説明

雄性及び雌性の性機能障害の治療方法

2−CDSとも呼ばれる17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールを、平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない非常の低用量で用いて、雌性の性機能障害の治療用薬剤の製造に使用する。また、E2−CDSを、平均末梢エストラジオール濃度を雄性哺乳動物における平均正常末梢濃度より高い値に実質的に上昇させない非常の低用量の該化合物を用いて、雄性の性機能障害を治療用薬剤の製造に使用する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストラジオール、即ち、17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールに対する脳標的薬剤供給系(E2−CDSとも表記される)を用いた雌性及び雄性の性機能障害の治療方法ならびに雌性及び雄性の性機能障害の治療用薬剤の製造におけるE2−CDSの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マスターズ(Masters)及びジョンソン(Johnson)は、性機能障害を「性的興味及び/又は反応の正常又は通常パターンの持続した機能障害」と定義した (Masters et al., Human Sexual Response, マサチューセッツ州ボストン, Little, Brown & Co. 1966)。この問題は、米国健康社会生活調査の結果が1999年に発表された時に米国民の注目を引いた。18〜59歳の3000名以上の米国民男女との面接で、男性の31%及び女性の43%(約4千万人)が何らかの程度の性機能障害を経験したことが明らかになった。問題の広がりは「重要な国民の健康懸念としての認識を正当化する」と言われるようなものであった。Laumann et al.,「米国における性機能障害:罹患率と予測値」, JAMA 281:537 (1999)を参照。性機能障害は肉体的健康を脅かすことはめったにないが、重い心理学的障害を与ええ、抑うつ、不安をもたらし、また非充足感を弱らせる。
【0003】
男性(ヒト雄性)における性機能障害としては、概して、勃起機能障害、男性オルガスム障害、性的欲求の抑止もしくは能動低下並びにプリアピスムが挙げられる。性的欲求の抑止もしくは能動低下とは、性行為に対する欲求もしくは興味の低下を意味し、身体の疾患、抑うつ、ホルモン異常又は性欲に影響する薬物の服用を含む多様な原因から生ずることがある。
【0004】
男性の性行動は、準備行動(proceptive behavior)と完了行動(consummatory behavior)とからなる。準備行動は、受容する女性の存在の知覚及び膣に陰茎を挿入することができる身体の配置(マウンティング)を含む。このあとの行動、挿入(イントロミッション)、並びにそれに必要な陰茎の勃起と最終的な射精は男性の性行為の完了成分である。射精に至るには上述した行動のすべてが必要である。それは脳のレベルで及び脊髄反射により調整される神経系の感覚及び運動成分の緊密な協調に依存する。
【0005】
雄性の性機能障害はステロイド依存性であり、大部分の哺乳動物では、精巣のライジッヒ細胞により放出されるテストステロンが、雄的行動の発現を可能にするのに関与するホルモンである。性的経験のある雄性ラットにおいて、去勢は雄の性行動を徐々に減退させ、最終的に消失させる。ホルモンのテストステロンを補充すると、雄の性行動の低下を完全に防止する[Malmnas, Acta Physiologica Scand. (Suppl. 395): 9-46, 1973; Damassa et al., Hormones and Behavior 8: 275-286, 1977]。また、去勢後、雄性の性行動を衰えさせてからテストステロン補充を開始すると、テストステロン補充が行動の完全な発現を回復することができる[Davidson et al., S. Livine(編) Hormones and Bahavior中, Academic Press, ニューヨーク, 1972, pp. 63-103]。
【0006】
いくつかの系統の証拠が、雄性の性行動の準備的成分がテストステロンからエストラジオールへの脳内での芳香族化に依存することを示している。第一に、アロマターゼ阻害剤によるテストステロンからエストラジオールへの転化の遮断、又は抗エストロゲン剤によるエストロゲン作用の遮断は、雄性の性行動に対するテストステロンの作用を打ち消すことが、今では決定的に実証された。エストラジオールへのテストステロンの代謝が雄性の性行動を活発化させるというこの考えと一致するのが、アロマターゼ酵素の分布である。哺乳動物では、アロマターゼは、雄性の性行動に対するテストステロンの作用を媒介することが知られている脳領域である視索前野、視床下部、及び小脳扁桃に濃化していることが報告されている。代表的文献として、N.J. MacLusky, A. Philip, C. Hurlburt及びF. Naftolin, Metabolism of Hormonal Steroids in the Neuroendocrine Structures中, F. Celotti, F. Naftolin及びL. Martini編, Raven Press, Vol. 13, 1984, pp. 103-116; B.S. McEwen, Science 211: 1303-1311, 1981; Beyer et al., Hormones and Behavior 7: 353-363, 1976を参照。
【0007】
第二に、テストステロンの全身投与の後、主要代謝産物としてエストラジオールが雄性の性行動を媒介することが知られている脳領域に現れる。アカゲザルのある研究において、[3H]-テストステロンを全身投与し、脳の切片を抽出して存在するステロイド代謝産物を定量した。報告では、視床下部、視索前野及び小脳扁桃では放射能の50%以上がエストラジオールであったのに対し、他の脳構造領域では放射能はテストステロンのままであった。これに対して、精嚢、陰茎亀頭及び前立腺といった末梢組織では、ジヒドロテストステロンが主要代謝産物であった(R.W. Bonsall et al., Life Sciences 33: 655-663, 1983)。脳領域におけるテストステロン代謝をより徹底的に評価したその後の研究では、視床下部、視索前野及び小脳扁桃だけがエストラジオールを有意に形成することが認められた(それぞれ61、43及び64%)。評価した他の全ての脳領域では、エストラジオールの含有量は0であるか、回復されたステロイドの10%未満であった(R.P. Michael et al., Endocrinology 118: 1935-1944, 1986)。最後に、視索前野-視床下部において核受容体に結合したエストラジオールの量は血清中のテストステロン濃度に直接関連しており、この脳領域においてその受容体に結合しているエストラジオールの供給源は循環血流中のテストステロンであることを示唆している(L.C. Krey et al., Brain Res. 193: 277-283, 1980)。
【0008】
第三に、エストラジオールは雄性の性行動の準備的成分を刺激する。プファフ(Pfaff) (J. Comp. Physiol. Psych. 73: 349-358, 1970)は、去勢雄性ラットに安息香酸エストラジオールを9〜11日間全身投与(10μg/日)し、エストラジオールが、プロピオン酸テストステロン(200μg/日)の投与後に観察されるのに比べて、マウント(背乗り行動)、挿入(イントロミッション)及び肛門性器匂い嗅ぎを増大させ、マウント潜伏時間を減少させることを認めた。ソダーステン(Sodersten) (Hormones and Behavior 4: 247-256, 1973)は、6週間前に去勢された雄性ラットに安息香酸エストラジオール(100μg/日)を24〜28日間投与し、マウント及び挿入がプロピオン酸テストステロン(100μg/日)による同様の治療後に観察されるものと同等であることを認めた。射精への影響は安息香酸テストステロンより安息香酸エストラジオールの方が小さかった。グレイら(Gray et al) (Physiology and Behavior 24: 463-468, 1980)は、エストラジオールを含有するシラスティック(Silastic, シリコーンゴム)ペレット剤を投与し、それから7日間の性行動を評価した。エストラジオールはマウント行動を刺激するが、挿入及び射精の向上の面ではテストステロンより効果が小さいことが認められた。
【0009】
エストロゲンは雄性の性機能障害の治療にはこれまでほとんど提案されてこなかった。主な理由は著しい副作用のせいである。しかし、エストロゲンは前立腺ガンの治療では男性に投与されている。残念ながら、男性ではある種の著しい毒作用が起こる。エストロゲン治療は女性乳房化を刺激し、精巣退化を引き起し、そして男性における毛髪成長パターンを女性化する。
【0010】
男性の性機能障害(MSD)の研究及び治療における広範な関心に対して、女性の性の問題にはあまり注意が払われてこなかった。女性の性機能障害(FSD)の心理学的及び生理学的支援を検討した研究は非常に少なく、男性に比べて女性に利用可能な治療は少ない。臨床研究及び実施の発展に対する主要な障壁は、女性の性機能障害に対する広く受入れられている確立した診断の枠組及び分類がなかったことである。2000年に、アメリカ泌尿器疾患財団の性機能健康評議会(the Sexual Function Health Council of the American Foundation for Urologic Disease)がそのような分類システムを提案し、それが広く受入れられたので、本明細書でそれを使用することにする; Basson et al., J. Urol. 163: 888 (2000)を参照。
【0011】
正常な女性の性応答サイクルはここに次の4段階に分かれる:欲求、興奮、オルガスム及び消散。女性の性機能障害はこの女性性応答サイクルのいずれか1つ又は2つ以上の段階で起こりうる。Shepherd, J. Amer. Pharm. Assoc. 42(3): 479 (2002)。正常な女性性応答サイクルの段階に基づく同意されている分類及び定義は、次の4つの広いカテゴリーに分かれる:性的欲求障害、性的覚醒障害、オルガスム障害、及び性的疼痛(性交痛)障害。この4つのうち、最も一般的であるのは性的欲求能動低下(抑制)障害(HSDD, Hypoactive sexual desire disorder)である。HSDDとは、個人的窮迫を引き起こすような、性行為に対する性的想像、思考並びに/又は欲求もしくは受容性の永続的又は反復した不足(又は不存在)であると規定される。研究者の報告によると、FSDの悩みを持つ全女性の55%もにおいてその主原因がHSDDであると同定された;Wincze et al., Sexual Dysfunction, ニューヨーク, Guilford Press, 1991。HSDDは、他の病因にも増して、とりわけ身体の病気、ホルモン異常又は性欲に影響する薬物の服用により生ずることがある。
【0012】
エストロゲンは、生物体としての女性においてとりわけ普遍的かつ重要なホルモンである。エストラジオール(E2)は、エストロゲン受容体に最も高い親和性を持つので、最も強力な天然エストロゲンである;Ruggiero, Likis, J. Midiwifery and Womens’s Health, 47(3), 103-138 (2002)。エストラジオールの薬理作用の多くがCNSにより媒介される。脳特異的ステロイド剥奪(deprivation)は雄性若しくは雌性の性機能障害並びに閉経期(更年期)血管運動症状(「のぼせ<顔面潮紅>」といった症候群を引き起こす。Greendale et al., Lancet, 353, 571-580 (1999); Yen, J. Reprod. Med. 18(6), 287-296 (1977)を参照。閉経後の女性では、性機能障害は、膣の乾燥/潤滑不足及びその結果起こる性交時の疼痛(それは性的欲求の低下に密に関連することがある)をといった閉経のエストロゲン剥奪(枯渇)に伴う症状に密接に関係すると共に、それらの症状を含みうる。寝汗、のぼせ、不眠、抑うつ、神経質症、尿失禁、いらつき及び不安といった他の閉経後の症状も性的欲求の低下に関連する可能性がある。エストロゲン濃度を閉経前の濃度に戻して上述した更年期の症状並びに骨粗鬆症といった他の更年期症状を軽減することがHRT(ホルモン補充療法)の目標であった。
【0013】
脳を標的とする薬剤供給系(CDS, chemical delivery system)は、薬物を供給するだけでなく、薬物をその作用部位の標的に導くための、逐次的な代謝を利用した合理的な薬物設計手法となっている。ジヒドロピリジン▲⇔▼ピリジニウム塩型のレドックス系は以前から提案されており、エストラジオールを含む多くの薬物に適用されてきた。
【0014】
このレドックス系によれば、中枢に作用する薬物[D]を、この薬物中の反応性官能基(例えば、ヒドロキシル官能基)を介して、第四級キャリア[QC]+に結合させる;生成した[D−QC]+を次いで化学的に還元して、類脂質のジヒドロ形態[D−DHC]にする。[D−DHC]をin vivo投与すると、これは急速に脳を含む全身に分配される。ジヒドロ形態[D−DHC]は、その後にその場で酸化されて(NAD▲⇔▼NADH系により)、理想的には不活性の元の[D−QC]+第四級塩になる。これは、そのイオン性で親水性という性質のために身体の全身循環系からは急速に排出されるが、血液脳関門によりその脳からの排出は阻止される。こうして脳内に「閉じ込められた」[D−QC]+は酵素変化よって薬物種[D]の持続した供給を行ってから、その正常な排出が起こる。適正に選択されたキャリア[QC]+も脳から急速に排出される。[D−QC]+は全身循環系からは容易に排出されるため、少量の薬物[D]だけが脳内で放出されることになる。総合的な結果は標的薬物種の脳特異的徐放となる。例えば、Bodorの米国特許第4,540,564号;第4,900,837号;第4,983,586号;第5,002,935号;第5,017,566号;及び第5,024,998号;Bodorらの米国特許第4,617,298号;並びにAndersonらの米国特許第4,863,911号を参照。
【0015】
【化1】

上記構造式で示される化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オール(E2−CDSとしても知られる)は、上記特許に記載された、エストラジオール用に開発された1つの具体的なCDSである。この場合、エストラジオールの親油性の17−ジヒドロトリゴネリンエステル、即ち、E2−CDS、は親水性のトリゴネリネートエステル(E2−Q)+に酵素転化され、これがBBBの特性のために脳内に特異的に保持される。親水性の(E2−Q)+形態は、こうして脳内に「閉じ込められ」、エストラーゼにより徐々に持続して加水分解されてエストラジオール(E2)になる。身体の残りの部分での同様のE2−CDS→E2+転化が末梢の排出を加速し、標的化を向上させる。
【0016】
2−CDSは、男性の性機能障害の治療(Andersonら米国特許第4,863,911号)及び体重コントロール(Bodorら米国特許第4,617,298号)、並びに脳特異的ステロイドデプリベーション(剥奪)症候群(のぼせ等)及び受胎調節(避妊)又は子宮内膜症及び前立腺肥大症のような性腺ステロイド依存性疾患の治療のためのゴナドトロピン分泌の慢性的低減(Bodorら米国特許第4,617,298号の第46欄に記載)を含む、多くの用途についてこれまでに示唆されてきた。
【0017】
これらの従来の研究は、1回の選択されたE2−CDSの用量から極めて長期作用する効果(1カ月オーダー)を生ずるE2−CDSの能力に集中していた。これは、1カ月に1回の投与が、殊に女性の避妊の目的にとっては、特に好都合であると思われたために、投薬の目的には非常に望ましいと考えられたからである。末梢エストロゲンの初期の高濃度は懸念材料ではなかった。それらの濃度は、等モル量の従来のエストロゲンが生ずる濃度よりも低かったし、LH低下も等モル量の従来のエストロゲンで得られるものと同等であったためである。ラットでは、1カ月の活性を与えるために3mg/kgの用量のE2−CDSが典型的には使用された。この量は、ヒトで匹敵すると予想されるmg/kg量の一般に10倍である。即ち、女性では0.3mg/kg量が匹敵する結果を与えると予想された。
【0018】
2−CDSの初期の研究の概観については、Brewster et al., Rev. Neurosci. 2, 241-285 (1990)を参照。他に、Brewster et al., J. Pharm. Sci. 77: 981-985 (1988)も参照。それには、20%(w/v)HPβCD中の0.1mg/kg静脈内という低いE2−CDS用量が18日という長期(ただし25日ではそうではない)にわたって去勢雌性ラットにおけるLH抑制を生じたことが報告されている。
【0019】
Estes et al., Life Sciences 40, 1327-1334 (1987)は、2つが睾丸摘出したラット、残り2つ(実験3及び4)が卵巣摘出したラットという一連の4つの試験を記載し、E2−CDSがLH濃度に影響する能力を調査した。実験3では、0.1、0.5、2.0もしくは5.0mg/kgのE2−CDS、0.07、0.35、1.38、3.46もしくは10.38mg/kgのエストラジオール、又はDMSOビヒクル(0.5mg/kg)の1回静脈内投与後に、薬物治療後12日目の卵巣摘出ラットにおけるLH阻害の用量応答性を調査した。血液検体は治療後12日目に採取された。実験4は0.5mg/kgのE2−CDSの1回静脈内用量を等モル量の17−吉相酸エストラジオールとLH阻害について比較し、血液検体は治療後12日目及び18日目に採取された。血清LHは、実験3において2又は5mg/kgの用量のE2−CDSでビヒクルに比べてそれぞれ75%及び91%減少した。0.5mg/kgの用量は不均質な結果を与えたので、実験4で再調査された。実験4では、吉相酸エストラジオールに比べてE2−CDSではLHが有意に減少した。この雌性試験では血清エストラジオールの分析は全く行われなかった。去勢雄性ラットでは、3mg/kgのE2−CDSの1回静脈内注射が、4及び8時間という初期の時点で非常に高い血清エストラジオール(>1000pg/ml)を示し、濃度は治療後数日間上昇したが、治療後12、18及び24日目ではそうではなかった。しかし、LH濃度は治療後12、18及び24日目も非常に著しく低減したままであった。
【0020】
Anderson et al., Life Sciences 42, 1493-1502 (1988)は、卵巣摘出した雌性ラットの試験を報告しており、ラットは10、33、100若しくは333μg/kgのE2−CDS又は0.5ml/kgのDMSOの静脈内注射を隔日(1日おき)に7回(2週間)又は致死の2日前だけに1回の注射を受けた。E2−CDSの1回投与は33〜333μg/kgでは用量依存性の血清LHの低下(39〜52%)を引き起こしたが、10μg/kgでは効果はなかった。多数回注射は10〜333μg/kgで32〜76%の血清LHの低下を生じた。血清エストラジオールは、10及び33μg/kgのE2−CDS用量では変化しなかったが、100μg/kg用量では1回投与群及び多数回投与群においてそれぞれ21pg/ml及び23pg/mlに増大し、333μg/kgの1回投与群及び多数回投与群についてはそれぞれ59pg/ml及び60pg/mlに増大したと報告されている。著者は、E2−CDSの1回投与及び多数回投与は血清エストラジオールを上昇させずに血清LHを低下させることができると結論づけた。しかし、血清は最後の注射から2日後までは採取されず、この採取日は多数回投与の場合には最初の注射から16日目であった。従って、早期の時点でのエストラジオール濃度は調査されておらず、卵巣摘出雌性ラットにおいて血清エストラジオールを上昇させずに血清LHを低下させることができるという著者の結論は、治療期間の終了から2日後の血清エストラジオール濃度に限ったものであった。
【0021】
Rahimy et al, Maturitas 13, 51-63 (1991)は、ラットの尾部皮膚温度へのE2−CDSの影響及び更年期ののぼせに対するその関連性を報告している。この研究は、モルヒネ依存症ラットへのナロキソン投与に付随する、尾部皮膚温度(TST)変動に及ぼすE2−CDSの効果をE2と対比させて評価するものであった。卵巣摘出されたラットは、温度記録の前に、1.0mg/kgのE2−CDS又はE2(0.5mgペレット剤)の1回又は多数回静脈内投与を毎週1〜3週間受けた。E2−CDSの1回の1mg/kgの静脈内注射は、注射後1週間目に試験した時にTSTのナロキソン誘発上昇を25%弱めたが、この大きさは統計学的には有意ではなかった。1mg/kgの多数回静脈内注射(即ち、週に1回で3週間)は、最後の注射から1週間後に試験した時にTSTのナロキソン誘発上昇を有意に弱めた。E2−CDSの多数回投与は血漿エストラジオールを有意に上昇させた。血漿LHはE2−CDSの1回及び多数回投与により有意に抑制された。著者はまた、卵巣摘出ラットに1.0mg/kg用量のE2−CDSを1回静脈内投与した後の血漿LH及びE2濃度を、薬物治療の0.5時間後から開始して測定した(注射から0.5、1、2、4、8、12、24、48、96及び168時間後)。血漿E2濃度は、E2−CDS投与の30分後に1.9±0.08ng/ml(1900±80pg/ml)に増大し、治療後3時間後に50%減少し、24時間では91%減少した。著者は、モルヒネ依存性ナロキサン禁断ラットモデルが、彼らの知る限り、のぼせの治療に対するE2−CDSの有効性を評価するのに利用できる唯一の動物モデルであると表明したが、同時に一部の動物(50%未満)ではE2治療が完全には安定化しなかったため、このモデルが実際に更年期ののぼせに類似であるかどうかに疑問を呈した。このモデルが本当にのぼせを生ずるエストロゲン剥奪と一致するなら、試験におけるエストロゲンの成果はより一貫したものとなったであろう。
【0022】
さらに、性的欲求の阻害といった女性の性機能障害に関するE2−CDSの動物試験はこれまで報告されたことがない。
より低い用量は、安全性の確立に必要であったため、女性における毒性試験の一部として含まれてきた。しかし、LHを効果的に抑制して閉経後の症状を長期に治療するには閉経後の女性への投薬量は約0.3mg/kgが必要となることが予測された。
【0023】
2−CDSの臨床研究はBrewster et al., Rev. Neurosci. 2, 241-285 (1990)に報告されている。最初の人間試験は、更年期女性における用量上昇試験であった。10人の各被験者が20%(w/v)HPβCDに溶解したE2−CDSの1回の静脈内注射を受けた。血液検体を薬物投与から15分及び30分後、並びに1、2、4、8、24及び48時間後、さらに投与後4及び7日目に採取した。静脈内投与したE2−CDSの用量は10、20、40、80、160、320及び640μg並びに1.28mg(それぞれ0.16、0.32、0.71、1.19、2.80、5.87、7.57、10.0、19.8及び39.7μg/kg)であり、血液検体をLH,FSH及び17β−エストラジオール(E2)について分析した。血漿LHに対する最小の効果が10〜40μg用量群に、閾値の効果が80〜640mg用量群に、そして実質的かつ持続した血漿LHの減少が1280μg用量群に認められた。
【0024】
別の試験では、1280μgのE2−CDSの1回の静脈内投与を受けた閉経後の1人のボランティアが、E2−CDS投与後96時間までの間「臨床的に意味のある」LH低下を示すことが認められた。1280μgの1回の静脈内投与を受けた閉経後のボランティアにおいて、E2−CDSに対する初期血清エストラジオール濃度は、エストラジオールそれ自体に対するそれら(それらは標準曲線で計算するには高すぎた)よりもずっと低いものの、約1500pg/mlであり、これはなお非常に高いレベルである。Brewsterらも論じているように、のぼせのような更年期症状の治療は臨床試験の最終的な希望であったが、そのような治療は実際には報告されたことがなかった。さらに、性的欲求能動低下型又は性的疼痛型の女性の性機能障害の治療に対する示唆すらこれまでなかった。実際、これらの状態に対する動物モデルでのE2−CDSの研究ですら、これまでに記載又は提案されたことがなかった。
【0025】
最近になって、プロゲスチンと組み合わせたエストロゲンによる閉経後の女性の治療が虚血性心疾患からの保護や健康に関係する生活の質の改善を与えるという、一般に容認されてきた考えが正しくないことがわかってきた。エストロゲンへの恒常的な増大した末梢露出は、実際に、乳ガン、虚血性心疾患及び肺塞栓症を含む多くの病的状態に至ることがある; Beral et al., Lancet, 360 (9337), 942-944 (2002)。以前の予想とは異なり、ホルモン補充療法(HRT)は虚血性心疾患の発病率を低下させない; Low et al., Am. J. Med. Sci. 324(4), 180-184 (2002)。閉経後の女性におけるエストロゲン+プロゲスチンの組み合わせの、ウィメンズ・ヘルス・イニシアティブ(Women’s Health Initiative)試験は、湿潤性乳ガン、脳卒中及び心臓発作の危険性の許容できない増大のため予定より早く中止された: Rossouw et al., J. Am. Med. Assoc. 288, 321-333 (2002)。
【0026】
従って、エストロゲンへの上昇した末梢露出を伴わずに、閉経後の女性におけるエストロゲン剥奪の症状を含む女性の性機能障害を治療する方法への要請があることは明らかである。
【0027】
雄性における従来の研究に関して、Andersonらの米国特許第4,863,911号は、去勢した雄性ラットにおいて、3mg/kgのE2−CDSの静脈内用量を典型的には使用して1カ月間の活発さを付与することを示した。この量は、マウント行動を刺激し、挿入行動を増大させ、マウント及び挿入の両方の潜伏時間を減少させた。結論はE2−CDSが男系性行動の準備的成分の強力で長期持続する刺激剤であることであった。Andersonらの米国特許は、末梢アンドロゲン応答性組織の欠損が問題ではない場合にはE2−CDS単独の使用を示唆した。他の場合には、テストステロンのようなアンドロゲンと一緒の投与が示唆された。3mg/kgのような量は、ヒトで匹敵すると予想されるmg/kg量の一般に10倍である。即ち、男性では、0.3mg/kg量が匹敵する結果を与えると予想された。雄性におけるE2−CDSの従来の研究の概説は、やはり、Brewster et al.,Rev. Neurosci. 2, 241-285 (1990)を参照。
【0028】
以上にもかかわらず、上記Andersonらの米国特許では、末梢エストラジオール濃度は測定又は報告されなかったことが注目される。しかし、Simpkins et al., J. Ned. Chem. 29, 1809-1812 (1986)は、去勢雄性ラットに3mg/kgのE2−CDSを1回静脈内投与した後、投与から12〜24日後に採取された血液検体は、E2−CDS、等モル用量のエストラジオール、及びDMSOビヒクルの間で血清E2レベルに有意な差を示さなかったことを報告している。
【0029】
Anderson et al., Pharmacology Biochemistry & Behavior 27, 265-271 (1987)は、DMSO中の1回尾部静脈注射として投与された3mg/kgのE2−CDSにより、完了行動のマウントの側面だけが積極方向に影響され、射精行動は回復しなかったことを報告した。このAndersonらの論文は、3mg/kgのE2−CDSで静脈内治療された睾丸摘出ラットにおいて、血清エストラジオールが治療後4〜8日間対照に比べて上昇しなかったことも報告しており、末梢アンドロゲンの不足に結びついた心理学的インポテンスをより十分に扱うには、E2−CDSをテストステロン及び/又はジヒドロテストステロンと組み合わせた試験が必要であることを示唆した。
【0030】
2−CDSによる初期の研究の別の報告は、Estes et al., Life Sciences 40, 1327-1334 (1987)に見られ、これは末梢エストラジオール濃度に関するより具体的なデータを含んでいる。第1の実験では、雄性ラットを2〜3カ月齢で睾丸摘出し、2週間後に3mg/kgのE2−CDSを1回の尾部静脈注射により動物に投与した。血液検体を治療の0、4、8、24及び48時間後並びに4、8及び12日後に採取した。血清エストラジオール濃度は、治療後4〜8時間で1000pg/mlを超えており、24時間後(637pg/ml)及び2日後(285pg/ml)もなお高水準であった。第2の実験では、薬物治療後12、18及び24日後、3つの試験群(E2−CDS、エストラジオール及びDMSO)の中で血清エストラジオールに有意な差は認められなかった。これらの試験の実質的に全てが有意かつ長期(少なくとも24日間)のLHの抑制を報告した。
【0031】
その後、Anderson et al., Endocrine Research, 14(2 & 3), 131-148 (1988)は、中間年齢(18カ月)の未去勢雄性ラットにおける血清エストラジオール及びテストステロンに及ぼすE2−CDSの影響について報告した。体重への影響を調査するために行った試験では、DMSO中1mg/kg静脈内の用量で、E2−CDSは1日目に血清エストラジオール濃度を100倍に増大させ、その後は減少した。それでも、この濃度は7日目で初期値の13倍に、14日目でも初期値の5倍近くにとどまった。血清テストステロン濃度は、E2−CDS治療後1日で99%低下し、治療後14日までずっと96%以上抑制されたままであった。
【0032】
Richard M. Sharpeは、TEM, Vol. 9, No. 9, 371-377 (1998)に、雄性におけるエストロゲンの役割について発表し、アンドロゲンとエストロゲンとの間の作用のバランスが多くのエストロゲン標的部位で中心的に重要であるかもしれないことを強調した。この重要性の例として、彼は、クローバー中のフィトエストロゲンが去勢したラムにおいて死を引き起こす(低い血流中テストステロン濃度で)ヒツジの「クローバー病」が未去勢のラムには大きく影響しないこと;エストロゲンもしくは抗アンドロゲンのいずれかにより雄性生殖系の発達異常が引き起こされうること;並びに雄性の女性化乳房症がアンドロゲンの過少もしくはエストロゲンの過多で引き起こされうることを引用した。
【0033】
より一層最近には、Adaikan et al., International Journal of Impotence Research 15, 38-43 (2003)は、「インポテンス及び性欲低下を伴う性機能障害は、雄性における乱れた精巣経路及び加齢の重要な付随現象である。診断上は、低血清テストステロン(T)濃度が、男性における陰茎感受性、夜間陰茎膨張及び自発的な起床時陰茎勃起の阻害、並びに動物モデルにおける肺空洞(caverosal)圧力応答の低下に相関する。臨床徴候以外にも、内分泌プロファイルが、デリケートなE2−Tバランスを片寄らせる機能的過剰なエストラジオール(E2)によりさらに複雑化される。」と述べている。
【0034】
性機能低下症及び環境エストロゲンへの露出も、そのようなホルモンのアンバランスにより特徴づけられる。性的に成熟した雄性ラットの群への1週間(急性試験)又は12週間(慢性試験)の0.1及び0.01mgエストラジオールの毎日の経口ガバージュ(強制胃管栄養)による投与は、急性試験では高用量の方で、慢性試験では両方の用量で、血清エストラジオールを著しく増大させ、血清テストステロンを著しく低下させることが認められた。上記著者らは、血清エストラジオールの2〜5倍の増大とそれと同時のテストステロンの低下が、マウント潜伏時間、挿入潜伏時間及び射精後マウント潜伏時間の著しい延長を伴うことも見出した。高い方の用量ではまた、神経刺激に対するICP応答も著しく阻害された。
【0035】
上記から、特に男性(ヒト雄性)における雄性の性機能障害に対する実際的な対策をとるために高い末梢エストラジオール濃度を避けることが肝要であることは明らかである。
従って、エストロゲンへの増大した末梢露出を伴わずに雄性の性機能障害を治療する方法の必要性があることは明らかである。
【発明の開示】
【0036】
本発明の第1の側面において、雌性哺乳動物における雌性の性機能障害の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該機能障害の症状軽減に有効で、かつ平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用が提供される。
【0037】
本発明の第2の側面において、女性(ヒト雌性)における雌性の性機能障害の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該機能障害の症状軽減又は緩和に有効で、かつ平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用が提供される。
【0038】
第3の態様において、本発明は、閉経後の女性の閉経後症状の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該症状の軽減又は緩和に有効で、かつ平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用を提供する。
【0039】
特定の態様において、本発明の上記側面は、約0.01mg/kg以下(閉経後女性における日用量で約0.5〜2.0mg)という少量の反復する毎日又は隔日投与量をバッカル投与により、即ち、所定量のE2−CDSを含有するバッカル剤形単位により使用し、並びに/又は、かかる女性における平均定常状態末梢エストラジオール濃度の約40pg/ml以上への上昇を伴わず、さらにはこの濃度を約20pg/ml以下とし、並びに/又は、かかる女性における平均ピーク末梢エストラジオール濃度(投与後まもなく到達する)を約70〜90pg/ml以上に上昇させない量以下とし、並びに/又は、該活性化合物をシクロデキストリン中で、特にヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとの実質的に飽和した複合体(最高度の動力学的活性を達成するため)として使用することを含む。
【0040】
本発明のさらに別の側面では、雄性哺乳動物における雄性の性機能障害の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該機能障害の症状軽減に有効で、かつ平均末梢エストラジオール濃度を雄性哺乳動物の平均正常末梢濃度より高くなるよう実質的に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用が提供される。
【0041】
本発明のさらに別の側面では、男性(ヒト雄性)における雄性の性機能障害の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該機能障害の症状軽減又は緩和に有効で、かつ平均末梢エストラジオール濃度を男性の平均正常濃度より高くなるよう実質的に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用が提供される。
【0042】
特定の態様において、雄性の性機能障害を治療する上記側面は、さらに、去勢雄性ラットにおける0.01mg/kg静脈内に匹敵する量、例えば、日用量で約0.01〜0.5mgの量の反復する毎日又は隔日投与量を男性へのバッカル投与により、即ち、所定量のE2−CDSを含有するバッカル剤形単位により、症状が軽減するのに必要な期間(例えば、男性では約2〜7日間)使用し、症状が再発した場合には毎日又は隔日投与を再開すること、並びに/又は、該活性化合物をシクロデキストリン中で、特にヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとの実質的に飽和した複合体(最高度の動力学的活性を達成するため)として使用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、下記の定義及び一般説明が適用されうる。
本書に言及した特許、公開出願及び科学文献は当業者の知識を確立するものであり、それらの全体をそれらが具体的かつ個々に援用することが表示されているものと同じ扱いで本書に援用される。本書で引用した文献と本明細書の具体的記載との間の不一致は、後者の方を選んで解決するものとする。同様に、技術分野で理解されている単語又は語句の定義と本明細書に具体的に記述されている単語又は語句の定義との間の不一致も後者の方を選んで解決するものとする。
【0044】
ここで使用した「複合体」なる用語は、E2−CDS分子の疎水性部分(典型的にはステロイドの環系の部分)がシクロデキストリン分子の疎水性キャビティ内に挿入された包接複合体(包接化合物)を意味する。例えば、E2−CDSとHPβCDの場合、1:1複合体ではステロイドの芳香族性A環が包接されると考えられる。より高いHPβCD濃度では、E2−CDS:HPβCDの1:2複合体が生成し、第二のHPβCD分子がE2−CDS分子のジヒドロニコチネート基と相互作用しうる。
【0045】
本書において、請求項の連結句又は本文のいずれにあろうと、「〜を含有する」又は「〜を含む」なる語句は、オープンエンド(非制限型)の意味を有すると解釈されるべきである。即ち、これらの語句は「〜を少なくとも有する」又は「〜を少なくとも含んでいる」なる語句と同義であると解釈されるべきである。方法に関して使用される場合、「〜を含む」なる語句は、その方法が少なくとも列挙された工程を包含するが、追加工程も包含しうることを意味する。組成物に関して使用される場合、「〜を含有する」なる語句は、その組成物が少なくとも列挙された特色又は成分を含んでいるが、追加の特色又は成分も含みうることを意味する。
【0046】
「〜から本質的になる」又は「本質的に〜からなる」なる語句は、部分排他的意味を有する。即ち、これらの語句は、方法又は組成物の本質的特徴を実質的に変化させるような工程又は特色もしくは成分、例えば、本明細書に記載した組成物の所望の特性を著しく妨げるような工程又は特色もしくは成分、を含むことを許さない。即ち、方法又は組成物は、明記された工程又は材料並びに本発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響しないものに制限される。
【0047】
本発明の基本的かつ新規な特色は、E2−CDSの投与量を、雄性においては平均定常状態末梢エストラジオール濃度を平均正常末梢末梢濃度より高くなるように上昇させない量、雌性では平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で、症状を軽減するように慎重に制御して雄性及び雌性の性機能障害を治療する方法を提供することである。
【0048】
特定の態様では、この方法は、化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールのβ−もしくはγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル又はカルボキシメチルエチル誘導体との実質的に飽和した複合体の無水処方組成物のバッカル投与を含み、処方組成物は男性では1日当たり約0.01〜0.5mgの該化合物を、女性では1日当たり約0.5〜2.0mgの該化合物を含む。
【0049】
「〜から成る」及び「から成る」は排他的用語であり、列挙された工程又は特色もしくは成分しか含むことを許さない。
本明細書で用いた単数形での記載は、記載内容が明らかにそうではない場合を除いて、それが言及する用語の複数形も包含する。
【0050】
「約」なる用語は、ほぼ、およそ、略、又は前後を意味するとして本明細書で使用される。「約」なる用語が数値範囲に関して使用される場合、それは記載された数値範囲の上下の境界を拡張することによりその範囲を緩和する。一般に、「約」又は「ほぼ」なる用語を本明細書において使用された場合、数値範囲は記載の値の上下に20%の変動率で緩和される。
【0051】
シクロデキストリン中でのE2−CDSの複合体に関して用いた場合の「飽和した」なる用語は、その複合体がE2−CDSで飽和していること、即ち、その複合体が、使用した複合体形成条件下で所定量のシクロデキストリンと複合体形成することができる最大量のE2−CDSを含んでいることを意味する。この情報を得るには、に相溶解度の検討を使用することができる。或いは、飽和複合体は、選択したシクロデキストリンの水溶液に、(複合体を形成していないE2−CDSの)沈殿が生成するまでE2−CDSを単に添加することにより経験的に到達することもできる。最後に、沈殿を除去し、得られた溶液を凍結乾燥すると乾燥状態の飽和複合体が得られる。
【0052】
「実質的に飽和した」におけるような「実質的」なる用語は、複合体の80〜100%、好ましくは90〜100%が飽和形態にあることを意味する。その他の文脈では、「実質的」なる用語は同様に正確に計算された量の20%以内、好ましくは10%以内を意味する。文脈に関係なく、計算された量の5%以内が最も望ましい。
【0053】
本明細書において用いた場合、ある変数についての数値範囲の記述は、その範囲内の任意の値に等しいその変数で本発明を実施できることを意味するものである。従って、本来的に離散(不連続)の変数の場合、その変数は、その数値範囲の終端点を含む範囲内の任意の整数値に等しい値をとることができる。また、本来的に連続的な変数の場合、その変数は、その数値範囲の終端点を含む範囲内の任意の実数値に等しい値をとることができる。1例として、0〜2の値であると記載された変数は、本来的に離散の変数である場合は0、1又は2であることができ、本来的に連続する変数の場合には、0.0、0.1、0.01、0.001、又は任意の他の実数であることができる。
【0054】
明細書及び特許請求の範囲において、単数形は、記載内容が明らかにそうではない場合を除いて、そのものの複数形をも包含する。ここで用いた「又は」や「もしくは」なる語は、具体的にそうではないことが指示されていない限り、「いずれか一方」という「排他的」意味ではなく、「及び/又は」、「及び/もしくは」という「包括的」意味で使用される。
【0055】
ここで用いた技術及び科学用語は、特に指示しない限り、本発明が属する技術分野の当業者が普通に理解する意味である。本明細書では当業者に公知の各種の方法及び材料への言及がなされる。薬理学の一般原理を説明する標準的な参考文献としては、Goodman 及びGilman著The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第10版, McGraw Hill社、ニューヨーク(2001)が挙げられる。
【0056】
ここで用いた「末梢エストラジオール濃度」とは、毎日又は隔日に1回の投与スケジュールでの反復投与を用いた治療期間を通して得られる血清エストラジオール濃度を意味する。
【0057】
ここで用いた「定常状態末梢エストラジオール濃度」とは、毎日又は隔日に1回の投与スケジュールでの反復投与を用いた治療期間を通して得られる、最初の投与後1〜2時間以内に現れる初期ピーク濃度を除外した、血清エストラジオール濃度を意味する。
【0058】
「雄性の性機能障害」、「雌性の性機能障害」及び「閉経後症状」は周知であり、前記背景技術の欄に説明されている。
ここで用いた「ロードシス」(前湾姿勢)とは、生殖力適格性のある雄からの十分な刺激に応答して雌性四足動物が行う脊柱の背屈を意味する。ロードシス指数は100×ロードシスの回数/10回のマウントとして算出される。
【0059】
ここで用いた「マウント」もしくは「マウンティング」並びに「イントロミッション」もしくは「挿入」は前記背景技術の欄に説明されている。
「雄性哺乳動物」とは、任意の雄の哺乳動物を包含する意味であるが、特に、ヒト、家庭及び農場動物、動物園動物並びに稀少もしくは絶滅危惧もしくは高価な哺乳動物種を包含する。
【0060】
「雌性哺乳動物」とは、任意の雌の哺乳動物を包含する意味であるが、特に、ヒト、家庭及び農場動物、動物園動物並びに稀少もしくは絶滅危惧もしくは高価な哺乳動物種を包含する。
【0061】
本発明の方法及び処方組成物における有効成分であるE2−CDS、即ち、17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールは、周知であり、その合成及びそのシクロデキストリンとの複合体形成の方法は、前述した背景技術欄において言及した数々のBoder, Boderら、及びAndersonらの特許を含む多くの特許及び非特許文献に記載されている。
【0062】
2−CDSのHPβCDとの約3%複合体の調製
2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)(Cerestar、置換度4.5)232gを脱イオン水465ml(ASTMタイプI)に溶解して約33%w/vの溶液を形成する。炭酸ナトリウム1%溶液でpHを8.4〜9.6に調整する。溶液をアルゴンの通気により脱気する。20〜25℃で攪拌とアルゴンバブリングを続けながら、E2−CDS(7.5g)のエタノール(188ml)溶液をゆっくり滴下する。各滴下後に溶液が透明になるまで時間をとる。滴下には約4時間かかり、最後にはより遅くなる。透明な溶液が生成する。溶液を回転蒸発器で蒸発乾固する(浴温35℃)。残渣を水にとり、計算によりシクロデキストリン溶液の初期濃度を求める。この溶液をアルゴンで覆いながら、47mm、0.45μmのナイロン66製メンブランフィルターを通して濾過する。濾液を凍結乾燥し、得られた固体をブレンダーで粉砕し、60メッシュのふるいを通過させる。得られたオフホワイト色の非晶質固体の複合体(約233g)をジャーに移し、分析する。この複合体は1グラム当たり約29〜32mgのE2−CDSを含有するはずである。E2−CDSはHPLCで少なくとも97%のクロマトグラフィー純度を有すべきである。複合体形成の収率(E2−CDS基準)は82〜96%となるはずである。
【0063】
2−CDSのHPγCDとの約2.5%複合体の調製
2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(HPγCD)(Wacker, Cavasol W8HP)45gを脱イオン水135ml(DIUF)に溶解して約25%w/vの溶液を形成する。炭酸ナトリウム1%溶液でpHを8.4〜9.6に調整する。溶液をアルゴンの通気により脱気する。20〜25℃で攪拌とアルゴンバブリングを続けながら、E2−CDS(1.5g)のエタノール(3ml)溶液をゆっくり滴下する。各滴下後に溶液が透明になるまで時間をとる。滴下には約4時間かかり、最後にはより遅くなる。透明な溶液が生成する。溶液を回転蒸発器で蒸発乾固する(浴温35℃)。残渣を水にとり、計算によりシクロデキストリン溶液の初期濃度を求める。この溶液を、アルゴンで覆いながら、47mm、0.45μmのナイロン66製メンブランフィルターを通して濾過する。濾液を凍結乾燥し、得られた固体をブレンダーで粉砕し、60メッシュのふるいを通過させる。得られたオフホワイト色の非晶質固体の複合体(約42g)をジャーに移し、分析する。この複合体は1グラム当たり約20〜25mgのE2−CDSを含有するはずである。E2−CDSはHPLCで少なくとも97%のクロマトグラフィー純度を有すべきである。複合体形成の収率(E2−CDS基準)は82〜96%となるはずである。
【0064】
2−CDSのCMEβCDとの複合体の調製
方法A:
100mgのE2−CDS及び500mgのO−カルボキシメチル−O−エチル−β−シクロデキストリン(CMEβCD)を10mlのエタノールに溶解し、この溶液を1時間超音波処理する。その後、溶媒を除去し、残渣を水にとり、濾過し、凍結乾燥する。得られた複合体は1グラム当たり約25mgのE2−CDSを含有するはずである。
【0065】
方法B:
2gのCMEβCDをpH9.0の0.10Mホウ酸緩衝液20mlに溶解する。pHは1N水酸化ナトリウム溶液で調整する。その後、エタノール2mlに150mgのE2−CDSを溶解し、得られた溶液をシクロデキストリン溶液に添加する。アルゴン下、0℃で3時間攪拌し、溶媒を減圧除去し、残渣をpH9のホウ酸緩衝液にとり、凍結乾燥する。
【0066】
臨床試験用のバッカル錠剤の製造
本発明に従って、E2−CDSを経粘膜供給するための臨床試験に使用されるバッカル錠剤が設計された。経粘膜供給は、水の付加及び/又は酸化から出発する複数の分解物の生成並びに肝臓ファーストパス代謝を生ずることになる胃腸液中でのE2−CDSの不安定さを回避する。経粘膜吸収は、本発明のHPβCD中E2−CDSの飽和した複合体(例えば、上記実施例2において調製されたような)から最小限の添加剤を用いた処方で非常に有効である。プラシーボも臨床試験用に調製された。
【0067】
【表1】

【0068】
HPγCD、CMEβCDもしくは本明細書に記載したその他のシクロデキストリンのような他のシクロデキストリンとのE2−CDSの複合体を含有する同様のバッカル錠剤を調製することもできる。
【0069】
卵巣摘出後の雌性ラットの性行動の検討
原理説明
去勢はラットにおける性行動の終止を引き起こすが、去勢した雌性ラットの性的活動性をエストラジオールの投与により回復させることができる。
【0070】
雌性ラットにおいて、エストラジオールは視床下部及び視索前野に作用して、雌の生殖行動の重要な1要素であって、性的に能動的な雄に対する交尾を可能にするための雌の特徴的な姿勢であるロードシス(前湾姿勢)の発現を調節する。エストラジオールは、普通の生化学的経路上で収束しうる複数の分子ターゲットに作用して、ロードシスの発現を調節する知覚及び神経化学的な合図の統合を確保する。そのため、ロードシスが、卵巣摘出した雌性ラットにおける雌の性的機能回復の指標並びに雌の性機能障害症状の緩和に対する適切な指標として選択された。
【0071】
血中の黄体形成ホルモン(LH)は、エストラジオールのCNS効果を反映するバイオマーカーである。エストロゲンは黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)の分泌を減少させ、従ってLHの分泌を低減させる。そのため、それぞれE2−CDSの中枢及び末梢効果を測定するためにLH及びエストラジオールの濃度を調査した。
【0072】
実験の設計
ハンガリー、ゴドロのCharles River Hungary Ltd.からの成熟雌性Sprague Dawleyラット(220〜250g)を用いた。動物は、逆転された明/暗サイクルを用いて、人口照明による明14時間、暗10時間のサイクルで環境調節された室内(23±2℃、または23∀2EC、湿度50〜60%)で集団ケージ(1ケージに4匹)にて飼育された。食物と水は随意に摂取可能であった。
【0073】
最低5日間の順化期間の後、動物をエーテル麻酔下で卵巣切除し、次いで試験まで3週間そのままにして回復させた(再回復期)。全動物が欧州共同体評議会指示(86/609/E℃)のガイドラインに従って扱われ、試験はInstitutional Animal Care Commission(動物養育委員会)により許可された。
【0074】
安息香酸エストラジオール及びプロゲステロンは、ハンガリー、ブダペストのSigma Chemical Co., Inc.から入手した。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンは米国インディアナ州、ハモンドのCeresar Inc.から購入した。安息香酸エストラジオールを40w/v%2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)溶液に溶解し、27w/v%HPβCD溶液で希釈した(0.29mg/kgが0.3mg/kgのE2−CDSのそれに等モルである)。HPβCDとの3%複合体としてのE2−CDS(E2−CDS−CD)を蒸留水に溶解し、27%HPβCD溶液で希釈した。E2−CDS−CDは、米国フロリダ州アラチュアのAlchem Laboratories Corporationにより合成された。
【0075】
行動試験
手術から回復した後、卵巣摘出した雌性ラットを4群に分け、次のように、尾部静脈からのボーラス(大量)注射により毎日1回5日間の静脈内治療を行った:(1)対照、27%HPβCD溶液、(2)27%HPβCD溶液に溶解した0.003mg/kgのE2−CDS、(3)27%HPβCD溶液に溶解した0.01mg/kgのE2−CDS、及び(4)27%HPβCD溶液に溶解した0.03mg/kgのE2−CDS。最低数の卵巣切除雌性ラット(8〜12匹)を1群当たりに使用した。E2−CDS又はHPβCD(対照)による静脈内治療は、体重100g当たり0.05mlの量で行動観察の初日の2日前に開始して5日間毎日行った。
【0076】
安息香酸エストラジオール(EB)の検討は、予め卵巣切除された雌を、3週間の休息期間の後で、新たにランダム化して実施した。動物(1群当たり7〜11匹)を、E2−CDSに適用されたプロトコルと同様に、連続5日間毎日1回0.003、0.01及び0.03mg/kgの安息香酸エストラジオールで静脈内治療した。安息香酸エストラジオールは40%HPβCD中に溶解し、27%HPβCD溶液で希釈した(0.29mg/kgの原液がE2−CDSのそれに等モルである)。
【0077】
行動試験は暗サイクル中にアクリルガラス観察ケージ内で行った。行動観察中は、ほの暗い赤色灯だけを点灯した。
試験する1匹の雌より5分前に、経験のある活発な1匹の雄性ラットを観察ケージに入れた。各雌を、試験期間当たり引き続く10回のマウント行動時間の間、或いは最長で10分間観察し、前湾姿勢(ロードシス)応答の回数を記録した。ロードシス指数(LQ)は、性的受容性に及ぼすエストロゲンの効果を表示し、次式により算出される:
LQ=100×ロードシスの回数/10回のマウント。
各雌の性行動の観察は、E2−CDSの場合は、22日間毎日実施した。EBの場合には、10日間毎日観察を実施した。
【0078】
0、3、7、10、12、15及び18日目に血液検体を採取して、LH及びエストラジオールの濃度を測定した。クエン酸塩添加血液検体を軽いエーテル麻酔下で眼窩後洞穿刺により採取した。検体を4℃(又は4EC)で1時間保管した後、1000gで10分間遠心分離した。血漿を分離し、分析するまで−80℃で保管した。個々の検体からの血漿LH濃度を、イタリー、ローマのAmersham Pharmacia Biotechから入手した2抗体ラジオイムノアッセイキットにより測定した。血漿エストラジオール濃度は、BioChem Immuno Systemから入手した2抗体I125アイソトープ-RIAキットにより測定した。検出限界は15pg/mlであった。
【0079】
行動変化をマン・ホイットニー(Mann-Whitney)U検定(Siegel, Nonparametric Statistics for the Behavioral Sciences, ニューヨーク; McGraw-Hill Book Company, Inc. 1956)を用いて解析した。フィッシャー(Fischer)精度検定をパーセント比較のために使用した(Zar, Biostatistical Analysis, Prentice Hall, Inc., ニュージャージー州、エングルウッド・クリフズ、1974)。血清LHデータは、各回及び各治療群ごとに、分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ(Bonferroni)事後検定(posthoc test)により解析した。血漿LH及びエストラジオール濃度は、コンピュータ化標準曲線プログラムであるプリズム(Prism)ソフトウェア(バージョン3.0、Graph Pad、米国カリフォルニア州サンディエゴ)により評価した。
【0080】
結果
図1〜5は、得られた結果を示す。図1において、データは1群当たり8〜12匹での平均値±SE(標準偏差)であり、マン・ホイットニーU検定を用いて、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。図2において、データは、1群当たり7〜11匹での平均値±SEであり、***及び***は図1について述べた通りの意味である。図1及び図2に示したデータは、同用量のE2−CDSと安息香酸エストラジオール(E2−Benz)の効果をより容易に比較するように図3に再編成されている。図4及び5では、データは1群当たり7〜12匹での平均値±SEであり、ANOVAとの後のボンフェローニ事後検定を用いて、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0081】
0.03mg/kgの用量では、E2−CDSと安息香酸エストラジオールの両方でロードシス指数LQが著しく増大した。E2−CDSの場合、図1に示すように、この効果は3日目から18日まで間続いた。安息香酸エストラジオールからの効果は、より顕著性が低く、3日目から8日目までしか続かなかった。図2を参照。図2並びに図3の最初の部分に見られるように、安息香酸エストラジオールからのLQ値はE2−CDSについて得られたものの約1/3であった。E2−CDS及び安息香酸エストラジオール治療後のLQの最大値はそれぞれ73及び27.3であった。
【0082】
0.01mg/kgの用量では、E2−CDSは5日目から11日目までLQを著しく増大させた。この増大は、その後は統計学的には有意ではないものの15日目まで続いた。この用量の安息香酸エストラジオールは、LQを3日目から10日目までいくらか増大させた(E2−CDSに比べて約1/3)が、この効果は統計学的には有意ではなかった。図1、2、及び図3の第2部分を参照。
【0083】
0.003mg/kgの用量では、この用量の試験化合物はどちらもロードシス指数をいくらか増大させたが、これらの効果は統計学的には有意ではなかった(安息香酸エストラジオールは3〜7日目;E2−CDSは3〜18日目)。図1、2、及び図3の第3部分を参照。
【0084】
図4は、血漿LH濃度が試験したE2−CDSの全用量水準、即ち、0.003、0.01及び0.03mg/kgで抑制されたことを示す。0.03mg/kgという低い静脈内用量ですら、血漿LH濃度は18日目まで統計学的に有意な程度に抑制された。0.003mg/kgという非常に低い用量でも、血漿LH濃度の抑制は15日目まで持続した。これに対して、図5に示すように、安息香酸エストラジオールの試験した全用量のどれでも、統計学的に有意なLH抑制を示さなかった。
【0085】
以上の試験は、E2−CDSがラットの雌の性的機能を回復できることを示し、適切な末梢エストロゲン濃度を維持しながらこれまで可能と考えられていたより低用量で、女性(ヒト)を含む雌へのその投与により雌性の性機能障害の症状を軽減することができることを意味する。
【0086】
臨床試験
最近、閉経後の女性に2.5mg又は5mgの用量のE2−CDSを1回バッカル投与する臨床試験においてE2−CDSが検討された。それよりさらに最近には、閉経後の女性のフェーズI臨床試験において、2.86mgのE2−CDSバッカル供給錠剤の二種類の異なる投与計画が安全性とホルモン濃度への影響に対して評価された。被験者は、12名の健康な閉経後のボランティアであり、6名ずつの2群に分けられた。A群では、女性に10日間毎日1回投与し(10回の投与);B群では隔日に1回13日間投与した(7回の投与)。両群において、血清の総エストラジオール及び遊離エストラジオール、エストロン、LH、FSH、プロラクチン、SHBG及びテストステロンの測定を治療期間中は一定間隔で、及び最終投与から72時間後に行い、さらに1日目と最終投与から72時間後に尿エストロンの濃度及び2−OHE1/16−OHE1の比を求めた。結果の簡単な評価は次の通りである。
【0087】
結果
1.溶解
2−CDSをヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとの飽和した複合体としてバッカル供給形態(バッカル錠剤)で投与した。バッカル溶解時間(従って「頬内滞留時間」)の中間値は11分13秒(最小1分12秒、最大23分03秒)であった。この溶解時間は患者にとって好都合である。
【0088】
2.エストラジオール(E2
2.86mgのE2−CDSの投与後、最初の24時間の間の血清中のE2の最大濃度(Cmax)は102±20.2pg/mlであり(被験者12、この被験者はその後も他の全ての被験者より非常に高い濃度を示した)、このピークには1.2±0.4時間で到達した。被験者12を除外したCmaxは97.8±20.0pg/mlであった。平均45分の溶解速度をもつバッカル供給形態を使用したより初期の臨床試験における平均Cmaxは、2.5mgのE2−CDS後に2時間のTmaxで153.4pg/mlであった。この差異に対する1つの説明は、これらの2つの異なる試験で使用した2つの処方組成物の溶解(従って頬内滞留)時間の差であるかもしれない。
【0089】
どちらの投与計画(毎日1回に対する隔日に1回)も、次回のE2−CDSの投与前に常に測定したトラフ(谷底部)血清エストラジオール濃度(CTR)における蓄積、即ち、増大を生じなかった。しかし、反復投与中に確認された血清濃度は2つの投与計画の間で違っていた。定常状態で、毎日投与の群では95.3±76.6pg/mlのE2 CTRmaxに達した(被験者12の値を除外すると、この濃度は65.2±23.2pg/mlである)。隔日の投与計画ではE2の定常状態CTRmax血清濃度は26.4±9.8pg/mlであった。
【0090】
試験後(最終投与の72時間後)、E2濃度はそれぞれ隔日投与群では11.5±2.7pg/ml、毎日1回投与群では36.8±54.6pg/mlであった。毎日1回投与群で、この試験後の値は被験者12の値を除外すると12.5±6.5pg/mlとなろう。
【0091】
3.エストロン(E1
1は、E2と共に最初の24時間の間及び試験後(即ち、最終投与の72時間後)に測定した。試験後の値は毎日1回投与計画群及び隔日投与計画群でそれぞれ47.5±49.7pg/ml(被験者12を除外:27.8±12.8pg/ml)及び31.4±9.4pg/mlであった。反復投与中、蓄積を伴わないE2に似たトラフ濃度パターンがE1についても両方の投与計画群において予想されうる。即ち、定常状態濃度は隔日投与群より毎日1回投与群の方がいくらか高くなるであろう。
【0092】
4.LH抑制
最初の24時間、LHの最大減少はA群及びB群において、それぞれベースラインから13.8±4.9及び12.7±6.8IU/mlであった(A群がやや高いベースライン値を示した)。これはベースラインからのLH濃度の35〜40%の減少に対応する。最大LH抑制はA群及びB群においてそれぞれ投与後7.3±5.3時間及び7.3±2.7時間に現れた。試験後(最終投与から72時間後)では、LH濃度はスクリーニング/ベースライン値から、もはや異なることはなかった。投与後最初の24時間の間だけ24時間のLH抑制プロファイルを決定したが、各投与日についても同様の1日LH抑制パターンを予測することができる。血液検体は、それぞれA群(毎日1回)では3〜11日目について、そしてB群(隔日)では3、5、7、9、11、13日目について、追加の投与前LH測定のために利用可能である。
【0093】
5.FSH抑制
A群及びB群において投与後最初の24時間の間にそれぞれ15%及び16%のFSH濃度の抑制が観察された。最大抑制はA群及びB群において投与後それぞれ13.2±5.7及び11.8±5.8時間で起こった。LHとは異なり、試験後のFSH濃度はスクリーニング/ベースライン値をなお下回っていた(14〜25%だけ)。FSH抑制の作用速度はLH抑制のそれとは異なっているようである。FSH抑制はE2−CDSの投与後よりゆっくり現れ、FSHは試験の全期間にわたって、最終投与から72時間後でも、いくらか抑制されたままである。追加の投与前ホルモン濃度測定のための血液検体が、A群及びB群において、それぞれ3〜11日目及び3、5、7、9、11、13日目について利用可能である。2.5mgのE2−CDSを投与した以前の臨床試験における投与後の最初の24時間における最大FSH抑制の程度(12.5%)は、今回の2回目の試験で投与された用量がやや多い(2.86mg)ことを考慮すると、本試験における程度と同様であった。
【0094】
6.プロラクチン
プロラクチンの平均ベースライン濃度はA群がB群より高かった。また、A群の13日目の平均濃度はB群の16日目より高かった。ベースラインに比べたプロラクチン濃度の上昇は、試験の最後まででA群及びB群においてそれぞれ29.8%及び16%であった。2つの群の間での差は統計学的には有意ではなかった。
【0095】
7.SHBG(性ホルモン結合グロブリン)
A群(13日目)及びB群(16日目)のSHBG濃度は1日目のベースラインよりそれぞれ22.2%及び41.2%高かった。両群の間での統計学的な差は実証されなかった。
【0096】
8.テストステロン
1日目でテストステロンの血清濃度はA群とB群の両方で減少した。平均AUC24は、A群及びB群においてベースラインAUC24(=C0*24)よりそれぞれ31.1%及び23.0%だけ低かった。1日目の血清テストステロン濃度は、A群及びB群でそれぞれ22.5±21.0及び24.0±14.0ng/dLから1.3±1.9及び4.0±3.9ng/dLへと減少した。これらの1日目の最小テストステロン濃度に到達するまでの時間は、A群及びB群でそれぞれ6.5±11.7及び7.3±11.3時間であった。最終投与用量から72時間後、テストステロン濃度は回復し、A群及びB群でそれぞれ14%及び28%だけベースライン値より若干高くなった。しかし、2群の間の差はどのパラメータでも統計学的有意差には達しなかった。
【0097】
9.尿エストロン(E1)及び2−OHE1/16−OHE1(2−ヒドロキシエストロン/16−ヒドロキシエストロン)
尿は、両群にて1日目の24時間並びにそれぞれ10日目(A群)及び13日目(B群)の一晩(8時間)採取して、排尿エストロン(E1)、2−OHE1、16−OHE1及び2−OHE1/16−OHE1の比を求めた。1日目における24時間尿中のE1類の平均量及びE1/クレアチンの比は両群において非常に似ていた。A群の10日目における8時間尿中の平均量及び2−OHE1/16−OHE1の比は、B群における13日目よりやや高いように見えた。従って、A群における10日目−1日目の平均量(8時間の採尿時間に調整した値)の差及び平均比の差は、B群における13日目−1日目の対応する差より高くなった(0.15vs0.05)。比の差は統計学的有意差に近づいた(p=0.077)。最終投与日(それぞれA群では10日目、B群では13日目)に、2−OHE1の平均量は、A群及びB群の1日目のその値(8時間の採尿期間に調整した値)よりそれぞれ4.46倍及び2.34倍高くなった。しかし、尿中16−OHE1の量の増大は、1日目の8時間に調整した値に比べて、治療期間の最後にA群及びB群でそれぞれ2.48倍及び1.26倍高くなっただけであった。治療期間中、2−OHE1/16−OHE1の比はA群及びB群でそれぞれ63.6%及び54.7%増大した。
【0098】
10.安全性及び耐薬性
4名に被験者に合計7件の有害事象(AE)が経験された。AEの内訳は、SGOT及びCPK濃度の増大(1人1症例ずつ)、頭痛(2症例)並びに1人1症例ずつの舌炎、吐き気及び嘔吐であった。全てのAEが軽度又は中度であり、重度のAEは認められなかった。試験薬物との関係は1症例の舌炎において相当の因果関係があると判断された。他のAEはいずれも試験薬物に相当の原因があるとは考えられなかった。異常な実験の知見は偶発的な外傷の結果であり、値は7日後には正常に戻った。1例のAE(頭痛)は500mgのパラセタモールの1回投与による治療を要した。全てのAEが後遺症を伴わず解消した。
【0099】
結論
この臨床試験の目的は、反復投与試験中の血清ホルモン濃度(焦点は血清E2濃度)についてのPKデータを集めることであった。2.86mgのE2−CDSを毎日1回(A群)又は隔日に1回(B群)バッカル投与した。定常状態濃度(それぞれA群では被験者12を除外すると65.2±23.2pg/ml、B群では26.4pg/ml)に達した後、トラフE2濃度は時間と共に増大せず、2つの群のいずれでも蓄積の徴候はなかった。時間、即ち、A群の7〜11日目の間及びB群の5、7、9、11及び13日目を含む被験者*時間相互作用の有意な効果を示さなかったE2トラフ濃度反復測定ANOVA(分散分析)に基づくと、定常状態E2トラフ濃度はB群及びA群でそれぞれ5日目及び7日目に到達したと結論づけることができる。A群において到達した定常状態末梢E2濃度は、臨床効果、即ち、血管運動及び尿性器症状の軽減が予想されるような範囲内(65.2±23.2pg/ml)で安定した。しかし、血管運動症状のメカニズムは大部分CNS媒介であることを念頭におき、さらにE2がBBBの後方に捕捉された不活性なE2+前躯体から放出されてすぐ脳からしたたり出るという臨床前知見に基づくと、B群でもより低い末梢トラフE2濃度で臨床効果が予測される。
【0100】
実際面からは、隔日の投与計画は患者にとって複雑であるかもしれない。これに対し、より低い用量(0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75、2.0mg)での毎日1回投与も閉経後の症状、特に血管運動及び尿性器症状の改善、並びに女性の性機能障害、特に性的欲求欠陥もしくは性的疼痛の障害を抱える場合、の効果的な治療に十分となるはずである。また、エストロゲン/プロゲスチン併用剤、例えば、PremproTM、又は経口避妊薬の調剤に典型的に使用されているものに似た4週間錠剤パックをいずれの場合にも使用することができよう。隔日投与計画では、E2−CDSバッカル錠剤とプラシーボ錠剤とを交互に置くことにより患者に対して単純化される。
【0101】
わずかな有害事象の発生のうち1つだけが試験薬物に相当の原因があると判断されたことは、低用量でバッカル投与された時のE2−CDSの優れた安全性及び耐薬性を証明する。尿中2−OHE1/16−OHE1比の増大という知見は、乳ガンの危険性に関しても良好な安全性プロファイルを示すものである。文献からのデータは、尿中2−OHE1/16−OHE1比が低いことは乳ガンの危険性が高いことの重要なバイオマーカーであることを一貫して証明したきた。E2−CDSによる治療は乳ガンの危険性を増大させるような方向にE2及びE1の代謝を変化させることはなく、逆に有益な方向に上記比率を変化させる。代謝産物プロファイルは、有害ではなく保護的である。これらの代謝産物が同じエストロゲン性受容体に対して競合するため、量の増えた「良い代謝産物」(2−OHE1)によって、「悪い代謝産物」(16−OHE1)がエストロゲン受容体を占拠して胸部上皮細胞内での突然変異に至ることのある細胞事象を開始させる可能性が低減する。
【0102】
フェーズII臨床試験(第一薬効試験又は概念証明試験)は準備中である。この新たな臨床試験は、HPβCDと複合体形成し、バッカル経路で供給されたE2−CDS(EstredoxTM)の効果を主に評価するために計画されたものである。薬物は、12週の治療期間中、3種類の用量水準(0.5mg/日、1.0mg/日及び2.0mg/日)で、毎日1回(QD)投与され、中度から重度の閉経後血管運動症状に罹患している患者において「顔面潮紅毎日重み付き重篤度スコア(DWSS,hot flash daily weighted severity score)により測定された顔面潮紅(のぼせ、ほてり)の回数と重篤度(ひどさ)に対してプラシーボと比較する。
【0103】
評価される二次パラメータは、この患者の集団における閉経等級スケール(MRS, Menopause Rating Scale)質問票から算出されるスコアに対するプラシーボ対照治療効果である。バッカル処方錠剤の治療遵守性及び許容性も試験の二次パラメータとして評価されよう。バッカル錠剤の崩壊時間は1日目、28日目及び26日目に記録されよう。治療前後の安全性指数もまた評価され、その指数としては、生命徴候(バイタルサイン)によるによる検診、鬱血パラメータを含む日常安全性検査、有害事象の観察もしくは報告、血清FSH、LH、プロラクチン、SHBG、E2、E1、尿中E1、及び尿中2−OHE1/16−OHE1比といった中枢エストラジオール作用のバイオマーカーとしてのホルモンレベル、TVSにより評価される子宮内膜厚み、Pap(パパニコロー)スミア、膣の細胞検査(成熟指数)及びpH、ピペル(Pipelle)による子宮内膜吸引、並びに胸部検査を含むであろう。
【0104】
この試験の主な目的は、中度から重度の血管運動症状(顔面潮紅)に罹患している外来の閉経後の女性における12週間の治療期間中の顔面潮紅の回数及び重篤度に及ぼす、0.5、1.0及び2.0mgE2−CDS/日の用量でのQD EstredoxTMバッカル錠剤の効果をプラシーボと比較して評価することである。
【0105】
二次的な目的は、事前に得たMRS質問票のスコアに及ぼす12週の治療中(第4週及び第8週)並びに治療後の3種類の用量のEstredoxTM(0.5、1.0及び2.0mgE2−CDS/日)のプラシーボ対照効果の評価を含む。バッカル錠剤の治療遵守性及び許容性も測定されることになり、錠剤崩壊時間が3回の機会(1、28及び56日目)に記録されることになる。
【0106】
EstredoxTM治療の安全性は、バイタルサイン、鬱血パラメータを含む日常検査、並びに血清FSH、LH、プロラクチン、SHBG、及びE1と一緒のE2、尿中E1、並びに尿中2−OHE1/16−OHE1比といった中枢エストロゲン作用を確認するためのバイオマーカーを、12週間の治療期間中(ただし、プロラクチン、SHBG及び尿は4週目及び8週目)及び治療後に測定することにより求めることになる。患者はまた、TVSによる子宮内膜厚み、Papスミア、膣の細胞検査(成熟指数)及びpH、ピペルによる子宮内膜吸引、並びに胸部検査(マンモグラフィー及び超音波)を含む詳しい婦人科検査も2回、即ち、治療前及び後(0週目及び12週目)受けることになる。
【0107】
これは、4種類の治療群に1つに同じ人数でランダムに割り当てられた80名の外来閉経後女性患者によるフェーズIIの複数医療機関にまたがる反復投与二重盲検プラシーボ対照用量範囲試験となる。登録されうるのは、子宮が無傷で、現状でエストロゲン、又はエストロゲン−プロゲストゲン(ET/EPT)、フィトエストロゲン、又は選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)療法を受けていない患者である。患者が以前にET/EPT、フィトエストロゲン又はSERM療法を受けていた場合には、試験への可能な被検候補者の登録の前に適当な洗浄(ウオッシュアウト)期間をとることになろう。
【0108】
患者はまず2週間の無治療の導入段階に入り、その間に患者は顔面潮紅の回数と重篤度を記録するために日記をつけることが求められる。1週間あたり50回より多い(平均で毎日7回超)中度〜重度の顔面潮紅を体験する患者だけが、本試験の治療段階への登録に対する適格者となる。適格な患者は4つの治療群の1つに同数ずつランダムに割り当てられる。全ての治療群の患者が、二重盲検法で、プラシーボバッカル錠剤1錠又は0.5、1.0若しくは2.0mgE2−CDS/日の用量の同一のEstredoxTMバッカル錠剤1錠のいずれかを試験の各朝に毎日1回(QD)、84日間、絶食条件下で受けることになる。
【0109】
バッカル錠剤の崩壊時間は、試験1、28及び56日目に、患者が試験担当者の面前で錠剤を所定部位に自己投与する時に記録する。治療期間中、患者は顔面潮紅の回数及び重篤度を記録し続ける。治療の28日及び56日後(4週及び8週後)にMRS質問票スコアの暫定の査定と遵守性及び有害事象の評価を行う。これらの中間訪問時に、ある種の鬱血パラメータの測定並びに血清ホルモン濃度(E2、E1、FSH、LHのみ)のために採血も行う。12週の治療期間は85日目の終了訪問中に完全に評価される。
【0110】
このように、本発明に係るE2−CDSの投与は、E2−CDSによる女性の閉経後症状の治療に有効であるとこれまで予測されてきた量よりずっと少ない用量で、閉経後症状の有効な治療を含む女性の性機能障害の有効な治療を提供することができる。性的欲求障害又は性的疼痛障害のような女性の性機能障害の他の側面の治療に対しては具体的な投薬法は未だかって提案されたことがない。事実、女性の性機能障害のこれらの側面の治療はこれまで提案されたことがなく、関連する動物試験もE2−CDSの文献にこれまで記載されたことがない。
【0111】
さらに、E2−CDSの文献はLH濃度の実質的かつ長期の抑制を強調している。しかし、LH阻害は避妊のようなエストロゲンのある種の用途にとってはより重要であるかもしれないが、LH抑制と性機能障害の治療との間に直接的な関係があるようには考えられない。本発明に従って性機能障害の各種側面の治療に対して女性に有効に投与されうる低レベルのE2−CDSは、特に予想外である。0.5〜2.0mgのバッカル日用量は、生物学的利用能が約30%であると仮定して計算すると、実際に利用可能な用量としてはわずか0.15〜0.6mg/日になり、これを平均60〜70kgの体重で割ると、女性における用量は約0.0025〜0.01mg/kg又はそれ以下になる。これは、長期間LHを有効に抑制し、閉経後症状を治療するのに必要とこれまで考えられてきた用量よりはるかに少ない。もちろん、投薬量は選択した特定の投与経路及び選択した経路にあてはまる生物学的利用能により変動しよう。
【0112】
本発明に従った投与により軽減される具体的な症状としては、特に性的欲求能動低下型又は性的疼痛障害型の女性の性機能障害、並びに閉経後の女性におけるこれらの障害に結びつく症状(加齢に関係するものと、他のエストロゲン枯渇(剥奪)の原因(手術など)とを問わない)が挙げられる。これらの症状としては、膣の乾燥/潤滑不足及びその結果起こる性交に伴う疼痛、寝汗及びのぼせといった血管運動症状、不眠、抑うつ、神経質症、尿失禁、いらつき及び不安、さらには性的疼痛の恐怖が挙げられ、これらすべてが性的欲求低下障害と関係する可能性がある。もちろん、骨粗鬆症及びアルツハイマー病といった更年期又は閉経後のエストロゲン枯渇に関連する他の症状も、本発明により提供される低用量のE2−CDS処方組成物の投与により軽減することが予測される。
【0113】
そして、このような投薬量は、末梢エストロゲン濃度を、標準的なHRT療法により生ずるような閉経前の濃度に比べて、一定して高濃度を与えることはない。むしろ、E2−CDSは、平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で上述した症状を軽減するのに有効であると考えられる。実際、有効投薬レベルは、そのような平均末梢エストラジオール濃度が40pg/mlを超えない、さらには20pg/ml以下となり、平均ピークエストラジオール末梢濃度が70〜90pg/ml以上にならず、又はさらにはより低くなるように選択しうる。本発明にとって、1回の高用量よりは反復した低用量を使用して、女性のエストロゲン露出を最小限にするために、平均末梢エストラジオール濃度が十分に低く(定常状態で50〜60pg/ml、40〜50pg/ml、20pg/ml又はそれ以下)、ピーク濃度で平均約70〜90pg/mlを超えないようにすることが重要である。
【0114】
睾丸摘出後の雄性ラットの性行動の検討
原理説明
去勢はラットにおける性行動の終止を引き起こすが、去勢した雄性ラットの性的活動性をエストラジオールの投与により回復させることができる。このことは、Andersonらの米国特許第4,863,911号において去勢雄性ラットへのE2−CDSの投与について既に示されている。そこに記載された試験では、3mg/kgの1回の静脈内用量で、E2−CDSは、雄による雌の追いかけを増大させ(即ち、マウント及び挿入の潜伏時間を減少させ)、かつ交尾行動の開始を増大させ(マウント及び挿入回数を増大させ)ることにより、28日間ラットの男系性行動を改善することが認められた。
【0115】
これらのデータは、E2−CDSが男系性行動の準備的成分の強力な長期作用刺激剤であることを示唆した。しかし、エストラジオールは射精を妨害することがあり、Andersonらの上記特許及びE2−CDSに関する他の刊行物は、E2−CDS投与から生ずるエストラジオール濃度の問題を、そのような濃度が勃起機能を含む雄性の性機能障害のすべての側面の治療に及ぼす可能性のある影響に関して取り組むことはしていない。さらに、E2−CDSの文献において雄性に使用された薬物は長期にわたって血清中に許容できない高いエストラジオール濃度を生ずることが今明らかになっている。
【0116】
血中の黄体形成ホルモン(LH)は、エストラジオールのCNS効果を反映するバイオマーカーである。エストロゲンは黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)の分泌を減少させ、従ってLHの分泌を低減させる。そのため、E2−CDSの中枢及び末梢効果を測定するためにそれぞれLH及びエストラジオールの濃度を調査した。
【0117】
実験の設計
ハンガリー、ゴドロのCharles River Hungary Ltd.からの成熟雄性Sprague Dawleyラット(300〜400g)を用いた。動物は、逆転された明/暗サイクルを用いて、人口照明による明14時間、暗10時間のサイクルの環境調節された室内(23±2℃)において集団ケージ(1ケージに4匹)で飼育された。体重200〜250gの雌性ラットを試験48時間前にエストラジオール(50μg/匹)及び実験4時間前にプロゲステロン(0.5mg/匹)の皮下注射により受容状態にした。これらのホルモンはひまわり油に溶解した。
【0118】
次に説明する基底行動の確認の後、選択した動物を1回の腹側中央切開により睾丸摘出し、再飼育した。
睾丸摘出術から回復した動物を反復試験した後、ラットを4群に分け、次のいずれかの1つで、1回の尾部静脈注射により静脈内治療を行った:1群:対照(27%ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)、2群:0.03mg/kgのE2−CDS、3群:0.3mg/kgのE2−CDS、及び4群:3mg/kgのE2−CDS。
【0119】
メイティング(つがい化)は暗サイクル中にほの暗い赤色灯だけを点灯した室内においてアクリルガラス観察ケージ内で行った。雄は雌より5分前に観察ケージに入れた。
その後、下記のパラメータを測定した:
マウント潜伏時間(ML):雌の導入から最初のマウント(背乗り行動)又は挿入までの時間;
挿入潜伏時間(IL):雌の導入から最初の挿入(イントロミッション)までの時間;及び
射精潜伏時間(EL):最初の挿入から射精までの時間。
【0120】
ILが15分を超えた時には、その回は陰性(ネガティブ)であると考えた。ELは、去勢の結果をチェックして、15分より長い射精潜伏時間を示した動物だけを選択するようにするために測定しただけであった。
【0121】
基底行動を確認するために、各雄を4回の連続かつ一貫した行動パターンが得られるまで5日毎に試験した。この予備試験は、約4週間続けた。試験した動物のほぼ半数が睾丸摘出に適していると見なされた。
【0122】
睾丸摘出からの治癒後28日目に動物を再び試験し(0日目)、4つの実験群に分けた。試験には15分より長い射精潜伏時間を示した動物だけを含めた。
雄の性行動の試験は、薬物の投与から3、7、14、21、28、35及び42日後又は効果が消失するまで、即ち、2つの引き続く試験中に群の間で統計学的に有意な差が認められなくなるまで、行った。
【0123】
行動パターン及び関連する時間を熟練した観察者が手動で記録した。
各試験日の後、各動物からの血液検体を軽いエーテル麻酔下で眼窩後洞から採取して、血清LH及びエストラジオールの濃度をそれぞれ2抗体及びI125アイソトープ-RIAキットを用いて測定した。
【0124】
安息香酸エストラジオール及びプロゲステロンは、それぞれハンガリー、ブダペストのRichter Pharmaceuticals, Ltd.及びハンガリー、ブダペストのSigma Chemical Co., Inc.から入手した。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンは米国インディアナ州、ハモンドのCeresar Inc.から購入した。HPβCDとの3%複合体としてのE2−CDS(E2−CDS−CD)を蒸留水に溶解し、27%HPβCD溶液で希釈した。E2−CDS−CDは、上記実施例2の手順を用いて、米国フロリダ州アラチュアのAlchem Laboratories Corporationにより合成された。
【0125】
行動試験
睾丸摘出術から4週間後、各群のラットを尾部静脈注射により下記の薬物用量のいずれかで治療した:0.03、0.3、及び3mg/kgのE2−CDS。血液検体を軽いエーテル麻酔下で眼窩後洞穿刺により採取した。検体を4℃で1時間保管した後、1000gで10分間遠心分離した。血漿を分離し、分析するまで−80℃で保管した。個々の検体からの血漿LH濃度を、イタリー、ローマのAmersham Pharmacia Biotechから入手した2抗体ラジオイムノアッセイキットにより測定した。血漿エストラジオール濃度は、BioChem ImmunoSystemから入手したI125アイソトープラジオイムノアッセイキットにより測定した。LH及びエストラジオールの濃度は、プリズムソフトウェア(バージョン3.0、Graph Pad、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いてコンピュータ化標準曲線プログラムによりにより算出した。検出限界は15pg/mlであった。
【0126】
行動変化をマン・ホイットニーU検定(Siegel, Nonparametric Statistics for the Behavioral Sciences, ニューヨーク; McGraw-Hill Book Company, Inc. 1956)を用いて解析した。フィッシャー精度検定をパーセント比較のために使用した(Zar, Biostatistical Analysis, Prentice Hall, Inc., ニュージャージー州、エングルウッド・クリフズ、1974)。血清LHデータは、各回及び各治療群ごとに、分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ(Bonferroni)事後検定(posthoc test)により解析した。血漿LH及びエストラジオール濃度は、コンピュータ化標準曲線プログラムであるプリズムソフトウェア(バージョン3.0、Graph Pad、米国カリフォルニア州サンディエゴ)により評価した。
【0127】
結果
図6〜12は、得られた結果を示す。図6〜12において、データは1群当たり8〜12匹での平均値±SEであり、適当にフィッシャー精度検定又はマン・ホイットニーU検定を用いて(図6及び7ではフィッシャー精度検定、図8〜11ではマン・ホイットニーU検定)、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。図12では、各点は、8〜13匹のラットから得られた検体の平均値±SEMを表す。
【0128】
睾丸摘出術は、挿入反応の減少(図7)よりマウント反応の減少(図6)により効果が少ないことが認められた。E2−CDSは、0.3mg/kgの用量で7日目までに、3.0mg/kgの用量では14日目及び21日目までに、100%の動物においてマウント動作を回復させた。挿入動作は3.0mg/kgの用量で14日目から28日目にかけて統計学的に有意なように改善された。
【0129】
マウント頻度は、0.3及び3.0mg/kgの用量では7日目に、3.0mg/kgの用量では14、21及び28日目に著しく増大した(図8)。マウント潜伏時間は0.3及び3.0mg/kgの用量について7日目から28日目にかけて急激に減少した(図9)。
【0130】
統計学的に有意な挿入頻度の増大と挿入潜伏時間の減少が、3.0mg/kgの用量で14、21及び28日目に観察された(図10及び11)。
このように、雄性ラットにおける交尾行動の試験した指標の回復に及ぼすE2−CDSの効果は0.3及び3.0mg/kgの用量で28日目まで有意であった。0.03mg/kgの用量は統計学的に有意な効果はなかった。
【0131】
未去勢のラットの血漿LH濃度は1.1±0.15ng/mlであった。両側睾丸摘出術の4週間後、LH濃度は8.13ng/mlに増大した。試験したE2−CDSの最低用量(0.03mg/kg静脈内)では、血漿LH濃度は低下しなかった。0.3mg/kg静脈内の用量では、標記化合物がLH濃度を1、3及び7日目に有意に減少させた。15日目までに対照動物と治療動物との間にLH濃度の有意差がなくなった。試験したE2−CDSの最高用量(3mg/kg静脈内)では、LH濃度は28日間を通して有意に抑制された(図12)。
【0132】
エストラジオール濃度は0.03及び0.3mg/kg静脈内の用量のE2−CDSで治療された動物では検出限界を下回っていた。試験した最高用量(3mg/kg静脈内)では、エストラジオール濃度は治療後1日目に258±19pg/mlであった。この用量では、このホルモン濃度は、3日目に165±14pg/mlまで39%減少し、7日目には61±7.7pg/mlまで減少した。次に14日目に試験した時には、試験した最高投与についてもエストラジオール濃度が検出限界を下回った。次の表2を参照。これは、Andersonらの米国特許で使用したE2−CDSの投薬レベル(ラットへの3mg/kgの1回静脈内投与)が長期にわたって許容できないほど高い末梢エストラジオール濃度を生じたらしいことを確認し、このAndersonらの米国特許及びE2−CDSの文献に記載されているデータとも一致する。この濃度は射精を妨害するのに十分な高さであると予測される。
【0133】
【表2】

【0134】
上述した試験を、0.03mg/kgの1回静脈内注射の投与、及び0.01mg/kgの用量の10日間の毎日注射投与を用いて繰り返した。E2−CDS原液溶液(40%)は27%HPβCD溶液中で希釈した。
【0135】
0.03mg/kg群では静脈内薬物投与から1、3、7、14及び21日後に、0.01mg/kg×10日群では初回の静脈内薬物投与から1、3、7、14及び21日後に、E2−CDS治療群の交尾行動をHPβCD対照群のそれと比較した。
【0136】
0.01mg/kgの用量の10日間の投与は14日目までに有意な効果を生じた。この用量は、対照群に比べて動物の67%においてマウント動作を、また50%において挿入動作を回復させた(図13及び14)。マウント頻度は有意に増大した(図15)。マウント潜伏時間及び挿入潜伏時間は共に有意に減少した(図16及び17)。挿入頻度は有意には増大しなかった(図18)。それまで良好な動作を示した1匹の動物がエーテル麻酔下で7日目に死んだ。
【0137】
0.03mg/kgの1回用量は性的活発さを改善したが、それはどの観察項目においても統計学的には有意ではなかった。
血漿LHも測定した。反復実験では、血漿LH濃度は0.01mg/kgの用量(10日間の毎日注射)で3日目から14日目まで有意に低減した。0.03mg/kgの用量(1回注射)では、血漿LH濃度は3日目だけに有意に低減した。反復実験の結果は、図19に見ることができる。
【0138】
反復実験の最後に、動物に過剰の麻酔を施し、前立腺と両精嚢を取り出し、それらの重量を測定した。相対的な前立腺及び精嚢重量を次の表3にまとめて示す。
【0139】
【表3】

【0140】
0.03mg/kg(1回投与)及び0.01mg/kg(10日間毎日)の静脈内用量のE2−CDSで治療した全ての動物においてエストラジオール濃度は検出限界を下回っていた。次の表4を参照。
【0141】
【表4】

【0142】
上記試験は、E2−CDSがラットにおける雄の性的機能を回復させることができることを示し、男性を含む雄の性機能障害の症状がこれまで可能と考えられてきたのよりずっと低い用量でのその投与によって、適度な末梢エストロゲン濃度を維持しながら軽減することが可能であることを意味している。女性での臨床試験が、E2−CDSの低用量のバッカル投与を動物試験データと相関させることができることを実際に示しており、男性に対してもこの雄性ラットにおける動物試験データに基づいて適当なバッカル投薬量を算出することが可能である。
【0143】
本発明に従ってE2−CDSを投与すると、これまで提案されてきた月に1回の1回投与療法ではなく、この化合物の低用量を反復使用することにより、男性の性機能障害に対するE2−CDSによる男性の治療のためにこれまで有効であると予想されてきたのよりはるかに低い用量で、男性の性機能障害の有効な治療が可能であり、それにより末梢エストラジオール濃度の上昇が最小限になるか、回避される。また、男性の性機能障害を有効に治療するために血清LHを著しく減少させるような高い投薬量を使用する必要がなくなる。
【0144】
これらの目的で男性に有効に投与することができる低いE2−CDSレベルは、特に予想外のものである。例えば、雄性ラットにおける0.01〜0.001mg/kg静脈内に匹敵する用量、即ち、男性では0.01〜0.5mgのバッカル日用量が想定される。生物学的利用能がほぼ30%であると仮定して、このバッカル用量から実際に利用されうる用量を計算すると、1日にわずか0.003〜0.015mgとなり、これを平均70〜80kgの体重で割ると、男性における用量は約0.0000375〜0.00021mg/kg又はそれ以下となる。
【0145】
治療は、毎日1回又は隔日に1回、症状が減少するのに必要な期間、一般に男性では約2〜7日間続けられ、症状が再発した場合には治療を再開する。もちろん、投薬量は投薬経路及び選択した経路にあてはまる生物学的利用能により変動しよう。いずれにしても、本発明に従ってE2−CDSを投与する方法は、雄性における平均末梢エストラジオール濃度を平均正常濃度より高レベルに実質的に上昇させることのないように、即ち、平均末梢エストラジオール濃度を正常濃度より約10〜15%以上高く上昇させないような投薬量及び投薬頻度で利用することになろう。これは今度は末梢エストラジオール濃度によって射精が阻害されるのを防止するので、雄性の性行動の準備及び完了の両側面が改善されることになる。
【0146】
本発明において使用するために、E2−CDSを上に言及した数々のBoder, Boderら、及びAndersonらの特許から既に公知の多様な投与経路及び剤形により投与することができ、それらの特許の全てをここに援用し、準拠する。これはまた、上述した動物及びヒト試験において採用された剤形からも明らかである。
【0147】
本発明の方法に用いるための薬剤組成物は、閉経後症状を含む雌性の性機能障害の症状を軽減するのに十分で、かつ平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量のE2−CDS、又は雄性の性機能障害の症状を軽減するのに十分で、かつ平均末梢エストラジオール濃度を雄性哺乳動物における平均正常末梢濃度より高い値に実質的に上昇させない量のE2−CDSを含む。担体(キャリア)及び他の成分はもちろんE2−CDSと適合性がなければならず、雌性又は雄性の性機能障害の治療において該化合物の有効性に悪影響を及ぼしてはならない。
【0148】
2−CDSと使用するための適当な薬剤に許容される担体は、無毒のものであり、薬剤組成物の分野の当業者には自明であろう。例えば、Remingtons’s Pharmaceutical Sciences, 第17版, Gennaro編, Mack Publishing Co., イーストン, ペンシルベニア州(1985)を参照。適当な担体の選択は、もちろん投与経路を含む、選択した具体的な剤形の正確な性質に依存しよう。雄性及び雌性の性機能障害の治療に使用するE2−CDSの投与のための治療用量範囲は、既に上に上述した。選択する用量は無論、治療する症状の重篤度、投与経路、剤形などにより変動しよう。本発明に係る処方組成物は、これらに限られないが、バッカル、鼻孔内、舌下、経口、局所(皮膚)、非経口、吸入スプレー、膣、並びに直腸を含む任意の治療に有効な経路により、用量単位の処方組成物として投与されうる。
【0149】
従って、例えば、本発明に係る薬剤組成物は非経口投与してもよい。ここで用いた「非経口」とは、それらに限定されないが、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射、又は点滴法を包含する。薬剤組成物は注射用の滅菌水性又は油性懸濁液剤の形態でよい。この懸濁液剤は、上述した適当な分散もしくは湿潤剤並びに懸濁剤を用いて公知方法に従って処方することができる。滅菌注射用製剤はまた、無毒な非経口に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用溶液剤又は懸濁液剤、例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液剤であってもよい。許容されるビヒクル及び溶媒としては、それらに限られないが、調製したばかりのシクロデキストリン水溶液、特にβ−もしくはγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキル誘導体又はβ−もしくはγ−シクロデキストリンのカルボキシアルキル誘導体又はカルボキシメチルエチル−β又はγ−シクロデキストリン或いは後で詳述するような他の適当な誘導体の溶液が挙げられる。また、滅菌固定油も溶媒又は懸濁媒体として慣用されている。この目的には、合成モノ又はジグリセリドを初めとする任意の銘柄の固定油を使用することができる。また、オレイン酸のような脂肪酸も注射液の製剤に有用である。
【0150】
或いは、そしてヒトに使用するには最も望ましくは、本発明に係る薬剤組成物はバッカル薬剤供給により投与してもよい。「バッカル」なる用語は、頬の粘膜を通過させて薬物を血液流に送給することを意味する。バッカル薬物供給は、バッカル投薬単位を、薬物治療を受ける個体の下歯肉とそれに向かい合う口内粘膜との間に置くことにより行うことができる。バッカル薬物投与に適した賦形剤又はビヒクルを使用することができ、それには本技術分野で公知の任意のそのような材料、例えば、任意の液体、ゲル、溶媒、液体希釈剤、可溶化剤などで、無毒かつ組成物の他の成分と有害な相互作用をしないものが含まれる。
【0151】
この投薬単位は、所定の時間をかけて徐々に溶解するように作製することができ、それにより頬面窩洞の唾液中の実質的に飽和した薬物溶液が生成して、粘膜を通るE2−CDSの吸収が可能となる。この場合、薬物供給は本質的に所定の時間の間ずっと行われる。バッカル投薬単位は、製造を容易にするために、ステアリン酸マグネシウム等の滑剤をさらに含有していてもよい。バッカル投薬単位中に含有させうる追加の成分としては、それらに限られないが、香味料、浸透向上剤、希釈剤、結合剤などが挙げられる。バッカル投薬単位の残部は、生体浸食性のポリマーキャリア、並びに望ましいかもしれない任意の賦形剤、例えば、結合剤、崩壊剤、滑剤、希釈剤、香味料、着色剤など、並びに/又は追加の有効成分を含有しうる。
【0152】
バッカルキャリアは、投薬単位が必要な時間、即ち、E2−CDSが頬粘膜に供給されるべき時間、について頬粘膜に付着するのを確保するのに十分な粘着性を有するポリマーを含むことができる。また、ポリマーキャリアは次第に「生体浸食性」である。即ち、ポリマーは水分と接触すると所定の速度で加水分解する。薬剤に許容され、適度の粘着性と所望の薬物放出プロファイルの両方を与え、かつ投与されるE2−CDS及びバッカル投薬単位中に存在しうる任意の他の成分と適合性を有する任意のポリマーキャリアを使用することができる。一般に、ポリマーキャリアは、頬粘膜の濡れた表面に付着する親水性(水溶液及び水膨潤性)ポリマーを包含する。
【0153】
本発明で有用なポリマーキャリアの例としては、アクリル酸ポリマー及びコポリマー、例えば、例えば、「カーボマー」と呼ばれるもの(例、カーボポールTM)が挙げられる。他の適当なポリマーとしては、それらに限られないが、加水分解ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド(例、Sentry PolyoxTM)、ポリアクリレート(例、GantrezTM)、ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニルピロリドン、デキストラン、グアーガム、ペクチン、デンプン、並びにヒドロキシプロピル・メチルセルロース(例、MethocelTM)、ヒドロキシプロピルセルロース(例、KlucelTM)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系ポリマーが挙げられる。
【0154】
この投薬単位は、E2−CDSとキャリアだけは含有する必要がある。しかし、場合によっては1種又は2種以上の追加成分を含有することが望ましいこともある。例えば、投薬単位の製造プロセスを容易にするために滑剤を含有しうる。滑剤はまた崩壊速度(erosion rate)及び薬物流束(drug flux)を最適化することもある。滑剤が存在する場合、それは投薬単位の0.01〜約2wt%程度、好ましくは約0.01〜0.5wt%の量となろう。適当な滑剤としては、それらに限られないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、タルク、水素化植物油及びポリエチレングリコールが挙げられる。いずれにしても、E2−CDSは、後でより詳しく説明するように、β−又はγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキル又はカルボキシアルキル又はカルボキシメチルエチル又は他の誘導体との複合体、好ましくは実質的に飽和した複合体として、バッカル剤形に混入されることが最も望ましいであろう。
【0155】
2−CDSはまた本発明に従って薬物の経皮投与のために経皮パッチの形態で投与してもよい。経皮パッチは有効薬剤の経皮投与を容易にするために慣用されている多様な追加の賦形剤を含有しうる。そのような賦形剤の例としては、それらに限られないが、キャリア、ゲル化剤、懸濁剤、浸透向上剤、分散剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤等が挙げられる。これらの各種の賦形剤の具体例は、本技術分野では周知であり、任意の慣用の賦形剤を上記経皮パッチに使用することができる。適当な透過性表面層材料の例は経皮パッチ供給の分野では周知であり、投与されるE2−CDSに対して透過性である任意の慣用の材料を投与に使用することができる。透過性表面層の適当な材料の具体例としては、それらに限られないが、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、モドアクリルコポリマー、ポリスルホン、ハロゲン化ポリマー、ポリクロロエーテル、アセタールポリマー、アクリル樹脂などからなるもののような、緻密質又は微孔質ポリマーフィルムが挙げられる。このような種類の慣用の透過性メンブラン(膜)材料の具体例は、米国特許第3,797,494号に記載されている。
【0156】
また、適当な浸透向上剤も同様に本技術分野では周知である。慣用の浸透向上剤の例としては、エタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルカノール類;ヘキサン、シクロヘキサン、イソプロピルベンゼン等の炭化水素類;シクロヘキサノンのようなアルデヒド及びケトン類、アセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド等のN,N−ジ(低級アルキル)アセトアミド類;N,N−ジ(低級アルキル)スルホキシド、プロピレングリコール、グリセリン、グリセロールモノラウレート、イソプロピルミリステート及びエチルオレエート等の精油(芳香油)類、サリシレート等のエステル類、並びに上記のいずれかの混合物が挙げられる。やはり、上でより詳しく説明したように、E2−CDSは、β−又はγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキル又はカルボキシアルキル又はカルボキシメチルエチル誘導体との複合体、特に実質的に飽和した複合体として、経皮処方組成物に使用することが有利である。
【0157】
2−CDSは本発明に従って膣又は直腸投与用の座剤の形態で投与してもよい。これらの組成物は、E2−CDS(有利には、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、対応するヒドロキシエチル−βもしくはγ−シクロデキストリン誘導体、又はβ−もしくはγ−シクロデキストリンのカルボキシメチルもしくはカルボキシエチルもしくはカルボキシメチルエチル誘導体との複合体、特に飽和複合体として)を、常温で固体であるが、膣又は直腸温度では液体となり、従って膣内又は直腸内で融解して薬物を放出する適当な非刺激性の賦形剤又は結合剤と混合することにより製剤することができる。このような材料としてはカカオバター及びポリエチレングリコールを挙げることができる。伝統的な結合剤及びキャリアとしては、例えば、ポリアルキレングリコール又はトリグリセリド[例、PEG1000(96%)及びPEG4000(4%)]が挙げられる。かかる座剤は約0.5〜10wt/wt%、好ましくは約1〜2wt/wt%の範囲で有効成分を含有する混合物から形成してもよい。
【0158】
局所/皮膚用に対しては、E2−CDS(望ましくはすぐ前の段落で列挙したシクロデキストリン誘導体のいずれかとの複合体の形態で)を含有するクリーム剤、軟膏、ゼリー剤、溶液剤又は懸濁液剤等を使用することができる。
【0159】
鼻腔内用に対しては、前記2段落に述べたシクロデキストリン誘導体のいずれかと複合体形成していてもよいE2−CDSの粉末噴霧剤、懸濁液剤、ゲル剤又は軟膏、好ましくは粉末形態を利用することができる。
【0160】
2−CDSに関する特許及び非特許文献を熟知している者には、シクロデキストリン誘導体との複合体形成、並びにそのような誘導体を用いた処方組成物が、多様な投与経路に対してE2−CDSの特に有用な剤形を与えることは明らかであろう。例えば、Bodorの米国特許第5,017,566号;第5,002,935号;第4,983,586号;及び第5,024,998号(その全てをここに援用し、準拠する)を参照。また、Pithaの米国特許第4,596,795号及び第4,727,064号並びにMullerの米国特許第4,764,604号及び第4,870,060号並びにMullerらの米国特許第6,407,079号といったβ−及びγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキル化誘導体を記載した特許も参照。
【0161】
2−CDSとの複合体形成に特に興味あるシクロデキストリン類としては下記が挙げられる:β−及びγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキル、例えば、ヒドロキシエチルもしくはヒドロキシプロピル、誘導体;β−又はγ−シクロデキストリンのカルボキシアルキル、例えば、カルボキシメチルもしくはカルボキシエチル、誘導体;β−シクロデキストリンスルホブチルエーテル;カルボキシメチルエチル−β−もしくはγ−シクロデキストリン;ジメチル−β−シクロデキストリン;並びにランダムメチル化β−シクロデキストリン。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(HPγCD)、ランダムメチル化β−シクロデキストリン、ジメチル−β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンスルホブチルエーテル、カルボキシメチル−β−シクロデキストリン(CMβCD)、カルボキシメチル−γ−シクロデキストリン(CMγCD)、並びにカルボキシメチルエチル−β−シクロデキストリンが特に興味があり、中でも、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、カルボキシメチル−β−シクロデキストリン及びカルボキシメチル−γ−シクロデキストリンである。
【0162】
2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)及び2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(HPγCD)並びにカルボキシメチル−β−シクロデキストリン(CMβCD)及びカルボキシメチル−γ−シクロデキストリン(CMγCD)は複合体形成に特に価値があり、E2−CDSをHPβCD複合体もしくはHPγCD複合体又はCMβCD複合体もしくはCMγCD複合体として薬剤組成物に配合することは非常に望ましい。
【0163】
さらに、男性又は女性に使用する場合には、有利には崩壊時間が約15〜30分のバッカル剤形、特にバッカル錠剤もしくはカシェ剤(オブラート剤)もしくはディスク剤、又はバッカルパッチ(薬物は頬粘膜に付着した側のみから放出され、反対側は不透過性であるもの)が、容易に自己投与できるにもかかわらず、E2−CDSが頬粘膜から血液流中に直接浸透していくので、経口剤形より良好な生物学的利用能を与える点で特に有利である。(もちろん、シクロデキストリン誘導体は吸収されない。)バッカル投与用の処方組成物は好ましくは貯蔵安定性の理由から無水である。
【0164】
下等動物の場合、非経口剤形がより実用的と考えられることが多く、もちろんより良好な生物学的利用能を与える。上述した動物試験でも見られたように、HPβCDは複合体形成剤及び溶媒の両方として、E2−CDSの非経口剤形にも有利に使用される。代わりに、例えば、HPγCD、CMβCD又はCMγCD、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、カルボキシエチル−β−シクロデキストリン、又はカルボキシエチル−γ−シクロデキストリンも使用できる。
【0165】
本発明の特に有利な態様では、バッカル投与はナガイらの米国特許第4,226,848号及び第4,250,163号(これら両者をここに援用し、準拠する)の発明を利用することができる。即ち、下記成分を含有する頬粘膜粘着性錠剤を本発明での使用のために処方してもよい:(a) 約50〜95重量%のセルロースエーテル及び約50〜95重量%のアクリル酸のホモもしくはコポリマー又はその薬剤に許容される塩を含有する水膨潤性で粘膜粘着性のポリマーマトリックス、並びに(b) それに分散させた、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとの実質的に飽和した複合体の形態の適当な量、典型的には約0.5〜2.0mgのE2−CDS。理想的には、貯蔵安定性のために錠剤は無水である。やはり、前述した他のシクロデキストリンのいずれか、例えば、ヒドロキシアルキル又はカルボキシアルキル又はカルボキシメチルエチルβ−又はγ−シクロデキストリン誘導体を、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの代わりに利用してもよい。
【0166】
本発明に係るバッカル組成物は、1又は2以上の賦形剤又は他の薬学的に不活性な成分を任意成分として含有していてもよいが、このような剤形がE2−CDSをシクロデキストリン複合体として含有する場合のそのような剤形の利点の1つは、錠剤又はパッチといった特定の剤形の賦形及び製造に必要な最小量の賦形剤を用いてそれらを製造することができることである。賦形剤は、E2−CDS、シクロデキストリン又は複合体形成を阻害しないものから選択することができる。
【0167】
単純な固体バッカル剤形は、実質的に飽和したE2−CDS−シクロデキストリン複合体を少量(例、約1重量%)の適当な結合剤又は滑剤(ステアリン酸マグネシウムのような)と共に圧縮したものからなる。すばやい溶解を助け、そして良好な口内感触を付与するために、ソルビトールを複合体並びにステアリン酸マグネシウムに添加してもよい。
【0168】
バッカル剤形は液体であってもよい。この場合には、例えば、シクロデキストリン中のE2−CDSの実質的に飽和した複合体を最小量の水に、例えば、HPβCDとの実質的に飽和した複合体500mgを0.5mLの水に(50%w/w溶液)、又は実質的に飽和したγCD複合体500mgを1.0mLの水に、溶解することにより、それを得ることができる。そのような溶液の数滴を口腔前庭(頬内窩洞)に挿入し、そこに約2分間保持して頬粘膜を通して吸収させることができる。ただし、固体バッカル剤形又は他の経粘膜剤形が一般に液体剤形より好ましい。
【0169】
当業者には明らかなように、本発明は、その技術思想又は必須の特徴から逸脱せずに上に具体的に開示したもの以外の形態で具体化することもできる。従って、上述した本発明の特定の態様は、制限ではなく例示と考えるべきものである。本発明の範囲は以上の説明に制限されるのではなく、特許請求の範囲に記載されている通りである。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】卵巣を摘出した雌性ラットに0.003mg/kg(▲)、0.01mg/kg(◆)及び0.03mg/kg(●)の異なる用量のエストラジオール−CDS、即ち、17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オール(E2−CDS)並びに対照ビヒクルであるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)溶液(■)を5日間毎日静脈内(i.v.)注射した後の経過日数(観察は最初の注射後3日目から開始)に対するロードシス(前湾姿勢)指数(応答率)のプロットである。
【図2】卵巣摘出雌性ラットに0.003mg/kg(△)、0.01mg/kg(◇)及び0.03mg/kg(○)の異なる安息香酸エストラジオール用量並びに対照ビヒクルであるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)溶液(□)を5日間毎日静脈内(i.v.)注射した後の経過日数(観察は最初の注射後3日目から開始)に対するロードシス指数(応答率)のプロットである。
【図3】図1及び2と同じ用量についての経過日数に対するロードシス指数(応答率)を、E2−CDSと安息香酸エストラジオールの同じ用量で比較するようにグループ分けして示す、3つのプロット群である。
【図4】卵巣摘出雌性ラットに0.003mg/kg(●)、0.01mg/kg(▲)及び0.03mg/kg(■)の異なるE2−CDS用量並びに対照(◆)を5日間毎日1回尾部に静脈内注射した後の経過日数(観察は最初の注射後3日目から開始)に対する血漿LH濃度(ng/ml)のプロットである。
【図5】卵巣摘出雌性ラットに0.003mg/kg(●)、0.01mg/kg(▲)及び0.03mg/kg(■)の異なる安息香酸エストラジオールの用量並びに対照(◆)を5日間毎日1回尾部に静脈内注射した後の経過日数(観察は最初の注射後3日目から開始)に対する血漿LH濃度(ng/ml)のプロットである。
【図6】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)、0.3mg/kg(右下がり斜線の棒)及び3.0mg/kg(黒色の棒)の異なるエストラジオール−CDS(E2−CDS)の用量並びに対照ビヒクルであるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)溶液(白色の棒)を1回静脈内(i.v.)注射した後の0、3、7、14、21、28及び35日目におけるマウント行動(応答率)に及ぼす影響を示す棒グラフである。
【図7】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)、0.3mg/kg(右下がり斜線の棒)及び3.0mg/kg(黒色の棒)の異なるE2−CDS用量並びに対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)を1回静脈内(i.v.)注射した後の0、3、7、14、21、28及び35日目における挿入(イントロミッション)率(応答率)に及ぼす影響を示す棒グラフである。
【図8】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)、0.3mg/kg(右下がり斜線の棒)及び3.0mg/kg(黒色の棒)の異なるE2−CDS用量並びに対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)を1回静脈内(i.v.)注射した後の0、3、7、14、21、28及び35日目におけるマウント頻度に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図9】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)、0.3mg/kg(右下がり斜線の棒)及び3.0mg/kg(黒色の棒)の異なるE2−CDS用量並びに対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)を1回静脈内(i.v.)注射した後の0、3、7、14、21、28及び35日目におけるマウント潜伏時間(分)に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図10】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)、0.3mg/kg(右下がり斜線の棒)及び3.0mg/kg(黒色の棒)の異なるE2−CDS用量並びに対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)を1回静脈内(i.v.)注射した後の0、3、7、14、21、28及び35日目における挿入頻度に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図11】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)、0.3mg/kg(右下がり斜線の棒)及び3.0mg/kg(黒色の棒)の異なるE2−CDS用量並びに対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)を1回静脈内(i.v.)注射した後の0、3、7、14、21、28及び35日目における挿入潜伏時間(分)に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図12】睾丸摘出(去勢)した雄性ラットに、0.03mg/kg(×)、0.3mg/kg(◆)及び3.0mg/kg(▲)の異なるE2−CDS用量並びに対照ビヒクルHPβCD(●)を1回静脈内(i.v.)注射した後35日間の経過日数に対する血漿LH濃度(ng/ml)のプロットである。
【図13】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、0.01mg/kg(横線の棒)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、及び対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)の0、1、3、7、14及び21日目におけるマウント行動(応答率)に及ぼす影響を示す棒グラフである。
【図14】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、0.01mg/kg(横線の棒)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、及び対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)の0、1、3、7、14及び21日目における挿入(イントロミッション)行動(応答率)に及ぼす影響を示す棒グラフである。
【図15】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、0.01mg/kg(横線の棒)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、及び対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)の0、1、3、7、14及び21日目におけるマウント頻度(マウント回数)に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図16】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、0.01mg/kg(横線の棒)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、及び対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)の0、1、3、7、14及び21日目におけるマウント潜伏時間(分)に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図17】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、0.01mg/kg(横線の棒)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、及び対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)の0、1、3、7、14及び21日目における挿入潜伏時間(分)に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図18】未去勢の雄性ラット及び去勢雄性ラットに0.03mg/kg(左下がり斜線の棒)のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、0.01mg/kg(横線の棒)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、及び対照ビヒクルHPβCD(白色の棒)の0、1、3、7、14及び21日目における挿入頻度(挿入回数)に及ぼす影響を示す棒グラフ及び付表である。
【図19】睾丸を摘出(去勢)した雄性ラットに0.03mg/kg(×) のE2−CDSを1回だけi.v.投与した場合、及び0.01mg/kg(●)のE2−CDSを1日に1回ずつ10日間i.v.投与した場合、並びに対照ビヒクルHPβCD(○)の、14日間の経過日数に対する血漿LH濃度(ng/ml)のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌性哺乳動物における雌性の性機能障害の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該機能障害の症状軽減に有効で、かつ平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用。
【請求項2】
前記の量が、生物学的利用能において、卵巣摘出した雌性ラットに静脈内投与した場合に約0.03mg/kg以下の日用量に等価である量であるか、および/または前記の量が平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約40pg/ml以上に上昇させない量であり、好ましくは前記の量が平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約20pg/ml以上に上昇させない量以下であり、より好ましくは前記の量が平均ピーク末梢エストラジオール濃度を約70〜90pg/ml以上に上昇させない量以下である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬剤が女性における前記機能障害の治療用薬剤、好ましくはバッカル薬剤であり、前記化合物が好ましくは日量投薬単位あたり約0.01mg/kg以下の量で該バッカル薬剤中に存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記の量が日量バッカル投薬単位当たり約0.5〜2.0mgであり、好ましくは前記の量が平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約40pg/ml以上に上昇させない量であり、より好ましくは前記の量が平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約20pg/ml以上に上昇させない量以下であり、最も好ましくは前記の量が平均ピーク末梢エストラジオール濃度を約70〜90pg/ml以上に上昇させない量以下である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
薬剤が女性の性的欲求能動低下型女性の性機能障害及び/若しくは性的疼痛型性機能障害の治療用であり、並びに/又は薬剤が閉経後型症状を伴う女性の性機能障害の治療用であり、特に該閉経後型症状が、膣乾燥/潤滑不足、寝汗、のぼせ(顔面潮紅)、不眠、抑うつ、神経質症、尿失禁、いらつき及び不安よりなる群から選ばれた少なくとも1つを含む、請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
閉経後の女性の閉経後症状の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該症状の軽減に有効で、かつ平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約50〜60pg/ml以上に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用。
【請求項7】
前記薬剤がバッカル薬剤であり、前記化合物が好ましくは日量投薬単位あたり約0.01mg/kg以下の量で該薬剤中に存在し、好ましくは前記の量が日量投薬単位当たり約0.5〜2.0mgであり、より好ましくは前記の量が平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約40pg/ml以上に上昇させない量であり、さらにより好ましくは前記の量が平均定常状態末梢エストラジオール濃度を約20pg/ml以上に上昇させない量以下であり、最も好ましくは前記の量が平均ピーク末梢エストラジオール濃度を約70〜90pg/ml以上に上昇させない量以下である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
薬剤が、膣乾燥/潤滑不足、寝汗、のぼせ、不眠、抑うつ、神経質症、尿失禁、いらつき及び不安よりなる群から選ばれた少なくとも1つを含む閉経後症状の治療用である、請求6又は7に記載の使用。
【請求項9】
雄性哺乳動物における雄性の性機能障害の治療用薬剤の製造における化合物17β−[(1−メチル−1,4−ジヒドロ−3−ピリジニル)カルボニルオキシ]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オールの使用であって、該化合物が、該機能障害の症状軽減に有効で、かつ平均末梢エストラジオール濃度を雄性哺乳動物の平均正常末梢エストラジオール濃度より高くなるようには実質的に上昇させない量で該薬剤中に存在している上記使用。
【請求項10】
前記の量が、生物学的利用能において、去勢した雄性ラットに静脈内投与した場合に約0.01〜0.001mg/kgの日用量に等価である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記薬剤が男性における前記機能障害の治療用のバッカル薬剤であり、前記化合物が毎日又は隔日の投薬単位あたり約0.01〜0.5mgの量で該薬剤中に存在する、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
化合物が、β−もしくはγ−シクロデキストリンのヒドロキシアルキルもしくはカルボキシアルキル誘導体;カルボキシメチルエチル−β−もしくは−γ−シクロデキストリン;β−シクロデキストリンスルホブチルエーテル;ジメチル−β−シクロデキストリン;又はランダムメチル化β−シクロデキストリンとの実質的に飽和した複合体の形態である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
化合物が、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、カルボキシメチル−β−シクロデキストリン、カルボキシメチル−γ−シクロデキストリン、カルボキシエチル−β−シクロデキストリン又はカルボキシエチル−γ−シクロデキストリンとの実質的に飽和した複合体の形態である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
化合物が2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン又は2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンとの実質的に飽和した複合体の形態である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
薬剤が無水処方組成物中に複合体を含む剤形、好ましくはバッカル錠剤、バッカルカシェ剤又はバッカルパッチとして製剤されている、請求項12〜14に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−500729(P2007−500729A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522140(P2006−522140)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/025173
【国際公開番号】WO2005/011618
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(502056743)アイバックス コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】