説明

雪庇防止装置

【課題】降雪量が多い場合でも、雪庇の発生を確実に防止することのできる雪庇防止装置を提供する。
【解決手段】網目寸法の異なる細目金網10及び粗目金網20を設置面100上に立設し、両網面の上端部同士を連結すると共に下端部を離隔させる。雪庇防止装置1に風が吹き付けられると、風上側の粗目金網20に沿って雪が吹き上げることができる。また、天候が回復すれば、風下側の細目金網10を通って2つの網面の間の空間に暖気が流入し、この暖気により粗目金網20に乗り上げた雪や2つの網面の間の空間に積もった雪を溶かすことができる。さらに、細目金網10で2枚の網面の間の空間に積もった雪を堰き止めることができる。以上により、雪庇の発生を確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根に雪庇が発生することを防止するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪地域では、建物の屋上の積もった雪が風下側の端部から迫り出し、雪庇が発生する。この雪庇が大きく成長し、凍った状態で落下すると、通行人に危害を与えたり建造物に損害を与えたりする恐れがある。このような雪庇による危害・損害を防止するために、従来は手作業で雪庇を落としていた。しかし、かかる作業には大きな労力を要するため、例えば特許文献1には、屋根に電熱線を設置して雪を溶かすことにより、雪庇の発生を防止する方法が示されている。
【0003】
しかしながら、上記のような電熱式の雪庇防止装置を稼動するには電力を供給し続ける必要があるため、維持コストがかかる。そこで、特許文献2には、板材からなる垂直部と傾斜部とからなる略逆V字形状に形成された雪庇防止装置が示されている。この雪庇防止装置を、傾斜部が風上側となるように屋根の上に配設することにより、建物の屋根の端縁で生じる風の渦の発生位置を建物から離し、雪庇の発生を抑えている。この雪庇防止装置では、特許文献1の電熱式の雪庇防止装置のように電力等の維持コストを要さず、低コスト化が図られる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−13849号公報
【特許文献2】特開平7−119121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、降雪量が多い場合、特許文献2のような雪庇防止装置では、屋根の上に積もった雪が風で傾斜部に乗り上げ、雪庇防止装置を乗り越えて雪庇が形成されることがある。
【0006】
そこで本発明は、降雪量が多い場合でも、雪庇の発生を確実に防止することのできる雪庇防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、網目寸法の異なる粗目網面及び細目網面を有し、両網面の上端部同士を連結すると共に下端部を離隔させた雪庇防止装置を提供する。
【0008】
このように本発明の雪庇防止装置は、2枚の網面の上端部同士を連結すると共に下端部を離隔させることで、設置面上で略三角形を成している。この雪庇防止装置に風が吹き付けられると、風上側の網面に沿って雪が風と共に吹き上げられるため、建物の近くで渦流が発生せず、雪庇の発生を防止することができる。また、天候が回復すれば、網面を通って2つの網面の間の空間に暖気が流入し、この暖気により風上側の網面に乗り上げた雪や2つの網面の間の空間に積もった雪を溶かすことができるため、網面を乗り越えて雪庇が発生する事態を防止できる。ところで、雪庇防止装置に風が吹き付けられると、2枚の網面の間の空間に積もった雪が風下側の網面を通り抜け、風下側の網面から突出した状態で雪庇が形成される恐れがある。そこで、一方の網面の網目寸法を細かくすれば、この細目網面を風下側に配することにより、2枚の網面の間の空間に積もった雪を細目網面で堰き止めることができるため、網面を通り抜けて雪庇が発生する事態を防止できる。また、他方の網面の網目寸法を粗くすることにより、材料コストの低減及び装置の軽量化を図ることができる。
【0009】
2枚の網面(粗目網面及び細目網面)の上端部同士を回動可能に連結すれば、2枚の網面の間の角度を自由に調整することができる。これにより、網面間の角度を現場で調整しながら設置することができるため、所望の角度で網面を配することができる。また、2枚の網面を重ねて折りたたむことができるため、輸送時や補完時の収納スペースを節約することができる。
【0010】
例えば、建物の屋上等に雪庇防止装置を設置する場合は、設置面の端縁(特に風下側の端縁)に沿って設置し、細目網面を端縁側に、粗目網面を反端縁側に配すれば良い。この雪庇防止装置に反端縁側から風が吹き付けられると、屋上に積もった雪が粗目網面に乗り上げ、雪の重みにより粗目網面が変形する恐れがある。このため、粗目網面に補強材を設けることが好ましい。この補強材を、粗目網面の内側(2枚の網面の間の空間側)に配すれば、雪の重みを支える側から粗目網面を補強することができる。
【0011】
また、2枚の網面の間に雪が多く積もると、雪の圧力で細目網面が内側から圧迫されて変形する恐れがあるため、細目網面に補強材を設けることが好ましい。このとき、細目網面の外側(2枚の網面間の空間側の反対側)に補強材を設けると、補強材の上に雪が積もって雪庇の形成の原因となる恐れがあるため、補強材は細目網面の内側に設けることが好ましい。
【0012】
雪庇防止装置の風下側に設置面が露出していると、この設置面に雪が積もって雪庇が発生する恐れがある。このため、細目網面を設置面の端縁から迫り出させて、設置面の端縁を雪庇防止装置で覆うように配することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の雪庇防止装置によれば、降雪量が多い場合でも、雪庇の発生を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に、本発明の実施形態に係る雪庇防止装置1を建物の屋上の端縁に沿って配置した状態を示す。図示例では、ビルの屋上の端縁に設けられたパラペット100上に雪庇防止装置1が設置されている。雪庇防止装置1は、屋上のうち雪庇が形成されやすい側の端縁に沿って配置され、例えば北海道や東北地方等のような北風の強い地域では、風下となる南側の端縁に沿って配置される。
【0016】
雪庇防止装置1は、網目寸法が比較的小さい細目網面としての細目金網10と、網目寸法が比較的大きい粗目網面としての粗目金網20とを有する。細目金網10と粗目金網20とは、幅方向寸法が同じである一方で高さが異なり、図示例では粗目金網20が細目金網10よりも高く設定されている。細目金網10と粗目金網20とは、図2に示すように上端部同士を連結されると共に下端部を離隔させ、これにより両金網10,20の間に側面視で三角形の空間Pが形成される。図示例では、細目金網10が鉛直方向に立設されると共に、粗目金網20が傾斜した状態で配され、これにより雪庇防止装置1は側面視で略直角三角形状を成している。また、雪庇防止装置1は、細目金網10が風下側、粗目金網20が風上側となるように配され、図示例では、細目金網10が屋上の南側の端縁から若干迫り出した状態で固定される。尚、以下の説明において、水平方向で網面10,20が延びる方向を幅方向とすると共に、水平方向で幅方向と直交する方向を前後方向とし、細目金網10側を前側、粗目金網20側を後側とする。
【0017】
細目金網10及び粗目金網20は、図1に示すように、横長矩形状の外枠11,21と、外枠11,21の内側に張り巡らされた網部12,22を有する。外枠11,21の幅方向中間部には、上下方向の支柱13,23が等間隔で適宜の本数(図示例では2本)配される。さらに、外枠11,21と支柱13,23とで区画される矩形領域には、対角線上に補強材14,24が設けられる。図示例では、3箇所の矩形領域のうち、幅方向両端の矩形領域に補強材14,24が設けられている。図2に示すように、細目金網10の補強材14は網部12の内側(金網間の空間P側)に配され、粗目金網20の補強材24は網部22の内側(空間P側)に配される。
【0018】
網部12,22は、例えば線材(ワイヤー)を互いに上下方向で係合させたひし形金網で構成される。網部12、22はひし形金網に限らず、例えば厚ネット、溶接金網、クリンプ金網、亀甲金網やエキスパンド金網を採用することができる。また、網部12、22の線材はプラスチック製、樹脂製、化学繊維製、FRP製、ゴム製等でも良いが、網体の強度及び耐候性を考慮し、亜鉛メッキに焼付塗装を施した鉄線ワイヤーものが好適である。また、美観上、網部や線条体の色を屋根の色に合わせてもよい。
【0019】
細目金網10と粗目金網20とは、上端部同士の連結部を中心に互いに回動可能とされる。図示例では、細目金網10の外枠11の上側水平部11aと粗目金網20の外枠21の上側水平部21aとに針金30を巻きつけ、両者が互いに回動できる程度の遊びを設けた状態で連結している。尚、細目金網10と粗目金網20との連結方法はこれに限らず、例えば蝶番を用いて両者を連結してもよい。
【0020】
細目金網10及び粗目金網20は、図2に示すように、取付金具40を介してパラペット100に固定される。具体的には、パラペット100に細長板41をビス42で固定し、この細長板41に、U字金具43を介して外枠11,21の下側水平部11b,21bを固定する。このとき、細目金網10が鉛直方向に立設されるように、細目金網10及び粗目金網20の大きさ(高さ)や、両者の下端部の固定位置等を設定する。具体的には、高さが異なる複数の細目金網10及び粗目金網20を用意し、固定部の前後方向寸法(細長板41の長さ)に応じて適当な高さの細目金網10及び粗目金網20を選択することにより、細目金網10を鉛直方向に立設する。このとき、細目金網10と粗目金網20の上端部同士が互いに回動可能に連結されていることにより、両金網間の角度を容易に変更することができ、これにより細目金網10の立設角度を微調整することができる。また、細目金網10と粗目金網20とが回動可能に連結されることにより、両金網を折りたたむこともできるため、雪庇防止装置1の輸送時や保管時の収納スペースを節約することができる。
【0021】
上記の雪庇防止装置1を設置した場合の作用を、図3及び図4を用いて説明する。
【0022】
屋上に設置した雪庇防止装置1に風が吹き付けると、図3に示すように、傾斜した粗目金網20に沿って風が吹き上げられるため、雪庇の原因となる渦流の発生を防止できる。このとき、粗目金網20の網目寸法が大きすぎると、風が粗目金網20を通り抜けて風向きがほとんど変わらず、雪を吹き上げることができない。また、粗目金網20の網目寸法が小さすぎると、材料コストの高騰及び装置重量の増大を招く。従って、粗目金網20の網目寸法は、例えば15〜25mmの範囲内に設定することが好ましく、本実施形態では20mmに設定される。
【0023】
このとき、金網間の空間に多量の雪が積もると、細目網面10を通り抜けて前方に迫り出し、雪庇が形成される恐れがある(図3に点線で示す)。そこで、風下側に網目寸法の小さい細目金網10を配することにより、金網間の空間に積もった雪を細目金網10で堰き止めることができるため、この雪が前方に迫り出して雪庇が形成されることを防止できる。このとき、細目金網10の網目寸法が大きすぎると、金網の間の空間に積もった雪を堰き止めることができず、雪庇が発生する恐れがある。また、細目金網10の網目寸法が小さすぎると、材料コスト及び重量の増大を招くばかりでなく、網部12の形成が困難となる。従って、細目金網10の網目寸法は、例えば5〜15mmの範囲内に設定することが好ましく、本実施形態では10mmに設定される。
【0024】
天候が回復すると、図4に示すように、南側からの暖気が細目金網10を通りぬけて網面間の空間に侵入し、この暖気が、金網間の空間内に積もった雪や粗目金網20に乗り上げた雪と直接接触することにより、これらの雪を溶かすことができる。これにより、風下側に雪の塊が成長して雪庇が形成されることを確実に防止できる。
【0025】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明する。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同一の構成・機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
金網10,20をパラペット100に固定する取付金具は上記に限らず、例えば図5に示すものを使用することができる。この取付金具50は、取付板51・52と、取付板51・52から下方に延びた支持板53・54と、支持板53・54の下端に固定された折り曲げ板55・56とを有し(図5(a)参照)、金網10,20の下端部の複数箇所に設けられる(図示例では2箇所、図5(b)参照)。取付板51・52には、それぞれU字金具57を介して細目金網10及び粗目金網20の下端部が固定される。
【0027】
取付板51・52は、それぞれ水平部51a・52aと、水平部51a・52aの端部から上方に立ち上がった垂直部51b・52bとを有し、垂直部51b・52bを前後方向で対向させた状態で配される。垂直部51b・52bにはねじ穴が形成され、各ねじ穴を貫通し、垂直部51b・52bとねじ結合する第1調整ボルト58が設けられる。また、支持板53・54にはねじ穴が形成され、各ねじ穴を貫通する第2調整ボルト59が設けられる。
【0028】
この取付金具50による雪庇防止装置1の固定手順は以下の通りである。まず、第2調整ボルト59を回転させて支持板53・54の前後方向間隔を調整し、細目金網10を鉛直方向に立設する。この状態で、取付板51・52の前後方向間隔が広がる方向に第1調整ボルト58を回転させる。これにより、支持板53・54が第2調整ボルト59の位置を支点として回転し、下端部の折り曲げ板55・56の前後方向間隔が狭まってパラペット100を挟み込む。以上により、細目金網10を鉛直方向に立設した状態で、雪庇防止装置1をパラペット100に固定することができる。
【0029】
また、図6に示すように、金網81を用いて雪庇防止装置1を取り付けることもできる。具体的には、設置面のうち、雪庇防止装置1の取付予定領域に金網81を固定具82で固定する。このとき、金網81の前方端は屋根の先端部まで達するようにし、後方端は粗目金網20の下端部の予定位置よりも若干後方まで達するようにする。この金網81に、細目金網10及び粗目金網20の下端部をL字金具83を介して固定する。
【0030】
図6に示す雪庇防止装置1は、図2や図5に示すように水平な設置面に取り付けられるのではなく、傾斜した設置面に取り付けられている。このときも、細目金網10は、設置面の角度に関わらず、鉛直方向に立設することが好ましい。これにより、風下側に配置された細目金網10の網部12等に雪が積もることを防止し、雪庇の発生を確実に防止できる。具体的には、細目金網10及び粗目金網20の高さを適当に選択して細目金網10を略鉛直方向に立設した後、両金網の連結部を回動させて細目金網10の立設角度を微調整する。特に、図6に示すように、両金網10・20の下端部を金網81の上に固定するようにすれば、両金網10・20が固定される金網81の網目位置を変えることで、細目金網10の立設角度を微調整することができる。また、細目金網10の上端部を若干前方に傾斜させて立設すれば、すなわち細目金網10の網部12がやや下向きになるようにすれば、網部12等に雪が積もることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】雪庇防止装置の斜視図である。
【図2】雪庇防止装置の側面図である。
【図3】雪庇防止装置に雪が吹き付けた状態を示す側面図である。
【図4】雪庇防止装置に暖気が流入する様子を示す側面図である。
【図5】他の実施形態に係る雪庇防止装置の側面図である。
【図6】他の実施形態に係る雪庇防止装置の側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 雪庇防止装置
10 細目金網(細目網面)
11 外枠
12 網部
13 支柱
14 補強材
20 粗目金網(粗目網面)
21 外枠
22 網部
23 支柱
24 補強材
100 パラペット(設置面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目寸法の異なる粗目網面及び細目網面を有し、両網面の上端部同士を連結すると共に下端部を離隔させた雪庇防止装置。
【請求項2】
粗目網面及び細目網面の上端部同士を回動可能に連結した請求項1記載の雪庇防止装置。
【請求項3】
設置面の端縁に沿って設置し、細目網面を端縁側に、粗目網面を反端縁側に配した請求項1記載の雪庇防止装置。
【請求項4】
粗目網面の内側に補強材を設けた請求項3記載の雪庇防止装置。
【請求項5】
細目網面の内側に補強材を設けた請求項3記載の雪庇防止装置。
【請求項6】
細目網面が設置面の端縁から迫り出した請求項3記載の雪庇防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−293345(P2009−293345A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150438(P2008−150438)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(502313233)共和鋼業株式会社 (4)
【出願人】(505060901)株式会社キョーワ (3)
【Fターム(参考)】