説明

難水溶性抗癌剤と新規ブロック共重合体を含むミセル調製物

難水溶性抗癌剤の溶解性を高め、静脈内投与した際に高い血中濃度を維持し、且つ高い薬理効果及び/または副作用の軽減作用を有する新規ミセル調製物が望まれている。
下記一般式(1)


[式中、R1は水素原子または(C1〜C5)アルキル基を表し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を表し、R3はメチレン基またはエチレン基を表し、R4は水素原子または(C1〜C4)アシル基を表し、R5は水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基を表し、nは5−1000、mは2−300、xは1−300の整数を示す、ただしR5における水酸基の割合が0〜99%であり、xはmより大きくないものとする]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規なブロック共重合体と難水溶性抗癌剤から形成されるミセル調製物、それを有効成分とする抗癌剤、及び該ブロック共重合体に関する。
【背景技術】
多くの重要な薬物、特に抗癌剤は水に殆ど溶解しない疎水性化合物が多い。この様な薬物を用いて所望の治療効果を得る為には、通常、薬物を可溶化して患者に投与する必要がある。従って、難水溶性抗癌剤の可溶化は、経口用または非経口用の製剤化に当たり、特に静脈投与用製剤を製造するのに重要な技術である。
難水溶性抗癌剤を可溶化させる方法の一つに、界面活性剤を添加する方法がある。例えば、パクリタキセルを可溶化するためにポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(クレモホール)を用いる方法である。また、難水溶性抗癌剤を可溶化させる方法として、ミセルを形成するブロック共重合体を薬物担体として用いる方法が、例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3等に記載されており、特許文献4にはポリ(エチレンオキシド)−ポリ(β−ベンジルアスパルテート−コ−アスパラギン酸)ブロック共重合体を用いたパクリタキセル封入ミセルについて記載されている。
文献リスト
【特許文献1】:特開平6−107565号公報
【特許文献2】:特開平6−206815号公報
【特許文献3】:特開平11−335267号公報
【特許文献4】:特開平2001−226294号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、界面活性剤による可溶化法にはそれに起因する過敏反応等の有害な副作用が見られ、また製剤の安定性が低いため溶液を貯蔵するか若しくは長時間放置すると薬物が沈殿してしまうという問題もある。
また、難水溶性抗癌剤、例えばタキサン系抗癌剤についてブロック共重合体を薬物担体として用いた医薬製剤を静脈内投与した際に、単独投与よりも高い薬物血中濃度を維持し、且つその薬理効果を増強し薬物の副作用を軽減することは達成されていなかった。
従って、難水溶性抗癌剤の水に対する溶解性を高め、高い薬物血中濃度を維持し、薬理効果を増強し副作用を軽減する医薬製剤が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、新規なブロック共重合体と難水溶性抗癌剤からなるミセル調製物を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、
1)下記一般式(1)

[式中、R1は水素原子または(C1〜C5)アルキル基を表し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を表し、R3はメチレン基またはエチレン基を表し、R4は水素原子または(C1〜C4)アシル基を表し、R5は水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基を表し、nは5−1000、mは2−300、xは1−300の整数を示す、ただしR5における水酸基の割合が0〜99%であり、xはmより大きくないものとする]
で表されるブロック共重合体と、難水溶性抗癌剤とから形成されるミセル調製物;
2)一般式(1)のR5における水酸基の割合が0%〜90%である上記1)に記載のミセル調製物;
3)一般式(1)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、R5が無置換フェニル(C3〜C6)アルコキシル基であり、nが20−500、mが10−100、xが1−100の整数を示すが、xはmより大きくないものである上記1)記載のミセル調製物;
4)難水溶性抗癌剤がタキサン系抗癌剤である上記1)〜3)のいずれか1項に記載のミセル調製物;
5)タキサン系抗癌剤がパクリタキセルである上記4)記載のミセル調製物;
6)上記1)〜5)のいずれか1項に記載のミセル調製物を有効成分とする抗癌剤;
7)下記一般式(1)

[式中、R1は水素原子または(C1〜C5)アルキル基を表し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を表し、R3はメチレン基またはエチレン基を表し、R4は水素原子または(C1〜C4)アシル基を表し、R5は水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基を表し、nは5−1000、mは2−300、xは1−300の整数を示す、ただしR5における水酸基の割合が0〜99%であり、xはmより大きくないものとする]
で表されるブロック共重合体;
8)一般式(1)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、R5が無置換フェニル(C3〜C6)アルコキシル基であり、nが20−500、mが10−100、xが1−100の整数を示すが、xはmより大きくないものである上記7)記載のブロック共重合体;
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のミセル調製物は、上記一般式(1)[式中、R1は水素原子または(C1〜C5)アルキル基を表し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を表し、R3はメチレン基またはエチレン基を表し、R4は水素原子または(C1〜C4)アシル基を表し、R5は水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基を表し、nは5−1000、mは2−300、xは1−300の整数を示す、ただしR5における水酸基の割合が0〜99%であり、xはmより大きくないものとする]
で表されるブロック共重合体と、難水溶性抗癌剤とから形成される。
本発明のミセル調製物に使用されるブロック共重合体においてR1としては、水素原子または(C1〜C5)アルキル基が挙げられるが、(C1〜C5)アルキル基が好ましい。(C1〜C5)アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられるが、特にメチル基が好ましい。
R2の(C1〜C5)アルキレン基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられ、エチレン基、トリメチレン基が好ましい。
R3としてはメチレン基またはエチレン基が挙げられ、メチレン基が好ましい。
R4としては水素原子または(C1〜C4)アシル基が挙げられ、(C1〜C4)アシル基が好ましく、具体的にはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチロイル基等が挙げられ、アセチル基が特に好ましい。
本発明のミセル調製物に使用されるブロック共重合体においてR5とは、水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基であり、1分子中同一でも異なっていてもよい。R5が水酸基である割合は0%〜99%、好ましくは0%〜90%、特に好ましくは15%〜85%、もっとも好ましくは35%〜80%である。
アリール(C2〜C8)アルコキシル基としては、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基が結合した直鎖あるいは分岐鎖の(C2〜C8)アルコキシル基が挙げられ、具体的には、例えばフェネチルオキシ基、フェニルプロポキシ基、フェニルブトキシ基、フェニルペンチルオキシ基、フェニルヘキシルオキシ基、フェニルヘプチルオキシ基、フェニルオクチルオキシ基、ナフチルエトキシ基、ナフチルプロポキシ基、ナフチルブトキシ基、ナフチルペンチルオキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基における置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等の低級アルコキシル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。該置換基の置換数が1〜置換可能な最大数までの、また置換可能な全ての位置の置換体が本発明に含まれるが、無置換が好ましい。
置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基として好ましくは、無置換フェニル(C3〜C6)アルコキシル基が挙げられ、例えば無置換フェニルプロポキシ基、無置換フェニルブトキシ基、無置換フェニルペンチルオキシ基、無置換フェニルヘキシルオキシ基等であり、特に好ましくは無置換フェニルブトキシ基である。
本発明のミセル調製物に使用される一般式(1)で表されるブロック共重合体におけるR5において、置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基としては、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C4)アルキルアミノ基等が挙げられる。アリール(C1〜C4)アルキルアミノ基としては、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基が結合した直鎖あるいは分岐鎖の(C1〜C4)アルキルアミノ基が挙げられ、具体的には、例えばベンジルアミノ基、フェネチルアミノ基、フェニルプロピルアミノ基、フェニルブチルアミノ基、ナフチルメチルアミノ基、ナフチルエチルアミノ基、ナフチルブチルアミノ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C4)アルキルアミノ基における置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等の低級アルコキシル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。該置換基の置換数が1〜置換可能な最大数までの、また置換可能な全ての位置の置換体が本発明に含まれるが、無置換のアリール(C1〜C4)アルキルアミノ基が好ましい。
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C4)アルキルアミノ基として具体的には、無置換ベンジルアミノ基、無置換フェネチルアミノ基等が特に好ましい。
一般式(1)で表されるR5は、アミノ酸またはペプチド誘導体を残基とするアミノ基であってもよい。かかるアミノ基は、α−またはβ−アミノ酸若しくは2個以上のアミノ酸がアミド結合により結合したペプチドの誘導体を構成する1級アミノ基である。アミノ酸またはペプチドの誘導体としては、例えば主鎖カルボン酸のエステル化体、側鎖カルボン酸のエステル化体、側鎖水酸基のエーテル化体等が含まれる。具体的には例えば、アスパラギン酸ジベンジルエステル、β−アラニル−セリンベンジルエーテルベンジルエステル(β−アラニル−O−ベンジル−L−セリン ベンジルエステル)等が挙げられる。
本発明のミセル調製物に使用される一般式(1)で表されるブロック共重合体において、nは5−1000、好ましくは20−500、特に好ましくは80−400の整数、mは2−300、好ましくは10−100、特に好ましくは15−60の整数、xは1−300、好ましくは1−100、特に好ましくは1−60の整数を示すが、xはmより大きくないものである。
一般式(1)で表されるブロック共重合体の製造法は特に限定されないが、例えば特許文献3及び特許文献4に記載の、R5が置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基である化合物を酸またはアルカリにより部分加水分解する方法が挙げられる。
また、一般式(1)で表されるブロック共重合体のうち、R5において水酸基以外の基を有する化合物は、R5の全てが水酸基である一般式(1)の化合物と、置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコール、置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミン若しくはアミノ酸またはペプチド誘導体との脱水縮合反応によっても得られる。置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコールとは、上記の置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基に対応するアルコールである。置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミンとは、上記の置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基に対応するアミンである。
置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコール、置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミン並びにアミノ酸及びペプチド誘導体は、市販されている化合物を用いてもよく、また公知の有機合成により調製される化合物、公知の有機反応を準用し組み合わせて調製される化合物を用いることもできる。
R5の全てが水酸基である化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば特許文献2に記載された方法を使用することができる。
上記脱水縮合反応に使用する脱水縮合剤としては、例えばカルボジイミド系脱水縮合剤が挙げられ、具体的には1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)が挙げられる。
脱水縮合剤は、置換基を有してもよい(C2〜C8)アルコールまたは置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミンに対して0.1−20倍モル用いるのが好ましく、特に1−5倍モル用いるのが好ましい。またこの際、ヒドロキシサクシンイミド(HOSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HOBN)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ジイソプロピルエチルアミン等を、置換基を有してもよい(C2〜C8)アルコールまたは置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミンに対して0.01−20倍モル、好ましくは0.1−10倍モル共存させてもよい。
置換基を有してもよい(C2〜C8)アルコールまたは置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミンの使用量は特に限定されないが、通常R5の全てが水酸基である一般式(1)の化合物のカルボキシル基1当量に対し、0.1−5当量用いるのがよい。
脱水縮合反応は溶媒中で行うのが好ましく、溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、テトラヒドロフラン、水及びそれらの混合溶媒等種々のものが使用でき、特に限定されない。溶媒の使用量は特に限定されないが、通常原料共重合体に対して1−500重量倍用いる。
脱水縮合反応は、−10〜60℃で行うのが好ましく、反応は2〜48時間行えばよい。
更に、本発明のミセル調製物に使用される一般式(1)で表されるブロック共重合体がカルボキシル基を有する場合、その一部または全部がイオン解離して生じる塩も本発明に含まれる。該塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられ、例えば具体的にはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
本発明のミセル調製物における難水溶性抗癌剤とは、それ自体では室温、常圧等の周囲環境下で等量の水に実質的に溶解しないか、あるいは同量の水とクロロホルムとの溶媒系では優先してクロロホルム相に分配されるような抗癌剤を意味する。このような抗癌剤として、例えばアドリアマイシン等のアンスラサイクリン系抗癌剤、パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン系抗癌剤、ビンクリスチン等のビンカアルカロイド系抗癌剤、メソトレキセート、それらの誘導体等を挙げることができるが、特にタキサン系抗癌剤、中でもパクリタキセルが挙げられる。
本発明のミセル調製物に含まれるブロック共重合体と難水溶性抗癌剤とは、重量比で1000:1〜1:1であり、好ましくは100:1〜1.5:1であり、20:1〜2:1が特に好ましい。しかしながら、該ミセル調製物が水溶性であれば、可能な限り該薬物を多く含有させてもよい。
本発明のミセル調製物は、例えば以下の方法によって調製される。
a法;撹拌による薬物の封入法
難水溶性抗癌剤を、必要により水混和性の有機溶媒に溶解して、ブロック共重合体分散水溶液と撹拌混合する。なお、撹拌混合時に加熱してもよい。
b法;溶媒揮散法
難水溶性抗癌剤の水非混和性の有機溶媒溶液をブロック共重合体分散水溶液中に混和し、撹拌しながら有機溶媒を揮散させる。
c法;透析法
水混和性の有機溶媒に難水溶性抗癌剤及びブロック共重合体を溶解した後、得られる溶液を、透析膜を用いて緩衝液及び/または水中にて透析する。
d法;その他
水非混和性の有機溶媒に難水溶性抗癌剤及びブロック共重合体を溶解し、得られる溶液を水と混合し、撹拌して水中油(O/W)型エマルジョンを形成し、次いで有機溶媒を揮散させる。
例えば、c法のミセルの調製方法は特許文献1等に具体的記載がある。
有機溶媒を揮散させるb法及びd法については、例えば特許文献3または特許文献4に記載がある。
b法及びd法についてより具体的に説明すると、水非混和性の有機溶媒とは、例えば特許文献3におけるポリマーミセルの形成に使用されている水と実質的に自由に混和しうるジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等に対立する概念の溶媒を意味し、特に限定されるものでないが、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、キシレン、及びn−ヘキサン等またはそれらの混合溶媒を挙げることができる。
水非混和性の有機溶媒と、水性媒体、即ち、水(純水もしくはイオン交換水を含む)または糖類や安定化剤、食塩若しくは緩衝剤等を含む等張化もしくは緩衝化された水溶液、とを混合する。この際、O/W型のエマルションを形成するのに悪影響を及ぼさない限り、水混和性の有機溶媒や他の無機塩(例えば硫酸ナトリウム等)を少量含んでいてもよい。
通常、水非混和性有機溶媒と水性媒体とは、容量比で1:100、好ましくは1:20となるように混合する。この混合手段としては、各種乳化物を作成するのに常用されている手段、機械的撹拌機、振盪機、超音波照射器等が使用できる。この際の操作温度は限定されるものでないが、薬物の温度安定性、溶媒の沸点等を考慮して、約−5℃〜約40℃の範囲に設定するのが好ましい。
続いて、開放系で上記混合操作を継続するか、あるいは撹拌しながら減圧下で有機溶媒を蒸発除去(または揮散除去)する。
ミセル調製物水溶液はそのまま、あるいはミセル調製物が会合ないしは凝集している可能性のある場合には超音波処理した後、不溶物や析出物をろ過処理してもよい。使用するろ過膜に制限はないが、好ましくは孔径が0.1〜1μmの膜である。
本発明のミセル調製物は水性媒体中で安定であり、また、本発明のミセル調製物により難水溶性抗癌剤の水における薬物濃度を、添加剤を使用しない場合と比べて高めることができる。更にこの薬物含有ミセル調製物の濃度を高めるために、減圧や限外ろ過による濃縮あるいは凍結乾燥等を施すことも可能である。
また、ミセル調製物において薬物とブロック共重合体の総重量当たりの薬物濃度は0.1〜50重量%、好ましくは1〜40重量%、特に好ましくは5〜35重量%であり、従って、ミセル調製物の水溶液1mL当たり、薬物量を約0.01mg以上、好ましくは約1mg以上、特に好ましくは約2mg以上とすることができる。
本発明のミセル調製物は、水性媒体中でポリエチレングリコール構造部分を外側にするコアシェル型ミセルとなり、そのミセルの内側の疎水性部分に難水溶性抗癌剤を包含するものであってもよい。コアシェル型ミセルである場合、粒径は市販の光散乱粒度測定装置(例えば、大塚電子(株)、DLS−7000DH型)で測定可能であり、平均粒径として10〜200nmであり、20〜100nmが好ましい。
上記抗癌剤含有ミセル調製物を有効成分とする抗癌剤もまた、本発明に含まれる。ミセル調製物を医薬製剤として投与する場合、その投与量は患者の年齢、体重、症状、治療目的等により決定されるが、治療有効量は凡そ50〜500mg/Body/dayである。投与する医薬製剤としては、本発明のミセル調製物を医薬的に許容される溶媒に溶解したものであれば特に限定されず、薬理学的に許容される添加剤を含んでいてもよい。また、本発明のミセル調製物には凍結乾燥した物も含まれる。
また、本発明には上記ミセル調製物に使用されるブロック共重合体も含まれる。
【実施例】
以下、具体的な製造例を示し、本発明を説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
本実施例中、エタノールはEtOH、ジイソプロピルエーテルはIPE、4−ジメチルアミノピリジンはDMAP、N−ヒドロキシサクシンイミドはHOSu、高性能液体クロマトグラフィーはHPLCと略す。
実施例1 ブロック共重合体6の製造
特許文献2に記載された方法にて製造したPEG(平均分子量12000)−pAsp(平均重合数35)−Ac(一般式(1)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、R5が水酸基、nが約272、mが約35、xが約26、以下PEG−pAsp−Acと略す)3.56gにDMF70mLを加え、35℃中溶解し、DMAP745mg及び4−フェニル−1−ブタノール(1.17mL)、DIPCI(1.19mL)を添加し、26時間反応させた。この反応液をIPE:EtOH(4:1)700mLに滴下し、沈殿物をろ過回収後、減圧乾燥することで粗結晶3.91gを得た。この粗結晶を50%アセトニトリル水溶液に溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(三菱化学社製)40mLに通液し、更に50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥して、ブロック共重合体6を3.85g得た。
このブロック共重合体6(25.2mg)をアセトニトリル2mLに溶解後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液2mLを加え、室温で20分撹拌する。酢酸0.5mLで中和後、液量を5mLに調製し、遊離した4−フェニル−1−ブタノールをHPLCにて定量した。分析の結果、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールはポリアスパラギン酸に対して44%であった。
実施例2 ブロック共重合体7の製造
PEG−pAsp−Ac3.59gを用い、4−フェニル−1−ブタノールを実施例1の0.3倍量(0.36mL)として、実施例1と同様の操作でブロック共重合体7を3.56g得た。
実施例1と同様の加水分解操作後の分析の結果、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールはポリアスパラギン酸に対して22%であった。
実施例3 ブロック共重合体8の製造
特許文献2に記載された方法に準じて製造したPEG(平均分子量5000)−pAsp(平均重合数30)−Ac(一般式(1)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、R5が水酸基、nが約110、mが約30、xが約22、以下PEG−pAsp−Acと記載する)3.02gを用い、実施例1と同様の操作で4−フェニル−1−ブタノール(1.45mL)と縮合反応し、ブロック共重合体8を3.05g得た。
実施例1と同様の加水分解操作後の分析の結果、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールはポリアスパラギン酸に対して50%であった。
実施例4 ブロック共重合体9の製造
PEG−pAsp−Ac3.04gを用い、4−フェニル−1−ブタノールを実施例3の0.3倍量(0.44mL)として、実施例1と同様の操作でブロック共重合体9を2.74g得た。
実施例1と同様の加水分解操作後の分析の結果、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールはポリアスパラギン酸に対して25%であった。
実施例5 ブロック共重合体10の製造
PEG−pAsp−Ac200mgを用い、実施例1の4−フェニル−1−ブタノールを6−フェニル−1−ヘキサノール(80.1μL)として、実施例1と同様の操作でブロック共重合体10を233mg得た。
実施例1と同様の加水分解操作後の分析の結果、エステル結合した6−フェニル−1−ヘキサノールはポリアスパラギン酸に対して48%であった。
実施例6 ブロック共重合体13の製造
PEG−pAsp−Ac200mgをDMF4mLに溶解し、HOSu49.8mg、及びベンジルアミン23.6μL、DIPCI74.6μLを加え、35℃にて4時間反応させた。この反応液に蒸留水100μLを添加し15分撹拌後、IPE:EtOH(9:1)60mLに滴下し、沈殿物をろ過回収後、減圧乾燥することでブロック共重合体13を189mg得た。
反応液中に残存したベンジルアミンをHPLCにて定量し、それを基に計算した結果、アミド結合したベンジルアミンはポリアスパラギン酸に対して61%であった。
実施例7 ブロック共重合体15の製造
実施例6のベンジルアミンをL−アスパラギン酸ジベンジルエステル トルエンスルホン酸塩(715mg)とジイソプロピルエチルアミン(257μL)として、PEG−pAsp−Ac3.09gを用い、実施例6と同様の操作でブロック共重合体15を3.35g得た。
実施例1と同様の条件で加水分解することにより、遊離したベンジルアルコールを定量して解析し、ブロック共重合体15にアミド結合したL−アスパラギン酸ジベンジルエステルはポリアスパラギン酸に対して23%であった。
実施例8 ブロック共重合体16の製造
実施例6のベンジルアミンを一般的なジペプチド合成法で調製可能なβ−アラニル−O−ベンジル−L−セリン ベンジルエステル塩酸塩(321mg)と、ジイソプロピルエチルアミン(142μL)として、PEG−pAsp−Ac(1.51g)を用い、実施例6と同様の操作でブロック共重合体16を1.49g得た。
実施例7と同様の方法で解析し、ブロック共重合体16にアミド結合したβ−アラニル−O−ベンジル−L−セリン ベンジルエステルはポリアスパラギン酸に対して26%であった。
実施例9 パクリタキセルミセル調製物10の製造
スクリュー管瓶に実施例1のブロック共重合体6(4−フェニル−1−ブタノールを縮合させたブロック共重合体)を300mg秤量し、40mg/mLマルトース水溶液30mLを加え撹拌し分散液とした後、撹拌しながら4℃まで冷却した。更に30mg/mLパクリタキセルのジクロロメタン溶液3mLを加え、密栓せず冷蔵庫内で16時間撹拌し、超音波処理(130W、1secPuls、10分間)をした。更にマクロゴール4000を20mg/mLとなるように加え溶解後、除菌濾過し、ミセル調製物10を得た。
パクリタキセル濃度は2.8mg/mLであった。ダイナミック光散乱光度計(大塚電子(株)、DLS−7000DH型)による平均粒子径は86.6nmであった。
同様に実施例に記載したブロック共重合体を用いて、パクリタキセルミセル調製物を製造した。結果を表1として示す。

比較例
特許文献1に従い片末端メトキシ片末端アミノポリエチレングリコール誘導体10gと市販のβ−ベンジル L−アスパルテート N−カルボン酸無水物をDMF/DMSO(50%/50%)混合溶媒80mLに溶解し、40℃で24時間アルミフォイルで遮光し反応させた。その後、反応溶液をn−ヘキサン/酢酸エチル(50%/50%)混合溶媒660mLに滴下し、ポリマーを再沈殿させた。再沈殿の操作を3回行い、減圧下24時間乾燥し、ポリ(エチレンオキシド;平均分子量12000)−ポリ(β−ベンジルアスパルテート;平均重合数約50)ブロック共重合体約19gを得た。
得られたブロック共重合体10gをアセトニトリル100mLに溶解し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液22.72mLを加え、室温で10分間加水分解反応を行った。6N塩酸3.79mLを加えて反応を止め、透析膜(Spectra/Por7、MWCO 3,500)に移し、イオン交換水3.3Lで9時間以上透析を行った(イオン交換水は3回以上交換)。透析終了後、No.5Bの濾紙(桐山製作所、4μm)で濾過し、凍結乾燥を行い、凡そ50%加水分解されたポリ(エチレンオキシド)−ポリ(β−ベンジルアスパルテート−コ−アスパラギン酸)ブロック共重合体約9gを得た。
スクリュー管瓶に得られたブロック共重合体300mg秤量し、40mg/mLマルトース水溶液30mLを加え撹拌し分散液として、更に撹拌しながら4℃まで冷却した。20mg/mLパクリタキセルのジクロロメタン溶液3mLを添加し、密栓せず冷蔵庫内で16時間撹拌し、超音波処理(130W、1secPuls、10分間)をした。
一部サンプルをとり、ダイナミック光散乱光度計(大塚電子(株)、DLS−7000DH型)を使用し粒度測定をした。平均粒子径は107nmであった。
続いて、マクロゴール4000を20mg/mLの濃度となるように添加溶解し、除菌濾過後凍結乾燥し、比較例のミセル調製物を得た。
試験例1 Colon26に対するin vivo抗腫瘍効果
雌性CDF1マウスの背側部皮下にマウス結腸癌Colon26細胞を移植し、腫瘍の体積が100mm前後に達した時点から本発明のミセル調製物10、比較例によるミセル調製物、またはパクリタキセルを5日間連続でマウス尾静脈より投与し、進行癌に対する効果を検討した。各薬剤はそのまま、または生理食塩水で用時希釈して用いた。薬剤濃度はパクリタキセル換算濃度とした。薬剤の抗腫瘍効果は、投与後11日目の未投与群の平均腫瘍体積に対する投与群の平均腫瘍体積の百分率(T/C%)で判定した。結果を表2に示す。

表2から明らかなように、パクリタキセル単剤は、30mg/kg投与群で投与後11日目の薬剤未投与群に対する腫瘍縮小率が37.5%または40.0%を示し、ベンジルエステル型の比較例のミセル調製物は42.2%であり、この試験系ではパクリタキセル単剤とほぼ同じ効果であったが、本発明のミセル調製物10では、13.4%まで腫瘍が縮小し優位に高い抗腫瘍効果を有することを示した。
試験例2 ラット血漿中のパクリタキセル濃度の推移
実施例9のミセル調製物10を生理食塩水で希釈し、2.5mg/mLのパクリタキセル換算濃度の水溶液とした。パクリタキセル単剤はエタノールで溶解後、エタノールと等量のクレモホール(シグマ社製)を加え、パクリタキセル濃度が25mg/mLになるように調製し、投与直前に生理食塩水で希釈し2.5mg/mLとした。パクリタキセル5mg/kg相当のミセル調製物10またはパクリタキセル単剤を雄性SDラット尾静脈より投与後、頚静脈から経時的に採血した。遠心分離して得た血漿を適量の水で希釈し、t−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。エーテル層を回収し、乾固後、アセトニトリル50μLに溶解しHPLCによりパクリタキセルを定量した。結果を表3に示す。

表3から明らかなように、本発明のミセル調製物はパクリタキセル単剤を投与した場合と比較して、高い血漿中濃度の維持が認められた。血中濃度−時間曲線下面積(AUC)における、パクリタキセル単剤:本発明のミセル調製物は、1:約150であった。
試験例3 マウスの伸展反射に対する毒性試験(末梢神経障害)
雌性CDF1マウスに対してミセル調製物10またはパクリタキセル単剤を5日間連続してマウス尾静脈より投与し、パクリタキセルの末梢神経障害の指標となるマウス後肢の伸展反射を観察した。各薬剤は試験例1と同様の方法で調製し、そのまま、または生理食塩水で用時希釈して用いた。投与量はパクリタキセル換算濃度とした。結果を表4に示す。

表4から明らかなように、パクリタキセル単剤では、30mg/kg投与群で全匹に伸展反射の消失が認められた。一方、ミセル調製物10は30mg/kg投与群において伸展反射の消失が認められなかった。本発明のミセル調製物はパクリタキセル単剤と比較し、パクリタキセルの副作用である末梢神経毒性を軽減した。
【発明の効果】
本発明のミセル調製物により、必要とする薬剤量の薬物、特にパクリタキセルを、高分子に結合させることなくミセルに取り込ませることが可能となり、投与した際に該薬物単剤よりも高い血中濃度を維持し、該薬物単剤が示す薬効以上の効果を持たせ、また該薬物単剤では認められる毒性を軽減することにより、有用な医薬製剤の提供が可能となった。また、ミセル調製物を有効成分とする抗癌剤も提供する。
上記の効果を有するミセル調製物の形成に適するブロック共重合体も提供する。該ブロック共重合体を用いることにより、難水溶性抗癌剤の水への溶解性を高めることもまた可能となった。
また、本発明のミセル調製物の水溶液を室温にて静置した場合、少なくとも数時間はミセルの会合やミセル調製物からの薬物の放出が生じないことから、本発明により水性媒体中で安定に保持される難水溶性抗癌剤含有ミセル調製物を提供することも可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)

[式中、R1は水素原子または(C1〜C5)アルキル基を表し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を表し、R3はメチレン基またはエチレン基を表し、R4は水素原子または(C1〜C4)アシル基を表し、R5は水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基を表し、nは5−1000、mは2−300、xは1−300の整数を示す、ただしR5における水酸基の割合が0〜99%であり、xはmより大きくないものとする]
で表されるブロック共重合体と、難水溶性抗癌剤とから形成されるミセル調製物。
【請求項2】
一般式(1)のR5における水酸基の割合が0%〜90%である請求項1に記載のミセル調製物。
【請求項3】
一般式(1)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、R5が無置換フェニル(C3〜C6)アルコキシル基であり、nが20−500、mが10−100、xが1−100の整数を示すが、xはmより大きくないものである請求項1記載のミセル調製物。
【請求項4】
難水溶性抗癌剤がタキサン系抗癌剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載のミセル調製物。
【請求項5】
タキサン系抗癌剤がパクリタキセルである請求項4記載のミセル調製物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のミセル調製物を有効成分とする抗癌剤。
【請求項7】
下記一般式(1)

[式中、R1は水素原子または(C1〜C5)アルキル基を表し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を表し、R3はメチレン基またはエチレン基を表し、R4は水素原子または(C1〜C4)アシル基を表し、R5は水酸基若しくは置換基を有していてもよいアリール(C2〜C8)アルコキシル基または置換基を有する(C1〜C4)アルキルアミノ基、あるいはアミノ酸若しくはペプチド誘導体を残基とするアミノ基を表し、nは5−1000、mは2−300、xは1−300の整数を示す、ただしR5における水酸基の割合が0〜99%であり、xはmより大きくないものとする]
で表されるブロック共重合体。
【請求項8】
一般式(1)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、R5が無置換フェニル(C3〜C6)アルコキシル基であり、nが20−500、mが10−100、xが1−100の整数を示すが、xはmより大きくないものである請求項7記載のブロック共重合体。

【国際公開番号】WO2004/082718
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503740(P2005−503740)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003647
【国際出願日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(597144679)ナノキャリア株式会社 (8)
【Fターム(参考)】