説明

電力変換装置システム

【課題】DC/DC変換回路のスイッチング制御の切替動作を安定させることである。
【解決手段】電力変換装置システム10は、モータジェネレータ30の回生エネルギを、インバータ20を介して蓄電可能な高圧用蓄電装置15と、高圧用蓄電装置15とインバータ20との間に設けられ、スイッチング制御がなされることにより低圧用蓄電装置50に蓄電するための電力変換を行うDC/DCコンバータ40と、過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて求めた判定値が閾値S1よりも大きくなるときにDC/DCコンバータ40の動作を停止し、DC/DCコンバータ40の動作の停止後、判定値が閾値S1〜閾値S2の範囲内においてDutyを通常時よりも小さくする低電圧制御を行う制御装置100と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧用蓄電装置と回転電機を備えるハイブリッド車や電気自動車は、高圧用蓄電装置の電力を用いて力行するだけでなく、回生の際に生じる回生エネルギを、インバータを介して高圧用蓄電装置に充電することがある。そして、高圧用蓄電装置と回転電機との間には、高圧用蓄電装置の電力を低圧用蓄電装置に蓄電するために必要な電力変換を行うDC/DC変換回路が設けられている。このような、ハイブリッド車や電気自動車において、タイヤが空転(スリップ)している状態であると判断されたときは、回転電機のトルク制限等が行なわれている。
【0003】
本発明に関連する技術として、例えば、特許文献1には、駆動輪に接続された駆動軸への動力の出力により走行可能な車両であって、蓄電装置の電圧を所望の電圧に変換する電圧変換手段と、該電圧変換手段により変換された電圧の電力の供給を受けて駆動軸に動力の出力が可能な電動機と、駆動輪の空転によるスリップを検出するスリップ検出手段とを備える車両が開示されている。そして、該スリップ検出手段によりスリップが検出されたとき、該検出されたスリップを収束可能に駆動軸に出力されるトルクが制限されるよう電動機を駆動制御するトルク制限制御手段と、該トルク制限制御手段によるトルクの制限に基づいて、該制限を解除する際の初期トルクを設定する初期トルク設定手段を備えることが開示されている。さらに、検出されたスリップが収束したとき、設定された初期トルクをもって駆動軸に出力されるトルクの制限が解除されるよう電動機を駆動制御するトルク制限制御手段と、を備えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−51850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなハイブリッド車や電気自動車において、タイヤが空転した後に、当該タイヤが路面を掴んだ場合(いわゆるスリップグリップとなった場合)に、大きな回生エネルギが高圧用蓄電装置側へ送られるため、DC/DC変換回路への入力電圧等に求められた演算値が所定の閾値を超えるとDC/DC変換回路は自己保護のために停止する。そして、上記回転電機のトルク制限により当該演算値が閾値より小さくなるとDC/DC変換回路は復帰する。ところで、大きな回生エネルギによって急上昇した電圧はハンチングしてしまうことがあり、閾値の境界付近における不安定な電圧範囲においてDC/DC変換回路を通常通り復帰させると、DC/DC変換回路は、停止、復帰、停止、復帰・・・と動作状態の変化を繰り返してしまう可能性がある。これにより、ハイブリッド車や電気自動車のランプの明滅を発生させる可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、DC/DC変換回路のスイッチング制御の切替動作を安定させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電力変換装置システムは、回転電機の回生エネルギを、インバータを介して蓄電可能な第1蓄電装置と、前記第1蓄電装置と前記インバータとの間に設けられ、スイッチング制御がなされることにより第2蓄電装置に蓄電するための電力変換を行う電力変換回路と、前記電力変換回路への入力電圧をVinとし、前記電力変換回路の前記スイッチング制御のデューティ比をDutyとした場合に前記電力変換回路を保護するための判定式である過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて求めた演算値が過電圧判定用閾値よりも大きくなるような前記回生エネルギが生成されたときに前記電力変換回路の動作を停止し、前記電力変換回路の動作の停止後、前記演算値が前記過電圧判定用閾値よりも小さい所定の範囲内において前記Dutyを通常時よりも小さくする低電圧制御を行う制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る電力変換装置システムにおいて、前記電力変換装置システムが前記回転電機を用いて走行する車両に設けられる場合に、前記Dutyは前記車両が自走するために必要な最低電圧を前記電力変換回路から出力するための値であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、電力変換回路の動作の停止後、演算値が過電圧判定用閾値よりも小さい所定の範囲内においてDutyを通常時よりも小さくするように低電圧制御が行われる。これにより、スリップグリップ等の不安定な電圧範囲において、判定式を用いた求めた演算値を通常時よりも小さくすることができる。したがって、当該不安定な電圧範囲内において再び電力変換回路が過電圧と判断されて動作が停止してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施の形態において、電圧変換装置システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、DC/DCコンバータのスイッチング制御を切り替える手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る実施の形態において、DC/DCコンバータのスイッチング制御を切り替える様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0012】
図1は、電力変換装置システム10の構成を示す図である。電力変換装置システム10は、電力変換装置70と制御装置100とを備える。
【0013】
電力変換装置70は、高圧用蓄電装置15と、インバータ20と、モータジェネレータ30と、DC/DCコンバータ40と、低圧用蓄電装置50と、自走用制御部60とを備える。
【0014】
高圧用蓄電装置15は、モータジェネレータ30に電力を供給するためのバッテリである。また、高圧用蓄電装置15は、充放電可能な直流電源であって、例えば、炭素物質で構成された負極と、リチウムイオンが移動するための電解液と、リチウムイオンを可逆的に出し入れできる正極活物質とを有するリチウムイオン二次電池を用いることができる。
【0015】
インバータ20は、ハイブリッド車の力行時には高圧用蓄電装置15の出力電圧である直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ30に供給し、これによりモータジェネレータ30が回転駆動される。また、インバータ20は、ハイブリッド車の回生時にはモータジェネレータ30で発電された回生エネルギである交流電圧を直流電圧に変換して高圧用蓄電装置15に供給し、これにより高圧用蓄電装置15が回生エネルギを充電する。
【0016】
モータジェネレータ30は、それぞれU相コイルとV相コイルとW相コイルとを含んで構成される三相交流回転電機(負荷回路)である。また、モータジェネレータ30には、図示しない動力分配機構を介して、ハイブリッド車のタイヤ5が接続されている。
【0017】
DC/DCコンバータ40は、メインバッテリである高圧用蓄電装置15の出力電圧を補機バッテリである低圧用蓄電装置50の充電電圧に降圧する機能を有する。
【0018】
低圧用蓄電装置50は、メインバッテリである高圧用蓄電装置15の出力電圧よりも低い電圧を出力する補機バッテリであり、DC/DCコンバータ40によって降圧された電圧によって充電されている。
【0019】
自走用制御部60は、電力変換装置システム10が搭載されるハイブリッド車が走行するために最低限必要な制御を行なう機能を有する。ここで最低限必要な制御とは、ハイブリッド車が、前進、後退、曲がるといった基本動作を可能とするために必要な制御をいい、オーディオ機能やエアコン機能等といった付随的な機能までは含まない状態をいう。
【0020】
制御装置100は、電力変換装置70全体を制御する機能を有する。例えば、インバータ20及びDC/DCコンバータ40に含まれるスイッチング素子のスイッチング制御を行う機能を有する。ここで、上記スイッチング制御のうち、DC/DCコンバータ40に含まれるスイッチング素子のスイッチング制御のデューティ比をDutyとする。
【0021】
また、DC/DCコンバータ40の入力電圧をVinとしたときに、制御装置100はVinとDutyとの値を常時取得し、当該VinとDutyの値に基づいて、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御の状態を切り替える機能を有する。具体的には、制御装置100は、DC/DCコンバータ40を保護するための判定式である過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて判定値を演算する。そして、判定値が所定の閾値S1以上のときは、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を停止する。すなわち、Dutyを0とする。ここで、閾値S1とは、DC/DCコンバータ40の入力電圧Vinが過電圧範囲であると判断するために予め求められた閾値である。
【0022】
そして、判定値が閾値S1以上となって、DC/DCコンバータ40が停止となった後に、モータジェネレータ30のトルク制限等により上記判定値が下がって閾値S1未満となったときに、制御装置100は、通常時よりも低いDutyでDC/DCコンバータ40のスイッチング制御を行う。例えば、通常時のDutyの50〜60%でスイッチング制御を行う。すなわち、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を低電圧制御で行う。ここで、低電圧制御におけるDutyは、ハイブリッド車を走行させるために最低限必要な制御(上述)を自走用制御部60が行うことが可能な程度の電圧がDC/DCコンバータ40から出力されるように求められたデューティ比である。
【0023】
制御装置100は、上記のように、判定値が所定の閾値S1以上となってDC/DCコンバータ40を停止した後に上記判定値が閾値S1未満となってから閾値S2となるまでの間は低電圧制御を行うが、上記判定値が閾値S2未満では、通常通りのスイッチング制御を行う。すなわち、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を通常制御で行う。ここで、通常制御におけるDutyは、上記ハイブリッド車を走行させるために最低限必要な制御(上述)とは異なり、前進、後退、曲がるといった基本的機能だけでなく、オーディオ機能やエアコン機能等といった付随的な機能を含めたハイブリッド車の各機能を実現させるように図示しない制御手段によって制御可能な電圧がDC/DCコンバータ40から出力されるように求められたデューティ比である。なお、閾値S2とは、DC/DCコンバータ40の入力電圧Vinが、タイヤ5のスリップグリップにより急上昇した入力電圧Vinがハンチングした場合に影響を受けない程度の常用電圧範囲であると判断するために予め求められた閾値である。
【0024】
続いて、電力変換装置システム10の動作について図1〜図3を用いて説明する。図2は、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を切り替える手順を示すフローチャートである。図3は、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を切り替える様子を示す図である。電力変換装置システム10において、制御装置100は、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を通常制御で行っている(S10)。すなわち、DC/DCコンバータ40を通常通りのDutyで作動させている。
【0025】
次に、S12において、DC/DCコンバータ40への入力電圧Vinが過電圧範囲であるか否かを判断する(S12)。具体的には、DCコンバータ40を保護するための判定式である過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて求めた判定値が閾値S1以上となったときに過電圧範囲内であると判定する。すなわち、過電圧が発生したと判定する。S12において、当該判定値が閾値S1未満で過電圧範囲外、すなわち過電圧が発生していないと判定したときは、再びS10へと戻る。
【0026】
そして、S12において、過電圧が発生したと判定したときは、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御のDutyを0として、DC/DCコンバータ40を停止する(S14)。
【0027】
S14の工程において、DC/DCコンバータ40を停止させた後に、過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて求めた判定値が閾値S1以上であるか否かを判断する(S16)。S16において、当該判定値が閾値S1以上であり、Vinの電圧状態が、まだ過電圧範囲内であると判断したときは、再びS14へと戻る。
【0028】
S16において、当該判定値が下がって閾値S1未満となり、Vinの電圧状態が不安定な電圧範囲内であると判断したときは、通常時よりも低いDutyでDC/DCコンバータ40のスイッチング制御を行う(S18)。例えば、通常時のDutyの50〜60%の値を設定した低電圧制御を行う。
【0029】
S18の後は、DC/DCコンバータ40への入力電圧Vinが常用電圧範囲内か否かを判断する(S20)。具体的には、過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて求めた判定値が閾値S2未満であるか否かを判断する。S20において、当該判定値が閾値S2以上であり、まだ、Vinの電圧状態が、不安定な電圧範囲内にあると判断したときは、再びS18へと戻る。
【0030】
S20において、当該判定値が閾値S2未満であり、Vinの電圧状態が、常用電圧範囲内であると判断したときは、リターン処理を介し、再びS10において、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を通常制御で行う。このように、電力変換装置システム10によれば、DC/DCコンバータ40への入力電圧Vinが過電圧範囲(判定値が閾値S1以上)内においては、DC/DCコンバータ40の動作を停止する。そして、一旦DC/DCコンバータ40の動作を停止した後にDC/DCコンバータ40の動作を復帰させる場合において、当該入力電圧Vinが不安定な電圧範囲(判定値が閾値S2以上閾値S1未満)内においては、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を低電圧制御とする。さらに、その後に、当該入力電圧Vinが常用電圧範囲(判定値が閾値S2未満)内となったときに、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を通常制御とする。すなわち、最初に入力電圧Vinが過電圧範囲内であると判断されるまでは、図3のBで示されるように、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を行う。そして、一旦DC/DCコンバータ40を停止させてから復帰させるまでは、図3のCで示されるように、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御を行う。なお、図3のAにおいて、DC/DCコンバータ40のスイッチング制御の参考制御例を比較のために示しているが、この参考制御例のままであると、タイヤ5のスリップグリップにより急上昇した電圧がハンチングした場合にDC/DCコンバータ40が停止、復帰、停止、復帰・・・と繰り返してしまう可能性がある。
【0031】
しかしながら、電力変換装置システム10では、上記のように、DC/DCコンバータ40を復帰させる場合に、不安定な電圧範囲において、Dutyを通常時よりも低い値としているため、判定値を下げることができる。つまり、過電圧範囲であると判定させることを抑制することができる。これにより、タイヤ5のスリップグリップが発生し、過電圧範囲と不安定な電圧範囲との間を行き来するような電圧のハンチングが発生した場合であっても、DC/DCコンバータ40を安定して復帰させることができる。
【符号の説明】
【0032】
5 タイヤ、10 電力変換装置システム、15 高圧用蓄電装置、20 インバータ、30 モータジェネレータ、40 コンバータ、50 低圧用蓄電装置、60 自走用制御部、70 電力変換装置、100 制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回生エネルギを、インバータを介して蓄電可能な第1蓄電装置と、
前記第1蓄電装置と前記インバータとの間に設けられ、スイッチング制御がなされることにより第2蓄電装置に蓄電するための電力変換を行う電力変換回路と、
前記電力変換回路への入力電圧をVinとし、前記電力変換回路の前記スイッチング制御のデューティ比をDutyとした場合に前記電力変換回路を保護するための判定式である過電圧判定式(Vin/(1−Duty))を用いて求めた演算値が過電圧判定用閾値よりも大きくなるような前記回生エネルギが生成されたときに前記電力変換回路の動作を停止し、前記電力変換回路の動作の停止後、前記演算値が前記過電圧判定用閾値よりも小さい所定の範囲内において前記Dutyを通常時よりも小さくする低電圧制御を行う制御部と、
を備えることを特徴とする電力変換装置システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置システムにおいて、
前記電力変換装置システムが前記回転電機を用いて走行する車両に設けられる場合に、前記Dutyは前記車両が自走するために必要な最低電圧を前記電力変換回路から出力するための値であることを特徴とする電力変換装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−186898(P2012−186898A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47215(P2011−47215)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】