説明

難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】 ポリブチレンテレフタレート樹脂が持つ優れた成形性および各種特性(機械的特性、電気的特性、長期環境特性)を低下させることなく、ノンハロゲン系難燃剤で難燃化された低ソリ性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A) ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、(B) 変性ポリエステル、スチレン系樹脂から選ばれる1種以上の高分子化合物10〜100重量部、(C) 特定のフォスフィン酸塩および/またはジフォスフィン酸塩および/またはその重合体10〜100重量部、(D) 平均断面積が100〜300マイクロ平方メートルのガラス繊維20〜200重量部を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系難燃剤を使用しなくても優れた難燃性と低ソリ性を有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関する。更に詳しくは、優れた難燃性を有し、且つ良好な機械特性、成形加工性を有し、外観、低金属汚染性、電気特性(耐トラッキング性)、低ソリ性にも優れた難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から電気および電子機器部品ならびに自動車部品などに広く使用されている。特に、電気および電子機器分野では、火災に対する安全を確保するため、難燃性を付与して使用される例が多い。熱可塑性ポリエステルに難燃性を付与するには、一般的にハロゲン化合物やアンチモン化合物等のハロゲン系難燃剤が使用される。しかしながら、これらハロゲン系難燃剤においては、燃焼分解時にダイオキシン化合物を発生する場合があり、環境問題上好ましくない。この問題に対応して欧州連合では特定の臭素系難燃剤の使用を禁止するRoHS(the restriction of the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment)指令、及び全ての臭素系難燃剤を含むプラスチックを分別処理することを義務付けるWEEE(waste electrical and electronic equipment)指令が発効され、電気・電子機器に使用されるプラスチックにはノンハロゲン化の必要性が高まりつつある。また、ブルーエンジェルやノルディックスワン等と称されるいわゆる環境レベルでも同様の動きが見られ、むしろハロゲン系難燃剤に対しては前述の指令よりも更に厳しい禁止要求が一部で存在している。このため、環境ラベルの取得が重要視されているOA部品では、電気・電子部品よりも以前からノンハロゲン化の要求が高い。
【0003】
そこで、これらの問題を解決するために、ノンハロゲン系難燃剤として赤リンやリン酸化合物を添加して難燃性を改善する方法が試みられているが(例えば、特許文献1、特許文献2)、これらの難燃剤を用いても熱可塑性ポリエステル樹脂の難燃性の改善効果は十分でなく、ポリエステル単独でULにおけるV−0ランクを取得するためには多量の難燃剤の添加が必要となり、その結果、強度が低下したり、難燃剤のブリードアウトを起こすなどの問題があった。
【0004】
この問題を解決する方法として、熱可塑性ポリエステル樹脂と赤リンやリン酸化合物との組成物に、更にポリカーボネートやポリフェニレンエーテル等の自己消火性、すなわち熱分解しにくく酸素指数の高いポリマーを添加し、高い難燃性を得る方法(例えば、特許文献3、特許文献4)が提案されているが、これらの技術をもってしても、成形品を長時間加熱した際に、難燃剤由来の分解物としてリン酸などの化合物が発生し、周辺の金属接点を汚染したり、成形品が本来持つべき絶縁性を失うなどの問題があった。
【0005】
更に、特許文献5には、特定のホスフィン酸カルシウムまたはアルミニウム塩を使用する方法が提案されている。しかしながら、この化合物においても、良好な難燃性を得るために多量の添加が必要となり、成形性および機械的特性の低下が問題となっていた。
【0006】
そのため、特許文献6では、一定量の特定のフォスフィン酸塩またはジフォスフィン酸のカルシウムまたはアルミニウム塩に一定量の窒素含有有機物(例えば、メラミンシアヌレート)を使用する方法が提案されている。この化合物によれば難燃性の改善はかなり認められるものの、1mm以下の厚みにおける成形品にてV−0ランクを安定して得ることは依然困難であった。また、最も問題なのは、これらの技術を応用して低ソリ性や耐衝撃性などの機能をポリエステルに付与するために、変性ポリエステル、スチレン系樹脂などの徐燃性樹脂を添加すると、これらのポリマーが熱分解しやすく酸素指数が低いために、難燃性が改善されないばかりか、かえって難燃性を大幅に低下させてしまうという点である。また、前述のポリカーボネートやポリフェニレンエーテル等の自己消火性、すなわち熱分解しにくく酸素指数の高いポリマーを添加した場合には、ある程度の難燃性や低ソリ性は得られるものの、靱性が低下したり、耐トラッキング性の低下、著しく黄変するなどの問題があった。
【特許文献1】特公平5−18356号公報
【特許文献2】特公昭62−25706号公報
【特許文献3】特開平11−236496号公報
【特許文献4】特開平9−132723号公報
【特許文献5】特開平8−73720号公報
【特許文献6】特開平11−60924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、従来の方法では、成形性および樹脂の各種特性(機械的特性、電気的特性、長期環境特性)を低下させることなく、ポリブチレンテレフタレート樹脂に徐燃性の高分子化合物をアロイ化して高い難燃性と低ソリ性を共に実現することは非常に困難であった。
【0008】
従って、本発明の目的は、ポリブチレンテレフタレート樹脂が持つ優れた成形性および各種特性(機械的特性、電気的特性、長期環境特性)を低下させることなく、ノンハロゲン系難燃剤で難燃化された低ソリ性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品(電気・電子部品、OA用部品等)を提供することにある。
【0009】
本発明の更に他の目的は、UL94規格におけるV−0ランク、好ましくは1mm以下の厚みにおいてもV−0ランクを保持し、高い難燃性を有するとともに、高温環境下においてもブリードアウトを起こさず絶縁性を維持し、且つ耐トラッキング性の高い、低ソリ性を有するノンハロゲン系難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ポリブチレンテレフタレートと特定の徐燃性の高分子化合物とのアロイに、特定のフォスフィン酸塩および/または特定のジフォスフィン酸塩を添加して難燃化するにあたり、特定の断面積を有するガラス繊維を組み合わせて添加することにより、驚くべきことに難燃性が飛躍的に改善し、成形性および各種特性(機械的特性、電気的特性、長期環境特性)を維持したまま、高いレベルで難燃化と低ソリ化を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
(A) ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、
(B) 変性ポリエステル、スチレン系樹脂から選ばれる1種以上の高分子化合物10〜100重量部
(C) 式(1)で表されるフォスフィン酸塩および/または、式(2)で表されるジフォスフィン酸塩および/またはその重合体10〜100重量部、
(D) 平均断面積が100〜300マイクロ平方メートルのガラス繊維20〜200重量部
を配合してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R1およびR2は直鎖又は分岐鎖のC1〜C6アルキル、またはフェニルを表し、R3は直鎖又は分岐鎖のC1〜C10 アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、またはアリールアルキレンを表し、M はカルシウムイオンまたはアルミニウムイオンを表し、m は2または3であり、n は1または3であり、そしてX は1または2である。)
【発明の効果】
【0014】
前述の通り、電気・電子部品やOA部品用途では、低ソリ性と難燃性と電気特性を併せ持つ必要があるが、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、これらの要求特性を高いレベルで実現できる。従って、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、大型で非対称性の強い、あるいは高い寸法精度が要求される各種電気・電子部品やOA部品に好適である。このような部品の具体例としては、OA部品用途では、複写機・プリンターに使われる定着ガイド、紙ガイド、ギアハウジングなどが、電気・電子部品用途では、光学記録メディア用シャーシ、電子部品用端子台などが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、順次本発明の樹脂組成物の構成成分について詳しく説明する。まず本発明の基体樹脂であるポリブチレンテレフタレート系樹脂(A) とは、ジカルボン酸化合物あるいはそのエステル形成可能な誘導体と、ジオールあるいはそのエステル形成可能な誘導体とを主成分とする重合体であり、重縮合反応により得られる。ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸単位、ジオール成分としてはテトラメチレングリコール単位からなるポリブチレンテレフタレートであり、テレフタル酸成分が全酸成分を基準として90モル%より多く、アルキレングリコール成分が全ジオール成分を基準として90モル%より多く占めていることが必要である。
【0016】
尚、該ポリブチレンテレフタレートには、全酸成分を基準として10モル%未満の範囲で、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、その他のナフタレンジカルボン酸の異性体、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸等のような芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等のような脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等のような脂肪族ジカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、ε−オキシカプロン酸等のようなオキシ酸等の二官能性カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の酸成分を共重合してもよい。
【0017】
本発明では、上記の如き化合物をモノマー成分として、重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート系樹脂は何れも本発明の(A) 成分として使用することができ、単独で又は二種以上混合して使用してもよい。
【0018】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂は、固有粘度が0.5〜1.3dl/gのものが使用できる。成形性及び機械的特性の点から0.65〜1.1dl/gの範囲のものが好ましい。固有粘度0.5dl/gより低いものは、極端に機械強度が低下し、1.3dl/gより高いものでは、流動性が悪くなり成形性が悪化する。
【0019】
次に、本発明で基体樹脂であるポリブチレンテレフタレート系樹脂(A) に対しアロイ相手として用いられる(B) 成分とは、変性ポリエステル、スチレン系樹脂から選ばれる1種以上の高分子化合物であり、通常、ポリブチレンテレフタレート樹脂単独では達し得ない低そり性を付与する目的で添加される徐燃性樹脂である。
【0020】
本発明で用いられる(B) 成分のうち変性ポリエステルとは、テレフタル酸成分が全酸成分を基準として90モル%未満である酸変性ポリエステル、アルキレングリコール成分が全ジオール成分を基準として90モル%未満であるグリコール変性ポリエステルなどを挙げることができる。例えば、全酸成分を基準として15モル%がイソフタル酸に変性されたイソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、全ジオール成分を基準として30モル%がシクロヘキサンジオールに変性された変性ポリエチレンテレフタレートなどを挙げることができる。また、ポリブチレンテレフタレートに10モル%以上他の成分を共重合して得られる変性ポリエステルも挙げることができ、例えば、ポリブチレンテレフタレートユニットに100モル%ポリテトラメチレングリコールを共重合して得られるポリ(エステル−エーテル)エラストマー、ポリブチレンテレフタレートユニットに100モル%ポリカプロラクトンを共重合して得られるポリ(エステル−エステル)エラストマーなどが挙げられる。
【0021】
次に、本発明で用いられる(B) 成分のうちスチレン系樹脂とは、芳香族ビニル化合物から誘導される繰り返し単位を含む重合体及び共重合体が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−アルキル置換スチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。芳香族ビニル化合物以外のモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルなどが挙げられる。スチレン系樹脂としては、ゴムで変性されたものでもよく、ゴムとしては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体などが挙げられる。また、スチレン系樹脂としては、エポキシで変性されたものでもよい。このようなスチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、ABS樹脂、MBS樹脂、AS樹脂、ESBS樹脂などが挙げられ、好ましくはABS樹脂、AS樹脂、ESBS樹脂及びこれらの混合物である。
【0022】
(B) 成分として上記以外の徐燃性の高分子化合物では、十分な強度、難燃性、低ソリ性を共に発現することが難しくなる。また、(B) 成分として上記以外の自己消火性樹脂、例えばポリカーボネートやポリフェニレンエーテル、ノボラックフェノール樹脂等を用いたのでは、難燃性や低ソリ性は得られたとしても、十分な強度、耐トラッキング性を共に発現することが難しくなる。
【0023】
本発明において、これら(B) 成分は、(A) ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し10〜100重量部配合される。10重量部より少ない配合量では、その添加目的である低ソリ性を十分に発揮することができず、100重量部より多く添加すると、本来の基体樹脂であるポリブチレンテレフタレートの特性を損ない、本発明の目的である高度な難燃性も維持できなくなる。
【0024】
次に本発明で(C) 成分として用いられるものとは、式(1)で表されるフォスフィン酸塩および/または、式(2)で表されるジフォスフィン酸塩および/またはその重合体である。
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、R1およびR2は直鎖又は分岐鎖のC1〜C6アルキル、またはフェニルを表し、R3は直鎖又は分岐鎖のC1〜C10 アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、またはアリールアルキレンを表し、M はカルシウムイオンまたはアルミニウムイオンを表し、m は2または3であり、n は1または3であり、そしてX は1または2である。)
本発明においてはこれら化合物の1種又は2種以上が用いられる。本発明においてこれら化合物(C) は、(A) 成分100重量部に対し10〜100重量部添加することができる。10重量部未満では、目的とする難燃性が十分でなく、100重量部を超えると機械的特性が悪化するとともに材料コストが高くなりすぎ現実的でなくなる。難燃性と機械的特性の両面から、好ましくは20〜90重量部である。
【0027】
次に本発明で用いる(D) ガラス繊維は、平均断面積が100〜300マイクロ平方メートルのものである。この範囲のガラス繊維であれば、2種類以上を併用してもよい。平均断面積が100マイクロ平方メートルよりも小さいと難燃性が極端に悪化し、300マイクロ平方メートルより大きいと本来の目的である十分な補強効果が得られない。難燃性と補強効果を特に発現するのに好ましいのは、平均断面積が140〜300マイクロ平方メートルのものである。
【0028】
ガラス繊維(D) としては、平均断面積が上記範囲にある限りいかなる断面形状のものでも良く、断面がほぼ円形の断面形状を有する一般的なものでも良いが、扁平な断面形状を有するもの、具体的にはまゆ形、長円形、楕円形、半円もしくは円弧形、矩形又はこれらの類似形であるものが好ましい。特に本発明の目的である機能性としての低ソリ性や強度をより向上させるためには、長さ方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と直角方向の最長の直線距離)の比が1.3〜10、好ましくは1.5〜5、更に好ましくは2〜4のものが好ましい。
【0029】
また、ガラス繊維(D) の長さは任意であるが、成形品の機械的性質と変形の兼ね合いにより、成形品の変形量を小さくするためには短いほうが好ましく、また機械的強度の面からは平均繊維長が少なくとも30μm以上で長いほうが好ましく、要求される性能に応じて適宜選択される。通常は50〜1000μmが好ましい。
【0030】
これらのガラス繊維(D) の使用にあたっては必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することが望ましい。この例を示せば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物である。これ等の化合物はあらかじめ表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調製の際同時に添加してもよい。
【0031】
かかる本発明に用いるガラス繊維(D) は、溶融ガラスを吐出するために使用するブッシングとして、円形、長円形、楕円形、矩形、スリット状等の適当な孔形状を有するノズルを用いて紡糸することにより調製される。又、各種の断面形状(円形断面を含む)を有する近接して設けられた複数のノズルから溶融ガラスを紡出し、紡出された溶融ガラスを互いに接合して単一のフィラメントとすることにより調製できる。
【0032】
本発明において用いられるガラス繊維(D) 配合量は、(A) ポリブチレンテレフタレート100重量部に対して20〜200重量部であり、より好ましくは30〜130重量部である。20重量部未満では所望の補強効果が得られず、200重量部を超えると成形加工が困難になる。また、併用される上記官能性表面処理剤の使用量はガラス繊維に対し0〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。
【0033】
本発明の組成物は、UL94規格においてV−0を示し、好ましくは成形品厚み1mm以下においてもV−0を示す。
【0034】
次に本発明では、難燃性を補完したりコストを低減する目的で(E) 成分としてトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩を添加することもできる。(E) 成分としては、式(3)で表されるトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩が好ましいものとして例示される。
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、R7、R8は水素原子、アミノ基、アリール基、または炭素数1〜3のオキシアルキル基であり、R7、R8は同一でも又異なっていてもよい。)
本発明において、特に好ましい(E) 成分は、難燃性、安定性および価格の点からメラミンシアヌレートである。
【0037】
本発明において、(E) トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の配合量は、(C) 成分と(E) 成分の合計量に対して5〜50重量%であり、且つ(A) 成分100重量部に対する(C) 成分と(E) 成分の合計量が10〜100重量部となる量である。(C) 成分と(E) 成分の合計量に対して50重量%より多いとモールドデポジットが酷くなる他難燃性低下や成形性低下を引き起こすので好ましくない。5重量%より少ない場合は技術的には特段の影響を与えないが、価格の低減効果が発揮されない。本発明において(E) 成分の好ましい量は(C) 成分との難燃性とコストの調整によって決まり、より好ましくは(C) 成分と(E) 成分の合計量に対して15〜40重量%、且つ(A) 成分100重量部に対する(C) 成分と(E) 成分の合計量が20〜90重量部となる範囲である。
【0038】
さらに本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、その目的に応じ所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂等に添加される公知の物質を併用添加することができる。例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤等いずれも配合することが可能である。特に耐熱性を向上させるための酸化防止剤、および離型剤の添加は効果的である。
【0039】
本発明に好適な酸化防止剤としては、例えば有機ホスファイト系、ホスファイト系化合物およびリン酸金属塩などである。具体例を示すと、ビス(2,4−ジ−t−4メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスファイト、またリン酸金属塩としては、第一リン酸カルシウム、第一リン酸ナトリウムの1水和物等が挙げられる。これらに加えてヒンダードフェノール系の酸化防止剤を併用してもよい。
【0040】
本発明に好適な離型剤としては、例えば高級脂肪酸と多価アルコールのエステルもしくは部分エステル、ポリオレフィンワックスなどがふさわしい。具体例を示すと、ペンタエリスリトールステアリン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、低分子量ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0041】
また、燃焼時の溶融粒の滴下を抑制する化合物を添加してもよい。このような化合物としては、例えば乳化重合して作られたポリテトラフルオロエチレンやヒュームドコロイダルシリカを用いることができる。
【0042】
ここで使用する酸化防止剤、離型剤、滴下抑制化合物の添加量は、各々(A) 成分100重量部に対し0.005〜3.0重量部、より好ましくは各々0.01〜1.5重量部である。0.005重量部より少ないと添加による改善効果が低く、3.0重量部より多いと成形品表面への染み出しによる外観の悪化を起こしたり、分散不良を起こしたりするので好ましくない。
【0043】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で更に他の無機充填剤を添加することもできる。より具体的には、例えば、炭素繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、ホワイトカーボン、カーボンブラック、ガラスビー、カオリンクレー、タルク、マイカ、ガラスフレーク、マイカ、グラファイトなどを配合することができる。また、これらの無機充填剤は2種以上を併用してもかまわない。
【0044】
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法により容易に調製される。例えば、1)各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り込み押出してペレットを調製し、しかる後調製する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体としてこれ以外の成分と混合し添加することは、これらの成分の均一配合を行う上で好ましい方法である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に示した特性評価の測定法は次の通りである。
(1)引張強度
ISO527−1、2に準拠して引張強度を測定した。
(2)燃焼性テスト(UL−94)
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、5本の試験片(厚み;0.8mm)を用いて難燃性及び樹脂の燃焼時の滴下特性について試験した。
【0046】
難燃性は、UL94記載の評価方法に従って、V−0、V−1、V−2、notVに分類した。UL94合計燃焼時間は、UL94記載の手法にて、第1回の着火から消炎までの時間(T1)と第2回の着火から消炎までの時間(T2)の和(T1+T2)を1回の試験とし、5回繰り返した合計時間(秒)で示した。また、UL94綿着火本数は、UL94記載の手法にて、5回の試験を行い、各着火を行った際に、滴下が生じ、下部に設置した綿が着火した本数を示す(5回中に着火した本数の合計)。
(3)成形品のソリ量評価
厚さ2mm、120mm×120mm角の平板形状の成形品を下記成形条件にて成形し、23℃、50%湿度環境下にて24時間以上調節をした後、ハイトゲージを用いて平板の最大ソリ量を測定した。
(成形条件)
射出成形機;住友重工(株)製SG150U
金型;120mm×120mm×2mmt平板
シリンダー温度;260℃
射出速度;1m/min
保圧力;69MPa
金型温度;60℃
(4)耐トラッキング性
UL746Aに準拠して、相対トラッキング指数(CTI)を測定した。
(評価)
CTIランク
0;600V以上
1;400V以上600V未満
2;250V以上400V未満
1;175V以上250V未満
(5)リン酸ブリード量
厚さ0.8mm、13mm×13mm角の平板を150℃のオーブンにて1000時間加熱した後、イオン交換水にて成形品表面を洗浄し、その洗浄水中に含まれるリン酸イオンをイオンクロマトグラフィーにて定量した。
実施例1〜13、比較例1〜11
表3に示す性状を持つ材料を用いて、表1に示す実施例及び表2に示す比較例の材料を作成し、その特性を評価し、表に示した。材料の作成方法は、以下に示す。
<フォスフィン酸化合物の合成方法>
・1,2 ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造(C-1)
2106g(19.5モル)のジエチルホスフィン酸を6.5リットルの水に溶解し、507g(6.5モル)の水酸化アルミニウムを、激しく攪拌しながら加え、混合物を85℃に加熱した。混合物を80〜90℃で合計65時間攪拌し、次に60℃に冷却し、吸引濾過した。質量が一定となるまで120℃の真空乾燥キャビネット中で乾燥した後、 300℃以下では溶融しない微粒子粉末2140gが得られた。収率は理論値の95%であった。
・1,3 エタン−1,2 −ビスメチルホスフィン酸のカルシウム塩の製造(C-2)
325.5g(1.75モル)のエタン−1,2 −ビスメチルホスフィン酸を500mlの水に溶解し、129.5g(1.75モル)の水酸化カルシウムを、激しく攪拌しながら、1時間かけて分けて加えた。次に、混合物を90〜95℃で数時間攪拌し、冷却し、吸引濾過した。150℃の真空乾燥キャビネット中で乾燥した後、335gの生成物が得られた。これは 380℃以下では溶融しないものであった。収率は理論値の85%であった。その他の実施例、比較例に使用した樹脂、各成分等は、表3に示す。
<ペレットの製造方法>
(A) 成分のポリブチレンテレフタレート樹脂に所定量の(B) 、(C) 成分、及び(E) 成分を配合し、Vブレンダーにて均一に混合した。この得られた混合物を30mmφの2軸押出機で所定量の(D) ガラス繊維をメインフィードまたはサイドフィードし、バレル温度260℃にて溶融混合し、ダイスから吐出されるストランドを冷却後切断して、ペレットを得た。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、
(B) 変性ポリエステル、スチレン系樹脂から選ばれる1種以上の高分子化合物10〜100重量部
(C) 式(1)で表されるフォスフィン酸塩および/または、式(2)で表されるジフォスフィン酸塩および/またはその重合体10〜100重量部、
(D) 平均断面積が100〜300マイクロ平方メートルのガラス繊維20〜200重量部
を配合してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1およびR2は直鎖又は分岐鎖のC1〜C6アルキル、またはフェニルを表し、R3は直鎖又は分岐鎖のC1〜C10 アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、またはアリールアルキレンを表し、M はカルシウムイオンまたはアルミニウムイオンを表し、m は2または3であり、n は1または3であり、そしてX は1または2である。)
【請求項2】
ガラス繊維(D) の平均断面積が140〜300マイクロ平方メートルである請求項1記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
ガラス繊維(D) が、長さ方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と直角方向の最長の直線距離)の比が1.3〜10の間にある扁平な断面形状を有するものである請求項1又は2記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
難燃性がUL94規格において厚み1mm以下でV−0を示す請求項1〜3の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(B) 成分の変性ポリエステルが、全ジカルボン酸量に対して10モル%以上の変性率を有するものである請求項1〜4の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
更に、(E) トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩を配合してなる請求項1〜5の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
(E) トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の配合量が、(C) 成分と(E) 成分の合計量に対して5〜50重量%であり、且つ(A) 成分100重量部に対する(C) 成分と(E) 成分の合計量が10〜100重量部となる量である請求項6記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなる電気・電子部品またはOA用部品。
【請求項9】
OA用定着ガイド、OA用紙ガイド、OA用ギアハウジング、光学記録メディア用シャーシ、電子部品用端子台の何れかである請求項8記載の電気・電子部品またはOA用部品。

【公開番号】特開2007−91865(P2007−91865A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282509(P2005−282509)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】