説明

集塵フィルタとそれを用いた自然給気口および集塵装置

【課題】従来の電気集塵装置の電位差を有する二つの電極を有することにより欠点となる短絡を起こさず、また、帯電粉塵による吹出し口以降の汚染を防ぎ、オゾンを発生せず、高圧電源を必要としない集塵フィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】平板状の電極板2の上に波板状の絶縁板3を長手方向の断面が波形状になるように置いてロール状に巻き、平板状の電極板2を接地した集塵フィルタとそれを用いた自然給気口および集塵装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内空間の大気塵を捕集する集塵フィルタとそれを用いた自然給気口および集塵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の集塵フィルタ、もしくは集塵装置は、特許文献1に記載されるような主にコロナ放電によって空気分子をイオン化して空気中に含まれる粉塵を帯電する帯電部を前段に配置し、異なる電圧が印加される極板Aおよび極板Bが通風方向に対して平行かつ空間を設けながら積層された集塵部を後段に配置した電気集塵ユニットとして知られている。集塵装置の上流側もしくは下流側に送風機などの送風手段を設けることで帯電部、集塵部の順に空気が送り込まれ、帯電部で帯電された空気中の粉塵は集塵部の極板Aおよび極板Bの間に設けられた電場の力を受けて極板Aもしくは極板Bに捕集される。
【0003】
以下、その電気集塵ユニットについて図9を参照しながら説明する。
【0004】
図9に示すように、帯電部101と、その下流側に設けられた集塵部102とで電気集塵ユニットは構成される。帯電部101は、通風方向に対して平行となる棘状の先端103を有する放電極板104および対向極板105とを一定の間隔を開けながら平行となるように積層することで構成される。放電極板104に高電圧を、また、対向極板105に0kVの電圧を印加することで棘状の先端103に不均一な電場を設け、コロナ放電を発生させる。コロナ放電が発生することで空気分子が電離し、電荷を有する空気イオンが作られる。空気中の粉塵に空気イオンが付着することで粉塵を帯電させる。
【0005】
また、集塵部102は、極板A106と極板B107とを通風方向に対して平行かつ空間を設けながら積層することで構成される。高圧電源108によって例えば極板A106に高電圧を、また、極板B107に0kVの電圧が印加され、極板A106と極板B107の間に電場が形成される。帯電部によって帯電した粉塵は集塵部の極板A106および極板B107との間に導入されて極板A106もしくは極板B107のどちらかに捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3254134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される集塵装置は電位差を有する二つの電極を有するため、スパークなどの短絡を起こし、コロナ放電によってオゾンが発生して安定かつ安全な運転を確保するのが難しいという課題を有する。
【0008】
そこで、本発明の集塵フィルタは短絡を起こさず、また、オゾンも発生させず、安定かつ安全な運転を確保することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、この目的を達成するために、本発明の集塵フィルタは、平板状の電極板の上に波板状の絶縁板を長手方向の断面が波形状になるように置いてロール状に巻き、前記電極板を接地することにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の集塵フィルタは電位差を有する二つの電極を有しないため、電極板と絶縁板間で短絡を起こさず、さらに粉塵を帯電させないため、帯電粉塵による吹出し口以降の汚染を防ぎ、オゾンも発生させず、安定かつ安全な運転を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1の集塵フィルタを示す構成図
【図2】同集塵フィルタの集塵原理を示す図
【図3】(a)同ラミネート電極の上面を示す構成図、(b)同ラミネート電極の断面を示す構成図
【図4】同実施の形態2の集塵フィルタを示す構成図
【図5】同実施の形態3の集塵フィルタを示す構成図
【図6】同実施の形態4の集塵フィルタの上面を示す構成図
【図7】同実施の形態5の自然給気口を示す構成図
【図8】同実施の形態6の集塵装置を示す構成図
【図9】特許文献1に示す集塵装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態1)
本発明の請求項1に記載の集塵フィルタ1の構成図を図1、また、この集塵フィルタ1の集塵原理を図2に示す。
【0014】
集塵フィルタ1は一組の平板状の電極板2と波板状の絶縁板3とを重ね合わせてロール状に巻いた構造となっており、平板状の電極板2はアースに接続されている。
【0015】
そして図2に示すように両者を隔壁とした三角形状の通風路5が形成される。空気の進入方向4に沿って空気は集塵フィルタ1に導入され、通風路5を通過する。この時空気が接触することで波板状の絶縁板3が自然に帯電する。
【0016】
平板状の電極板2はアースに接続されることで0kVの電圧が印加されているため、帯電した波板状の絶縁板3との間で電位差が生じ、例えば図2に記載された矢印が示すような電場が三角形状の通風路5内部に形成される。空気中に含まれる粉塵はこの電場の作用を受けて分極を起こし、電場に沿って移動し、通風路5の壁面に付着し捕集される。
【0017】
この集塵フィルタ1は部材の自然な帯電による電場を集塵原理としており、粉塵を帯電するために必要なコロナ放電を利用しない。その分高い集塵性能を得ることが難しくなるが、空気の通過風速が遅ければ十分に高い集塵性能が得られる。
【0018】
しかもコロナ放電を用いないため粉塵が過度に帯電することがなく、集塵フィルタ1を通過した後に壁などに付着して汚したりすることがない。また、人体に有害なオゾンも発生しない。そして、コロナ放電を起こしたり、人為的に電場を形成するために必要な高圧電源が必要ないため、電力も消費せず低コストかつ構造を簡単にできるという特徴を有する。
【0019】
ここで、平板状の電極板2に用いることが可能な部材としては金属などの導電性を有する材料からなる板が挙げられる。より安価かつより強度の高いものとしては、図には示していないがカーボンや金属粉、金属酸化物の粒子などを含んだ導電塗料を塗って導電性を持たせた樹脂フィルムを用いることができる。
【0020】
また、図3に示すように金属箔6を樹脂フィルムなどの絶縁膜7で被覆したラミネート電極板8を用いれば、より高い強度を得ることができる。波板状の絶縁板3としてはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、またはナイロン6(シックス)などのポリアミド系樹脂、ポリスチレン樹脂など絶縁性を有するほとんどの樹脂フィルムを用いることが可能である。とりわけ無延伸のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは波板状に加工しやすく作りやすい。
【0021】
また、図には示していないが、帯電しやすい性質を有するシリコーンポリマーやフッ素樹脂で集塵フィルタ1全体をコーティングすることでより高い集塵性能を得ることができる。具体的にはシリコーンポリマーをシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤に溶かしたシリコーンポリマー溶液に浸漬し、乾燥することで可能となる。シリコーンポリマーとしては例えば1液縮合硬化型RTV樹脂が使用可能である。1液縮合硬化型RTV樹脂は接着機能も有しており、重ね合わせてロール状に巻いた集塵フィルタ1を丸ごと浸漬乾燥することでブロック状の強固な集塵フィルタを得ることができる。
【0022】
また、別の方法としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子の分散液であるPTFEディスパージョンにアクリルエマルジョン溶液を添加したフッ素樹脂コーティング液に集塵フィルタ1を丸ごと浸漬し乾燥する方法もあり、シリコーンポリマーと同様に集塵性能を高める効果が得られる。
【0023】
(実施の形態2)
本発明の請求項2に記載の集塵フィルタ1の構成図を図4に示す。実施の形態1に示した集塵フィルタ1と構造的にはほぼ同等であるが、平板状の電極板2に接続された高圧電源9によって高電圧を印加することが可能となっている。平板状の電極板2に高電圧が印加されると、平板状の電極板2に接触している波板状の絶縁板3に電荷が供給され、帯電する。
【0024】
高圧電源9はトランスや抵抗器といった電子部品によって入力電圧を昇圧して高電圧を出力する仕組みとなっており、入力電圧を0Vにすると出力電圧も0Vとなる、すなわち高圧電源9に接続された平板状の電極板は接地された状態になる。入力電圧を0Vにすることで高圧電源9に接続された平板状の電極板2は0Vになり電荷がなくなるが、波板状の絶縁板3は絶縁性であるがゆえに帯電したままとなり、平板状の電極板2との間で電位差が生じ、両者で形成される通風路5内部に電場を作り出すことができる。この電場によって粉塵は自ら分極を起こし、電場に沿って移動し、通風路5の壁面に付着して捕集される。そして平板状の電極板2に電圧を断続的に印加することで前記電場を常に形成することが可能となり、常に高い集塵性能を得ることができる。
【0025】
本形態の集塵フィルタ1もコロナ放電を起こして粉塵を帯電しない構造であるため、集塵フィルタ1よりも下流にある壁などに粉塵が付着して汚れたりせず、またオゾンも発生しない。高圧電源9が必要であるため構造はやや複雑となるが、電圧を常時印加しないため消費電力が小さい。そのため乾電池でも高圧電源9を長期間駆動させることが可能であり、入力用の電源工事を必要としないという特徴を有する。
【0026】
また、図3に示すようなラミネート電極板8を用いれば高電圧が印加される金属箔6が絶縁されているため、人が触って感電することを防ぐことができる。ここで図3の(a)はラミネート電極板8を上から見た上面図、図3の(b)は断面図である。
【0027】
また、実施の形態1に示した集塵フィルタ1と同様に、シリコーンポリマーやフッ素樹脂など、帯電しやすい材料でコーティングすればより高い集塵性能を得ることができる。
【0028】
(実施の形態3)
本発明の請求項3に記載の集塵フィルタ1の構成図を図5に示す。ナイロン製の平板状の樹脂フィルム10と、ポリエステルもしくはポリオレフィン製の波板状樹脂フィルム11とを重ね合わせてロール状に巻いた構造となっている。ナイロン樹脂はプラスに帯電しやすく、ポリエステルやポリオレフィン樹脂はマイナスに帯電しやすい性質を有する。この帯電しやすい極性の異なる材質どうしを重ねて形成した通風路に空気が流れると、ナイロン製の平板状の樹脂フィルム10はプラス極性に、また、ポリエステルもしくはポリオレフィン製の波板状樹脂フィルム11はマイナス極性に帯電を起こし、両者の間に電位差が生じる。したがって通風路5内部に電場が形成される。電場が形成された通風路5を通過する粉塵は自ら分極を起こし、電場に沿って移動し、通風路を形成する壁面に付着して捕集される。
【0029】
コロナ放電を起こして粉塵を帯電しない構造であるため、集塵フィルタよりも下流にある壁などに粉塵が付着して汚れたりせず、またオゾンも発生しない。また、高圧電源9が不要であるため安価かつ構造を簡単にすることができる。
【0030】
ここで、ナイロン製の平板状の樹脂フィルム10の材質をポリエステルもしくはポリオレフィン製に変更し、ポリエステルもしくはポリオレフィン製の波板状樹脂フィルム11をナイロン製に変更するという具合に材質を逆にした場合でも、それぞれの樹脂の形状を逆にしただけであるため同様の効果を有する集塵フィルタが得られる。
【0031】
(実施の形態4)
電極板と絶縁板とが形成する空間を通風路とし、この通風路が前記電極板と前記絶縁板の端面に対して斜めとなる集塵フィルタ1の上面図を図6に示す。通風路5は実際には隠れて見えないが、わかりやすくするために実線で表現している。波板状の絶縁板3やナイロン、ポリエステルもしくはポリオレフィン製の波板状樹脂フィルム11は、図には示していないがかみ合う二つの歯車に通すことで波板加工が施されるが、この時通常の歯車ではなくはすば歯車を用いることで、長尺方向に対して波板が垂直ではなく斜めとなる加工が可能となる。このような加工を施して開口面に対して斜めとなる通風路5が得られる。通風路5を斜めにすることによって同じ奥行寸法でありながら長い通風路5が得られ、集塵性能を高めることが可能となる。
【0032】
(実施の形態5)
請求項1乃至7いずれかに記載の集塵フィルタ1を搭載した自然給気口12の構成図を図7に示す。排気機能を有する換気設備を備えた部屋では室外空気を室内へ導入するため給気孔15がに壁14に設けられる。自然給気口12は本体ケース16、化粧パネル13、集塵フィルタ1とで構成され、給気孔15にはめ込むように室内側から取り付けられるインテリア部材である。図7に示すとおり空気の進入方向4に沿って室外空気が室内へと導入される。自然給気口12は給気孔15に差し込まれるように取り付けられており、その内部に本発明の集塵フィルタ1を搭載する。室内側に向けられた化粧パネル13は取外しが可能であり、集塵フィルタ1の取外しが可能である。取り外した集塵フィルタ1は水洗いしてきれいにすることが可能である。例えば6畳相当(23m3)の部屋で0.5回/時の換気を実施する場合、直径100mmの集塵フィルタであれば導入される室外空気の通過風速は0.4m/sとかなり低いため、サブミクロンの微細粉塵をそれなりに高い集塵性能で捕集することが可能である。サブミクロン粉塵を高率捕集でき、目開き構造であるため圧力損失が低く、またオゾンが発生せず高圧電源も必要とせず、また、水洗いして何度でも使用できるという有益な集塵フィルタ1を搭載した自然給気口12を得ることができる。
【0033】
(実施の形態6)
請求項1乃至7いずれかに記載の集塵フィルタ1を搭載した集塵装置17の構成図を図8に示す。集塵装置17は本体ケース19、集塵フィルタ1、送風手段18とで構成され、送風手段18によって集塵装置17に空気が取り込まれ、集塵フィルタ1内部を空気が通過する仕組みになっている。
【0034】
送風手段は回転する羽根、例えばシロッコファンやプロペラファンを有する送風機など空気を搬送することができる装置であればどのような形態でもよく、また、集塵フィルタの上流側、下流側どちらに設けても同様の効果が得られる。
【0035】
サブミクロン粉塵を高率捕集でき、目開き構造であるため圧力損失が低く、またオゾンが発生せず高圧電源も必要とせず、また、水洗いして何度でも使用できるという有益な集塵フィルタ1を搭載した集塵装置17を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のごとく本発明の集塵フィルタは置くだけでサブミクロンの微細粉塵を高率捕集できる再生可能な集塵フィルタであり、室内空気質の改善に大いに貢献できる空気清浄デバイスとして大いに活用が期待できるものである。
【0037】
また、本発明の集塵フィルタを搭載した自然給気口は、換気の際に室外から室内へ入ってくる空気中の粉塵を捕集し、高い室内空気質を維持することが可能な空質向上換気部材として大いに活用が期待できるものである。
【0038】
また、本発明の集塵フィルタを搭載した集塵装置は、安全で省エネルギーな空気浄化機器として大いに活用が期待できるものである。
【符号の説明】
【0039】
1 集塵フィルタ
2 平板状の電極板
3 波板状の絶縁板
4 空気の進入方向
5 通風路
6 金属箔
7 絶縁膜
8 ラミネート電極板
9 高圧電源
10 ナイロン製の平板状の樹脂フィルム
11 ポリエステルもしくはポリオレフィン製の波板状樹脂フィルム
12 自然給気口
13 化粧パネル
14 壁
15 給気孔
16 本体ケース
17 集塵装置
18 送風手段
19 本体ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の電極板の上に波板状の絶縁板を長手方向の断面が波形状になるように置いてロール状に巻き、前記電極板を接地することを特徴とする集塵フィルタ。
【請求項2】
電極板に電圧を断続的に印加することを特徴とする請求項1記載の集塵フィルタ。
【請求項3】
電極板はナイロン製の樹脂フィルムであり、絶縁板はポリエステルもしくはポリオレフィン製の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の集塵フィルタ。
【請求項4】
電極板はポリエステルもしくはポリオレフィン製の樹脂フィルムであり、絶縁板はナイロン製の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の集塵フィルタ。
【請求項5】
電極板は樹脂フィルムに導電性塗料を塗布することを特徴とする請求項1または2記載の集塵フィルタ。
【請求項6】
電極板は金属板を樹脂フィルムで被覆したことを特徴とする請求項1または2記載の集塵フィルタ。
【請求項7】
電極板と絶縁板とが形成する空間を通風路とし、この通風路が前記電極板と前記絶縁板の端面に対して斜めとなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項8】
表面全体がシリコーンポリマーもしくはフッ素樹脂でコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項9】
化粧パネル、本体ケースおよび集塵フィルタとで構成される自然給気口において、前記集塵フィルタは請求項1乃至8いずれかに記載の集塵フィルタであることを特徴とする自然給気口。
【請求項10】
本体ケース、集塵フィルタおよび送風手段とで構成される集塵装置において、前記集塵フィルタは請求項1乃至8いずれかに記載の集塵フィルタであることを特徴とする集塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−45473(P2012−45473A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189014(P2010−189014)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】