、4 印刷層、5 仕上げニス層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器外面に少なくとも仕上げニス層が形成されている容器において、前記仕上げニス層よりも下に、隠しマーク用インク層が形成されていることを特徴とする隠しマーク付き容器。
【請求項2】
前記仕上げニス層及び隠しマーク用インク層の間に印刷層が形成されている請求項1記載の隠しマーク付き容器。
【請求項3】
前記隠しマーク用インク層が、スチレン系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくとも1種から成る樹脂(a)、蛍光着色料(b)、導電剤(c)及び有機溶剤(d)から成るインク組成物から形成される請求項1又は2記載の隠しマーク付き容器。
【請求項4】
前記樹脂(a)が、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂である請求項3記載の隠しマーク付き容器。
【請求項5】
前記インク組成物が、ワックスを含有しない請求項3又は4記載の隠しマーク付き容器。
【請求項6】
前記インク組成物が、樹脂(a)を固形分基準で5乃至25重量%の量で含有する請求項3乃至5の何れかに記載の隠しマーク付き容器。
【請求項7】
前記容器がシームレス缶である請求項1乃至6の何れかに記載の隠しマーク付き容器。

【図1】
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【公開番号】特開2011−98753(P2011−98753A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254372(P2009−254372)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000239080)福岡パッキング株式会社 (12)
【Fターム(参考)】