説明

難燃及び衝撃改質剤、その製造方法、並びにそれを含む熱可塑性樹脂組成物

【課題】難燃性と衝撃強度とを向上させることができ、さらに樹脂の加工や燃焼時に環境汚染をもたらすハロゲン化水素ガスを排出しない,環境に優しい難燃及び衝撃改質剤を提供する。
【解決手段】下式1で表される難燃及び衝撃改質剤。及びオキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを反応させて2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートを製造し;次いで前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを反応させる;段階を含んでなる下式1で表される難燃及び衝撃改質剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃及び衝撃改質剤、その製造方法、並びにこれを含む熱可塑性樹脂組成物に関する。より具体的には、本発明は、特定の置換基を有するホスフェートを、難燃及び衝撃改質剤として適用することにより、難燃性と衝撃強度を向上させるだけでなく、耐熱性及び流動性の物性バランスの優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、加工性及び機械的特性に優れているためほとんどすべての電子製品に適用されている。しかしながら、熱可塑性樹脂そのものは着火しやすく、燃焼しやすいという特性を有していて、火災に対する抵抗性が低い。したがって、熱可塑性樹脂は発火源により容易に燃焼するため、火災をより拡散させることになる。かかる点を勘案して、安全性の観点から燃焼に対する種々の規制を設けている国が多く、電気製品へ使用するためには、UL規格(Underwriters Laboratories Standard)を満たした高い難燃性が必要とされる。
これまでに、熱可塑性樹脂の難燃化のためにハロゲン系化合物とアンチモン系化合物を適用して難燃性を付与する方法がよく知られている。ハロゲン系化合物としては、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、臭素置換されたエポキシ化合物及び塩素化ポリエチレンなどがよく利用されている。アンチモン系化合物としては、三酸化アンチモンと五酸化アンチモンが主に用いられている。
【0003】
ハロゲン系化合物とアンチモン系化合物を用いて難燃性を付与する方法は、製品に、低いコストで容易に所望の難燃性を付与できるため有用である。そのため、ハロゲン系化合物とアンチモン系化合物は、電気機器及び事務機器、またはABS樹脂、PS、PBT、PET、エポキシ樹脂などの材料の製品中に、難燃剤として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、ハロゲン系化合物は、加工時に発生するハロゲン化水素ガスが人体に致命的な影響を与えうる。さらに、ハロゲン系化合物とアンチモン系化合物は、環境中で分解しにくく水に不溶であるため、大気への残留性や生物蓄積性が高い。特に、代表的なハロゲン系難燃剤として用いられるポリブロモジフェニルエーテルの場合、燃焼時にダイオキシンまたはフランのような非常に有毒な物質が発生されるため、このようなハロゲン系化合物を用いない難燃化方法に関心が集まっている。
【0005】
ゴム変性スチレン系樹脂は、燃焼時にチャール(char)残量がほとんどないため、固体状での難燃性付与が難しい(非特許文献1)。したがって、所望の難燃性を得るために、円滑にチャールが形成されるようにチャール形成剤を添加する必要がある。
【0006】
これまでに、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性を付与する方法として、ホスフェート系難燃剤を用いることが知られている。しかしながら、難燃性が十分に効果を奏するためには、相対的に多量のホスフェート系難燃剤または難燃補助剤を添加しなければならないという問題がある。
【0007】
特許文献1には、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン樹脂にトリフェニルホスフェートを難燃剤として用いた難燃性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、このトリフェニルホスフェート含有樹脂組成物は、トリフェニルホスフェートの熱分解温度が低いため、樹脂加工時にジューシング現象(Juicing Phenomenon)を発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,639,506号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science,1998,vol.68,p.1067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、難燃性と衝撃強度とを向上させることができる、難燃及び衝撃改質剤を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、樹脂の加工や燃焼時に環境汚染をもたらすハロゲン化水素ガスを排出しない、環境にやさしい難燃及び衝撃改質剤を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、樹脂加工時にジューシング現象の発生を抑制した難燃及び衝撃改質剤を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、難燃性、衝撃強度、耐熱性、流動性などの優れた物性バランスを熱可塑性樹脂に付与することができる難燃及び衝撃改質剤を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、難燃性と衝撃強度を向上させることができる特定の置換基が導入された新たなホスフェート化合物の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記特定の置換基を有するホスフェート化合物を安定的及び効率的に製造することができる方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記特定の置換基を有するホスフェート化合物を難燃及び衝撃改質剤として用いることで、優れた物性バランスを有する熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的、特徴及び効果は、下記で説明される記述と請求項によりすべて達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記のような問題点を解決するため、特定の置換基を有するホスフェートを開発し、これを難燃及び衝撃改質剤として適用することにより、優れた難燃性及び衝撃強度を有するだけでなく、耐熱性及び流動性の物性バランスが優れた熱可塑性樹脂組成物を開発するに至った。
【0019】
本発明のひとつの形態としては、特定の置換基を有するホスフェート化合物を提供する。前記ホスフェート化合物は、難燃及び衝撃改質剤として用いることができる。具体例では、前記難燃及び衝撃改質剤は下記化学式1の構造を有する。
【0020】
【化1】

【0021】
実施形態としては、前記改質剤は、オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを金属触媒下で脱塩酸反応させて製造することができる。
【0022】
本発明の他の形態としては、前記改質剤は、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを反応させて製造することができる。
【0023】
本発明の他の形態としては、前記難燃及び衝撃改質剤の新たな製造方法を提供する。例としては、前記方法は、オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを反応させて2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートを製造し;及び前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを反応させる段階を含んでなる。
【0024】
本発明の実施形態としては、前記2,4−ジ−tert−ブチルフェノール1当量に対してオキシ塩化リン3〜6当量を反応させることができる。他の実施形態としては、前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェート1当量に対してフェノール2〜4当量を反応させることができる。
【0025】
本発明の他の形態としては、前記難燃及び衝撃改質剤を含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。実施形態としては、前記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部;及び前記難燃及び衝撃改質剤0.1〜30重量部を含んでなる。
【0026】
本発明の実施形態としては、前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)、ゴム変性ポリスチレン樹脂(HIPS)、ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂、ASA樹脂、MABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリビニルクロライド樹脂などを用いることができる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0027】
本発明の実施形態としては、前記熱可塑性樹脂は、ゴム変性ポリスチレン樹脂70〜99重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂1〜30重量%を含む。前記樹脂組成物は、UL94難燃度(1/8″)はV−1またはV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)は10〜50kgf・cm/cmである。
【0028】
本発明の実施形態としては、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂でありうる。前記樹脂組成物のUL94難燃度(1/8″)はV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)は58〜80kgf・cm/cmである。
【0029】
本発明の他の実施形態としては、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂55〜90重量%及びゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂10〜45重量%からなることができる。前記樹脂組成物のUL94難燃度(1/8″)はV−1またはV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)は55〜70kgf・cm/cmである。
【0030】
本発明の実施形態としては、前記樹脂組成物は、熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃補助剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料及び無機物充填剤などの添加剤を含むことができる。前記添加剤は、単独または2種以上混合して用いられることができる。以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートのH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェート及びその製造方法)
本発明のホスフェート化合物は、下記化学式1で表されるように、トリフェノールホスフェートのひとつのフェニル基において、t−ブチル基が特定の位置に存在することを特徴とする。
【0033】
【化2】

【0034】
トリフェニルホスフェートは難燃剤としてよく知られている。しかしながら、トリフェニルホスフェートによる難燃性の付与は効率的でない。そのため、十分な難燃性を得るためにトリフェニルホスフェートを多量に用いる必要があるが、多量に用いる場合、加工時にジューシング現象が発生するだけでなく、衝撃強度が低下するという問題がある。本発明の難燃及び衝撃改質剤は、トリフェノールホスフェートのひとつのフェニル基の特定の位置にt−ブチル基を導入することにより、難燃性だけでなく、衝撃強度も著しく改善し、優れた物性バランスを得ることができる。
【0035】
t−ブチル基ではなく、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基のような他のアルキル基を導入した場合、十分な難燃性を達成できず、加工時に難燃剤が揮発する場合がある。
【0036】
また、t−ブチル基を3,4−位置、2,6−位置または2,4,6−位置に導入する場合、合成が容易ではなく、製造工程が複雑になり、これにより製造費用が増加しうる。
【0037】
本発明の実施形態において、前記改質剤は、オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを金属触媒下で脱塩酸反応させて製造することができる。前記金属触媒としては、特に制限されないが、マグネシウムクロライド、アルミニウムクロライド、カルシウムクロライドなどの金属塩化物などを用いることができる。
【0038】
他の実施形態では、前記改質剤は、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを反応させて製造することができる。
【0039】
また本発明の実施形態では、オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを反応させて2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートを製造し、及び前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを反応させる段階を含んでなる。
【0040】
本発明の実施形態において、前記2,4−ジ−tert−ブチルフェノール1当量に対して、オキシ塩化リン3〜6当量、好ましくは4〜5当量を用いることができる。前記当量比で適用する場合、反応の完結性を高めることができ、副産物の生成量を最小化することができる。実施形態としては、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール1当量に対して、オキシ塩化リン3.5〜5.5当量を用いることができる。他の実施形態としては、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール1当量に対して、オキシ塩化リン4.5〜5.5当量を用いることができる。
【0041】
前記オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを反応させる際、反応温度は80〜160℃、好ましくは100〜150℃である。また、前記反応は金属触媒下、窒素雰囲気下で反応させるのが好ましい。前記金属触媒としては、マグネシウムクロライド、アルミニムクロライド、カルシウムクロライドなどの金属塩化物などが用いられる。本発明の実施形態において、前記金属触媒は、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール1当量に対して、0.01〜10当量、好ましくは0.01〜5当量用いることができる。前記当量比で適用する場合、不純物の含量を最小化することができて経済的に好ましい。反応時間は4〜15時間、好ましくは5〜10時間が適当である。本発明の実施形態においては、5.5〜8時間反応させることができる。
【0042】
前記オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを反応させると、液体性状の2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートが中間体として得られる。以後、前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを投入して反応させる。この時、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェート1当量に対して、フェノール2〜4当量を反応させるのが好ましい。前記当量比で適用する場合、反応の完結性を高めることができ、副産物を最小化することができる。本発明の実施形態において、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェート1当量に対して、フェノール2〜3.5当量を反応させることができる。他の実施形態としては、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェート1当量に対して、フェノール3〜4当量を反応させることができる。
【0043】
この際、前記フェノールと共に反応溶媒も投入することができる。用いられる反応溶媒としては、これに制限されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,4−ジオキサン、塩化メチレン、塩化エチレンなどを挙げることができる。これら溶媒は、単独または2種以上混合して用いられることができる。
【0044】
前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを添加し100〜130℃で4〜10時間程度攪拌すると、液体性状の2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートを得ることができる。実施形態としては、前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートとフェノールとの反応は、110〜130℃で4.5〜7.5時間程度行うことができる。
【0045】
さらに、実施形態においては、前記反応後に0〜40℃、好ましくは10〜30℃に冷却する段階を含むことができる。
【0046】
本発明の実施形態においては、さらに、前記製造された2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートはろ過及び乾燥段階を経ることができる。実施形態としては、ろ過して乾燥した生成物を洗浄した後、真空オーブンで乾燥して前記化学式1で表されるホスフェート化合物を85〜99%の収率で得ることができる。
【0047】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の他の形態においては、前記難燃及び衝撃改質剤を含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0048】
本発明の実施形態において、前記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部;及び前記難燃及び衝撃改質剤0.1〜30重量部を含む。
【0049】
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)、ゴム変性ポリスチレン樹脂(HIPS)、ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂、ASA樹脂、MABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリビニルクロライド樹脂などが用いられることができる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いられることができる。
【0050】
本発明の実施形態において、前記熱可塑性樹脂は、ゴム変性ポリスチレン樹脂70〜99重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂130重量%からなる。
【0051】
前記ゴム変性ポリスチレン樹脂は、ゴム質重合体と芳香族ビニル単量体とを重合して製造したものである。
【0052】
前記ゴム質重合体の例としては、これに制限されないが、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)共重合体、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)共重合体などのジエン系ゴム及び前記ジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、ポリブチルアクリル酸などのアクリル系ゴム、及びエチレン−プロピレン−ジエン単量体三元共重合体(EPDM)など及びこれらの混合物を用いることができ、好ましくはポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)共重合体、イソプレンゴム、アルキルアクリル酸類などが用いられる。
【0053】
本発明の実施形態において、前記ゴム質重合体の含量は、ゴム変性ポリスチレン樹脂全体重量中で3〜30重量%、好ましくは5〜15重量%が用いられる。実施形態において、前記ゴム質重合体の粒子直径は0.1〜4.0μmであるのが好ましい。実施形態では、ゴム質重合体が二相(bi−modal)または三相(tri−modal)の形態で分散されうる。
【0054】
前記芳香族ビニル単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレンなど及びこれらの混合物などを用いることができる。前記芳香族ビニル単量体は、ゴム変性ポリスチレン樹脂の全体重量中で70〜97重量%、好ましくは85〜95重量%を付加することができる。
【0055】
本発明のゴム変性ポリスチレン樹脂は、製造の際に耐化学性、加工性、耐熱性のような特性を付与するためにアクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどの単量体及びこれらの混合物を付加して重合することができる。前記単量体は、ゴム変性ポリスチレン樹脂全体に対して40重量%以下で添加することができる。
【0056】
前記ゴム変性ポリスチレン樹脂は、開始剤の存在なしに熱重合しうるが、開始剤の存在下でもまた任意に重合しうる。前記重合開始剤は、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物系開始剤またはアゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ系開始剤及びこれらの混合物の1種以上が選択されて用いられることができるが、これに制限されない。
【0057】
前記ゴム変性ポリスチレン樹脂は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合またはこれらの混合方法を用いて製造されうるが、好ましくは塊状重合である。
【0058】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂は、難燃性及び耐熱性を向上させるために用いられうる。
【0059】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体、及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリ(2,3,5−トリエチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体などが用いられることができ、これらの混合物も適用することができる。好ましくは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが用いられ、このうちポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが最も好ましい。
【0060】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂の重合度は、特に制限されないが、樹脂組成物の熱安定性や作業性により変動しうる。前記ポリフェニレンエーテル樹脂の粘度としては、25℃のクロロホルム溶媒で測定された粘度が0.2〜0.8g/Dlであるのが好ましい。
【0061】
本発明によれば、前記ポリフェニレンエーテル樹脂を1〜30重量%の範囲で用いることができる。前記範囲で用いる場合、優れた難燃性、熱安定性及び作業性を得ることができる。好ましくは、15〜30重量%である。
【0062】
基材樹脂として、ゴム変性ポリスチレン樹脂70〜99重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂1〜30重量%のブレンドを用いる場合、本発明の難燃及び衝撃改質剤は、基材樹脂100重量部に対して10〜30重量部、好ましくは15〜25重量部で用いることができる。このような樹脂組成物は、UL94難燃度(1/8″)がV−1またはV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)が10〜50kgf・cm/cmである。
【0063】
他の実施形態においては、前記熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂でありうる。前記ポリカーボネート樹脂は、10,000〜500,000g/molの重量平均分子量、好ましくは15,000〜100,000g/molの重量平均分子量を有することができる。重量平均分子量が10,000〜500,000g/molの範囲である場合、機械的物性及び成形性のバランスが優れたものが得られる。
【0064】
前記ポリカーボネート樹脂としては直鎖状ポリカーボネート樹脂だけでなく、分枝状ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート共重合体樹脂を制限なく用いることができる。
【0065】
ポリカーボネート樹脂を基材樹脂として用いる場合、本発明の難燃及び衝撃改質剤は、基材樹脂100重量部に対して1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部で用いることができる。このような樹脂組成物はUL94難燃度(1/8″)がV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)が58〜80kgf・cm/cmを有することができる。
【0066】
また、他の例としては、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂55〜90重量%及びゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂10〜45重量%からなることができる。
【0067】
本発明の実施例において、前記ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂は、ゴム質重合体単位20〜50重量%、芳香族ビニル単位40〜60重量%及びシアン化ビニル単位10〜30重量%からなることができる。
【0068】
前記ゴム質重合体の例としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)共重合体、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)共重合体などのジエン系ゴム及び前記ジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、ポリブチルアクリル酸などのアクリル系ゴム及びエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)またはそれらの組合せなどを挙げることができる。このうち、特にジエン系ゴムが好ましく、ブタジエン系ゴムがより好ましい。前記ゴムの粒子の平均直径は、衝撃強度及び外観を考慮して0.1〜4μmの範囲が好ましい。
【0069】
前記芳香族ビニル単位としては、これに制限されないが、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタリンなど及びこれらの混合物を用いることができる。このうち、スチレンが最も好ましい。
【0070】
前記シアン化ビニル単位としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリルなどまたはそれらの組合せが挙げられるが、このうちアクリロニトリルが最も好ましい。
【0071】
また、前記ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂に、これに制限されないが、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、及びN−置換マレイミドなどのような単量体を共に重合することができ、加工性及び耐熱性をより向上させることができる。
【0072】
基材樹脂としてポリカーボネート樹脂55〜90重量%及びゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂10〜45重量%を用いる場合、本発明の難燃及び衝撃改質剤は基材樹脂100重量部に対して15〜30重量部、好ましくは20〜25重量部で用いることができる。このような樹脂組成物は、UL94難燃度(1/8″)がV−1またはV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)が55〜70kgf・cm/cmである。
【0073】
前記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などを用いることができる。基材樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いる場合、本発明の難燃及び衝撃改質剤は、基材樹脂100重量部に対して1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部で用いることができる。
【0074】
前記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを用いることができる。基材樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、本発明の難燃及び衝撃改質剤は、基材樹脂100重量部に対して5〜25重量部、好ましくは10〜20重量部で用いられることができる。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃補助剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料及び無機物充填剤などの添加剤を含むことができる。前記添加剤は単独または2種以上混合して用いることができる。無機物添加剤の例としては、石綿、ガラス繊維、タルク、セラミック及び硫酸塩などがあり、これらは全体樹脂組成物に対して30重量部以下で用いることができる。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、前記構成成分と他の添加剤とを同時に混合した後、押出器内で溶融押出してペレット形態に製造されうる。前記製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、キャスティング成形などの多様な成形方法を通じて多様な成形品に製造されうる。
【0077】
本発明の他の形態は、前記樹脂組成物を成形した成形品を提供する。前記成形品は、耐衝撃性、流動性、難燃性、熱安定性などが優れており、ジューシング現象の発生が抑えられるため、電気電子製品の部品、外装材、自動車部品、雑貨、構造材などに広範囲に適用できる。
【0078】
本発明は、下記の実施例により一層理解でき、下記の実施例は本発明の例示のためであり、添付された特許請求の範囲により限定される保護範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0079】
(製造例:2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートの製造)
オキシ塩化リン(767g、5.0mol)、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール(206g、1mol)及びマグネシウムクロライド(1g、0.01mol)を容器に入れて、窒素雰囲気下、130℃で6時間攪拌した。容器温度を90℃に冷却し、減圧して残オキシ塩化リンを回収し、フェノール(188g、2mol)とトルエン(1L)を追加して窒素雰囲気下、130℃で5時間攪拌した。反応終了後、温度を室温まで冷却し、水(1L)を追加して攪拌し、有機層を取った後、減圧蒸留して純度98%以上、収率95%の2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートを得た。
【0080】
【化3】

【0081】
<実施例1>
ゴム変性スチレン樹脂(HIPS、HG−1760S、第一毛織(株)製造)75重量部と三菱エンジニアリングプラスチックス社製のポリ(2,6−ジメチル−フェニルエーテル)(PPE商品名:PX−100F)25重量部とからなるブレンドに、前記製造例で製造された2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートを下記表1の比率で投入し、通常の二軸押出器で200〜280℃の温度範囲で押出してペレットを製造した。製造されたペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出器で成形温度180〜280℃、金型温度40〜80℃の条件で射出して難燃試片を製造した。製造した試片は、UL94VB難燃規定により1/8″の厚さで難燃度を測定し、衝撃強度は、アイゾット衝撃試験ASTM D256(1/8″ノッチ、kgf・cm/cm)に準じた。
<実施例2〜3>
基材樹脂をポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製のPanlite L−1225 Grade)を用いて、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートの含量を下記表1に示す量に変更した以外は、前記実施例1と同様に行った。
【0082】
<実施例4>
基材樹脂をポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製のPanlite L−1225 Grade)とABS(g−ABS/SAN=3/7、g−ABSは第一毛織(株)製のCHT、SANは第一毛織(株)製のAP−70)を用いて、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートの含量を下記表1に示す量に変更した以外は、前記実施例1と同様に行った。
【0083】
<比較例1〜4>
下記表1に表した組成で、難燃剤としてトリフェニルホスフェート(大八化学工業株式会社製)を用いた以外は、前記実施例1と同様に行った。測定の結果を全て表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、トリフェニルホスフェートを適用した比較例に比べ、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートを用いた実施例は、1/8″の厚さでの難燃性及び衝撃強度が優れていることが分かる。
【0086】
<比較例5〜8>
難燃剤として2,4,6−トリメチルフェニルジフェニルホスフェートを用いた以外は、前記実施例1〜4と同様に行った。測定の結果を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示すように、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェートを用いる場合、2,4,6−トリメチルフェニルジフェニルホスフェートを適用する場合に比べ、1/8″の厚さでの難燃性及び衝撃強度が優れていることが分かる。
【0089】
本発明の単純な変形ないし変更は、この分野の通常の知識を有する者により容易に実施でき、このような変形や変更は全て本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される、難燃及び衝撃改質剤。
【化1】

【請求項2】
オキシ塩化リンと2,4−ジ−tert−ブチルフェノールとを反応させて2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートを製造し;及び
前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェートにフェノールを反応させる;
段階を含んでなる下記化学式1で表される難燃及び衝撃改質剤の製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記2,4−ジ−tert−ブチルフェノール1当量に対してオキシ塩化リン3〜6当量を反応させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記2,4−ジ−tert−ブチルフェニルジクロロホスフェート1当量に対してフェノール2〜4当量を反応させる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂100重量部;及び
下記化学式1で表される難燃及び衝撃改質剤0.1〜30重量部;
を含んでなる、熱可塑性樹脂組成物。
【化3】

【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)、ゴム変性ポリスチレン樹脂(HIPS)、ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂、ASA樹脂、MABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリビニルクロライド樹脂よりなる群から一つ以上選択される、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は、ゴム変性ポリスチレン樹脂70〜99重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂1〜30重量%からなることを特徴とする、請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
UL94難燃度(1/8″)がV−1またはV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)が10〜50kgf・cm/cmである、請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂であり、樹脂組成物のUL94難燃度(1/8″)がV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)が58〜80kgf・cm/cmであることを特徴とする、請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂55〜90重量%及びゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂10〜45重量%からなり、樹脂組成物のUL94難燃度(1/8″)がV−1またはV−0であり、ASTM D256により測定した衝撃強度(1/8″ノッチ)が55〜70kgf・cm/cmであることを特徴とする、請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃補助剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料及び無機物充填剤よりなる群から選択される少なくとも一つ以上の添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項6〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−13649(P2010−13649A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159245(P2009−159245)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】