説明

電力変換回路の制御装置

【課題】
フィードバック制御とフィードフォワード的制御とを組み合わせることで、安定性を担保しつつ、非線形の動的システムの出力電圧の予測が可能な電力変換回路の制御装置を提供する。
【解決手段】
フィードバック制御量を生成するフィードバック制御部と、フィードフォワード的な制御量を生成する機械学習制御部と、これらの差分を求め駆動回路に当該差分信号を送出する合成制御信号生成部とを備え、繰り返して生じるピークまたはボトムのそれぞれについての抑制処理を電力変換回路の制御装置であって、機械学習制御部は、k番目のピークまたはボトムについて、制御目標値と学習履歴から算出した制御予測値との偏差に、αk_n=Ak・exp(−λk×n)(Ak:第1の抑制因子(ゼロ以外の定数)、λk:第2の減衰因子、n:何番目のサンプリングかを示す整数)の項を含む重み付けをして、機械学習制御量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御と機械学習によるフィードフォワード制御(たとえば、ニューロ制御)とを組み合わせることで、安定性を担保しつつ、非線形の動的システムの出力電圧の予測が可能な電力変換回路の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィードバック制御およびフィードフォワード制御が可能な制御回路を備えた電力変換回路(DC/DCコンバータ)が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フィードフォワード制御では、振動(ピークとボトムの繰り返し)を抑制しようとすると、条件によっては、制御装置が、次にくるピークを助長するように振舞う場合もある。
【0004】
本発明の目的は、フィードバック制御とフィードフォワード的な制御(たとえば、ニューロ制御等の機械学習制御)とを組み合わせることで、安定性を担保しつつ、非線形の動的システムの出力電圧の予測が可能な電力変換回路の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電力変換回路の制御装置は、以下を要旨とする。
(1)
電力変換回路の出力電圧値、および、出力電流値,入力電圧値,インダクタ電流値,キャパシタ電流値の少なくとも1つをパラメータとして取得して駆動回路にスイッチのオン・オフ信号指令値を送出することで、過渡変化に際して振動応答する出力電圧のピークまたはボトムを抑制するとともに収束時間を短縮するための電力変換回路の制御装置であって、
出力電圧の所定変動幅以上の変化、出力電流の所定変動幅以上の変化、または出力インピーダンスの所定変動幅以上の変化、負荷抵抗あるいは負荷インピーダンスの所定変動幅以上の変化を検出する出力変化検出部と、
制御目標値と制御予測値を機械学習情報として記憶する機械学習情報記憶部と、
前記電力変換回路の前記パラメータから、フィードバック制御量としての第1時間量を生成するフィードバック制御部と、
前記機械学習記憶部に記憶した機械学習制御量としての第2時間量を生成する機械学習制御部と、
前記フィードバック制御部からの第1時間量と前記機械学習制御部からの第2時間量とを合成し、当該合成量をスイッチングタイミングのための時間量として前記駆動回路に送出する合成制御信号生成部と、
を備え、
前記出力変化検出部が前記所定変動幅以上の変化を検出したときは、
前記機械学習制御部は、k番目(kは正の整数)のピークまたはボトムに対して、
前記機械学習情報記憶部に記憶した前記制御目標値と制御予測値との偏差に、
αk_n=fk_n
k_n:減衰関数
k:何番目のピークまたはボトムかを表す整数
n:何番目のサンプリングかを示す整数
の項を含む重み付けをし、またはさらに、この重み付けした値にバイアス分を付与した前記第2時間量を生成する、
ことを特徴とする電力変換回路の制御装置。
【0006】
(2)
αk_nが、
αk_n=Ak・exp(−λk×n)
k:第1振動抑制因子(ゼロ以外の定数)
λk:第2振動抑制因子(ゼロ以外の正の定数)
n:何番目のサンプリングかを示す整数
で表されることを特徴とする(1)に記載の電力変換回路の制御装置。
【0007】
(3)
前記機械学習情報記憶部は、前記制御目標値および前記制御予測値のほか、前記第2時間量の算出値、前記第2時間量の算出開始条件、前記パラメータを記憶することを特徴とする(1)に記載の電力変換回路の制御装置。
【0008】
(4)
同一の前記所定変動幅以上の変化があったときは、直ちに次のピークまたはボトムの抑制処理に移行せずに、同一のピークまたはボトムに対して、複数回の機械学習を行うことを特徴とする(1)に記載の電力変換回路の制御装置。
【0009】
(5)
同一の前記所定変動幅以上の変化があったときは、直ちに次のピークまたはボトムの抑制処理に移行せずに、同一のピークまたはボトムに対して、複数回の機械学習を行うことを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路の制御装置。
同一の前記所定変動幅以上の変化があったときは、直ちに次のピークまたはボトムの抑制処理に移行せずに、同一のピークまたはボトムに対して、複数回の機械学習を行うことを特徴とする(1)に記載の電力変換回路の制御装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、負荷変化等の応答として繰り返し現れるピークとボトムのそれぞれについて、合成制御信号生成部の出力(Nk_Ton)(kは幾つ目のピークまたはボトムであるかを示す整数)を第1時間量(フィードバック制御量)と第2時間量(機械学習制御量)により構成した。そして、第2時間量を、機械学習制御目標値と機械学習制御予測値との偏差に、〔Ak・exp(−λk×n)〕(Ak:最初(一番目)のボトムまたはピークを抑制するための因子(ゼロ以外の定数),λk:二番目のピークまたはボトムを減衰させるための因子(ゼロ以外の正の定数),n:何番目のサンプリングかを示す整数)で重み付けをして決定した。
これにより、過渡的変化に際して振動応答する出力電圧のピークまたはボトムを抑制でき、また定常値に収束する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の制御装置が適用される電力変換回路を示す模式図である。
【図2】図1の制御装置を具体的に示す機能ブロック図である。
【図3】制御パラメータを限定して示す図1の電力変換回路を示す図である。
【図4】図3の制御装置の機能ブロック図である。
【図5】(A)は出力変化検出部の処理を示すフローチャート、(B)は機械学習検出部の制御処理を示すフローチャートである。
【図6】機械学習検出部の機械学習処理を示すフローチャートである。
【図7】機械学習検出部の機械学習処理の他の例を示すフローチャートである。
【図8】(A)は負荷が急変した後に機械学習なしの制御を行ったときの出力波形および制御波形を示し、(B)は1つ目のピークまたはボトムについての機械学習に基づき生成した制御波形を示す図である。
【図9】(A)は負荷が急変した後に1つ目のピークまたはボトムについて機械学習に基づく制御を行ったときの出力波形および制御波形を示し、(B)は2つ目のピークまたはボトムについての機械学習に基づき生成した制御波形を示す図である。
【図10】(A)は負荷が急変した後に1つ目および2つ目のピークまたはボトムについて機械学習に基づく制御を行ったときの出力波形および制御波形を示し、(B)は3つ目のピークまたはボトムについての機械学習に基づき生成した制御波形を示す図である。
【図11】3つ目のピークまたはボトムについての機械学習に基づき生成した出力波形および制御波形を示す図である。
【図12】図8に対応する実験例を示す図である。
【図13】図9に対応する実験例を示す図である。
【図14】図10に対応する実験例を示す図である。
【図15】図11に対応する実験例を示す図である。
【図16】本発明の制御装置が適用される電力変換回路の他の例を示す模式図である。
【図17】図16の制御装置を具体的に示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の制御装置が適用される電力変換回路を示す模式図である。
図1において、電力変換回路(DC/DCコンバータ2)は、スイッチ回路22と、トランス23と、整流器24と、平滑用インダクタ25(Lo)と、出力キャパシタ26(Co)からなる。平滑用インダクタ25には直列にインダクタ電流検出用抵抗rLが接続され、出力キャパシタ26にはキャパシタ電流検出用抵抗rCが直列接続され、後述する負荷28には直列に出力電流検出用抵抗27(rs)が接続されている。また、DC/DCコンバータ2の入力側には、直流電源21が接続され、出力側には負荷28(R)が接続されている。図1では直流電源21は便宜上バッテリーで示してあるが直流供給端子であってもよく、負荷28は直流抵抗Rで示してあるが交流抵抗(インピーダンス)であってもよい。なお、図1では、rs,rL,rcは、省かれることがあるので、シンボルを破線で示してある。
【0013】
図1では、出力電圧eo、および出力電流io(検出値es),入力電圧(直流電源電圧)ei,インダクタ電流iL(検出値eLi),キャパシタ電流iC(検出値eCi)の少なくとも1つが制御装置1Aに送出され、制御装置1Aは駆動回路3に、スイッチ回路22のスイッチをオンするタイミング指令値(時間信号Ton,n)を送出する。
【0014】
図2は、図1に示した制御装置1Aの概略を示す図である。
制御装置1Aは、プリアンプ11と、A/Dコンバータ12と、出力変化検出部13と、機械学習情報記憶部14と、フィードバック制御部15と、機械学習制御部16と、合成制御信号生成部17と、カウンタ18とを備えている。
【0015】
プリアンプ11は、出力電圧値eo、および出力電流io(検出値es),入力電圧ei,インダクタ電流iL(検出値eLi),キャパシタ電流iC(検出値eCi)の少なくとも1つを入力し、これらを増幅して、eeo、およびees,eei,eeLi,eeCiとして出力する。A/Dコンバータ12はこれらの出力値をそれぞれディジタル信号Eeo,Ees,Eei,EeLi,EeCiに変換する。なお、図2では、rs,rL,rcは省かれることがあるので、シンボルを破線で示し、ディジタル信号Ees,Eei,EeLi,EeCiは省かれることがあるので、データの流れを意味する矢印を破線で示してある。
【0016】
出力変化検出部13は、出力電圧の所定値以上の変化、出力電流の所定値以上の変化、または出力インピーダンスの所定値以上の変化、負荷抵抗あるいは負荷インピーダンスの所定値以上の変化を検出する。機械学習情報記憶部14は、機械学習情報を記憶する。
【0017】
フィードバック制御部15は、振動により作られるピークやボトムを抑制するべく、ディジタル信号Eeoおよび、Ees,Eei,EeLi,EeCiの少なくとも1つを入力し、フィーバック制御量としてのスイッチングタイミングのための第1時間量Nk_Ton_A,nを生成する。kは、何番目のピークまたはボトムに対して使用される第1時間量であるかを示す添え字である。nは、変化が生じてからのサンプリング回数、すなわち、何番目のサンプリングかを意味する添え字である。
機械学習制御部16は、ニューロ制御部等の機械学習制御部であり、ディジタル信号Eeoおよび、Ees,Eei,EeLi,EeCiの少なくとも1つを入力し、スイッチオフのタイミングのための制御量として、第2時間量Nk_Ton_Bを生成する。kは、何番目のピークまたはボトムに対して使用される第2時間量であるかを示す添え字である。
【0018】
なお、第2時間量Nk_nTon_Bは、
k_Ton_B=αk_n(Nk_neo*−Nk_neoEst) (1)
で表され、たとえば、Nk_neo*は、n回目のサンプリングに対する目標値であり、Nk_neoEstは、n回目のサンプリング(変化が生じてからのサンプリング回数)における予測値とできる。
【0019】
αk_nは、
αk_n=fk_n (2)
k_n:減衰関数
k:何番目のピークまたはボトムかを表す整数
n:何番目のサンプリングかを示す整数
(2)式では、fk_nは、適宜の減衰関数(たとえば、傾斜が負の一次関数、複数段階で減衰する階段関数等、指数関数を線形近似した関数)とすることができる。
【0020】
合成制御信号生成部17は、フィードバック制御部15からの第1時間量と機械学習制御部16からの第2時間量との差分、
k_Ton_B−Nk_Ton_A,n
を求め、この差分に基づく値を合成制御信号生成部17に送出する。なお、本実施形態では、上記の差分に、オフセット(バイアス分Nk_bias)を付加しており、合成制御量Nk_Ton_nは、
k_Ton_n=Nk_bias+Nk_Ton_B−Nk_Ton_A,n
である。本実施形態では、Nk_bias−Nk_Ton_A,nをNk_Ton_Bのバイアスと考えることもできる。
本実施形態では、駆動回路3は、所定の周期でオンしている。カウンタ18は、上記の合成制御量Nk_Ton_nの計数を行いカウントアップしたときにスイッチオフのタイミングのための信号(タイミング指令値:時間信号TON)を駆動回路3に送出する。
【0021】
図3は、制御パラメータを限定した図1のDC/DCコンバータ2を示す図であり、図4はフィードバック制御部15と機械学習制御部16とを備えた図4の制御装置1Aの機能ブロック図である。
図3では、出力電圧eo,出力電流io,入力電圧値eiが制御装置1Aに送出され、制御装置1Aはこれらに基づきスイッチ回路22のスイッチをオンするタイミング指令値(時間信号TON)を算出し、これを駆動回路3に送出している。
【0022】
図4において、制御装置1Aは、プリアンプ11と、A/Dコンバータ12と、出力変化検出部13と、機械学習情報記憶部14と、フィードバック制御部15と、機械学習制御部16と、合成制御信号生成部17と、カウンタ18とを備えている。
プリアンプ11は、DC/DCコンバータ2の出力電圧eo,出力電流es,入力電圧eiを入力し、これらを増幅して、eeo,ees,eeiとして出力する。A/Dコンバータ12はこれらの値をそれぞれディジタル信号Eeo,Ees,Eeiに変換する。
【0023】
出力変化検出部13は、出力電圧の所定値以上の変化、出力電流の所定値以上の変化、または出力インピーダンスの所定値以上の変化、負荷抵抗あるいは負荷インピーダンスの所定値以上の変化を検出する。機械学習情報記憶部14は、機械学習情報を記憶する。
【0024】
フィードバック制御部15は、ディジタル信号Eeo(出力電圧eoに対応)を取得して、フィーバック制御量としてのスイッチングタイミングのための第1時間量Nk_Ton_A,nを生成する(n:何番目のサンプリングかを意味する添え字)。
第1時間量(フィードバック制御量)は、通常のフィードバック制御に準じたとえば、
Ton_A,n=Kp(Neo,n-1−NR)+KIΣNI,n-1
+KD(Neo,n-1−NR-1) (3)
で表される。
【0025】
機械学習制御部16は、負荷抵抗Rの変化状態を、入力電圧eiのディジタル値Eeiの関係において記憶する機械学習情報記憶部14とアクセスできる。また、機械学習制御部16は、ディジタル信号Eeo(出力電圧eoに対応)、ディジタル信号Ees(出力電流の電圧変換値esに対応)およびディジタル信号Eei(入力電圧eiに対応)を入力し、機械学習制御量としてのスイッチングタイミングのための第2時間量Nk_Ton_B,nを生成する。
【0026】
機械学習制御部16は、フィードフォワード制御を行うことができる。3つ前までのサンプリングデータ、Eeo-1,Eeo-2,Eeo-3を使用し、n番目のNk_eoEst,nを予測している(これは、出力電圧eoのn番目のサンプリング値Eeo-nを予測することを意味する)。
【0027】
したがって、機械学習制御部16がニューロ制御部である場合には、入力層のユニット数は3になる。隠れユニットは、入力層のユニットの2倍、すなわち6であり、S字関数(シグモイド関数)は活性化関数として使用される。また、重みパラメータは、ランダムに初期化されて、標準の平方和誤差関数による逆伝播アルゴリズムで学習される。
【0028】
第2時間量(機械学習制御量)は、サンプリングにおける制御目標値Nk_eo*と制御予測値Nk_eoEstとの偏差に、αk_nで重み付けをした、
k_Ton_B=αk_n(Nk_eo*−Nk_eoEst) (4)
で表される。たとえば、Nk_eo*は、n回目のサンプリングに対する目標値であり、Nk_eoEstは、n回目のサンプリングにおける予測値とできる。
【0029】
αk_nは、
αk_n=Ak・exp(−λk×n) (5)
で表すことができる。
k:何番目のピークまたはボトムかを表す整数
k:第1振動抑制因子(ゼロ以外の定数)
λk:第2振動抑制因子(ゼロ以外の正の定数)
n:何番目のサンプリングかを示す整数
【0030】
(5)式では、αk_nを係数が負の指数関数としたが、前述したように、適宜の減衰関数(たとえば、傾斜が負の一次関数、複数段階で減衰する階段関数等、指数関数を線形近似した関数)とすることができる。Akは、抑制対象となるボトムまたはピークを抑制するための因子(定数)とすることができるし、λkは、その次以降のピークまたはボトムを減衰させるための因子(正の定数)とすることができる。
【0031】
合成制御信号生成部17は、フィードバック制御部15からの第1時間量と機械学習制御部16からの第2時間量との差分、
k_Ton_B−Nk_Ton_A,n
を求め、この差分に基づく値を合成制御信号生成部17に送出する。なお、本実施形態では、上記の差分に、オフセット(バイアス分Nk_bias)を付加しており、合成制御量Nk_Ton_nは、
k_Ton_n=Nk_bias+Nk_Ton_B−Nk_Ton_A,n
である。なお、
本実施形態では、Nk_bias−Nk_Ton_A,nをNk_Ton_Bのバイアスと考えることもできる。
本実施形態では、駆動回路3は、所定の周期でオンしている。カウンタ18は、上記の合成制御量Nk_Ton_nの計数を行いカウントアップしたときにスイッチオフのタイミングのための信号(タイミング指令値:時間信号TON)を駆動回路3に送出する。
【0032】
データポイントの個数はたとえばスイッチング周波数に対応して1000とした場合、学習データを使用している逆伝播アルゴリズムを伴う繰り返し(この場合、1000回)の後、n番目のenの予測値Nk_eoEstが得られ、この後に、第2時間量Nk_Ton_Bが得られる。
【0033】
負荷が急変した場合の出力変化検出部13の処理を図5(A)に示す。
機械学習制御部16は、出力電圧eo,出力電流io,入力電圧eiに対応するディジタル信号Eeo,出力電流Ees,入力電圧Eeiを取得するものとする。
そして、機械学習制御部16は、ディジタル信号Eeo,Ees,Eeiを取得すると、負荷抵抗Rの変化状態を、入力電圧のディジタル値Eeiの関係において測定する。すなわち、入力電圧eiが何ボルトのときに、負荷抵抗Rが何オームから何オームに変化したかが測定される。
この測定結果と同様の変化状態を、機械学習情報記憶部14内でサーチする(S110)。たとえば、入力電圧eiがEx(Ex:電圧値)のときに、負荷抵抗RがRx1からRx2(Rx1,Rx2:抵抗値)に変化した場合、この変化状態が機械学習情報記憶部14に記憶されているか否かをサーチする。
【0034】
なお、S230において、同一ではないが似ている変化状態を「同様の変化状態」とすることができる。「同様の変化状態」とする基準は、適宜定義でき、たとえば、入力電圧eiがExのときに、抵抗値RがRx1からRx2に変化した場合、この変化状態は、入力電圧eiが(1±0.2)×Exボルトの範囲内にあり、抵抗値Rが(1±0.2)×Rx1の範囲内から(1±0.2)×Rx2の範囲内に変化した場合の変化状態と「同様の変化状態」であるとすることができる。
【0035】
そして、同様の変化状態についての機械学習情報(予測値Nk_eoEST等)が機械学習情報記憶部14内に既にあるとき(S120の「YES」)は、図5(B)に示すように、機械学習制御部16は、機械学習情報記憶部14から予測値Nk_eoESTを呼び出し(S210)、目標値Nk_eo*と予測値Nk_eoESTとから第2時間量Nk_Ton_Bを計算する(S220)。そして、計算した第2時間量Nk_Ton_Bを合成制御信号生成部17に渡す(S230)。
【0036】
以下、出力電圧eoと出力電流ioと入力電圧esとより予測を行う場合の機械学習制御部16の処理を図6により説明する。
機械学習制御部16は、該当する変化状態が機械学習情報記憶部14にないとき(図7のS310の「NO」)は、1つ目のピークまたはボトムを抑制するための機械学習情報を作成し、機械学習情報記憶部14に記録する(S340)。
機械学習制御部16は、該当する変化状態が機械学習情報記憶部14にあるとき(S310の「YES」)は、機械学習がさらに必要かを判断し(たとば、図5(B)に示した制御処理が満足できる結果であった場合)、必要でないとき(S320の「NO」)には機械学習処理を終え、機械学習はしない。また、機械学習がさらに必要であるとき(S320の「YES」)には、すでに抑制制御がなされているピークまたはボトムのうち、最後のピークまたはボトムの次のピークまたはボトムを抑制するための機械学習情報を作成し、機械学習情報記憶部14に記録し(S330)、処理を終える。
【0037】
また、「同様の変化状態」が機械学習情報記憶部14内にあるとき(S120の「YES」)であっても、適宜の類似範囲から外れるとき(たとえば、変化電圧の変化前の値および/または変化後の値が、たとえば5パーセント以上10パーセント未満の範囲にあるとき)は、このときの変化状態と予測値を機械学習情報記憶部14に格納することができる。
【0038】
本実施形態でも、予測値Nk_eoESTは、具体的には、ニューロ理論により決定できる。たとえば、負荷抵抗Rにある変化が生じたとする。今回は、負荷抵抗Rの変化状態およびそのときのディジタル信号Eeoの変化状態を観察して、最適だったであろう予測値Nk_eoESTを計算する。
【0039】
すなわち、機械学習制御部12は、一回の変化が起きてから収束するまでの変化の状況を学習したので、次回はそれを抑えるようにフィードフォワード的に働いている。ただ、その場合もフィードバック制御部15が、負荷Rの変化だけでなくフィードフォワード的な変化にも併せて対応するように働くので、指数関数的に急速にフィードフォワードの動きを減衰させている(前述の式(5)参照)。
【0040】
本実施形態では、機械学習機能を使って(たとえば、ニューロ制御の場合にはニューラル・ネットワークを使って)動作の予測値を生成ことで、出力電圧のピークやボトムが低減される。そして、この予測値を記憶しておき、式(2)のように、出力電圧との差を取り、それを式(3)で修正することですぐれた過渡特性が実現できる。
従って、1度目は学習するだけであるが、2度目にその現象が起きた場合は学習結果に基づき予測し、さらに式(3)で補正して優れた過渡特性を実現している。
【0041】
ここでは、負荷28の抵抗値Rをステップ変化前と変化後に検出して、その組み合わせに対応した学習・予測をメモリに蓄え、それに基づいて補正を行う。そして、(1)式に示すように、フィードバック分は従来のフィードバック制御で賄い、フィードフォワード分(Nk_Ton_1)相当を学習・予測・補正で賄っている。
【0042】
負荷にある状態変化が、初めて生じたときは、図8(A)の下グラフに示すように、1つ目のピークまたはボトム(この例ではではボトム)について機械学習なしの制御(フィードバック制御のみの制御)を行うとともに、図8(A)の上グラフに示すように、状態変化以降について機械学習を行う。この機械学習により、図8(B)のグラフに示すような合成制御信号が生成される。
【0043】
負荷に前記と同じ状態変化が、2回目に生じたときは、図9(A)の下グラフに示すように(すなわち、図8(B)に示したように)、2つ目のピークまたはボトム(この例ではではピーク)について機械学習に基づく制御(フィードバック制御および機械学習制御)を行うとともに、図9(A)の上グラフに示すように、2つ目のピークまたはボトム(この例ではではボトム)について機械学習を行う。この機械学習により、図9(B)のグラフに示すような合成制御信号が生成される。
【0044】
負荷に前記と同じ状態変化が、3回目に生じたときは、図10(A)の下グラフに示すように(すなわち、図9(B)に示したように)、3つ目のピークまたはボトム(この例ではではピーク)について機械学習に基づく制御(フィードバック制御および機械学習制御)を行うとともに、図10(A)の上グラフに示すように、3つ目のピークまたはボトム(この例ではではピーク)について機械学習を行う。この機械学習により、図10(B)のグラフに示すような合成制御信号が生成される。
【0045】
負荷に前記と同じ状態変化が、4回目に生じたときは、図11の下グラフに示すように(すなわち、図10(B)に示したように)、4つ目のピークまたはボトム(この例ではではピーク)について機械学習に基づく制御(フィードバック制御および機械学習制御)を行う。ここでは、機械学習制御により満足できる制御が行われていると判断され、4回目の機械学習は行わない。
4回目の機械学習を行わない判断に関する情報は、機械学習制御部12が、機械学習記憶部14内の記憶領域内にフラグとして記憶することができる。
【0046】
図12(A),(B)は、図8(A),(B)に対応する実験例を示す図であり、1回目の学習によりオーバーシュートが1.7%から0.9%、アンダーシュートが4.2%から3.3%に改善された例を示している。なお、ここでのPID制御のパラメータは、KP=5,KI=0.022,KD=2である。
図13(A),(B)は、図9(A),(B)に対応する実験例を示す図であり、2回目の学習では1回目の学習結果と比較して、オーバーシュートが0.9%から0.5%、収束時間tstが2.1msから1.7msに改善された例を示している。2回目の学習では1回目の学習結果と比較して、オーバーシュートが0.9%から0.5%、収束時間tstが2.1msから1.7msに改善されている。なお、1回目の制御におけるA,λは、A=100,λ=0.2である。
図14(A),(B)は、図10(A),(B)に対応する実験例を示す図であり、3回目の学習では2回目の学習結果と比較して、収束時間tstが1.7msから0.6msに改善されている。なお、2回目の制御におけるA,λは、A=120,λ=0.1である。
さらに、図15は、図11に対応する実験例を示す図である。なお、3回目の制御におけるA,λは、A=350,λ=0.2である。
【0047】
上記の実施形態では、負荷に同じ状態変化が生じたときには、1回で1つのピークまたはボトムについての抑制処理をしたが、たとえば、図7のフローチャートに示すように、複数回の状態変化が生じたときに、1つのピークまたはボトムについて、複数回の再学習を行うようにできる。
図7では、負荷変化についての機械学習情報が既に存在するか判断し(S410)、存在しない場合には、1つ目のピークまたはボトムを抑制するための機械学習情報を作成し、機械学習情報記憶部14に記録する(S460)。
また、負荷変化についての機械学習情報が既に存在する場合には、機械学習がさらに必要か判断し(S420)、必要でないときは学習処理を終了する。
機械学習が更に必要なときは、最後に処理したピークまたはボトムを抑制するために更に機械学習するか否かを判断する(S430)。
機械学習する場合には、すでに抑制制御がなされているピークまたはボトムを抑制するための機械学習情報を再度作成し、機械学習情報記憶部14に記録するし(S440)、機械学習しない場合には、すでに抑制制御がなされているピークまたはボトムのうち、最後のピークまたはボトムの次のピークまたはボトムを抑制するための機械学習情報を作成し、機械学習情報記憶部14に記録する(S450)。
【0048】
図16は、本発明の制御装置が適用されるDC/DCコンバータを示す他の実施形態を示す模式図である。
図16において、DC/DCコンバータ2は、スイッチ回路22と、トランス23と、整流器24と、平滑用インダクタ25(Lo)と、出力キャパシタ26(Co)からなる。平滑用インダクタ25には直列にインダクタ電流検出用抵抗rLが接続され、出力キャパシタ26にはキャパシタ電流検出用抵抗rCが直列接続され、負荷28には直列に出力電流検出用抵抗27(rs)が接続されている。
【0049】
また、DC/DCコンバータ2の入力側には、直流電源21が接続され、出力側には負荷28(R)が接続されている。図16では直流電源21は便宜上バッテリーで示してあるが直流供給端子であってもよく、負荷28は直流抵抗Rで示してあるが交流抵抗(インピーダンス)であってもよい。なお、図16では、rs,rL,rcは、省かれることがあるので、シンボルを破線で示してある。
【0050】
図16では、出力電圧eo、および出力電流io(検出値es),入力電圧ei,インダクタ電流iL(検出値eLi),キャパシタ電流iC(検出値eCi)の少なくとも1つが外部同期選択式の制御装置1Bに送出され、制御装置1Bは駆動回路3に、スイッチ回路22のスイッチをオンするタイミング指令値(時間信号Tk_ON,n)を送出する。
このタイミング指令値は、外部からのクロック信号(外部クロックCKO)に同期する機構を持つ。
【0051】
このため、たとえば、負荷の状態変化の信号の周波数を、外部クロック信号CKOの周波数と同一または、定数倍の周波数とすることにより、スイッチ回路22のスイッチをオンするタイミングを負荷の状態変化と同期することが可能である。
この作用により、DC/DCコンバータのスイッチングノイズのタイミングは、負荷の状態変化に同期した管理ができるため、DC/DCコンバータ2の電磁適合性の外部制御を実現することができる。
【0052】
図17は、図16に示した制御装置1Bの概略を示す図である。
制御装置1Bは、プリアンプ11と、A/Dコンバータ12と、出力変化検出部13と、機械学習情報記憶部14と、フィードバック制御部15と、機械学習制御部16と、合成制御信号生成部17と、カウンタ18と外部クロック選択部19を備えている。
【0053】
プリアンプ11は、出力電圧値eo、および出力電流io(検出値es),入力電圧ei,インダクタ電流iL(検出値eLi),キャパシタ電流iC(検出値eCi)の少なくとも1つを入力し、これらを増幅して、eeo、およびees,eei,eeLi,eeCiとして出力する。A/Dコンバータ12はこれらの出力値をそれぞれディジタル信号Eeo,Ees,Eei,EeLi,EeCiに変換する。
なお、図17では、rs,rL,rcは省かれることがあるので、シンボルを破線で示し、ディジタル信号Ees,Eei,EeLi,EeCiは省かれることがあるので、データの流れを意味する矢印を破線で示してある。
【0054】
出力変化検出部13は、出力電圧の所定値以上の変化、出力電流の所定値以上の変化、または出力インピーダンスの所定値以上の変化、負荷抵抗あるいは負荷インピーダンスの所定値以上の変化を検出する。機械学習情報記憶部14は、機械学習情報を記憶する。
【0055】
フィードバック制御部15は、ディジタル信号Eeoおよび、Ees,Eei,EeLi,EeCiの少なくとも1つを入力し、フィーバック制御量としてのスイッチングタイミングのための第1時間量Nk_Ton_A,nを生成する(n:何番目のサンプリングかを意味する添え字)。
【0056】
機械学習制御部16は、ニューロ制御部等の機械学習制御部であり、ディジタル信号Eeoおよび、Ees,Eei,EeLi,EeCiの少なくとも1つを入力し、スイッチオフのタイミングのための制御量として、第2時間量Nk_Ton_Bを生成する。
【0057】
なお、第2時間量Nk_Ton_Bは、前記図1の動作説明と同様に、(4)式、
k_Ton_B=αk_n(Nk_eo*−Nk_eoEst) (4)
で表され、たとえば、Nk_eo*は、n回目のサンプリングに対する目標値であり、Nk_eoEstは、n回目のサンプリングにおける予測値とできる。
αnは、(5)式、
αk_n=Ak・exp(−λk×n) (5)
で表すことができる。
合成制御信号生成部17は、フィードバック制御部15からの第1時間量と機械学習制御部16からの第2時間量との差分、
k_Ton_B−Nk_Ton_A,n
を求め、この差分に基づく値を合成制御信号生成部17に送出する。なお、本実施形態でも、上記の差分に、オフセット(バイアス分Nk_bias)を付加しており、合成制御量Nk_Ton_nは、
k_Ton_n=Nk_bias+Nk_Ton_B−Nk_Ton_A,n
である。
【0058】
カウンタ18は、カウントアップしたときに、スイッチ回路22のスイッチをオンするタイミング指令値(時間信号TON)を駆動回路3に送出する。
このカウンタ18のクロック信号は、外部同期信号(CKO)のタイミングに同期した信号を活用するため、タイミング指令値(時間信号TON)の立ち上がり時間は常に、外部同期信号のタイミングと同一もしくは定倍周波数となる。
出力電圧検出値eoにより予測を行う場合の機械学習制御部16の処理は、前記図3に説明したと同じである。
【符号の説明】
【0059】
1 制御装置
2 DC/DCコンバータ
3 駆動回路
11 プリアンプ
12 A/Dコンバータ
13 出力変化検出部
14 機械学習情報記憶部
15 フィードバック制御部
16 機械学習制御部
17 合成制御信号生成部
18 カウンタ
19 クロック選択部
22 スイッチ回路
23 トランス
24 整流器
25 平滑用インダクタ
26 出力キャパシタ
27 電流検出用抵抗
28 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路の出力電圧値、および、出力電流値,入力電圧値,インダクタ電流値,キャパシタ電流値の少なくとも1つをパラメータとして取得して駆動回路にスイッチのオン・オフ信号指令値を送出することで、過渡変化に際して振動応答する出力電圧のピークまたはボトムを抑制するとともに収束時間を短縮するための電力変換回路の制御装置であって、
出力電圧の所定変動幅以上の変化、出力電流の所定変動幅以上の変化、または出力インピーダンスの所定変動幅以上の変化、負荷抵抗あるいは負荷インピーダンスの所定変動幅以上の変化を検出する出力変化検出部と、
制御目標値と制御予測値を機械学習情報として記憶する機械学習情報記憶部と、
前記電力変換回路の前記パラメータから、フィードバック制御量としての第1時間量を生成するフィードバック制御部と、
前記機械学習記憶部に記憶した機械学習制御量としての第2時間量を生成する機械学習制御部と、
前記フィードバック制御部からの第1時間量と前記機械学習制御部からの第2時間量とを合成し、当該合成量をスイッチングタイミングのための時間量として前記駆動回路に送出する合成制御信号生成部と、
を備え、
前記出力変化検出部が前記所定変動幅以上の変化を検出したときは、
前記機械学習制御部は、k番目(kは正の整数)のピークまたはボトムに対して、
前記機械学習情報記憶部に記憶した前記制御目標値と制御予測値との偏差に、
αk_n=fk_n
k_n:減衰関数
k:何番目のピークまたはボトムかを表す整数
n:何番目のサンプリングかを示す整数
の項を含む重み付けをし、またはさらに、この重み付けした値にバイアス分を付与した前記第2時間量を生成する、
ことを特徴とする電力変換回路の制御装置。
【請求項2】
αk_nが、
αk_n=Ak・exp(−λk×n)
k:第1振動抑制因子(ゼロ以外の定数)
λk:第2振動抑制因子(ゼロ以外の正の定数)
n:何番目のサンプリングかを示す整数
で表されることを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項3】
前記機械学習情報記憶部は、前記制御目標値および前記制御予測値のほか、前記第2時間量の算出値、前記第2時間量の算出開始条件、前記パラメータを記憶することを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項4】
同一の前記所定変動幅以上の変化があったときは、直ちに次のピークまたはボトムの抑制処理に移行せずに、同一のピークまたはボトムに対して、複数回の機械学習を行うことを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項5】
同一の前記所定変動幅以上の変化があったときは、直ちに次のピークまたはボトムの抑制処理に移行せずに、同一のピークまたはボトムに対して、複数回の機械学習を行うことを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【図17】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−213258(P2012−213258A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76908(P2011−76908)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】