説明

難分解性有機物含有試料のTOC高速分析方法

【課題】 光触媒方式TOC計において、難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析を高速で短時間で分析することができるTOC分析方法を提供する。
【解決手段】 難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析において、リアクター中の光触媒反応液に試料を混合する際試料に酸を導入し試料のTOCを高速で短時間で分析する。特に、酸が過塩素酸であって、リアクターに照射する光の照射方法を高効率化し、従来の光触媒方式TOC計による分析時間を1/5から1/10に短縮することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒方式TOC分析においてリアクター中の光触媒反応液に試料を混合する際試料に酸を導入し、難分解性有機化合物を含有する試料を短時間で分析する高速分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業の発達にともない、非常に多くの化学物質が生まれ、さまざまな環境汚染を引き起こし、有害化学物質による環境汚染は大きな社会問題になっている。すなわちダイオキシン汚染問題、流行語にもなった「環境ホルモン」、「シックハウス」などである。持続可能社会の構築に課せられた問題解決のため、環境汚染が懸念される物質の環境リスク(化学物質が環境汚染を通じて人の健康や生態系に与える影響を生じさせる恐れ)評価が現在進められている。同時に、環境汚染が懸念される物質に対しては様々な法規制が行われている。このような状況の中で、とりわけ直接生物への影響が懸念される水圏の有機物質による汚染は深刻で、世界保健機関(WHO)においても、飲料水水質ガイドラインをおよそ10年ぶりに全面的に改定すべく検討が進められている。
【0003】
平成14年7月に厚生労働省は水質基準を見直し、水道における有機物指標を、従来の信頼性に問題がある過マンガン酸カリウム消費量からTOCへ変更することを決めた(「水質基準に関する省令」(成15年5月30日公布、平成16年4月1日施行))。TOCは環境汚染評価基準として信頼性が高いことが認知されたことになる。環境水における有機物の環境基準の試験方法として、河川・湖沼にはBOD、海域にはCODが現在使用されているが、これら測定における問題点も以前から指摘されており、今後、TOCに代わることも予想されている。
【0004】
このように、環境基準におけるTOCは、水中の有機物指標を与える重要な基準であり、その測定装置には燃焼酸化、紫外線酸化、光触媒酸化の三種類の酸化方式を利用するTOC計がある。現在、燃焼酸化方式のTOC計が主流である。光触媒を用いる新しいコンセプトのTOC計、すなわち光触媒酸化方式のTOC計(特許第2706290号公報参照)は、他の方式に比べ、測定にともなう有害な廃液の発生が少なく、極めて環境低負荷型の方法として期待されている。
【0005】
しかしながら、1回の分析時間が燃焼法の2倍程度と長時間を要し、特に難分解性有機化合では、15倍から20倍程度と長く、連続して多数の試料を分析する場合には実用的ではないなど問題点が明らかになった。
【特許文献1】特許第2706290号公報
【特許文献2】特開2000−356631号公報
【特許文献3】特開2004−205297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の光触媒方式TOC計における課題に鑑み、難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析を高速で短時間で分析することができるTOC分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、光触媒方式TOC計において、難分解性有機化合物を酸化的に分解するリアクター中の光触媒反応液を効率よく機能させる方法を見出し、難分解性有機化合物を含有する試料のTOC分析を高速で短時間で分析することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析において、リアクター中の光触媒反応液に試料を混合する際試料に酸を導入し試料のTOCを高速で短時間で分析する方法であって、特に、酸が過塩素酸であって、リアクターに照射する光の照射方法が内部及び外部照射を併用することにより、従来の光触媒方式TOC計による分析時間を1/5から1/10に短縮されたTOC分析方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
このようにして本発明によれば、光触媒方式TOC計において、難分解性有機化合物を含有する試料のTOC分析を高速で短時間で分析することができる。また、種類の異なる有機化合物に対する選択性や、高塩濃度、高酸性下でも機能する可能性のあるナノシート化という形態制御した光触媒の使用を可能にした点、リアクタ内を高酸濃度にすることでアルカリ性試料の分析の可能性が明らかになり、これらを統合的に機能させるシステム設計を行うことによりTOC計の軽量・コンパクト化、すなわちポータブルタイプの、燃焼方式をしのぐ性能を有する次世代TOC計の実現が期待できる。難分解性有機物の分析時間の短縮は、自動サンプリングシステムによる連続分析においては環境評価への迅速な対応、コスト低減にとって重要であり、高塩濃度、高酸性下での分析、アルカリ性試料の分析は、社会的要請であり、工場廃水や、海水などの環境水のモニタリング分析など、従来のTOC計では不可能であった連続分析を可能にする新技術であり、将来CODのTOC計による評価に道を開くものであることが期待できるという有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
本発明の方法は、前述した特許第2706290号公報に開示されている光触媒方式TOC計のシステム及び分解方法では、難分解性有機化合物を含有する試料のTOC分析を高速でしかも短時間で分析することができないという致命的な欠点を解決するために、難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析において、リアクター中の光触媒反応液に試料を混合する際、試料に酸を導入し試料のTOCを高速で短時間で分析するTOC分析方法である。
【0011】
従来のTOC計では、図1に示すシステムにおいて、デグサ・アクチエン社製の酸化チタン(P−25)微粉末3gを純水1Lに懸濁させ、さらに0.1M過塩素酸を20mL添加した反応液を調整し、これを内部照射用ランプを備えたリアクターに導入した後、リアクター内に空気を循環させながら、オートサンプラ内でポート1〜4のいずれかからサンプリングした試料水溶液と0.1M過塩素酸水溶液を混合し、その後該混合液をリアクタに導入し、必要によりIC(無機炭素)を測定した後、400nm以下の波長の光を、図2に示すようにリアクタ内部に設置されたランプにより照射し試料水溶液中のTOC(全有機炭素)を測定する。この測定方法において、難分解性有機物の光触媒による酸化的分解は極めて遅い。
【0012】
この問題を劇的に改善する方法は、光触媒を蒸留水に懸濁させた反応液を調整し、これをリアクターに導入した後、リアクター内に空気を循環させながら、オートサンプラ内でポート1〜4のいずれかからサンプリングした試料水溶液と0.1M以上の酸を混合し、その後該混合液をリアクタに導入し、必要によりIC(無機炭素)を測定した後、400nm以下の波長の光を、図3に示すようにリアクタ内部に設置されたランプおよびリアクタ外部に設置されたランプにより照射し試料水溶液中のTOC(全有機炭素)を測定する。これを以下に詳細に述べる。
【0013】
本発明の方法では、反応液に過塩素酸などの酸を予め添加する必要はなく、例えば光触媒微粉末あるいはナノシートの当電点が低pH側にある場合に過塩素酸の添加により光触媒が凝集し、そのため光触媒機能が低下したりあるいは反応液容器からリアクターへの均一な反応液の移送が困難になったりする不都合がなくなり、P−25よりさらに高機能な光触媒を利用することができる点で好都合である。もちろん、当電点が中性付近にあり、反応液のpHを低くする必要がある場合は酸を添加しても良い。
【0014】
本発明の方法では、試料溶液をリアクタに導入する際、試料溶液に酸を添加する。酸は、過塩素酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを用いることができるが、環境低負荷であり、光触媒機能を低下することがない点で過塩素酸が好適である。
添加する酸の濃度は、ICの測定及び有機物の分解により生成した二酸化炭素を完全に気化させるためにpHを3以下にすることが少なくとも必要であるが、難分解性有機化合物を高速で分解し、しかも短時間で分析を可能にするために、例えば最も難分解性である有機物の一つである尿素を実用的な分析時間内に分解するためには0.1M以上の濃度にすることが必須である。
【0015】
本発明の方法で使用する反応液を形成する光触媒としては、公知の光触媒を使用することができるが、水中の有機化合物を高速に分解することができるアナターゼ型結晶構造を有するチタニア微粉末であるP−25や、特開2004−224623号公報に開示されたチタニアナノシートが分解速度が最も大きく好適である。
【0016】
チタニアナノシートは、化学修飾され加水分解速度が調整されたチタンアルコキシドを流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、これを焼成して得られる膜厚が例えば50〜1000nmで厳密に制御されたアナターゼ型結晶構造を有するものであるが、このままでは安定なスラリーを形成しないため、適当な方法によりさらに微細化して水に懸濁させスラリー化する。微細化する方法は超音波による方法やホモジナイザーによる方法など公知の方法でよいが、例えばアルミナなど直径2mm程度の小さなメディアを用いたボールミルで1〜10時間粉砕したナノシートが好適に使用できる。
【0017】
以上の方法により調整された反応液と分解方法を用い、さらに高速で短時間に難分解性有機化合物を分解するために、本発明の方法では、図3に示したようにリアクターに照射する光の照射に内部及び外部照射を併用するこの場合、外部照射用ランプは2本以上用いてもよく、効率的に照射するために平板状のランプでも良い。
【0018】
また、内部及び外部照射を併用する代わりに、図4に示すような、薄い箱型のリアクターを外部照射するだけで内部及び外部照射併用と同等以上の効果を得ることができる。このリアクターは交換が容易であるという利点がある。この場合も、外部照射用ランプは2本以上用いてもよく、効率的に照射するために平板状のランプでも良い。
本発明方法では、光触媒方式TOC計において、難分解性有機化合物を酸化的に分解するリアクター中の光触媒反応液を効率よく機能させることができ、難分解性有機化合物を含有する試料のTOC分析を高速で短時間で分析することができる。
【0019】
すなわち、本発明によれば、難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析において、リアクター中の光触媒反応液に試料を混合する際試料に酸を導入し試料のTOCを高速で短時間で分析でき、特に、酸として過塩素酸を用いて分解を促進し、さらにリアクターに照射する光の照射方法を内部及び外部照射を併用する方法、あるいはこれと同等の箱型のリアクターを効率よく外部照射することにより、従来の光触媒方式TOC計による分析時間を1/5から1/10に短縮したTOC分析方法が提供され、次世代TOC計として期待される。
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
尿素50.05mgを純水1Lに溶解し、10ppmCの尿素水溶液を調整した。図1のシステムで製品化されている平沼産業(株)の全有機炭素測定装置TOC−2000及びリアクターを内部照射及び外部照射併用型に改良したTOC−2000を用いて、従来の測定方法と本発明の方法である、酸を尿素水溶液に所定の濃度で添加してリアクター内で反応液と混合する分析方法で尿素の分解速度と分解時間を測定した。反応液は、酸化チタン(P−25)微粉末3gを純水1Lに懸濁させ、従来法ではさらに0.1M過塩素酸を20mL添加して調整し、本方法では酸を加えないで使用した。反応液量は4mL、試料量は2mLとした。後から加える酸としても濃度を調整した過塩素酸を用いた。表1に従来方法と本方法で測定した尿素の分析時間の比較を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
図5には、比較例と試料4のTOC−2000での分析プロファイルを示す。本方法によりTOC分析時間が1/5程度に短縮されることが分かる。
【実施例2】
【0023】
1モルのテトライソプロポキシチタンを0.6モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1モルの水を加え1時間かけて部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。この粘稠な生成物に、イソプロパノールを添加し、90wt%の前駆体溶液を調整した。ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気とし、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシートを作製した。水の温度は27℃とした。得られたゲルナノシートを80℃で3時間乾燥し、その後酸素雰囲気中で500℃まで100℃/時で加熱し、3時間保持して焼成した。得られたナノシートはアナターゼ型チタニアであり、SEMで観察した結果約80nmの厚みを有していた。
【0024】
さらに、このチタニアナノシート500mgを100mLの純水中に分散し、ヘキサクロロ白金酸六水和物を白金換算で2wt%になるように添加し、さらにイソプロパノールを300mL混合して、1時間光反応装置中で攪拌後、低圧水銀灯の光を水フィルターを通して3時間照射して、白金をチタニアナノシート上に析出させた。反応終了後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、100℃で乾燥して、白金担持チタニアナノシートを得た。この白金担持チタニアナノシートあるいはチタニアナノシートを直径2mmのアルミナボールを用い1時間ボールミルにより粉砕し、実施例と同様の方法で反応液を調整した。ただし過塩素酸は添加していない。
【0025】
また、リアクタの外部からも光照射を行えるように改造したTOC2000を用いて尿素の分解を実施例1と同様の方法で行った。ただし、本発明の方法で添加する過塩素酸水溶液の濃度は1.6Mとし、添加量は500μLとした。
表2に従来方法と本方法で測定した尿素の分析時間の比較を示す。
【0026】
【表2】

【0027】
本方法によりナノシート化したチタニア光触媒及び/または外部照射を併用することにより、TOC分析時間が1/5〜1/10程度に短縮されたことが分かる。
【実施例3】
【0028】
実施例2と同様の方法で、セルの厚みが3mmの図4に示すリアクタを作製し、これを用いて改造したTOC2000で尿素の分解を行った。
表3に従来方法と本方法で測定した尿素の分析時間の比較を示す。
【0029】
【表3】

【0030】
本方法によりTOC分析時間が1/5〜1/10程度に短縮され、交換が容易なリアクターを用いて装置を改良できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】光触媒方式によるTOC計のシステム概略図である。
【図2】従来の光触媒方式によるTOC計に用いられている内部照射方式のリアクターの概念図である。
【図3】光触媒方式によるTOC計に用いる内部及び外部照射併用型リアクターの概念図である。
【図4】光触媒方式によるTOC計に用いる外部照射型箱型リアクターの概念図である。
【図5】比較例と試料4のTOC−2000での分析プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性有機化合物を含有する試料の光触媒方式TOC分析において、リアクター中の光触媒反応液に試料を混合する際試料に酸を導入し試料のTOCを高速で短時間で分析する難分解性有機物含有試料のTOC高速分析方法。
【請求項2】
酸が過塩素酸であることを特徴とする請求項1に記載したTOC分析方法。
【請求項3】
リアクターに導入する反応液が光触媒ナノシートがスラリー化されたことを特徴とする請求項1に記載した難分解性有機物含有試料のTOC高速分析方法。
【請求項4】
リアクターに照射する光の照射方法が内部及び外部照射を併用する請求項1に記載した難分解性有機物含有試料のTOC高速分析方法。
【請求項5】
外部照射のみを効率的に行うことによりリアクターの交換を容易にした請求項1に記載した難分解性有機物含有試料のTOC高速分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−258619(P2006−258619A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76753(P2005−76753)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(301035194)株式会社ひたちなかテクノセンター (11)
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【Fターム(参考)】