説明

雌雄判別方法、雌雄判別用試薬、退行胚判定方法および退行胚判定用試薬

【課題】無侵襲で、胚盤胞に達した胚の雌雄を容易に判別することができる雌雄判別方法および雌雄判別用試薬、ならびに、胚盤胞に達した胚が退行するか否かを早期に判定することができる退行胚判定方法および退行胚判定用試薬を提供する。
【解決手段】哺乳動物の胚盤胞に達した胚を、活性酸素感受性の蛍光色素を添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、第一蛍光画像を取得する。その胚を、蛍光色素と所定濃度のグルコースとを添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、第二蛍光画像を取得する。第一蛍光画像と第二蛍光画像とを比較し、胚の雌雄を判別する。また、哺乳動物の胚盤胞に達した胚を、活性酸素感受性の蛍光色素を添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、蛍光画像を取得する。蛍光画像の蛍光強度を求め、その蛍光強度をあらかじめ設定された閾値と比較し、胚が退行するか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚盤胞に達した哺乳動物の胚の雌雄判別方法および退行胚判定方法、ならびに、主にそれらの方法で使用される雌雄判別用試薬および退行胚判定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胚盤胞に達した牛などの哺乳動物の胚の雌雄を判別する方法として、胚から一部の細胞を取り出し、その細胞の核に含まれる性染色体特異的DNAを検出することにより、雌雄を判別するものがある。
また、従来、胚盤胞に達した牛などの哺乳動物の胚が退行するか否かを、早期に判定する方法はなかった。
【0003】
なお、無侵襲で胚の雌雄を判別する方法として、胚盤胞に達した牛の胚が分泌するインターフェロン−τの量により判別するものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この方法は、個々の胚盤胞のインターフェロン−τの変化性が大きいため、胚の雌雄を判別することはできないという結果が得られている。
【0004】
さらに、胚盤胞に達した哺乳動物の初期胚では、グルコース濃度および酸素分圧の培養条件により、発生速度の性的二形性が生じることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。これは、雌の初期胚では2つのX染色体が共に活性化しているため、X連鎖酵素、特にグルコース6リン酸脱水素酵素が過剰に転写され、ペントースリン酸回路の回転が速まって細胞内に代謝異常が生じ、雌の初期胚に発生阻害を生じさせることが原因であると考えられている(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
【非特許文献1】木村康二他(Koji Kimura,et al.),「セクシャル ダイモルフィズム イン インターフェロン−τ プロダクション バイ イン ビーボ−ディライブド ボバイン エンブリョス(Sexual Dimorphism in Interferon−τ Production by In Vivo−Derived Bovine Embryos)」,(米国),モレキュラー リプロダクション アンド ディベロップメント(Molecular Reproduction and Development),2004,67,p.193−199
【非特許文献2】ドネイ他(I.Donnay,et al.),「インパクト オブ アッディング 5.5mM グルコース トゥ SOF メディウム オン ザ ディベロップメント, メタボリズム アンド クオリティ オブ イン ビトロ プロデュースド ボバイン エンブリョス フロム ザ モルラ トゥ ザ ブラストサイスト ステージ(Impact of adding 5.5mM glucose to SOF medium on the development, metabolism and quality of in vitro produced bovine embryos from the morula to the blastocyst stage)」,(イギリス),ザイゴート(Zygote),2002,10,p.189−199
【非特許文献3】木村康二他(K.Kimura,et al.),「エフェクト オブ オキシデイティブ ストレス アンド インヒビターズ オブ ザ ペントース フォスフェイト パスウェイ オン セクシャリィ ダイモルフィック プロダクション オブ IFN−τ バイ ボバイン ブラストサイスト(Effects of Oxidative Stress and Inhibitors of the Pentose Phosphate Pathway on Sexually Dimorphic Production of IFN−τ by Bovine Blastocysts)」,(米国),モレキュラー リプロダクション アンド ディベロップメント(Molecular Reproduction and Development),2004,68,p.88−95
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の雌雄を判別する方法では、胚から細胞を取り出すとき、胚を傷つけるため、胚の保存性が悪く、その後の発生に悪影響を及ぼす危険性があるという課題があった。また、雌雄を判別するには、マイクロマニピュレータやDNA増幅装置などの特殊な装置が必要であり、それらの設備や専門オペレータが整った限られた研究機関でしか雌雄の判別ができず、容易に実施することはできないという課題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、無侵襲で、胚盤胞に達した胚の雌雄を容易に判別することができる雌雄判別方法および雌雄判別用試薬、ならびに、胚盤胞に達した胚が退行するか否かを早期に判定することができる退行胚判定方法および退行胚判定用試薬を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る雌雄判別方法は、哺乳動物の胚盤胞に達した胚を、活性酸素感受性の蛍光色素を添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、前記蛍光色素による蛍光状態の第一蛍光画像を取得し、前記第一蛍光画像を取得後の前記胚を、前記蛍光色素と所定濃度のグルコースとを添加した培養液中で前記所定の培養条件で培養した後、前記蛍光色素による蛍光状態の第二蛍光画像を取得し、前記第一蛍光画像と前記第二蛍光画像とを比較することにより前記胚の雌雄を判別することを、特徴とする。
【0009】
本発明に係る雌雄判別方法では、グルコースを添加した培養液中で胚を培養した場合、雌胚の活力が低下して活性酸素の発生が抑制され、雄胚の方が雌胚より活性酸素の発生量が多くなるため、グルコース添加前の第一蛍光画像とグルコース添加後の第二蛍光画像とを比較したとき、活性酸素感受性の蛍光色素による雌胚の蛍光状態と雄胚の蛍光状態とが異なる。このため、その蛍光状態の違いに基づいて、無侵襲で、胚盤胞に達した胚の雌雄を判別することができる。また、マイクロマニピュレータやDNA増幅装置などの特殊な装置を使用することなく、胚の雌雄を容易に判別することができる。なお、雌雄判別を行う胚は、体内受精胚であっても、体外受精胚であってもよい。
【0010】
本発明に係る雌雄判別方法で、蛍光色素は、活性酸素感受性のものであればいかなる色素であってもよいが、特に、ジクロロフルオレセイン・ジアセテート(dichlorofluorescin diacetate:以下「DCFHジアセテート」という)から成ることが好ましい。培養液は、例えば、114.7mMの食塩と、3.1mMの塩化カリウムと、0.4mMのピルビン酸ナトリウムと、26.2mMの炭酸水素ナトリウムと、10μg/mlのフェノールレッドと、3mg/mlのウシ血清アルブミンと、MEM必須アミノ酸と、MEM非必須アミノ酸と、10mMのL−グルタミンとを含む、3mg/mlのBSA添加CR1aa培養液(以下「基本培地」という)から成るが、他の組成であってもよい。所定の培養条件は、例えば、CO5%、O5%、N90%で、湿度99%、温度39℃の気相条件下で、5分間の培養を行う条件である。
【0011】
本発明に係る雌雄判別方法は、前記第一蛍光画像および前記第二蛍光画像の蛍光強度を求め、その蛍光強度の増減状態に基づいて、前記胚の雌雄を判別することが好ましい。この場合、雌胚の活力が低下して活性酸素の発生が抑制されるため、雄胚の方が雌胚より活性酸素の発生量が多くなり、蛍光強度の増加量が大きくなる。このため、蛍光強度の増減状態に基づいて、胚盤胞に達した胚の雌雄を判別することができる。また、第一蛍光画像および第二蛍光画像を、スキャナーやデジタルカメラでデジタル画像として取得し、コンピュータで画像処理することにより、判別作業を自動化することができ、作業効率を高めることかできる。
【0012】
本発明に係る雌雄判別用試薬は、活性酸素感受性の蛍光色素とグルコースとを含有することを、特徴とする。
【0013】
本発明に係る雌雄判別用試薬は、本発明に係る雌雄判別方法で好適に使用される。本発明に係る雌雄判別用試薬では、培養液中に添加して胚を培養した場合、グルコースにより雌胚の活力が低下して活性酸素の発生が抑制される。このため、添加後の活性酸素感受性の蛍光色素による蛍光画像を、添加前の蛍光画像と比較することにより、雌胚の蛍光状態と雄胚の蛍光状態とが異なり、その蛍光状態の違いに基づいて、無侵襲で、胚盤胞に達した胚の雌雄を判別することができる。また、マイクロマニピュレータやDNA増幅装置などの特殊な装置を使用することなく、胚の雌雄を容易に判別することができる。
なお、本発明に係る雌雄判別用試薬で、蛍光色素は、活性酸素感受性のものであればいかなる色素であってもよいが、特に、DCFHジアセテートが適している。
【0014】
本発明に係る退行胚判定方法は、哺乳動物の胚盤胞に達した胚を、活性酸素感受性の蛍光色素を添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、前記蛍光色素による蛍光状態の蛍光画像を取得し、前記蛍光画像の蛍光強度を求め、その蛍光強度をあらかじめ設定された閾値と比較することにより、前記胚が退行するか否かを判定することを、特徴とする。
【0015】
本発明に係る退行胚判定方法では、胚盤胞に達した胚のうち退行するものは、退行せずに拡張胚盤胞や脱出胚盤胞に発育するものと比べて、活性酸素の発生量が少ないため、活性酸素感受性の蛍光色素による蛍光強度が小さくなる。このため、あらかじめ退行するものの蛍光強度の上限値を求め、それを閾値として設定することにより、胚盤胞に達した胚の蛍光強度をその閾値と比較して、その胚が退行するか否かを早期に判定することができる。なお、判定を行う胚は、体内受精胚であっても、体外受精胚であってもよい。
【0016】
本発明に係る退行胚判定方法で、蛍光色素は、活性酸素感受性のものであればいかなる色素であってもよく、例えば、DCFHジアセテートから成る。また、培養液は、例えば、基本培地から成るが、他の組成であってもよい。所定の培養条件は、例えば、CO5%、O5%、N90%で、湿度99%、温度39℃の気相条件下で、5分間の培養を行う条件である。
【0017】
本発明に係る退行胚判定用試薬は、活性酸素感受性の蛍光色素を含有することを、特徴とする。
【0018】
本発明に係る退行胚判定用試薬は、本発明に係る退行胚判定方法で好適に使用される。本発明に係る退行胚判定試薬では、培養液中に添加して胚を培養した場合、胚盤胞に達した胚のうち退行するものは、退行せずに拡張胚盤胞や脱出胚盤胞に発育するものと比べて、活性酸素の発生量が少ないため、蛍光強度が小さくなる。このため、あらかじめ退行するものの蛍光強度の上限値を求め、それを閾値として設定することにより、胚盤胞に達した胚の蛍光強度をその閾値と比較して、その胚が退行するか否かを早期に判定することができる。
【0019】
なお、本発明に係る退行胚判定用試薬で、蛍光色素は、活性酸素感受性のものであればいかなる色素であってもよいが、特に、DCFHジアセテートが適している。
本発明に係る雌雄判別方法および退行胚判定方法は、いかなる哺乳動物に適用してもよいが、特に、牛などの家畜に好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、無侵襲で、胚盤胞に達した胚の雌雄を容易に判別することができる雌雄判別方法および雌雄判別用試薬、ならびに、胚盤胞に達した胚が退行するか否かを早期に判定することができる退行胚判定方法および退行胚判定用試薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
[雌雄判別]
本発明の実施の形態の雌雄判別方法は、例えば、以下に示す雌雄判別装置により実施される。雌雄判別装置は、二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡と処理部とを有している。
【0022】
二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡は、実態顕微鏡とインキュベータと二酸化炭素チャンバーと蛍光撮影装置とを有している。インキュベータは、試料が入ったシャーレなどの容器を収納して、培養可能になっている。二酸化炭素チャンバーは、インキュベータ内の二酸化炭素濃度を調節可能である。蛍光撮影装置は、キセノン光源と、スキャナまたはデジタルカメラから成る撮影手段とを有している。蛍光撮影装置は、インキュベータ内の試料の可視光写真およびキセノン光源による蛍光写真を、撮影手段によりデジタル撮影可能になっている。
【0023】
処理部は、コンピュータから成り、画像記憶手段と表示手段と画像処理手段とを有している。画像記憶手段は、二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡の蛍光撮影装置で撮影された蛍光写真および可視光写真の画像を取得し、記憶するようになっている。表示手段は、モニタから成り、画像記憶手段で記憶した画像や解析結果などを表示可能である。画像処理手段は、画像記憶手段で記憶した画像を表示手段に表示させて、所定の処理や解析を実行可能になっている。
【0024】
本発明の実施の形態の雌雄判別用試薬は、活性酸素感受性の蛍光色素である2mMのDCFHジアセテートと、2mMのグルコースとから成っている。
本発明の実施の形態の雌雄判別方法は、まず、シャーレなどの容器に基本培地の培養液を入れ、その基本培地に活性酸素感受性の蛍光色素であるDCFHジアセテートを最終濃度2mMで添加する。その培養液中に、牛などの哺乳動物の胚盤胞に達した胚を入れる。その容器を二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡のインキュベータに入れて、CO5%、O5%、N90%で、湿度99%、温度39℃の気相条件下で、5分間培養する。
【0025】
培養後の胚を基本培地で洗浄した後、二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡の蛍光撮影装置により、その胚の蛍光写真および可視光写真をデジタル撮影する。撮影された各写真は、第一蛍光画像および第一可視光画像として処理部の画像記憶手段に取得されて、記憶される。
【0026】
各画像の取得後、容器に入れた基本培地に、本発明の実施の形態の雌雄判別用試薬を添加し、その培養液に胚を入れる。その容器を二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡のインキュベータに入れて、CO5%、O5%、N90%で、湿度99%、温度39℃の気相条件下で、5分間培養する。
【0027】
二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡の蛍光撮影装置により、その培養後の胚の蛍光写真および可視光写真をデジタル撮影する。なお、絞りおよび露光時間などの撮影条件を、第一蛍光画像および第一可視光画像を撮影したときと同じにして、撮影を行う。撮影された各写真は、第二蛍光画像および第二可視光画像として処理部の画像記憶手段に取得されて、記憶される。
【0028】
第一蛍光画像および第二蛍光画像をそれぞれ処理部の表示手段に表示させ、胚の直径および胚の蛍光強度を求める。このとき、グルコースを添加した培養液中で胚を培養すると、雌胚の活力が低下して活性酸素の発生が抑制されるため、雄胚の方が雌胚より活性酸素の発生量が多くなる。このため、グルコース添加前の第一蛍光画像とグルコース添加後の第二蛍光画像とを比較したとき、雄胚の方が雌胚より活性酸素感受性の蛍光色素による蛍光強度の増加量が大きくなる。このため、蛍光強度の増減状態に基づいて、無侵襲で、胚盤胞に達した胚の雌雄を判別することができる。
【0029】
胚の雌雄を判別するにあたり、あらかじめ撮影して求めた雌胚の蛍光強度の増減状態と、雄胚の蛍光強度の増減状態とに基づいて、雌雄判別の判断基準を作成しておく。判別を行う胚について、第一蛍光画像および第二蛍光画像の蛍光強度の増減状態を、あらかじめ作成した雌雄判別の判断基準にあてはめて、胚の雌雄を判別する。こうして、本発明の実施の形態の雌雄判別方法は、マイクロマニピュレータやDNA増幅装置などの特殊な装置を使用することなく、胚の雌雄を容易に判別することができる。
【0030】
なお、第二蛍光画像および第二可視光画像の撮影が終わった胚は、DCFHジアセテートを含まない基本培地で洗浄し、再び二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡の蛍光撮影装置により、蛍光写真を撮影する。胚を再び基本培地で洗浄し、胚の発生培養用の培地に移して、胚移植や胚の凍結保存などを行うまで培養を継続する。このとき、本発明の実施の形態の雌雄判別方法は無侵襲であるため、胚の保存性がよく、その後の発生に悪影響を及ぼさない。
【実施例1】
【0031】
牛の胚盤胞を使用して、本発明の実施の形態の雌雄判別方法について試験を行った。
グルコース添加前の第一蛍光画像、および、グルコースを含む本発明の実施の形態の雌雄判別用試薬を添加後の第二蛍光画像の蛍光強度を求め、図1および表1に示す。また、その後の胚の培養により判明した、実際の雌雄の別も示す。なお、蛍光強度の値は、第一蛍光画像および第二蛍光画像のカラー画像を構成するRGB成分のうち、胚の領域内でのG成分の平均値を使用している。
【0032】
【表1】

【0033】
図1および表1に示すように、グルコース添加前の第一蛍光画像と本発明の実施の形態の雌雄判別用試薬を添加後の第二蛍光画像とを比較したとき、雄胚の方が雌胚より活性酸素感受性の蛍光色素による蛍光強度の増加量が大きくなっている。これは、グルコースを添加した培養液中で胚を培養した場合、雌胚の活力が低下して活性酸素の発生が抑制され、雄胚の方が雌胚より活性酸素の発生量が多くなるためである。図1および表1に示す例では、蛍光強度の増加量が16以上のものを雄胚、16より小さいものを雌胚とする判別基準を採用することにより、1つの雄胚を除き、正確に雌雄を判別できることがわかる。このように、蛍光強度の増減状態に基づいて、無侵襲かつ高精度で、胚盤胞に達した胚の雌雄を判別することができる。
【0034】
[退行胚判定]
本発明の実施の形態の退行胚判定方法は、例えば、本発明の実施の形態の雌雄判別方法で使用される雌雄判別装置により実施することができる。
本発明の実施の形態の退行胚判定用試薬は、活性酸素感受性の蛍光色素である2mMのDCFHジアセテートから成っている。
【0035】
本発明の実施の形態の退行胚判定方法は、まず、シャーレなどの容器に基本培地の培養液を入れ、その基本培地に本発明の実施の形態の退行胚判定用試薬を添加する。その培養液中に、牛などの哺乳動物の胚盤胞に達した胚を入れる。その容器を二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡のインキュベータに入れて、CO5%、O5%、N90%で、湿度99%、温度39℃の気相条件下で、5分間培養する。
【0036】
培養後の胚を基本培地で洗浄した後、二酸化炭素チャンバー付蛍光顕微鏡の蛍光撮影装置により、その胚の蛍光写真および可視光写真をデジタル撮影する。撮影された各写真は、蛍光画像および可視光画像として処理部の画像記憶手段に取得されて、記憶される。
【0037】
蛍光画像を処理部の表示手段に表示させ、胚の直径および胚の蛍光強度を求める。このとき、胚盤胞に達した胚のうち退行するものは、退行せずに拡張胚盤胞や脱出胚盤胞に発育するものと比べて、活性酸素の発生量が少ないため、活性酸素感受性の蛍光色素による蛍光強度が小さくなる。このため、あらかじめ退行するものの蛍光強度の上限値を求め、それを閾値として設定しておく。
【0038】
判定を行う胚の蛍光強度を、その閾値と比較することにより、その胚が退行するか否かを判定する。こうして、本発明の実施の形態の退行胚判定方法は、胚が退行するか否かを早期に判定することができる。
【実施例2】
【0039】
牛の胚盤胞を使用して、本発明の実施の形態の退行胚判定方法について試験を行った。
牛の胚盤胞の蛍光画像、および、牛の胚盤胞を24時間培養した後の蛍光画像を撮影し、蛍光強度を求め、図2および表2に示す。また、牛の胚盤胞を24時間培養した後の、各胚の発生ステージも示す。なお、蛍光強度の値は、各蛍光画像のカラー画像を構成するRGB成分のうち、胚の領域内でのG成分の平均値を使用している。
【0040】
【表2】

【0041】
図2および表2に示すように、24時間培養後の退行胚は、拡張胚盤胞や脱出胚盤胞まで発育した胚に比べて、蛍光強度が明らかに小さくなっている。これは、退行の始まった胚では、性別に関係なく活性酸素の発生量が少なくなるためである。また、24時間培養前の退行する胚の蛍光強度は、全て80よりも小さくなっている。このため、退行する胚の蛍光強度の上限値である80を閾値として設定し、牛の胚のうち、蛍光強度が閾値80よりも小さいものを退行胚と判定する。これにより、牛の胚について、退行する胚をほぼ確実に、早期に退行胚と判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例の雌雄判別方法の、牛の胚盤胞のグルコース添加前後の蛍光強度の増減状態を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例の雌雄判別方法の、牛の胚盤胞の発生段階による蛍光強度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の胚盤胞に達した胚を、活性酸素感受性の蛍光色素を添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、前記蛍光色素による蛍光状態の第一蛍光画像を取得し、
前記第一蛍光画像を取得後の前記胚を、前記蛍光色素と所定濃度のグルコースとを添加した培養液中で前記所定の培養条件で培養した後、前記蛍光色素による蛍光状態の第二蛍光画像を取得し、
前記第一蛍光画像と前記第二蛍光画像とを比較することにより前記胚の雌雄を判別することを、
特徴とする雌雄判別方法。
【請求項2】
前記第一蛍光画像および前記第二蛍光画像の蛍光強度を求め、その蛍光強度の増減状態に基づいて、前記胚の雌雄を判別することを、特徴とする請求項1記載の雌雄判別方法。
【請求項3】
活性酸素感受性の蛍光色素とグルコースとを含有することを、特徴とする雌雄判別用試薬。
【請求項4】
哺乳動物の胚盤胞に達した胚を、活性酸素感受性の蛍光色素を添加した培養液中で所定の培養条件で培養した後、前記蛍光色素による蛍光状態の蛍光画像を取得し、
前記蛍光画像の蛍光強度を求め、その蛍光強度をあらかじめ設定された閾値と比較することにより、前記胚が退行するか否かを判定することを、
特徴とする退行胚判定方法。
【請求項5】
活性酸素感受性の蛍光色素を含有することを、特徴とする退行胚判定用試薬。
【請求項6】
前記蛍光色素はDCFHジアセテートから成ることを特徴とする請求項1もしくは2記載の雌雄判別方法、請求項3記載の雌雄判別試薬、請求項4記載の退行胚判定方法、または請求項6記載の退行胚判定用試薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−68415(P2007−68415A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255870(P2005−255870)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【出願人】(501354912)マイクロバイオ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】