説明

難変色軟質ポリウレタンフォーム

ポリオール成分とイソシアネートとを含むポリウレタン原料を発泡させてなる難変色軟質ポリウレタンフォーム。ポリオール成分が、分子量の異なる2種以上のポリオールを含み、最も分子量の大きい高分子量ポリオールと最も分子量の小さい低分子量ポリオールとの分子量の差が500以上である。ポリオール成分として、分子量の差が500以上の高分子量ポリオールと低分子量ポリオールとを混合使用することにより、高価な酸化防止剤や紫外線吸収剤を用いることなく、高価で耐洗剤液性や耐熱耐久性に劣る脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートを用いることなく、耐変色性に優れた難変色軟質ポリウレタンフォームを得ることができるが、酸化防止剤や紫外線吸収剤を用いることで、より一層の耐変色性の向上を図ることができ、より優れた難変色軟質ポリウレタンフォームを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は難変色軟質ポリウレタンフォームに係り、特に、ブラジャーパット、肩パット、ハンガーパット等の衣料関係用パット、紙おむつ、ナプキン等のサニタリー周辺材料、寝具、医療関連用品、その他各種雑貨素材等として有用な難変色軟質ポリウレタンフォームに関する。
【発明の背景】
【0002】
軟質ポリウレタンフォームは良好なクッション性を有し、綿のように長期ないし繰り返し使用時にヘタることがなく、柔らかく良好な感触を有することから、ブラジャーパット材、肩パット材、ハンガーパット材等の衣料関係用パット材、紙おむつ、ナプキン等のサニタリー周辺材料、寝具、医療関連用品、その他各種雑貨素材等として広く使用されている。
【0003】
従来の軟質ポリウレタンフォームは、製造時のポリオール原料中に酸化防止剤としてのBHT(ジブチルクレゾール)が含まれており、このBHTによるフォームの変色(黄変)の問題があった。BHTを含むポリウレタン原料を発泡させた場合、発泡後のフォーム中にもBHTが残存することとなり、このBHTが大気中に含有される窒素酸化物(NO)と反応してウレタンフォーム自体を黄変させる。軟質ポリウレタンフォーム自体がNOにより変色する恐れもあった。
【0004】
軟質ポリウレタンフォームは紫外線の影響によっても黄変する。紫外線による軟質ポリウレタンフォームの変色は、ポリウレタン原料に含まれる化合物中のベンゼン環が紫外線によりキノイド化することが原因であると考えられている。
【0005】
軟質ポリウレタンフォームの黄変及びこれに起因する移染変色(フォームに接する布等がフォームの黄変で染められて変色すること)は、衣料や寝具、医療、その他雑貨のような日用品用途の軟質ポリウレタンフォームとしては重大な欠陥となる。
【0006】
NOは大気中に存在し、これを完全に遮断することは不可能であることから、NOに起因するフォームの黄変及びそれによる移染変色の防止が重要である。
【0007】
従来、このようなフォームの変色を防止するために、特定の酸化防止剤や紫外線吸収剤をポリウレタン原料中に配合することが提案されている(特開平11−323126号公報)。
【0008】
紫外線による変色の原因となるベンゼン環を含む芳香族イソシアネートに代えて、脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートを用いることも提案されている(特開平10−36543号公報)。
【0009】
しかし、特開平11−323126号公報で配合される特定の酸化防止剤又は紫外線吸収剤は非常に高価であり、これらを配合することにより原料コストが高騰する。しかも、これらの酸化防止剤や紫外線吸収剤を多量に配合すると、反応をコントロールすることが困難になる。
【0010】
ベンゼン環を含む芳香族イソシアネートに代えて、脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートを用いた軟質ポリウレタンフォームは、耐変色性には優れる反面、高価であり、しかも、耐熱耐久性に劣り、また、洗剤液による劣化が激しく、衣料や寝具等の用途には不適当である。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、洗剤液耐久性や耐熱耐久性に優れた難変色軟質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。
【0012】
本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームは、ポリオール成分とイソシアネートとを含むポリウレタン原料を発泡させてなるポリウレタンフォームにおいて、該ポリオール成分が、分子量の異なる2種以上のポリオールを含み、最も分子量の大きい高分子量ポリオールと最も分子量の小さい低分子量ポリオールとの分子量の差が500以上であることを特徴とする。
【発明の好ましい形態】
【0013】
以下に本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームの好適な形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームにおいては、ポリウレタン原料のポリオール成分として、分子量の異なる2種以上のポリオールを用いる。ポリオール成分中の最も分子量の大きい高分子量ポリオールと最も分子量の小さい低分子量ポリオールとの分子量の差は500以上である。高分子量ポリオールの分子量と低分子量ポリオールの分子量の差が500未満であると、分子量の異なるポリオールを用いることによる耐変色性の改善効果を得ることができない。この分子量の差は、500以上、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上である。この分子量の差を過度に大きくすることは、高分子量ポリオールの分子量が過大となるか、低分子量ポリオールの分子量が過小となり汎用性がなくなることから、分子量の差は9600以下、より好ましくは7500以下、更に好ましくは7000以下である。
【0015】
ポリオール成分として、分子量の差が500以上の高分子量ポリオールと低分子量ポリオールとを混合使用することにより、高価な酸化防止剤や紫外線吸収剤を用いることなく、また、高価で耐洗剤液性や耐熱耐久性に劣る脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートを用いることなく、耐変色性に優れた難変色軟質ポリウレタンフォームを得ることができる。
【0016】
このように分子量の異なる2種以上のポリオールを用いることにより、耐変色性を得ることができる理由の詳細は明らかではないが、ウレタンの分子構造や配列を変えることで、耐変色性が向上することによるものと推定される。
【0017】
ポリオールとしては、分子量の異なる2種類を用いても良く、分子量の異なる3種類以上の分子量を用いても良い。3種類以上のポリオールを用いる場合、最も分子量の大きいポリオールと最も分子量の小さいポリオールとの分子量差が500以上であれば良い。
【0018】
高分子量ポリオールと低分子量ポリオールとの分子量差は500以上であれば良く、各ポリオールの分子量には特に制限はないが、通常の場合、高分子量ポリオールの分子量は2000〜10000、特に3000〜8000で、低分子量ポリオールの分子量は80〜9500、特に400〜1000の範囲であることが好ましい。
【0019】
ポリオール中の高分子量ポリオールと低分子量ポリオールとの割合は、高分子量ポリオールに対して低分子量ポリオールが過度に少ない場合には、これらを混合使用することによる本発明の効果を十分に得ることができないため、ポリオール中の高分子量ポリオールの割合は30〜99.5重量%でポリオール中の低分子量ポリオールの割合は0.5〜70重量%、特に、ポリオール中の高分子量ポリオールの割合は50〜97重量%でポリオール中の低分子量ポリオールの割合は3〜50重量%で、高分子量ポリオール:低分子量ポリオール=1:0.03〜1(重量比)の範囲であることが好ましい。
【0020】
ポリオールの種類については特に制限はなく、通常の軟質ポリウレタンフォームの原料として使用されるポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールを用いることができる。用いるポリオールのOH価は通常20〜1500で、特に高分子量ポリオールのOH価は通常20〜60、低分子量ポリオールのOH価は通常100〜1500であることが好ましい。
【0021】
本発明の軟質ポリウレタンフォームは、ポリオール成分としてこのように分子量の異なる2種以上のポリオールを用いること以外は、下記のような通常のポリウレタン原料配合とすることができる。本発明の軟質ポリウレタンフォームを製造するには、このような原料を用いて常法に従って発泡を行えば良い。ポリウレタン原料のNCOインデックスは90〜120が好適である。
<ポリウレタン原料配合(重量部)>
ポリオール成分 :100
イソシアネート成分:90〜120(NCOインデックス)
触媒 :0.01〜2.0
発泡剤 :1.0〜25.0
整泡剤 :0.1〜3.0
【0022】
イソシアネート成分としては、一分子中に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートであって、脂肪族系及び芳香族ポリイソシアネート化合物、これらの変性物を用いることができるが、これに限定されるものではない。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が例示される。芳香族ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート等が例示される。これらの変性物としては、カルボジイミド変性物、プレポリマー変性物が例示される。本発明において好ましいポリイソシアネートは、芳香族系ポリイソシアネート又は芳香族系ポリイソシアネートの変性物であり、特に好ましくはトルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0023】
発泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に使用される全ての発泡剤が使用できる。例えば、低沸点不活性溶剤としてトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のフロン系化合物等、メチレンクロライド、液化炭酸ガス反応によってガスを発生するものとして水、酸アミド、ニトロアルカン等、熱分解してガスを発生するものとして重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等がある。これらのうち、好ましい発泡剤としては、メチレンクロライド、水等が挙げられる。
【0024】
整泡剤としては、シリコーンオイルを用いることができる。
【0025】
触媒としては、通常のウレタンフォームの製造に使用される全ての触媒が使用できる。例えば、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエート等の錫系触媒、トリエチルアミン、テトラメチルヘキサンメチレンジアミン等の3級アミン類等が挙げられる。
【0026】
本発明においては、ポリウレタン原料中に、更に必要に応じて界面活性剤や、難燃剤、その他の助剤が配合されても良い。界面活性剤としてはシリコーン系界面活性剤が例示される。難燃剤としては、トリス(2−クロロエチル)フォスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)フォスフェート等のような従来公知の難燃剤の他、尿素、チオ尿素のような有機質粉末あるいは金属水酸化物、三酸化アンチモン等の無機質粉末を用いることができる。
【0027】
その他の助剤としては、顔料、染料などの着色粉末、タルク、グラファイトなどの粉末、ガラス短繊維、その他の無機増量剤や有機溶媒などが挙げられる。
【0028】
本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームは、イソシアネートとして脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートではなく、芳香族系イソシアネートを用いて、酸化防止剤や紫外線吸収剤を配合しない場合であっても、耐変色性に優れ、JIS L 0855:1998に準拠したNO変色試験前後のYI値の差が70以下であり得る。
【0029】
ただし、本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームは、酸化防止剤や紫外線吸収剤を排除するものではなく、本発明においては、ポリウレタン原料に、酸化防止剤や紫外線吸収剤の少なくとも一方を含有させて、耐変色性をより一層高めるようにすることもできる。前述の如く、これらの薬剤は高価である。本発明では、分子量の異なる2種以上のポリオールを用いることで、十分な耐変色性を得ることができることから、酸化防止剤や紫外線吸収剤、特に、フェノール系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びリン酸系酸化防止剤のいずれをも実質的に含有しないものとすることもできる。
【0030】
本発明では、酸化防止剤や紫外線吸収剤を配合することなく優れた耐変色性を得ることができるが、これらは配合されてもよい。酸化防止剤や紫外線吸収剤が配合されることにより、ポリウレタンフォームは、耐変色性がさらに改善される。従って、要求される耐変色性のレベルに応じて、フェノール系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びリン酸系酸化防止剤等が配合されても良い。
【0031】
本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームは、密度12〜80kg/m程度に発泡成形されることが好ましい。
【0032】
本発明によれば、フォームが黄変せず、耐洗剤液耐久性、耐熱耐久性に優れた難変色軟質ポリウレタンフォームを安価に、しかも良好な反応性で得ることができる。
【0033】
本発明の難変色軟質ポリウレタンフォームは、ブラジャーパットなどの各種衣料関係用パット、紙おむつ、ナプキン等のサニタリー周辺材料、寝具、医療関連用品、その他各種雑貨素材等として有用であり、黄変による劣化や外観の悪化の問題のない高品質で商品価値の高い製品を安価に提供することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0035】
実施例1〜4、比較例1〜3
表1に示す配合のポリウレタン原料を常法に従って25℃で発泡させて密度約25kg/mの軟質ポリウレタンフォームを製造した。
【0036】
この軟質ポリウレタンフォームにつき、JIS L 0855:1998に準拠したNO変色試験を行い、この試験の前後でJIS L 0855に準じて日本電飾社製「ZE2000」にて軟質ポリウレタンフォームの白色板基準のYI値を測定し、結果を表1に示した。このNO変色試験において、試験前のフォームのYI値と試験後のフォームのYI値との差ΔYIが大きいほど変色が大きいことを示し、ΔYIは40以下、特に30以下、とりわけ25以下であることが望まれる。
【0037】
【表1】

【0038】
表1中の註1〜9は次の通りである。
註1:旭硝子ウレタン(株)製「EXCENOL4030」
ポリエーテルポリオール
OH価=42
分子量=4000
註2:三井武田ケミカル(株)製「アクトコール32−160」
ポリエーテルポリオール
OH価=160
分子量=1000
註3:三洋化成工業(株)製「サンニックスGS−3000」
ポリエーテルポリオール
OH価=56
分子量=3000
註4:三井武田ケミカル(株)製「アクトコールFC−24」
ポリエーテルポリオール
OH価=25
分子量=7000
註5:三井武田ケミカル(株)製「アクトコールG−250」
ポリエーテルポリオール
OH価=243
分子量=700
註6:武田薬品工業(株)製「TDI80」
トリレンジイソシアネート
註7:花王(株)製「カオーライザーNo.25」
6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール
註8:信越化学工業(株)製「F−242TB」
シリコーン界面活性剤
註9:信越化学工業(株)製「メチレンクロライド」
メチレンクロライド
【0039】
表1の通り、本発明によれば、分子量の異なる2種類のポリオールを用いることにより、1種類のポリオールのみを用いた場合に比べてΔYI値を1/3以下に下げることができ、酸化防止剤や紫外線吸収剤、或いは脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートを用いない場合であっても、耐変色性を大幅に向上させることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分とイソシアネートとを含むポリウレタン原料を発泡させてなるポリウレタンフォームにおいて、
該ポリオール成分が、分子量の異なる2種以上のポリオールを含み、最も分子量の大きい高分子量ポリオールと最も分子量の小さい低分子量ポリオールとの分子量の差が500以上であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
請求項1において、前記分子量の差が500〜9600であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
請求項2において、前記分子量の差が2000〜7500であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項4】
請求項3において、前記分子量の差が3000〜7000であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項5】
請求項1において、前記高分子量ポリオールの分子量が2000〜10000であり、前記低分子量ポリオールの分子量が80〜9500であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項6】
請求項5において、前記高分子量ポリオールの分子量が3000〜8000であり、前記低分子量ポリオールの分子量が400〜1000であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項7】
請求項1において、ポリオール成分中の前記高分子量ポリオールの含有量が30〜99.5重量%で、前記低分子量ポリオールの含有量が0.5〜70重量%であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項8】
請求項7において、ポリオール成分中の前記高分子量ポリオールの含有量が50〜97重量%で、前記低分子量ポリオールの含有量が3〜50重量%であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項9】
請求項1において、ポリオール成分中の前記高分子量ポリオールと、前記低分子量ポリオールとの割合が、高分子量ポリオール:低分子量ポリオール=1:0.03〜1(重量比)の範囲であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項10】
請求項1において、高分子ポリオールのOH価が20〜60で、低分子ポリオールのOH価が100〜1500であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項11】
請求項1において、前記イソシアネートが芳香族系イソシアネートであることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項12】
請求項1において、JIS L 0855:1998に準拠したNO変色試験前後のYI値の差が70以下であることを特徴とする難変色軟質ポリウレタンフォーム。

【国際公開番号】WO2005/047360
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515408(P2005−515408)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016212
【国際出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】