説明

電力ケーブル気中終端接続部及び電力ケーブル気中終端接続部の製造方法

【課題】極低温環境下においても優れた耐久性・信頼性を有する電力ケーブル終端接続部を提供する。
【解決手段】電力ケーブル及び導体引出棒を碍管内に収容し、この碍管内に充填する絶縁充填物を、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムを混合したもの、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルを混合したもの又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムとシリコーンゲルを混合したものの何れかで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、碍管内に電力ケーブルの端部を収容し、この碍管に低温特性に優れた絶縁充填物を充填してなる電力ケーブル気中終端接続部及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電力ケーブル気中終端接続部(以下、終端接続部)として、エポキシ製の碍管内に電力ケーブルの端部を収容し、この碍管内に油を充填した油浸式の終端接続部が知られているが、油浸式の終端接続部では、破壊時に油漏れや、飛散による周囲の環境を汚すおそれがあることから、油を使用しない完全乾式の終端接続部が望まれている。
【0003】
さらに最近では完全乾式の終端接続部の中でも自立可能な終端接続部が求められている。一例として油の代わりにシリコーンゲルを利用したタイプがある(例えば特許文献1)。特許文献1に記載の終端接続部の場合、油の代わりに硬化前のシリコーンゲルの原料を碍管内に注入し、その後硬化させてゲル化するだけでよく、油浸式と同様の構造(例えば碍管やストレスコーン等)を使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−80338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、終端接続部において、碍管内をシリコーンゲル等からなる絶縁充填物で充填する場合、絶縁充填物と電力ケーブル、碍管、又はゴムストレスコーンなどの各種部品との間に隙間を生じないことが最も重要となる。また、終端接続部は屋外で使用されるため、様々な環境下に置かれても状態変化の小さい材料が求められる。しかしながら、特許文献1のように絶縁充填物として一般的なシリコーンゲルを用いた場合、−40℃以下の極低温環境下ではゲルが凝固して絶縁充填物と電力ケーブル等との界面が部分的に剥離して隙間が生じたり、絶縁充填物自体に割れが生じたりする恐れがある。
そこで、低温特性に優れたシリコーンゲルの原料を碍管内に注入し、その後硬化させてゲル化させて絶縁充填物として使用する方法も考えられるが、市販のシリコーンゲルの場合、硬さや硬化時間の調節がしにくく、脱泡するための装置を必要とするうえ、コストも嵩む。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、極低温環境下においても優れた耐久性・信頼性を有するとともに、製造コストの低減を図ることができる乾式の電力ケーブル気中終端接続部及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電力ケーブルの端部が碍管内に収容され、この碍管内に絶縁充填物が充填されてなる電力ケーブル気中終端接続部であって、
前記絶縁充填物が、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムを混合したもの、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルを混合したもの又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムとシリコーンゲルを混合したものの何れかで形成されていることを特徴とする。
上記発明は、(1)ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムを混合したもの、(2)ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルを混合したもの、(3)ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムとシリコーンゲルを混合したもの、のいずれかを絶縁充填物としている。
そして、本発明における発明者の考察によれば、これらの混合物からなる絶縁充填物は全体として一体の物になっており、シリコーンゴム又はシリコーンゲルの粗い架橋体がマトリックスとなりその中にオイルが分散した状態で保持された構造になっているものと考えられる。
この構造により、シリコーンゴム、シリコーンゲル又はこれらの混合物と電力ケーブル、碍管、又はゴムストレスコーンなどの各種部品との間に隙間を生じた場合に、シリコーンゴム又はシリコーンゲルの粗い架橋体からなるマトリックスからシリコーンオイルが滲出し、隙間を充填することが可能となるため、電力ケーブル、碍管、又はゴムストレスコーンなどの各種部品と絶縁充填物との間での隙間の発生を抑止することが可能である。
さらに、この電力ケーブル気中終端接続部の碍管内に充填された絶縁充填物は、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとを混合することにより優れた低温特性を有するとともに、前述の剥離や割れが生じにくい柔軟さを持つので、この終端接続部は極低温下から高温下で使用されて絶縁充填物が熱膨張・熱収縮を繰り返したときでも、絶縁充填物と電力ケーブル等との界面に隙間が生じ難いものになる。
また、前記絶縁充填物は原料を混合した後の脱泡性が良いため、注入前に脱泡する工程を省くことができる。この発明により、極低温下でも耐久性・信頼性に優れた乾式の終端接続部が実現される。また、この発明の絶縁充填物は、硬化前は流動性を有するので、従来の油浸式の終端接続部と同等の構成を利用することができ、安価に製造することができる。
【0008】
また、本発明は、電力ケーブルの端部が碍管内に収容され、この碍管内に絶縁充填物が充填されてなる電力ケーブル気中終端接続部の製造方法であって、
当該電力ケーブル気中終端接続部を施工するときに、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料の混合作業、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルの原料の混合作業又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料とシリコーンゲルの原料の混合作業のいずれかを行い、この混合作業で得られた混合物を前記碍管内に充填することを特徴とする。
この発明によれば、電力ケーブル気中終端接続部の発明と同様に、低温特性に優れ、剥離や割れが生じにくい柔軟さを持つとともに、脱泡性が良いため施工時に特殊な装置を使用しなくてもボイドを生じない絶縁充填物を形成できる。この結果、この終端接続部は、−40℃等の極低温環境下で使用される場合でも、ゲルが凍結することなく絶縁充填物と電力ケーブル等との界面に隙間が生じにくいものになる。したがって、この発明により、極低温下でも耐久性・信頼性に優れた乾式の終端接続部が実現される。また、この発明の絶縁充填物はシリコーンオイルの含有比率を大きくすることにより、絶縁充填物以外の構造は従来の油浸式の終端接続部と同等のものを利用することができ、安価に製造することができる。
【0009】
なお、シリコーンゴム又はシリコーンゲルには、二液タイプ、一液タイプの何れも用いることができる。本願において「原料」という用語は、シリコーンゴム又はシリコーンゲルが二液タイプのものであれば主剤と硬化剤を意味し、シリコーンゴム又はシリコーンゲルが一液タイプのものであるときは硬化する前の液状のシリコーンゴム又はシリコーンゲルを意味する。
【0010】
また、電力ケーブル気中終端接続部の製造方法の発明は、シリコーンゴムの原料、シリコーンゲルの原料又はシリコーンゴムの原料及びシリコーンゲルの原料のいずれかと、ジメチルシリコーンオイル及びフェニル基含有シリコーンオイルとを別々の容器に入れて当該電力ケーブル気中終端接続部の施工現場に持ち込み、これらを施工現場で混合した後、前記碍管内に充填することが望ましい。
この発明によれば、特殊な装置を必要とせず、シリコーンゴム又はシリコーンゲルの原料及びシリコーンオイルを、適度に混合した状態で碍管内に注入できるので、所望の絶縁充填物を簡易に形成することができる。
また、工場のような攪拌設備のない施工現場で混合することにより、シリコーンゴムの原料、シリコーンゲルの原料又はシリコーンゴムの原料及びシリコーンゲルの原料と、ジメチルシリコーンオイル及びフェニル基含有シリコーンオイルとを厳格に均一に混ぜることが困難となるが、シリコーンゴム又はシリコーンゲルの粗い架橋体のマトリックス中にシリコーンオイルが偏って分散されている場合の方が、各種部品と絶縁充填物との間に隙間を生じた場合にシリコーンオイルが容易に滲出し、隙間の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0011】
さらに、電力ケーブル気中終端接続部の製造方法の発明は、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料を混合する場合に、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゴムの原料の混合比率を、質量比で9:1から20:1の範囲とすることが望ましい。
この発明によれば、絶縁充填物の低温特性と界面密着性が好適化され、さらに脱泡性に優れるので、極低温環境下高い耐久性・信頼性を有する終端接続部が実現される。
【0012】
さらに、電力ケーブル気中終端接続部の製造方法の発明は、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルの原料を混合する場合に、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゲルの混合比率を、質量比で2:8から7:3の範囲とすることが望ましい。
この発明によれば、絶縁充填物の低温特性と界面密着性が好適化され、さらに脱泡性に優れるので、極低温環境下でも高い耐久性・信頼性を有する終端接続部が実現される。
【0013】
さらに、電力ケーブル気中終端接続部の製造方法の発明は、前記ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたシリコーンオイルの粘度を、2000cstから30000cstの範囲とすることが望ましい。
この発明によれば、絶縁充填物の低温特性と界面密着性等が最適化されるので、さらに高い耐久性・信頼性を有する終端接続部が実現される。また、シリコーンオイルの粘性は絶縁充填物の稠度に影響を与える傾向にあり、シリコーンオイルが適度な粘性を有することにより、絶縁充填物の界面密着性を向上する。
【0014】
さらに、電力ケーブル気中終端接続部の製造方法の発明は、前記ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものの混合比率を質量比で1.5:1から18:1の範囲とすることが望ましい。
この発明によれば、絶縁充填物の低温特性が向上するので、極低温環境下でも高い耐久性・信頼性を有する終端接続部が実現される。
また、フェニル基含有シリコーンオイルは低温特性の向上に寄与するが、ジメチルシリコーンオイルに比べて高価である。従って、上記のようにジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率の適正範囲が設定されることにより、低温特性を特に要求される極低温下での終端接続部の使用が想定される場合にはフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を大きくし、要求が少ない場合にはフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を小さくするなど、用途とコストの調整を図ることが可能となる。
またジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルは比重差により分離する傾向があるが、ある程度までは分離しない。このような分離しない配合比の範囲でジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとを混ぜ、さらに“シリコーンゴム”、“シリコーンゲル”又は“シリコーンゴム及びシリコーンゲル”の原料と混合し、これを硬化させることが望ましい。
一方、上述したジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率の範囲は、概ね分離しない範囲であるが一部分離を生じ得る範囲を含んでいる。
しかしながら、シリコーンの架橋体の中にオイルが分散した状態になるので、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを混ぜたとき少量分離していても、絶縁充填物としては問題なく機能するものになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極低温下でも耐久性・信頼性を有するとともに、製造コストの低減を図ることができる乾式の電力ケーブル気中終端接続部及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る終端接続部の概略構成を示す断面図である。
【図2】使用されたシリコーンオイルの粘度と製造される絶縁充填物の稠度の関係を示すグラフである。
【図3】終端接続部の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る終端接続部の概略構成を示す断面図である。
図1において、電力ケーブル11は、ゴム又はプラスチックで絶縁された電力ケーブル(例えばCVケーブル)である。電力ケーブル11は、導体111、導体111の外周部に形成された絶縁層112、絶縁層112の外周に形成された外部半導電層113、外部半導電層113の外周に形成された遮蔽層(図示略)及びシース114等を有し、所定長で段剥ぎすることにより各層が順次露出されている。また、導体111の先端には、導電性を有する導体引出棒13が接続されている。
【0018】
電力ケーブル11の外周面には、外部半導電層113から絶縁層112にかけて、常温収縮型のゴムストレスコーン14が装着されている。ゴムストレスコーン14は、電界緩和用の半導電ゴム部141と絶縁ゴム部142で構成され、電力ケーブル11によって拡径されることにより発生する収縮力で電力ケーブル11の外周面に密着している。
【0019】
碍管12は、例えば、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)製の中空筒体の外周を、ゴム又はプラスチックからなる襞付きの外套で被覆した複合碍管である。碍管12の上面に上部金具15が取り付けられ、底面に下部金具16が取り付けられて、碍管12の上下開口が閉塞されることにより、電力ケーブル11の端部を収容する小室が形成される。また、下部金具16には、電力ケーブル11を保持する下部銅管17が延設されており、下部銅管17の一端(図1では下端)側には、絶縁充填物20の流出を防止するシール18が施されている。
【0020】
電力ケーブル11の導体111の先端に接続された導体引出棒13は上部金具15を貫通して外部に突出している。碍管12、上部金具15、及び下部金具16で形成された小室内は、絶縁充填物20で充填されている。すなわち、終端接続部1は、電力ケーブル11の端部と、この電力ケーブル11の導体端部に接続された導体引出棒13とが、碍管12内に収容され、この碍管12内に絶縁充填物10が充填されて構成されている。
【0021】
本実施形態では、碍管12内に充填する絶縁充填物10を、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合物を硬化したもの、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合物を硬化したもの、又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムとシリコーンゲルの混合物を硬化したもので構成している。なお、前記混合物には必要に応じて硬化促進剤を配合する。
これら絶縁充填物10は、後述するように、シリコーンオイルにシリコーンゴム又はシリコーンゲルの原料を混合して硬化させることにより製造されたものである。
【0022】
シリコーンゴムは、液体の状態で原料が市販されており、この原料を重合反応により硬化させる。一液型と二液型があり、さらに反応のタイプにより付加反応型と縮合反応型とに大別される。縮合型のシリコーンゴムでは空気中の水分と反応することがあるため、好ましくは付加型のシリコーンゴムを使用する。市販されているシリコーンゴムとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のSE6910がある。このシリコーンゴムは、主剤がビニル基含有オルガノポリシロキサンで、硬化剤がハイドロジェンオルガノポリシロキサンである2液タイプのものであり、硬化後のタイプAデュロメータによる硬度が9である。
【0023】
シリコーンゲルは、シリコーンゴムと同様、液体の状態で原料が市販されており、この原料を重合反応によりゲル状に硬化させる。一液型と二液型があり、さらに反応のタイプにより付加反応型と縮合反応型とに大別される。縮合型のシリコーンゲルでは空気中の水分と反応することがあるため、好ましくは付加型のシリコーンゲルを使用する。市販されているシリコーンゲルとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のSE1886がある。このシリコーンゲルは、主剤がビニル基含有オルガノポリシロキサンで、硬化剤がハイドロジェンオルガノポリシロキサンである2液タイプのものであり、硬化後の稠度が50である。
【0024】
ここで、シリコーンゴムとは、シリコーンオイルを混合しないでその原料を硬化させたときにJIS K 6253あるいはISO7619で規定されているタイプAデュロメータによる硬度を測定可能なシリコーン硬化物であり、シリコーンゲルとは、タイプAデュロメータによる硬度測定が不能なシリコーン硬化物である。
【0025】
ジメチルシリコーンオイル(ポリシロキサンの側鎖、末端がすべてメチル基であるもの)、フェニル基含有シリコーンオイル(ポリシロキサンの側鎖、末端の一部がフェニル基であるもののことで、末端の一方がフェニル基、他方がメチル基のものをメチルフェニルシリコーンオイル、末端の両方がフェニル基のものをジフェニルシリコーンオイルという。)は、前記シリコーンゴムやシリコーンゲルのような重合反応性を示さない成分である。市販のジメチルシリコーンオイルとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のSH200、フェニルシリコーンオイルとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のSH510がある。
【0026】
ジメチルシリコーンオイルの粘度は、フェニル基含有シリコーンのオイルとの相溶性、脱泡性、作業性を考えると低粘度であるほうが良いが、密着性を向上させるためには高粘度であるほうが良い。したがって、好ましくは3000〜30000cst(測定方法:JIS K 7117−2またはISO3219)がよい。この範囲の粘度のシリコーンオイルを用いることにより、シリコーンゴム又はシリコーンゲルの原料と混合して絶縁充填物10を生成する際の作業性(取り扱い性)が良く、得られるゲル状硬化物(絶縁充填物10)の界面密着性も優れたものになる。
【0027】
フェニル基含有シリコーンオイルの粘度は、特に限定されないが、作業性を考えると低粘度であるほうが良く、好ましくは50〜3000cst(測定方法:JIS K 7117−2またはISO3219)がよい。
【0028】
絶縁充填物10をジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゴムを混合して製造する場合、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゴム原料の混合比率は、質量比で9:1〜20:1の範囲が望ましい。混合比率をこのような範囲とすることにより、所望の界面密着性を有する絶縁充填物10が実現されるので、終端接続部1の温度変化環境に対する耐久性・信頼性が向上する。
【0029】
また、絶縁充填物10をジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゲルを混合して製造する場合、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゲルの原料の混合比率を、質量比で2:8〜7:3の範囲とするのが望ましい。混合比率をこのような範囲とすることにより、所望の低温特性と界面密着性を有する絶縁充填物10が実現されるので、終端接続部1の温度変化環境に対する耐久性・信頼性が向上する。
【0030】
絶縁充填物10をジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゴムとシリコーンゲルとを混合して製造する場合のこれらの混合比率は、前述の比率で混ぜたシリコーンオイルとシリコーンゴム原料との混合物に、前述の比率で混ぜたシリコーンオイルとシリコーンゲル原料との混合物を混合したとみなせる比率にすることが望ましい。混合比率をこのような範囲とすることにより、所望の低温特性と界面密着性を有する絶縁充填物10が実現されるので、終端接続部1の温度変化環境に対する耐久性・信頼性が向上する。
【0031】
なお、絶縁充填物10には、本発明の作用・効果を妨げない範囲で任意成分を配合することができる。任意成分としては、反応抑制剤、反応促進剤、無機質充填剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0032】
図1に示す終端接続部1を施工する場合、シリコーンゴム(又はシリコーンゲル又はシリコーンゴム及びシリコーンゲル)の原料(二液タイプの場合は主剤と硬化剤)、及びシリコーンオイルを、それぞれ別の容器に所定量入れて、施工現場に搬入する。ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルは別容器に入れても良いが、予め混合して同じ容器に入れても良い。
そして、段剥ぎした電力ケーブル11の端部に、下部銅管17及び下部金具16を取り付け、ゴムストレスコーン14を装着するとともに、導体111の端部に導体引出棒13を接続する。この電力ケーブル11の端部に碍管12を被せて、下部金具16上に液密に固定する。また、電力ケーブル11と下部銅管17とをシール18により密封する。
なお、後述するように絶縁充填物10を作成したときにストレスコーン14の表面にジメチルシリコーンオイル、フェニル基含有シリコーンオイル又はこれらを合わせたものを予め塗布してオイル膜143を形成しておくと、ストレスコーン14の表面に生じるボイドをより少なくでき、さらにはストレスコーンの低温特性を向上させることもできる。
【0033】
次に、液状のシリコーンゴム(又はシリコーンゲル又はシリコーンゴム及びシリコーンゲル)の原料とジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとを一つの容器に入れ、所定の比率で配合した後、常温で均一になるまで混合する。この際、シリコーンゴム(又はシリコーンゲル)が主剤及び硬化剤からなる二液タイプの場合は、硬化剤を最後に混ぜる。シリコーンゴム(又はシリコーンゲル)とシリコーンオイルの混合作業は、例えばハンドミキサーで混ぜることによって行われる。
【0034】
次に、シリコーンゴム(又はシリコーンゲル又はシリコーンゴム及びシリコーンゲル)の原料とジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルからなる混合物を、碍管12と下部金具16とで形成された小室内に所定量だけ流し込み、数時間静置した後、上部金具15を取り付けて小室を閉塞する。そして、小室内を常温に保持した状態で電力ケーブル11に通電し、所定時間静置して混合物を硬化させ、絶縁充填物10を形成する。絶縁充填物10は、軟らかいゲル状硬化物(JIS K 2220(測定端子:標準コーン)で規定される稠度が220〜450)となる。なお、JIS K 2220(測定端子:標準コーン)に対応する試験方法として、ISO2137 (測定端子:円錐コーン)がある。
【0035】
[実施例1]
実施例1では、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料を混合して混合物とし、これを硬化させたゲル状硬化物について、JIS K 2220で規定される稠度、耐寒性(−40℃下で何日後に凍結しているか確認する)、界面密着性を評価した。ジメチルシリコーンオイルには、東レ・ダウコーニング株式会社製のSH200シリーズ(粘度の異なるものが販売されている)を用い、フェニル基含有シリコーンオイルには東レ・ダウコーニング株式会社製のSH510シリーズ(粘度の異なるものが販売されている)を用い、シリコーンゴムには、東レ・ダウコーニング株式会社製のSE6910(液状タイプ、硬化前の粘度: 7500cst)を用いた。
ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゴム原料の混合比率は8:1〜21:1の範囲で、表1に示したように変化させた。
評価結果1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
耐寒試験は終端接続部1を製作して行った。すなわち、電圧66kV、導体サイズ500sq、絶縁厚10mmの電力ケーブル11の端部を、110kV級のポリマー碍管12(内径290mm、高さ1350mm)に収容し、施工現場でシリコーンオイルとシリコーンゴム原料とを混合し、この混合物30kgを碍管12に注入し、硬化させてゲル状硬化物、すなわち絶縁充填物10とした終端接続部1を作製し、これを用いて-40℃の大型恒温槽に入れて絶縁充填物10が凍結するか試験を行った。
【0038】
界面密着性試験は、シリコーンオイルとシリコーンゴム原料の混合物を2枚のシートの間に入れて硬化させて作成したゲル状硬化物の試験片を用いて行った。具体的には、20mm×100mm×1mmの2枚のシートにシリコーンオイルとシリコーンゴム原料の混合物を挟み硬化させてから、シートの上から荷重0.5kgをかけた状態で平行にシートをずらした際にどれだけの力(密着力)が生じるか、またゲル状硬化物又は油分がシートの表面に残っているかで評価した。なお、架橋ポリエチレン(XLPE)製のシートを用いた場合と、エチレンプロピレンゴム(EP)製のシートを用いた場合のそれぞれについて界面密着性を評価した。
なお、架橋ポリエチレンは電力ケーブルの絶縁層に用いられる素材であり、エチレンプロピレンゴムは終端接続部内のストレスコーンに用いられる素材である。即ち、終端接続部内において、絶縁充填物が密着性を要求される素材を用いて上記界面密着性試験を行った。
2枚のシートに夫々ゲルが残った場合を“○”、一方のシートにゲル状硬化物、他方に油分が残った場合を“△”、片方のシートにのみゲル状硬化物が残った(他方には油分も残らなかった)場合を“×”で示す。
【0039】
気泡消滅時間は、110kV級のポリマー碍管12(内径290mm、高さ1350mm)と同じ大きさの透明アクリルパイプの中に、シリコーンオイルとシリコーンゴム原料の混合物を20L入れて50℃の恒温槽に入れ、脱泡装置を用いなくても気泡が消滅するか確認した。
気泡消滅時間を確認することにより、現場で特殊な装置を使用しなくても絶縁充填物10に気泡がないことを確認することができる。
【0040】
[実施例1の試験結果]
表1に示すように、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を18:1とした実施例1−1(オイル粘度は2000cst)では、硬化後の稠度が310であり、界面密着性が実施例1−2,1−3,1−4よりも低下していたが、耐寒性試験では良好な結果が得られた。なお、気泡消滅時間は8hであり、現場で施工の際に大型装置を使用しなくても問題ないと考えられる。
【0041】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を1.5:1として、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を他の実施例よりも高く設定した実施例1−3(オイル粘度は2000cst)と、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を20:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が18:1として、シリコーンゴムに対するシリコーンオイルの混合比率を他の実施例よりも高く設定した実施例1−4(オイル粘度は2000cst)では、硬化後の稠度がそれぞれ375,391であり、耐寒試験及び界面密着性試験において良好な結果が得られた。また、気泡消滅時間が長くても9h以下なので、注入後、半日後には課電が可能であり、現場で施工の際に大型装置を使用しなくても良いと考えられる。
【0042】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を8:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が18:1として、シリコーンゴムに対するシリコーンオイルの混合比率を実施例1の中で最も低く設定した実施例1−5(オイル粘度は2000cst)では、硬化後の稠度が230であり、界面密着性が実施例1−1〜1−4より低下していたが、耐寒性試験では良好な結果が得られた。なお、気泡消滅時間は8hであり、現場で施工の際に大型装置を使用しなくても問題ないと考えられる。
【0043】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を21:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が18:1として、シリコーンゴムに対するシリコーンオイルの混合比率を実施例1の中で最も高く設定した実施例1−8(オイル粘度は2000cst)では、硬化後の稠度が420であり、耐寒性試験・界面密着性が良好であり、気泡消滅時間も8hであったが、25℃で5日経過しても硬化しておらず、硬化時間が長いため、未硬化時に事故があった場合、油漏れする可能性を生じる。
【0044】
上記各試験結果により、シリコーンオイルの混合比率が小さく、硬化後の絶縁充填物10の稠度が小さくなる(硬くなる)と、界面密着性が低下すると思われる。界面密着性の観点から、シリコーンオイルのシリコーンゴムに対する混合比率は、9:1以上とするのが望ましい。なお、この混合比率以下であるシリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を8:1とした場合であっても、絶縁充填物10と電力ケーブル11又は碍管12との界面には油膜が形成され、隙間は生じないため電気的には問題はなく、実用可能である。
【0045】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が18:1とし、オイル粘度を他の実施例よりも低い1000cstとした実施例1−6では、硬化後の稠度が267であり、界面密着性が実施例1−1〜1−4より低下していたが、耐寒性試験では良好な結果が得られた。なお、気泡消滅時間は5hであり、現場で施工の際に大型装置を使用しなくても問題ないと考えられる。
【0046】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を18:1とし、オイル粘度を他の実施例よりも高い30000cstとした実施例1−2と、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を18:1とし、オイル粘度を実施例1の中で最も高い40000cstとした実施例1−7では、硬化後の稠度がそれぞれ338,355であった。実施例1−2は耐寒性・界面密着性試験において、良好な結果が得られた。また、気泡消滅時間も19hであり、注入後1日経過すれば気泡は抜けると考えられる。一方、実施例1−7では耐寒試験及び界面密着性試験において、良好な結果が得られた。しかしながら、オイル粘度が大きすぎるため、気泡消滅時間は32hと長く、シリコーンオイルとシリコーンゴムを混合するときに、容器を傾けてもオイルが流れにくい上、シリコーンゴムと混合する際の攪拌作業に労力を要し、終端接続部1の施工に時間かかった。
【0047】
実施例1−1、実施例1−2、実施例1−6、実施例1−7は、ジメチルシリコーンオイルとフェニルシリコーンオイルの配合比およびシリコーンオイルとシリコーンゴムの比が同じであるが、オイル粘度が異なっており、これによって硬化後の稠度が異なっていた。
ここで、図2にシリコーンオイルとシリコーンゴム原料の混合比率を20:1とした場合のオイル粘度と硬化後の稠度の関係について示す。不思議なことに、シリコーンオイルの粘度と、得られる絶縁充填物の硬さ(稠度)の関係は、逆の関係になる。すなわち、図2に示すように、シリコーンオイルの粘度が高いほど得られる絶縁充填物は軟らかく(稠度大)、シリコーンオイルの粘度が低いと絶縁充填物が硬くなる(稠度小)。
実施例1−6のように、オイル粘度が1000cstの場合には絶縁充填物10の稠度は小さくなり(硬くなる)、界面密着性が低下すると思われる。界面密着性の観点から、シリコーンオイルの粘度は2000以上とすることが好ましい。また、撹拌作業の容易さの観点から30000以下が望ましいと考えられる。
【0048】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が1:1として、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を実施例1の中で最も高く設定した実施例1−9(オイル粘度は2000cst)では、耐寒性・界面密着性試験において、良好な結果が得られた。また、気泡消滅時間も9.5hであり、注入後半日経過すれば気泡は抜けると考えられる。しかしながら、25℃で5日経過しても硬化しておらず、硬化時間が長いため、未硬化時に事故があった場合、油漏れする可能性を生じる。
【0049】
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が19:1として、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を実施例1の中で最も低く設定した実施例1−10(オイル粘度は2000cst)では、フェニル基含有シリコーンオイルを使用しない比較例1と比較して耐寒性が向上するものの−40℃、60日間で絶縁充填物1が凍結した。なお、その他の試験については良好な結果となった。
【0050】
[比較例1との対比]
また、表1には、上記各実施例1−1〜1−10との比較を行うための比較例1の試験結果についても記載している。
シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルのみを使用した比較例1(オイル粘度は2000cst)では、−40℃、21日間で絶縁充填物1が凍結した。また、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率が同等である比較例1、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を19:1とした実施例1−10、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率を9:1、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を18:1とした実施例1−1では稠度がそれぞれ255、285、310であり、フェニル基含有シリコーンオイルを混合すると稠度が大きくなり、混合比率が大きいほど稠度が大きくなっていた。
【0051】
これにより、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率がある一定以上である場合には耐寒性が向上し、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が多い場合には稠度が大きくなり、界面密着性も向上すると考えられる。しかしながらシリコーンオイル中のフェニル基含有シリコーンオイルの配合量が多すぎると硬化に時間を要する。したがって、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率1.5:1〜18:1が望ましい。
【0052】
[実施例2の試験結果]
実施例2では、シリコーンオイルとシリコーンゲルの原料を混合して硬化させたゲル状硬化物について、実施例1と同様に、JIS K 2220で規定される稠度、耐寒性、界面密着性、及び気泡消滅時間を評価した。シリコーンオイルには、東レ・ダウコーニング株式会社製のSH200、SH510シリーズを用い、シリコーンゲルには、東レ・ダウコーニング株式会社製のSE1886(硬化前の粘度:1122cst)を用いた。また、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合比率は1:9〜8:2の範囲で変化させた。評価結果の一例を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を2:8、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を18:1とした実施例2−1、シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を7:3、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が18:1として、シリコーンゲルに対するシリコーンオイルの混合比率を他の実施例よりも高く設定した実施例2−2では、硬化後の稠度がそれぞれ294,403であり、耐寒性試験及び界面密着性試験において良好な結果が得られた。また、気泡消滅時間が9h以下なので、シリコーンオイルとシリコーンゲル注入後、半日後には課電可能であると考えられる。
【0055】
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を1:9、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を18:1として、シリコーンゲルに対するシリコーンオイルの混合比率を他の実施例よりも低く設定した実施例2−4では、硬化後の稠度が270で実施例2−1,2−2より低く(硬く)、界面密着性も実施例2−1,2−2より劣っていた。また、耐寒性は良好であり、気泡消滅時間も7.5hであるため、シリコーンオイルとシリコーンゲル注入後、半日後には課電可能であると考えられる。
【0056】
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を8:2として、シリコーンゲルに対するシリコーンオイルの混合比率を実施例2の中で最も高く設定した実施例2−5では、硬化後の稠度が450で実施例2−1,2−2より大きく(軟らかく)なった。また、耐寒試験において、良好な結果が得られた。気泡消滅時間は8hであり、実施例2−1,2−2と同等であった。しかしながら、25℃における硬化時間は長くなったため、未硬化時に事故があった場合、油漏れが生じる恐れがある。
【0057】
これより、絶縁充填物10をシリコーンオイルとシリコーンゲルを混合して作製する場合においても、シリコーンオイルの混合比率が小さく、硬化後の絶縁充填物10の稠度が小さくなる(硬くなる)と、界面密着性が低下する。以上より界面密着性の観点から、シリコーンオイルのシリコーンゲルに対する混合比率は、2:8以上とするのが望ましい。
さらに、リコーンオイルとシリコーンゲル原料の混合物の硬化時間が長い場合、これらがシール18を高度にしないと碍管12から流出する虞がある。したがって、シリコーンオイルのシリコーンゲルに対する配合比率は、8:2よりも小さくするのが望ましい。
【0058】
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を2:8、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を1.5:1として、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を他の実施例よりも高く設定した実施例2−3では、硬化後の稠度が305であり、耐寒性試験及び界面密着性試験において良好な結果が得られた。また、気泡消滅時間が9h以下なので、シリコーンオイルとシリコーンゲル注入後、半日後には課電可能であると考えられる。
【0059】
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を2:8、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を19:1として、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を実施例2の中で最も低く設定した実施例2−7では、硬化後の稠度が279であり、界面密着性試験において実施例2−4と同等の結果が得られた。しかし、耐寒性の試験においては60日でゲルが凍結した。なお、気泡消滅時間については8hなので、シリコーンオイルとシリコーンゲル注入後、半日後には課電可能であると考えられる。
【0060】
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を2:8、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を1:1として、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率を実施例2の中で最も高く設定した実施例2−6(オイル粘度は2000cst)では、硬化後の稠度が435であり、耐寒性の試験,界面密着性試験は良好であった。また、気泡消滅時間については8.5hであり、シリコーンオイルとシリコーンゲル注入後、半日後には課電可能であると考えられる。
しかしながら、25℃,5日で硬化しないため、未硬化時に事故があった場合、油漏れが生じる恐れがある。
【0061】
[比較例2との対比]
また、表2には、上記各実施例2−1〜2−7との比較を行うための比較例2の試験結果についても記載している。
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を2:8、ジメチルシリコーンオイルのみを使用した比較例2では、硬化後の稠度が265であり、耐寒性の試験においては21日でゲルが凍結した。また、界面密着性試験は実施例2−4と同等であった。なお、気泡消滅時間については8.5hであり、シリコーンオイルとシリコーンゲル注入後、半日後には課電可能であると考えられる。
【0062】
シリコーンオイルとシリコーンゲルの混合比率を2:8であるが、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が100:0である比較例2と、混合比率が19:1である実施例2−7と、混合比率が18:1である実施例2−1と、混合比率が1.5:1である実施例2−3と、混合比率が1:1である実施例2−6は、硬化後の稠度がそれぞれ265,279,294,305,435であり、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が多いほど、稠度が大きくなっている。
【0063】
これにより、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合物と同様に、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率がある一定以上である場合には耐寒性が向上し、フェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が多い場合には稠度が大きくなり、界面密着性も向上すると考えられる。しかしながらシリコーンオイル中のフェニル基含有シリコーンオイルの配合量が多すぎると硬化に時間を要する。したがって、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率は1.5:1〜18:1の範囲が望ましい。
なお、この実施例2ではオイル粘度を2000cstに固定して試験を行ったが、オイル粘度の変化による影響は、シリコーンゲルを用いた場合もシリコーンゴムを用いた場合と同様であると、本発明者は予想している。
【0064】
上述したように、実施形態の終端接続部1においては、絶縁充填物10が、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムを混合したもの、又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルを混合したもので形成されている。
これにより、碍管12内に充填された絶縁充填物10が、低温下でも凍結することなく、優れた界面密着性を有する。したがって、低温下でも高い耐久性・信頼性を有する完全乾式の終端接続部が実現される。また、終端接続部1は、絶縁充填物10の構成が異なるだけで、その他の構造は従来の油浸式の終端接続部と同等であるので、安価に製造することができる。他方、油浸式の終端接続部のような漏油の危険性は解消される。
【0065】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0066】
例えば、碍管内に充填する絶縁充填物としては、シリコーンゴムとシリコーンオイルの混合物(例えば実施例1−1)に、シリコーンゲルとシリコーンオイルの混合物(例えば実施例2−1)を混ぜた混合物を硬化させたものを使用することもできる。具体的には、実施例1−1〜1−10で用いた混合物のいずれかと実施例2−1〜2−7で用いた混合物のいずれかとを任意に組み合わせた混合物を用いることができる。
【0067】
また例えば、実施形態とは異なる構造の終端接続部に本発明を適用することもできる。図3は、本発明を適用した終端接続部の他の一例を示す図である。図3に示す終端接続部2は、内部に電力ケーブル21を通す碍管22と、電力ケーブル21の外部半導電層213から絶縁層212にかけてエポキシ座29と圧縮装置30とにより圧着されるゴム製のストレスコーン24とを備え、碍管22の上部において電力ケーブル11の導体111に接続された導体引出棒23が引き出され、碍管22の下部において下部金具26に形成された下部銅管27から電力ケーブル21が挿入されている。電力ケーブル21と下部銅管27とはシール28により密閉されている。
すなわち、この終端接続部2も実施形態の終端接続部1と同様に、電力ケーブル21の端部と、この電力ケーブル21の導体211端部に接続された導体引出棒23とが、碍管22内に収容され、この碍管22内にシリコーンゲル及び/又はシリコーンゴムとシリコーンオイルとからなる絶縁充填物10と同じ絶縁充填物20が充填されて構成されている。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1,2 電力ケーブル終端接続部
10,20 絶縁充填物
11,21 電力ケーブル
111,212 導体
112,212 絶縁層
113,213 外部半導電層
12,22 碍管
13,23 導体引出棒
14,24 ゴムストレスコーン
141 半導電ゴム部
142 絶縁ゴム部
143 オイル膜
15,25 上部金具
16,26 下部金具
17,27 下部銅管
18,28 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルの端部が碍管内に収容され、この碍管内に絶縁充填物が充填されてなる電力ケーブル気中終端接続部であって、
前記絶縁充填物が、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムを混合したもの、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルを混合したもの又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムとシリコーンゲルを混合したものの何れかで形成されていることを特徴とする電力ケーブル気中終端接続部。
【請求項2】
電力ケーブルの端部と、この電力ケーブルの導体端部と接続された導体引出棒とが、碍管内に収容され、この碍管内に絶縁充填物が充填されてなる電力ケーブル気中終端接続部の製造方法であって、
当該電力ケーブル気中終端接続部を施工するときに、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料の混合作業、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルの原料の混合作業又はジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料とシリコーンゲルの原料の混合作業のいずれかを行い、この混合作業で得られた混合物を前記碍管内に充填することを特徴とする電力ケーブル気中終端接続部の製造方法。
【請求項3】
シリコーンゴムの原料、シリコーンゲルの原料又はシリコーンゴムの原料及びシリコーンゲルの原料のいずれかと、ジメチルシリコーンオイル及びフェニル基含有シリコーンオイルとを別々の容器に入れて当該電力ケーブル気中終端接続部の施工現場に持ち込み、これらを施工現場で混合した後、前記碍管内に充填することを特徴とする請求項2に記載の電力ケーブル気中終端接続部の製造方法。
【請求項4】
ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゴムの原料を混合する場合に、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゴムの原料の混合比率が、質量比で9:1から20:1の範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の電力ケーブル気中終端接続部の製造方法。
【請求項5】
ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとシリコーンゲルの原料を混合する場合に、ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルを合わせたものとシリコーンゲルの原料の混合比率が、質量比で2:8から7:3の範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の電力ケーブル気中終端接続部の製造方法。
【請求項6】
前記ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルとを混合したシリコーンオイルの粘度が、2000cstから30000cstの範囲であることを特徴とする請求項2から5の何れか一項に記載の電力ケーブル気中終端接続部の製造方法。
【請求項7】
前記ジメチルシリコーンオイルとフェニル基含有シリコーンオイルの混合比率が、質量比で1.5:1〜18:1の範囲であることを特徴とする請求項2から6の何れか一項に記載の電力ケーブル気中終端接続部の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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