説明

難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線

【課題】特に難燃性と耐摩耗性に優れ、また、これらの特性と機械的特性等についてバランスのとれた難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線を提供すること。
【解決手段】本発明の難燃性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有し、かつ、酢酸ビニルの含有量が共重合体全体に対して50質量%以上であるエチレン・酢酸ビニル共重合体5〜20質量%、変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、水酸化マグネシウム40〜200質量部を含有してなり、例えば、自動車や電気・電子機器に配設される絶縁電線の絶縁被覆材料、特に細径化絶縁電線の絶縁被覆材料として最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線に関する。さらに詳しくは、自動車、電気・電子機器等に使用される難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気・電子機器等の構成部材やこれらの中に配設される絶縁電線の絶縁被覆材料としては、耐熱性、耐寒性、耐湿性に加えて難燃性、耐摩耗性等の種々の特性が要求される。また、それらを構成する樹脂材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂や分子中に臭素(Br)原子や塩素(Cl)原子を含有するハロゲン系難燃剤を含有するポリオレフィン系樹脂が広く使用されていた。このような材料を用いた製品を適切な処理をせずに廃棄した場合にあっては、様々な問題が発生しており、例えば、これらの製品を埋め立て廃棄した場合には、材料中に含まれるリン系化合物や、可塑剤・重金属安定剤として鉛系化合物等が溶出してしまうという問題があり、焼却廃棄した場合には、腐食性のハロゲン系ガスやダイオキシン等が発生するという問題があった。
【0003】
このため、有害な重金属や腐食性のハロゲン系ガス等の発生がないノンハロゲン難燃性樹脂組成物が検討され、一部においては実用化されている。検討ないし実用化されているノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリオレフィン系樹脂を使用し、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物を多量に充填したものが広く知られており、また、当該樹脂組成物のベースポリマーとしては、多量の金属水和物を分散させやすいエチレン系の共重合体が用いられていた。
【0004】
このようなノンハロゲン難燃性樹脂組成物の機械的特性や耐熱性は、これまで使用されてきたポリビニル系樹脂組成物と比較すると低いため、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物と同等の特性を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物の開発が期待されている。そして、かかる問題を解決するため、機械的特性や耐熱性に優れるポリプロピレンをベースポリマーとして使用した樹脂組成物や(例えば、特許文献1を参照。)、エチレン系共重合体をベースポリマーとする難燃性樹脂組成物を化学架橋や電子線架橋で架橋する方法が検討されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−354826号公報([請求項1]、[0007])
【特許文献2】特開2002−332385号公報([請求項3]、[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した従来の樹脂組成物は、難燃性や耐摩耗性が十分でないばかりか、これらの特性と、機械的特性、耐熱性、耐寒性等の諸特性をバランスよく兼ね備えることが難しかった。また、これまでに検討ないし実用化されている難燃性樹脂組成物を被覆した絶縁電線は、従来のポリ塩化ビニル系樹脂を押出被覆した絶縁電線と比較して耐摩耗性が劣るものであった。近年、配設場所の狭小化や配線数の増加などに伴い、絶縁電線の細径化が求められているが、これまでに検討ないし実用化されている難燃性樹脂組成物を被覆した細径化絶縁電線は十分な難燃性や耐摩耗性が得られないため、その改善が求められていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、特に難燃性と耐摩耗性に優れ、また、これらの特性と機械的特性、耐熱性、耐寒性等についてバランスのとれた難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る難燃性樹脂組成物は、(a)ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、(b)共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有し、かつ、酢酸ビニルの含有量が共重合体全体に対して50質量%以上であるエチレン・酢酸ビニル共重合体5〜20質量%、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び(d)変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(e)水酸化マグネシウム40〜200質量部を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る難燃性樹脂組成物は、前記した請求項1において、さらに、前記樹脂混合物100質量部に対して(f)粘土鉱物1〜20質量部を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る絶縁電線は、前記した請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物を導体上に押出被覆したことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る絶縁電線は、前記した請求項3において、前記導体の外径がφ0.6mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を使用し、その他の特定構造のエチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンからなる樹脂混合物を含有し、これらに対して水酸化マグネシウムを特定量含有する構成を採用するため、難燃性及び耐摩耗性に優れ、また、機械的特性、耐熱性、耐寒性等の諸特性をバランスよく兼ね備えた難燃性樹脂組成物となる。
【0013】
本発明の請求項2に係る難燃性樹脂組成物は、樹脂組成物の必須成分として、さらに特定量の粘土鉱物を含有するので、耐摩耗性がさらに向上された難燃性樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
本発明の請求項3に係る絶縁電線は、導体に前記した本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆してなるので、前記した本発明の樹脂組成物の奏する効果を享受し、絶縁層として難燃性及び耐摩耗性に優れ、機械的特性、耐寒性、耐熱性をバランスよく兼ね備えた絶縁電線となる。
【0015】
本発明の請求項4に係る絶縁電線は、導体の外径がφ0.6mm以下としている。本発明の難燃性樹脂組成物は難燃性及び耐摩耗性に優れるとともに、機械的特性、耐熱性、耐寒性等の諸特性をバランスよく兼ね備えており、導体の外径がφ0.6mm以下といったいわゆる細径化絶縁電線の絶縁被覆材料として用いても、その効果を当該細径化絶縁電線に対して好適に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物について説明する。本発明の難燃性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合もある。)は、(a)ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、(b)共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有し、かつ、酢酸ビニルの含有量が共重合体全体に対して50質量%以上であるエチレン・酢酸ビニル共重合体5〜20質量%、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び(d)変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(e)水酸化マグネシウム40〜200質量部を含有してなるものである。
【0017】
(a)ポリプロピレン系樹脂:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成するポリプロピレン系樹脂は、樹脂組成物のベースポリマーとなり、樹脂組成物の機械的特性、耐熱性及び耐寒性を良好なものとする。使用可能なポプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンのみを重合したものや、エチレン、1−ブテンなどのαオレフィンとプロピレンを共重合したもの等が挙げられる。具体的には、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、及びプロピレン−ブテンランダム共重合体等が挙げられる。
【0018】
また、かかるポリプロピレン系樹脂としては、本発明の樹脂組成物が、耐摩耗性が要求される部材や絶縁電線の被覆材料として使用されることを考慮して、硬度(HRR)が65以上、曲げ弾性率が1000MPa以上のポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0019】
本発明において、これらのポリプロピレン系樹脂は、樹脂組成物の混練性を向上させるという観点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が、10.0g/10分以下(230℃、2.16kgf荷重)であることが好ましい。
【0020】
(b)共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有し、かつ、酢酸ビニル含有量が共重合体全体に対して50質量%以上であるエチレン・酢酸ビニル共重合体(以下、「特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体」とする場合もある。):
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体は、樹脂組成物の難燃性に加えて、耐摩耗性を向上させるはたらきを持つ。また、これらの効果は、かかる特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と、後記する(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーと併用することで、さらに向上する。
【0021】
本発明では、共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有するエチレン・酢酸ビニル共重合体を用いることにより、組成物の耐摩耗性を向上させることができる。酢酸ビニル含有量の高いエチレン・酢酸ビニル共重合体を使用した場合、例えば、絶縁電線の難燃性に関する規格であるJIS C3005の水平燃焼試験のみならず、ISO 6722の45°傾斜燃焼試験に合格する絶縁電線の提供が可能となる。一般的に、酢酸ビニル含有量の高いエチレン・酢酸ビニル共重合体は、難燃性が向上し、機械的特性が低下する傾向にあるが、構成成分である酢酸ビニルが規則性を有する構造をとることで、難燃性と機械的特性が両立されるものと考えられる。
【0022】
本発明の樹脂組成物を構成するエチレン・酢酸ビニル共重合体の構造については、13C−NMRスペクトルのピーク面積比から算出することができ、一般に、65〜70ppmに酢酸ビニル成分を3つ以上連続して有する構造を示す信号により確認することができる。
【0023】
さらに、本発明の樹脂組成物を構成する特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量は、共重合体全体に対して50質量%以上とすることが好ましい。酢酸ビニル含有量を共重合体全体に対して50質量%以上とすることにより、樹脂組成物に高い難燃性を付与することができる。酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は、共重合体全体に対して50〜80質量%とすることがさらに好ましく、50〜70質量%とすることが特に好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物を構成する特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体は、前記のポリプロピレン系樹脂と同様に、樹脂、組成物の混練性を向上させるという観点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が10.0g/10分以下(190℃、2.16kgf荷重)であることが好ましい。このようなエチレン・酢酸ビニル共重合体としては、例えば、「Levapren800HV」、「Levapren700HV」、「Levapren600HV」、「Levapren500HV」(いずれも、Bayer社製)等が挙げられる。
【0025】
(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーを不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性したものである。かかる変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記の(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と併用することにより、樹脂組成物の機械的特性や耐摩耗性を向上させる。
【0026】
使用可能なスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0027】
本発明において、これらの変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記のポリプロピレン系樹脂及び特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と同様に、樹脂組成物の混練性を向上させるという点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が、10.0g/10分以下(230℃、2.16kgf荷重)であることが好ましい。このような変性スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、「変性DYNARON」(JSR)、「タフテックM」(旭化成(株)製)、「クレイトンFG1901X」(クレイトンポリマー社製)等がある。
【0028】
(d)変性ポリオレフィン:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する変性ポリオレフィンは、必要により本発明の樹脂組成物に添加され、後記する非樹脂成分である(e)水酸化マグネシウムや、必要により樹脂組成物に添加される(f)粘土鉱物の樹脂組成物に対する分散性を向上させることができ、さらに、機械的特性や耐摩耗性を向上させるはたらきを持つ。
【0029】
変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性したものである。使用できるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・αオレフィン共重合体等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が、不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル等がある。
【0030】
本発明において、これらの変性ポリオレフィンは、ポリプロピレン系樹脂等と同様に、樹脂組成物の混練性を向上させるという点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイトが、10.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)以下であることが好ましい。このような変性ポリオレフィンとして、「Polybond」(Crompton社製)、「アドテックス」(日本ポリエチレン)、「Orevac」(Arkema社製)等が挙げられる。
【0031】
(e)水酸化マグネシウム:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する水酸化マグネシウムは、難燃性樹脂組成物等の難燃性を向上させる目的で使用される。また、かかる水酸化マグネシウムは、シランカップリング剤や脂肪酸で表面処理されているものを使用してもよい。水酸化マグネシウムをシランカップリング剤や脂肪酸で表面処理を施すことにより、難燃性樹脂組成物ないしは当該樹脂組成物で被覆された絶縁電線の絶縁性能を向上させることができる。かかる表面処理については、シランカップリング剤または脂肪酸の単独で行うようにしてもよいし、これら両者を組み合わせて行うようにしてもよい。
【0032】
また、水酸化マグネシウムは、樹脂混合物に対する分散性を良好にするため、0.3〜1.5μmの範囲の平均粒径を有しているもの、特に好ましくは平均粒径が0.5〜1.0μmのもので、凝集がほとんどないものが樹脂組成物の機械的特性を向上させる点から好ましい。このような水酸化マグネシウムとしては、例えば、「キスマ5」、「キスマ5A」、「キスマ5B」、「キスマ5J」、「キスマ5L」、「キスマ5P」(いずれも、協和化学工業(株)製)、「MagnifinH7」、「MagnifinH10」、「MagnifinH10A」、「MagnifinH7C」、「MagnifinH10IV」、「MagnifinH10MV」(いずれも、Albemarle社製)等が挙げられる。
【0033】
(f)粘土鉱物:
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、前記した(a)〜(e)の必須成分に加えて、必要により、さらに(f)粘土鉱物を加えることが好ましい。かかる粘土鉱物は、樹脂組成物に含有させることによりさらに耐摩耗性を向上させるはたらきを持つ。本発明に使用可能な粘土鉱物としては、例えば、カオリナイト、焼成カオリナイト、セピオライト等が挙げられ、特に焼成カオリナイトを使用することが好ましい。これらの粘土鉱物は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
また、本発明において、かかる粘土鉱物は、0.3〜2.0μmの範囲の平均粒径を有し、凝集がほとんどないものを使用することが好ましい。さらに、粘土鉱物はシランカップリング剤や脂肪酸等による表面処理や、アルキルアンモニウム塩、アルキルスルホニウム塩、アルキルホスホニウム塩等による有機化処理が施されているものもあるが、これらの表面処理や有機化処理が施されていない粘土鉱物を採用することが好ましい。粘土鉱物に対して、表面処理や有機化処理を施さないことにより、得られる樹脂組成物の耐摩耗性をさらに向上させることができる。このような粘土鉱物としては、「SATINTONE」(ENGELHARD社製)、「PANGEL」(TOLSA社製)等が挙げられる。
【0035】
次に、本発明の難燃性樹脂組成物における各成分の含有量について説明する。樹脂組成物中における(a)ポリプロピレンの含有量は、樹脂成分の全体、すなわち、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有し、かつ、酢酸ビニル含有量が共重合体全体に対して50質量%以上であるエチレン・酢酸ビニル共重合体、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー、(d)変性ポリオレフィンからなる樹脂混合物全体に対して、40〜90質量%である。ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%より少ないと、樹脂組成物の耐摩耗性や耐熱性が低下する場合があり、一方、含有量が90質量%を超えると、樹脂組成物の機械的特性や耐寒性が低下する場合がある。かかるポリプロピレン系樹脂の含有量は、樹脂混合物全体に対して60〜80質量%とすることが好ましく、70〜80質量%にすることが特に好ましい。
【0036】
また、(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン系樹脂に各々単独で使用するより、併用することで機械的特性や耐摩耗性が向上する。(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体の含有量は、樹脂混合物全体に対して5〜20質量%であり、また、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量も、樹脂混合物全体に対して5〜20質量%である。(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体や(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、樹脂混合物全体に対して5質量%より小さいと、機械的特性や耐寒性が低下する場合があり、一方、これらの含有量が20質量%を超えると、耐摩耗性や耐熱性が低下する場合がある。(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体や(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、樹脂混合物全体に対して5〜15質量%とすることが好ましい。
【0037】
(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の合計は、樹脂混合物全体に対して10〜40質量%とすることが好ましい。かかる含有量の合計が10質量%より少ないと、樹脂組成物の機械的特性や耐寒性が低下する場合があり、一方、40質量%を超えると、樹脂組成物の耐摩耗性や耐熱性が低下する場合がある。(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の合計は、10〜30質量%とすることが好ましい。
【0038】
樹脂組成物中における(d)変性ポリオレフィンの含有量は、樹脂混合物全体に対して0〜20質量%である。変性ポリオレフィンの含有量が20質量%を超えると、樹脂組成物の流動性が低下し、成形加工性に問題が発生する場合がある。変性ポリオレフィンの含有量は、樹脂混合物全体に対して5〜10質量%とすることが好ましい。
【0039】
なお、本発明の難燃性樹脂組成物にあって、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体、及び(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量によっては、(d)変性ポリオレフィンを含有しない構成を採用する場合もあるが、(d)変性ポリオレフィンを含有させることにより、(d)変性ポリオレフィンを含有しない難燃性樹脂組成物と比較して、(e)水酸化マグネシウムの分散性が向上することにより、耐摩耗性や難燃性の向上につながることとなる。
【0040】
また、(d)変性ポリオレフィンを含有しない場合は、含有するものと比較すると各特性は若干劣るものの、依然として優れた引張特性等の機械的特性、耐摩耗性及び難燃性を維持することができる。
【0041】
樹脂組成物中における(e)水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して40〜200質量部である。水酸化マグネシウムの含有量が40質量部より少ないと、樹脂組成物に十分な難燃性を付与することができず、一方、200質量部を超えると、樹脂組成物の機械的特性や耐寒性に悪影響を及ぼし、また、比重が増加する。水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して60〜200質量部にすることが好ましい。特に、外径φ0.6mm以下の導体を使用した絶縁電線に使用するには、樹脂混合物100質量部に対して120〜200質量部とすることが好ましい。
【0042】
樹脂組成物中に必要により添加される(f)粘土鉱物の含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、1〜20質量部とすることが好ましい。粘土鉱物の含有量が1質量部より少ないと、樹脂組成物の耐摩耗性が向上せず、一方、20質量部を超えると、樹脂組成物の機械的特性が低下する場合がある。粘土鉱物の含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、1〜10質量部とすることが特に好ましい。
【0043】
なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、前記した以外の各種の樹脂成分やゴム成分、及び各種の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。添加剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、プロセスオイル、シリコンオイル、紫外線吸収剤、カーボンブラック、分散剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤、架橋剤、架橋助剤等が挙げられ、また、用途によっては、従来から慣用されている赤燐、ポリリン酸化合物、ヒドロキシ錫酸亜鉛、錫酸亜鉛、ほう酸亜鉛、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、酸化アンチモン等の難燃助剤を添加してもよい。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物は、前記した各成分及び必要により添加した添加剤を、例えば、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ローラー等の従来公知の混練装置で溶融混練することにより簡便に製造することができる。また、二軸混練押出機を使用した場合、工程を連続的に実施することができる。
【0045】
なお、難燃性樹脂組成物の製造にあっては、ポリプロピレン系樹脂、水酸化マグネシウム、必要により粘土鉱物及び添加剤等をあらかじめ溶融混練した溶融混練物を製造し、この溶融混練物に、残りの材料(特定構造のエチレン−酢酸ビニル共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー、変性ポリオレフィン、及び必要により添加剤等)をさらに溶融混練するようにしてもよい。このようにすることにより、樹脂組成物中における水酸化マグネシウムの分散性が向上して、耐摩耗性や機械的特性がさらに向上する。
【0046】
また、混練温度としては、(e)水酸化マグネシウムの分解温度以下(例えば、340℃以下)に設定することが好ましい。押出量等、その他の製造条件については、使用する樹脂成分等の種類により適宜決定することができる。
【0047】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、必要に応じて架橋処理を施すようにしてもよい。
架橋方法としては、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法を採用することができる。
電子線照射架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を成形した後に常法により電子線を照射することによって架橋を行うことができる。一方、化学架橋法による場合は、樹脂組成物に有機パーオキサイド等を従来公知の架橋剤として添加し、成形した後に常法により加熱処理して架橋を行うようにすればよい。
【0048】
本発明の難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を使用し、その他の成分として特定構造のエチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンを特定量含有する樹脂混合物に対して、水酸化マグネシウムを特定量含有する構成を採用しているので、耐熱性や耐寒性に加えて耐摩耗性に優れ、また、難燃性、機械的特性も良好となり、これらの諸特性をバランスよく兼ね備えた難燃性樹脂組成物となる。
【0049】
そして、廃却後もリサイクル化し易く、埋設等の廃却処分をしても、鉛系化合物やリン化合物による環境汚染の問題を生じることがなく、焼却した場合にも有害なハロゲンガスやダイオキシン等を発生することもなく、環境への適応性も良好である。
【0050】
また、銅線、錫メッキ銅線、アルミ線等の金属導体や光ファイバ(以下、これらを総称して単に「導体」とする場合もある。)に本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した絶縁電線は、難燃性、耐摩耗性、引張特性等の機械的特性、及び環境への適応性を兼ね備えた絶縁電線として広く利用することができる。特に、本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した絶縁電線を、高い耐摩耗性、難燃性、機械的特性等が必要とされる自動車や電気・電子機器に配設される絶縁電線として使用した場合には、効果を最大限に発揮することができる。このような絶縁電線は、本発明の樹脂組成物を、公知の押出成形方法を用いて導体の外周に押出被覆することにより簡便に得ることができる。
【0051】
なお、本発明の絶縁電線にあっては、絶縁被覆材料の厚さも特に制限はなく、所望の厚さとして形成することができるが、本発明の難燃性樹脂組成物は、いわゆる細径化絶縁電線の被覆材料として用いた場合であっても、その効果を当該細径化絶縁電線に対して付与することができる。具体的には、導体の外径をφ0.6mm以下(好ましくはφ0.3〜0.6mm)として難燃性樹脂組成物を押出被覆して絶縁電線を混練押出した場合であっても、通常の絶縁電線と同様、難燃性及び耐摩耗性に優れ、機械的特性、耐熱性、耐寒性等の諸特性をバランスよく兼ね備えているという効果を好適に奏することができる細径化絶縁電線となる。なお、かかる細径化絶縁電線とする場合の絶縁被覆材料となる難燃性樹脂組成物の厚さは、0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましく、0.15〜0.3mmとすることが特に好ましい。
【0052】
また、絶縁電線は、本発明の樹脂組成物からなる絶縁被覆材料と導体の間に別途中間層を設ける等、絶縁層が多層構造となるようにしても問題はない。
【0053】
そして、本発明の難燃性樹脂組成物は樹脂成形体の構成材料として用いても、前記した優れた効果を享受する樹脂成形体を提供することができる。かかる樹脂成形体の形状や構成は特に制限はなく、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等を挙げることができる。これらの樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を押出成形方法や射出成形方法等の従来公知の成形方法により成形加工することにより得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1〜8、比較例1〜5]
実施例1〜8の難燃性樹脂組成物の構成を表1、比較例1〜5の難燃性樹脂組成物の構成を表2に示した。なお、難燃性樹脂組成物の製造は、混練機としてバンバリーミキサーを用い、ポリプロピレン系樹脂、水酸化マグネシウム、粘土鉱物、添加剤(滑剤、酸化防止剤)を溶融混練した後、残りの材料(エチレン・酢酸ビニル共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー、変性ポリオレフィン)をさらに溶融混練してペレット化した。
【0056】
また、使用した材料の詳細は下記のとおりである。なお、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210の規定に従って、下記の温度条件及び荷重条件により測定した。ここで、表1における含有量は、(1)〜(7)からなる樹脂混合物全体を100質量部としたときの質量部として示している((1)〜(7)からなる樹脂混合物を構成する樹脂材料それぞれについては、樹脂混合物全体を100質量%とした場合の含有量(質量%)と同意となる。)。
【0057】
(1)ポリプロピレン(ポリプロピレン系樹脂)
品名 : PS201A (サンアロマー社製)
MFR : 0.5g/10分(230℃、2.16kgf荷重)
【0058】
(2)エチレン・酢酸ビニル共重合体 80
(酢酸ビニル含有量が共重合体全体に対して80質量%であり、酢酸ビニル成分を3つ
以上連続する構造を有するエチレン・酢酸ビニル共重合体)
品名 : Levapren800HV (Bayer社製)
MFR : 4.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0059】
(3)エチレン・酢酸ビニル共重合体 60
(酢酸ビニル含有量が共重合体全体に対して60質量%であり、酢酸ビニル成分を3つ
以上連続する構造を有するエチレン・酢酸ビニル共重合体)
品名: Levapren600HV (Bayer社製)
MFR : 3.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0060】
(4)エチレン・酢酸ビニル共重合体 50
(酢酸ビニル含有量が共重合体全体に対して50質量%であり、酢酸ビニル成分を3つ
以上連続する構造を有するエチレン・酢酸ビニル共重合体)
品名 : Levapren500HV (Bayer社製)
MFR : 3.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0061】
(5)エチレン・酢酸ビニル共重合体 33
(酢酸ビニル含有量が共重合全体に対して33質量%であるエチレン・酢酸ビニル共重
合体)
品名 : エバフレックスEV180(三井デュポンポリケミカル社製)
MFR : 0.2g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0062】
(6)変性スチレン系熱可塑性エラストマー:
品名: クレイトンFG1901X(クレイトンポリマー社製)
MFR : 6.4g/10分(230℃、2.16kgf荷重)
【0063】
(7)変性ポリオレフィン:
品名 : アドテックスL6100M(日本ポリエチレン社製)
MFR : 1.1g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0064】
(8)水酸化マグネシウム:
品名 : キスマ5L(協和化学工業(株)製)
表面処理: あり(シランカップリング剤による表面処理)
平均粒径: 0.8μm
【0065】
(9)粘土鉱物
品名 : SatintoneSP33(ENGELHARD社製)
表面処理及び有機化処理: なし
平均粒径: 1.4μm
【0066】
(10)添加剤(滑剤、酸化防止剤)
品名 : Irganox1010(Ciba社製)(滑剤)
品名 : ネオワックスACL(ヤスハラケミカル社製)
(表1、2はこれらを合わせての適用量である)
【0067】
(樹脂組成物の構成:実施例)
【表1】

【0068】
(樹脂組成物の構成:比較例)
【表2】

【0069】
実施例1〜8及び比較例1〜5は、樹脂組成物をバンバリーミキサーで混練し、押出成形機で導体上に被覆して得た絶縁電線について比較・評価した結果である。
【0070】
実施例1〜7及び比較例1〜4は、直径がφ0.3mmの軟銅線の外周に0.2mmの厚さで樹脂組成物を被覆した絶縁電線について、実施例8と比較例5は、導体の直径がφ0.85mmの軟銅線の外周に0.2mmの厚さで樹脂組成物を被覆した絶縁電線に対して、下記の基準で「引張特性」、「難燃性」、「耐摩耗性」について比較・評価した。結果を表3に示す。
【0071】
(引張特性)
得られた絶縁電線の絶縁被覆材料の引張強度(MPa)、引張伸び(%)を、JIS C3005に準拠して、標線25mm、引張速度200mm/分で測定した。引張強度は16MPa以上、引張伸びは125%以上で合格とした。
【0072】
(難燃性)
ISO 6722に規定される45°傾斜難燃試験を実施して難燃性を確認した。70秒以内に炎が消えたものを合格とした。
【0073】
(耐摩耗性)
先端にφ0.45mmのピアノ線を取り付けたブレードに所定の荷重をかけ、絶縁電線表面を60回/分で往復運動させ、ブレードが被覆を貫通して導体に接触するまでの往復回数を測定した。なお、実施例1〜7及び比較例1〜4については荷重5Nで150回以上を合格とし、実施例8、比較例5は荷重7Nで150回以上を合格とした。
【0074】
(結果)
【表3】

【0075】
表3の結果より、実施例に示される本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した絶縁電線は、優れた引張特性、難燃性及び耐摩耗性を示すものであった。なお、変性ポリオレフィンを含有しない実施例3は、実施例2と比較すると引張特性は若干劣るものの、優れた引張特性、耐摩耗性及び難燃性を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の難燃性樹脂組成物は、特に難燃性と耐摩耗性に優れ、さらには機械的特性等の諸特性にバランスのとれた難燃性樹脂組成物であるので、例えば、自動車や電気・電子機器に配設される絶縁電線の絶縁被覆材料や当該自動車等の構成部材等として有利に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、(b)共重合体の構成成分である酢酸ビニル成分を3つ以上連続する構造を有し、かつ、酢酸ビニルの含有量が共重合体全体に対して50質量%以上であるエチレン・酢酸ビニル共重合体5〜20質量%、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び(d)変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(e)水酸化マグネシウム40〜200質量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、前記樹脂混合物100質量部に対して(f)粘土鉱物1〜20質量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物を導体上に押出被覆したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項4】
前記導体の外径がφ0.6mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2008−239901(P2008−239901A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85814(P2007−85814)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】