説明

雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キット

【課題】簡単な構成で、嫌気性菌の培養を容易にすることができる雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キットを提供する。
【解決手段】密封容器11が、互いに通気可能な複数の区画23a,23bを有している。培地12が、嫌気性の菌を培養可能で、密封容器11の一つの区画23aに収納されている。脱酸素剤13および雰囲気インジケータ14が、培地12が収納された区画23aとは異なる区画23bに収納されている。雰囲気インジケータ14は、酸素と二酸化炭素とを透過させる透過膜により形成された収納袋27の内部に、酸素の濃度変化により色が変化する酸素指示薬と、二酸化炭素の濃度変化により色が変化する二酸化炭素指示薬とを含む指示液26を収納して成っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の嫌気性菌の検査では、試料を添加した寒天培地を、嫌気チャンバーや脱酸素剤とともに嫌気ジャーに入れて培養し、培養により分裂増殖した嫌気性菌を確認することにより、嫌気性菌が試料中に存在していたかどうかを判定している(例えば、特許文献1、2または3参照)。なお、寒天培地を通過する光による投影像に基づいて、細菌を正確かつ迅速に検出することができる投影検出法が本発明者等により提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−274934号公報
【特許文献2】特開平7−155171号公報
【特許文献3】特許第3075569号公報
【特許文献4】特開2003−85533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2または3に記載の方法では、嫌気性菌を培養するための設備が大型となり、操作も煩雑であるという課題があった。また、嫌気性菌の成長検出を確認するたびに、各寒天培地を嫌気チャンバーや嫌気ジャーから取り出さなければならず、手間がかかり煩雑であるという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、簡単な構成で、嫌気性菌の培養を容易にすることができる雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る雰囲気インジケータは、酸素を透過させる透過膜により形成された袋の内部に、酸素の濃度変化により色が変化する酸素指示薬を含む指示液を収納して成ることを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る雰囲気インジケータは、袋を形成している透過膜が酸素を透過させるため、周囲の酸素濃度が変化すると、袋の内部に収納された酸素指示薬を含む指示液の色が変化する。このため、指示液の色の変化により、周囲の酸素濃度を容易に把握することができる。指示液は液体であるため、色の変化が袋の内部全体に拡がりやすく、確認しやすい。
【0008】
本発明に係る雰囲気インジケータは、酸素がない状態を容易に確認することができるため、酸素がある状態では発育できない嫌気性菌を培養するときに使用すると効果的である。特に、脱酸素剤とともに使用することにより、嫌気チャンバーや嫌気ジャーなどの大型の設備が不要となり、簡単な構成で、嫌気性菌の培養を容易にすることができる。
【0009】
酸素指示薬は、酸素が存在している状態の色調と、酸素が存在していない状態の色調とが互いに変化する色素であれば、いかなるものであってもよく、例えば、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、ニュートラルレッド、インジゴカルミン、アシッドレッド、サフラニンT、フェノサフラニン、カプリブルー、ナイルブルー、ジフェニルアミン、キシレンシアノール、ニトロジフェニルアミン、フェナントロリン鉄(II)(フェロイン)、N−フェニルアントラニル酸、レサズリン、インジゴテトラスルホン酸、ジフェニルベンジジン、ジフェニルアミンスルホン酸、5,6-ジメチルフェナントロリン鉄(II)(5,6-ジメチルフェロイン)、エリオグラウシンA、5-メチルフェナントロリン鉄(II)(5-メチルフェロイン)、5-ニトロフェナントロリン鉄(II)(ニトロフェロイン)などがある。また、指示液は、これらの酸素指示薬を、均一かつ安定に溶解または分散することができる溶媒に溶かして成ることが好ましい。指示液は、例えば、酸素指示薬の水溶液、または複数の酸素指示薬の混合液から成ることが好ましい。
【0010】
透過膜は、外部に存在する液体と袋の内部に収納された指示液とを確実に分離できるものから成ることが好ましく、例えば、未延伸ポリプロピレン、延伸ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのフィルムを用いることができる。その他にも、透過膜は、シリコンゴムまたはポリアルキルスルホンから成る均質膜から成っても、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリスルホンから成る多孔質膜から成っても、ポリプロピレンとシリコンとの複合膜またはポリプロピレンとポリアルキルスルホンとの複合膜から成ってもよい。
【0011】
本発明に係る雰囲気インジケータで、前記透過膜は二酸化炭素も透過可能であり、前記指示液は二酸化炭素の濃度変化により色が変化する二酸化炭素指示薬を含んでいることが好ましい。この場合、周囲の酸素濃度の変化だけでなく、二酸化炭素濃度の変化によっても指示液の色が変化するため、周囲の二酸化炭素濃度も把握することができる。嫌気性菌を培養するためには、酸素がないだけでなく、二酸化炭素が5%程度存在している必要があることから、嫌気性菌の培養条件をより効果的に確認することができる。二酸化炭素指示薬は、二酸化炭素が存在している状態の色調と、二酸化炭素が存在していない状態の色調とが互いに変化する色素であれば、いかなるものであってもよく、例えば、チモールフタレイン、チモールブルー、フェノールフタレインなどがある。
【0012】
本発明に係る雰囲気インジケータで、前記酸素指示薬はレサズリンを含み、前記二酸化炭素指示薬はチモールブルーまたはフェノールフタレインを含んでいることが好ましい。この場合、周囲の酸素濃度が変化するときの指示液の色の変化と、二酸化炭素濃度が変化するときの指示液の色の変化とが異なるため、酸素濃度および二酸化炭素濃度を同時かつ正確に把握することができる。
【0013】
本発明に係る嫌気性菌培養キットは、互いに通気可能な複数の区画を有する密封容器と、嫌気性の菌を培養可能で、前記密封容器の一つの区画に収納された培地と、前記培地が収納された区画とは異なる区画に収納された脱酸素剤と、前記培地が収納された区画とは異なる区画に収納された本発明に係る雰囲気インジケータとを、有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る嫌気性菌培養キットは、試験試料の中に嫌気性の菌が存在するかどうかを調べるために、以下のようにして使用される。まず、密封容器の一つの区画に収納された培地に試料を入れ、その培地が収納された区画とは異なる区画に脱酸素剤および本発明に係る雰囲気インジケータを収納する。密封容器を密封し、雰囲気インジケータにより密封容器内の雰囲気が嫌気性菌の培養条件を満たしていることを確認しながら、培養を行う。このとき、密封容器の各区画が互いに通気可能であるため、雰囲気インジケータの指示液の色の変化により、培地の周囲の酸素濃度や二酸化炭素濃度を容易に把握することができる。
【0015】
培養後、増殖した嫌気性菌を確認することにより、嫌気性菌が試験試料中に存在していたかどうかを判定することができる。このように、本発明に係る嫌気性菌培養キットによれば、嫌気チャンバーや嫌気ジャーなどの大型の設備が不要となり、簡単な構成で、嫌気性菌の培養および検出を容易に行うことができる。なお、培地は、嫌気性菌を培養可能なものであればいかなるものであってもよく、例えば、寒天培地から成っていてもよい。
【0016】
本発明に係る嫌気性菌培養キットで、前記指示液、前記透過膜、前記密封容器および前記培地は透光性であることが好ましい。この場合、密封容器に光を当てて、寒天培地を通過する光による投影像に基づいて、嫌気性菌を正確かつ迅速に検出することができる。一般的な固体の酸素インジケータでは、光を当てると陰になり色の確認ができなかったのに対し、雰囲気インジケータは透光性の液体であるため、光を当てて色を確認することができ、酸素濃度や二酸化炭素濃度を容易に把握することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単な構成で、嫌気性菌の培養を容易にすることができる雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キットを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の嫌気性菌培養キットの分画シャーレの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1および図2は、本発明の実施の形態の雰囲気インジケータおよび嫌気性菌培養キットを示している。
図1に示すように、嫌気性菌培養キット10は、密封容器11と培地12と脱酸素剤13と雰囲気インジケータ14とを有している。
【0020】
密封容器11は、分画シャーレ21と密封袋22とを有している。分画シャーレ21は、透明で、中央に、内部を左右2つの区画23a,23bに分ける仕切り24を有している。分画シャーレ21は、蓋25を閉じたとき、仕切り24の上部と蓋25との間に隙間があいて、各区画23a,23bが互いに通気可能になっている。密封袋22は、透明で通気性のないビニール製で、分画シャーレ21を収納した後、内部の空気を抜いて口を閉じ、密封するようになっている。
【0021】
培地12は、透光性で、嫌気性の菌を培養可能な寒天培地から成っている。培地12は、分画シャーレ21の一方の区画23aに収納されている。
脱酸素剤13は、酸素を吸収可能な市販の脱酸素剤から成っている。脱酸素剤13は、分画シャーレ21の他方の区画23bに収納されている。
【0022】
雰囲気インジケータ14は、分画シャーレ21の他方の区画23bに収納され、指示液26と収納袋27とを有している。指示液26は、透光性で、酸素の濃度変化により色が変化する酸素指示薬と、二酸化炭素の濃度変化により色が変化する二酸化炭素指示薬とを含んだ水溶液から成っている。収納袋27は、透明なポリエチレン製で、酸素と二酸化炭素とを透過可能な透過膜から成り、内部に指示液26を収納している。収納袋27は、外部に存在する液体と内部に収納された指示液26とを確実に分離できるようになっている。
【0023】
次に、作用について説明する。
嫌気性菌培養キット10は、試験試料の中に嫌気性の菌が存在するかどうかを調べるために、以下のようにして使用される。まず、密封容器11の分画シャーレ21の一方の区画23aに収納された培地12に試料を入れ、他方の区画23bに脱酸素剤13および雰囲気インジケータ14を収納する。密封容器11を密封し、雰囲気インジケータ14により密封容器11内の雰囲気が嫌気性菌の培養条件を満たしていることを確認しながら、培養を行う。
【0024】
このとき、密封容器11の各区画23a,23bが互いに通気可能であるため、雰囲気インジケータ14の指示液26の色の変化により、培地12の周囲の酸素濃度および二酸化炭素濃度を容易に把握することができる。なお、雰囲気インジケータ14の透過膜が酸素と二酸化炭素とを透過させるため、周囲の酸素濃度や二酸化炭素濃度が変化すると、収納袋27の内部に収納された酸素指示薬と二酸化炭素指示薬とを含む指示液26の色が変化する。このため、指示液26の色の変化により、周囲の酸素濃度および二酸化炭素濃度を容易に把握することができる。指示液26は液体であるため、色の変化が収納袋27の内部全体に拡がりやすく、確認しやすい。
【0025】
培養後、増殖した嫌気性菌を確認することにより、嫌気性菌が試験試料中に存在していたかどうかを判定することができる。このとき、指示液26、透過膜から成る収納袋27、密封容器11および培地12が透光性であるため、密封容器11に光を当てて、培地12を通過する光による投影像に基づいて、嫌気性菌を正確かつ迅速に検出することができる。このように、嫌気性菌培養キット10によれば、嫌気チャンバーや嫌気ジャーなどの大型の設備が不要となり、簡単な構成で、嫌気性菌の培養および検出を容易に行うことができる。
【0026】
嫌気性菌を培養するためには、酸素がないだけでなく、二酸化炭素が5%程度存在している必要がある。雰囲気インジケータ14は、酸素がない状態や、周囲の二酸化炭素濃度も容易に把握することができるため、嫌気性菌の培養条件をより効果的に確認することができる。
【0027】
一般的な固体の酸素インジケータでは、光を当てると陰になり色の確認ができなかったのに対し、雰囲気インジケータ14は透光性の液体であるため、培養中であっても、光を当てて色を確認することができ、酸素濃度や二酸化炭素濃度を容易に把握することができる。また、嫌気性菌培養キット10は、光を当てて嫌気性菌を検出することができるため、好気性や嫌気性の菌を培養するシャーレや、他の嫌気性菌培養キット10などとともに、同時に検査を行うことができる。
【0028】
なお、図2に示すように、分画シャーレ51は、周壁と同心円状に設けられた仕切り52を有し、中央部53aと周辺部53bの2つの区画に分けられていてもよい。この場合、蓋54を閉じても、中央部53aと周辺部53bとが互いに通気可能になっており、例えば、中央部53aに培地12を収納し、周辺部53bに脱酸素剤13と雰囲気インジケータ14とを収納することができる。
【0029】
[酸素指示薬および二酸化炭素指示薬の組合せ試験]
酸素指示薬および二酸化炭素指示薬の最適な組合せを調べるために、以下の試験を行った。酸素指示薬として、レサズリンを使用し、二酸化炭素指示薬として、チモールブルー、チモールフタレイン、フェノールフタレインを使用した。酸素指示薬と各二酸化炭素指示薬とを組合せて指示液26を作成し、酸素濃度および二酸化炭素濃度の変化による色の変化について観測を行った。観測は、各指示液26で雰囲気インジケータ14を作成し、脱酸素剤13または放二酸化炭素剤を密封容器11に封入して行った。作成した各指示液26の組成を表1に、各指示液26の色の変化を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2に示すように、試験の結果、酸素指示薬がレサズリン、二酸化炭素指示薬がチモールブルーまたはフェノールフタレインの組合せが適していることが確認された。これらの組合せの場合、周囲の酸素濃度が変化するときの指示液26の色の変化と、二酸化炭素濃度が変化するときの指示液26の色の変化とが異なるため、酸素濃度および二酸化炭素濃度を同時かつ正確に把握することができる。
【0033】
具体的には、酸素指示薬がレサズリン、二酸化炭素指示薬がチモールブルーの組合せの場合、橙色のとき嫌気性菌雰囲気であり、緑色のとき二酸化炭素が発生しているが、脱酸素されていない、青色のとき脱酸素されず、二酸化炭素も発生していない、紫色のとき脱酸素されているが、二酸化炭素が発生していない状態を表している。また、酸素指示薬がレサズリン、二酸化炭素指示薬がフェノールフタレインの組合せの場合、桃色のとき嫌気性菌雰囲気であり、青色のとき二酸化炭素が発生しているが、脱酸素されていない、青紫色のとき脱酸素されず、二酸化炭素も発生していない、赤紫色のとき脱酸素されているが、二酸化炭素が発生していない状態を表している。
【符号の説明】
【0034】
10 嫌気性菌培養キット
11 密封容器
12 培地
13 脱酸素剤
14 雰囲気インジケータ
21 分画シャーレ
22 密封袋
23a,23b 区画
24 仕切り
25 蓋
26 指示液
27 収納袋



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を透過させる透過膜により形成された袋の内部に、酸素の濃度変化により色が変化する酸素指示薬を含む指示液を収納して成ることを、特徴とする雰囲気インジケータ。
【請求項2】
前記透過膜は二酸化炭素も透過可能であり、前記指示液は二酸化炭素の濃度変化により色が変化する二酸化炭素指示薬を含んでいることを、特徴とする請求項1記載の雰囲気インジケータ。
【請求項3】
前記酸素指示薬はレサズリンを含み、前記二酸化炭素指示薬はチモールブルーまたはフェノールフタレインを含んでいることを、特徴とする請求項2記載の雰囲気インジケータ。
【請求項4】
互いに通気可能な複数の区画を有する密封容器と、
嫌気性の菌を培養可能で、前記密封容器の一つの区画に収納された培地と、
前記培地が収納された区画とは異なる区画に収納された脱酸素剤と、
前記培地が収納された区画とは異なる区画に収納された請求項1、2または3記載の雰囲気インジケータとを、
有することを特徴とする嫌気性菌培養キット。
【請求項5】
前記指示液、前記透過膜、前記密封容器および前記培地は透光性であることを、特徴とする請求項4記載の嫌気性菌培養キット。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−276387(P2010−276387A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127101(P2009−127101)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(501354912)マイクロバイオ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】