説明

難燃性エラストマー組成物

【課題】本発明は、良好な難燃性を有しつつ、ソフト感に優れる難燃性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
パッキンに要求されるゴム弾性とソフト感を得るために重量平均分子量が15万〜50万であり、スチレン系単量体の含有量が20質量%以上であり、1,2−ビニル結合量が50質量%未満である水添ブロック共重合体(a)、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)、ポリプロピレン系樹脂(c)を使用し、良好な難燃性を付与するためにリン酸塩系難燃剤(d)、フッ素系樹脂(e)を添加し、軟化剤、難燃剤等の添加によるブリードの発生、分散性の悪化、ソフト感の低下を抑制するために金属石鹸(f)を添加して、JIS K 6253に準拠する方法で測定されたタイプAの硬度を70以下としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品等のパッキンの材料として使用される難燃性エラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記パッキンの材料として、所望のソフト感(柔らかさ)が得られることからスチレン系エラストマー組成物を使用しているが、近年は家電製品への難燃化の要求に伴い、エラストマー組成物の難燃化が要求されている。
エラストマー組成物を難燃化する場合には、該組成物に難燃剤が添加されるが、難燃剤としてハロゲン化合物、リン酸エステル化合物を添加し、これら難燃剤に加えて更にフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を添加したものが提案されている(特許文献1参照)。
なお、ハロゲン化合物については、焼却処理時にダイオキシン等の有毒ガスを発生させるおそれがあるため、近時はリン酸エステル化合物が主に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−310707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来のように難燃剤とPTFEを併用した場合、得られるエラストマー組成物は、上記パッキンとして使用するにはソフト感(柔らかさ)に乏しいものとなってしまう。そこで、上記パッキンとして使用するエラストマー組成物は、軟化剤と難燃剤の両方を増量して添加することにより、所望とする難燃性を維持したままでソフト感(柔らかさ)を得ている。しかし、得られるエラストマー組成物は、軟化剤を多量に含むためにブリード(樹脂表面のべたつき)が発生したり、難燃剤を多量に含むために分散不良が起こるため、これらが成形不良につながってしまうことが問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、良好な難燃性を有しつつ、ソフト感に優れる難燃性エラストマー組成物を提供することを課題とするものであり、本発明にあっては、スチレン系重合体ブロック(S)と、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなる水素添加されたブロック共重合体であって、重量平均分子量が15万〜50万であり、スチレン系単量体の含有量が20質量%以上であり、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の1,2−ビニル結合量が50質量%未満である水添ブロック共重合体(a)が100質量部、40℃における動粘度が80〜400cStである非芳香族系ゴム用軟化剤(b)が100〜200質量部、ポリプロピレン系樹脂(c)が5〜40質量部、リン酸塩系難燃剤(d)が250〜400質量部、フッ素系樹脂(e)が1〜10質量部、金属石鹸(f)が1〜15質量部、からなり、JIS K 6253に準拠する方法で測定されたタイプAの硬度が70以下である難燃性エラストマー組成物が提供される。
また上記ポリプロピレン系樹脂(c)は、メルトフローレート(MFR)(230℃×21.2N(2.16kg重))が1000g/10min以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
上記水添ブロック共重合体(a)、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)、ポリプロピレン系樹脂(c)、の混合物に、リン酸塩系難燃剤(d)とフッ素系樹脂(e)を添加すると、難燃性の良好なエラストマー組成物が得られ、さらに金属石鹸(f)を添加することにより、得られるエラストマー組成物にソフト感(柔らかさ)を付与しつつ、難燃剤の分散性を改良して難燃性を向上せしめることができる。従って、本発明の難燃性エラストマー組成物は、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)とリン酸塩系難燃剤(c)とを増量して添加する必要がなくなることで、良好な難燃性を示しつつ、ソフト感に優れたものとなる。
またメルトフローレート(MFR)(230℃×21.2N(2.16kg重))が1000g/10min以上の流動性が高いポリプロピレン(c)を使用することにより、金型内の流動性が良くなり、成形性を良好なものとすることができる。
【0007】
〔効果〕
本発明では、良好な難燃性を有しつつ、ソフト感に優れる難燃性エラストマー組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔水添ブロック共重合体(a)〕
本発明に使用する水添ブロック共重合体(a)とは、スチレン系重合体ブロック(S)と、共役ジエン化合物を含む重合体ブロック(B)とからなるものであって、前記共役ジエン化合物重合体ブロック(B)は、一部または全部が水素添加されている。
上記スチレン系重合体ブロック(S)としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t(ターシャリー)−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等のスチレン系単量体の重合体ブロックが例示される。これらスチレン系重合体ブロック(S)は単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。望ましいスチレン系重合体ブロック(S)としてはスチレンがある。
上記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が例示され、これら共役ジエン化合物は単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。望ましい共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレンがある。
【0009】
上記水添ブロック共重合体(a)としては、重量平均分子量(Mw)が15万以上、50万以下であり、スチレン系単量体の含有量が20質量%以上であり、さらに共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の1,2−ビニル結合量が50質量%未満であるものが使用される。
上記重量平均分子量(Mw)が15万未満の場合、得られる難燃性エラストマー組成物は、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)等のオイル成分をその内部に保持することができなくなるため、ブリードが発止する。重量平均分子量(Mw)が50万を超える場合、得られる難燃性エラストマー組成物の流動性が悪くなるため、成形性が悪化する。
上記スチレン系単量体の含有量が20質量%未満の場合、得られる難燃性エラストマー組成物は、スチレン分子の集合内にオイル成分を保持するが、そのスチレン分子の集合に隙間が生じるため、ブリードが発生する。
上記共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の1,2−ビニル結合量が50質量%を超える場合、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の側鎖が必要以上に増えることになり空間的な隙間が多数生じる。そこから、低分子成分が流れ出やすくなり、得られるエラストマー組成物にべたつきが発生してしまう。望ましい共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の1,2−ビニル結合量は、10〜40質量%の範囲である。
また上記水添ブロック共重合体(a)においては、上記水添ブロック共重合体(a)中の共役ジエン化合物を含む重合体ブロック(B)の共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されていることが望ましい。
【0010】
上記水添ブロック共重合体(a)の具体例としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。本発明に用いられる水添ブロック共重合体(a)には、所望に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0011】
〔非芳香族系ゴム用軟化剤(b)〕
非芳香族系ゴム用軟化剤(b)は、難燃性エラストマー組成物の硬度調節のために添加される。従来から使用されている公知のゴム用軟化剤として、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アスファルト系オイル等の鉱物油系軟化剤、脂肪油系、松根油系、トールオイル、ファクチス等の植物油系軟化剤、タール類、クマロンインデン樹脂等のコールタール系軟化剤、フェノール樹脂低縮合物、低融点スチレン樹脂、ポリブテン、ターシャリィブチルフェノールアセチレン縮合物等の液状もしくは低分子量合成樹脂等が挙げられる。本発明ではこれらの中で非芳香族系のものが使用され、なかでもパラフィン系オイルは、上記水添ブロック共重合体(a)との相溶性が良好であるため、望ましい。
上記非芳香族系ゴム用軟化剤(b)には、得られるエラストマー組成物を所定の硬度としつつ、ブリードの発生を抑えるという観点から、JIS K2283に準拠した方法によって測定された40℃における動粘度が、80センチストークス(cSt)以上、400cSt以下のものが使用される。動粘度(40℃)が80cSt未満の場合、得られるエラストマー組成物の難燃性が悪化する。動粘度(40℃)が400cStを超える場合、流動性が悪くなり、得られるエラストマー組成物の成形性が悪くなる。
【0012】
〔ポリプロピレン系樹脂(c)〕
ポリプロピレン(PP)系樹脂(c)は、難燃性エラストマー組成物の硬度調節のために添加される。本発明に使用されるポリプロピレン系樹脂(c)としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン単独重合体に若干のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ゴム等を混合したもの等が含まれる。
上記ポリプロピレン系樹脂(c)においては、得られる難燃性エラストマー組成物の流動性を高めてより良好なソフト感を付与できるという観点から、メルトフローレート(MFR)(230℃×21.2N(2.16kg重))が1000g/10min以上のものが使用されることが望ましい。
【0013】
〔リン酸塩系難燃剤(d)〕
リン酸塩系難燃剤(d)は、エラストマー組成物に難燃性を付与するために添加される。本発明のリン酸塩系難燃剤(d)としては、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸塩や、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート等のリン酸エステル、などが例示される。これらの中でもリン酸エステルは、得られる難燃性エラストマー組成物の高温時の変色が少ないため望ましく、またアンモニア性でない窒素を含有するリン酸塩系難燃剤は、高温時の変色が殆どなく、耐候性、耐水性に極めて優れているため望ましい。
上記アンモニア性でない窒素を有するリン酸塩系難燃剤としては、以下の難燃剤1から難燃剤3の3種類が例示される。
【0014】
[難燃剤1]
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(3)で表される化合物との混合物。

【化1】

(式中、Xは〔RN(CHNR〕、ピペラジン又はピペラジン環を含むジアミンである。ここに、R、R、RおよびRは、それぞれH原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であり、互いに同一であっても、又異なっていてもよく、mは1〜10の整数である。YはNH又は下記一般式(2)で示されるトリアジン誘導体であり、nは1〜100の整数である。)

【化2】

(式中、Z及びZは同一でも異なっていてもよく、−NRで示される基、水酸基、メルカプト基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐アルコキシル基、フェニル基及びビニル基からなる群より選ばれる基である。ここに、−NR基のR及びRはH原子、炭素数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基、又はメチロール基であり、互いに同一であっても、又異なっていてもよい。)
【化3】

【0015】
[難燃剤2]
上記一般式(4)で表される化合物または上記一般式(5)で表される化合物と、上記一般式(6)で表される化合物との組合わせ。

【化4】

(式中、X、Y及びnは上記の一般式(1)で示すものと同様である。但し、0<p≦n+2、0<q≦n+2かつ0<p+q≦n+2)
【化5】

(式中、X、p及びnは上記一般式(4)で示すものと同様である。)
【化6】

(式中、Y、q及びnは上記一般式(4)で示すものと同様である。)
【0016】
[難燃剤3]
上記一般式(5)で表される化合物と、上記一般式(6)で表される化合物と、上記一般式(7)または一般式(8)で表される化合物との配合物。

【化7】

(式中、Rは炭素原子数6〜24の直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基を示し、Rは炭素原子数2〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、rは0〜20の整数を示す)
【0017】
上記リン酸塩系難燃剤(d)は特開2000−169731号公報、特開2003−26935号公報、特開2004−238568号公報に詳記されている。
上記リン酸塩系難燃剤(d)のpHは4以上であることが望ましい。pH4以下のものは難燃性エラストマー組成物を混練調合する場合や、押出成形又は射出成形する場合、混練機や成形機を激しく腐蝕するおそれがあり、またリン含有量が15質量%未満、窒素含有量が15質量%未満の場合には、難燃性エラストマー組成物の難燃性が悪化する。
【0018】
〔フッ素系樹脂(e)〕
フッ素樹脂(e)は、上記リン酸塩系難燃剤(d)による難燃性を向上させるために添加される。本発明において使用するフッ素系樹脂(e)としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリテトラフルオロエチレン−ヘキシルフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が例示される。
望ましいフッ素系樹脂(e)としては、アクリル変性PTFEが挙げられる。アクリル変性PTFEは、PTFE(A)と炭素数5〜30のアルキル(メタ)アクリレート系重合体(B)とからなるPTFE変性物(特許第2942888号)、あるいはPTFE(A)の含有量が40〜70質量部、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルとを有しており、これら構成単位を合計量で70質量%以上含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体(B)の含有量が30〜60質量部であるPTFE変性物(特許第3909020号)である。
上記アクリル変性PTFEは、難燃性エラストマー組成物の難燃性を向上せしめるばかりでなく、本発明の難燃性エラストマー組成物の溶融物の表面張力を向上せしめ、押出成形の際に押出機のダイスから該熱可塑性樹脂配合物の溶融物が垂れ下がるドローダウン現象や、ダイスに該熱可塑性樹脂配合物の溶融物の凝固物が固着してしまう目やに現象の発生を抑制する、と云う効果を有する。
【0019】
〔金属石鹸(f)〕
金属石鹸(f)は、上記リン酸塩系難燃剤(d)を好適に分散させてその添加量を少なくすることにより、難燃性エラストマー組成物にその難燃性は維持したままでソフト感を付与するために添加される。本発明において使用する金属石鹸(f)は、高級脂肪酸の金属塩であり、高級脂肪酸として、ステアリン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、ラウリン酸等が例示され、金属としてマグネシウム、カルシウム、リチウム、バリウム、ナトリウム、亜鉛等が例示される。これら金属石鹸(f)の中でも、流動性が極めて良好であり、融点が160℃以下であるため混練時に分散しやすいステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムを使用することが望ましい。
上記ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムは、上記リン酸塩系難燃剤(d)の分散性を上げて難燃性を向上せしめ、更に得られる難燃性エラストマー組成物の硬度を下げてソフト感(柔らかさ)を付与することができ、また得られる難燃性エラストマー組成物の流動性を向上させることができる。
【0020】
〔その他成分〕
上記成分以外、例えばケイ素、ホウ素、アルミニウム、亜鉛、スズ、マグネシウム、カルシウム、バリウム等の金属(類金属を含む)の酸化物および/または水酸化物を添加してもよい。上記金属の酸化物や水酸化物は、本発明の難燃性エラストマー組成物の難燃性を向上せしめる。
【0021】
なお、本発明の難燃性エラストマー組成物は、例えば変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE)等のポリフェニレンエーテル系樹脂を添加することなく、所望とする難燃性を実現したことも特徴の一つとして挙げられる。
すなわち、上記リン酸塩系難燃剤(d)は、難燃性を向上させる反面、分散性の悪さに起因して難燃性エラストマー組成物の硬度を必要以上に上げてしまうため、添加量を可能な限り少なくするために難燃助剤として従来はフッ素系樹脂(e)に加え、さらにポリフェニレンエーテル系樹脂を添加していた。しかし本発明は、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を添加し、さらに金属石鹸(f)を軟化助剤として添加することにより、難燃剤の分散性を好適に改良しているため、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)とリン酸塩系難燃剤(c)とを増量して添加する必要がなく、難燃性が良好でソフト感に優れる難燃性エラストマー組成物を得ている。
【0022】
〔配合〕
上記水添ブロック共重合体(a)が100質量部に対し、上記非芳香族系ゴム用軟化剤(b)は、100〜200質量部が添加される。非芳香族系ゴム用軟化剤(b)の添加量が100質量部未満の場合、得られる難燃性エラストマー組成物が硬くなってソフト感(柔らかさ)がなくなり、また流動性が悪くなって得られる難燃性エラストマー組成物の成形性が悪くなる。非芳香族系ゴム用軟化剤(b)の添加量が200質量部を超える場合、難燃性エラストマー組成物中に軟化剤が過剰に含まれることになり、ブリードアウト(樹脂表面のべたつき)が発生する。
上記水添ブロック共重合体(a)が100質量部に対し、ポリプロピレン系樹脂(c)は、5〜40質量部添加される。PP系樹脂(c)の添加量が5質量部未満の場合には難燃性エラストマー組成物の成形性が悪くなり、40質量部を超えると難燃性エラストマー組成物の硬度が高くなってソフト感(柔らかさ)がなくなる。
【0023】
上記水添ブロック共重合体(a)が100質量部に対し、リン酸塩系難燃剤(d)は、250〜400質量部添加される。リン酸塩系難燃剤(d)の添加量が250質量部未満の場合には難燃性エラストマー組成物の難燃性が低くなり、400質量部を超える場合には難燃性エラストマー組成物が硬くなり、ソフト感(柔らかさ)がなくなり、流動性が悪くなって得られる難燃性エラストマー組成物の成形性が悪化する。
上記水添ブロック共重合体(a)が100質量部に対し、フッ素系樹脂(e)は、1〜10質量部添加される。フッ素系樹脂(e)を添加しない場合には難燃性エラストマー組成物の難燃性が向上せず、10質量部を超えるとフッ素系樹脂(e)自身の分散性が低下する。
【0024】
上記水添ブロック共重合体(a)が100質量部に対し、金属石鹸(f)は、1〜15質量部添加される。金属石鹸(f)の添加量が1質量部未満の場合には上記リン酸塩系難燃剤(d)の分散性を向上させることができず、得られる難燃性エラストマー組成物にソフト感(柔らかさ)を付与することができない。金属石鹸(f)の添加量が15質量部を超える場合には得られる難燃性エラストマー組成物に金属石鹸(f)によるブリードアウトが発生する。
【0025】
上記(a)〜(f)を混合して得られたエラストマー組成物は、JIS K 6253に準拠する方法で測定されたタイプAの硬度が70以下であり、望ましくは30以上、70以下である。タイプAの硬度が70を超えると、所望とするソフト感(柔らかさ)が得られない。
なお、上記(a)〜(f)の成分以外にも、所望により本発明の特徴を損なわない範囲で必要に応じて他の配合成分を配合することができる。
【0026】
〔難燃性エラストマー組成物の製造〕
上記難燃性エラストマー組成物を製造するには、通常非芳香族系ゴム用軟化剤(b)以外の(a)〜(f)成分をドライブレンドして、続いて非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を添加含浸させて混合物を調整する。該混合物は下記の条件で押出機で溶融混練して紐状に水中に押出し、カッターでカットしてペレット状にする。
このようにして作成したペレットは押出成形、射出成形等に使用される。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例を記載する。
1. 使用原料の詳細
〔水添ブロック共重合体〕
SEBS:クレイトンG1651(商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製)、重量平均分子量(Mw):約24.7万、スチレン含有量:33%、1,2−ビニル結合量:37質量%
〔非芳香族系ゴム用軟化剤〕
パラフィンオイル:PW−100〔商品名、出光興産(株)製〕、動粘度(40℃):99.4cSt
パラフィンオイル:PW380〔商品名、出光興産(株)製〕、動粘度(40℃):383cSt
パラフィンオイル:マーコールN172〔商品名、エクソンモービル製〕、動粘度(40℃):32.5cSt
パラフィンオイル:スーパーオイルM460〔商品名、新日本石油製〕、動粘度(40℃):467cSt
〔PP系樹脂〕
PX600N〔商品名、サンアロマー(株)製〕、MFR(230℃×21.2N):7.5g/10min
PWH00N〔商品名、サンアロマー(株)製〕、MFR(230℃×21.2N):1500g/10min以上
〔リン酸塩系難燃剤〕
アデカFP2200〔商品名、ADEKA社製〕、リン酸塩系難燃剤(一般式(1)の化合物と一般式(3)の化合物との混合物、pH約4.5、リン含有量16〜20%、窒素含有量19〜23%
〔フッ素系樹脂〕
メタブレンA3000〔商品名、三菱レーヨン社製〕、アクリル変性PTFE
〔分散剤〕
・金属石鹸系分散剤
SM1000〔商品名、堺化学製〕、ステアリン酸マグネシウム
SC100〔商品名、堺化学製〕、ステアリン酸カルシウム
・モノグリセライド系分散剤
ポエムOL-200V〔商品名、理研ビタミン製〕、グリセリン・モノ・ジオレート
【0028】
2. ペレットの製造方法
パラフィンオイル以外の材料をドライブレンドし、これにパラフィンオイルを含浸させて混合物を作製する。その後、混合物を下記の条件で押出機で溶融混練して、熱可塑性組成物のペレットを製造する。
押出機:株式会社テクノベル製 KZW32TW-60MG-NH
シリンダー温度:180〜200℃
スクリュー回転数:300rpm
【0029】
3. テストピースの成形条件
射出成形機 :三菱重工業株式会社製 100MSIII−10E
射出成形温度:170℃
射出圧力 :30%
射出時間 :10秒
金型温度 :40℃
上記条件で厚さ2mm、幅125mm、長さ125mmのプレートを作成した。
【0030】
4. 評価方法
硬さ測定:硬さ測定は、厚さ6mmの試験片を用いJIS K6253Aに準拠して行った。
難燃性試験(UL規格):UL−V規格に準拠して行った。(試験片厚み1.5mm)
ブリードの有無:成形後、25℃で3日間静置したプレートの表面を目視した。
分散:厚さ2mmの試験片を用い、難燃性試験(UL規格)で得られた結果にばらつきの無いものは分散状態が良いものとして「○」と判定し、ばらつきの有るものは分散状態が悪いものとして「×」と判定した。
MFR:ASTM D 1238(200℃×49N(5.00kg重))に準拠して行い、10分換算の値を測定した。測定不能のものはNFとした。
なお、上記水添ブロック共重合体(a)の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法で測定した。
〔GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法によるポリスチレン換算分子量測定〕
測定条件
a)測定機器:SIC Autosampler Model09
Sugai U―620 COLUMN HEATER
TYPE 30VP
Uniflows UF−3005S2B2
b)検出器:MILLIPORE Waters410
Differential Refractometer
c)カラム:Shodex KF806M×2本
d)オーブン温度:40℃
e)溶解液:THF 1.0ml/min
f)標準試料:ポリスチレン
g)注入量:100μl
h)濃度:0.020g/10ml
i)試料調製:2,6−ジ−t−ブチル−p−フェノール(BHT)を0.2重量%添加したTHFを溶媒とし、室温で攪拌して溶解させた。
j)補正:検量線測定時と試料測定時とのBHTのピークのずれを補正して、分子量計算を行った。
【0031】
5. 結果
〔実施例〕
実施例1〜実施例4のエラストマー組成物の配合および評価を表1に、実施例5〜実施例7のエラストマー組成物の配合および評価を表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
実施例1〜実施例7については、難燃性が良好でありながらも、パッキンとして要求されるソフト感(柔らかさ)を有する難燃性エラストマー組成物が得られた。またブリードも発生せず、難燃剤の分散性もよく、流動性も好適であった。
なお、MFR(230℃×21.2N)が1000g/10min以上のPP系樹脂を使用した実施例1は、実施例4に比べて、流動性の高いPPの組成を2質量%程度増加させるだけで流動性が良好なエラストマー組成物が得られた。これによりPP系樹脂(c)にはMFR(230℃×21.2N)が1000g/10min以上のものを使用することが望ましいことが示された。
【0035】
〔比較例〕
比較例1〜比較例4のエラストマー組成物の配合および評価を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
比較例1は、金属石鹸(f)を添加しなかった試料であり、分散状態が悪く、難燃性が悪くなった。
比較例2は、金属石鹸(f)を添加せず、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を200質量部を超えて(250質量部)添加した試料であり、難燃性が悪くなり、ブリードが発生した。
比較例3は、MFR(230℃×21.2N)が1000g/10min未満のPP系樹脂(c)を使用したうえ、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を100質量部未満(70質量部)、PP系樹脂(c)を5質量部未満(3質量部)、リン酸塩系難燃剤(d)を250質量部未満(240質量部)で添加した試料であり、A硬度が70を超え(A72)、分散状態が悪く、さらにMFR(200℃×49N)が悪く流動性が悪かった。
比較例4は、MFR(230℃×21.2N)が1000g/10min未満のPP系樹脂(c)を使用したうえ、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を200質量部より超過(220質量部)、PP系樹脂(c)を40質量部より超過(50質量部)、リン酸塩系難燃剤(d)を400質量部より超過(450質量部)して添加した試料であり、A硬度が70を超え(A75)、ブリードが発生した。
【0038】
比較例5〜比較例8のエラストマー組成物の配合および評価を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
比較例5は、フッ素系樹脂(e)を添加しなかった試料であり、難燃性が悪くなった。
比較例6は、フッ素系樹脂(e)を10質量部を超過して(15質量部)添加した試料であり、分散状態が悪くなった。
比較例7は、金属石鹸(f)を添加しなかった比較例1よりもさらに非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を減量(160質量部から130質量部に減量)した試料であり、A硬度が70を超え(A72)、分散状態が悪く、さらにMFR(200℃×49N)が悪く流動性が悪かった。
比較例8は、金属石鹸(f)を1質量部未満(0.1質量部)で添加した試料であり、A硬度が70を超え(A71)、分散が悪かった。
【0041】
比較例9〜比較例12のエラストマー組成物の配合および評価を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
比較例9は、金属石鹸(f)を15質量部を超過(20質量部)して添加した試料であり、ブリードが発生した。
比較例10は、分散剤として金属石鹸(f)ではなく、モノグリセライド系分散剤を使用した試料であり、ブリードが発生した。
比較例11は、非芳香族系ゴム用軟化剤(b)を100質量部未満(80質量部)で添加した試料であり、A硬度が70を超え(A80)、分散が悪く、さらにMFR(200℃×49N)が悪く流動性が悪かった。
比較例12は、非芳香族系ゴム用軟化剤として動粘度(40℃)が80cSt未満のものを添加した試料であり、難燃性が悪かった。
【0044】
比較例13〜比較例15のエラストマー組成物の配合および評価を表6に示す。
【0045】
【表6】

【0046】
比較例13は、非芳香族系ゴム用軟化剤として動粘度(40℃)が400cStを超えるものを添加した試料であり、MFR(200℃×49N)が悪く流動性が悪かった。
比較例14は、MFR(230℃×21.2N)が1000g/10min未満のPP系樹脂(c)を使用したうえ、PP系樹脂(c)を5質量部未満(3質量部)で添加した試料であり、分散が悪く、MFR(200℃×49N)が悪く流動性が悪かった。
比較例15は、MFR(230℃×21.2N)が1000g/10min未満のPP系樹脂(c)を使用したうえ、PP系樹脂(c)を40質量部を超過(50質量部)して添加した試料であり、A硬度が70を超えた(A73)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の難燃性エラストマー組成物は、良好な難燃性を有しつつ、ソフト感(柔らかさ)に優れるから、パッキン等の材料として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系重合体ブロック(S)と、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなる水素添加されたブロック共重合体であって、重量平均分子量が15万〜50万であり、スチレン系単量体の含有量が20質量%以上であり、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の1,2−ビニル結合量が50質量%未満である水添ブロック共重合体(a)が100質量部、
40℃における動粘度が80〜400cStである非芳香族系ゴム用軟化剤(b)が100〜200質量部、
ポリプロピレン系樹脂(c)が5〜40質量部、
リン酸塩系難燃剤(d)が250〜400質量部、
フッ素系樹脂(e)が1〜10質量部、
金属石鹸(f)が1〜15質量部、
からなり、JIS K 6253に準拠する方法で測定されたタイプAの硬度が70以下であることを特徴とする難燃性エラストマー組成物。
【請求項2】
上記ポリプロピレン系樹脂(c)は、メルトフローレート(MFR)(230℃×21.2N(2.16kg重))が1000g/10min以上である請求項1に記載の難燃性エラストマー組成物。



【公開番号】特開2010−180326(P2010−180326A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25073(P2009−25073)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】