説明

集合住宅の架構構造

【課題】プランニングの自由度を向上できる集合住宅の架構構造を提供すること。
【解決手段】集合住宅1では、複数の住戸20A〜20Dが建物の長手方向に並んで配置される。この集合住宅1の架構構造は、建物の長手方向に2スパン離れて設けられて建物の短手方向に延びる一対の耐力壁22と、これら一対の耐力壁22の間に設けられた扁平柱21と、を備える。本発明によれば、耐力壁22同士の間隔が2スパンになるので、従来のように耐力壁の間隔が1スパンである場合に比べて、プランニングの自由度を向上できる。つまり、各スパンの長さをL、Lのように適宜設定することにより、住戸20Dのような小さな住戸から、住戸20Bのような大きな住戸まで、幅広く設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅の架構構造に関する。詳しくは、複数の住戸が長手方向に並んで配置される集合住宅の架構構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の住戸が長手方向(桁行方向)に並んで配置される板状型の集合住宅が知られている(特許文献1参照)。
この板状型の集合住宅では、例えば、長手方向の1スパンに1つの住戸が割り当てられており、住戸同士は全て耐力壁で仕切られている。つまり、長手方向の1スパンごとに、建物の短手方向(梁間方向)に延びる耐力壁が設けられている。
【0003】
この板状型集合住宅によれば、建物の長手方向の側面を南向きに配置することで、各住戸の日当たりが均等になるので、住戸間の日照に不公平が生じるのを防止できるうえに、北側の側面および南側の側面に開口部を設けることができるので、通風性にも優れる。また、耐力壁が1スパン毎に設けられるため、地震時における建物の短手方向の水平力に十分に抵抗でき、耐震性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−106245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の板状型の集合住宅では、各住戸が耐力壁で仕切られるため、2スパン分の空間を利用して住戸を設けることができず、大幅なリフォームすることもできなかった。よって、プランニングの自由度が低下する、という問題があった。
【0006】
板状型の集合住宅においてプランニングの自由度を向上することが重要となる理由は、以下の通りである。
板状型の集合住宅では、経済性や生産性を重視するため、各住戸の平面プランがほぼ同じになることが多い。この場合、建物の竣工時の各住戸の入居者は、同じような世代や家族構成となる。その結果、20〜30年後には入居者の高齢化が進み、地域コミュニティが崩壊するおそれが生じる。よって、世代や家族構成が異なる多様な入居者を受け入れやすいように、各住戸の平面プランを設定することが重要になってきている。
【0007】
また、地域の人口の減少やオーナーの意向により、建物の一部を公共施設や事務所等に用途変更することが要請される場合がある。そのため、建物内部の間仕切りを変更可能に設定すること(スケルトン・インフィル)が望ましい。
【0008】
本発明は、プランニングの自由度を向上できる集合住宅の架構構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の集合住宅の架構構造は、複数の住戸が建物の長手方向に並んで配置される集合住宅の架構構造であって、建物の長手方向に2スパン離れて設けられて建物の短手方向に延びる一対の耐力壁と、当該一対の耐力壁の間に設けられた柱と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の集合住宅の架構構造は、前記一対の耐力壁および柱の組合せは、1フロアに3組以上設けられることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、一対の耐力壁を2スパン離して設け、この一対の耐力壁の間に柱を設けた。
よって、耐力壁同士の間隔が2スパンになるので、従来のように耐力壁の間隔が1スパンである場合に比べて、プランニングの自由度を向上できる。つまり、各スパンの長さを適宜設定することにより、小さな住戸から大きな住戸まで、面積の異なる多様な住戸を平面的にも立体的にも組み合わせて設けることができる。
【0012】
例えば、耐力壁から耐力壁までの2スパン分の広さの住戸を設けることができるし、柱に非耐力壁を設けて戸界壁を構築し、この戸界壁から耐力壁までの1スパン分の広さの住戸を設けることもできる。
また、このような構造を採用しても、床スラブの長期荷重は柱によって支えられるため、床スラブを厚くする必要はなく、地震時における建物の短手方向の水平力には、耐力壁が抵抗するから、従来と同程度の剛性を確保できる。
【0013】
また、一対の耐力壁を2スパン離して設け、この一対の耐力壁の間に柱を設けたので、上階の床スラブに衝撃が加わると、この衝撃で振動する床スラブの面積は、従来に比べて大きくなる。よって、1次固有周波数が低くなるので、人間の耳に聞こえやすい周波数帯域においては大きな音が生じず、重量床衝撃音の遮断性能を向上できる。
【0014】
請求項3に記載の集合住宅の架構構造は、前記柱は、前記一対の耐力壁の略中央の位置に設けられることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の集合住宅の架構構造は、前記柱は、建物の短手方向に延びる扁平柱であることを特徴とする。
【0016】
ここで、扁平柱とは、柱の長辺寸法が柱の短辺寸法の2倍以上となる柱である。
この発明によれば、柱を建物の短手方向に延びる扁平柱としたので、この柱の周囲の空間を利用しやすくなり、レイアウト設計の自由度が向上する。
【0017】
請求項5に記載の集合住宅の架構構造は、前記扁平柱から建物の短手方向に延びる非耐力壁により戸界壁が設けられることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、扁平柱に非耐力壁を設けたので、扁平柱と非耐力壁とで戸界壁を形成することで、建物に設ける住戸の戸数を多く確保することができる。また、非耐力壁を適宜撤去することにより、大きな住戸を設けることもできる。
【0019】
請求項6に記載の集合住宅の架構構造は、建物の長手方向の所定箇所には、階段室またはエレベータシャフトを含むコア部が設けられ、当該コア部は、建物の長手方向に延びて柱梁に付加されたブレースまたは耐力壁からなる耐震要素を有することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、ブレースまたは耐力壁からなる耐震要素が地震時における建物の長手方向の水平力に抵抗するので、各住戸の建物の長手方向の側面に大きな断面の梁を設ける必要がなく、窓面を広く確保できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、一対の耐力壁を2スパン離して設け、この一対の耐力壁の間に柱を設けた。よって、耐力壁同士の間隔が2スパンになるので、従来のように耐力壁の間隔が1スパンである場合に比べて、プランニングの自由度を向上できる。つまり、各スパンの長さを適宜調整することにより、小さな住戸から大きな住戸まで、面積の異なる多様な住戸を平面的にも立体的にも組み合わせて設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る集合住宅の拡大平面図である。
【図2】本発明の第1の変形例に係る集合住宅の縦断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る集合住宅の平面図である。
【図4】本発明の第2の変形例に係る集合住宅の拡大平面図である。
【図5】本発明の第3の変形例に係る集合住宅の拡大平面図である。
【図6】本発明の第4の変形例に係る集合住宅の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各図では、理解の容易のため、通路(廊下)やバルコニーを省略する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る集合住宅1の拡大平面図である。
【0024】
集合住宅1は、平面矩形状の板状型マンションであり、柱2および長手方向に延びる梁3からなるラーメン構造を有する。
この集合住宅1の図1に示された部分は、矩形状であり、長手方向に8スパンである。このうち、図1中左右両側の2スパンのスパン長は、Lであり、中央の4スパンのスパン長は、Lよりも大きいLである。
【0025】
図1中右側の4スパンは、2スパン毎に仕切られている。すなわち、独立柱である扁平柱21と、戸界壁である耐力壁22と、が1スパン毎に交互に配置されている。
図1中左側の4スパンは、1スパン毎に仕切られている。具体的には、扁平柱21および非耐力壁23からなる戸界壁である合成壁24と、戸界壁である耐力壁22と、が1スパン毎に交互に配置されている。
【0026】
扁平柱21は、建物の短手方向に延びる扁平柱である。
耐力壁22は、建物の短手方向に一端縁から他端縁まで延びている。
合成壁24は、耐力壁22と同様に、建物の短手方向に一端縁から他端縁まで延びている。この合成壁24は、1つの扁平柱21と、この扁平柱21から集合住宅1の短手方向に延びる非耐力壁23と、で構成されており、この合成壁24の厚みは、耐力壁22の厚みに略等しくなっている。
【0027】
以上により、耐力壁22は、長手方向に2スパンずつ離れて配置され、扁平柱21は、耐力壁22の間の略中央に配置されることになる。また、一対の耐力壁22および扁平柱21の組合せは、1フロアに3組以上設けられることになる。
【0028】
住戸20A〜20Dは、幅寸法の異なる平面矩形状であり、住戸の幅方向つまり建物の長手方向に、一直線状に並んでいる。具体的には、図1中右側から図1中左側に向かって、住戸20A、住戸20B、住戸20C、住戸20C、住戸20D、住戸20Dの順に配置される。
住戸20Aの幅は、スパン長Lの2スパンであり、住戸面積は中程度となっている。
住戸20Bの幅は、スパン長Lの2スパンであり、住戸面積は大きくなっている。
住戸20Cの幅は、スパン長Lの1スパンであり、住戸面積は中程度となっている。
住戸20Dの幅は、スパン長Lの1スパンであり、住戸面積は小さくなっている。
【0029】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)耐力壁22を2スパンずつ離して設け、隣り合う耐力壁22の間に扁平柱21を設けた。
よって、耐力壁22同士の間隔が2スパンになるので、従来のように耐力壁の間隔が1スパンである場合に比べて、プランニングの自由度を向上できる。つまり、各スパンの長さをL、Lのように適宜設定することにより、住戸20Dのような小さな住戸から、住戸20Bのような大きな住戸まで、面積の異なる多様な住戸を平面的にも立体的にも組み合わせて設けることができる。
【0030】
すなわち、住戸20A、20Bのように、耐力壁22から耐力壁22までの2スパン分の広さの住戸を設けるとともに、住戸20C、20Dのように、合成壁24から耐力壁22までの1スパン分の広さの住戸を設ける。よって、面積の異なる多様な住戸を平面的に組み合わせて設けることができる。
例えば、スパン長を4mから8m程度に調整することにより、40mから190m程度の住戸を設けることができる。
【0031】
また、図2に示すように、耐力壁22の間に扁平柱21のみを設けることで、2スパン分の幅を有する住戸30Aを設けつつ、住戸30Aの直下には、耐力壁22の間に戸界壁として合成壁24を設けて、1スパン分の幅を有する住戸30Bを設けることもできる。よって、面積の異なる多様な住戸を立体的に組み合わせて設けることができる。
このような構造を採用しても、床スラブの長期荷重は扁平柱21によって支えられるため、床スラブを厚くする必要はなく、地震時における集合住宅1の短手方向の水平力には、耐力壁22が抵抗するから、従来と同程度の剛性を確保できる。
【0032】
また、耐力壁22を2スパン離して設け、耐力壁22の間に扁平柱21を設けたので、上階の床スラブに衝撃が加わると、この衝撃で振動する床スラブの面積は、従来に比べて大きくなる。よって、1次固有周波数が低くなるので、人間の耳に聞こえやすい周波数帯域においては大きな音が生じず、重量床衝撃音の遮断性能を向上できる。
【0033】
(2)柱を建物の短手方向に延びる扁平柱21としたので、この扁平柱21の周囲の空間を利用しやすくなり、レイアウト設計の自由度が向上する。
【0034】
(3)扁平柱21に非耐力壁23を設けて、扁平柱21と非耐力壁23とで戸界壁である合成壁24を形成したので、集合住宅1に設ける住戸の戸数を多く確保することができる。また、非耐力壁23を適宜撤去することにより、2スパン分の幅を有する大きな住戸を設けることもできる。
【0035】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態に係る集合住宅1Aの平面図である。
集合住宅1Aは、長手方向に延びる梁が設けられておらず、コア部10A、10Bが設けられる点が、第1実施形態と異なる。
この集合住宅1Aは、長手方向の両端と中央の3箇所に設けられたコア部10A、10Bと、コア部10A、10Bの間に形成された2箇所の矩形状の住戸スペース4に設けられた複数の住戸20A、20B、20C、20Dと、を備える。
【0036】
ここで、コア部10A、10Bは、中央に位置する中央コア部10Aと、端部に位置する端部コア部10Bと、で構成され、各住戸スペース4は、中央コア部10Aと端部コア部10Bとの間に形成される。
【0037】
コア部10A、10Bは、階段室またはエレベータシャフトを含んでおり、建物の長手方向に所定間隔離れて設けられた一対の耐力壁11と、建物の長手方向に延びて一対の耐力壁11同士を連結する一対の耐震要素としての連結部材12と、を備える。
コア部10A、10Bの耐力壁11は、建物の短手方向に一端縁から他端縁まで延びている。連結部材12は、ブレースや耐力壁であり、耐力壁11の両端同士を連結している。
【0038】
本実施形態によれば、上述の(1)〜(3)の効果に加えて、以下のような効果がある。
(4)コア部10A、10Bを設けて、このコア部10A、10Bを耐力壁11および連結部材12で構成したので、連結部材12が地震時における建物の長手方向の水平力に抵抗するので、各住戸20A〜20Dの建物の長手方向の側面に大きな断面の梁を設ける必要がなく、窓面を広く確保できる。
【0039】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の第1実施形態では、扁平柱21を合成壁24に1つ配置したが、これに限らず、図4に示すように、扁平柱21を合成壁24に複数並べて配置してもよい。
【0040】
また、上述の第1実施形態では、集合住宅1を柱2および梁3からなるラーメン構造としたが、これに限らず、図5に示すように、壁柱5および壁梁6からなるラーメン構造としてもよい。
また、上述の第1実施形態では、集合住宅1を平面矩形状とし、住戸20A〜20Dの配列方向を住戸の幅方向としたが、これに限らず、図6に示すように、住戸40A、40Bの配列方向を住戸の幅方向に対して傾斜させてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1、1A…集合住宅
2…柱
3…梁
4…住戸スペース
5…壁柱
6…壁梁
10A…中央コア部
10B…端部コア部
11、22…耐力壁
12…連結部材(耐震要素)
20A〜20D、30A、30B、40A、40B…住戸
21…扁平柱
23…非耐力壁
24…合成壁(戸界壁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の住戸が建物の長手方向に並んで配置される集合住宅の架構構造であって、
建物の長手方向に2スパン離れて設けられて建物の短手方向に延びる一対の耐力壁と、当該一対の耐力壁の間に設けられた柱と、を備えることを特徴とする集合住宅の架構構造。
【請求項2】
前記一対の耐力壁および柱の組合せは、1フロアに3組以上設けられることを特徴とする請求項1に記載の集合住宅の架構構造。
【請求項3】
前記柱は、前記一対の耐力壁の略中央の位置に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の集合住宅の架構構造。
【請求項4】
前記柱は、建物の短手方向に延びる扁平柱であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の集合住宅の架構構造。
【請求項5】
前記扁平柱から建物の短手方向に延びる非耐力壁により戸界壁が設けられることを特徴とする請求項4に記載の集合住宅の架構構造。
【請求項6】
建物の長手方向の所定箇所には、階段室またはエレベータシャフトを含むコア部が設けられ、
当該コア部は、建物の長手方向に延びて柱梁に付加されたブレースまたは耐力壁からなる耐震要素を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の集合住宅の架構構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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