説明

難燃性炭化物の製造方法

【課題】炭化物を安定した物質にする難燃性炭化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】有機性廃棄物から得られた炭化物を酸化処理することにより発火を抑えるようにしたものであって、恒温槽内に前記炭化物を所定の厚さの薄層にして敷設し、当該炭化物を層厚さに対応した発火限界以下の温度で所定時間加熱するようにした難燃性炭化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己発熱性を有する炭化物を安全に輸送や貯蔵できるように安定した物質にする難燃性炭化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜舎から排出される蓄糞尿などの有機性廃棄物については、炭化物にして利用することが考えられている。しかし、生成した炭化物は、貯蔵しておく間にそれ自体が燃えだしてしまう問題があった。これは、炭化物が自己発熱性を有し、貯蔵中に自己発熱によって温度上昇し、その温度が一定温度を超えることによって発火してしまうものと考えられている。従って、炭化物の取扱には、この発火による燃焼を抑える必要があった。
【0003】
この点、特開2004−267950号公報には、炭化物を低温酸化雰囲気で酸化処理することが有効であることが示されている。その根拠は次の様なことであると考えられている。すなわち、炭化物は、炭化度合いの低いものが酸化反応に対して活性の高い活性基を多く含有し、200℃以下の低温でも自己発熱してしまう。しかし、炭化物の自己発熱は、燃焼反応とは別の反応であって、活性基の空気酸化反応によるものであると考えられ、低温では次第に反応が収束して、活性点(活性基)が次第に消失して最終的に安定する。そのため、予め低温で酸化反応を済ませておけば、後の貯蔵中に炭化物が自己発熱するのを抑制でき、発火による燃焼を予防できるというものである。
【特許文献1】特開2004−267950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、炭化物の扱いについては、危険物輸送に関する国連勧告に基づく自己発熱性物質試験が存在する。具体的には、図8に示すように恒温槽によるバスケット試験が行われる。100mm角の立方体形状であって、ステンレスで形成したメッシュカゴ101内に粉体の炭化物を入れ、このサンプル102を140℃に温度を保った恒温槽103の中で加熱する。サンプル102の温度は熱電対105によって計測され、熱電対105からデータロガ106が温度を算出して表示する。
【0005】
このバスケット試験では、炭化物が40℃以上昇温した場合には自己発熱性を有する物質であると判断される。一方、140℃で加熱しても燃焼に至らない場合には、そのまま加熱を継続しても、ある値まで昇温した後、発熱することなく温度は下がり、140℃の槽内雰囲気の温度に漸近していくことが試験結果として得られている。従って、このバスケット試験からは、ある程度の温度で加熱することにより、自己発熱性を有する炭化物が安定し、安全に輸送や貯蔵することが可能であることは確認されてはいる。すなわち、予め低温で酸化反応を済ませることが有効なことであることは分かるが、具体的にどのように加熱すればよいか明らかでなかった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、炭化物を安定した物質にする難燃性炭化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る難燃性炭化物の製造方法は、有機性廃棄物から得られた炭化物を酸化処理することにより発火を抑えるようにしたものであって、恒温槽内に前記炭化物を所定の厚さの薄層にして敷設し、当該炭化物を層厚さに対応した発火限界以下の温度で所定時間加熱するようにしたことを特徴とする。
また、本発明に係る難燃性炭化物の製造方法は、敷設した前記炭化物の厚さを10mm以下にし、約200℃で15分程度加熱するようにしたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明によれば、例えば、槽内雰囲気の温度を例えば200℃以上にした場合であっても、炭化物を10mm以下の厚さの薄層にすることによって、発火させることなく、燃焼を抑えた炭化物の生成を15分程度の短時間で行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明に係る難燃性炭化物の製造方法について、その一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
炭化物は、鶏舎などから排出される蓄糞尿を乾燥後、それらを炭化炉にて炭化することによって生成される。そうして得られた炭化物は、長時間の保存が可能になり、肥料の他、融雪剤や土壌改良材に用いることが可能になる。
【0010】
しかし、そのまま袋詰めなどして保管しておくと、前述したように炭化物が自己発熱をもっているため、自然に温度上昇を起こして発火してしまうおそれがある。図1は、炭化物を前述した図8に示す国連勧告に基づく方法で加熱した場合の温度変化を示した図である。具体的には、100mm角の炭化物を140℃で加熱した場合であって、当該サンプル102の中央部分および表面、そして槽内雰囲気の温度変化を示している。
【0011】
図から分かるように、槽内雰囲気の温度を140℃に上昇させると、当初20℃程度であったサンプル102が加熱され、先ず表面が徐々に上昇し、続いて中央部分においても温度上昇が生じた。そして、加熱開始から3時間を経過した当たりから急激にサンプル102の温度が上昇し、槽内雰囲気の温度である140℃を超えて発熱し、更にサンプル102の内部温度や表面温度が上昇を続けて発火し、燃焼するに至った。
【0012】
一方、図2は、同じく炭化物を図8に示す国連勧告に基づく方法であるが、120℃に加熱温度下げて試験を行った場合の温度変化を示した図である。温度の計測箇所は、炭化物を100mm角にしたサンプル102の中央部分および表面、そして槽内雰囲気である。こうした120℃の加熱試験では、図からも分かるように、槽内雰囲気の温度を120℃に上昇させると、当初20℃程度であったサンプル102の温度が表面が上昇し、続いて中央部分の温度が上昇した。
【0013】
そして、加熱時間が4時間にさしかかる当たりから、サンプル102の内部温度が槽内の温度である120℃を超えて発熱し始めた。しかし、サンプル102は130℃程度にまで昇温したものの、その後は徐々に温度を下げて槽内雰囲気の温度に漸近していった。これにより、サンプル102の発熱は収まったことがわかる。そこで、このサンプル102について更に、140℃での加熱試験を行った。図3は、その場合の温度変化を示した図である。
【0014】
一旦、発熱による昇温を経験したサンプル102は、これを再び140℃の燃焼可能温度において加熱しても、図3に示すように燃焼することはなかった。すなわち、サンプル102は、それ自体加熱されて温度が高いため、最初は温度の低い槽内雰囲気によって温度低下していった。その後、槽内温度が上昇することによって加熱され、低下したサンプル102の温度も上昇して発熱に至った。しかし、サンプル102は、槽内温度を超えて発熱したものの、図示するように長い時間を掛けて微増するだけで、最終的には一定温度で安定した。
【0015】
以上のことから、低温の槽内で発熱による昇温を行う低温酸化処理によって、自己発熱を抑えた炭化物を生成することが可能であることが分かる。しかし、炭化物を発熱させて昇温させるには、図1と図2から分かるように、低温にて処理する場合の方が処理時間が長くなってしまう。その一方で、高温処理を行うと、炭化物が発火して燃焼してしまうおそれがある。そこで、本願発明者は、炭化物の厚さに着目し、その処理厚さと、炭化物が発火して燃焼に至る槽内雰囲気の温度と変化させて試験を行った。すなわち、高温で酸化処理する場合に燃焼に至らない炭化物の処理厚さの検討を行った。
【0016】
図4は、炭化物を薄層にして200℃で加熱した場合の試験結果を示した図である。ステンレスの容器に粉体の炭化物を薄く敷設したサンプルを、ある一定温度の恒温槽の中に入れて加熱した。例えば、図4の結果を示した試験では、炭化物の処理厚さを10mmと15mmとにした2つのサンプルを用意し、いずれについても槽内の雰囲気を200℃にして加熱した。
【0017】
すると、10mm層のサンプルは、0.5時間程で槽内の温度を超えて発熱したが、その後は250℃まで上昇したものの温度が低下した。従って、10mm層のサンプルの場合は、200℃で加熱することにより発熱はするが、発火して燃焼することはなかった。一方、15mm層のサンプルの場合は、0.6時間ほどで槽内の温度を超えて発熱し、その後も徐々に温度が上昇した。そして、加熱を終了した後もサンプル自身の温度は上昇し、ついには発火して燃焼してしまった。
【0018】
従って、このことから、同じ加熱温度でも炭化物の厚さによって燃焼してしまう場合と、燃焼には至らない場合のあることが分かった。そして、燃焼しなかった10mm層のサンプルについて、図8に示す国連勧告に基づく方法で加熱試験を行った。そして、図5は、その場合の温度変化を示した図である。
そこで、前述した酸化処理後の炭化物を、100mm角にしたステンレスのメッシュカゴに入れ、そのサンプルを140℃にした槽内の雰囲気で加熱する。しかし、一旦発熱による昇温を経験したサンプルは、これを再び140℃の燃焼可能温度において加熱しても、図示するように僅かに発熱しただけで、槽内温度にほぼ重なるようにして安定した。よって、前述した酸化処理によって燃焼を抑えた炭化物が生成された。
【0019】
このようにして、更に様々なパターンで試験を行い、炭化物の処理厚さと槽内雰囲気の温度との関係を探った。試験では、炭化物の処理厚さ、処理温度および処理時間を変化させて加熱処理を行い、その処理品について、国連勧告の140℃のバスケット試験で燃焼に至らなくなるまでの処理時間を検討した。その結果、図6に示すように、処理厚さが100mmでは、120℃の温度で約120分の加熱時間が必要であった。また、処理厚さが10mmでは、200℃の温度で約15分の加熱時間が必要であった。更に、処理厚さが5mmでは、230℃の温度で約10分の加熱時間が必要であった。
【0020】
ところで、試験での処理厚さは、炭化物が燃焼に至らない厚さのため、発火限界より薄い厚さで加熱処理を実行している。そして、発火限界の試験の再現性により、燃焼に至るかどうかは多少のサンプルの局所的な厚さの変化によっても変わってしまう。例えば200℃での加熱処理の場合、処理厚さが10mmでは燃焼しないが15mmでは確実に燃焼するため、200℃での発火限界は10mm〜15mmの間であることが分かる。従って、200℃で発火させずに酸化処理する場合いは、炭化物を10mm以下の厚さの層にする必要がある。その他の温度では、例えば図7に示すように、150℃では50mmであり、120℃では100mmであった。
【0021】
よって、100mmの処理厚さで炭化物を120℃で酸化処理した場合には、その炭化物を発火しない安定した状態にするには120分もの時間を要するが、10mm或いは5mmの処理厚さであれば、200℃〜230℃で加熱した場合に、10分〜15分程度の時間で安定化処理することができることが分かった。従って、槽内雰囲気の温度を例えば200℃以上にした場合であっても、炭化物を所定厚さの薄層にすることによって、発火させることなく、燃焼を抑えた炭化物の生成を短時間で行うことが可能になった。
【0022】
以上、難燃性炭化物の製造方法について説明したが、本発明は、前記内容に制限されるものではない。
例えば、図7に示す温度と処理厚さとの関係は一例であって、対象とする炭化物の性質などによって変化するため、この関係に制限されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】炭化物を国連勧告に基づく方法で加熱した場合の温度変化を示した図である。
【図2】炭化物を国連勧告に基づく方法であって、120℃に加熱温度下げて試験を行った場合の温度変化を示した図である。
【図3】120℃で加熱処理を行った炭化物を更に140℃で加熱試験を行った場合の温度変化を示した図である。
【図4】炭化物を薄層にして200℃で加熱した場合の試験結果を示した図である。
【図5】薄層にして200℃で加熱処理を行った炭化物を更に140℃で加熱試験を行った場合の温度変化を示した図である。
【図6】処理時間、処理厚さ及び処理温度の関係の試験結果を示した図である。
【図7】処理温度と発火限界を考慮した処理厚さを示した図である。
【図8】危険物輸送に関する国連勧告のバスケット試験を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
101 メッシュカゴ
102 サンプル
103 恒温槽
105 熱電対
106 データロガ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物から得られた炭化物を酸化処理することにより発火を抑えた難燃性炭化物の製造方法において、
恒温槽内に前記炭化物を所定の厚さの薄層にして敷設し、当該炭化物を層厚さに対応した発火限界以下の温度で所定時間加熱するようにしたことを特徴とする難燃性炭化物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する難燃性炭化物の製造方法において、
敷設した前記炭化物の厚さを10mm以下にし、約200℃で15分程度加熱するようにしたことを特徴とする難燃性炭化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−280457(P2008−280457A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127011(P2007−127011)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】