説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐熱性および機械的強度が優れており、射出成形時に排出ガスの発生量が少なく、加工性が優れ、低吸湿性、および環境を考慮した難燃性を有する難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂(A−1)10〜90質量%およびポリフェニレンスルフィド樹脂(A−2)90〜10質量%(ただし、(A−1)と(A−2)との合計量は100質量%)を含む基礎樹脂(A)100質量部;ホスフィン酸金属塩難燃剤(B)0.5〜30質量部;ならびに充填剤(C)10〜100質量部;を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、電気・電子機器部品、自動車機器部品、または化学機器部品などの材料として、高耐熱性を有し、かつ耐化学薬品性を有する熱可塑性樹脂が要求されている。
【0003】
芳香族ポリアミド樹脂は、上記のような特性を有しているが、難燃性が不良であるため、ハロゲン系難燃剤を使用して、UL94 VB規定によってV−0の難燃性を満たしている。
【0004】
しかし、最近は、RoHS(Restriction of Hazardous Substances)およびPoHS(Prohibition on Certain Hazardous Substances in Consumer Products)などの有害物質規制によって、ハロゲン系化合物が含まれる製品を電機電子部品に使用しないようにする各種規制が定められている。
【0005】
このことから、特許文献1では、非ハロゲン系難燃剤を使用したポリアミド樹脂組成物を提案している。しかしながら、V−0の難燃性を有するためには、難燃剤の含有量が多くなり、耐熱性などの物性が低下する問題がある。また、加工温度が高くて、難燃剤の分解によるガスの発生量が多く、射出成形機および金型の腐蝕の問題も解決することができないのが実状である。
【0006】
これに対して、ポリフェニレンスルフィド系熱可塑性樹脂は、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、難燃性、加工性などの多くの特性が優れているので、各種光学部品または電気・電子機器部品などの精密部品を構成する金属素材に代わる新たなエンジニアリングプラスチック素材として関心を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開2007/0054992号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性および機械的強度が優れており、射出成形時にアウトガス(out−gas)の発生量が少なく、加工性に優れ、低吸湿性、および環境を考慮した難燃性を有する難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記難燃性熱可塑性樹脂組成物を用いた成型品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(A)(A−1)芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂10〜90質量%および(A−2)ポリフェニレンスルフィド樹脂90〜10質量%(ただし、(A−1)と(A−2)との合計量は100質量%)を含む基礎樹脂100質量部;(B)ホスフィン酸金属塩難燃剤0.5〜30質量部;ならびに(C)充填剤10〜100質量部;を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記難燃性熱可塑性樹脂組成物を用いた成型品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物は、優れた耐熱性、機械的強度、および加工性を有し、かつ低吸湿性および環境を考慮した難燃性も有しており、物性バランスに優れ、各種電気・電子部品、自動車部品などに使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。しかし、これら実施形態は例示として提示されるもので、これによって本発明の範囲が制限されるのではなく、本発明は特許請求の範囲によって定義される。
【0014】
本明細書に特別な言及がない場合には、アルキル基、アルコキシ基、及びシクロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜14の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数1〜14の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基を意味する。
【0015】
本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂(A−1)10〜90質量%およびポリフェニレンスルフィド樹脂(A−2)90〜10質量%(ただし、(A−1)と(A−2)との合計量は100質量%)を含む基礎樹脂(A)100質量部;ホスフィン酸金属塩難燃剤(B)0.5〜30質量部;ならびに充填剤(C)10〜100質量部;を含む。
【0016】
以下、本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分について具体的に説明する。
【0017】
(A)基礎樹脂
本発明の一実施形態による基礎樹脂は、芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。
【0018】
(A−1)芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂
基礎樹脂として用いられるポリアミド樹脂は、少なくとも芳香族ポリアミド樹脂を含む。
【0019】
芳香族ポリアミド樹脂は、高分子主鎖にアミド基および芳香環を含むものであり、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンと、ジカルボン酸とを主なモノマーとして重合されたポリアミドである。アミノ酸、ラクタム、またはジアミンおよびジカルボン酸の少なくとも一方に芳香環を含むモノマーを選択すれば、そのモノマーを縮重合して得られるポリマーは、芳香族ポリアミド樹脂となる。
【0020】
前記アミノ酸の具体的な例としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラ−アミノメチルベンズ酸などが挙げられる。前記ラクタムの具体的な例としては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。前記ジアミンの具体的な例としては、例えばテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクルロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環式ジアミンなどが挙げられる。これらアミノ酸、ラクタム、およびジアミンは、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、前記ジカルボン酸の具体的な例としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ヘキサハイドロテレフタル酸、ヘキサハイドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。これらジカルボン酸は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
これらの原料を縮重合させて得られる芳香族ポリアミド樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明に用いられるより好ましい芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸がジカルボン酸の総モル数に対して10〜100モル%で含まれるジカルボン酸と、および脂肪族ジアミンまたは脂環式ジアミンの縮重合によって製造される樹脂である。
【0024】
前記芳香族ジカルボン酸は、具体的には、下記化学式1aで表されるテレフタル酸または下記化学式1bで表されるイソフタル酸が好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
前記脂肪族ジアミンまたは脂環式ジアミンは、炭素数4〜20のジアミンであることが好ましい。
【0027】
本発明で用いられるさらに好ましい芳香族ポリアミド樹脂は、融点が180℃以上であり、かつ主鎖に芳香環を含む重合体であって、具体的には、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との縮重合によって製造される重合体である。これは、PA6Tとも称され、下記化学式2で表される繰り返し単位を含む。
【0028】
【化2】

【0029】
前記化学式2中、*は、繰り返し単位の結合点を表す。
【0030】
また、前記芳香族ポリアミド樹脂として、脂肪族ポリアミドを含むコポリマー(セミ芳香族ポリアミドまたは半芳香族ポリアミドともいう)もまた好ましい。
【0031】
上記のような半芳香族ポリアミド樹脂のより具体的な例としては、例えば、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(PA66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(PA6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(PA6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(PA66/6T/6I)、ポリキシレンアジパミド(PAMXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)、などが挙げられる。
【0032】
前記芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度は、好ましくは0.8〜0.95である。
【0033】
また、本発明の一実施形態によれば、前記芳香族ポリアミド樹脂以外に、脂肪族ポリアミド樹脂を混合して使用することもできる。この際、前記脂肪族ポリアミド樹脂は、芳香族ポリアミド樹脂および脂肪族ポリアミド樹脂の総質量に対して、好ましくは50質量%以下で混合して使用することができる。脂肪族ポリアミドを混合して使用することによって、加工温度を低くすることができる。脂肪族ポリアミド樹脂の含有量の下限値は、特に制限されないが、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0034】
前記脂肪族ポリアミド樹脂の例としては、例えば、ポリカプロアミド(PA6)、ポリテトラメチレンアジパミド(PA46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(PA66)などが挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態による芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂は、芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂の総質量に対して10〜90質量%で含まれ、好ましくは30〜80質量%で含まれる。ポリアミド樹脂が前記の範囲内で含まれる場合には、機械的物性、耐熱性、および加工性の物性バランスが優れている。
【0036】
上記のポリアミド樹脂は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0037】
(A−2)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明の一実施形態によるポリフェニレンスルフィド樹脂は、下記化学式3で表される繰り返し単位を70モル%以上含む樹脂であることが好ましい。下記化学式3で表される繰り返し単位が70モル%以上含まれる場合には、結晶性ポリマーの特徴である結晶化度が高く、耐熱性、耐薬品性、および機械的強度に優れている。
【0038】
【化3】

【0039】
前記化学式3中、*は、繰り返し単位の結合点を表す。
【0040】
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂は、前記化学式3で表される繰り返し単位以外に、下記の化学式4〜11で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含むことができる。
【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
前記化学式4〜11中、*は、繰り返し単位の結合点を表し、
前記化学式9中、Rは炭素数1〜14の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基、フェニレン基、炭素数1〜14の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシレン基(オキシアルキレン基)、またはエステル基(カルボニルオキシ基)である。
【0050】
炭素数1〜14の直鎖状または分枝状のアルキレン基の例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、iso−アミレン基、tert−ペンチレン基、ネオペンチレン基、n−へキシレン基、3−メチルペンタン−2−イレン基、3−メチルペンタン−3−イレン基、4−メチルペンチレン基、4−メチルペンタン−2−イレン基、1,3−ジメチルブチレン基、3,3−ジメチルブチレン基、3,3−ジメチルブタン−2−イレン基、n−ヘプチレン基、1−メチルヘキシレン基、3−メチルヘキシレン基、4−メチルヘキシレン基、5−メチルヘキシレン基、1−エチルペンチレン基、1−(n−プロピル)ブチレン基、1,1−ジメチルペンチレン基、1,4−ジメチルペンチレン基、1,1−ジエチルプロピレン基、1,3,3−トリメチルブチレン基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピレン基、n−オクチレン基、2−エチルヘキシレン基、2−メチルヘキサン−2−イレン基、2,4−ジメチルペンタン−3−イレン基、1,1−ジメチルペンタン−1−イレン基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イレン基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イレン基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イレン基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イレン基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イレン基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イレン基、1−メチルヘプチレン基、2−メチルヘプチレン基、5−メチルヘプチレン基、2−メチルヘプタン−2−イレン基、3−メチルヘプタン−3−イレン基、4−メチルヘプタン−3−イレン基、4−メチルヘプタン−4−イレン基、1−エチルヘキシレン基、2−エチルヘキシレン基、1−プロピルペンチレン基、2−プロピルペンチレン基、1,1−ジメチルヘキシレン基、1,4−ジメチルヘキシレン基、1,5−ジメチルヘキシレン基、1−エチル−1−メチルペンチレン基、1−エチル−4−メチルペンチレン基、1,1,4−トリメチルペンチレン基、2,4,4−トリメチルペンチレン基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピレン基、1,1,3,3−テトラメチルブチレン基、n−ノニレン基、1−メチルオクチレン基、6−メチルオクチレン基、1−エチルヘプチレン基、1−(n−ブチル)ペンチレン基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチレン基、1,5,5−トリメチルヘキシレン基、1,1,5−トリメチルヘキシレン基、2−メチルオクタン−3−イレン基、n−デシレン基、1−メチルノニレン基、1−エチルオクチレン基、1−(n−ブチル)ヘキシレン基、1,1−ジメチルオクチレン基、3,7−ジメチルオクチレン基、n−ウンデシレン基、1−メチルデシレン基、1−エチルノニレン基、n−ドデシレン基、1−メチルウンデシレン基、n−トリデシレン基、またはn−テトラデシレン基などが挙げられる。
【0051】
炭素数1〜14の直鎖状または分枝状のアルコキシレン基(オキシアルキレン基)の例としては、例えば、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、オキシn−ブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシsec−ブチレン基、オキシtert−ブチレン基、オキシn−ペンチレン基、オキシiso−アミレン基、オキシtert−ペンチレン基、オキシネオペンチレン基、オキシn−へキシレン基、オキシ3−メチルペンタン−2−イレン基、3−メチルペンタン−3−イレン基、オキシ4−メチルペンチレン基、オキシ4−メチルペンタン−2−イレン基、オキシ1,3−ジメチルブチレン基、オキシ3,3−ジメチルブチレン基、オキシ3,3−ジメチルブタン−2−イレン基、オキシn−ヘプチレン基、オキシ1−メチルヘキシレン基、オキシ3−メチルヘキシレン基、オキシ4−メチルヘキシレン基、オキシ5−メチルヘキシレン基、オキシ1−エチルペンチレン基、オキシ1−(n−プロピル)ブチレン基、オキシ1,1−ジメチルペンチレン基、オキシ1,4−ジメチルペンチレン基、オキシ1,1−ジエチルプロピレン基、オキシ1,3,3−トリメチルブチレン基、オキシ1−エチル−2,2−ジメチルプロピレン基、オキシn−オクチレン基、オキシ2−エチルヘキシレン基、オキシ2−メチルヘキサン−2−イレン基、オキシ2,4−ジメチルペンタン−3−イレン基、オキシ1,1−ジメチルペンタン−1−イレン基、オキシ2,2−ジメチルヘキサン−3−イレン基、オキシ2,3−ジメチルヘキサン−2−イレン基、オキシ2,5−ジメチルヘキサン−2−イレン基、オキシ2,5−ジメチルヘキサン−3−イレン基、オキシ3,4−ジメチルヘキサン−3−イレン基、オキシ3,5−ジメチルヘキサン−3−イレン基、オキシ1−メチルヘプチレン基、オキシ2−メチルヘプチレン基、オキシ5−メチルヘプチレン基、オキシ2−メチルヘプタン−2−イレン基、オキシ3−メチルヘプタン−3−イレン基、オキシ4−メチルヘプタン−3−イレン基、オキシ4−メチルヘプタン−4−イレン基、オキシ1−エチルヘキシレン基、オキシ2−エチルヘキシレン基、オキシ1−プロピルペンチレン基、オキシ2−プロピルペンチレン基、オキシ1,1−ジメチルヘキシレン基、オキシ1,4−ジメチルヘキシレン基、オキシ1,5−ジメチルヘキシレン基、オキシ1−エチル−1−メチルペンチレン基、オキシ1−エチル−4−メチルペンチレン基、オキシ1,1,4−トリメチルペンチレン基、オキシ2,4,4−トリメチルペンチレン基、オキシ1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピレン基、オキシ1,1,3,3−テトラメチルブチレン基、オキシn−ノニレン基、オキシ1−メチルオクチレン基、オキシ6−メチルオクチレン基、オキシ1−エチルヘプチレン基、オキシ1−(n−ブチル)ペンチレン基、オキシ4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチレン基、オキシ1,5,5−トリメチルヘキシレン基、オキシ1,1,5−トリメチルヘキシレン基、オキシ2−メチルオクタン−3−イレン基、オキシn−デシレン基、オキシ1−メチルノニレン基、オキシ1−エチルオクチレン基、オキシ1−(n−ブチル)ヘキシレン基、オキシ1,1−ジメチルオクチレン基、オキシ3,7−ジメチルオクチレン基、オキシn−ウンデシレン基、オキシ1−メチルデシレン基、オキシ1−エチルノニレン基、オキシn−ドデシレン基、オキシ1−メチルウンデシレン基、オキシn−トリデシレン基、またはオキシn−テトラデシレン基などが挙げられる。
【0052】
前記化学式4〜11で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種は、前記化学式3で表される繰り返し単位100モル%に対して好ましくは50モル%未満で含まれ、より好ましくは30モル%未満で含まれる。前記化学式4〜11で表される繰り返し単位が50モル%未満で含まれる場合には、耐熱性および機械的物性が優れている。また、下限値は、特に制限されないが、0.1モル%以上であることが好ましい。
【0053】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その製造方法によって、分岐構造や架橋構造を含まない線状の分子構造、および分岐構造や架橋構造を含む分子構造に分かれることが知られている。本発明の一実施形態によれば、前記化学式3〜11に示すように、そのいずれのタイプであっても好適に使用することができる。
【0054】
架橋構造を含むポリフェニレンスルフィド樹脂の代表的な製造方法は、特開昭45−3368号公報に開示されており、線状のポリフェニレンスルフィド樹脂の代表的な製造方法は、特開昭52−12240号公報に開示されている。
【0055】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性や作業性を考慮して、メルトインデックス(MI)が316℃、2.16kgの荷重で10〜300g/10minの値であるポリフェニレンスルフィド樹脂を使用するのが好ましい。メルトインデックスが前記の範囲内である場合には、機械的強度の低下が抑えられ、混練性および射出成形時の作業性に優れている。
【0056】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は、芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂の総質量に対して90〜10質量%で含まれ、好ましくは70〜20質量%で含まれる。ポリフェニレンスルフィド樹脂が前記の範囲内で含まれる場合には、機械的物性、耐熱性、および加工性の物性バランスに優れている。
【0057】
(B)ホスフィン酸金属塩難燃剤
本発明の一実施形態によるホスフィン酸金属塩難燃剤は、下記化学式12または13で表される化合物であることが好ましい。
【0058】
【化12】

【0059】
【化13】

【0060】
前記化学式(11)および(12)中、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、直鎖状もしくは分枝状の炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基である。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、t−ペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0061】
前記化学式(11)および(12)中、Rは、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数7〜15のアルキルアリーレン基、または炭素数7〜15のアリールアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、オクチレン基、デシレン基などのアルキレン基;フェニレン基、ナフタレン基などのアリーレン基;メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、ブチルフェニレン基、メチルナフタレン基、エチルナフタレン基、ブチルナフタレン基などのアルキルアリーレン基;フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基、フェニルブチレン基などのアリールアルキレン基などが挙げられる。MはAl、Zn、Ca、およびMgからなる群より選択される金属であり、好ましくはAlまたはZnである。mは2または3であり、nは1または3であり、xは1または2である。
【0062】
前記ホスフィン酸金属塩難燃剤は、さらに具体的には、ジエチルアルミニウムホスフィネートおよびアルミニウムメチルエチルホスフィネートの少なくとも一方がより好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態によるホスフィン酸金属塩難燃剤は、芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂100質量部に対して0.5〜30質量部で含まれ、好ましくは0.5〜20質量部で含まれ、より好ましくは5〜20質量部で含まれる。
【0064】
ホスフィン酸金属塩難燃剤が前記の範囲内で含まれる場合には、加工性および射出成形性に優れていて、射出成型時にアウトガスの発生量がほとんどなく、大量生産が可能である。
【0065】
本発明の一実施形態によるホスフィン酸金属塩難燃剤は、芳香族リン酸エステル系化合物;メラミン、メラミンシアヌレートなどの窒素含有化合物;およびメラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェートなどの窒素−リン含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種と混合して使用することができる。
【0066】
前記芳香族リン酸エステル系化合物としては、特に制限されないが、下記化学式14で表される化合物を使用することができる。
【0067】
【化14】

【0068】
前記化学式14中、R、R、R、およびR10は、それぞれ独立して、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数7〜34のアルキルアリール基であり、Rはレゾシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、またはビスフェノールSから誘導される基であり、nは0〜5の整数である。
【0069】
炭素数6〜20のアリール基の例としては、例えば、フェニル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、またはピレニル基が挙げられる。
【0070】
前記アルキル置換アリール基のアルキル置換基は、炭素数1〜14のアルキル基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、1−エチルノニル基、n−ドデシル基、1−メチルウンデシル基、n−トリデシル基、またはn−テトラデシル基などが挙げられる。
【0071】
前記化学式14中のnが0である芳香族リン酸エステル系化合物の例としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、クレシルジフェニルホスフェート、トリキシリルホスフェート、トリ(2,4,6−トリメチルフェニル)ホスフェート、トリ(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(2,6−ジtert−ブチルフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0072】
前記化学式14中のnが1である芳香族リン酸エステル系化合物の例としては、例えば、レゾシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)、レゾシノールビス(2,6−ジtert−ブチルフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(2,6−ジメチルフェニルホスフェート)などが挙げられる。
【0073】
前記化学式14中のnが2以上である芳香族リン酸エステル系化合物は、オリゴマーの混合物の形態で存在する。かような芳香族リン酸エステル系化合物の例としては、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのようなヒドロキシルアリール化合物とアリールモルホリノクロロホスフェートとを、適切な触媒下で反応させて製造される化合物を挙げられる。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、前記芳香族リン酸エステル系化合物は、前記で例示したもの以外にも、あらゆる芳香族リン酸エステル系化合物を使用することができ、このような難燃剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0075】
前記芳香族リン酸エステル系化合物は、ホスホネート、ホスファゼンなどの他のリン含有難燃剤を追加的に混合して使用することもできる。
【0076】
前記ホスフィン酸金属塩難燃剤と混合して使用する芳香族リン酸エステル系化合物、質素含有化合物、窒素−リン含有化合物、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種は、ホスフィン酸金属塩難燃剤100質量部に対して、好ましくは10〜400質量部で含まれうる。
【0077】
(C)充填剤
本発明の一実施形態による充填剤は、有機充填剤および無機充填剤のいずれも使用することができる。該充填剤は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0078】
前記有機充填剤の例としては、例えば、アラミド繊維などの繊維状充填剤が挙げられる。前記無機充填剤の例としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、珪灰石(wollastonite)などの繊維状充填剤;炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、カーボンブラック、アルミナ、炭酸リチウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、黒鉛、ガラスビーズ、滑石、クレイ、雲母、酸化ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、または窒化ホウ素などの粉粒状充填剤などが挙げられる。
【0079】
前記充填剤は、芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂100質量部に対して10〜100質量部で含まれ、好ましくは30〜90質量部で含まれる。充填剤が前記の範囲内で含まれる場合には、寸法安定性、耐熱性、および機械的物性に優れている。
【0080】
本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物は、上記のような構成成分以外にも、各々の用途によって、酸化防止剤、離型剤、潤滑剤、相溶化剤、衝撃補強剤、可塑剤、核剤、および着色剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含むことができる。これら添加剤の含有量は、上記(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0081】
本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物は、樹脂組成物の一般的な製造方法で製造することができる。例えば、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の構成成分およびその他の添加剤を同時に混合した後、押出機で溶融押出して、ペレット形態にして製造することができる。
【0082】
本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物は、アウトガスの排出量が少なく、押出成形および射出成形に有利である。本明細書において、アウトガスの排出量は、熱重量分析(TGA:Thermo Gravimetry analysis)で、320℃、30分間の質量減量で測定された値を採用するものとする。該排出量は、好ましくは0.1〜1.5質量%である。アウトガスの排出量が前記の範囲内である場合には、射出成形機および金型の腐蝕の問題が発生せず、押出および射出成形性に優れ、大量生産が可能である。
【0083】
本発明の一実施形態による難燃性熱可塑性樹脂組成物は、火災に対して安定性を有し、燃焼時に環境汚染をもたらすハロゲン系難燃剤を使用しないので、環境にやさしい。また、芳香族ポリアミド樹脂の使用によって、優れた機械的強度および耐熱性を維持することができ、難燃性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を基礎樹脂として使用することによって、ホスフィン酸金属塩難燃剤の使用を最小限にすることができる。したがって、優れた耐熱性および難燃性を維持しながら、機械的強度の低下およびアウトガスの排出量を最小限にすることができる。
【0084】
本発明の他の実施形態によれば、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を利用した成形品を提供する。つまり、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロ−成形、押出成形、熱成形などの多様な手段によって成形品として得られる。特に、優れた耐熱性、機械的強度、および加工性を有し、低吸湿性および環境を考慮した難燃性を有するので、各種電機電子部品や自動車部品に使用することができる。その代表的な例としては、例えば、コネクタおよびソケット、コネクタボックス、メモリ、ブレーカーなどが挙げられる。
【0085】
特に、本発明のさらに他の実施形態によれば、難燃性熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品および金属端子を含む表面実装用電子部品を提供する。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の好ましい実施例を記載する。しかし、下記の実施例は、本発明の好ましい一実施形態に過ぎず、本発明は下記の実施例によって限定されない。
【0087】
難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される各構成成分は、下記の通りである。
【0088】
(A)基礎樹脂
(A−1)ポリアミド樹脂
(A−1−1)芳香族ポリアミド樹脂として、主鎖に芳香環を含む半芳香族ポリアミドであるDupont社製のZYTEL(登録商標)HTN−501(ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテレフタル酸の3元共重合体であり、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA6T/M5T)である)を使用した。
【0089】
(A−1−2)脂肪族ポリアミド樹脂として、ポリヘキサメチレンアジパミド(PA66:Dupont社製のZYTEL(登録商標)101F)を使用した。
【0090】
(A−2)ポリフェニレンスルフィド樹脂
メルトインデックス(MI)が316℃、2.16kgの荷重で50〜100g/10minの値を有するDIC株式会社製のポリフェニレンスルフィドを使用した。
【0091】
(B)ホスフィン酸金属塩難燃剤
(B−1)Clariant社製のエクソリット(登録商標)OP 930(ジエチルアルミニウムホスフィネート)を使用した。
【0092】
(B−2)Clariant社製のホスフィン酸亜鉛塩を使用した。
【0093】
(B−3)太平化学産業株式会社製のホスフィン酸カルシウム塩を使用した。
【0094】
(B’)赤リン系難燃剤として、燐化学工業株式会社製のノーバエクセル(登録商標)140を使用した。
【0095】
(C)充填剤
オーウェンスコーニング(Owens Corning)社製のVetroex 910を使用した。Vetroex 910は、直径10μm、チョップ(chop)の長さが3mmであるガラス繊維から構成される。
【0096】
[実施例1〜7および比較例1〜7]
上記の各成分を用いて、下記の表1〜3に示した組成で、実施例1〜7および比較例1〜7の樹脂組成物を製造した。
【0097】
製造方法としては、下記の表1〜3に示した組成で各成分を混合し、通常の混合器で混合して、二軸押出機に投入した。混合物を押出機によってペレット形態の樹脂組成物として製造し、10オンス射出成形機を用いて、射出温度330℃で物性評価のための試験片を製造した。
【0098】
[評価]
物性評価用の試験片は、23℃、相対湿度50%で48時間放置した後、ASTM規格によって物性を測定した。成形された試験片に対して、ASTM D790によって曲げ強度および曲げ弾性率を測定し、ASTM D256によってアイゾット衝撃強度(1/8インチ ノッチ付き)を測定した。
【0099】
熱変形温度は、ASTM D648によって、1/4インチ(6.4mm)の厚さの試験片を、120℃/hrの速度で温度が上昇するオイル中に位置させた後、1.86MPaの一定の圧力を加えて、0.254mm曲がる温度を測定した。
【0100】
難燃度は、UL94 VB難燃規定によって、試験片を0.8mmの厚さで測定した。
【0101】
アウトガスの排出量は、TGA(TA INSTRUMENTS社製のTGA Q5000)を用いて、昇温速度20℃/minで温度を30℃から320℃に昇温して、320℃で30分間の質量減少量を測定した。
【0102】
【表1】

【0103】
前記表1の結果から、本発明の一実施形態による芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂、ホスフィン酸金属塩難燃剤、ならびに充填剤を含む実施例1〜4の組成物の場合、芳香族ポリアミド樹脂を含まない比較例1および2と比較して、機械的強度、耐熱性、および難燃性の物性バランスに優れていることが確認できる。
【0104】
すなわち、脂肪族ポリアミド樹脂のみを使用した比較例1および2の場合、芳香族ポリアミド樹脂を単独で使用したか、または芳香族ポリアミド樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂とを混合して使用した実施例1〜4と比較して、難燃性および耐熱性が低下することが確認できる。
【0105】
【表2】

【0106】
上記表2の結果から、本発明の一実施形態による芳香族ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂、ホスフィン酸金属塩難燃剤、および充填剤を使用した実施例1および5、ホスフィン酸金属塩難燃剤を使用しない比較例3、ホスフィン酸金属塩難燃剤を本発明の一実施形態による適正な含有量を逸脱して使用した比較例4および6、そしてポリフェニレンスルフィド樹脂を使用しない比較例5および6を比較すれば、実施例1および5の組成物は、機械的強度、耐熱性、および難燃性の物性バランスに優れていることが確認でき、アウトガスの排出量も0.1〜1.5質量%の範囲内で少ないことが確認できる。
【0107】
すなわち、ホスフィン酸金属塩難燃剤を、本発明の一実施形態による適正な含有量を逸脱して使用した比較例4および6の場合、ホスフィン酸金属塩難燃剤を適正な含有量で使用した実施例1および5と比較して、機械的強度が低下することが確認でき、また、アウトガスの発生量が多く、射出成形機の腐蝕の問題が発生して、それにより大量生産時に不良率が増加する可能性がある。
【0108】
【表3】

【0109】
上記表3の結果から、本発明の一実施形態による芳香族ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂を含む基礎樹脂、ホスフィン酸金属塩難燃剤、ならびに充填剤を使用した実施例1、6、および7の場合、ホスフィン酸金属塩難燃剤を使用しない比較例7と比較して、難燃性が優れていることが確認できる。
【0110】
また、ホスフィン酸金属塩難燃剤としてアルミニウム塩および亜鉛塩を使用した実施例1および6の場合、ホスフィン酸金属塩としてカルシウム塩を使用した実施例7と比較して、アウトガスの発生量が相対的に少ないことが確認できる。
【0111】
したがって、上記表1〜3の結果から、本発明の一実施形態による芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ホスフィン酸金属塩難燃剤、および充填剤を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物の場合、難燃性、機械的強度、および耐熱性の物性バランスが優れていることが確認できる。
【0112】
本発明は、上記の実施例に限定されず、互いに異なる多様な形態に変形され、当業者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更しなくても、異なる具体的な形態で実施されることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであって、限定的ではないと理解されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂(A−1)10〜90質量%およびポリフェニレンスルフィド樹脂(A−2)90〜10質量%(ただし、(A−1)と(A−2)との合計量は100質量%)を含む基礎樹脂(A)100質量部;
ホスフィン酸金属塩難燃剤(B)0.5〜30質量部;ならびに
充填剤(C)10〜100質量部;
を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記基礎樹脂(A)は、前記芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂(A−1)30〜80質量%および前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−2)70〜20質量%(ただし、(A−1)と(A−2)との合計量は100質量%)を含む、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリアミド樹脂は、融点が180℃以上であり、かつ主鎖に芳香環を含む、請求項1または2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリアミド樹脂は半芳香族ポリアミドを含み、
前記半芳香族ポリアミドは、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(PA66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(PA6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(PA6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(PA66/6T/6I)、ポリキシレンアジパミド(PA MXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(PA6T/M5T)、およびポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂と混合して使用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−2)は、下記化学式3で表される繰り返し単位を70モル%以上含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物:
【化1】

前記化学式(3)中、*は、繰り返し単位の結合点を表す。
【請求項7】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−2)は、前記化学式3で表される繰り返し単位100モル%に対して、下記化学式4〜11で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種を50モル%未満でさらに含む、請求項6に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物:
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

前記化学式4〜11中、*は、繰り返し単位の結合点を表し、
前記化学式9中、Rは炭素数1〜14の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基、フェニレン基、炭素数1〜14の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシレン基、またはエステル基である。
【請求項8】
前記ホスフィン酸金属塩は、下記化学式12または13で表される化合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物:
【化10】

【化11】

前記化学式12および13中、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基であり、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数7〜34のアルキルアリーレン基、または炭素数7〜34のアリールアルキレン基であり、Mは、Al、Zn、Ca、およびMgからなる群より選択される金属であり、mは2または3であり、nは1または3であり、xは1または2である。
【請求項9】
前記ホスフィン酸金属塩難燃剤は、ジエチルアルミニウムホスフィネートおよびメチルエチルアルミニウムホスフィネートの少なくとも一方である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記難燃性熱可塑性樹脂組成物は、芳香族リン酸エステル系化合物、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンピロホスフェート、およびメラミンポリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記芳香族リン酸エステル系化合物は、下記化学式14で表される化合物である、請求項10に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物:
【化12】

前記化学式14中、R、R、R、およびR10は、それぞれ独立して、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数7〜34のアルキル置換アリール基であり、Rはレゾシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、またはビスフェノールSから誘導される基であり、nは0〜5の整数である。
【請求項12】
前記充填剤(C)は、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、珪灰石、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、カーボンブラック、アルミナ、炭酸リチウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、黒鉛、ガラスビーズ、滑石、クレー、雲母、酸化ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、および窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記難燃性熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤、離型剤、潤滑剤、相溶化剤、衝撃補強剤、可塑剤、核剤、および着色剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
前記難燃性熱可塑性樹脂組成物は、アウトガスの排出量が0.1〜1.5質量%である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品。

【公開番号】特開2009−270107(P2009−270107A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110978(P2009−110978)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】