説明

離型性シート部材

【課題】タックの生じている面上の歩行を可能にし、離型効果の低下が少なく、機械的な強度の高い、耐久性に優れ、かつ離型剤の移行の無い離型性シート部材を提供すること。
【解決手段】
基材の片面に、下記組成物(A)からなる第一層,組成物(B)からなる第二層が順次積層されていることを特徴とする、離型性シート部材。
(A)アクリル酸エステル樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
(B)アクリル酸エステル樹脂及びシリコーン樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性シート部材,更に詳しくは、離型性,耐久性に優れる離型性シート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋根,ベランダ,バルコニーを始め、液状の二液からなるポリウレタン組成物を所定の配合比に従って、混合撹拌し、その下地表面に塗工し、硬化させて防水塗膜を形成する方法,ウレタン樹脂系塗膜防水材(以下、ウレタン防水材と略す)が良く知られている。
ウレタン防水材は、下地のピンホールに起因する塗膜層の貫通穴の発生防止、一定以上の塗膜厚さを確保する等の目的から、塗工を二回以上に分けて重ねて行き、最後に防水塗膜の保護とカラーリングを目的に、仕上塗料を塗工して完成する。このため、二回目以降のウレタン防水材の塗工及び仕上塗料の塗工は先に形成されたウレタン防水材の塗膜上に載り、その上を歩行して塗工作業を行っている。
【0003】
ところで、このウレタン防水材には、硬化,形成された塗膜の表面に、べたつき、タッキネス(以下、タックと略す)が生じる。ウレタン防水材は塗膜形成に最低16時間程度要し、塗工したその日は塗工面に載って歩行することが出来ない為、通常翌日以降に次の塗工を行わなければならない。
【0004】
また、冬季等の低温度や、湿度が高い環境下で塗工が行われた場合、塗膜が硬化、形成され、歩行可能な硬さが出ているにも拘わらず、塗膜表面に生じるタックの度合いが強く、べたつきの為に足が取られ歩行することが出来ない。このため、タックが減少して歩行が可能な状態になるまで数日といった単位で塗工工程の間隔を開けなければならず、防水工事の完成に至るまでの工事期間が非常に長くなるといった問題があった。
【0005】
このため、作業者は、タックの生じているウレタン防水材の塗膜面上を歩行するために、荷作り用テープ等の、離型処理が為されているテープを靴底に貼るなどして、その離型効果により、歩行を可能にして塗工作業を行っている。
【0006】
しかしながら、荷作り用テープは一般的に、単に基材に粘着剤を積層した構成であるため、歩行に供する部材としては耐久性に乏しい。また、擦り減り、破れにより粘着剤が露出して塗膜面に接触し、歩行が困難になると共に塗膜面に接着し、その除去、清掃に手間を要する。更に、離型剤の種類によっては、塗膜面に離型剤が移行し、2回目に塗工したウレタン防水材の接着を阻害するという問題が有る。
【0007】
一方、離型塗膜として熱可塑性ポリウレタン樹脂と室温硬化型シリコーンゴムとの混合物を被覆した防汚性靴(特許文献1)や、靴の裏に貼り付ける汚れ防止のシート(特許文献2)が知られているが、特許文献1は、靴の甲の処理に関するものであり、また特許文献2は靴裏に関するものではあるが、汚れ防止が目的で、これらの文献では、いずれも、靴裏の離型効果や、その持続性および耐久性については記載されておらず、まして離型剤の移行による施工面の不具合の有無についても一切触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−168401号公報
【特許文献2】実用新案登録第3134218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、上述の問題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明のように、特定の基材及び第一層,第二層を有する、少なくとも三層構造のシート部材とすることによって、離型の持続効果と耐久性が優れることを見出し、本発明に到達したものであって、その目的とするところは、タックの生じている面上の歩行を可能にし、離型効果の低下が少なく、機械的な強度の高い耐久性に優れ、かつ、離型剤の移行の無いシート部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的は、下記第一の発明乃至第九の発明によって達成される。
【0011】
<第一の発明>
本件第一の発明は、基材の片面に、下記組成物(A)からなる第一層,組成物(B)からなる第二層が順次積層されていることを特徴とする、離型性シート部材である。
(A)アクリル酸エステル樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
(B)アクリル酸エステル樹脂及びシリコーン樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
【0012】
<第二の発明>
本件第二の発明は、シート部材表面の静止摩擦係数が、0.1〜1.2であることを特徴とする第一の発明に記載の離型性シート部材である。
【0013】
<第三の発明>
本件第三の発明は、基材が凹凸を有するものであることを特徴とする第一の発明又は第二の発明に記載の離型性シート部材である。
【0014】
<第四の発明>
本件第四の発明は、凹凸を有する基材が、布帛であることを特徴とする第三の発明に記載の離型性シート部材である。
【0015】
<第五の発明>
本件第五の発明は、第一層の少なくとも一部が、第二層の間から、シート部材表面に露出していることを特徴とする第一の発明乃至第四の発明のいずれか1項に記載の離型性シート部材である。
【0016】
<第六の発明>
本件第六の発明は、シート部材表面に露出している第一層の比率が、シート部材面積全体を100として30%以下であることを特徴とする第五の発明に記載の離型性シート部材である。
【0017】
<第七の発明>
本件第七の発明は、第二層中のシリコーン樹脂の含有比率が、第二層全体を100として10〜90質量%であることを特徴とする第一の発明乃至第六の発明のいずれか1項に記載の離型性シート部材である。
【0018】
<第八の発明>
本件第八の発明は、第一層及び第二層が積層されている面とは反対側の面に、粘着剤が積層されていることを特徴とする第一の発明乃至第七の発明のいずれか1項に記載の離型性シート部材である。
【0019】
<第九の発明>
本件第九の発明は、ミシン目による切断部位が設けられていることを特徴とする第一の発明乃至第八の発明のいずれか1項に記載の離型性シート部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の離型性シート部材は、硬化し塗膜が形成しているにも拘らずタックの生じているウレタン防水材上を、歩行することを可能にするものであって、機械的な強度の高い耐久性に優れ、かつ、離型剤の移行の無いシート部材を提供することが出来る。
しかも、第二層の厚みが、基材の凹凸に応じて不均一である場合や、第一層の少なくとも一部が、第二層の間から、シート部材表面に露出している場合には、一定の滑り抵抗を保持することにより、タックの生じていない部位や、ウレタン防水材の施工時に材料、施工具の保管や材料の混合撹拌の目的で敷設するブルーシートの上を歩行する際の、安全性をも確保できるという利点を有している。
【0021】
尚、本発明の離型性シート部材は、人間の靴,足袋,靴下等の裏面のみならず、歩行ロボットの足裏のほか、ウレタン施工面に一時的に仮置きする、脚立や椅子,コードリールの足部分,その他の工具や工具入れの他、ブルーシートの裏面等にも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】基材に、第一層及び第二層を施与した、本発明の離型性シート部材の一例を示す図である。
【図2】基材に、第一層及び第二層を施与した、本発明の離型性シート部材の一例を示す図である。
【図3】第一層の少なくとも一部が、第二層の間から、シート部材表面に露出した、本発明の離型性シート部材の一例を示す図である。
【図4】粘着材,離型紙を積層し、更にミシン目からなる切断部位を設け、巻物状とした、本発明の離型性シート部材の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の離型性シート部材は、基材の片面に、下記組成物(A)からなる第一層,組成物(B)からなる第二層が順次積層されていることを特徴とするものである。
(A)アクリル酸エステル樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
(B)アクリル酸エステル樹脂及びシリコーン樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
【0025】
[本発明に用いられる基材]
(基材の種類)
本発明に用いられる基材の種類としては、離型性シート部材に、靴底等に密着し易い適度な柔軟性と、使用に耐える強度を付与できるものであれば良く、特に限定されるものでは無く、例えば、樹脂性シート,紙,布帛等が挙げられるが、第一層との馴染みが良く、剥離の恐れが少ない点では、布帛が好ましい。
【0026】
また、本発明の離型性シート部材の中でも、第一層の少なくとも一部が、第二層の間から、シート部材表面に露出しているタイプのシート部材を作製する際には、その作製の便宜の点から、凹凸を有する基材であることが好ましく、中でも、樹脂シートや紙等のように敢えて凹凸を施さなくとも、もともと自然な凹凸を有しているという点で、布帛が好ましい。
凹凸があることによって、第二層を積層した際に、容易に第一層の一部を露出させることができ、また、第一層が露出しないまでも、第二層の厚みに差ができることによって、離型性シート部材表面の静止摩擦係数が上がり、ブルーシート等の上の歩行安全性が向上するからである。
【0027】
布帛としては、織編布や不織布等が挙げられる。
織布の種類としては、平織,綾織,朱子織等の一般的な織布であれば良く、特に限定されるものでは無いが、糸解れを考慮した場合には、綾織,朱子織が好ましい。
編布の種類としては、丸編,経編(トリコット編),その他の一般的な編布であれば良く、特に限定されるものでは無いが、靴裏等に使用するシート部材の強度を保持するという点では、丸編,トリコット等が好ましく、寸法安定性の点では、トリコット編が好ましい。
不織布の種類としては、湿式不織布,乾式不織布のいずれでも良く、また、原料繊維による種類も、短繊維不織布,長繊維不織布のいずれでも良い。
具体的には、ニードルパンチ,ウォータージェット,メルトブローン,スパンボンド等の一般的な不織布であれば良く、特に限定されるものでは無いが、柔軟性に富み、靴裏等に使用するシート部材の強度にも優れ、更には、製造時の経済性等の点からは、スパンボンドが好ましい。
【0028】
(基材の材質)
本発明に用いられる基材が布帛である場合の材質としては、特に限定されるものでは無く、天然繊維,合成繊維,半合成繊維のいずれであっても良いが、基材の強度や、経済性から、合成繊維が好ましく、特に、ポリエステル繊維が好ましい。
また繊維は、一種のみならず、二種以上を混合して用いることもでき、一本の中に複数の繊維成分を有する複合繊維や、中空繊維を用いることもできる。
【0029】
(基材繊維の太さ)
また、繊維の太さは、特に限定されないが、基材の強度と柔軟性を達成できる太さが好ましい。
【0030】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,あるいはこれらの共重合樹脂,又はブレンド樹脂等が挙げられるが、特に、スパンボンド等の不織布の場合等には、経済性や、強度等の点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0031】
(基材の目付)
基材の目付は、特に限定されるものでは無いが、離型性シート部材の強度を保持するためには、40〜150g/m2であることが好ましく、更に好ましくは、60〜100g/m2である。
【0032】
[本発明に用いられる樹脂組成物(A)]
(樹脂組成物(A)の種類)
本発明の第一層に用いられる樹脂組成物(A)は、アクリル酸エステル樹脂を主成分として含有するものである。
この第一層の存在によって、基材と第二層との間の接着性が向上し、また、第一層の少なくとも一部が、第二層の間からシート部材表面に露出している場合には、離型性シート部材に、適度な静止摩擦係数を付与することができる。
【0033】
(アクリル酸エステル樹脂)
アクリル酸エステル樹脂としては、ポリメチルアクリレート,ポリエチルアクリレート,ポリブチルアクリレート,ポリメチルメタアクリレート,ポリエチルメタアクリレート,ポリブチルメタアクリレート,ポリアクリロニトリル,ポリスチレン,更にこれらの2種以上からなる共重合体等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0034】
(アクリル酸エステル樹脂の含有量)
「主成分として」とは、樹脂組成物に含まれる樹脂各々の中で、最も含有比率が高いことを意味するが、例えば、樹脂組成物全体を100として、およそ40質量%以上であることを意味し、好ましくは、60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0035】
(その他の樹脂)
アクリル酸エステル樹脂以外に含まれる樹脂成分としては、デンプン,ポリウレタン,ポリアミド,ポリエステル,エポキシ樹脂,ポリ(メタ)アクリレート,ポリビニルアルコール,エチレン・酢酸ビニル共重合体,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体,塩ビアクリル共重合体等の一般的に知られている合成樹脂が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
その他の樹脂成分の含有量は、特に限定されるものでは無いが、例えば60質量%以下であることが好ましい。
【0036】
樹脂組成物(A)には、その他、本発明の離型性シート部材の効果を阻害しない範囲で、その他の各種添加剤を含有させることができる。
その他の各種添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤,顔料・染料等の着色剤,架橋剤,防かび剤、消臭剤、難燃剤等が挙げられる。
【0037】
(樹脂組成物(A)のガラス転移温度(Tg))
樹脂組成物(A)に含有される各樹脂のTgは、−40℃〜30℃が好ましく、更に好ましくは−30℃〜10℃,特に好ましくは、−20℃〜0℃である。
Tgが−40℃以上で、十分な凝集力による強度が得られ、また30℃以下で、基材の挙動に追従し得る柔軟性を得やすいからである。
尚、−20℃〜0℃であると、特に風合いが柔らかくなり、シート部材を巻物の形態にする際に、シワがはいり難く、扱い易い。
尚、各樹脂のTgが上記範囲外であっても、樹脂組成物(A)全体として−40℃〜30℃であれば良い。
【0038】
[本発明に用いられる樹脂組成物(B)]
(樹脂組成物(B)の種類)
本発明の第二層に用いられる樹脂組成物(B)は、アクリル酸エステル樹脂及びシリコーン樹脂を主成分として含有するものである。
この第二層によって、離型性シート部材に、良好な離型性を付与することができる。
【0039】
(アクリル酸エステル樹脂)
アクリル酸エステル樹脂としては、ポリメチルアクリレート,ポリエチルアクリレート,ポリブチルアクリレート,ポリメチルメタアクリレート,ポリエチルメタアクリレート,ポリブチルメタアクリレート,ポリアクリロニトリル,ポリスチレン,更にこれらの2種以上からなる共重合体が挙げられ、これらを単独で又は2種以上混合して用いることができる。
第二層に用いる樹脂組成物(B)中のアクリル酸エステル樹脂は、第一層に用いる樹脂組成物(A)に含まれるものと同じものである必要は無いが、同じものである場合、第一層と第二層の馴染みがより良くなり、第一層と第二層がより強固に結合するため、好ましい。
【0040】
「主成分として」とは、樹脂組成物に含まれる樹脂各々の中で、アクリル酸エステル樹脂とシリコーン樹脂の合計含有量の比率が最も高いことを意味するが、樹脂組成物全体を100として、合計含有量比率が、例えば、およそ40質量%以上であることを意味し、好ましくは、60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0041】
樹脂組成物(B)中のアクリル酸エステル樹脂単独の含有量としては、後述するシリコーン樹脂の含有量との兼ね合いから、10〜90質量%程度が好ましく、より好ましくは30〜70質量%, 特に好ましくは40〜60質量%である。
【0042】
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂としては、ジメチルポリシロキサン,ジフェニルポリシロキサン,メチルフェニルポリシロキサン等で側鎖及び/又は末端に有機基を導入した変性シリコーンが使用出来る。
【0043】
樹脂組成物(B)中のシリコーン樹脂単独の含有量としては、樹脂組成物(B)全体を100として、10〜90質量%程度が好ましく、より好ましくは30〜70質量%, 特に好ましくは40〜60質量%である。
10質量%以上で、離型性が特に優れ、歩行が容易となるからであり、また、90質量%以下で、例えばタックの無いウレタン施工面や、施工面に敷設したブルーシート上を歩行する際に滑りにくく、転倒の恐れがより少ないからである。
【0044】
尚、樹脂組成物(B)中の、アクリル酸エステル樹脂とシリコーン樹脂の比率は、「離型性」と「滑り防止効果」の両立の観点から、アクリル酸エステル樹脂:シリコーン樹脂=60:40〜54:46が好ましい。
60:40よりもシリコーン樹脂の比率が高い方が、離型性付与の点では好ましく、54:46よりもシリコーン樹脂の比率が低い方が、静止摩擦係数が高くなり、離型性シート部材に、適度な滑り防止効果を付与できるからである。
【0045】
(その他の樹脂)
樹脂組成物(B)には、アクリル酸エステル樹脂,シリコーン樹脂のほか、その他の樹脂成分を適宜含有させることができる。
その他の樹脂成分としては、デンプン,ポリウレタン,ポリアミド,ポリエステル,エポキシ樹脂,ポリ(メタ)アクリレート,ポリビニルアルコール,エチレン・酢酸ビニル共重合体,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体,塩ビアクリル共重合体等の一般的に知られている合成樹脂が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
その他の樹脂成分の含有量は、特に限定されるものでは無いが、本発明の目的とする離型効果等を十分に発揮するためには、30質量%以下であることが好ましい。
【0046】
樹脂組成物(B)には、その他、本発明の離型性シート部材の効果を阻害しない範囲で、その他の各種添加剤を含有させることができる。
その他の各種添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤,顔料・染料等の着色剤,架橋剤,防かび剤、消臭剤、難燃剤、抗菌剤、柔軟剤等が挙げられる。
【0047】
(樹脂組成物(B)のガラス転移温度(Tg))
樹脂組成物(B)のTgは、−40℃〜50℃が好ましく、特に−30℃〜30℃が好ましい。
Tgが−40℃以上で、粘着性が生じ難く、離型性の保持性により優れるためであり、また50℃以下で、適度な柔軟性と、第一層を形成する樹脂組成物(A)との接着性に、より優れるためである。
尚、各樹脂のTgが上記範囲外であっても、樹脂組成物(B)全体として−40℃〜50℃であれば良い。
【0048】
[第一層及び第二層の積層方法]
基材に、第一層及び第二層を積層する方法としては、基材上に樹脂組成物(A),(B)を、順次塗工する方法等が挙げられる。
第一層の塗工方法は、グラビアによる転写や、ロールコーターやナイフコーター等の一般的なコータ−による塗布等の、公知の塗布方法で塗布した後、常温または加熱により乾燥する方法等が挙げられる。
第二層の塗工方法も、第一層と同様、塗布を行った後、常温または加熱により乾燥する方法等が挙げられる。
【0049】
尚、基材が、例えば布帛等の凹凸がある基材の場合、この第二層の塗工の際に、コーターを塗工面に近づける距離,基材のテンション(張力)等を調整することによって、第二層となる樹脂組成物(B)の塗布量が、基材の凹凸に対応する形で増減させることができるため、第二層の厚みを凹凸に応じて変化させたり(図1参照)、シート部材表面の一部に、樹脂組成物(A)からなる第一層を露出させることができる(図3参照)。
【0050】
この、第二層の厚みの薄い部分,又は露出した第一層の存在によって、例えばタックの無い笠木金属面や、施工面に敷設したブルーシート上を歩行する際に、滑りにくく、転倒の恐れがより少なくなり、「離型性」と「滑り防止効果」という、一見相反する性質を具備し得る離型性シート部材とすることが可能となる。
【0051】
この場合の、シート部材表面に露出している第一層の比率は、シート部材のうち、第一層及び第二層を積層した表面の面積全体を100として30%以下であることが好ましい。
30%以下で、離型性を好適に保ちつつ、しかも適度な静止摩擦係数を維持し、滑りにくく、転倒の恐れがより少ない離型性シート部材とすることが可能となるからである。
【0052】
このシート部材表面に露出している第一層の比率は、目視によっても判定できるが、例えば写真撮影し、二値化等の処理によって、より正確に測定することも可能である。
【0053】
[第一層及び第二層の積層量]
第一層となる樹脂組成物(A)の塗布量は、ドライ付量で10〜100g/m2が好ましく、特に20〜70g/m2が好ましい。
第二層となる樹脂組成物(B)の塗布量は、ドライ付量で10〜100g/m2が好ましく、特に20〜70g/m2が好ましい。
【0054】
[離型性シート部材表面の静止摩擦係数]
本発明の離型性シート部材表面の静止摩擦係数は、0.1〜1.2であることが好ましい。
0.1以上で、滑りにくく、転倒の恐れがより少ない離型性シート部材とすることが可能となり、1.2以下で、本来の離型性を損なうことが無いからである。
この静止摩擦係数は、第二層中のシリコーン樹脂量を調節するほか、上述のようにして、シート部材表面への第一層の露出面積比を調整すること等によっても達成することができる。
【0055】
(静止摩擦係数試験方法)
静止摩擦係数は、後述の試験例に詳述する方法で測定した。
【0056】
[本発明に用いられる粘着剤]
(粘着剤の種類)
本発明に用いられる粘着剤としては、一般的な粘着剤であれば用いることができ、特に限定されるものでは無いが、例えば、アクリル系粘着剤,ゴム系粘着剤等が挙げられる。
これらの中で、アクリル系粘着剤が、粘着力に優れ、また、染みだしによる、ウレタン面への悪影響の恐れが殆ど無いという点で、好ましい。
【0057】
(粘着剤の施与量)
粘着剤の施与量には特に制限は無いが、離型性シート部材が靴等の施与対象から剥離しない十分な粘着性を有し、かつ靴等との間から染みだして、ウレタン防水材等の施工面に悪影響を及ぼさないように、また、使用後靴底から容易に剥がれて、靴底に粘着剤が凝集破壊して残留しないように固形分付量として、5〜100g/m2が好ましく、更に好ましくは、20〜40g/m2である。
【0058】
(粘着剤の施与方法)
粘着剤は、例えば、基材の裏面(第一層,第二層を積層した面とは反対の面)に、直接施与しても良いが、例えばセパレーターに、目的とする固形分付量になるように、粘着剤を塗布、乾燥した後に、基材シートの裏面に貼り合せる方法等もある。
【0059】
[離型紙]
本発明の離型性シート部材には、粘着剤層に、更に、離型紙を積層することができる。
この離型紙によって、離型性シート部材の取り扱いが容易となり、また離型性シート部材を巻物状で、保管・運搬・販売等することが可能となる。
【0060】
[離型性シート部材の大きさ]
本発明の離型性シート部材の大きさは、一概には規定できないが、靴や歩行ロボットの足裏等の、シート部材の適用面をカバーできる面積を有することが好ましく、例えば、縦10〜50cm,横5〜40cm等が挙げられる。しかし、一枚だけで使用する必要は無く、適宜複数枚貼付して用いることもできるので、適用面より小さい面積のものであっても良い。
【0061】
[離型性シート部材の切断部位]
更に、本発明の離型性シート部材には、1つ又は複数の、ミシン目による切断部位を予め施すことが好ましい。
この切断部位の存在によって、使用に際して、適用対象の大きさに応じて適宜、最適な大きさに分割して用いることができるからである。
また、中腰・低腰でつま先立ち姿勢での作業時に、この切断部位で切れてくれて突っ張らず、靴底が拘束されずに柔軟性が確保できるため、良好な作業性が維持され、また、作業者がバランスを崩す等の危険が少なくなり、より安全だからである。
ミシン目同士の間隔としては、5mm〜50mm間隔が好ましく、より好ましくは、15〜35mm程度である。
間隔が狭い程、あらゆる大きさに対応可能となりまた経済的である、間隔が広い程、シート部材強度に優れる。
【0062】
[離型性シート部材の形状]
本発明の離型性シート部材は、靴底等の形状にすることもできるが、あらゆるサイズ・形状の靴底のほか、歩行ロボットの足裏,ウレタン施工面に一時的に仮置きする、脚立や椅子,コードリールの足部分,その他の工具,工具入れ,ブルーシート等の裏面形状に、自在に対応させるためにも、長いシート状であることが好ましく、これを例えば巻物のようにして保管・運搬・販売等することができる(図4)。
【0063】
[本発明の離型性シート部材の使用方法]
本発明の離型性シート部材を、靴裏等に装着して使用する方法としては、例えば、靴裏に対応する少なくとも一部を本発明の離型性シート部材で成形した、靴カバー等で、靴底を包むようにして履いて用いることもできるが、後述するように、シート部材裏面に粘着剤等の接着成分を施与する方法が、靴底等との結合性に優れ、より安全性に優れるため好ましい。
使用に際しては、ミシン目がある場合には、適用対象の大きさに合わせて、適宜、切断して用いることができる。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
(基材)
目付70g/m2のポリエステルスパンボンド不織布(東洋紡績株式会社製、3701B)を用意した。
(第二層)
また、第二層用の樹脂組成物(B)として、Tg20 ℃のアクリル酸エステル樹脂 (固形分51%)50重量部(以下、単に「部」と記載する)((B)成分中の最終含有比率:52.8質量%),シリコーン樹脂(固形分45%)50部((B)成分中の最終含有比率:46.6質量%),触媒3部(有効成分10%)の樹脂混合液を用意した。
尚、触媒としては、有機スズ化合物を用いた。この有機スズ化合物には、シリコーン樹脂の硬化を促進する効果がある。
(第一層)
第一層として、樹脂組成物(A)(Tg:0 ℃のアクリル酸エステル樹脂)を用意した。
(離型性シート部材の製造)
上記ポリエステルスパンボンド不織布の片面に、第一層として、上記樹脂組成物(A)を、固形分付量25g/m2になるように塗布、乾燥した。
図3で示すように、その上から樹脂組成物(B)を、固形分付量30g/m2で、第一層の一部が離型性シート部材表面に露出するように塗布、乾燥し、離型塗膜を形成した。
その後、セパレーターに固形分付量30g/m2になるようにアクリル系粘着剤を塗布、乾燥し基材シートの未塗布面に貼り合せ、離型紙を積層し、31mm間隔でミシン目を施し、幅145mmにスリットして粘着シートを得た(図4)。
この離型性シート部材の表面に露出した第一層の面積は、シート部材表面の面積を100として、約10%であった。
【0065】
[実施例2]
(基材)
実施例1と同様のものを用意した。
(第二層)
第二層用の樹脂組成物(B)として、Tg−20℃のアクリル酸エステル樹脂(固形分55%)50部((B)成分中の最終含有比率:54.7質量%),シリコーン樹脂(固形分45%)50部((B)成分中の最終含有比率:44.7質量%),触媒3部(有効成分10%)の樹脂混合液を用意した。
(第一層)
実施例1と同様のものを用意した。
(離型性シート部材の製造)
実施例1と同様に、基材の片面に第一層用樹脂組成物(A)を、固形分付量25g/m2になるように塗布、乾燥した。
図3で示すように、その上から樹脂組成物(B)を固形分付量30g/m2で、第一層の一部が離型性シート部材表面に露出するように塗布、乾燥し、離型塗膜を形成した。
その後、セパレーターに固形分付量30g/m2 になるようにアクリル系粘着剤を塗布、乾燥し基材シートの未塗布面に貼り合せ、離型紙を積層し、31mm間隔でミシン目を施し、幅145mmにスリットして粘着シートを得た(図4)。
この離型性シート部材の表面に露出した第一層の面積は、シート部材表面の面積を100として、約12%であった。
【0066】
[実施例3]
(基材)
実施例1と同様のものを用意した。
(第二層)
第二層用の樹脂組成物(B)として、Tg −20℃のアクリル酸エステル樹脂(固形分55%)80部((B)成分中の最終含有比率:82.6質量%),シリコーン樹脂20部(固形分45%)((B)成分中の最終含有比率:16.9質量%),触媒3部(有効成分10%)の樹脂混合液を用意した。
(第一層)
第一層として、樹脂組成物(A)(Tg:−20 ℃のアクリル酸エステル樹脂)を用意した。
(離型性シート部材の製造)
実施例1と同様に、基材の片面に、第一層樹脂組成物(A)を、固形分付量25g/m2になるように塗布、乾燥した。
図3で示すように、その上から樹脂組成物(B)を固形分付量30g/m2で、第一層の一部が離型性シート部材表面に露出するように塗布、乾燥し、離型塗膜を形成した。
その後、セパレーターに固形分付量45g/m2になるようにアクリル系粘着剤を塗布、乾燥し基材シートの未塗布面に貼り合せ、離型紙を積層し、31mm間隔でミシン目を施し、幅145mmにスリットして粘着シートを得た(図4)。
この離型性シート部材の表面に露出した第一層の面積は、シート部材表面の面積を100として、約10%であった。
【0067】
(比較例1)
比較例として、実施例1における混合液(B)を、アクリル酸エステル樹脂100部、シリコーン樹脂0部、触媒0部に変更して作成したシート部材を比較例1とした。
【0068】
(比較例2)
市販のガムテープ(リンレイテープ株式会社製 包装用布粘着テープ品番390)を比較例2とした。
【0069】
(比較例3)
市販のシリコーン系シーリング材を靴裏に塗りこんで硬化させた離型靴を比較例3とした。
【0070】
(比較例4)
シート部材他を張付けない靴だけの試料を比較例4とした。
【0071】
【表1】

【0072】
上記の各実施例及び比較例について、下記の試験を行い、結果を表2に記載した。
【0073】
本発明の離型性シート部材の、「離型性」,「滑り防止効果」,「ウレタン防水材重ね塗り性」,「耐久性」を調べるために、下記の試験を行った。
試験例1)離型性の確認:ウレタン防水材上歩行性試験
試験例2)滑り防止効果の確認:ブルーシート上静止摩擦係数,及びブルーシート上歩行性試験
試験例3)ウレタン防水材重ね塗り性の確認:ウレタン防水材重ね塗り時のはじきの有無確認試験
試験例4)耐久性の確認:試験後の表面状態確認試験
【0074】
[試験例1:離型性の確認]
(ウレタン防水材上歩行性試験)
実施例1〜3および比較例1〜4の各離型性シート部材を、靴底の大きさに合わせてミシン目で切断し、粘着面部を靴裏に貼り付け、余った部分は靴の側面に貼り上げて試料とし、ウレタン防水材上の歩行性の評価をおこなった。
評価は岩尾株式会社製ウレタン塗膜防水材 商品名ベルウレックスUCを厚み2mmで下地に塗工し、10℃,R.H.50%で16時間養生後、体重70kgで歩行を行って、歩行性を評価した。
評価結果は、下記の基準に従って判定した。
ウレタン防水材上歩行性評価
◎:歩行良好、○:歩行可能 :△:歩行し難い:×:歩行不可
【0075】
[試験例2:滑り防止効果の確認]
(ブルーシート上静止摩擦係数)
試験例1と同様の試料を用い、コーナン商事社製ポリエチレン製ブルーシート面上の滑り難さについて静止摩擦係数の測定を行った。
静止摩擦係数の測定は、ステンレス板上にブルーシートを固定し、荷重1kgの重りに粘着面部を張付け、接触面積60cm2、引張速度10mm/min、荷重1kgで行った。
【0076】
(ブルーシート上歩行性試験)
更に、同ブルーシート上の歩行を体重70kgで行い、滑りやすさについての定性評価を行った。
評価結果は、下記の基準に従って判定し、下記表2に記載した。
ブルーシート上歩行性評価
○:やや滑り難い :△:滑る:×:非常に滑る
【0077】
[試験例3:ウレタン防水材重ね塗り性の確認]
試験例1と同様の試料を用い、試験例1,2の評価後の塗膜面上にウレタン防水材を重ね塗りし、塗膜形成後の状態を目視により、ウレタン防水材のはじきの有無とその表面状態を観察した。ウレタン防水材は試験例1と同様に岩尾株式会社製ウレタン塗膜防水材:商品名ベルウレックスUCを2mmとなるよう塗布した。
結果を表2に示す。
【0078】
[試験例4:耐久性の確認]
試験例1と同様の試料を用い、耐久試験としてJIS K7204 プラスチック摩耗輪による摩耗試験方法に準拠し、磨耗試験をおこなった。磨耗輪はCS−10を使用し、荷重1kgで1000回転させ、「試験後の表面状態」を確認した。
結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2の結果から分かる通り、実施例1〜3は、ウレタン防水上の歩行が良好であり、またブルーシート上の静止摩擦係数も一定の数値を確保し、ブルーシート上における滑り易さも抑えており、比較例1,2,4に較べて歩行性と滑り難さのバランスが取れていることがわかる。
中でも実施例2のバランスが最も優れていた。
比較例2,3は離型効果を有する成分が歩行によってウレタン塗膜面に転写され、ウレタンを重ね塗りした際に、表面で濡れ性の低下が生じてハジキを生じた。
更に、耐久性試験においては、比較例1,3では、試験後のシート部材表面の、樹脂塗膜が削られ、粉化が見られ、比較例2では、破れが発生したが、実施例1〜3では、異常が見られなかった。
上記の結果、実施例1〜3の離型性シート部材は、比較例に比べて優れており、実用上も問題がないことがわかる。
【0081】
(実施例4)
尚、基材,第一層,第二層の組成は実施例2と同じであるが、第一層が表面に露出していない離型性シート部材の場合(図1参照)、離型性は十分あり、ウレタン重ね塗りによるはじき等も無く、耐久性も十分であった。
また、滑り防止効果については、実施例1〜3ほどでは無いが、基材の凹凸に応じた第二層の厚みの差によって、表面にある程度の摩擦が生じ、ブルーシート上の歩行に特に危険は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、離型性シート部材,更に詳しくは、離型性,耐久性に優れる離型性シート部材に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面に、下記組成物(A)からなる第一層,組成物(B)からなる第二層が順次積層されていることを特徴とする、離型性シート部材。
(A)アクリル酸エステル樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
(B)アクリル酸エステル樹脂及びシリコーン樹脂を主成分として含有する樹脂組成物。
【請求項2】
シート部材表面の静止摩擦係数が、0.1〜1.2であることを特徴とする請求項1に記載の離型性シート部材。
【請求項3】
基材が凹凸を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の離型性シート部材。
【請求項4】
凹凸を有する基材が、布帛であることを特徴とする請求項3に記載の離型性シート部材。
【請求項5】
第一層の少なくとも一部が、第二層の間から、シート部材表面に露出していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の離型性シート部材。
【請求項6】
シート部材表面に露出している第一層の比率が、シート部材面積全体を100として30%以下であることを特徴とする請求項5に記載の離型性シート部材。
【請求項7】
第二層中のシリコーン樹脂の含有比率が、第二層全体を100として10〜90質量%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の離型性シート部材。
【請求項8】
第一層及び第二層が積層されている面とは反対側の面に、粘着剤が積層されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の離型性シート部材。
【請求項9】
ミシン目による切断部位が設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の離型性シート部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−245746(P2012−245746A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121112(P2011−121112)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(597176245)岩尾株式会社 (3)
【出願人】(000222255)東洋クロス株式会社 (24)
【出願人】(598171508)株式会社秀カンパニー (15)
【Fターム(参考)】