説明

集塵効率改善方法

【課題】
設備コスト、材料コストを増加させることなく、石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率を改善する方法を提供することにある。
【解決手段】
石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率改善方法であって、石炭と、5酸化2リン(P)が灰組成比率で10%〜30%となる炭化燃料とを所定の割合で混合し、混合された石炭と炭化燃料とを微粉化して、石炭ボイラで混焼することを特徴とする集塵効率改善方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所の石炭ボイラの排ガス中から、石炭灰(フライアッシュ)を含む粉塵は、電気集塵機やバグフィルタを用いて除去されている。電気集塵機とは、並行に配置された2枚の集塵極と、両集塵極間の中央に配置された放電極からなり、集塵極と放電極との間に高電圧を印加してコロナ放電を発生させ、クーロン力を利用して排ガス中の粉塵を捕集するものである。
【0003】
電気集塵機で集塵効率が高く保てる粉塵の比抵抗(電気抵抗率)は、104〜1010Ω・cmであるが、近年利用が増えている海外炭の灰の比抵抗は1012〜1013Ω・cmと高いため、逆電離現象が起こり集塵効率が低下する点が指摘されている(例えば特許文献1参照)。すなわち、粉塵の比抵抗が高い場合に、コロナ放電されず粉塵に電荷が蓄積し、この電荷によって形成された電界が絶縁破壊限界強度に達すると、集塵極から放電極に向かって正イオンが飛び出す逆電離現象が起こる。その結果、集塵空間にある負イオンが正イオンによって中和され、集塵効率が低下してしまう。
【0004】
そのため、灰比抵抗の高い石炭を用いる際には、灰比抵抗の低い石炭と混炭する等の措置により石炭ボイラで混焼させたときの灰(以下混焼灰と呼ぶ)の比抵抗を低下させ、電気集塵機での集塵効率を最適化するように燃料の配合設計がされてきた。
【0005】
また、灰の比抵抗を最適範囲内とするため、様々な添加物を加えることも検討されてきた。例えば石炭にバナジウムまたはナトリウムを添加したり、排ガスにアンモニウムと酸化マグネシウムの混合物またはアニオン重合体を添加して、石炭灰(フライアッシュ)の比抵抗を低下させる方法が開示されている(特許文献1〜特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−171662号公報
【特許文献2】特開平1−99655号公報
【特許文献3】特開平4−135659号公報
【特許文献4】特開平4−227863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、石炭を混炭して混焼灰の比抵抗を低下しようとしても、燃料調達の制約から都合良く灰比抵抗の低い石炭を調達できず、意図した範囲まで混焼灰の比抵抗を低下できない場合があった。
【0008】
また、石炭灰の比抵抗を低下する目的で添加剤を添加する方法には、(a)添加剤を排気ガスに混入する方法、(b)添加剤を石炭に混ぜて混焼する方法があるが、(a)の方法では、排ガス中に添加剤を混入させるための特殊な設備や、添加量を制御する装置が必要となり、設備コストが上昇するといった問題があった。さらに、(b)の方法では、石炭と混焼できるように添加剤をオイルスラリー等と混合して加工する必要があり、材料コスト、加工コストが上昇するといった問題があった。
【0009】
よって、これらの課題を解決するために本発明の目的は、安価および簡易に石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率を改善する集塵効率改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、発明者らが鋭意検討を行った結果、石炭に、特定の炭化燃料を混合した混合燃料を石炭ボイラで混焼すると、石炭のみの専焼灰に比べて混焼灰の比抵抗が約半分に低下し電気集塵機での集塵効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係わる石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率改善方法は、石炭と、5酸化2リン(P)が灰組成比率で10%〜30%となる炭化燃料とを所定の割合で混合し、混合された石炭と炭化燃料とを微粉化して、石炭ボイラで混焼することを特徴とする。
【0012】
また、前記炭化燃料は、下水汚泥を炭化処理した炭化燃料であってもよい。
【0013】
さらに、前記所定の割合は、前記石炭の重量に対する前記炭化燃料の重量の割合が0.1〜10.0重量%としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭化燃料と石炭とを石炭ボイラで混焼させるために特殊な設備を追加する必要はなく、設備コストは上昇しない。また、排ガス中の粉塵の集塵効率が向上することにより運転コストを削減できる。さらに、本発明の灰組成比率を有する炭化燃料は製造容易であり、材料コストも安価である。よって、本発明によれば、安価および簡易に、排ガス中の粉塵の集塵効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係わる石炭ボイラシステムの概要図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる集塵効率改善方法を表すフロー図である。
【図3】本発明の実施形態に係わる比抵抗比と炭化燃料の混合割合との関係を表す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係わる石炭ボイラシステムの概要図である。この石炭ボイラシステムは、炭化燃料と石炭とを混焼するためのシステムである。
【0018】
図1を用いて、石炭ボイラシステムでの燃料及び排ガス処理の流れを説明する。石炭バンカ1に貯留された石炭と炭化燃料置場2に貯留された炭化燃料は、それぞれ給炭機3に送られ、給炭機3で所定の混合割合となるよう混合燃料が混合される。ここで、炭化燃料と石炭の混合割合は予め計算装置5によって計算され、給炭機3にインプットされている。混合燃料は微粉炭機4で微粉化された後、石炭ボイラ後段の空気予熱器7にて加熱された燃焼用空気とともに、石炭ボイラ6に供給される。
【0019】
石炭ボイラ6で混合燃料を燃焼させた際に発生する排ガスは、排煙脱硝装置(図示しない)と前述の空気予熱器7を経て電気集塵機8に通流され、ここで大部分の粉塵が除去される。粉塵濃度計9で粉塵濃度を確認した後、残った粉塵はバグフィルタ10で除去される。さらに、排煙脱硫装置(図示しない)で排ガス中の脱硫を行い、再度粉塵濃度計9で粉塵濃度を最終確認して、清浄化された排ガスが煙突11から排出される。
【0020】
なお、図1のように石炭と炭化燃料とを給炭機3で混合するだけでなく、炭化燃料置場2から直接石炭バンカ1に炭化燃料を送り、石炭バンカ1の中で混合しても良い。
【0021】
次に、図2に示す本実施形態に係わる集塵効率改善方法を表すフロー図について説明する。このフロー図は、石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率改善方法について示したものである。まず、石炭と特定の炭化燃料とを所定の割合で混合する(S1)。次に、石炭と炭化燃料との混合燃料を微粉化し(S2)、石炭ボイラ6で混焼する(S3)。その後、排ガス中から粉塵を電気集塵する(S4)。
【0022】
ステップS1では、まず、特定の炭化燃料として、5酸化2リン(P)が灰組成比率で10%〜30%となる炭化燃料を用意する。この炭化燃料と石炭との混焼灰の比抵抗は、石炭のみの専焼灰の比抵抗に比べて約半分に低下し、電気集塵機8での集塵効率が向上するためである。なお、後述の通り、条件によって混焼灰の比抵抗の低下率が変化するため、予備試験を行い、効果を確認するのが好ましい。
【0023】
なお、5酸化2リンの灰組成比率は高い方が好ましく、20%〜30%とするのがより好ましい。5酸化2リンの灰組成比率の高い方が、より石炭との混焼灰の比抵抗を低下できるためである。しかし、この比率が高すぎると、灰組成のバランスが崩れ、混焼灰の比抵抗に悪影響を及ぼす可能性があるため、30%を上限として設定した。
【0024】
炭化燃料の原料は、前述の灰組成比率を満足するものであれば、任意に選択できるが、なかでも下水汚泥を原料として用いるのが好ましい。下水汚泥を炭化した炭化燃料の成分にはリンが多く含まれ(例えば、元素分析において全リン分の割合が4%−dry以上)、5酸化2リンの灰組成比率が高い炭化燃料を製造しやすいためである。
【0025】
石炭と炭化燃料とを混合する混合割合(所定の割合)は、燃料の成分や所要の熱量等に対応して任意に設定できるが、石炭の重量に対する炭化燃料の重量の割合を0.1〜10.0重量%とするのが好ましい。混合割合が0.1重量%以上であれば、炭化燃料を混合したことによる混焼灰の比抵抗低減効果が明確に表れるためである。また、同割合が10.0重量%以下であれば、石炭ボイラ6で石炭を燃焼するのとほぼ同様に混合燃料を燃焼でき、燃料として取り扱いやすいためである。
【0026】
次にステップS2では、ステップ1で混合された石炭と炭化燃料とを微粉炭機4で粉砕し微粉化する。火力発電所で用いられている石炭ボイラ6(微粉炭ボイラ)では、微粉炭機4として竪型粉砕機や横型粉砕機が用いられており、この粉砕や分級の能力は石炭の硬さを対象に設定されている。本実施形態の炭化燃料であれば石炭と同等の硬さか、もしくは石炭よりも柔らかいため、特別な設備を追加する必要がなく、既存の粉砕機で十分に粉砕し分級することができる。
【0027】
ステップS3では、微粉化された混合燃料を石炭ボイラ6で混焼する。ここでも、本実施形態の炭化燃料であれば石炭と石炭ボイラで混焼するために特殊な設備を追加する必要はない。なお、混合燃料に他の燃料(例えば石油、天然ガス等)を石炭ボイラで混焼してもよい。
【0028】
その結果、ステップ4において排ガス中から粉塵を電気集塵する効率が向上し、後段のバグフィルタ10での集塵量が減るため、運転コストを削減できる。さらに、本発明の灰組成比率を有する炭化燃料は製造容易であり、材料コストも安価である。よって、本実施形態によれば、安価および簡易に、排ガス中の粉塵の集塵効率を改善することができる。
【実施例】
【0029】
5酸化2リンの灰組成比率の高い炭化燃料を混合した場合の灰比抵抗に与える影響ついて燃焼試験を行った。
【0030】
〔実施例1〕
石炭と炭化燃料とを火力発電所の石炭ボイラで混焼した。炭化燃料には下水汚泥を炭化処理した燃料を用い、石炭と炭化燃料との混合割合は、石炭の重量に対して炭化燃料の重量の割合が1.3〜3.9重量%となるように設定した。
【0031】
表1に石炭と炭化燃料の灰組成比率を示す。表1より、5酸化2リン(P)が、石炭の専焼灰にはほとんど含まれていないのに対し、炭化燃料の専焼灰では製造日にかかわらず20%〜25%程度含まれていることが分かる。
【表1】

【0032】
〔比較例1〕
実施例1と同じ条件で、炭化燃料を用いず、石炭のみを石炭ボイラで燃焼した。
【0033】
〔実施例2〕
石炭と炭化燃料の混合燃料に重油を加えて火力発電所の石炭ボイラで混焼した。石炭と炭化燃料の混合割合は、石炭の重量に対して炭化燃料の重量の割合が0.8〜10.2重量%となるように設定した。炭化燃料および石炭は表1と同等の燃料を用いた。
【0034】
〔比較例2〕
実施例2と同じ条件で、炭化燃料を用いず、石炭と重油の混合燃料のみを石炭ボイラで燃焼した。
【0035】
〔結果〕
図3に、比抵抗比と炭化燃料の混合割合との関係を表す線グラフを示す。比抵抗比とは、炭化燃料混焼灰(実施例の結果)と、石炭専焼灰(比較例1の結果)もしくは石炭重油混焼灰(比較例2)との比抵抗の比として算出した。また、灰の比抵抗は、見掛け比抵抗ρとして、電気集塵機での印加電圧をV、測定電流をI、集塵極の面積をA、集塵極と放電極の距離をLとし、(1)式より算出した。
【0036】
(数1)
ρ=V/I×A/L ------- (1)
なお、実施例1には2つのデータがあるが、これは電気集塵機8を通る排ガスラインがAライン、Bラインの2本存在するためである。
【0037】
図3に示されるように、実施例1では炭化燃料の混合割合が増加すると直線的に比抵抗比が低下している。また、実施例2でも、多少非線形性を示しているが、炭化燃料の混合割合が増加すると比抵抗比が徐々に低下しており、両実施例ともに炭化燃料を混合した影響が明確に表れている。実施例1では炭化燃料の混合割合が3.9重量%のときに、実施例2では同割合が10.2重量%のときに、比抵抗比が0.5近くになり、混焼灰の比抵抗が石炭専焼灰等の比抵抗の半分程度まで低下することが分かる。
【0038】
また、実施例2および比較例2では、電気集塵機の後段に配置されたバグフィルタの差圧も計測した。バグフィルタの差圧の計測値は、比較例2では、1.37kpaであったのに対し、実施例2のうち炭化燃料の混合割合が10.2重量%のときには1.29kpaであり、約6%低下した。バグフィルタの差圧が低下したことは、バグフィルタでの集塵量が低下していること、つまり、前段の電気集塵機での集塵量が増加していることを示している。
【0039】
〔考察〕
実施例1において、炭化燃料の混合割合が約4重量%の時には、石炭の灰分割合が約10重量%、炭化燃料の同割合が約50重量%であることから、混焼灰中の炭化燃料灰の割合は約17.2重量%{=4×0.5÷(96×0.1+4×0.5)×100}となる。表1より、炭化燃料灰については5酸化2リン(P)の組成比率が約25%であることから、混焼灰全体の約4.3重量%(=17.2×0.25)の組成が5酸化2リン(P)であるといえる。
【0040】
このように、5酸化2リン(P)の灰組成比率が極少量増加することにより、混焼灰全体の比抵抗が石炭専焼灰等の比抵抗の半分程度まで大幅に低下するメカニズムは次の通りと推測される。5酸化2リン(P)は水に対する反応性が高く、排ガス中の水分と反応すればリン酸(オルトリン酸、HPO)になる。リン酸は融点が約50℃であるため、電気集塵機内の排ガス中(通常は100℃以上)では液体となるが、この液体状態のリン酸は高い電気伝導性を示すこと、つまり比抵抗が小さいことが知られており、この影響により混焼灰全体の比抵抗も大幅に低下したものと考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1 石炭バンカ
2 炭化燃料置場
3 給炭機
4 微粉炭機
5 計算装置
6 石炭ボイラ
7 空気予熱器
8 電気集塵機
9 粉塵濃度計
10 バグフィルタ
11 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭ボイラの排ガスから粉塵を電気集塵する際の集塵効率改善方法であって、
石炭と、5酸化2リン(P)が灰組成比率で10%〜30%となる炭化燃料とを所定の割合で混合し、
混合された石炭と炭化燃料とを微粉化して、
石炭ボイラで混焼することを特徴とする集塵効率改善方法。
【請求項2】
前記炭化燃料は、下水汚泥を炭化処理した炭化燃料であることを特徴とする請求項1に記載の集塵効率改善方法。
【請求項3】
前記所定の割合は、前記石炭の重量に対する前記炭化燃料の重量の割合が0.1〜10.0重量%であることを特徴とする請求項1から2に記載の集塵効率改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−279922(P2010−279922A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136875(P2009−136875)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(595072686)常磐共同火力株式会社 (5)
【出願人】(505054874)バイオ燃料株式会社 (3)
【Fターム(参考)】