説明

集積型マイクロ流体デバイス及び流量偏差低減方法

【課題】 複数のマイクロ流体デバイスを並列に接続し、一つのポンプや加圧貯留槽などの流体駆動機構から流体を分配供給して運転するに当たり、各マイクロ流体デバイスの個体差に起因する、各マイクロ流体デバイスに流れる流体の体積流速の偏差を抑制すること。
【解決手段】 圧力損失に個体差がある複数のマイクロ流体デバイスのそれぞれの流路入口が、枝分かれした接続配管を介して、一の流体駆動機構に接続され、前記接続配管の分岐部から前記流路入口までの個別配管部分が各々補正配管とされること、及び/又は前記デバイスの流路出口に各々補正配管が設けられること、前記補正配管の平均圧力損失がマイクロ流体デバイスの平均圧力損失の1〜1000倍であること、及び、前記補正配管の圧力損失の標準偏差がその平均圧力損失に比して5%の範囲内にあること、を特徴とする集積型マイクロ流体デバイス

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列接続された多数のマイクロ流体デバイスの流量偏差が低減された集積型マイクロ流体デバイス、及び並列接続された多数のマイクロ流体デバイスの流量偏差を低減する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、マイクロ流路、マイクロ流路チップ、化学アイシー(IC)、マイクロリアクター、マイクロ分析チップ、マイクロタス(μ−TAS)等とも称され、部材中に微細な毛細管状の流路を有するデバイスであり、化学的、生化学的、電気化学的などの、反応、処理、分析、検出などに用いられる。例えば、化学や生化学用の合成又は分解反応用デバイス;膜濾過、透析、脱気、吸気、抽出、分散、混合、油水分離などの化学工学的処理デバイス;DNA分析、蛋白質分析、糖鎖分析、電気泳動、液体クロマトグラフィー、ガス分析、水質分析などの分析デバイス;DNAチップなどのマイクロアレイ製造用や微粒子製造用などの微小ノズル、などとして使用される。
【0003】
マイクロ流体デバイスは、特に化学反応、生化学反応の分野や化学工学的処理の分野に於いて、処理の高速化、副生成物の減少、条件検討の高速化等が図れる上、最適運転条件が定まると、同じマイクロ流体デバイスを必要な生産量となる数だけ並列運転すること(パイルアップ型生産システム)により、スケールアップの検討を行うことなく生産出来るため、基礎研究の終了から生産プラントの稼働までの時間とコストを大幅に節減できると言われており、今後の化学反応装置や化学工学的処理装置として期待されている。また、化学分析や生化学分析の分野に於いても、分析やその前処理において多数並列運転が容易であり、分析の効率の向上とコスト削減が図れると言われている。
【0004】
このようなマイクロ流体デバイスを並列に接続したものとしては、例えば、マイクロリアクターを並列接続したマイクロリアクターシステムが開示されている(特許文献1参照)。これは個々のマイクロリアクターの圧力変動を抑制することによって、これらを並列に接続したマイクロリアクターシステムにおける反応収率の低下などの不都合を低減させるものである。しかしながら、個々のマイクロリアクターの圧力変動を抑制することは、微細な構造を高精度で作製する必要があるため、実際には相当困難であり、製造誤差や経時変化により、各マイクロリアクターの圧力損失に個体差が生じがちであった。
【0005】
この事情は、マイクロリアクター以外のマイクロ流体デバイスについても同様であり、1台のポンプや加圧貯留槽から、並列に設置されたマイクロ流体デバイスに流体を供給すると、各マイクロ流体デバイスの圧力損失に個体差があるために、各マイクロ流体デバイスに流れる流体の体積流速(単位時間当たりの体積流量)に差が生じ、これが製品の特性や分析結果の偏差(ばらつき)の原因となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−16904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、複数のマイクロ流体デバイスを並列に接続し、一つのポンプや加圧貯留槽などの流体駆動機構から流体を分配供給して運転するに当たり、各マイクロ流体デバイスの個体差に起因する、各マイクロ流体デバイスに流れる流体の体積流速の偏差を抑制することにある。また、並列運転するマイクロ流体デバイスの数が非常に多い場合であっても、一つ一つのマイクロ流体デバイスの圧力損失を計って補正することなく、上記の偏差を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、並列に接続された、圧力損失に個体差のある複数のマイクロ流体デバイスに流れる流体の体積流速の偏差を抑制するためには、ポンプや加圧貯留槽などの流体駆動機構からマイクロ流体デバイスの流路を経て流体が流出するまでの、配管と流路の合計の圧力丼室の偏差を減少させればよいこと、また、配管の圧力損失の偏差はマイクロ流体デバイスの圧力損失の偏差に比べて小さくすることが容易なことから、配管と流路の圧力損失の比が適正な値となるように配管を選択して接続することにより課題を解決できることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、流路入口から流路出口までの圧力損失に個体差がある複数のマイクロ流体デバイスのそれぞれの流路入口が、枝分かれした接続配管を介して、一の流体駆動機構に接続された集積型マイクロ流体デバイスであって、
(1)前記接続配管の分岐部から前記流路入口までの個別配管部分が各々補正配管とされること、及び/又は前記デバイスの流路出口に各々補正配管が設けられること、
(2)前記補正配管の平均圧力損失がマイクロ流体デバイスの平均圧力損失の1〜1000倍であること、及び、
(3)前記補正配管の圧力損失の標準偏差がその平均圧力損失に比して5%の範囲内にあること、
を特徴とする集積型マイクロ流体デバイスを提供する。
【0010】
また、本発明は一つの流体駆動機構を、枝分かれした接続配管を介して、流路入口から流路出口までの圧力損失に個体差がある複数のマイクロ流体デバイスのそれぞれの流路入口に接続し、
(1)前記接続配管の分岐部から前記流路入口までの部分を各々補正配管とすること、及び/又は前記デバイスの流路出口に各々補正配管を接続すること、
(2)前記補正配管の平均圧力損失を前記デバイスの平均圧力損失の1〜100倍とすること、及び、
(3)前記補正配管の圧力損失の標準偏差を平均圧力損失の5%未満とすること、
を特徴とするマイクロ流体デバイスの流量偏差低減方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、圧力損失に個体差のある複数のマイクロ流体デバイスを並列に接続し、一つの流体駆動機構から流体を分配供給して運転する集積型マイクロ流体デバイスを構築するに当たり、各マイクロ流体デバイスの個体差に起因する、各マイクロ流体デバイスに流れる流体の体積流速の偏差を改善することができ、これにより、前記集積型マイクロ流体デバイスによって製造される製品の特性や分析結果の均一性を高めることができる。また、前記集積型マイクロ流体デバイスを構成するマイクロ流体デバイスの数が非常に多い場合であっても、一つ一つのマイクロ流体デバイスの圧力損失を計って補正することなく、上記の偏差を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[マイクロ流体デバイス]
マイクロ流体デバイス(以下、単に[デバイス]と称する場合がある)内に設けられた毛細管状の流路は、単なる流体移送用の流路の他、反応や検出などの場としての働きを持つ流路も含む。流路の寸法や形状は任意であり、用途目的に応じて好適な寸法・形状にすることが出来る。例えば断面形状は円、半円、矩形、台形、スリット状などであり得る。流路の断面積は任意であるが、1〜100000μmが好ましく、100〜10000μmがさらに好ましい。この範囲である場合に、マイクロ流体デバイスの流路に一定の体積流速(単位時間当たりの体積流量)で流体を流した場合の圧力損失(以下、「(流路に)一定の体積流速で流体を流した場合の圧力損失」を、単に「(流路の)圧力損失」と称する)が、本発明の効果が発揮され易い値になる。
【0013】
前記マイクロ流体デバイスの圧力損失は任意であるが、マイクロ流体デバイスの使用条件における圧力損失が0.1〜300kPaであることが好ましく、1〜100kPaであることがさらに好ましい。この範囲の圧力損失のマイクロ流体デバイスを用いる場合に、本発明は容易に実施でき、また本発明の効果が十分に発揮される。なお、上記圧力損失は、マイクロ流体デバイスの流路入口から流路出口までの流路の圧力損失を言う。また、上記圧力損失の値は、並列に接続される複数のマイクロ流体デバイスの平均値とする。
【0014】
本発明で並列に接続されるマイクロ流体デバイスの圧力損失の個体差の程度、即ち、偏差(ばらつき)は特に限定する必要はないが、偏差が大きいほど、本発明の効果が発揮される。例えば、マイクロ流体デバイスの圧力損失の偏差は、標準偏差の平均に比した値[以下、変動係数と称する。即ち、変動係数=100×標準偏差/平均、(%)]にして3%以上であることが好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。変動係数の上限は限定する必要はなく、いくら大きくても本発明の効果が発揮されるが、100%以下が好ましく、30%以下がさらに好ましい。この範囲であると、後述の補正配管の長さを過大に長くすることや、補正配管の圧力損失をそれほど大きくすることなく、圧力損失の偏差を実用的な水準に改善できる。但し、マイクロ流体デバイスの圧力損失が例えば0.1〜1kPaのように低い場合には、デバイスの圧力損失の変動係数が、例えば1000%のように大きくても、不都合なく十分に改善できる。
【0015】
この意味で、本発明で並列に接続されるマイクロ流体デバイスは、内部にビーズや繊維などの充填材や保持物を有する流路、内面に多孔質層、凹凸、柱などの構造が設けられた流路、途中に単なる流路以外の構造、例えば濾過膜、ノズル、逆止弁、圧力弁、開閉バルブ、流路切り替えバルブ、などの構造を有するものが、単なる毛細管状の流路に比べて圧力損失の偏差が大きくなりがちであるため、本発明の効果が発揮されやすく好ましい。
【0016】
なお、複数のマイクロ流体デバイスに圧力損失の偏差があると、これらのマイクロ流体デバイスに共通の圧力で流体を流したときに、体積流速に偏差が生じる。一般に体積流速と圧力損失とは逆比例の関係にあるから、体積流速の標準偏差は圧力損失の逆数の標準偏差に比例し、体積流速の変動係数は圧力損失の逆数の変動係数と一致する。
【0017】
本発明で並列に接続されるマイクロ流体デバイスの数は、2以上であれば任意であるが、100〜1000000であることが好ましく、1000〜100000であることが更に好ましい。並列に接続される数が上記の範囲である場合に、個々のマイクロ流体デバイスの圧力祖損失を測定する必要がないという本発明の効果がより発揮される。
【0018】
[流体駆動機構]
上記の複数のマイクロ流体デバイスは、流体を流すための流体駆動機構に接続されている。該流体駆動機構は任意であり、ポンプ、加圧貯留槽、減圧貯留槽、超音波駆動部などが挙げられる。ポンプの種類は任意であり、例えば、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、ギヤポンプ、チューブポンプなどの定量ポンプ、ダイヤフラムポンプ、タービンポンプなどの、吐出量に吐出圧依存性があるポンプ、が挙げられる。また、加圧貯留槽は、気体で加圧された加圧貯留槽や、液体の高低差により液体を流す液体貯留槽が挙げられる。流体駆動機構が吸引により駆動するものである場合には、上記と同様のポンプ、減圧貯留槽、液体の高低差により減圧された液体貯留槽が挙げられる。
【0019】
[接続配管]
本発明に於いては、前記複数のマイクロ流体デバイスは、1つの流体駆動機構から、前記複数のマイクロ流体デバイスの数に対応して枝分かれした接続配管によって接続されている。前記接続配管は、前記流体駆動機構から直接マイクロ流体デバイスの数だけ枝分かれして接続されていても良いし、流体駆動機構から1本の共通配管部分を経た後に枝分かれして各個別配管部がマイクロ流体デバイスに接続されていても良いし、流体駆動機構から複数の共通配管部分を経た後にそれぞれ枝分かれして各個別配管部がマイクロ流体デバイスに接続されていても良いし、樹枝状に、複数段の枝分かれを繰り返して、各個別配管部がマイクロ流体デバイスに接続されていても良い。ここで、個別配管部とは、流体駆動機構とマイクロ流体デバイス間に接続された配管における、枝分かれ部分からマイクロ流体デバイスまでの配管部分をいい、共通配管部分や枝分かれ部分と連続した配管の一部であってもよいし、枝分かれ部分に接続された別個の配管であってもよい。該個別配管部を後述のように、補正配管とすることが出来る。
【0020】
[出口側配管]
各マイクロ流体デバイスの流路出口には、排出される流体を回収する目的などのために、出口側配管を接続しても良い。後述のように、該出口側配管を補正配管とすることが出来る。
【0021】
[補正配管]
本発明に於いては、前記接続配管の個別配管部と前記出口側配管の少なくとも一方を各々補正配管とする。前記接続配管の個別配管部と前記出口側配管の一方を補正配管とする場合には、そのどちらを補正配管とするかについては、並列に接続した各マイクロ流体デバイス毎に異なっても良いが、統一されていることが好ましい。統一することにより、補正配管の圧力損失の偏差を小さくすることが容易になる。
前記接続配管の個別配管部を補正配管とする場合(これを第一態様とする)には、前記出口側配管の有無や、その圧力損失の特性は任意である。
前記出口側配管が補正配管とされる場合(これを第二態様とする)には、前記接続配管の圧力損失は任意である。
前記接続配管と前記出口側配管の両者が補正配管であっても良い。即ち、上記第一態様と第二態様を併用しても良い。この場合には、補正配管の長さや圧力損失は、前記接続配管と前記出口側配管の和となる。
【0022】
[第一態様]
本発明の第一態様においては、前記接続配管の分岐部から各マイクロ流体デバイスの流路入口に至る接続配管の個別配管部を補正配管とする。前記接続配管の共通配管部分は、補正配管である個別配管部の圧力損失に比べて十分小さいこと、例えば、10%以下が好ましく、5%以下が更に好ましく、2%いかが最も好ましい。下限は、自ずと限界はあろうが小さいほど好ましく、限りなくゼロに近いことが好ましい。この範囲とすることで、本発明の変動改善効果が十分に発揮される。
【0023】
補正配管は、その平均圧力損失がマイクロ流体デバイス平均圧力損失の1〜1000倍であり、好ましくは2〜300倍、更に好ましくは、3〜100倍である。当該下限以上の倍率であれば、十分な偏差の改善効果が得られるため好ましい。また、この値を大きくするにつれ偏差の改善効果も増加するが、当該上限以下の倍率であれば、接続配管部の圧力損失が過度に大きくならず、流体駆動機構の耐圧性、および、該補正配管の接続部の耐圧性を過度に高くする必要がない。前記補正配管の平均圧力損失は、前記流体駆動機構や接続部の耐圧の面から、運転条件にて10MPa以下とすること好ましく、1MPa以下とすることがさらに好ましい。従って、マイクロ流体デバイスの圧力損失が非常に小さい場合、例えば1kPa以下などの場合には、接続配管部の圧力損失の倍率を例えば100〜1000倍と、十分に大きくすることが出来る。
【0024】
補正配管の圧力損失は、内径(又は断面積)の選択と長さでもって調節することが出来る。本発明に於いては、補正配管の内径は10〜200μmの範囲にあることが好ましく、20〜100μmがさらに好ましい。前記補正配管の内径は、用いるマイクロ流体デバイスに流す流体の体積流速やマイクロ流体デバイスの圧力損失に応じて選択でき、マイクロ流体デバイスを使用するときの体積流速が小さいほど、また、マイクロ流体デバイスの圧力損失が高いほど小径のものを用いることが好ましい。勿論、該内径は一定である必要はなく、例えば途中から変わっていて良い。接続配管の流路断面形状は円が好ましいが、円以外の場合には、上記内径に相当する断面積のものとする。
【0025】
前記接続配管の長さもまた、流体の体積流速が遅く、マイクロ流体デバイスの圧力損失が大きいほど、長くすることが好ましい。本発明に於いては、0.5〜10mの範囲が好ましく、1〜5mが更に好ましい。
【0026】
また、本発明に於いては、前記補正配管として、圧力損失の変動係数が、マイクロ流体デバイスの圧力損失の変動係数より小さいものを用いることで、本発明の効果を発揮させることができる。前記補正配管の圧力損失の変動係数は、好ましくは5%未満、さらに好ましくは3%未満、最も好ましくは2%未満とする。補正配管の圧力損失の変動係数は、一端を前記流体駆動機構に接続した状態で、流体、例えば水を一定の体積流速で流し、マイクロ流体デバイスに接続する側の端を開放し、一定時間後の各流出体積を測定し、該測定値の逆数の変動係数として得ることが出来る。
【0027】
各補正配管の圧力損失の変動係数を小さくすることは、補正配管として内側断面積の変動係数が小さい管を使用し、かつ、補正配管の長さの変動係数を小さくすることにより実施できる。補正配管の内側断面積の変動係数は、好ましくは5%未満、さらに好ましくは3%未満、最も好ましくは2%未満であるが、市販されている工業製品の変動係数は通常2%未満である。補正配管の内側断面積の変動係数は、一定間隔、例えば1m毎に管の断面を顕微鏡観察することにより測定できる。一方、補正配管の長さは、実質的に同じ長さに切り揃えることにより、長さの変動係数を好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満、最も好ましくは0.3%未満にすることは容易にできる。
【0028】
また、補正配管の材質として硬度のあるものを使用することが、補正配管の寸法精度を高め、又、運転時の寸法変動を小さくする上で好ましい。補正配管の材質は、例えば、ヤング率が好ましくは1MPa以上、さらに好ましくは2MPa以上、最も好ましくは3MPa以上である。ヤング率の上限は、配管がもろくならなければ高い方が好ましく、特に上限を設ける必要はないが、製造の容易さなどの点から、好ましくは500MPa、さらに好ましくは200MPa以下である。補正配管は、金属、ガラス、水晶などの結晶、有機重合体などであり得るが、有機重合体が、柔軟性と高い破壊強度を兼ね備えているため好ましい。勿論、これらの複合体であっても良い。
【0029】
有機重合体としては、ポリイミド、(芳香族)ポリアミド、ポリ四フッ化エチレンなどの熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、PFA(四フッ化エチレンとアルコキシフッ化エチレンの共重合体)などの熱可塑性樹脂が好適に用いられる。有機重合体は、勿論、共重合体やブレンドであっても良い。
【0030】
本第一態様において、マイクロ流体デバイスの流路出口側に出口側配管を接続する場合には、該出口側配管の圧力損失については任意であるが、該出口側配管の圧力損失の標準偏差は、マイクロ流体デバイスの圧力損失の標準偏差より小さいことが好ましい。該圧力損失の標準偏差が小さいと、用いる配管の圧力損失が大きくても、本発明の効果を損なうことがない。
【0031】
また、該出口側配管の圧力損失は、マイクロ流体デバイスの圧力損失未満であることが好ましく、その50%未満であることが更に好ましく、20%未満であることが最も好ましい。該圧力損失が小さいと、用いる配管の圧力損失の変動係数が大きくても、本発明の効果を損なうことがない。
【0032】
本第一態様は、補正配管の圧力損失を大きくしても、マイクロ流体デバイスに掛かる圧力は増加しないため、マイクロ流体デバイス自体の耐圧性や、補正配管とデバイスとの接続部の耐圧性を増す必要はない。
【0033】
[第二態様]
本発明の第二態様は、前記各マイクロ流体デバイスの流路出口にそれぞれ接続された出口側配管を補正配管とする。該補正配管の他端の処理は任意であり、例えば、それぞれが大気中に開放されていても良いし、前記接続配管と丁度逆に、一度に又は段階的に合流していても良い。しかしながら、合流している場合には、前記各マイクロ流体デバイスの流路出口から前記合流部までの出口側配管を補正配管とする。この場合、合流部までの出口側配管の圧力損失やその変動係数については、前記第一態様に於ける接続配管の個別配管部と同様であり、合流部以後の共通配管部分の圧力損失については、前記第一態様に於ける接続配管の共通配管部分と同様である。
【0034】
本態様に於ける補正配管の圧力損失の大きさ、圧力損失の変動係数、配管の長さ、配管の断面積、素材などについては、前記第一態様に於ける補正配管と同様である。
【0035】
本態様においては、流体駆動装置とマイクロ流体デバイスとを結ぶ接続配管の圧力損失については任意であるが、該接続配管の圧力損失の標準偏差は、マイクロ流体デバイスの圧力損失の標準偏差より小さいことが好ましい。
【0036】
本第二態様は、出口側配管を1本に纏める必要がないため、配管接続が容易である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に
限定されるものではない。なお、本実施例で言う「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
【0038】
[紫外線硬化性の組成物(X1)の調製]
重合性化合物としてジシクロペンタニルジアクリレート「DCA−200」(大日本インキ化学工業株式会社製)50部および平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー「ユニディックV−4263」(大日本インキ化学工業株式会社製)50部、光重合開始剤としてチバガイギー社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュア184」5部、及び、重合遅延剤として関東化学株式会社製2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.1部を均一に混合して紫外線硬化性の組成物(X1)を調製した。
【0039】
[紫外線硬化性の組成物(X2)の調製]
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを添加しなかったこと以外は紫外線硬化性組成物(X1)と同様にして紫外線硬化性の組成物(X2)を調製した。
【0040】
[製膜液(Y1)の調製]
重合性化合物として、前記「DCA−200」を40部、および前記「ユニディックV−4263」50部、グリシジルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製)10部、貧溶剤としてデカン酸メチル(和光純薬工業株式会社製)を240部、紫外線重合開始剤として前記「イルガキュア184」を5部、均一に混合して、製膜液(Y1)を調製した。
【0041】
[紫外線の照射]
250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト251Wシリーズ露光装置用光源ユニットを用い、365nmにおける紫外線強度が50mW/cm2の紫外線を、特に指定が無い限り室温、大気中で照射した。
【0042】
[参考例]
本参考例に於いては、実施例において使用するマイクロ流体デバイスの圧力損失及び変動係数を測定した。
〔マイクロ流体デバイスの作製〕
厚さ1mmのアクリル板製の基材1上に、スピンコーターにて組成物(X2)を塗工し、該塗膜に紫外線を2秒間照射して、重合性官能基がまだ残存する程度に前記組成物(X2)が半硬化した第一樹脂層2を形成した。
【0043】
その上に、スピンコーターにて製膜液(Y1)を塗工し、該塗膜に紫外線を60秒間照射して、製膜液(Y1)中の重合性化合物が重合すると同時に貧溶剤と相分離し、多孔質体を形成した。その後、エタノールにて該多孔質体の細孔中の貧溶剤を洗浄除去し、室温で乾燥して、第一樹脂層2の上に固着した多孔質層3を形成した。
【0044】
多孔質層3の上に、スピンコーターにて組成物(X1)を塗工すると、組成物(X1)の一部は多孔質層3の細孔を充填し、更に多孔質層3の上に未硬化の塗膜を形成した。次いで、フォトマスクを通して流路5となるべき部分以外の部分に紫外線照射を40秒行い、重合性官能基がまだ残存する程度に前記組成物(X1)が半硬化した第二樹枝層4を形成し、非照射部分の未硬化の組成物(X1)を50%エタノール水溶液で洗浄除去して、第二樹脂層4の流路5となるべき溝を形成し、該溝の底面は、再び多孔質層3を露出させた。そして、多孔質層3の該溝以外の部分は、組成物(X1)が細孔に充填された状態で硬化し、非多孔質とした。
【0045】
厚さ60μmの二軸延伸ポリプロピレンシート(OPPシート)(二村化学社製)を一時的な支持体(図示略)とし、その上にスピンコーターにて組成物(X2)を塗工し、紫外線ランプにより紫外線を2秒間照射して半硬化させて第三樹脂層6とし、これを、先に作製した積層部材の第二樹脂層4の上に積層し、紫外線を120秒間照射することにより固着させた後、前記一時的な支持体(図示略)を剥離除去した。
以上のようにして、断面が矩形で、底面に多孔質層が形成された、平面視ジグザグ状の毛細管状の流路5を有するマイクロ流体デバイス前駆体が得られた。
【0046】
前記マイクロ流体デバイス前駆体の基材1側から第二樹脂層4まで、流路5の両端部において、各直径0.3mmの孔をドリルで開け、流入口7および流出口8を形成し、マイクロ流体デバイスを得た。
【0047】
〔マイクロ流体デバイスの寸法測定〕
下記のマイクロ流体デバイスの圧力損失の測定及び集積型マイクロ流体デバイスの圧力損失の測定を行った後、該マイクロ流体デバイスから10個をランダムに取り出して切断し、ノギス、光学顕微鏡、及び走査型電子顕微鏡を用いてデバイス各部の寸法を測定した。その結果、マイクロ流体デバイスの外寸は、75×50×1.19mmであり、基材1の平均厚みは1.00mm、第一樹脂層2の平均厚みは31μm、多孔質層の平均厚みは8μm、多孔質層3に含浸した部分を除く第二樹脂層4の平均厚みは51μm、第三樹脂層6の平均厚みは98μmであり、また、流路5の平均幅は106μm、流路6の平均長さは50cmであった。
【0048】
〔マイクロ流体デバイスの圧力損失と変動係数の測定〕
上記工程により作製した100個のマイクロ流体デバイスの圧力損失の変動係数を測定した。
【0049】
吐出圧を測定できる圧力計(図示略)が付属したギヤポンプ12に、接続配管の共通配管部13として、内径5mm、長さ10cmの、一方の端が塞がれた黄銅管を接続し、該黄銅管に、接続配管の個別配管部14として、端部をプラズマ処理により親水化した、外径1.6mm、内径500μm、長さ1.0m±0.5mmのテフロン(登録商標)チューブを分岐するように100本接続した。
【0050】
前記接続配管の個別配管部14の開放端を、図1に示したような、孔を空けた7×7×3mmのアクリル樹脂製の接続部材9にシリコーン系接着剤で接着し、厚さ1mmのシリコーン製のパッキン18を介して、クランプ(図示略)によりマイクロ流体デバイス10の各流入口7に接続した。
【0051】
また、同様にして、マイクロ流体デバイスの流出口8に、端部をプラズマ処理により親水化した、外形1.6mm、内径500μm、長さ1.0m±0.5mmのテフロン(登録商標)チューブを、接続部材9、パッキン18、及びクランプ(図示略)を用いて接続して出口側配管15とし、該チューブの他端を試験管16に挿入した。各試験管16に蒸発防止用の流動パラフィンを1滴注入し、その状態で各試験管16の質量を秤量した。
【0052】
マイクロ流体デバイス10は台の上に水平に並べて置き、試験管16に挿入した出口側配管15の端の高さは、全て同じ高さとした。ポンプ12の吸入口は、内径5mmのテフロン(登録商標)チューブ17でもって貯液層11に接続した。
【0053】
試験溶液として0.1%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を用い、あらかじめポンプ12を運転して、全ての接続配管13,14、マイクロ流体デバイス10の流路、及び出口側配管15中に該水溶液を充満させた後、前記のように接続配管14の端を試験管16に挿入し、ポンプ12から3.0cm/分の体積流速で送液したところ、ポンプ12の吐出圧力(配管とマイクロ流体デバイスの圧力損失)は33.0kPaを示した(表1:No.4)。
【0054】
ポンプ12から1時間送液した後ポンプ12を停止し、各試験管16に溜まった水溶液の量を秤量した。これから体積流速の変動係数を計算すると12.8%であった(表2:Ref)。
【0055】
その後、各マイクロ流体デバイスから出口側配管15を取り外して、同じ体積流速でポンプを駆動したが、ポンプの吐出圧(配管とマイクロ流体デバイスの圧力損失)に変化はなかった(表1:No.3)。このことから、出口側配管15の圧力損失は、マイクロ流体デバイスに比べて無視できるほど小さいことがわかる。
【0056】
なお、前記No.4の測定に先立ち、前記接続配管の共通配管部13に個別配管部14を接続しない状態(表1:No.1)、及び、前記接続配管の個別配管部14は前記共通配管部13に接続するが、他端はマイクロ流体デバイスに接続しない状態(表1:No.2)にて、同じ体積流速で試験を行ったところ、圧力損失は両者とも0.1kPa未満で測定不能であり、マイクロ流体デバイスの圧力損失に比べて無視できる値であった。従って、前記No.3の結果と合わせて考察すると、前記No.4の測定によって得られた圧力損失及びその変動係数は、実質的にマイクロ流体デバイスの特性であることがわかる。
【0057】
[実施例1]
本実施例に於いては、本発明の第一態様の例を示す。
〔集積型マイクロ流体デバイスの圧力損失の測定〕
上記マイクロ流体デバイスの圧力損失の測定後、同じ100個のマイクロ流体デバイスを用い、接続配管の個別配管部14として、端部をプラズマ処理により親水化した、外径1.6mm、内径50μm、長さ1m±0.5mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のチューブを用いたこと以外は、前記No.4の測定と同様にして測定を行った。
【0058】
その結果、ポンプ12の吐出圧力は370.2kPa(表1:No.5)、体積流速の変動係数は3.4%であった(表2:実施例1)。即ち、この集積型マイクロ流体デバイスの圧力損失の変動係数は、マイクロ流体デバイスの変動係数10.8%から大幅に改善されていた。
【0059】
次いで、前記接続配管の圧力損失の測定(表1:No.2)と同様にして、補正配管13をマイクロ流体デバイス10の流入口7からはずし、補正配管13のみの圧力損失と変動係数の測定を行ったところ、ポンプ12の吐出圧力は337.2kPa(表1:No.6)、体積流速の変動係数は0.95%であった。即ち、用いた補正配管13の変動係数はマイクロ流体デバイスの変動係数よりも小さかった。各測定の圧力損失を表1に示した。
【0060】
[実施例2]
本実施例に於いては、本発明の第二の態様の例を示す。
実施例1で作製した集積型マイクロ流体デバイスに於いて、流入口7には、前記マイクロ流体デバイスの圧力損失の測定(No.3)と同様の内径500μmのテフロン(登録商標)チューブを接続配管の個別配管部14を接続し、出口側配管15として、端部をプラズマ処理により親水化した、内径50μm、長さ1.0m±0.5mmの前記PEEKチューブを用いて補正配管15とした。それ以外は、実施例1と同様の試験を行ったところ、ポンプの吐出圧力は368.7kPa、体積流速の変動係数は3.6%と、実施例1とほぼ同じ値であった(表1:No.7、表2:実施例2)。
【0061】
即ち、補正配管をマイクロ流体デバイスより下流側に接続しても、上流側に接続した婆愛と同様の、体積流速の偏差の改善効果が得られた。
【0062】
[実施例3]
補正配管15のPEEKチューブの長さを30cmとしたこと以外は実施例2と同様の試験を行った。その結果、ポンプの吐出圧力は132.6kPa、体積流速の変動係数は5.4%であった(表1:No.8、表2:実施例3)。
【0063】
補正配管の圧力損失がマイクロ流体デバイスの圧力損失に比べてあまり大きくない場合であっても、改善効果は認められることが分かる。
【0064】
[実施例4]
補正配管14のPEEKチューブの長さを2.0m±0.5mmmとしたこと以外は実施例1と同様の試験を行った。その結果、ポンプの吐出圧力は707.8kPa、体積流速の変動係数は2.6%であった(表1:No.9、表2:実施例4)。
【0065】
補正配管の圧力損失を増すと、集積型マイクロ流体デバイス全体の圧力損失は増すが、体積流速の偏差の改善効果が大きくなることが分かる。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
但し、表1中における英字は各々下記のものを表す。
A:接続配管の共通配管部(アルミパイプ;φ=5mm)
B:接続配管の個別配管部(テフロン(登録商標)チューブ;φ=500μm)
C:マイクロ流体デバイス
D:出口側配管(テフロン(登録商標)チューブ;φ=500μm)
E:接続配管側の補正配管(PEEKチューブ;φ=50μm)
F:出口側配管側の補正配管(PEEKチューブ;φ=50μm)
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例で作製するマイクロ流体デバイスの斜視分解図である。
【図2】実施例で作製する集積型マイクロ流体デバイスの見取り図である。
【符号の説明】
【0070】
1 基材
2 第一樹脂層
3 多孔質層
4 第二樹脂層
5 流路
6 第三樹脂層
7 流入口
8 流出口
9 接続部材
10 マイクロ流体デバイス
11 貯留槽
12 ポンプ(ギヤポンプ)
13 接続配管の共通配管部
14 接続配管の個別配管部
15 出口側配管
16 試験管
17 ポンプ吸入側配管
18 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路入口から流路出口までの圧力損失に個体差がある複数のマイクロ流体デバイスのそれぞれの流路入口が、枝分かれした接続配管を介して、一の流体駆動機構に接続された集積型マイクロ流体デバイスであって、
(1)前記接続配管の分岐部から前記流路入口までの個別配管部分が各々補正配管とされること、及び/又は前記デバイスの流路出口に各々補正配管が設けられること、
(2)前記補正配管の平均圧力損失がマイクロ流体デバイスの平均圧力損失の1〜1000倍であること、及び、
(3)前記補正配管の圧力損失の標準偏差がその平均圧力損失に比して5%の範囲内にあること、
を特徴とする集積型マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記補正配管の長さの変動係数が0.5%未満である請求項1に記載の集積型マイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記補正配管の平均内径が10〜200μmの範囲にある請求項1又は2に記載の集積型マイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記補正配管の平均長さが0.5〜10mの範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の集積型マイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記マイクロ流体デバイスの接続数が100〜1000000の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の集積型マイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記マイクロ流体デバイスの圧力損失が0.1kPa〜1MPaの範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載の集積型マイクロ流体デバイス。
【請求項7】
一つの流体駆動機構を、枝分かれした接続配管を介して、流路入口から流路出口までの圧力損失に個体差がある複数のマイクロ流体デバイスのそれぞれの流路入口に接続し、
(1)前記接続配管の分岐部から前記流路入口までの部分を各々補正配管とすること、及び/又は前記デバイスの流路出口に各々補正配管を接続すること、
(2)前記補正配管の平均圧力損失を前記デバイスの平均圧力損失の1〜100倍とすること、及び、
(3)前記補正配管の圧力損失の標準偏差を平均圧力損失の5%未満とすること、
を特徴とするマイクロ流体デバイスの流量偏差低減方法。
【請求項8】
流体駆動機構と、流路入口から流路出口までの流体圧力損失に個体差がある複数のマイクロ流体デバイスとの間に、該デバイスの数に対応して枝分かれした接続配管を各々接続し、該枝分かれした接続配管として、その平均圧力損失を該デバイスの平均流体圧力損失の1〜1000倍とし、且つ枝分かれした接続配管の流体圧力損失の変動係数を5%未満とするマイクロ流体デバイスの流量偏差低減方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−263546(P2006−263546A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83717(P2005−83717)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】