説明

難燃性熱可塑性組成物とその製造方法

【課題】難燃性熱可塑性組成物と、その製造方法およびその工業製品の製造での利用。
【解決手段】ポリアミド樹脂PA−11とPA−12とのブレンドと、シアヌル酸メラミンとを含む難燃性熱可塑性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、耐熱性および耐薬品性に優れ、耐火性に優れたポリアミド樹脂をベースにした難燃性熱可塑性組成物と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリアミド樹脂はその優れた物理的特性によって自動車産業、航空工業、電気分野等の多くの用途で広く用いられているが、この樹脂はその可燃性のために開発にブレーキがかかっている。
【0003】
ポリアミドベースの熱可塑性組成物の耐燃性を向上させるために、これまでも多くの解決策が提案されてきた。従来の添加剤であるデカブロモジフェニルエーテルまたはデカブロモジフェニル等のハロゲン化誘導体(Sb23と組合せることもできる)ハロゲン化酸を発生させる。このハロゲン化誘導体は製造中および/または使用時および/または燃焼時にハロゲン化酸を放出し、設備が腐食し、環境を汚染する危険がある。
【0004】
酸化アンチモンSb23を水酸化マグネシウムと組合せて用いてポリアミド熱可塑性組成物に難燃性を付与する方法は本出願人の下記文献に記載されている。
【特許文献1】欧州特許第571,241号公報
【0005】
シアヌル酸メラミンもポリアミドの耐燃性を向上させるが、同じ重量の高塩素含有化合物や高臭素含有化合物に比べた効果は劣る。
燐またはその誘導体、例えば赤燐(下記文献)、亜燐酸塩または燐酸酸を混和することも知られている。
【特許文献2】米国特許第3778407号明細書
【0006】
ポリオールとシアヌル酸メラミンとをポリアミドベースの組成物に同時に添加して難燃性を向上させる方法は本出願人の下記文献に記載されている。
【特許文献3】欧州特許第169,085号
【0007】
酸化アンチモンSb23、シアヌル酸メラミンおよび一種または複数のポリオールを脂肪族および/または脂環式および/または芳香族単位を含むポリアミド樹脂をベースにした熱可塑性組成物に添加して耐燃性を向上させる方法は本出願人の下記文献に記載されている。
【特許文献4】欧州特許第758,002号公報
【0008】
この登録商標に記載の組成物はPA−11、PA−12、PA−12,12、coPA−6/12および/またはPEBAのようなポリアミド樹脂をベースにしたものである。この特許公報に記載の製造方法では各成分を含むマスターバッチを予備製造し、このマスターバッチを最終樹脂中に再希釈する。マスターバッチの樹脂は最終樹脂と同一でも異なっていてもよい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願人は、難燃特性が向上した難燃性熱可塑性組成物を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象は、ポリアミド樹脂PA−11とPA−12とのブレンドと、シアヌル酸メラミンとを含む難燃性熱可塑性組成物にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施例では、組成物中のPA−12/PA−11比は99/1〜1/99、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40である。このPA−12/PA−11比は85/15〜50/50であるのがさらに好ましい。
【0012】
本発明の一実施例では、シアヌル酸メラミンは組成物全重量の5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%である。
本発明の別の実施例では、熱可塑性組成物は少なくとも4つのアルコール官能基を有する一種または複数のポリオール、酸化アンチモンSb23、水酸化マグネシウムMg(OH)2、ポリ燐酸アンモニウム、燐を含む誘導体または無機ナノフィラー(nanocharges)の中から選択される難燃性添加剤をさらに含む。
【0013】
上記の難燃性添加剤は少なくとも4つのアルコール官能基を含むポリオール、好ましくはモノペンタエリトリトールの中から選択するのが好ましい。
本発明の一実施例ではポリオールは組成物の全重量の1〜5%を占める。
【0014】
本発明の別の対象は、下記(a)と(b)の段階を含む上記定義の熱可塑性組成物の製造方法にある:
(a)ポリアミド樹脂PA−11またはPA−12、または、PA−11とPA−12とのブレンドと、シアヌル酸メラミンとを含むマスターバッチを製造し、
(b)このマスターバッチをポリアミド樹脂PA−11またはPA−12中またはPA−11とPA−12とのブレンド中に希釈する。
【0015】
製造方法の(a)段階で用いるポリアミドがPA−11で、(b)段階で用いるポリアミドはPA−12であるのが好ましい。
本発明の一実施例ではポリオールを製造方法の(b)段階で添加する。
本発明のさらに別の対象は、上記定義の組成物を成形して得られる工業製品にある。
【0016】
本発明組成物を用いることによって機械的特性、耐熱性および耐薬品性に優れ、耐火性に優れた材料を得ることができる。本発明組成物を用いて作られた材料は耐燃性と機械的特性(例えば引張強度または破断点伸び)の両方に優れている。特に老化後の耐燃性と機械的特性に優れている。
【0017】
本発明熱可塑性組成物中に存在するポリアミドPA樹脂はナイロン−11(PA−11)ポリマーおよびナイロン−12(PA−12)ポリマーから成る公知の熱可塑性樹脂である。
本発明組成物では、PA−12/PA−11の比は一般に99/1〜1/99、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40である。好ましい実施例ではPA−12/PA−11の比は85/15〜50/50である。
【0018】
「シアヌル酸メラミン(cyanurate de melamine)」とはメラミンとシアヌル酸との反応で得られる化合物、特にメラミンとシアヌル酸(エノール型またはケトン型にすることができる)との等モル反応で得られる化合物を意味する。
マスターバッチに混和されたシアヌル酸メラミンは一般にマスターバッチの全重量の30〜60重量%を占める。
PA−11とPA−12との混合物をベースにした最終組成物では、それは一般に組成物の全重量の5〜20%、好ましくは組成物の全重量の10〜15%である。
【0019】
本発明の組成物には、例えば4つのアルコール官能基を含む一種または複数のポリオール、酸化アンチモンSb23、水酸化マグネシウムMg(OH)2、ポリ燐酸アンモニウム、ピロ燐酸メラミン、より一般的には燐を含む誘導体、例えばホスフィネート、ホスフェート、例えばTPP、RDP等の中から選択される追加の難燃性添加剤を添加することができる。熱可塑性組成物に無機ナノフィラーを添加しても本発明の範囲を逸脱するものではない。これらのナノフィラーの例としてはモンモリロナイト、ナノタルク等が挙げられる。本発明組成物にモレキュラーシーブとしての用途でも知られるゼオライトを添加することもできる。
【0020】
「ポリオール」とはアルコール官能基を少なくとも4つ含む化合物、例えばテトロール、例えばエリトリトール、モノペンタエリトリトール(PER)およびそのポリ置換誘導体、ペントール、例えばキシリトール、アラビトールおよびヘキソール、例えばマンニトール、ソルビトールおよびその高級同族体を意味する。
少なくとも4つのアルコール官能基を含む一種または複数のポリオールの中から選択される好ましい添加物はモノペンタエリトリトール(PER)である。
ポリオールの量は最終組成物の全重量の1〜5重量%である。
【0021】
酸化アンチモンSb23は一般に粒径が約1ミクロンの微粉の形をしている。
【0022】
本発明組成物はさらに、硬いブロックがポリアミドで、軟いブロックがポリエーテルまたはポリエステルから成るポリエーテルアミドまたはポリエステルアミドともよばれるブロックコポリマーのポリアミドをベースにした熱可塑性エラストマー(TPE)を含むことができる。
本発明組成物はさらに、上記ブレンド中にポリウレタンまたはポリオレフィンのような他のポリマーを一緒に含むことができる。
いずれの場合も、上記定義のPA樹脂はブレンドの全重量の少なくとも50重量%以上である。
【0023】
特に、PAの衝撃強度に優れたPAとポリオレフィンエラストマーとのブレンドを挙げることができる。この衝撃改質剤の例としてはエチレン−プロピレンゴム(EPR)およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)(後者は化学官能基、例えば無水マレイン酸を有することができる)、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、エチレンアクリルエステル(EAD)コポリマーおよび無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジルで三元共重合されたその同族体(本出願人から商品名LOTADERで市販)が挙げられる。
【0024】
PAはその改質に一般的に使用されている添加剤を用いて可塑化することができる。上記PAは各種添加剤、例えば熱酸化または熱/紫外線分解からPAを守るための添加剤、潤滑剤等の加工助剤、染料または顔料等を充填および/または含有することができる。
【0025】
上記熱可塑性組成物にコポリアミドを添加することもできる。「コポリアミド」とは少なくとも2つのα、ω−アミノカルボン酸または2つのラクタムまたは一つのラクタムと一つのα、ω−アミノカルボン酸との縮合で得られるコポリマーを意味する。少なくとも一つのα、ω−アミノカルボン酸(またはラクタム)と、少なくとも一つのジアミンと、少なくとも一つのジカルボン酸との縮合で得られるコポリアミドでもよい。
【0026】
コポリアミドの例としてカプロラクタムとラウリルのラクタムとのコポリマー(PA 6/12)、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA 6/6-6)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA 6/12/6-6)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、11-アミノウンデカン酸、アゼライン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/6-9/11/12)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、11-アミノウンデカン酸、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミン(PA 6/6-6/11/12)のコポリマー、ラウリルラクタム、アゼライン酸およびヘキサメチレンジアミン(PA 6-9/12)のコポリマーが挙げられる。
【0027】
本発明組成物を製造するには、先ず第1にPA樹脂にシアヌル酸メラミンを溶融混合して、樹脂PA−11またはPA−12またはこれら2種の樹脂の混合物とシアヌル酸メラミンとのマスターバッチを作る。混合温度は一般に150〜300℃、好ましくは180〜250℃である。
マスターバッチにする利点は、各成分を確実に予備分散でき、後で樹脂PA−11またはPA−12またはこれらの2つの樹脂の混合物から成る最終樹脂中にマスターバッチを希釈する時に再度確実に混練できる点にある。この方法を用いることによって2種の樹脂PA−11とPA−12のブレンドを含む組成物を得ることができる。
【0028】
上記の追加の添加剤はマスターバッチ中に添加するか、好ましくは最終樹脂との希釈媒体中に添加することができる。
上記の追加の樹脂をベースにしたマスターバッチを製造し、次に、それを最終樹脂中に希釈することもできる。この系はポリオレフィンエラストマーを用いたPA樹脂の衝撃強度を強化する場合に特に有利である。すなわち、難燃性添加剤をポリオレフィンエラストマーと混合したマスターバッチを形成し、このマスターバッチを後でPA樹脂中に希釈する。
【0029】
本出願人は、PA−11の熱可塑性エラストマーと、PA−12樹脂に希釈したシアヌル酸メラミンとをベースにしたマスターバッチを用いることによって特に有利な組成物を得ることができるということを確認している。
好ましい実施例では、モノペンタエリトリトールを最終希釈段階で添加する。
本発明で得られた組成物は耐燃性と機械特性(引張強度または破断点伸び)(特に老化後の)の両方に優れた材料になる。
【0030】
本発明組成物は、特に自動車、航空産業、家庭電化製品、AV機器および電気装置産業溶工業製品に成形することで種々の分野に利用できる。本発明組成物はケーブル要素の製造、例えば電気装置の製造に適している。本発明の熱可塑性組成物はプラスチックの光ファイバーの被覆にも適している。さらに、本発明明細書は圧縮成形、押出成形または射出成形でフィルム、シート、繊維、複合材料、例えば共押出製品、多層フィルムにすることができ、粉末にして基材の被覆に用いることができる。
【0031】
以下では、PAの固有粘度は25℃で100mlのメタクレゾール中の0.5g濃度で測定する。
PA樹脂の融点はASTM D 3418規格に従って測定され、Dショアー硬度はASTM D 2240規格に従って測定される。
引張特性EBiおよびEBf(初期および最終破断点伸び)およびTSiおよびTSf(初期および最終引張強度)はISO R 527 IB規格に従って測定される。
老化テストは90℃で14日間換気オーブンで行う。
曲げ弾性率(FM)はISO178規格に従って測定される。
【0032】
耐火性の評価は、KRAUSS MAFFEI BI 60T成形機で上記サンプルから下記の条件下に得られたISO R178ロッド(80×10×4mm3)に対して限界酸素指数(LOI)を測定して行う:
射出温度:210〜230℃、
金型温度:35℃、
射出圧力:約900bar、
保持圧力:約400bar、
保持時間:25秒、
冷却時間:20秒。
耐滴性(gouttage)(UL94)はNF 51 0272規格に従って評価した。
実施例では特に説明の無い限り比率は重量比である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
マスターバッチMB1とMB2の製造
シリンダを200℃(均一な温度分布)に加熱した同速で回転する二軸スクリュー押出機(Werner&Pfleiderer ZSK40)(直径=40mm、L=40D)に、顆粒状のPA−12またはPA−11樹脂と、シアヌル酸メラミン(MC)とを導入した。各反応物の重量%は[表1]に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
PA−12(融点:175℃、粘度=1.1)およびPA−11(融点:185℃、粘度=1.1)は本出願人から市販のものである。
用いたシアヌル酸メラミン(MC)はチバ(Ciba)社から商品名MELAPUR MC 25で市販されている。
【0036】
実施例1〜4
上記で得られたマスターバッチを同速で回転する二軸スクリュー押出機(Werner&Pfleiderer ZSK40)(直径=40mm、L=40D)で、PA−12で希釈した。その際、2重量%のモノペンタエリトリトール(PER)と1.2重量%のヒンダードフェノールと亜燐酸塩との混合物(5重量部のIRGANOX 1098と2重量部のIRGAFOS168、これら2つの製品はCiba社から市販されている)から成る通常の熱安定化剤を存在させた。シリンダーは260℃に加熱した(均一な温度分布)。上記モノペンタエリトリトール(PER)はセラニーズ(Celanese)社から市販されている。
【0037】
得られた組成物の評価はロッド、ダンベルまたはシート(測定規格の操作条件に従う)に対して老化後の耐火性(LOIおよびUL94)と初期および最終の機械特性で行った。
LOIの測定結果、機械特性の結果およびマスターバッチの濃度(希釈度、重量%)は[表2]に示してある。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PA−11とPA−12のポリアミド樹脂のブレンドと、シアヌル酸メラミンとから成る難燃性熱可塑性組成物。
【請求項2】
PA−12/PA−11の比が99/1〜1/99、好ましくは95/5〜50/50、さらには90/10〜60/40である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
PA−12/PA−11の比が85/15〜50/50である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
シアヌル酸メラミンが組成物の全重量の5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも4つのアルコール官能基を含む一種または複数のポリオール、酸化アンチモンSb23、水酸化マグネシウムMg(OH)2、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸(P)誘導体または無機ナノフィラーの中から選択される難燃性添加剤をさらに含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
上記難燃性添加剤が少なくとも4つのアルコール官能基を含むポリオール、好ましくはモノペンタエリトリトールの中から選択される請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
上記ポリオールが組成物の全重量の1〜5重量%を占める請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
下記の(a)と(b)の段階を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物の製造方法:
(a)ポリアミド樹脂PA−11またはPA−12またはPA−11とPA−12とのブレンドと、シアヌル酸メラミンとを含むマスターバッチを製造し、
(b)ポリアミド樹脂PA−11またはPA−12またはPA−11とPA−12とのブレンド中に上記で得られたマスターバッチを希釈する。
【請求項9】
(a)段階で得られるポリアミドがPA−11であり、(b)段階で用いるポリアミドがPA−12である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
(b)段階でポリオールを添加する請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物を成形して得られる工業製品。

【公表番号】特表2008−504425(P2008−504425A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518649(P2007−518649)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001686
【国際公開番号】WO2006/013259
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】