説明

雷サージシミュレータおよび制御方法

【課題】よりフレキシブルに波形を成形できる雷サージシミュレータを提供する。
【解決手段】DUT9に、雷サージ試験用の電流・電圧波形を印加するための雷サージシミュレータ(試験機)1を提供する。この試験機1は、高電圧小電流の第1のタイプの波形を印加するための第1の出力ユニット10と、に低電圧大電流の第2のタイプの波形を印加するための第2の出力ユニット20とを有し、第1の出力ユニット10は、第1の電圧の電力供給を行う第1の電源ユニット11と、第1の電源ユニット11により充電され、第1のタイプの波形を出力するための第1の波形成形ユニット12とを含み、第2の出力ユニット20は、第1の電圧より低い第2の電圧の電力供給を行う第2の電源ユニット21と、第2の電源ユニット21により充電され、第1のタイプの波形と関連したタイミングで第2のタイプの波形を出力するための第2の波形成形ユニット20とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雷サージシミュレータに関し、特に、尖頭サージ電流特性の評価をはじめとする動作確認試験に適した雷サージシミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、低電圧から高電圧の領域までの広い範囲で安定的なサージ出力を発生させると共に、安定した高電圧、大電流のサージ出力を得ること、また、モニタされ
るサージ波形の表示位置がずれないようにすることを目的とした技術が開示されている。そのため、電圧および電流を制御する制御回路部と、高圧発生回路部と、制御回路部からのタイミングによってサージ出力を発生するサージ発生回路部とを備え、サージ発生回路部に、高電圧領域でサージ出力を発生させる高圧スイッチング部と、低電圧領域でサージ出力を発生させる低圧スイッチング部とを設け、両スイッチング部の特性をほぼ同一としている。また、サージ波形をモニタするためのモニタ用トリガ信号を、発生したサージ出力を利用して生成するモニタトリガ用回路部を設けている。
【0003】
具体的には、特許文献1のサージ発生回路部は、充放電部と、サージ用スイッチング部と、波形成形部とから構成される。そして、充放電部は、充電抵抗と、充放電コンデンサとから主に構成される。サージ用スイッチング部は、トリガパルス発生部と、スイッチング部とから構成される。そしてサージ用スイッチング部は、トリガパルス発生部からトリガパルスを受けて高圧のサージ電圧を発生する高圧スイッチング部と、バイポーラパワートランジスタの一種であるIGBT(Insulated Gate Bipoler Transister )等からなる低圧のサージ電圧を発生する低圧スイッチング部とから主に構成される。また、波形成形部は、コンビネーション波形を成形するコンビネーション波形成形回路部と、CCITT波形を成形するCCITT波形成形回路部とから主に構成される。
【0004】
【特許文献1】特開平10−332758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、高圧スイッチング部および低圧スイッチング部に共通して放電電力を供給する数10μFの高電圧大容量コンデンサでありオイルコンデンサ等が使用されている。さらに、高電圧大容量コンデンサの放電電圧をスイッチングするために高圧スイッチング部には、球ギャップ方式で形成されるギャップで高圧のスイッチングがなされる方式が採用され、球ギャップ方式のスイッチング特性に合わせ、低圧スイッチング部のIGBTによるスイッチング特性を調整し、両者を同等にしている。さらに、これらのスイッチング部の下流に、それぞれの規格により定義される波形を成形するための複数の波形成形部が設けられている。例えば、特許文献1では、IEC950に適合するサージ電圧・電流のコンビネーション波形とCCITT(現在のITU)のサージ電圧波形とが得られるようにしている。
【0006】
インパルス電流を印加する試験方法をカバーする雷サージシミュレータにおいて、インパルス波形を比較的自由に設定できることは重要である。本明細書における尖頭サージ電流特性ITSM(Surge On-state Current、以降ITSM)は、IEC61647−4規格の「非繰り返しサージインパルス電流IPPSM(Non-repetitive Surge Impulse Current)に相当し、インパルス波形における波頭長(T1)と波尾長(T2)の定義は、デバイスが含まれる関連規格によりさまざまである。したがって、上記の装置のように、低圧スイッチング部のIGBTによるスイッチング特性を、球ギャップ方式のスイッチング特性に合わせて調整するような方式に対し、さらに、自由にスイッチング特性を設定できる装置が要望されている。
【0007】
また、高圧スイッチング部および低圧スイッチング部の他に、各規格に対応した波形を成形する回路が必要になると、規格毎にハードウェアを交換または選択することになる。したがって、試験に要する工数およびコストを低減するためには、より簡易な構成で種々のインパルス電流波形を被試験体に印加できる装置が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、被試験体に、雷サージ試験用の電流・電圧波形(の電力)を印加するための雷サージシミュレータである。この雷サージシミュレータは、被試験体に、高電圧小電流の第1のタイプの波形(の電力)を印加するための第1の出力ユニットと、第1の出力ユニットと並列に接続された第2の出力ユニットであって、被試験体に低電圧大電流の第2のタイプの波形(の電力)を印加するための第2の出力ユニットとを有する。第1の出力ユニットは、第1の電圧の電力供給を行う第1の電源ユニットと、第1の電源ユニットにより充電され、第1のタイプの波形を出力するための第1の波形成形ユニットとを含む。第2の出力ユニットは、第1の電圧より低い第2の電圧の電力供給を行う第2の電源ユニットと、第2の電源ユニットにより充電され、第1のタイプの波形と関連したタイミングで第2のタイプの波形を出力するための第2の波形成形ユニットとを含む。
【0009】
この雷サージシミュレータは、高電圧小電流および低電圧大電流という出力電圧および電流の異なる複数のタイプの出力ユニットを含み、それぞれの出力ユニットは、それぞれの出力電圧に対応した充電電圧を出力する電源ユニットと、波形成形ユニットとを含む。したがって、波形成形ユニットは、出力する(担当する)電圧および電流に適合した充電用のキャパシタとスイッチング素子とを含むことが可能となり、高電圧小電流の波形を出力するために高電圧大電流をスイッチングするような事態を抑制できる。このため、各出力ユニットにおいて、電圧および電流波形を成形するためのスイッチング特性の制限は低減される。
【0010】
さらに、被試験体には、並列(平列)に接続されたそれぞれの出力ユニットから出力される電流・電圧波形の電力が合成された電流・電圧波形の電力が印加される。このため、それぞれの出力ユニットを関連したタイミング(例えば、同期)で制御することにより、それぞれの出力ユニットから、異なるタイプの波形をフレキシブルに出力でき、それらを組み合わせることにより、種々の電流および電圧波形を備えた電力を被試験体に印加できる。したがって、簡易な構成で、容易に種々のタイプのインパルス波形を被試験体に印加できる雷サージシミュレータを提供できる。
【0011】
さらに、各波形成形ユニットは、出力する(担当する)電圧および電流に適合した充電用のキャパシタを備えれば良く、高価な高電圧大容量のキャパシタは不要になるというメリットも得られる。また、それぞれの波形成形ユニットは、高電圧小容量のキャパシタを充電する回路、低電圧大容量のキャパシタを充電する回路というように、キャパシタのタイプに適した充電回路を採用できるので、充電する際の損失を低減でき、さらに充電時間も短縮できる可能性がある。したがって、雷サージ試験をさらに効率良く、低コストで実施できる。
【0012】
したがって、第1の波形成形ユニットは、第1の電源ユニットにより充電される第1の容量の第1のキャパシタ(すなわち、高電圧小容量の第1のキャパシタ。)と、この第1のキャパシタに充電された電荷を放電するための第1のスイッチング素子と、第1のスイッチング素子の出力側に接続された第1の一方向性素子とを含むことが望ましい。また、第2の波形成形ユニットは、第2の電源ユニットにより充電され、第1の容量より大きな第2の容量の第2のキャパシタ(すなわち、低電圧大容量の第2のキャパシタ。)と、この第2のキャパシタに充電された電荷を放電するための第2のスイッチング素子であって、第1のスイッチング素子に関連したタイミングで操作される第2のスイッチング素子と、第2のスイッチング素子の出力側に接続された第2の一方向性素子とを含むことが望ましい。
【0013】
雷サージシミュレータにおいては、第1の出力ユニットは、並列に接続された複数の第1の波形成形ユニットをさらに含むことが望ましい。
被試験体に印加するインパルス波形の高電圧小電流の領域のバリエーションをさらに増やすことができる。
【0014】
雷サージシミュレータにおいては、第2の出力ユニットは、並列に接続された複数の第2の波形成形ユニットをさらに含むことが望ましい。
被試験体に印加するインパルス波形の低電圧大電流の領域のバリエーションをさらに増やすことができる。
【0015】
雷サージシミュレータは、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子がそれぞれIGBTであり、それぞれのIGBTのオンタイミングおよび出力電圧上昇率を制御するコントロールユニットをさらに有することが望ましい。
各出力ユニットは、それぞれが担当する電圧および電流範囲の電力を扱えば良いので、高電圧の波形を成形する場合でもスイッチング特性を制御できるIGBTを採用でき、さらに、それぞれのスイッチング特性をさらにフレキシブルに制御できる。このため、被試験体に印加するインパルス波形のバリエーションをさらに増やすことができる。
被試験体の典型的なものは、シリコン2方向性2端子サイリスタである。
【0016】
本発明の異なる態様は、被試験体に、雷サージ試験のための電流・電圧波形を印加する雷サージシミュレータの制御方法である。雷サージシミュレータは、被試験体に、第1のタイプの波形を印加するための第1の出力ユニットと、第1の出力ユニットと並列に接続された第2の出力ユニットであって、被試験体に第2のタイプの波形を印加するための第2の出力ユニットとを有する。第1の出力ユニットは、第1の電圧の電力供給を行う第1の電源ユニットと、第1の電源ユニットにより充電され、第1のタイプの波形を出力するための第1の波形成形ユニットとを含み、第1の波形成形ユニットは、第1の電源ユニットにより充電される第1の容量の第1のキャパシタと、第1のキャパシタに充電された電荷を放電するための第1のスイッチング素子とを含む。第2の出力ユニットは、第1の電圧より低い第2の電圧の電力供給を行う第2の電源ユニットと、第2の電源ユニットにより充電され、第2のタイプの波形を出力するための第2の波形成形ユニットとを含み、第2の波形成形ユニットは、第2の電源ユニットにより充電され、第1の容量より大きな第2の容量の第2のキャパシタと、第2のキャパシタに充電された電荷を放電するための第2のスイッチング素子とを含む。制御方法は、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子を関連したタイミングで制御する工程を含む。
【0017】
この制御方法を用いることにより、被試験体に印加するインパルス波形のバリエーションをさらに増やすことができ、様々な規格に適合する雷サージ試験を低コストで実施することができ、そのような雷サージ試験が製造工程に含まれる被試験体、例えば、半導体デバイス、回路素子などを、低コストで製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に係る雷サージシミュレータの概略構成を示すブロック図である。この雷サージシミュレータは、サージ防護素子を被試験体として試験を行い、それらのスクリーニングに使用しているITSM試験機1である。この雷サージシミュレータにより試験されるサージ防護素子は、典型的には、シリコン2方向性2端子サイリスタや避雷管のように高抵抗なオフ領域と低抵抗なオン領域とを持つサージ防護素子である。ITSM試験機(以降では試験機)1は、サージ防護素子の特性上、ターンオンさせるために高電圧を要し、ターンオン後は大電流を通電する。このため、試験機1は、1〜3kVの電圧で50〜300Aの電流の電力を供給するため高電圧大電流出力設備である。
【0019】
試験機1は、被試験体(DUT)9に、雷サージ試験用の電流・電圧波形の電圧を印加する。このため、試験機1は、DUT9に、高電圧小電流(高電圧小電荷量)の第1のタイプの波形を印加するための第1の出力ユニット(高電圧ユニット)10と、高電圧ユニット10と並列に接続された第2の出力ユニットであって、DUTに低電圧大電流(低電圧大電荷量)の第2のタイプの波形を印加するための第2の出力ユニット(低電圧ユニット)20とを有する。
【0020】
高電圧ユニット10は、第1の電圧(高電圧)V1の電力供給を行う第1の電源ユニット(高電圧電源ユニット)11と、高電圧電源ユニット11により充電され、第1のタイプの波形の電力W1を出力するための第1の波形成形ユニット(高電圧波形成形ユニット)12とを含む。高電圧ユニット10には、並列に接続された複数の高電圧波形成形ユニット12aおよび12bが含まれている。高電圧ユニット10に含まれる波形成形ユニット12の数は限定されない。しかしながら、以下では、説明を簡単にするために、2つの波形成形ユニット12aおよび12bを備えた試験機1に基づき、さらに詳しく説明する。
【0021】
波形成形ユニット12aおよび12bは同じ構成であり、高電圧電源ユニット11により充電される第1の容量C1の第1のキャパシタ14と、充電電流を制限するための制限抵抗13と、第1のキャパシタ14に充電された電荷を放電するための第1のスイッチング素子15と、第1のスイッチング素子15の出力側に接続された第1の一方向性素子16と、放電電流を調整するための抵抗17とを含む。高電圧V1は典型的には800Vである。第1のキャパシタ14は、800Vの高電圧を印加できる高電圧小容量のキャパシタであり、典型的には容量C1が0.1μF程度のコンデンサである。第1のスイッチング素子15は、典型的にはIGBTである。
【0022】
この明細書において高電圧とは500V程度以上を示し、それ以下は低電圧である。低電圧の領域をさらに、100−500Vを中電圧、100V以下を低電圧と呼ぶことがある。この明細書において、大電流とは30A程度以上を示し、それ以下は小電流である。
【0023】
低電圧ユニット20は、第1の電圧V1より低い第2の電圧V2の電力供給を行う第2の電源ユニット(低電圧電源ユニット)21と、低電圧電源ユニット21により充電され、第1のタイプの波形の電力W1と関連したタイミングで、第2のタイプの波形の電力W2を出力するための第2の波形成形ユニット(低電圧波形成形ユニット)22とを含む。高電圧ユニット10と同様に、低電圧ユニット20も、並列に接続された複数の低電圧波形成形ユニット22aおよび22bが含まれている。低電圧ユニット20に含まれる波形成形ユニット22の数は限定されない。しかしながら、以下では、説明を簡単にするために、2つの波形成形ユニット22aおよび22bを備えた試験機1に基づき、さらに詳しく説明する。
【0024】
波形成形ユニット22aおよび22bは同じ構成であり、低電圧電源ユニット21により充電され、第1の容量C1よりも大きな第2の容量C2の第2のキャパシタ24と、充電電流を制限するための制限抵抗23と、第2のキャパシタ24に充電された電荷を放電するための第2のスイッチング素子25と、第2のスイッチング素子25の出力側に接続された第2の一方向性素子26と、放電電流を調整するための抵抗27とを含む。第2のキャパシタ24は、低電圧大容量のキャパシタであり、典型的には容量C2が330μFのコンデンサである。第2のスイッチング素子25は、典型的にはIGBTである。
【0025】
試験機1は、さらに、それぞれの波形成形ユニット12aおよび12bのスイッチング素子(IGBT)15と、波形成形ユニット22aおよび22bのスイッチング素子(IGBT)25とを独立して、関連したタイミングで制御できるコントロールユニット(コントローラ)30を有する。このコントローラ30は、IGBT15および25のオンタイミングおよび出力電圧上昇率を制御できる。この試験機1は、それぞれの波形成形ユニット12aおよび12bから高電圧小電流で、波形が同じまたは異なる電力W1aおよびW1bを、関連したタイミングで、例えば、同期させたり、若干の遅延を持たせたりして出力できる。また、それぞれの波形成形ユニット22aおよび22bから、低電圧大電流で、波形が同じまたは異なる電力W2aおよびW2bを、上記の電力W1aおよびW1bと、関連したタイミング、例えば、同期させたり、若干の遅延を持たせたりして出力できる。これらの波形成形ユニット12a、12b、22aおよび22bはDUT9に対して並列に接続されている。したがって、DUT9に対して、電力W1a、W1b、W2aおよびW2bが合成された波形の電力を雷サージ試験用の波形(インパルス波形)の電力Wとして印加することができる。
【0026】
DUT9には、測定装置、典型的にはオシロスコープ7が接続されており、インパルス波形の電力が印加されたとき、およびその後のDUT9の挙動を観察する。試験機1を用いることにより、典型的には、DUT9が双方向型のサージ防護素子の場合、例えば、シリコン2方向性2端子サイリスタの場合は、両方向について各々別にサージ電流耐量を測定する。DUT9が片方向型のサージ防護素子の場合は、片方向についてのみサージ電流耐量測定を行う。サージ試験に当たっては、設計規格書などに規定されているサージ規格値(波形)のインパルス電力Wを印加することから始め、あるステップ幅にて徐々に印加するインパルス電力Wのサージ電流値をアップする。DUT9の破損が判定された場合、そのインパルス電力Wの1つ前の値がサージ試験により得られる値となる。
【0027】
この試験機1においては、インパルス電力Wのサージ電流値をアップすることは、高電圧ユニット10および低電圧ユニット20に複数の波形成形ユニット12および22を用意しておき、それらのうちの所定の数の波形成形ユニット12および22を使用するかということである。すなわち、インパルス電力Wのサージ電力値をアップすることは、インパルス電力Wを合成するために用いる波形成形ユニット12および/または22の数を増加することで、極めて簡単に対応できる。
【0028】
図2は、雷サージ試験の概略工程を示す図である。ステップ51において、被試験体のDUT9をセットする。ステップ52において、波形成形ユニット12aおよび12bのキャパシタ14と、波形成形ユニット22aおよび22bのキャパシタ24を充電する。キャパシタの充電が終了すると、ステップ53において、コントローラ30は、波形成形ユニット12aおよび12bのスイッチであるIGBT15と、波形成形ユニット22aおよび22bのスイッチであるIGBT25を関連したタイミングでオンし、波形成形ユニット12aおよび12bのキャパシタ14と、波形成形ユニット22aおよび22bのキャパシタ24を放電する。ステップ54において、放電が終了すると、ステップ55において、DUT9をチェックする。
【0029】
図3は、スイッチングによりトリガ出力W1aおよびW1bと、サージ出力W2aおよびW2bとが出力されるタイミングを示す図である。図3には、コントローラ30により各IGBT15および25を制御して放電し、所定のインパルス波形の電力WをDUT9に印加する様子が示されている。コントローラ30は、時刻t1に、高電圧の波形成形回路12aのIGBT15と、低電圧の波形成形回路22aおよび22bのIGBT25とをオンする。高電圧の波形成形回路12bのIGBT15については、時間td後、例えば、0.1μs後にオンする。さらに、高電圧の波形成形回路12aおよび12bのIGBT15については、オン後、dv/dtが300V/100nsのトリガ電圧が得られるように、IGBT15の出力電圧上昇率を制御する。高電圧の波形成形回路12aおよび12bについては、放電電流を制御する抵抗17の抵抗値が異なっており、タイミングのみならず、ピーク値および幅(長さ)が異なる波形のトリガ電流を持った出力W1aおよびW1bが得られるようになっている。例えば、波形成形回路12aの抵抗17は40Ωであり、得られるトリガ出力W1aの電流(トリガ電流)のピーク値は20A、長さは13μsである。波形成形回路12bの抵抗17は50Ωであり、得られるトリガ出力W1bの電流(トリガ電流)のピーク値は15A、長さは16μsである。このように、高電圧の波形成形回路12aおよび12bからは、それぞれ高電圧小電流の第1のタイプの波形の出力が得られる。
【0030】
低電圧の波形成形回路22aおよび22bについては、放電電流を制御する抵抗27の抵抗値は同じであり、同じタイミングで、同じピーク値および幅(長さ)が異なる波形のサージ電流を持った出力W2aおよびW2bが得られるようになっている。例えば、波形成形回路22aおよび22bの抵抗27は5.3Ωであり、得られるサージ出力W2aおよび2bの電流(サージ電流)のピーク値は50A、波頭長(T1)が10μs、波尾長(T2)が1000μsである。このように、低電圧の波形成形回路22aおよび22bからは、それぞれ低電圧大電流の第2のタイプの波形の出力が得られる。
【0031】
これらの出力W1a、W1b、W2aおよびW2bの合成されたものが、インパルス波形を持った出力(インパルス出力)WとしてDUT9に印加される。したがって、インパルス出力Wの電流波形は、ピーク値は100A、波頭長(T1)が10μs、波尾長(T2)が1000μsとなる。各波形成形回路12aおよび12bのキャパシタ14および各波形成形回路22aおよび22bのキャパシタ24の放電が終了したタイミング(時刻t2)に、IGBT15および25をオフにする。IGBT15および25がオフになると、キャパシタ14および24への充電が開始される。
【0032】
図4は、トリガ出力W1aおよびW1bと、サージ出力W2aおよびW2bと、それらが合成されたインパルス出力を示す図である。被試験体の電気的特性上、各出力とも電圧が先に立ち上がるので、トリガ出力W1aの電圧の立ち上がりを時刻t0として、電圧と電流の波形を示している。トリガ出力W1aは、時刻t0に、電圧が、電圧上昇率(dv/dt)が300V/100nsで、被試験体の耐圧(最大800V)まで立ち上がり、トリガ出力W1bは、時刻t0から遅延時間td後に、電圧が、電圧上昇率(dv/dt)が300V/100nsで800Vまで立ち上がる。したがって、これらの電圧波形が合成された電圧波形と、合成されたトリガ電流(35A)を持つトリガ出力W1が得られる。サージ出力W2aおよびW2bも、同様に合成される。したがって、これらのトリガ出力W1aおよびW1b並びにサージ出力W2aおよびW2bが合成された出力がDUT9に印加されるインパルス出力Wとなり、インパルス出力Wは、急峻(この例では300V/100ns)で高電圧(800V)まで立ち上がり、DUT9をオンさせる機能と、その後、サージ電力に対応する大電流(100A)を流す機能とを持つ。
【0033】
従来、このような高電圧大電流のインパルス波形を備えた出力をDUTに印加する試験機では、内部電源に使用されるコンデンサは必然的に高電圧・大容量をカバーする特殊品となることから、納期・価格面が問題の1つであり、試験機自体も高額で巨大な装置となる。これに対し、本例の試験機1においては、高電圧小電流(高電圧小電荷量)をカバーするキャパシタ(コンデンサ)14と、低電圧大電流(低電圧大電荷量)をカバーするキャパシタ(コンデンサ)24との組み合わせで高電圧大電流を出力できる。したがって、キャパシタ14は高電圧向けのものを使用でき、キャパシタ24は大容量向けを使用できるので、より市販品に近いキャパシタを採用でき、納期・価格といった経済的な問題を抑制できる。また、試験機1を低コストでコンパクトに製造できる。
【0034】
また、高電圧・大容量のキャパシタに高電圧電源で充電する場合は、高電圧電源から抵抗を通して大電流を制御する必要がある。同様に、高電圧・大容量のキャパシタから放電する場合も、抵抗を通して大電流を制御する必要がある。このため、キャパシタに充電および放電する際に、電荷の大部分が ジュール熱による損失となる。したがって、放電時の損失をカバーするためにキャパシタの容量を大きくする必要があり、さらに、その大容量のキャパシタを充電するために損失を含めて電源側では電力を消費する必要がある。このため、充電に長時間を有し、試験時間の短縮が困難で自動化ラインに適用が難しいと言う問題があった。これに対し、試験機1においては、高電圧小容量のキャパシタ14と、低電圧大容量のキャパシタ24とを採用しており、それぞれを高電圧電源11と、低電圧電源21とで充電できるようにしている。このため、充電および放電における損失を抑制できる。したがって、試験機1を採用することにより、雷サージ試験に要する充電時間を短縮でき、試験時間を短縮できるので、雷サージ試験を含む、デバイスの製造工程および/または試験工程の自動化ラインに、試験機1を適用することも容易となる。
【0035】
さらに、この試験機1においては、高電圧大電流のスイッチングが不要になる。したがって、この試験機1においては、高電圧出力を生成する波形成形ユニット12aおよび12bでは、高電圧小容量コンデンサ14と、抵抗17と、IGBT素子およびIGBTドライバからなるスイッチング素子15とを含み、高電圧出力もIGBTによりフレキシブルに制御できる。このため、出力電圧上昇率(dv/dt)の制御あるいは設定もフレキシブルであり、各規格に対応した波形のトリガ高電圧を出力できる。さらに、複数の波形成形ユニット12aおよび12bを組み合わせることにより、いっそう複雑な波形のトリガ高電圧であっても生成することが可能である。上述したように、高電圧波形を生成する波形成形ユニット12は2つに限定されることはなく、3つ以上であっても良い。そして、トリガ電流も、複数の波形成形ユニット12aおよび12bにより分散できるので、DUT9のターンオン動作が完全に終わるまでの極短時間だけ大電流を出力できるトリガ出力W1を得ることができる。
【0036】
また、大電流出力を生成する波形成形ユニット22aおよび22bにおいても、低電圧(中電圧)大容量のコンデンサ24、抵抗27、IGBT素子およびIGBTドライバからなるスイッチング素子25とを含み、IGBT素子のスイッチング速度制御とコンデンサ容量の可変で 任意の出力電流上昇率(di/dt)の波形を持ったサージ出力W2を出力できる。さらに、複数の波形成形ユニット22aおよび22bを組み合わせることにより、いっそう複雑で、大電流の波形を持ったサージ出力W2であっても生成することが可能である。上述したように、大電流波形を生成する波形成形ユニット22は2つに限定されることはなく、3つ以上であっても良い。そして、サージ電流は、複数の波形成形ユニット22aおよび22bにより分散できるので、DUT9のサージ電流耐量を測定するのに十分な大電流をDUT9に印加できる。
【0037】
そして、試験機1においては、これらの高電圧用の複数の波形成形回路12aおよび12bと、大電流用の複数の波形成形回路22aおよび22bとを並列接続することで大電流出力化と高速充電の両立を図ることができる。このため、上述したように、電源電圧を従来よりも低くでき、ジュール熱も小さくでき、エネルギー消費を大幅低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る雷サージシミュレータの概略構成を示すブロック図である。
【図2】雷サージ試験の概略工程を示す図である。
【図3】スイッチングによりトリガ出力W1aおよびW1bと、サージ出力W2aおよびW2bとが出力されるタイミングを示す図である。
【図4】トリガ出力W1aおよびW1bと、サージ出力W2aおよびW2bと、それらが合成されたインパルス出力を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1…雷サージ試験機、9…試験体(DUT)、10…第1の出力ユニット(高電圧ユニット)、11…第1の電源ユニット(高電圧ユニット)、12a,12b…第1の波形成形ユニット(高電圧波形成形ユニット)、13,23…制限抵抗、14,24…キャパシタ(コンデンサ)、15,25…スイッチング素子(IGBT)、16,26…一方向素子(ダイオード)、20…第2の出力ユニット(低電圧ユニット)、21…第2の電源ユニット(低電圧ユニット)、22a,22b…第2の波形成形ユニット(低電圧波形成形ユニット)、30…コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験体に、雷サージ試験用の電流・電圧波形を印加するための雷サージシミュレータであって、
前記被試験体に、高電圧小電流の第1のタイプの波形を印加するための第1の出力ユニットと、
前記第1の出力ユニットと並列に接続された第2の出力ユニットであって、前記被試験体に低電圧大電流の第2のタイプの波形を印加するための第2の出力ユニットとを有し、
前記第1の出力ユニットは、
第1の電圧の電力供給を行う第1の電源ユニットと、
前記第1の電源ユニットにより充電され、前記第1のタイプの波形を出力するための第1の波形成形ユニットとを含み、
前記第2の出力ユニットは、
前記第1の電圧より低い第2の電圧の電力供給を行う第2の電源ユニットと、
前記第2の電源ユニットにより充電され、前記第1のタイプの波形と関連したタイミングで前記第2のタイプの波形を出力するための第2の波形成形ユニットとを含む、雷サージシミュレータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の波形成形ユニットは、
前記第1の電源ユニットにより充電される第1の容量の第1のキャパシタと、
前記第1のキャパシタに充電された電荷を放電するための第1のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子の出力側に接続された第1の一方向性素子とを含み、
前記第2の波形成形ユニットは、
前記第2の電源ユニットにより充電され、前記第1の容量より大きな第2の容量の第2のキャパシタと、
前記第2のキャパシタに充電された電荷を放電するための第2のスイッチング素子であって、前記第1のスイッチング素子に関連したタイミングで操作される第2のスイッチング素子と、
前記第2のスイッチング素子の出力側に接続された第2の一方向性素子とを含む、雷サージシミュレータ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1の出力ユニットは、並列に接続された複数の前記第1の波形成形ユニットを含む、雷サージシミュレータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記第2の出力ユニットは、並列に接続された複数の前記第2の波形成形ユニットを含む、雷サージシミュレータ。
【請求項5】
請求項2において、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子はそれぞれIGBTであり、それぞれのIGBTのオンタイミングおよび出力電圧上昇率を制御するコントロールユニットをさらに有する、雷サージシミュレータ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記被試験体は、シリコン2方向性2端子サイリスタである、雷サージシミュレータ。
【請求項7】
被試験体に、雷サージ試験のための電流・電圧波形を印加する雷サージシミュレータの制御方法であって、
前記雷サージシミュレータは、前記被試験体に、第1のタイプの波形を印加するための第1の出力ユニットと、
前記第1の出力ユニットと並列に接続された第2の出力ユニットであって、前記被試験体に第2のタイプの波形を印加するための第2の出力ユニットとを有し、
前記第1の出力ユニットは、
第1の電圧の電力供給を行う第1の電源ユニットと、
前記第1の電源ユニットにより充電され、前記第1のタイプの波形を出力するための第1の波形成形ユニットとを含み、
前記第1の波形成形ユニットは、
前記第1の電源ユニットにより充電される第1の容量の第1のキャパシタと、
前記第1のキャパシタに充電された電荷を放電するための第1のスイッチング素子とを含み、
前記第2の出力ユニットは、
前記第1の電圧より低い第2の電圧の電力供給を行う第2の電源ユニットと、
前記第2の電源ユニットにより充電され、前記第2のタイプの波形を出力するための第2の波形成形ユニットとを含み、
前記第2の波形成形ユニットは、
前記第2の電源ユニットにより充電され、前記第1の容量より大きな第2の容量の第2のキャパシタと、
前記第2のキャパシタに充電された電荷を放電するための第2のスイッチング素子とを含んでおり、
当該制御方法は、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子を関連したタイミングで制御する工程を含む、制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−276154(P2009−276154A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126539(P2008−126539)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】