説明

雑音信号除去装置、雑音信号除去の方法、及び光受信機

【課題】光増幅器で発生するASEや非線形光学効果起因する信号雑音を除去して、受信信号のSNRを改善する。
【解決手段】雑音信号除去装置は、光受信機に搭載され、ディジタル電気信号の単位時間スロット内の一つの値を検出するサンプリング部と、前記検出された値を2分岐して出力する分岐部と、前記分岐された一方の出力に対し絶対値の演算を行うことにより前記ディジタル電気信号の周波数をゼロに変換する絶対値演算部と、前記演算された絶対値の高周波成分を除去することにより振幅雑音を除去する低域透過フィルタ部と、前記分岐された他方の出力に対し符号の正負の判定をして正負の識別値を出力する符号関数部と、前記低域透過フィルタの出力と前記符号関数部の出力とを乗算することにより、雑音を除去したサンプリング値を算出する乗算部と、前記乗算部の出力に対してビットの0、1を判定する識別判定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号に含まれる雑音信号を推定する雑音信号除去装置及びその方法、並びに光信号を受信する光受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
伝送網の容量を拡大するために1990年代後半から複数波長の光信号を同時に伝送する高密度波長分割多重(DWDM:Dense Wavelength Devision Multiplexing)伝送技術が導入されてきている。このような光伝送システムの光受信機は図1に示すように、光電変換部101で受信した光信号を電気の信号へ変換した後、増幅器102で増幅し、低域透過フィルタ部103と通過させてビットレート以上、或いはビットレートの半分以上の高周波成分を阻止した後、識別判定部104でビットの0、1の識別判定を行う。
【0003】
長距離の光伝送システムでは、伝送路の損失で劣化した信号対雑音比(SNR:Signal−Noise Ratio)を補償するために光増幅器を多段に接続した多中継伝送が必須となっている。しかし、各々の光増幅器では増幅自然放出光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)が発生し、多段に接続された光増幅器を中継する度にASEが累積し、光受信機において、それ自身または信号光と相互作用して信号雑音を発生させる。このため、光受信端ではASEに起因する信号雑音によりSNRが劣化する。また、一波長あたりのビットレートが大きくなるにつれて、光受信器における所要SNRが大きくなるため、伝送路を形成する光ファイバへの入力光パワーが大きくなる。そのため、信号光それ自身の非線形光学効果である自己位相変調(SPM:Self−Phase Modulation)、信号光間の非線形光学効果である交差位相変調(XPM:Cross−Phase Modulation)や四光波混合(FWM:Four−Wave Mixing)によって信号光パワーが揺らぎ、その結果SNRを劣化させることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A.H.Gnauck et al.,‘‘10×112−Gb/sPDM16−QAM transmission over630km of fiber with 6.2−b/s/Hz spectral efficiency,’’in Proc.OFC2009,PDPB8,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、陸上基幹系の光伝送システムや海底光伝送システムでは、変調方式として、受信感度改善が得られるDPSK(Differential Phase Shift Keying、或いはDifferential Binary Phase Shift Keying:DBPSKと呼ぶこともある)や、多値変調信号を生成するDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAMなどが検討されるようになってきた。多値信号フォーマットでは周波数効率(単位周波数あたりのビット数)が大きくなり、(1)式で表されるシャノン=ハートレーの定理で示される伝送容量(または周波数効率)の限界に近づく。
【0006】
【数1】

【0007】

【0008】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、光増幅器で発生するASEや非線形光学効果起因する信号雑音を除去して、受信信号のSNRを改善した光受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、請求項1に記載された発明は、受信した光信号をディジタル電気信号に変換する処理部を備えた光受信機に搭載される雑音信号除去装置であって、該雑音信号除去装置は、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内の一つの値を検出するサンプリング部と、前記検出された値を2分岐して出力する分岐部と、前記分岐された一方の出力に対し絶対値の演算を行うことにより前記ディジタル電気信号の周波数をゼロに変換する絶対値演算部と、前記演算された絶対値の高周波成分を除去することにより振幅雑音を除去する低域透過フィルタ部と、前記分岐された他方の出力に対し符号の正負の判定をして正負の識別値を出力する符号関数部と、前記低域透過フィルタの出力と前記符号関数部の出力とを乗算することにより、雑音を除去したサンプリング値を算出する乗算部と、前記乗算部の出力に対してビットの0、1を判定する識別判定部とを備えることを特徴とする雑音信号除去装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の雑音信号除去装置において、前記サンプリング部は、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内のピーク値を検出することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載の雑音信号除去装置において、前記サンプリング部は、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内の所定の時刻で値を検出することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1から3のいずれかに記載の雑音信号除去装置において、前記乗算器からの出力に対して時間的補間演算を行う補間演算部を備え、前記識別判定部は該補間演算部の出力に対してビットの0、1を判定することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された発明は、受信した光信号をディジタル電気信号に変換する処理部を備えた光受信機のための雑音信号除去方法であって、該雑音信号除去方法は、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内の一つの値を検出するサンプリングステップと、前記検出された値を2分岐して出力する分岐ステップと、前記分岐された一方の出力に対し絶対値の演算を行うことにより前記ディジタル電気信号の周波数をゼロに変換する絶対値演算ステップと、前記演算された絶対値の高周波成分を除去することにより振幅雑音を除去する低域透過フィルタリングステップと、前記分岐された他方の出力に対し符号の正負の判定をして正負の識別値を出力する符号関数化ステップと、前記低域透過フィルタでの出力と前記符号関数化ステップでの出力とを乗算することにより、雑音を除去したサンプリング値を算出する乗算ステップと、前記乗算ステップでの出力に対してビットの0、1を判定する識別判定ステップとを含むことを特徴とする雑音信号除去方法である。
【0014】
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載の雑音信号除去方法において、前記サンプリングステップは、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内のピーク値を検出することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された発明は、請求項5に記載の雑音信号除去方法において、前記サンプリングステップは、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内のある決まった時刻で値を検出することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載された発明は、請求項5から7のいずれかに記載の雑音信号除去方法において、前記乗算ステップの出力に対してさらに時間的補間演算を行う補間演算ステップをさらに含み、前記識別判定ステップは、前記補間演算ステップでの出力に対してビットの0、1を判定することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載された発明は、受信した光信号をディジタル電気信号に変換する光電変換部と、請求項1から3のいずれかに記載の雑音信号除去装置とを備えたこと特徴とする光受信機である。
【0018】
請求項10に記載された発明は、請求項9に記載の光受信機において、前記光電変換部は、光信号の1ビットの遅延干渉手段とバランス型光検出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の光受信機は、ディジタル処理により、信号の周波数をゼロへ変換し、低域透過フィルタにより光増幅器で発生するASEや非線形光学効果起因する信号雑音を除去することが可能となり、光受信機の受信信号のSNRを大幅に改善できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の光受信機の構成を示すブロック図である。
【図2】RZ−DPSK信号を1ビット遅延干渉回路及バランス型フォトダイオードで 受信し出力される電気信号のパルス列の一例を示す図である。
【図3】図2の電気信号の絶対値化演算を行ったパルス列を示す図である。
【図4】図4のパルス列のピーク値を抽出した信号列を示す図である。
【図5】光増幅器で発生するASEや非線形光学効果起因する信号雑音による揺らぎがあるRZ−DPSK信号を、1ビット遅延干渉回路及バランス型フォトダイオードで受信した後、電気信号パルス列に対して絶対値化演算を行い、且つ各パルスのピーク値抽出を行った信号列を示す図である。
【図6】本発明の雑音信号除去装置を備えた光受信機の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の雑音信号除去装置を備えた光受信機の第1の実施形態の別の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の光受信機と従来の光受信機の受信特性を測定する測定系を説明する図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の光受信機の光復調素子、光電変換回路、増幅器の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の光受信機で43GBaud RZ−DPSK変調信号を受信したときの アイパターンの一例を示す図である。
【図11】従来の光受信機で43GBaud RZ−DPSK変調信号を受信したときの アイパターンの一例を示す図である。
【図12】43GBaud RZ−DPSK変調された光信号を本発明の光受信機と従来の光受信機で受信したときのQファクターの光SNR依存性を示す図である。
【図13】本発明の光受信機で21.5GBaud RZ−DQPSK変調信号を受信したときの アイパターンの一例を示す図である。
【図14】従来の光受信機で43GBaud RZ−DQPSK変調信号を受信したときの アイパターンの一例を示す図である。
【図15】21.5GBaud RZ−DQPSK変調された光信号を本発明の光受信機と従来の光受信機で受信したときのQファクターの光SNR依存性を示す図である。
【図16】本発明の雑音信号除去装置を備えた光受信機の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の雑音信号除去装置を備えた光受信機の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図18】本発明の光受信機を用いた光伝送システムの構成を示すブロック図である。
【図19】本発明の光受信機を用いた光伝送システムの伝送特性(Qファクター)を示す図である。
【図20】従来の光受信機を用いた光伝送システムの伝送特性(Qファクター)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
本発明の光受信機は、ディジタル処理により、信号の周波数をゼロへ変換し、低域透過フィルタで振幅雑音成分を除去する雑音信号除去装置を備えたことを最も主要な特徴とする。
【0023】
図2は理想的なRZ−DPSK信号(光増幅器で発生するASEや非線形光学効果に起因する信号雑音による揺らぎやジッタがないRZ−DPSK信号)を1ビット遅延干渉回路であるバランス型フォトダイオードで作動受信したときのビットパルス列の例を示したものである。RZ−DPSK信号をバランス型フォトダイオードで受信し出力される電気信号は、隣接光パルス間の位相差がπのとき正値となり、位相差がゼロのとき負値となる。この電気信号パルス列に対して絶対値化の演算を行うと、図3のようになる。図4はさらに各パルスのピーク値を抽出した信号列である。図4から分かるように、絶対値演算後にピーク値を抽出した信号列は一定値となる。すなわち、その周波数はゼロとなる。
【0024】
一方、図5は、光増幅器で発生するASEや非線形光学効果に起因する信号雑音による揺らぎがあるRZ−DPSK信号を上述の理想的なRZ−DPSK信号の場合と同様に、1ビット遅延干渉回路であるバランス型フォトダイオードで受信した後、電気信号パルス列に対して絶対値化演算を行い、且つ各パルスのピーク値抽出を行った信号列である。信号雑音による揺らぎがある場合は、ピーク抽出を行った信号列は一定値とはならず、雑音による値が揺らぐ。すなわち、信号成分自体は振動する成分を持たないので、信号雑音により揺らぐ振動成分は全て雑音成分となる。したがって、ピーク抽出した信号を低域透過フィルタを通過させることで雑音成分を除去できることになる。なお、以下の実施形態では、ピーク抽出を行った後に絶対値演算を行っているが、同様に、得られる信号の周波数がゼロとなる。
【0025】
なお、上記の説明では絶対値演算を行った後の電気信号パルス列のピーク値を抽出したが、各時間スロットの同時刻の値を抽出することでも理想的なRZ−DPSK信号の抽出値は周波数がゼロの成分となるため、同じように低域透過フィルタで雑音成分の除去が可能となる。
【0026】
(第1の実施形態)
図6に本実施形態の雑音信号除去装置を備えた光受信機の構成を示す。本光受信機は、光復調素子1と、光電変換部2と、増幅器3と、アナログ/ディジタル(A/D)変換器4と、ピーク値サンプリング部5とが直接接続され、2分岐された後、一方の出力に絶対値演算部6と、低域透過フィルタ部7と、遅延部8とが接続され、もう一方の出力に符号関数部9と、遅延部10とが接続され、2経路が合成された後、さらに識別判定部11に接続された構成とされる。また、光変調方式によっては、光電変換部2の前の光復調素子1を省略したり、低域透過フィルタと識別判定部との間に、歪等化、周波数オフセット補償、搬送波位相推定などをディジタル演算で行うディジタル演算部を別に設けたりすることもできる。
【0027】
光電変換部2に入力した光信号は、増幅器3で増幅される。ここでは、前置増幅器、自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)増幅器、電力増幅器などをまとめて一つのブロックで表現している。また、増幅器帯域特性により、増幅器が従来の光受信機の低域透過フィルタの効果も併せて持っており、その帯域は38GHzである。電力増幅器などをまとめて一つのブロックで表現している)、A/D変換器4でディジタル信号に変換され、ピーク値サンプリング部5により各信号パルスのピーク値が検出された後、2分岐される。
【0028】
2分岐された信号のうちの一方の信号は、各ピーク値は絶対値演算部6で全て正値に変換された後、低域透過フィルタ部7を透過して高周波成分が除去される。前述のように、振動成分は全て雑音成分であるので、この低域透過フィルタ部7を透過することにより、ASEや非線形光学効果に起因する信号雑音を除去できることになる。本実施形態の光受信機では、低域透過フィルタとして10点移動平均を用いている。ただし、低域透過フィルタはディジタル型のフィルタであれば移動平均に限るものではない。
【0029】
ピーク値が検出された後に分岐された信号のうちもう一方の信号は、符号関数部9において、信号の正負が判定され、正値の場合は1、負値の場合は−1が出力される。
【0030】
2分岐された後に処理された両信号は遅延部8、10でそれぞれタイミングが調整され、乗算器でそれらの値が掛け合わされることにより、雑音が除去されたサンプリング値が得られることとなる。乗算器からの出力はさらに、識別判定部11でビットの0、1が判定される。なお、識別判定部の前に必要に応じてディジタルフィルタを用いた補間演算部10を配置して、時間離散データの時間間隔を短くする補間演算を行うこともできる(図7)。
【0031】
以下に、本実施形態の光受信機で波長1550nm、43Gbaud RZ−DPSKで変調された光信号を光増幅器1で増幅後に受信したときの受信特性を説明する。受信特性は図8に示す測定系で測定された。ここで、光復調素子と光電変換素子は図9に示すようにそれぞれ、1ビット分の光遅延干渉回路による光復調器とバランス型フォトダイオード13、及び増幅器3から構成される。
【0032】
図10および図11はそれぞれ本発明の光受信機及び従来の光受信機を使用した場合のアイパターンを示す。光受信機入力信号光パワー(平均パワー)は0dBmで光信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)(波長分解能0.1nm)は13.3dBである。従来の光受信機ではASEによる雑音や非線形光学効果に起因する雑音により揺らぎが大きく、アイパターンがかなり閉じてしまっているが、本発明の光受信機では雑音除去の効果で揺らぎが抑制され、アイパターンは大きく開き、信号対雑音比が改善されていることが分かる。図12は光受信機へ入力する信号光の光SNRに対する本発明の光受信機と従来の光受信機のQファクターを示すグラフである。いずれの光SNRにおいても本発明の光受信機では従来の光受信機と比較してQファクター、すなわち信号対雑音比が大幅に改善できている。
【0033】
図13および図14は本発明の光受信機を21.5Gbaud RZ−DQPSK(4値信号)へ適用したときのアイパターンである。光受信機入力信号光パワー(平均パワー)は0dBmで光SNRは11.8dB(波長分解能0.1nm)である。従来の光受信機ではIチャネル及びQチャネル共に、ASEによる雑音や非線形光学効果に起因する雑音により揺らぎが大きく、アイパターンがかなり閉じてしまっているが、本発明の光受信機では両チャネル共に雑音除去の効果で雑音による揺らぎが抑制されアイパターンは大きく開き、信号対雑音比が改善されている。図15は光受信機へ入力する信号光の光SNRに対する本発明の光受信機と従来の光受信機のQファクター示すグラフである。RZ−DPSKと同様に本発明の光受信機では4値信号の変調フォーマットに対しても、従来の光受信機と比較してQファクター、すなわち信号対雑音比が大幅に改善できている。なお、本発明の光受信機は、RZ化されたDP−QPSK(Dual Polarization−Quadrature Phase Shift Keying)や16QAM、64QAM等の多値変調フォーマットに対しても適用でき、同様の信号対雑音比の改善が得られる。
【0034】
以上説明したように、本願発明の光受信機では光増幅器で発生するASEに起因する信号雑音を抑制し、従来の光受信機より受信信号のSNRを改善することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
図16に本実施形態の雑音信号除去装置を備えた光受信機の構成を示す。本実施形態の光受信機の構成は、図6に示した第1の実施形態のピーク値サンプリング部5に代えてスロット値サンプリング部13を用いた構成である。その他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0036】
本実施形態の光受信機の動作は、本スロット値サンプリング部13において、各信号パルスの時間スロット内の同時刻(特定の時刻)の値を検出する点が、図6に示した第1の実施形態の光受信機と異なり、その他の動作は第1の実施形態と同様である。本実施形態の値検出方法では時間スロット内の特定の時刻の値を検出するため、時間スロット内でパルスピークがない、RZ化されていないDPSKなどの位相変調や周波数変調信号にも適用できる。
【0037】
本実施形態の光受信機で波長1550nm、10.7Gbaud DPSK(RZ化されていないDPSK)で変調された光信号を光増幅器1で増幅後に受信したときの受信特性を第1の実施形態と同様に図8に示す測定系で測定した結果(光受信機入力信号光パワー(平均パワー)は0dBmで光SNRは15dB(波長分解能0.1nm)として測定)、Qファクターは従来の光受信機を用いたときに比較して本実施形態の光受信機では最大で5.5dBの改善が確認できた。
【0038】
なお、本発明の光受信機は、DP−QPSK(Dual Polarization−Quadrature Phase Shift Keying)や16QAM、64QAM等の多値変調フォーマットに対しても適用でき、同様の信号対雑音比の改善が得られる。
【0039】
(第3の実施形態)
図17に本実施形態の雑音信号除去装置を備えた光受信機の構成を示す。本光受信機は、第2の実施形態の光受信機において、2分岐された信号のうち一方の信号が符号関数部9で処理される前に、二値化処理を行う二値化処理部14を設けた構成である。
【0040】
光電変換部2に入力した光信号は、増幅器3で増幅され(ここでは、前置増幅器、自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)増幅器、電力増幅器などをまとめて一つのブロックで表現している)、A/D変換器4でディジタル信号に変換され、スロット値サンプリング部13により各時間スロットの同時刻の値が検出された後、2分岐される。
【0041】
2分岐された信号のうち一方の信号は、スロット値サンプリング部13による検出値は絶対値演算部6で全て正値に変換される。A/D変換後に分岐された信号のうちもう一方は、二値化処理部14で設定閾値より小さい値に対してゼロ、それ以上の値に対して正数(例えば1)に変換され符号関数部9へ入力される。符号関数部9は、信号の正負を判定して、入力が正値の場合は1を、負値の場合は−1を出力するとともに、入力が0の場合は0(ゼロ)を出力する。
【0042】
2分岐された後に処理された両信号は、遅延部8、10でそれぞれタイミングが調整され、その値が掛け合わされた後、低域透過フィルタ部7を透過して高周波成分を除去され、識別判定部1でビットの0、1が判定される。
【0043】
ここで、二値化処理部について説明する。本実施形態の光受信機は、OOK(On/Off Keying)変調方式のRZ変調やNRZ変調信号に適用される。OOK変調方式のRZ変調やNRZ変調信号では、0のビットに対応する時間スロットでは、理想的には光が無い状態となるため、符号関数部9への入力がゼロになり、同部からゼロが出力される。その結果、識別判定部11に入力する信号(絶対値演算部6→低域透過フィルタ7→遅延部8を通過した信号と符号関数部9→遅延部10を通過した信号との掛け算の信号)はゼロになる。しかしながら、実際の光受信機ではフォトダイオードの熱雑音等により0ビットのときでも符号関数9への入力はゼロより大きくなる。このため、符号関数部9の前段に二値化処理部14を配置し、設定閾値より小さな値の場合は符号関数部9への入力がゼロとなるようにしている。
【0044】
本実施形態の光受信機で波長1550nm、43Gbaud RZ−OOK変調された 光信号を光増幅器1で増幅後に受信したときの受信特性を第1の実施形態と同様に図8に示す測定系で測定した結果、(光受信機入力信号光パワー(平均パワー)は0dBmで光SNRは15dB(波長分解能0.1nm)として測定)本実施形態の光受信機では4.5dBの改善が確認できた。なお、本実施形態の光受信機では、光復調素子は用いておらず、光電変換素子は単一のフォトダイオード及び増幅器から構成されている。
【0045】
(第4の実施形態)
本実施形態では、上記第1の実施形態から第3の実施形態の光受信機を用いた光伝送システムの実施例について説明する。
【0046】
光伝送システムは図18に示した構成を用いた。光伝送システムは、信号送信端と信号受信端とが伝送ファイバ54と光中継装置55とで接続されて構成されている。信号送信端には、光送信器51とアレイ導波路回折格子(合波)52と後置光増幅器53とが設けられており、信号受信端には、前置光増幅器56とアレイ導波路回折格子(分波)57とが設けられている。光受信機40は、信号受信端の後置光増幅器53からの出力を入力される。
【0047】
光伝送システムは、信号送信端において、複数の光送信器51はそれぞれL帯1571.65nm(190.75THz)−1604.88nm(196.80THz)に配置された50GHz間隔80波のうち一波長の信号光を発生すると共に、内部に備えた光変調器により、21.5GbaudRZ−DQPSKで信号光を変調する。各波長の信号光はアレイ導波路回折格子52で合波された後、後置光増幅器53で増幅され、伝送ファイバ54に−2dBm/chのパワーで入力される。伝送ファイバは標準シングルモードファイバ80km長で、各光中継装置55で分布ラマン増幅用の励起光が伝送ファイバに入力されると共に、光増幅器で、減衰した信号光は増幅される。光中継装置による中継は10箇所で行った。信号受信端では分布ラマン増幅用の励起光が送信されると共に、信号光を増幅する前置光増幅装置56で信号光が増幅された後、各信号波長での3−dB透過帯域が約30GHzのアレイ導波路回折格子57で各信号光に分波された後、本願発明の光受信機で検出・識別判定後、誤り訂正され信号のビットが判定される。
【0048】
図19は、図18の光伝送システムにおいて第1の実施形態の光受信機40を用いた場合のQファクターを示している。比較のために、第1の実施形態の光受信機40に代えて従来の光受信機を適用したときのQファクターを図20に示している。
【0049】
本願発明の光受信機を使用した場合は、いずれの信号光もQファクターはFEC(Forward Error Correction)の適用限界(ITU−T G.975.1Enhanced FECを用いた場合)のQファクター9.1dBを上回っており、また、エラーレートはすべてBER10-12を下回っている(BERは10-12以下であるが、図19ではBER=10-12のところに点を打っている)。一方、従来の光受信機ではASEに起因する信号雑音の影響で、いずれの信号光もQファクターはFEC(Forward Error Correction)の適用限界のQファクター9.1dB大きくを下回ってしまい、エラーレートは最悪の波長でBER1.3×10-9と非常に大きな値となった。
【0050】
このように、従来の光受信機では光増幅器で発生するASEに起因する信号雑音により伝送品質が劣化してしまう伝送容量・伝送距離であっても、本願発明の光受信機をしようすることで、信号のSNRを保って伝送品質の劣化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 光復調素子
2 光電変換部
3 増幅器
4 A/D変換器
5 ピーク値サンプリング部
6 絶対値演算部
7 低域透過フィルタ部
8、10 遅延部
9 符号関数部
11 識別判定部
12 補間演算部
41 光増幅器
13 スロット値サンプリング部
14 二値化処理部
51 光送信器
52 アレイ導波路回折格子(合波)
53 後置光増幅器
54 伝送ファイバ
55 光中継装置
56 前置光増幅器
57 アレイ導波路回折格子(分波)
101 光電変換部
102 増幅部
103 低域透過フィルタ部
104 識別判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した光信号をディジタル電気信号に変換する処理部を備えた光受信機に搭載される雑音信号除去装置であって、該雑音信号除去装置は、
前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内の一つの値を検出するサンプリング部と、
前記検出された値を2分岐して出力する分岐部と、
前記分岐された一方の出力に対し絶対値の演算を行うことにより前記ディジタル電気信号の周波数をゼロに変換する絶対値演算部と、
前記演算された絶対値の高周波成分を除去することにより振幅雑音を除去する低域透過フィルタ部と、
前記分岐された他方の出力に対し符号の正負の判定をして正負の識別値を出力する符号関数部と、
前記低域透過フィルタの出力と前記符号関数部の出力とを乗算することにより、雑音を除去したサンプリング値を算出する乗算部と、
前記乗算部の出力に対してビットの0、1を判定する識別判定部とを備えることを特徴とする雑音信号除去装置。
【請求項2】
前記サンプリング部は、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内のピーク値を検出することを特徴とする請求項1に記載の雑音信号除去装置。
【請求項3】
前記サンプリング部は、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内の所定の時刻で値を検出することを特徴とする請求項1に記載の雑音信号除去装置。
【請求項4】
前記乗算器からの出力に対して時間的補間演算を行う補間演算部を備え、前記識別判定部は該補間演算部の出力に対してビットの0、1を判定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の雑音信号除去装置。
【請求項5】
受信した光信号をディジタル電気信号に変換する処理部を備えた光受信機のための雑音信号除去方法であって、該雑音信号除去方法は、
前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内の一つの値を検出するサンプリングステップと、
前記検出された値を2分岐して出力する分岐ステップと、
前記分岐された一方の出力に対し絶対値の演算を行うことにより前記ディジタル電気信号の周波数をゼロに変換する絶対値演算ステップと、
前記演算された絶対値の高周波成分を除去することにより振幅雑音を除去する低域透過フィルタリングステップと、
前記分岐された他方の出力に対し符号の正負の判定をして正負の識別値を出力する符号関数化ステップと、
前記低域透過フィルタでの出力と前記符号関数化ステップでの出力とを乗算することにより、雑音を除去したサンプリング値を算出する乗算ステップと、
前記乗算ステップでの出力に対してビットの0、1を判定する識別判定ステップとを含むことを特徴とする雑音信号除去方法。
【請求項6】
前記サンプリングステップは、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内のピーク値を検出することを特徴とする請求項5に記載の雑音信号除去方法。
【請求項7】
前記サンプリングステップは、前記ディジタル電気信号の単位時間スロット内のある決まった時刻で値を検出することを特徴とする請求項5に記載の雑音信号除去方法。
【請求項8】
前記乗算ステップの出力に対してさらに時間的補間演算を行う補間演算ステップをさらに含み、
前記識別判定ステップは、前記補間演算ステップでの出力に対してビットの0、1を判定することを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の雑音信号除去方法。
【請求項9】
受信した光信号をディジタル電気信号に変換する光電変換部と、請求項1から3のいずれかに記載の雑音信号除去装置とを備えたこと特徴とする光受信機。
【請求項10】
前記光電変換部は、光信号の1ビットの遅延干渉手段とバランス型光検出手段とを有することを特徴とする請求項9に記載の光受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−44424(P2012−44424A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183430(P2010−183430)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】