説明

難燃性合成繊維および該難燃性合成繊維を用いた難燃性繊維複合体および該難燃性繊維複合体を用いた布張り家具製品

【課題】 添加剤により燃焼時の炭化、形態保持能力を高め、あわせて自己消火性を保持することで難燃化させ、高度な難燃性の必要な寝具や家具等に用いられる繊維製品に好適に使用が可能である難燃性合成繊維、該難燃性合成繊維を含む難燃性繊維複合体、及び該難燃性繊維複合体を用いた布張り家具製品を得ること。
【解決手段】 アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン単量体70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなるハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス転移温度400℃以下のガラス成分を4〜50重量部含む難燃性合成繊維。該難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維および/または化学繊維(B)が90重量%以下である難燃性繊維複合体、更にはそれを用いた布張り家具製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼時に極めて高い炭化性と自己消火性を発現することで、ベッドマットレス等の寝具やソファー等の家具等の高度な難燃性を必要とする繊維製品に好適に使用可能な高度な難燃性を有する難燃性合成繊維、該難燃性合成繊維と他の繊維とを複合した難燃性繊維複合体、および該難燃性繊維複合体からなる不織布、更にはそれらを用いた布張り家具製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣食住の安全性確保の要求が強まり、防炎の観点より難燃素材の必要性が高まってきている。そのような中で、特に発生時に人的被害が大きい就寝中の火災を防止するため、寝具や家具等に使用される素材への難燃性付与の必要性が高まってきている。
【0003】
これら寝具や家具等の製品においては、使用時の快適さや意匠性のために綿やポリエステル、ウレタンフォームなどの易燃性素材がその内部や表面に用いられる事が多い。それらの防炎性の確保には、適当な難燃素材をこれら製品中に使用することで、その易燃性素材への着炎を長時間にわたり防止する高度な難燃性を具備することが重要である。また、その難燃素材は、これら寝具や家具等の製品の快適さや意匠性を損なわないものでなければならない。
【0004】
この難燃素材に使用される繊維製品に対し、過去様々な難燃性合成繊維や防炎薬剤が検討されてきたが、この高度な難燃性と寝具や家具等の製品に求められる快適さや意匠性といった要件を充分に兼ね合わせたものは未だ現れていない。
【0005】
例えば、綿布に防炎薬剤を塗布する、いわゆる後加工防炎という手法があるが、防炎薬剤の付着の均一化、付着による布の硬化、洗濯による脱離、安全性などの問題があった。
【0006】
また、安価な素材であるポリエステルを用いた場合には、ポリエステルは炭化成分となりえないため、強制燃焼させた場合には溶融し穴が空き、構造を維持することが出来ず、前述の寝具や家具等に用いられる綿やウレタンフォームへ着炎してしまい、性能としては全く不充分であった。
【0007】
また、耐熱性不燃繊維は、難燃性は優れているが極めて高価であり、開繊時の加工性の問題や、吸湿性や触感の悪さ、そして染色性の悪さから意匠性の高い色柄を得るのが難しいという問題もある。
【0008】
これらの家具、寝具に使用される難燃性繊維素材の欠点を改良し、一般的な特性として要求される優れた風合、吸湿性、触感を有し、かつ、安定した難燃性を有する素材として、難燃剤を大量に添加した高度に難燃化した含ハロゲン繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせた難燃性繊維複合体(特許文献1)が提案されているが、難燃剤の多量添加によりコスト的にも製造工程上も不利であり、また布張り家具製品に使用するには難燃性が不足する場合があるという問題点があった。 また、耐熱性繊維を少量混ぜることで、作業服用途に使用可能な、高度難燃性繊維複合体(特許文献2)で、風合いや吸湿性に優れ、高度な難燃性を有するとの記載はあるが、有機耐熱繊維は一般に着色し布帛の白度が不十分であり、また染色による発色にも問題があり、意匠性に問題のある難燃性繊維複合体であった。更に、これらはまた、本質的に難燃性である繊維と含ハロゲン繊維から嵩高さを有する難燃性不織布(特許文献3)が提案されているが、これらの方法では方法では複数の繊維を複合化して用いなければ高度な難燃性が得られず、製品の製造工程が複雑になり、また、有機耐熱繊維や本質的に難燃性である繊維は一般的に高価でありコスト的に不利であるという問題点があった。またガラス成分により難燃化した難燃ポリエステル素材もあるが、ガラス成分量が著しく多いためコスト高や繊維化時の工程安定性に問題があり繊維化には至っていない。(特許文献4)
【特許文献1】特開昭61−89339号公報
【特許文献2】特開平8−218259号公報
【特許文献3】WO03/023108
【特許文献4】特開平9−278999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の難燃性合成繊維では解決が困難であった課題、すなわち、高度な難燃性を有し、かつ加工性や風合い、触感が良好で、意匠性のある難燃性複合体およびこれを用いた布張り家具製品を得るためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ハロゲンを含有する合成繊維に低いガラス転移温度を有するガラス成分と他の無機系添加剤を併用含有させることで、加工性や風合い、触感、染色性が良好で意匠性を損なうことなく、燃焼時の極めて高い炭化性と自己消火性を発現する難燃性繊維を得られることを見出した。また該難燃性繊維が、燃焼後の繊維形態を維持する高度な難燃性を兼ね備えていることを見出した結果、高度な難燃性を要求される家具、寝具等に用いられる繊維製品を得ることが可能な難燃性繊維複合体が得られることを見出した。さらに耐熱繊維単独で使用するときには生じる加工性、意匠性や価格の問題も改善できることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン単量体70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなるハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス転移温度400℃以下のガラス成分を4〜50重量部含む難燃性合成繊維である。さらに、前記ガラス成分は、好ましくはガラス転移温度が200〜400℃でリン化合物および/または亜鉛化合物を含有するものであり、前記ガラス成分と他の無機系添加剤との合計が前記重合体100重量部に対し、5〜50重量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の難燃性合成繊維である。また、前記他の無機系添加剤は、カオリン、ゼオライト、モンモリロナイト、タルク、ベントナイト、黒鉛等の天然もしくは合成鉱産物系化合物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム系化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物である難燃性合成繊維に関する。さらに本発明は、前記難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維および/または化学繊維(B)が90重量%以下である難燃性繊維複合体、または、繊維(B)にポリエステル系繊維を40重量%以下含む難燃性繊維複合体に関する。更に、これを用いた布張り家具製品、該難燃性繊維複合体からなる不織布、特には炎遮蔽バリア用不織布、およびこれらを用いた布張り家具製品に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性合成繊維、難燃性繊維複合体および不織布を使用したインテリア繊維製品は、風合い、触感、視感などの意匠性や、加工性に優れ、長時間の炎にも耐え得る高度な難燃性や自己消火性を有することを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のハロゲン原子を17%以上含む重合体における好ましいハロゲン含量の下限としては20%、さらには26%、上限としては86%、さらには73%、とくには48%である。前記ハロゲン含有量が17%未満の場合、繊維を難燃化することや自己消火性を発現させること困難になり好ましくない。ハロゲン含有量の上限が86%であるのは、臭化ビニリデン単独重合体のハロゲン含有量であり、この値がハロゲン含有量の上限値となる。これ以上のハロゲン含有量を得るためにはさらにモノマー中のハロゲン原子を増やす必要があり、技術的に現実的ではなくなる。
【0014】
前記のごときハロゲン原子を17%以上含む重合体としては、たとえばハロゲン原子を含有する単量体の重合体、前記ハロゲン原子を含有する単量体とハロゲン原子を含有しない単量体との共重合体、ハロゲン原子を含有する重合体とハロゲン原子を含有しない重合体とを混合したもの、ハロゲン原子を含有しない単量体もしくは重合体を重合中〜重合後に、ハロゲン原子を導入したハロゲン原子含有重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
このようなハロゲン原子を17重量%以上含む重合体の具体例としては、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系またはビニリデン系単量体の単独重合体または2種以上の共重合体;アクリロニトリル−塩化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−臭化ビニル、アクリロニトリル−フッ化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系またはビニリデン系単量体とアクリロニトリルとの共重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系またはビニリデン系単量体の1種以上とアクリロニトリルおよびこれらと共重合可能なビニル系単量体との共重合体;アクリロニトリル単独重合体にハロゲン含有化合物を添加・重合させた重合体;ハロゲン含有ポリエステル;ビニルアルコールと塩化ビニルの共重合体;ポリエチレンやポリ塩化ビニルなどを塩素付加処理した重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。また、前記単独重合体や共重合体を適宜混合して使用してもよい。
【0016】
前記ハロゲンを17重量%以上含む重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン系単量体70〜30重量%およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%、好ましくはアクリロニトリル40〜60重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン系単量体60〜40重量%およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなる重合体の場合には、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性など)を有しつつアクリル繊維の風合を有するため好ましい。
【0017】
前記それらと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸、そのエステル、メタクリル酸、そのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、その塩、メタリルスルホン酸、その塩、スチレンスルホン酸、その塩、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸、その塩などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。また、そのうち少なくとも1種がスルホン酸基含有ビニル系単量体の場合には、染色性が向上するため好ましい。
【0018】
前記ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン系単量体とアクリロニトリルからの単位を含む共重合体の具体例としては、例えば塩化ビニル50部、アクリロニトリル49部、スチレンスルホン酸ソーダ1部よりなる共重合体、塩化ビニリデン47部、アクリロニトリル51.5部、スチレンスルホン酸ソーダ1.5部よりなる共重合体、塩化ビニリデン41部、アクリロニトリル56部、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸ソーダ3部よりなる共重合体などがあげられる。これは、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の公知の重合方法で得る事が出来る。
【0019】
本発明に用いるガラス成分としては、400℃以下にガラス転移温度を有するものでは何でも良く、例えばSiO2−PbO系、SiO2−PbO−ZnO系、SiO2−B2O3−Na2O系、SiO2−B2O3−PbO系、SiO2−Al2O3系、B2O3−PbO系、B2O3−ZnO系、B2O3−Na2O−PbO系、B2O3−PbO−ZnO系、B2O3−P2O5系、B2O3−Bi2O3−ZnO系、P2O5−ZnO系などをあげることができ、好ましくはリン化合物および/または亜鉛化合物を含むものであるが、これらに限定されるものではないし、これらを組み合わせて使用しても何ら支障はない。その使用量は、ハロゲン原子を17%以上含む重合体100重量部に対して4〜50重量部、好ましくは7〜40重量部、更に好ましくは10〜30重量部である。4重量部未満だと燃焼時に炭化層の形態保持効果が得られず求める難燃性を得る事が難しくなり、50重量部を超えると十分な形態保持効果は得られるが繊維化時の製造工程においての糸切れやコスト高の要因となるため好ましくない。また、前記ガラス成分のガラス転移温度は400℃以下、好ましくは200〜300℃である。200℃未満の場合、燃焼時にガラス成分の溶融が早く、意図するような形態保持効果は得やすいと考えられるが、ガラス成分の製造が困難となる傾向がある。400℃を超えると燃焼時にハロゲン含有繊維が分解する温度においてガラス成分が溶融しないため、意図する炭化効果、形態保持効果を得ることが難しい。また、前記ガラス成分の平均粒子径としては、3μm以下であることがハロゲン含有重合体にガラス成分を添加してなる繊維の製造工程上におけるノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上、繊維中でのガラス成分粒子の分散などの点から好ましい。更に前記ガラス成分は、ブロッキング性改善のために粒子表面に化学的修飾を施しても支障ない。
【0020】
前記その他の無機系添加剤としては、カオリン、ゼオライト、モンモリロナイト、タルク、ベントナイト、黒鉛等の天然もしくは合成鉱産物系化合物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム系化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物等を挙げることが出来るがこれらに限定されるものではない。その量は、ハロゲン原子を17%以上含む重合体100重量部に対して0〜46重量部、好ましくは5〜30重量部、更に好ましくは7〜20重量部である。0重量部であっても前記ガラス成分による形態保持効果は得られるが、更に高度な形態保持効果を得るためには5重量部以上添加することが好ましい。また46重量部を超えると十分な形態保持効果は得られるが繊維化時の製造工程においての糸切れの要因となるため好ましくない。
【0021】
本発明の難燃性合成繊維には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤といったその他添加剤を含有せしめても良い。
【0022】
本発明の難燃性合成繊維は、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式法等の公知の製造方法で製造される。例えば湿式紡糸法では、上記重合体をN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、ロダン塩水溶液等の溶媒に溶解後、ノズルを通じて凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで水洗、乾燥、延伸、熱処理し、必要であれば捲縮を付与し切断することで製品を得る。本発明の難燃性合成繊維は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能であり、例えば他の天然繊維および化学繊維と複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊維製品用途に使用される他の天然繊維および化学繊維に合わせて、1.7〜12dtex程度、カット長38〜128mm程度の短繊維が好ましい。
【0023】
本発明に用いる天然繊維および/または化学繊維(B)は、本発明の難燃性布帛に優れた風合、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性を与えるための、また、寝具や家具に難燃性不織布を用いる際の加工性を良好にする成分である。
【0024】
前記天然繊維の具体例としては、例えば綿、麻、などの植物性繊維や、羊毛、らくだ毛、山羊毛、絹などの動物繊維など、また化学繊維の具体例としては、たとえばビスコースレーヨン繊維、キュプラ繊維などの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、あるいはナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル系低融点バインダー繊維、アクリル繊維などの合成繊維などがあげられるが、これらに限定されるものではない。これら天然繊維や化学繊維は単独で難燃性合成繊維(A)と用いてもよく、2種類以上で難燃性合成繊維(A)と用いてもよい。
【0025】
ここでポリエステル系繊維は燃焼時に溶融物が生じ、難燃性不織布を覆うことで難燃性不織布により形成される炭化層がより強固なものとなり、激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ炎遮蔽バリア性能を付与することが出来ること、不織布に加工した際の嵩高性が得やすいこと、開繊機(カード)において難燃性合成繊維(A)の強度の問題から繊維が破損することを緩和することから好ましいが、その量が難燃性繊維複合体100重量部のうち40重量部を超える場合には溶融部分の面積が大きくなり逆に難燃性が低下するため好ましくない。ポリエステル系低融点バインダー繊維を用いると、不織布とする際に簡便な熱溶融接着法が採用できる。ポリエステル系低融点バインダー繊維としては、低融点ポリエステル単一型繊維でもよくポリエステル/低融点ポリプロピレン、低融点ポリエチレン、低融点ポリエステルからなる並列型もしくは芯鞘型複合型繊維でも良い。一般的に低融点ポリエステルの融点は概ね110〜200℃、低融点ポリプロピレンの融点は概ね140〜160℃、低融点ポリエチレンの融点は概ね95〜130℃であり、概ね110〜200℃程度で融解接着能力を有するものであれば特に限定はない。また低融点でないポリエステル系繊維を使用した場合、不織布とする際簡便なニードルパンチ法が採用できる。
【0026】
本発明においては、難燃性合成繊維(A)10重量%以上と天然繊維および/または化学繊維(B)90重量%以下とから、本発明の難燃性繊維複合体が製造されるが、それらの混合割合は、得られる難燃性不織布から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて決定される。一般に、難燃性合成繊維(A)90〜10重量%、好ましくは60〜20重量%、天然繊維および/または化学繊維(B)10〜90重量%、好ましくは80〜40重量%であり、それらの合計が100重量%になるように複合せしめられる。不織布製造の際に熱溶融接着法を選択する場合には、化学繊維(B)として、ポリエステル系低融点バインダー繊維を少なくとも10重量%含むことが好ましい。
【0027】
本発明の難燃性合成繊維(A)の量が10重量部未満の場合、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐための炭化層形成が不充分で自己消火性にも乏しいため所望とする高度な難燃性能を得ることが難しい。
【0028】
本発明の難燃性繊維複合体は、前述のごとき繊維(A)、(B)が複合したものであり、織物編物、不織布などの布帛、スライバーやウェブなどの繊維の集合体、紡績糸や合糸・撚糸などの糸状物、編み紐、組み紐などのヒモ状物のごとき形態のものである。
【0029】
前記複合したとは、繊維(A)、(B)をさまざまな方法で混ぜ合わせて所定の比率で含有する布帛などを得ることをいい、混綿、紡績、撚糸、織り、編みの段階でそれぞれの繊維や糸を組み合わせることを意味する。
【0030】
本発明の難燃性繊維複合体は炎遮蔽バリア用不織布として好適に用いられる。ここでいう炎遮蔽バリアとは、難燃性不織布が炎に晒された際に難燃性不織布が繊維の形態を維持したまま炭化することで炎を遮蔽し、反対側に炎が移るのを防ぐことであり、具体的にはマットレスや布張り家具等の表面生地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の難燃性不織布をはさむことで、火災の際に内部構造物への炎の着火を防ぎ、被害を最小限に食い止めることができるものである。難燃性不織布の製造方法としては一般的な熱溶融接着法、ケミカルボンド法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法等の不織布作成方法が用いることが可能であり、複数の種類の繊維を混綿した後にカードにより開繊、ウェブ作成を行い、このウェブを不織布製造装置にかけることにより作成される。装置の簡便さからはニードルパンチ方式、ポリエステル系低融点バインダー繊維を用いれば熱溶融接着方式による製造が一般的で生産性が高いため好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の難燃性繊維複合体には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤などを含有せしめてもよいし、染料や顔料などによる着色や染色を行っても何ら支障ない。
【0032】
このようにして得られる本発明の難燃性繊維複合体は、所望の難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性、意匠性などに優れた特性を有する。
【0033】
本発明のいう布張り家具製品とは、マットレス等の寝具、椅子、ソファー、車両用座席等を指す。
【0034】
マットレスとしては、例えば、金属製のコイルが内部に用いられたポケットコイルマットレス、ボックスコイルマットレス、あるいはスチレンやウレタン樹脂などを発泡させたインシュレーターが内部に使用されたマットレス等がある。本発明に使用される難燃性複合体による防炎性が発揮されることにより、前記マットレス内部の構造体への延焼が防止出来るため、何れの構造のマットレスおいても、難燃性と同時に優れた風合いや触感に優れたマットレスを得ることができる。
【0035】
一方、椅子としては、屋内にて使用される、ストゥール、ベンチ、サイドチェア、アームチェア、ラウンジチェア・ソファー、シートユニット(セクショナルチェア、セパレートチェア)、ロッキングチェア、フォールディングチェア、スタッキングチェア、スィーブルチェア、あるいは屋外で車両用座席等に使用される、自動車座席、船舶用座席、航空機用座席、鉄道用座席などが挙げられるが、これらにおいても通常の家具として要求される外観や触感と同時に内部の延焼を防止する機能を有する布張り製品を得ることができる。
【0036】
布張り家具製品に対する本発明の難燃性繊維複合体の用い方としては、表面の布地に織布やニットの形態で用いてもよいし、表面の布地と内部構造物、例えばウレタンフォームや詰め綿の間に織布やニット、不織布の形態で挟み込んでも良い。表面の布地に用いる場合には従来の表面の布地に替えて本発明の難燃性繊維複合体よりなる布地を用いればよい。また、表面生地と内部構造物の間に織布やニットを挟む場合には、表面生地を2枚重ねる要領で挟み込んでも良いし、内部構造物を本発明の難燃性繊維複合体よりなる織布やニットで覆っても良い。表面生地と内部構造物の間に炎遮蔽バリア用不織布として挟む場合には、内部構造物全体に、少なくとも表面の布地と接する部分については必ず内部構造物の外側に本発明の難燃性繊維複合体よりなる不織布をかぶせ、その上から表面の布地を張ることになる。
【0037】
本発明の難燃性繊維複合体を用いて布張り家具を製造すると、本発明の難燃性繊維複合体が有する優れた特性、すなわち優れた難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性、意匠性などの優れた特性を有する布張り家具製品が得られる。
【0038】
本発明の難燃性合成繊維及び難燃性繊維複合体が高度に優れた難燃性を示す理由は、以下のように考えられる。ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス転移温度400℃以下のガラス成分と他の無機系添加剤を合計5〜50重量部含む難燃性合成繊維(A)と天然繊維および/または化学繊維(B)からなる難燃性繊維複合体は、他の火炎源により燃焼させると難燃性合成繊維(A)から不燃性のハロゲン原子を含んだガス、例えば塩素ガスや塩酸ガスが発生すること、また難燃性合成繊維(A)に含まれるガラス成分が溶融し繊維内部からの易燃性ガスの表面拡散を抑制することで燃焼が抑制される(自己消火性)ため、焼失、焼損することなく炭化物となる。また溶融したガラス成分は、難燃性合成繊維(A)や天然繊維および/または化学繊維(B)の燃焼により生成した炭化物や難燃性合成繊維(A)に含まれる他の無機系添加剤の間に入り込み、固化することで強固な炭化層を形成する(炭化効果、形態保持効果)。これらの結果、難燃性繊維複合体は燃焼後も崩壊することなく炭化物の状態で形態を保持するので、火炎は遮断されそれ以上の延焼が抑制されることで高度に優れた難燃性を示す。
【実施例】
【0039】
以下、実施をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお実施例における繊維の難燃性はLOI値の他、不織布を用い下記に示す評価法1及び2の方法で評価した。評価法1は主として難燃性合成繊維単独に対応した簡易評価方法であり、評価法2は実際のマットレス、椅子、ソファー等の布張り家具等に対応し表面生地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の難燃性不織布をはさむことで、火災の際に内部構造物への炎の着火の有無を判定できる簡易評価方法である。
(不織布による難燃性評価法1)
(1)難燃性評価試験用不織布の作成
繊維をローラーカードにより開繊した後、ニードルパンチ法により、目付け200g/m2、縦20cm×横20cmの不織布を作成した。
(2)難燃性評価試験方法
縦200mm×横200mm×厚さ10mmのパーライト板の中心に直径15cmの穴をあけたものを準備し、その上に難燃性評価試験用不織布を置き、加熱時に難燃性評価試験用不織布が収縮しないよう4辺をクリップで固定した。この試料を難燃性評価試験用不織布の面を上にして、ガスコンロ((株)パロマ工業製PA−10H−2)にバーナー面より40mmの所に試料の中心とバーナーの中心が合うようにセットした。燃料ガスは純度99%以上のプロパンを用い、炎の高さは25mmとし、着炎時間は180秒とした。この時に難燃性評価試験用不織布の炭化膜の厚み斑がなく全く穴やひびがない場合を◎、炭化膜に貫通した穴があいていない場合、またはひびがない場合を○、穴やひびがある場合を×として評価を実施した。
(不織布による難燃性評価法2)
(1)難燃性評価試験用試料の作成
所定の割合で混合した繊維をローラーカードにより開繊した後、熱溶融接着法により、目付け210g/m2、縦45cm×横30cmの不織布を作成した。該不織布の下にウレタンフォーム(縦45cm×横30cm、厚み53mm)を、該不織布の上に同サイズのポリエステル製不織布(目付け300g/m2)、更にポリエステル製布帛(目付け120g/m2)を重ね、この4者をずれないようにホッチキス(登録商標)で固定し、難燃性評価試験用試料とした。
(2)難燃性評価試験方法
米国カリフォルニア州のベッドマットレスの燃焼試験方法Technical Bulletin 603(以下TB603)のうち、ベッドマットレス上面試験方法に準じて実施した。すなわち難燃性評価試験用試料の上面から39mmの所に水平にT字型のバーナーをセットし、プロパンガスを燃焼ガスとして、ガス圧力101KPa、ガス流量12.9L/分の条件にて、70秒間接炎した。この時に不織布の炭化膜に厚み斑がなく全く穴やひびもない場合を◎、炭化膜に貫通した穴があいていない場合、またはひびがない場合を○、穴やひびがあり下部のウレタンフォームに着炎した場合を×として評価を実施した。◎または○が合格である。
(LOI値による難燃性評価)
以下の製造例に従って作成した綿を2g取り、これを8等分して約6cmのコヨリを8本作成し酸素指数測定器のホルダーに直立させ、この試料が5cm燃え続けるのに必要な最小酸素濃度を測定し、これをLOI値とした。LOI値が大きいほど燃えにくく、難燃性が高い。
(繊維中のハロゲン含有量の測定方法)
得られた共重合体を(株)柳本製作所製ヤナコCHNコーダーMT−5によりC元素、H元素、N元素に関する元素分析を行い、N原子をアクリロニトリル由来のものとし、N原子含有量より重合体中のアクリロニトリル成分含有量を求めた。さらにp−スチレンスルホン酸ソーダは全量共重合したと仮定し、残りをハロゲンモノマー由来成分とし、計算により得られたハロゲン含有共重合体中のハロゲン含有量を求めた。
(繊維化評価)
繊維化評価は、ノズルでの閉塞発生や延伸出来ない場合など、繊維の試作そのものが不可能な場合は×とした。⇒追加しました。
(製造例)
アクリロニトリル51%、塩化ビニリデン48%およびp−スチレンスルホン酸ソーダ1%よりなる共重合体(ハロゲン含有量:35%)をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30%になるように溶解させ、得られた樹脂溶液の樹脂重量に対して表1に示す添加量において所定のガラス成分と無機系添加剤として水酸化アルミニウムを添加し紡糸原液とした。ガラス成分および水酸化アルミニウムを含んだ紡糸原液をノズル孔径0.10mmおよび孔数1000ホールのノズルを用い、50%ジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで3倍に延伸してから、さらに150℃で5分間熱処理、さらに切断することでハロゲン含有繊維を得た。得られた繊維は繊度5.6dtexであり、カット長51mmの短繊維であった。
(実施例1〜5、比較例1)
製造例に従い、ガラス成分(P2O5−ZnO系ガラス ガラス転移温度240℃ 旭ファイバーグラス製ZP450)と水酸化アルミニウムを表1の量で添加したハロゲン含有繊維を作成し、不織布による評価法1およびLOI値での難燃性評価を実施した。結果を表1に示す。なお不織布は、本発明繊維80重量部、ポリエステル繊維(東洋紡績(株)製 6.6dtex カット長51mm)20重量部を混合したものを使用した。
【0040】
実施例1〜5の難燃性試験結果は良好であり、難燃性評価試験用不織布はガスコンロによる加熱後、良好な炭化層を形成し、残炎や亀裂、穴明きの発生はなく、総合判定は合格した。これに対して比較例1は、水酸化アルミニウム量は実施例1〜4と同量であるがガラス成分量が少ないため良好な炭化層が形成できず不織布に穴が生じ、総合判定が不合格となった。実施例2ではガラス成分量が、実施例3では水酸化アルミニウム量がそれぞれ多いため、繊維化できなかった。
【0041】
【表1】

実施例1〜5、および比較例1〜3の難燃性評価試験結果
(実施例6〜8、比較例2)
製造例に従い、ガラス転移温度の異なるガラス成分(P2O5−ZnO系ガラス 旭ファイバーグラス製ZP450 ガラス転移温度240℃(実施例6)、260℃(実施例7)、350℃(実施例8))と水酸化アルミニウムを表の量で添加したハロゲン含有繊維を作成し、不織布による評価法1およびLOI値での難燃性評価を実施した。結果を表2に示す。なお不織布は、本発明繊維80重量部、ポリエステル繊維(東洋紡績(株)製 6.6dtex カット長51mm)20重量部を混合したものを使用した。
【0042】
実施例6〜8の難燃性試験結果は良好であり、難燃性評価試験用不織布はガスコンロによる加熱後、良好な炭化層を形成し、残炎や亀裂、穴明きの発生はなく、総合判定は合格した。これに対して比較例4は、ガラス転移温度が高く難燃化が充分に機能しなかった結果良好な炭化層が形成できず不織布に穴が生じ、総合判定が不合格となった。
【0043】
【表2】

実施例6〜8、および比較例4の難燃性評価試験結果
(実施例9〜14 、比較例5〜7)
製造例に従い、ガラス成分(P2O5−ZnO系ガラス ガラス転移温度240℃)と水酸化アルミニウムを表3の量で添加したハロゲン含有繊維を作成し、得られたハロゲン含有繊維、ポリエステル繊維(6.6dtex、カット長51mm)、レーヨン繊維(1.5dtex、カット長38mm)、木綿繊維が所定の割合となる不織布を作成し、不織布による評価法2での難燃性評価を実施した。結果を表3に示す。
【0044】
実施例9〜14は難燃性試験結果が良好であり、難燃性評価試験用不織布は加熱後も亀裂や穴明きの発生がなく、良好な炭化膜を形成した。これに対して比較例5ではハロゲン含有繊維の混率が低いため、良好な炭化層を形成できず不織布に穴が生じ不合格となった。比較例6ではポリエステル繊維の混率が高いため、ポリエステル繊維部分が溶融して穴が生じ不合格となった。比較例7ではハロゲン含有繊維中のガラス成分量が少ないため、良好な炭化層を形成できず不織布に穴が生じ不合格となった。
【0045】
【表3】

実施例9〜14、および比較例5〜7の難燃性評価試験結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン単量体70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなるハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス転移温度400℃以下のガラス成分を4〜50重量部含む難燃性合成繊維。
【請求項2】
前記ガラス成分が、200〜400℃にガラス転移温度を有する請求項1に記載の難燃性合成繊維。
【請求項3】
前記ガラス成分が、リン化合物および/または亜鉛化合物を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性合成繊維。
【請求項4】
前記ガラス成分と他の無機系添加剤との合計が前記重合体100重量部に対し、5〜50重量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の難燃性合成繊維。
【請求項5】
他の無機系添加剤が、カオリン、ゼオライト、モンモリロナイト、タルク、ベントナイト、黒鉛等の天然もしくは合成鉱産物系化合物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム系化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物であることを特徴とする請求項4記載の難燃性合成繊維。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維および/または化学繊維(B)が90重量%以下である難燃性繊維複合体。
【請求項7】
請求項6記載の繊維(B)がポリエステル系繊維であり、かつ、ポリエステル系繊維が40重量%以下である難燃性繊維複合体。
【請求項8】
請求項7記載のポリエステル系繊維が低融点バインダー繊維であることを特徴とする請求項8記載の難燃性繊維複合体。
【請求項9】
請求項6〜8いずれかに記載の難燃性繊維複合体からなる不織布。
【請求項10】
請求項9記載の不織布を用いた布張り家具製品。

【公開番号】特開2006−225805(P2006−225805A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42096(P2005−42096)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】