説明

難燃ケーブル

【課題】耐摩耗性および難燃性に優れ、車載用の各種システム間を繋ぐ配線として高い信頼性を有する難燃ケーブルを提供する。
【解決手段】絶縁電線部20の外側に被覆部30を有する難燃ケーブルであって、被覆部30は、絶縁電線部20の外周を覆う第1被覆部31と、第1被覆部31の外周を覆う第2被覆部32とを有し、第1被覆部31は、エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体が添加された樹脂組成物により形成され、第2被覆部32は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とし、メラミンシアヌレートが添加された樹脂組成物により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線部の外側に難燃性の被覆部を有する難燃ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
走行の安全性向上のために、アンチロックブレーキシステム(ABS)が自動車に装備されている。ABSは、例えば、車輪の回転速度を検出する車輪速センサー、車輪速センサーで発生した信号を演算処理するECU、そしてECUの出力信号によって作動するアクチュエータから構成されている。当該アクチュエータを作動させることによりブレーキが制御される。
【0003】
車輪速センサーで発生した信号は、車輪速センサーとECUとを繋ぐABSセンサーケーブルを介してECUに伝送される。そしてECUの出力信号によってアクチュエータを作動させることによりブレーキが制御される。
【0004】
このABSセンサーケーブルには、例えば特許文献1に示すように、撚り合わせた2本の絶縁電線の外周を絶縁性の樹脂で覆い、さらにその外周をシースで覆った構造のケーブルが広く使用されている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第05/013291号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ABSセンサーケーブルのような車載用途のケーブルには優れた耐摩耗性が要求される。そこで、ケーブルの外周を覆うシース(外部シース)には、機械的強度に優れた材料として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどが用いられる。
一方、車載用途のケーブルには、優れた難燃性も要求される。しかしながら、外部シースが例えば上記のようにエラストマーの混合物等により形成されている場合、当該形成樹脂に水酸化マグネシウムなどの難燃剤を添加すると耐摩耗性が低下する場合があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、耐摩耗性および難燃性に優れ、車載用の各種システム間を繋ぐ配線として高い信頼性を有する難燃ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明の難燃ケーブルは、絶縁電線部の外側に被覆部を有する難燃ケーブルであって、
前記被覆部は、前記絶縁電線部の外周を覆う第1被覆部と、前記第1被覆部の外周を覆う第2被覆部とを有し、
前記第1被覆部は、エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体が添加された樹脂組成物により形成され、
前記第2被覆部は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とし、メラミンシアヌレートが添加された樹脂組成物により形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の難燃ケーブルにおいて、前記第1被覆部を形成する樹脂組成物100重量部に対し、前記エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体を1〜5重量部を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の難燃ケーブルにおいて、前記絶縁電線部は、撚り合わされた複数本の絶縁電線を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃ケーブルは、内部シースに相当する第1被覆部を形成する樹脂組成物にエチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体を添加することにより、第1被覆部の耐摩耗性が向上し、その結果、第2被覆部などを含むケーブル全体として優れた耐摩耗性を有する。また、第2被覆部は難燃性に優れた特性を有する。したがって、車載用の各種システム間を繋ぐ配線としてより高い信頼性が要求される部位にも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る難燃ケーブルの実施形態の例について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る難燃ケーブルの断面図である。
図1に示すように、難燃ケーブル10は、絶縁電線部20と、絶縁電線部20の外側に形成された被覆部30とを有する。絶縁電線部20は、撚り合わされた2本の絶縁電線21,22を含む。本実施形態において、絶縁電線21,22の各々は、導電部21a,22aの周囲を絶縁被覆21b,22bで覆われた被覆電線である。
【0014】
被覆部30は、絶縁電線部20の外周を覆う第1被覆部31と、第1被覆部31の外周を覆う第2被覆部32とを有する。このような構造の難燃ケーブル10は、例えば、絶縁電線部20の周囲に、第1被覆部31および第2被覆部32を順次押出被覆することにより製造される。
【0015】
第1被覆部31は、従来のABSセンサーケーブルの内部シースに相当するものであるが、本実施形態においては、例えばポリオレフィン系樹脂またはそれを主体とする樹脂組成物により形成される。第1被覆部31を形成する樹脂組成物の具体例としては、機械的強度が大きく耐摩耗性に優れるエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体(ボンダイン(登録商標))をエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して1〜5重量部含む樹脂組成物が挙げられる。本実施形態の場合、第1被覆部31を形成する樹脂組成物に抗張力向上の改質剤であるボンダインを含むことにより耐摩耗性が向上し、後述する第2被覆部32などを含む難燃ケーブル10全体として優れた耐摩耗性を有する。
【0016】
第2被覆部32は、従来のABSセンサーケーブルの外部シースに相当するものであるが、本実施形態においては、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とする樹脂組成物または当該樹脂組成物の架橋体により形成される。
【0017】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、MDIやTDIなどのジイソシアネートおよびエチレングリコールなどのジオールより構成されるポリウレタン部をハードセグメントとし、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどの非晶性ポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体を例示することができる。これらの中でもポリエーテル系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーが柔軟性、耐加水分解性、低温曲げ特性などの点から好適に用いることができる。
【0018】
また、第2被覆部32を形成する樹脂組成物には、非ハロゲン系難燃剤が添加される。非ハロゲン系難燃剤としては、金属水酸化物または窒素系難燃剤が好ましい。また、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが例示でき、窒素系難燃剤としては、メラミン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミンなどが例示できる。中でも、金属水酸化物としては水酸化マグネシウムが、窒素系難燃剤としてはメラミンシアヌレートが好ましい。
【0019】
また、第1被覆部31および第2被覆部32を形成する樹脂組成物には、酸化防止剤、劣化防止剤、着色剤、架橋助剤、粘着付与剤、滑剤、軟化剤、充填剤、加工助剤、カップリング剤などを添加することもできる。
【0020】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤などを例示できる。
【0021】
劣化防止剤としては、HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)、紫外線吸収剤、金属不活性化剤、加水分解防止剤などを例示できる。
【0022】
着色剤としてはカーボンブラック、チタンホワイトその他有機顔料、無機顔料などを例示できる。これらは、色別のためまたは紫外線吸収のために添加することができる。
【0023】
架橋のために架橋助剤を添加することは必要ではないが、架橋効率を上げるために1〜10重量部添加した方が望ましい。架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’−メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などを例示できる。
粘着付与剤としては、クマロン・インデン樹脂、ポリテルペン樹脂、キシレンホルムアルデヒド樹脂、水素添加ロジンなどを例示できる。その他、滑剤として脂肪酸、不飽和脂肪酸、それらの金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなど、軟化剤として鉱物油、植物油、可塑剤など、充填剤として炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、酸化亜鉛、酸化モリブデンなど、カップリング剤としては、前記のシランカップリング剤以外にイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートなどのチタネート系カップリング剤などが必要に応じて添加することができる。
【0024】
本実施形態の難燃ケーブル10は、外部シースである第2被覆部32を、ポリウレタンを主としてこれに非ハロゲン系難燃剤を添加して構成する。難燃剤の添加により外部シースの耐摩耗性は悪くなるものの、内部シースに相当する第1被覆部31が優れた耐摩耗性を有することにより、結果としてケーブル全体でも優れた耐摩耗性を有する。また、第2被覆部32は難燃性に優れた特性を有する。したがって、車載用の各種システム間を繋ぐ配線(例えばABSセンサーケーブル)としてより高い信頼性が要求される部位にも用いることができる。
【実施例】
【0025】
(内部シース(第1被覆部)用材料の製造)
表1の内部シース材料の欄に記載の配合成分を、表1に示す配合量で、二軸混合機(バレル径45mm、L/D=32)を用いて溶融混合し、吐出ストランドを水冷カットする方法でペレットとし、内部シース用材料を得た。
【0026】
(外部シース(第2被覆部)用材料の製造)
表1の外部シース材料の欄に記載の配合成分を、表1に示す配合量で、二軸混合機(バレル径45mm、L/D=32)を用いて溶融混合し、吐出ストランドを水冷カットする方法でペレットとし、外部シース用材料を得た。
【0027】
(絶縁電線の製造)
LLDPE(融点122℃、メルトフローレート1.0)100重量部、難燃剤として水酸化マグネシウム(平均粒径0.8μm、BET比表面積8m/g)の80重量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペッシャリティケミカルズ、商品名)の0.5重量部、およびトリメチロールプロパントリメタクリレートの3重量部の割合からなる配合組成物を、二軸混合機(バレル径45mm、L/D=32)を用いて溶融混合し、吐出ストランドを水冷カットする方法でペレットとした。
【0028】
上記のペレットを、短軸押出機(シリンダー径30mm、L/D=24)を用いて、断面積0.35mmの撚り線導体上に平均肉厚が0.30mmとなるように押出被覆した後、加速電圧1MeVの電子線を150kGy照射して絶縁電線を製造した。
【0029】
(ケーブルの製造)
上記で得られた絶縁電線の2本を、撚りピッチ30mmで撚り合わせてツイストペアとした後、その外周に、上記の内部シース用材料を、単軸押出機(バレル径50mm、L/D=24)を用いて外径が3.4mmとなるように押出被覆し、次いで、この内部シースの外周に、同じく単軸押出機(バレル径50mm、L/D=24)を用いて、上記の外部シース用材料を外径が4.0mmφとなるように押出被覆した後、加速電圧が2MeVの電子線を200kGy照射することにより、試験用ケーブルを試作した。
【0030】
(ケーブルの評価)
上記の方法により得られたケーブルについて、JASO D 608−92の自動車用耐熱低圧電線の「12.耐摩耗性試験、(1)摩耗テープ法」により、絶縁電線の内部導体が露出するまでのサンドペーパーの移動距離を測定し、ケーブルの耐摩耗性を評価した。その結果を表1に示す。なお、試験時にサンドペーパーを試験用ケーブルに当接させるための錘の重量は450gとした。
【0031】
【表1】

【0032】
比較例1 内部シース材料にボンダインを添加しない
→耐摩耗性:10m未満
比較例2 内部シース材料にボンダインを10重量部添加
→ボンダインが均一に分散せず塊ができた。
表1の結果より、絶縁電線の内部導体が露出するまでのサンドペーパーの移動距離が10m以上のものを合格とした場合、内部シース用材料にエチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体をエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して1〜5重量部含む樹脂組成物を用いることにより、合格水準の耐摩耗性が得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る難燃ケーブルを示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10…難燃ケーブル、20…絶縁電線部、21,22…絶縁電線、21a,22a…導電部、21b,22b…絶縁被覆、30…被覆部、31…第1被覆部、32…第2被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線部の外側に被覆部を有する難燃ケーブルであって、
前記被覆部は、前記絶縁電線部の外周を覆う第1被覆部と、前記第1被覆部の外周を覆う第2被覆部とを有し、
前記第1被覆部は、エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体が添加された樹脂組成物により形成され、
前記第2被覆部は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とし、メラミンシアヌレートが添加された樹脂組成物により形成されていることを特徴とする難燃ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の難燃ケーブルであって、
前記第1被覆部を形成する樹脂組成物100重量部に対し、前記エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体を1〜5重量部を含むことを特徴とする難燃ケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の難燃ケーブルであって、
前記絶縁電線部は、撚り合わされた複数本の絶縁電線を含むことを特徴とする難燃ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−146755(P2010−146755A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319836(P2008−319836)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】