説明

集熱器一体型の太陽電池モジュール

【課題】相互に背反関係にある発電効率と集熱効率に対して、これら双方からなる省エネルギー効果を従来構造に比して高めることのできる、集熱器一体型の太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】熱媒流通用の集熱管4の上方に集熱板3が配されてなる集熱器6と、太陽電池1の上方にカバーガラスGが配されてなる太陽電池モジュール2と、からなり、集熱器6の上に太陽電池モジュール2が積層し、太陽光がカバーガラスGを介して太陽電池1に受光される、集熱器一体型の太陽電池モジュール10,10A,10Bにおいて、カバーガラスGの太陽光側の側面を第1の領域、カバーガラスGと太陽電池1の間を第2の領域、太陽電池と集熱板の間を第3の領域、集熱板と集熱管の間を第4の領域とした際に、反射防止膜H、選択吸収膜Sがそれぞれ、第1の領域〜第4の領域のいずれかに配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電と、太陽熱の集熱をともに実施する、集熱器一体型の太陽電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出削減が国際的な取り組み課題となっている昨今、太陽光発電を住宅やオフィスビル、各種公共施設に設置することが世界的におこなわれており、我が国においては、そのための国レベル、地方自治体レベルの補助金制度も普及しつつある。
【0003】
太陽光発電は、太陽電池モジュール(太陽電池:PV(Photovoltaic generation))を介して太陽光を電気に変換している。
【0004】
この集熱器一体型の太陽電池モジュールは、その表面温度が上昇すると発電出力が低下するという特性を有しており、この問題を解決するために、モジュールの背面(太陽光受光面と反対側の面)に水や空気等の熱媒を流してモジュールの表面温度の上昇を抑制する集熱器が配されている。
【0005】
集熱器にてモジュールから熱を回収した熱媒は、家屋等の暖房施設、給湯施設等に利用されるようになっており、このような、集熱器一体型の太陽電池モジュールは一般に、ハイブリッドパネルなどと称呼されることもある。なお、この集熱器一体型の太陽電池モジュールに関する発案が特許文献1,2に開示されている。
【0006】
特許文献1に開示の集熱器一体型の太陽電池モジュールは、太陽光を白板強化ガラスを通じて太陽電池セルマトリクスで受光し、太陽光を太陽電池セルマトリクスによって光電変換し、その出力を出力端子から出力するものであり、同時に、太陽光により暖められた太陽電池モジュールの熱を集熱器の集熱板で集熱し、この熱を冷媒循環パイプに循環されている冷媒に伝導して、この冷媒を暖めるものである。ここで、集熱板が耐候性フィルムを介して太陽電池セルマトリクスに密接する構成が適用されており、これにより、太陽電池モジュールの熱を速やかに吸収することができ、その集熱効率が高い、というものである。
【0007】
一方、特許文献2に開示の集熱器一体型の太陽電池モジュールは、面上に並べられた複数の太陽電池が透光性を持つ接着樹脂層に埋設され、太陽光発電を行なう発電系と、発電系の裏面に積層され、太陽熱を集熱する集熱板に熱媒管を設けた集熱系とを備えて、全体が盤状に構成された太陽エネルギー利用装置であり、その発電系と集熱系との間に同発電系の太陽電池と線膨張率が概ね同等で電気的絶縁性のある平板部材を密着させ、この平板部材と集熱系との間に接着樹脂層を介在させたものである。この構成により、発電機能の低下を防止でき、長寿命化を推進できる、というものである。
【0008】
特許文献1,2をはじめとする従来の集熱器一体型の太陽電池モジュールでは、太陽電池モジュールを熱媒(特許文献1では冷媒)にて冷却することにより、その発電効率は比較的高く保持される一方で、その集熱効率は決して高いとはいい難い。
【0009】
すなわち、集熱効率を高めるためには、太陽電池モジュールの冷却をある程度抑制する必要があることから、この発電効率と集熱効率は背反の関係にあると言える。
【0010】
本発明者等は、上記する発電効率と集熱効率の背反関係を前提として、集熱器一体型の太陽電池モジュールを適用した際の、発電効率と集熱効率を総合したトータルの省エネルギー効果を高めることを課題として鋭意検討をおこなってきた。そして、たとえば、従来の集熱器一体型の太陽電池モジュールに比してその発電効率が低下したとしても、逆に集熱効率を向上させ、トータルとしての省エネルギー効果を高めることのできる新規な構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールの発案に至っている。
【0011】
なお、付言するに、このように背反関係にある発電効率と集熱効率に対して、これら双方からなる省エネルギー効果を高める、もしくはこの省エネルギー効果の最適値を求めるという技術思想は、それ自体新規な思想であると言えるものである。そして、従来のハイブリッドパネルのように、太陽電池モジュールを冷却することを主目的として集熱が実施されるという技術思想に代わり、集熱器が自身の集熱効率を向上させることを主目的として太陽電池モジュールとユニット化される、という技術思想もまた新規な思想である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−234491号公報
【特許文献2】特開平11−325610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、相互に背反関係にある発電効率と集熱効率に対して、これら双方からなる省エネルギー効果を従来構造に比して高めることのできる、集熱器一体型の太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による集熱器一体型の太陽電池モジュールは、熱媒流通用の集熱管の上方に集熱板が配されてなる集熱器と、太陽電池の上方にカバーガラスが配されてなる太陽電池モジュールと、からなり、該集熱器の上に太陽電池モジュールが積層し、太陽光が前記カバーガラスを介して太陽電池に受光される、集熱器一体型の太陽電池モジュールにおいて、前記カバーガラスの太陽光側の側面を第1の領域、カバーガラスと太陽電池の間を第2の領域、太陽電池と集熱板の間を第3の領域、集熱板と集熱管の間を第4の領域とした際に、反射防止膜と選択吸収膜がそれぞれ、前記第1の領域〜第4の領域のいずれかに配されているものである。
【0015】
本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールは、エアや水等の熱媒が流通するための集熱管の上方に集熱板が配されてなる集熱器と、太陽電池の上方にカバーガラスが配されてなる太陽電池モジュールと、からなるユニットを基本構成としながら、その構成部材表面もしくは構成部材間に、受光した太陽光の反射による放散を防止するための反射防止膜と、さらに、太陽光による熱の吸収を促進し、放熱を防止するための選択吸収膜と、を配したものである。すなわち、単に反射防止膜のみを介層させる構成では、光の反射防止効果が期待できても、集熱効果を十分に期待することはできない。より多くの熱を生じさせるために反射防止膜を配すると同時に、生じた熱を効果的に熱媒に伝熱するための選択吸収膜が介層されることにより、集熱性能の向上が期待できる。
【0016】
ここで、反射防止膜、選択吸収膜の素材は特に限定されるものではないが、反射防止膜としては、チタンやシリコン、セラミックスからなる単層膜、これらの複合膜などから形成できる。また、選択吸収膜は、アルミニウムやその合金などから形成できる。さらに、これらの膜は、密着させたい構成部材表面に塗布および乾燥させる等して薄膜成形してもよいし、別途成形した薄膜を部材表面に接着してもよい。
【0017】
本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールでは、反射防止膜と選択吸収膜をその構成要素としたことにより、従来構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールに比してその内部温度は高温となり、これに起因して太陽電池モジュールにおける発電効率は相対的に低下する。しかし、本発明では、この発電効率の低下を許容しながら、その代わりに従来構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールに比して集熱効率を高め、発電効率、集熱効率双方を勘案したトータルの効果、すなわち省エネルギー効果を最大のものとすることをその主たる目的とするものである。
【0018】
ここで、受光した太陽光の反射を抑制してより高い熱を生じさせ、生じた熱を集熱器に提供して集熱効率を高める、という集熱作用を勘案すれば、選択吸収膜に比して反射防止膜が相対的に太陽光側に配されている形態が好ましい。
また、集熱器の形態として、集熱板と、熱媒流通用の集熱管が埋め込まれた断熱材と、から形成されたものが、生じた熱を放熱させることなく熱媒に提供できる観点から好ましい。
【0019】
また、カバーガラスの形態として、一枚のカバーガラスからなる形態のほかに、2枚のカバーガラスと、その間の空気層と、からなる2重ガラス構造を有する形態、もしくは、2枚のカバーガラスと、その間の真空層と、からなる2重ガラス構造を有する形態が挙げられ、特に、これらの2重ガラス構造の形態では、この2重ガラス構造の断熱性能によって太陽電池モジュールにて生じた熱の放熱がより一層抑制され、発生熱をより効果的に集熱することが可能となる。
【0020】
上記するように、本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールによれば、従来構造のものに比してその集熱性能が格段に向上する一方で、太陽電池モジュールの過加熱を抑制する必要性もあり得る。
【0021】
そこで、太陽電池の過加熱を防止する、以下の過加熱防止手段のうちのいずれか一種もしくは複数種を具備する形態であってもよい。
【0022】
すなわち、(1)過加熱防止手段が、ポンプと、給湯に供される貯湯槽と、からなり、該ポンプを作動させて太陽電池モジュールをクーリングするための熱媒を集熱管に提供し、集熱管内の相対的に高温な熱媒を貯湯槽に戻すようになっている形態、(2)過加熱防止手段が、ポンプと、ラジエータと、からなり、該ポンプを作動させて集熱管から熱媒をラジエータに送り、ラジエータでクーリングされた熱媒を集熱管に戻すようになっている形態、(3)過加熱防止手段が、強制的に熱媒を集熱管に送るポンプからなり、該ポンプを作動させて強制的に熱媒が集熱管に送られ、集熱管内の相対的に高温な熱媒が強制排出されるようになっている形態、(4)前記カバーガラスが、2枚のカバーガラスと、その間の空気層と、からなる2重ガラス構造を有する場合に、過加熱防止手段が、少なくとも該空気層内に外気を自然流入させること、もしくは強制流入させる流入機からなる形態である。
【0023】
たとえば上記過加熱防止手段のいずれか一種をさらに具備することにより、最大もしくは最適な省エネルギー効果が得られることに加えて、仮に太陽電池が過加熱された場合でもその破損を抑止することができる。なお、上記(4)の過加熱防止手段が空気層内に外気を自然流入させる形態において、この外気の自然流入とは、空気層内で温められて相対的に軽量となった高温空気が、空気層内に外部から自然流入してくる相対的に重い空気によって押出され、これが繰り返されるという空気の自然循環作用によるものである。
【0024】
また、省エネルギー効果をさらに高めるべく、カバーガラスが、2枚のカバーガラスと、その間の空気層と、からなる2重ガラス構造を有する場合であって、かつ、過加熱防止手段が、少なくとも該空気層内に外気を自然流入させること、もしくは強制流入させる流入機からなる場合に、該空気層内から排気された高温空気が、以下のいずれか一種もしくは双方に供されるものであってもよい。
【0025】
すなわち、(1)建築物に設置された暖房施設、(2)建築物に設置された除湿材の再生のための熱源、である。ここで、「建築物」には、一般の家屋、オフィスビル、各種公共施設等、集熱器一体型の太陽電池モジュールを設置可能な建築物の全般を包含している。
【0026】
空気層内から排気された高温空気を外気へ放散する代わりに、建築物の暖房施設に供されるようにすることで、該暖房施設作動用の熱源の省エネ化が図られる。一方、シリカゲル等の除湿材に高温空気を提供してその水分を蒸発させることで、除湿材の吸湿性能を復元させ、その再利用を図ることができる。
【0027】
さらに、太陽電池モジュールによる発電電気を利用して、前記過加熱防止手段を構成する、ポンプ、ラジエータ、ブロア等の流入機のいずれか一種もしくは複数の作動が実行されるようになっている形態であってもよい。
【0028】
蓄電された発電電気を過加熱防止手段の作動用電源に利用することで、過加熱防止手段を作動させるための電源の併設を省略できることに加えて、停電時等で電源からの電気提供がなされない条件下で過加熱防止手段を作動させたい場合に、その効果は極めて大きい。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明による集熱器一体型の太陽電池モジュールによれば、反射防止膜と選択吸収膜をその構成要素としたことにより、従来構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールに比して太陽熱の集熱能力は一層促進され、これに起因して太陽電池モジュールにおける発電効率は相対的に低下する一方で、その集熱効率を格段に向上させることができ、もって、発電効率、集熱効率双方を勘案したトータルの省エネルギー効果の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)、(b)、(c)はいずれも、1重ガラス構造を呈した本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールの実施の形態の縦断面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)はいずれも、2重ガラス構造を呈した本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールの実施の形態の縦断面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)はいずれも、過加熱防止手段の実施の形態を含む集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムを説明した模式図である。
【図4】蓄電池利用型の過加熱防止手段を有する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムを説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールの実施の形態を説明する。なお、本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールは、1重ガラス構造であれ2重ガラス構造であれ、少なくとも反射防止膜と選択吸収膜を具備するものであれば、図示例の構成に限定されるものではない。すなわち、太陽光側に選択吸収膜が配された形態であってもよいし、反射防止膜と選択吸収膜が図示例以外の部材間に介層される形態であってもよい。
【0032】
図1a、b、cはいずれも、1重ガラス構造を呈した本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールの実施の形態の縦断面図であり、図2a、b、cはいずれも、2重ガラス構造を呈した本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールの実施の形態の縦断面図である。
【0033】
まず、図1a,b,cの各実施の形態で共通する構成は、太陽光の入射側(入射方向X)から順に、カバーガラスGと太陽電池1(PVパネルとも称される)とから構成される太陽電池モジュール2と、集熱板3と還流する集熱管4を内蔵した断熱材5とから構成される集熱器6と、が積層された積層構造を有することである。
【0034】
上記共通構成を前提として、カバーガラスGの太陽光の入射側の側面を第1の領域、カバーガラスGと太陽電池1の間を第2の領域、太陽電池1と集熱板3の間を第3の領域、集熱板3と集熱管4の間を第4の領域とした際に、反射防止膜H、選択吸収膜Sはそれぞれ、これら第1の領域〜第4の領域のいずれかに配されるものである。その中で、図1aで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール10は、反射防止膜HがカバーガラスGの太陽光側の側面に形成され、選択吸収膜Sが太陽電池1と集熱板3の間に介層された形態である。
【0035】
一方、図1bで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール10Aは、反射防止膜H、選択吸収膜Sが積層してカバーガラスGの太陽光の入射側の側面に形成された形態である。
さらに、図1cで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール10Bは、反射防止膜H、選択吸収膜Sが積層して太陽電池1と集熱板3の間に介層された形態である。
【0036】
ここで、反射防止膜Hは、チタンやシリコン、セラミックスからなる単層膜や、これらの複合膜などから形成でき、選択吸収膜Sは、アルミニウムやその合金などから形成でき、いずれも、密着部材表面にそれらのペースト素材を塗布し、高温乾燥させることで所望厚の反射防止膜H、選択吸収膜Sを形成することができる。
【0037】
太陽電池モジュール2で発電された電気は、不図示の電線を介して建物内に供給、および(もしくは)送電線に逆潮流される。一方、太陽電池モジュール2にて生じた熱は、集熱器6の集熱管4内を還流する水等の熱媒に集熱されて高温雰囲気の熱媒とされ、この熱媒が不図示の配管系を介して貯湯槽等に送られる。
【0038】
図1で示すいずれの集熱器一体型の太陽電池モジュール10,10A,10Bにおいても、反射防止膜Hによって受光した太陽光の反射放散を防止でき、もって太陽電池モジュール内における発熱を促進させることができる。さらに、選択吸収膜Sにより、太陽光による熱の吸収を促進し、放熱を防止することができ、発生した熱を集熱管4内の熱媒に効果的に提供することができるものである。
【0039】
図1a〜cで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール10,10A,10Bに対して、図2a〜cで示す集熱器一体型の太陽電池モジュールは、2重ガラス構造を有する点で構成上の大きな相違がある。
【0040】
図2a、b、cの各実施の形態で共通する構成は、太陽光の入射側から順に、2重構造のカバーガラスG1,G2と太陽電池1とから構成される太陽電池モジュール2Aと、集熱器6と、が積層された積層構造を有することである。
【0041】
この共通構成を前提として、図2aで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール20は、太陽光の入射側のカバーガラスG1における、太陽光の入射側の側面に反射防止膜Hが形成され、選択吸収膜Sが太陽電池1と集熱板3の間に介層された形態である。
【0042】
一方、図2bで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール20Aは、反射防止膜Hが太陽電池1側のカバーガラスG2の太陽光の入射側の側面に形成され、選択吸収膜Sが太陽電池1と集熱板3の間に介層された形態である。
【0043】
さらに、図2cで示す集熱器一体型の太陽電池モジュール20Bは、反射防止膜H、選択吸収膜Sが積層して太陽電池1と集熱板3の間に介層された形態である。
【0044】
いずれの形態の集熱器一体型の太陽電池モジュール20、20A、20Bも、2重構造のカバーガラスG1,G2の間の空間に空気層Aもしくは真空層Vaが形成され、これによって太陽電池1の断熱性能が集熱器一体型の太陽電池モジュール10,10A,10Bに比して一層向上する。
【0045】
本発明者等の検証によれば、従来の反射防止膜や選択吸収膜を有しない集熱器一体型の太陽電池モジュールの表面の温度が最高で70℃程度にまで達するのに対して、本発明による集熱器一体型の太陽電池モジュールの太陽電池1表面の温度は、150℃〜300℃程度にまで達することが分かっている。
【0046】
したがって、このように高温雰囲気となる太陽電池1の熱を集熱器に効果的に提供することができ、しかも、この高温雰囲気下で太陽電池1が熱破損しないような過加熱防止手段を具備する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムとすることにより、その耐久性を担保しながら、集熱性能に優れたシステムとなる。
【0047】
そこで、図3a、b、cには、この過加熱防止手段を具備する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムの実施の形態を示しており、集熱器一体型の太陽電池モジュール20を適用したシステム形態を模擬している。
【0048】
図3aで示す過加熱防止手段30を具備する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムは、集熱管4の出口および入口に連通した熱媒流路L1と、この熱媒流路L1内に介在する貯湯槽Tと、ポンプPと、から大略構成されるものであり、この熱媒流路L1を熱媒が還流しながら(Y1方向)、太陽電池1のクーリングと集熱が実行される。
【0049】
ここで、貯湯槽Tには、給湯提供ラインL2(流れY2)と、冷水等の熱媒吸入ラインL3(流れY3)と、さらに温められた熱媒を適宜排水する排水ラインL4(流れY4)とが流体連通している。
【0050】
高温に温められた熱媒を給湯に供しながら、および(もしくは)排水ラインL4からみ図を排水して、適宜冷水等の新規な熱媒をポンプPにて集熱器一体型の太陽電池モジュール20に提供して、太陽電池1の過加熱が防止される。
【0051】
一方、図3bで示す過加熱防止手段30Aを具備する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムは、集熱管4の出口および入口に連通した熱媒流路L1と、この熱媒流路L1内に介在するラジエータRと、ポンプPと、から大略構成されるものであり、ラジエータRが高温に温められた熱媒をクーリングし、クーリングされた熱媒を集熱器一体型の太陽電池モジュール20に提供して、太陽電池1の過加熱を防止するものである。
【0052】
さらに、図3cで示す過加熱防止手段30Bを具備する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムは、集熱管4の出口に連通した熱媒流路L1と、この熱媒流路L1に連通した給湯提供ラインL2および排水ラインL4と、集熱管4の入口に連通した熱媒流路L5と、この熱媒流路L5中に介在するポンプPとからなり、熱媒を給湯に供しながら、熱媒を給湯に供することで、および(もしくは)排水ラインL4から水を排水することで、冷水等の熱媒をポンプPにて強制的に集熱器一体型の太陽電池モジュール20に提供して、太陽電池1の過加熱を防止するものである。なお、L5に供給される熱媒の圧力がY2からの給湯に十分な圧力であれば、ポンプPは不要である。
【0053】
なお、図示を省略するが、2重構造のカバーガラスG1,G2の間に空気層Aを有する形態において、この空気層A内に外気を自然流入させる形態のほかに、過加熱防止手段である不図示のブロア等の流入機にて強制流入させる形態であってもよい。
【0054】
さらに、2重構造のカバーガラスG1,G2の間に空気層Aを有する形態において、この空気層A内に外気を自然流入させる形態や、過加熱防止手段であるブロア等の流入機にて外気を強制流入させる形態においては、空気層A内から排気された高温空気を、建築物に設置された暖房施設や除湿材の再生のための熱源として利用することにより、その省エネルギー効果は一層促進される。
【0055】
図4は、蓄電池利用型の過加熱防止手段を有する集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムの実施の形態を説明した模式図であり、図3aで示す過加熱防止手段30に対して、発電電気集電ラインL6(集電流れY6)と、バッテリBと、ポンプPに電気を提供する電気提供ラインL7を付加した(電気流れY7)形態である。
【0056】
この形態の集熱器一体型の太陽電池モジュールシステムでは、自身による発電電気を有効利用することにより、過加熱防止手段30を構成するポンプPを作動させるための電源の併設を省略できることに加えて、停電時等で外部電源からの電気提供がなされない条件下でこのポンプPを作動させて太陽電池1のクーリングを図りたい場合に、自己発電にてポンプPの作動を実行できることからその効果は極めて大きい。
【0057】
また、停電時に日射があれば太陽電池1は発電することができるため、蓄電池を介さずに直接過加熱防止手段30に要する電力を、太陽電池1から供給することもできる。さらに、これらは図3のb、cに示すポンプPやラジエータRへの電力供給に適用することもできる。
【0058】
[発電効率、集熱効率双方を勘案したトータルの省エネルギー効果を比較した試算評価結果]
本発明者等は、従来構造と本発明双方の集熱器一体型の太陽電池モジュールに関し、発電効率、集熱効率双方を勘案したトータルの省エネルギーをそれぞれ試算してその結果の比較を試みた。
【0059】
ここで、上記試算に際し、本発明者等による過去の多数の実績と経験則に基づいて、100の日射に対して、従来構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールでは、その発電効率が15%、集熱効率が40%と特定できる。そして、発電所からの送電系統を経てこの発電電気が各家庭に送電されるとした際の送電ロス等を勘案した系統発電効率を40%、給湯器効率は各家庭でオンサイトにて給湯が実施できることから給湯器効率を90%と仮定でき、これらの条件の下での従来構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールによる省エネルギー効果は、以下の式1にて算出することができる。
15/0.4 + 40/0.9 = 82・・・・・(式1)
【0060】
一方、本発明による集熱器一体型の太陽電池モジュールでは、太陽電池表面が相対的に高温となることからその発電効率が12%と従来構造のものに比して低下する一方で、その集熱効率は60%と特定でき、従来構造のものに比して格段に向上する。この結果、従来構造のものと同様の条件、すなわち、系統発電効率を40%、給湯器効率を90%と仮定した際の、本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールによる省エネルギー効果は、以下の式2にて算出することができる。
12/0.4 + 60/0.9 = 97・・・・・(式2)
【0061】
上記試算結果より、本発明の集熱器一体型の太陽電池モジュールでは、従来構造の集熱器一体型の太陽電池モジュールに比して、発電効率、集熱効率双方を勘案したトータルの省エネルギー効果がおよそ20%程度も向上するとの試算結果が得られ、省エネルギー性能に優れた集熱器一体型の太陽電池モジュールであることが実証されている。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0063】
1…太陽電池、G,G1,G2…カバーガラス、2,2A…太陽電池モジュール、3…集熱板、4…集熱管、5…断熱材、6…集熱器、10,10A,10B,20,20A…熱器一体型の太陽電池モジュール、30,30A,30B…過加熱防止手段、H…反射防止膜、S…選択吸収膜、A…空気層、Va…真空層、T…貯湯槽、P…ポンプ、R…ラジエータ、B…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒流通用の集熱管の上方に集熱板が配されてなる集熱器と、太陽電池の上方にカバーガラスが配されてなる太陽電池モジュールと、からなり、該集熱器の上に太陽電池モジュールが積層し、太陽光が前記カバーガラスを介して太陽電池に受光される、集熱器一体型の太陽電池モジュールにおいて、
前記カバーガラスの太陽光側の側面を第1の領域、カバーガラスと太陽電池の間を第2の領域、太陽電池と集熱板の間を第3の領域、集熱板と集熱管の間を第4の領域とした際に、反射防止膜と選択吸収膜がそれぞれ、前記第1の領域〜第4の領域のいずれかに配されている、集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項2】
選択吸収膜に比して反射防止膜が相対的に太陽光の入射側に配されている、請求項1に記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記集熱器が、集熱板と、熱媒流通用の集熱管が埋め込まれた断熱材と、から形成されている、請求項1または2に記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記カバーガラスが、2枚のカバーガラスと、その間の空気層と、からなる2重ガラス構造を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記カバーガラスが、2枚のカバーガラスと、その間の真空層と、からなる2重ガラス構造を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項6】
2枚のカバーガラスのうち、太陽光の入射側のカバーガラスとは異なる他方のカバーガラスの空気層側もしくは真空層側の側面に反射防止膜が配され、太陽電池と集熱板の間に選択吸収膜が配されている、請求項4または5に記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記太陽電池の過加熱を防止する、以下の過加熱防止手段のうちのいずれか一種もしくは複数種を具備する、
(1)過加熱防止手段が、ポンプと、給湯に供される貯湯槽と、からなり、該ポンプを作動させて太陽電池モジュールをクーリングするための熱媒を集熱管に提供し、集熱管内の相対的に高温な熱媒を貯湯槽に戻すようになっている、
(2)過加熱防止手段が、ポンプと、ラジエータと、からなり、該ポンプを作動させて集熱管から熱媒をラジエータに送り、ラジエータでクーリングされた熱媒を集熱管に戻すようになっている、
(3)過加熱防止手段が、強制的に熱媒を集熱管に送るポンプからなり、該ポンプを作動させて強制的に熱媒が集熱管に送られ、集熱管内の相対的に高温な熱媒が強制排出されるようになっている、
(4)前記カバーガラスが、2枚のカバーガラスと、その間の空気層と、からなる2重ガラス構造を有する場合に、過加熱防止手段が、少なくとも該空気層内に外気を自然流入させること、もしくは強制流入させる流入機からなる、
請求項1〜6のいずれかに記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項8】
前記カバーガラスが、2枚のカバーガラスと、その間の空気層と、からなる2重ガラス構造を有する場合であって、かつ、過加熱防止手段が、少なくとも該空気層内に外気を自然流入、もしくは強制流入させる流入機からなる場合に、該空気層内から排気された高温空気が、以下のいずれか一種もしくは双方に供される、
(1)建築物に設置された暖房施設、
(2)建築物に設置された除湿材の再生のための熱源、
請求項7に記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。
【請求項9】
太陽電池モジュールによる発電電気を利用して、前記過加熱防止手段を構成する、ポンプ、ラジエータ、流入機のいずれか一種もしくは複数の作動が実行されるようになっている、請求項7またはこれに従属する請求項8に記載の集熱器一体型の太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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