説明

電力変換装置及び電源供給装置

【課題】電力変換装置における電流測定器の数を低減することのできる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】電力変換装置は、主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路を有し、補助スイッチング素子のスイッチングによって、主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、主リアクトルに流れる電流である主リアクトル電流を測定する電流測定器と、測定された主リアクトル電流に基づいて、ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出する演算部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置及び電源供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置には、電力損失の低減のためにソフトスイッチング方式によるチョッパ回路が用いられている。このようなチョッパ回路は、主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とを備える。ソフトスイッチング方式による電力変換装置に関する技術としては、例えば、下記特許文献1の技術が知られている。
【0003】
ソフトスイッチング方式による電力変換装置では、補助回路に流れる電流の影響により、チョッパ回路に供給される電源電流と、主リアクトルを流れる電流とが異なる。したがって、それぞれの電流を測定しようとすると、電流測定器の数が多くなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−283815号公報
【特許文献2】特開2008−104252号公報
【特許文献3】特開2008−131787号公報
【特許文献4】特開2008−042983号公報
【特許文献5】特開2006−217759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、電力変換装置における電流測定器の数を低減することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1]
電力変換装置であって、
主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路を有し、前記補助スイッチング素子のスイッチングによって、前記主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、
前記主リアクトルに流れる電流である主リアクトル電流を測定する電流測定器と、
前記測定された主リアクトル電流に基づいて、前記ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出する演算部と
を備える電力変換装置。
この構成によれば、演算部が、測定された主リアクトル電流に基づいて、ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出するので、ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を測定するための電流測定器を省略することができる。したがって、電力変換装置における電流測定器の数を低減することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の電力変換装置であって、
前記ソフトスイッチングコンバータは、前記チョッパ回路を複数有し、
前記電流測定器は、前記各チョッパ回路にそれぞれ設けられており、
前記各チョッパ回路の電流測定器は、前記各チョッパ回路における主リアクトル電流をそれぞれ測定し、
前記演算部は、前記測定された各チョッパ回路における主リアクトル電流に基づいて、前記ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出する
電力変換装置。
この構成によれば、演算部が、測定された各チョッパ回路における主リアクトル電流に基づいて、ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出するので、ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を測定するための電流測定器を省略することができる。したがって、電力変換装置における電流測定器の数を低減することができる。
【0009】
[適用例3]
電力変換装置であって、
主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路をN相(Nは2以上の整数)有し、前記補助スイッチング素子のスイッチングによって、前記主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、
前記ソフトスイッチングコンバータに供給される電流である供給電流を測定する電流測定器と、
前記N相のチョッパ回路のうち1つの特定のチョッパ回路を除く各チョッパ回路にそれぞれ設けられ、前記各チョッパ回路における主リアクトルに流れる電流である主リアクトル電流をそれぞれ測定するN−1個の電流測定器と、
前記測定された供給電流と前記測定された各チョッパ回路における主リアクトル電流とに基づいて、前記特定のチョッパ回路における主リアクトル電流を算出する演算部と
を備える電力変換装置。
この構成によれば、演算部が、測定された供給電流と測定された主リアクトル電流とに基づいて、特定のチョッパ回路における主リアクトル電流を算出するので、特定のチョッパ回路における主リアクトル電流を測定するための電流測定器を省略することができる。したがって、電力変換装置における電流測定器の数を低減することができる。
【0010】
[適用例4]
電力変換装置であって、
主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路を複数有し、前記補助スイッチング素子のスイッチングによって、前記主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、
前記チョッパ回路に供給される電流である供給電流を測定する電流測定器と、
前記測定された供給電流に基づいて、前記各チョッパ回路における主リアクトルに流れる電流を算出する演算部と
を備える電力変換装置。
この構成によれば、演算部が、測定された供給電流に基づいて、各チョッパ回路における主リアクトルに流れる電流を算出するので、各チョッパ回路における主リアクトルに流れる電流を測定するための電流測定器を省略することができる。したがって、電力変換装置における電流測定器の数を低減することができる。
【0011】
[適用例5]
電源供給装置であって、
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の電力変換装置と、
前記電力変換装置に対して直流電力を供給する燃料電池と
を備え、
前記電力変換装置は、前記燃料電池から供給された直流電力の電圧を変換し、前記電圧が変換された直流電力を負荷に対して出力するDC/DCコンバータである
電源供給装置。
この構成によれば、燃料電池を備えた電源供給装置において、電流測定器の数を低減することができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、電力変換システム、電流測定器を低減する方法、電力変換装置の機能を実現するための集積回路、コンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例として車両に搭載された燃料電池システム10の構成を説明する説明図である。
【図2】ソフトスイッチングコンバータ50の回路構成を示す説明図である。
【図3】ソフトスイッチング処理を説明する状態遷移図である。
【図4】ソフトスイッチング処理における初期状態を説明する説明図である。
【図5】ソフトスイッチング処理におけるモード1を説明する説明図である。
【図6】ソフトスイッチング処理におけるモード2を説明する説明図である。
【図7】ソフトスイッチング処理におけるモード3を説明する説明図である。
【図8】ソフトスイッチング処理におけるモード4を説明する説明図である。
【図9】ソフトスイッチング処理におけるモード5を説明する説明図である。
【図10】ソフトスイッチング処理におけるモード6を説明する説明図である。
【図11】ゲート信号S1,S2及びソフトスイッチングコンバータ50における各種の電流値の変化を示すタイミングチャートである。
【図12】リアクトルL2に流れる電流IL2の変化を拡大して示す説明図である。
【図13】昇圧比(Vout/Vin)が2未満の場合におけるIL2avgの算出方法を示す説明図である。
【図14】第2実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50bの回路構成を示す説明図である。
【図15】第3実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50cの回路構成を示す説明図である。
【図16】第4実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50dの回路構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
A.第1実施例:
A1.燃料電池システムの構成:
図1は、第1実施例として車両に搭載された燃料電池システム10の構成を説明する説明図である。本実施例においては、車両の一例として、燃料電池自動車(FCHV: Fuel Cell Hyblid Vehicle)を想定しているが、電気自動車やハイブリッド自動車にも適用可能である。
【0015】
燃料電池システム10は、制御ユニット20と、電源装置30と、負荷LOADとを備える。電源装置30は、負荷LOADに対して直流電力を供給する。負荷LOADは、主に車両走行用モータであり、その他の負荷としては、周辺機器(照明やオーディオ等)がある。これらの負荷には直流で動作する負荷や、インバータを介して交流で動作する負荷等が含まれる。電源装置30と制御ユニット20とはワイヤーハーネスWHによって接続されている。制御ユニット20は、例えば車両が走行中であれば、ドライバーのアクセル操作に基づいて、車両走行用モータに必要なパワーを演算し、演算結果に応じて電源装置30から負荷LOADに出力する電力を制御する。電源装置30は、燃料電池FCと、ソフトスイッチングコンバータ50と、電圧測定器55と、電流測定器60とを備える。
【0016】
燃料電池FCは、供給される燃料ガス(例えば水素ガス)及び酸化ガスから電力を発生する発電方式を採用しており、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)などを備えた単セルを複数、直列に積層したスタック構造を有している。燃料電池FCとしてはこういった固体高分子型をはじめ、燐酸型や溶融炭酸塩型など種々のタイプの燃料電池を利用することができる。
【0017】
ソフトスイッチングコンバータ50は、燃料電池FCから供給される直流電力の電圧を昇圧するDC/DCコンバータ(昇圧コンバータ)である。ソフトスイッチングコンバータ50は、後述するスイッチング素子S1およびスイッチング素子S2を備えており、スイッチング素子S1,S2のスイッチング動作によって負荷LOADに供給する電力を制御するチョッパ回路によって構成されている。
【0018】
電圧測定器55及び電流測定器60は、ソフトスイッチングコンバータ50の所定の電圧値および電流値をそれぞれ常時測定しており、その値をリアルタイムで制御ユニット20に送信している。
【0019】
制御ユニット20は、内部にCPU、RAM、ROMを備えたマイクロコンピュータとして構成されている。制御ユニット20は、ソフトスイッチングコンバータ50が備えるスイッチング素子S1およびスイッチング素子S2のスイッチングのタイミングを制御するゲート信号を、ソフトスイッチングコンバータ50に向けて出力する。具体的には、スイッチング素子S1のスイッチングのタイミングを制御するS1ゲート信号と、スイッチング素子S2のスイッチングのタイミングを制御するS2ゲート信号とを、ワイヤーハーネスWHを介してソフトスイッチングコンバータ50に向けて出力する。制御ユニット20は、これらのゲート信号を上述した加速度等に基づく演算に応じて出力する。すなわち、制御ユニット20は、ソフトスイッチングコンバータ50にS1ゲート信号およびS2ゲート信号を出力することによって、電源装置30から負荷LOADに供給される電力を制御する。
【0020】
A2.ソフトスイッチングコンバータの構成・動作:
次にソフトスイッチングコンバータ50の構成および動作について説明する。図2は、ソフトスイッチングコンバータ50の回路構成を示す説明図である。ソフトスイッチングコンバータは、回路を構成する補助スイッチング素子(本実施例ではスイッチング素子S2)のスイッチング動作のタイミングを制御することによって、主スイッチング素子(本実施例ではスイッチング素子S1)がスイッチング動作をする際の、主スイッチング素子の両端にかかる電圧を低減し、スイッチング素子S1のスイッチングによる電力損失を低減するソフトスイッチング動作を用いたコンバータである。なお、ソフトスイッチングコンバータの詳細な動作原理については、特開2009−165245において開示されているので、詳しい説明は省略する。
【0021】
ソフトスイッチングコンバータ50は、主回路51と補助回路52とを備えるチョッパ回路で構成されている。主回路51は、リアクトルL1、ダイオードD5、スイッチング素子S1、ダイオードD4、フィルタコンデンサC1、平滑コンデンサC3から構成されている。リアクトルL1は、一端が燃料電池FC(図1)である直流電源Eの正極に接続される。ダイオードD5は、アノードがリアクトルL1の他端に接続されるとともに、カソードが負荷LOADの一端に接続される。スイッチング素子S1は、一端がリアクトルL1の他端に接続されるとともに、他端が直流電源Eの負極、および、負荷LOADの他極に接続され、制御ユニット20から送信されるS1ゲート信号に応じてターンオン・オフ動作をする。本実施例ではスイッチング素子S1は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを用いる。その他、スイッチング素子S1としてはサイリスタ、ダイオード等の半導体素子を用いることもできる。スイッチング素子S1には、ダイオードD4がスイッチング素子S1の保護のために並列に接続される。フィルタコンデンサC1は、直流電源Eの正極−負極間に接続される。平滑コンデンサC3は、負荷LOADに並列に接続される。フィルタコンデンサC1および平滑コンデンサC3は、それぞれ、ソフトスイッチングコンバータ50の入出力を安定化させるものである。
【0022】
一方、補助回路52は、リアクトルL2、ダイオードD1、スイッチング素子S2、ダイオードD2、スナバダイオードD3、スナバコンデンサC2を備える。リアクトルL2は、一端がリアクトルL1の高電位側に接続される。ダイオードD2は、スイッチング素子S2とスナバダイオードD3との間に接続される。スイッチング素子S2は、一端がダイオードD2のアノードに接続され、制御ユニット20から送信されたS2ゲート信号に応じてターンオン・オフ動作する。スナバダイオードD3は、アノードがスイッチング素子S1の一端に接続されるとともに、カソードがスイッチング素子S2に他端に接続される。スナバコンデンサC2は、一端がスナバダイオードD3のカソードに接続されるとともに、他端がスイッチング素子S1に接続される。ダイオードD1は、スイッチング素子S2を保護するために並列に接続されている。スナバダイオードD3およびスナバコンデンサC2は、スイッチング素子S1のオフ時に生じる過渡的な逆起電力を吸収するためのものである。
【0023】
電圧測定器55は、リアクトルL1の両端と、計測用ワイヤーを介して接続されている。電圧測定器55は、リアクトルL1における高電位側の電位であるVinと、リアクトルL1における低電位側の電位であるVoutを常時測定しており、これら2つの値を制御ユニット20へリアルタイムで送信している。なお、Vinは、ソフトスイッチングコンバータ50による昇圧前の電圧を意味し、Voutは、ソフトスイッチングコンバータ50による昇圧後の電圧を意味する。
【0024】
電流測定器60は、リアクトルL1を流れる電流IL1の平均値であるIL1avgを常時測定しており、制御ユニット20へリアルタイムで送信している。
【0025】
本実施例では、制御ユニット20は、測定された3つの値(Vin,Vout,IL1avg)に基づいて、リアクトルL2を流れる電流IL2の平均値であるIL2avgを算出するとともに、燃料電池FCから出力される電流IFCの平均値であるIFCavgを算出する。このため、本実施例では、IFCavgを測定するための電流測定器が省略されている。IL2avg及びIFCavgの算出方法については後述する。
【0026】
制御ユニット20は、算出したIFCavgに基づいて、燃料電池FCの出力の監視及び制御を実行する。また、制御ユニット20は、IL1avgに基づいたフィードバック制御を行なうことで、ソフトスイッチングコンバータ50の出力の応答性を向上させる。なお、後述するように、ソフトスイッチングコンバータ50が複数相のチョッパ回路で構成されている場合には、制御ユニット20は、IL1avgに基づいて、各相の電流を合わせる制御(電流分配)を行ない、各相の負荷を均一にする。
【0027】
次にソフトスイッチングコンバータ50のソフトスイッチング動作について説明する。図3はソフトスイッチングコンバータ50のソフトスイッチング動作による昇圧のための1サイクルの処理(以下、「ソフトスイッチング処理」とも呼ぶ)を説明する状態遷移図である。
【0028】
ソフトスイッチング処理は、状態S101〜S106の各処理が制御ユニット20によって順次行われて1サイクルを形成するが、各処理によるソフトスイッチングコンバータ50での電流、電圧の状態をそれぞれモード1〜モード6として表現し、初期状態を図4に、モード1〜モード6の状態をそれぞれ図5〜図10に示す。以下、これらの図に基づいて、ソフトスイッチングコンバータ50でのソフトスイッチング処理について説明する。図4〜図10においては、図面の表示を簡潔にするため、主回路51と補助回路52の符号の記載は省略しているが、各モードの説明においては、各回路を引用する場合がある。
【0029】
図3に示すソフトスイッチング処理が行われる直前の初期状態(図4参照)は、燃料電池FCから負荷LOADに電力が供給されている状態、即ちスイッチング素子S1、S2がともにターンオフされることで、リアクトルL1、ダイオードD5を介して電流が負荷LOAD側に流れている状態である。従って、当該ソフトスイッチング処理の1サイクルが終了すると、この初期状態と同じ状態に至ることになる。
【0030】
ソフトスイッチング処理(図3参照)において、初期状態からモード1(図5参照)の状態に遷移し、図5に示されるモード1の電流・電圧状態が形成される(状態S101)。具体的には、スイッチング素子S1はターンオフの状態で、スイッチング素子S2をターンオンする。このようにすると、ソフトスイッチングコンバータ50の出口電圧VHと入口電圧VLの電位差によって、リアクトルL1及びダイオードD5を介して負荷LOAD側に流れていた電流が、補助回路52側に徐々に移行していく。
【0031】
モード1の状態が所定時間継続すると、ダイオードD5を流れる電流がゼロとなり、代わってスナバコンデンサC2と燃料電池FCの電圧VLとの電位差により、スナバコンデンサC2に蓄電されていた電荷が補助回路52側に流れ込んでいく(状態S102:図6に示すモード2の状態)。スイッチング素子S1をターンオンするときにスイッチング素子S1に印加される電圧に影響を与えるスナバコンデンサC2の電荷が、モード2では補助回路52のダイオードD2→スイッチング素子S2→リアクトルL2に流れ込むことで、スナバコンデンサC2にかかる電圧が低下していく。このとき、リアクトルL2とスナバコンデンサC2の半波共振により、スナバコンデンサC2の電圧がゼロとなるまで、電流は流れ続ける。スナバコンデンサC2の電荷が、スナバコンデンサC2と並列に接続されているスイッチング素子S1の両端の電圧を決定している。結果として、状態S103(図3)でのスイッチング素子S1のターンオン時には、スイッチング素子S1の両端にかかる印加電圧を下げることが可能となる。
【0032】
更に、状態S103においては、スナバコンデンサC2の電荷が抜け切ったタイミングで、スイッチング素子S1がターンオンされ、図7に示されるモード3の電流・電圧状態が形成される。すなわち、スナバコンデンサC2の電圧がゼロとなった状態ではスイッチング素子S1の両端にかかる電圧もゼロとなる。そして、その状態でスイッチング素子S1をターンオンすることにより、スイッチング素子S1はゼロ電圧の状態であり、その状態から電流が流れ始めるため、スイッチング素子S1におけるスイッチングによる電力損失(以下、「スイッチング損失」とも呼ぶ)を理論上、ゼロになっている。
【0033】
そして、状態S104では、状態S103の状態が継続することで、リアクトルL1に流れ込んでいく電流量を増加させて、リアクトルL1に蓄えられるエネルギを徐々に増やしていく。この状態が、図8に示されるモード4の電流・電圧状態である。その後、リアクトルL1に所望のエネルギが蓄えられた状態で、状態S105において、スイッチング素子S1及びスイッチング素子S2をターンオフする。すると、モード2で電荷を放出して低電圧状態となっているスナバコンデンサC2に電荷が充電され、ソフトスイッチングコンバータ50の出口電圧VHと同電圧に至る。この状態が、図9に示されるモード5の電流・電圧状態である。そして、スナバコンデンサC2が電圧VHになるまで電荷が充電されると、状態S106においてリアクトルL1に蓄えられたエネルギが負荷LOAD側に解放される。この状態が、図10に示されるモード6の電流・電圧状態である。尚、モード4の状態からモード5の状態への遷移の際、スイッチング素子S1,S2のターンオフ時のスイッチング素子S1にかかる電圧を、スナバコンデンサC2により立ち上がりを遅らせられるため、スイッチング素子S1におけるテール電流によるスイッチング損失をより小さくできる。
【0034】
上述のように状態S101〜S106の処理を1サイクルとしてソフトスイッチング処理を行うことで、ソフトスイッチングコンバータ50におけるスイッチング損失を可及的に抑制して、燃料電池FCの出力電圧を昇圧し負荷LOADに供給可能となる。
【0035】
図11は、ゲート信号S1,S2及びソフトスイッチングコンバータ50における各種の電流値の変化を示すタイミングチャートである。S1ゲート信号は、周期Tを1サイクルとして、ターンオンとターンオフとを繰り返す。S2ゲート信号は、S1ゲート信号に先立ってターンオンすることにより、上述したソフトスイッチング処理を実現している。
【0036】
リアクトルL1を流れる電流IL1は、S1ゲート信号のターンオン期間TONにおいて増加し、ターンオフ期間TOFFにおいて減少する。リアクトルL2を流れる電流IL2は、上述したソフトスイッチング処理によって生じる電流であり、燃料電池FCへ回生する。燃料電池FCから出力される電流IFCは、電流IL2が燃料電池FCへ回生するため、電流IL1から電流IL2を減算した波形となっている。したがって、電流IFCの平均値IFCavgは、以下の式(1)を満たす。
【0037】
【数1】

【0038】
上述したように、IL1avgは、電流測定器60によって測定される。本実施例では、制御ユニット20は、測定されたIL1avgに基づいて、IL2avgを算出するとともに、IFCavgを算出する。以下では、IL2avgの算出方法について説明する。
【0039】
図12は、リアクトルL2に流れる電流IL2の変化を拡大して示す説明図である。IL2avgは、以下の式(2)によって算出される。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、Q1,Q2,Q3は1サイクルにおける電荷量[A・s]であり、Tは1サイクルの周期[s]である。Q1,Q2,Q3及びTは、以下の式によって算出することができる。
【0042】
【数3】

【0043】
ここで、fはソフトスイッチングコンバータ50の駆動周波数[Hz]である。換言すれば、fはS1ゲート信号の周波数である。
【0044】
上記式(3),(4),(5)におけるI1,I2,I3及びt1,t2,t3は、以下の式によって算出することができる。
【0045】
【数4】

【0046】
【数5】

【0047】
ここで、Vinはソフトスイッチングコンバータ50による昇圧前の電圧値[V]であり、Voutはソフトスイッチングコンバータ50による昇圧後の電圧値[V]である。上述したように、Vin及びVoutは、電圧測定器55によって測定される。L2はリアクトルL2のインダクタンス[H]であり、C2はスナバコンデンサC2の静電容量(F)であり、ωはリアクトルL2とスナバコンデンサC2による共振周波数[rad/s]である。IL1minはリアクトルL1を流れる電流IL1[A]の最小値である。
【0048】
上記式(7)〜(12)を、式(3)〜(5)に代入すると、Q1,Q2,Q3は、以下の式となる。
【0049】
【数6】

【0050】
なお、ω及びIL1minは、以下の式によって算出することができる。
【0051】
【数7】

【0052】
ここで、ΔIL1はリアクトルL1を流れる電流IL1の振幅(図11)であり、以下の式によって算出することができる。
【0053】
【数8】

【0054】
ここで、L1は、リアクトルL1のインダクタンス[H]であり、DutyはS1ゲート信号のデューティ比である。Dutyは、換言すれば、S1ゲート信号の周期Tに占めるターンオン期間TONの割合であり、Duty=TON/Tである。
【0055】
以上より、式(13)〜(15)を式(2)に代入し、IL1avgを測定すれば、計算によりIL2avgを求めることができる。さらに、式(1)により、IFCavgも求めることができる。本実施例では、電流測定器60がIL1avgを測定し、制御ユニット20がIL2avg及びIFCavgを算出するため、IFCavgを測定するための電流測定器を省略することができる。この結果、電流測定器の数を減らすことができ、部品点数や組付け工数の削減、コストの低減等を実現することができる。
【0056】
なお、ソフトスイッチングコンバータ50による昇圧比(Vout/Vin)が2未満の場合には、上記式(15)のルート内がマイナスの値となる。したがって、昇圧比が2未満の場合は、制御ユニット20は、IL2avgを以下のように算出する。
【0057】
図13は、昇圧比(Vout/Vin)が2未満の場合におけるIL2avgの算出方法を示す説明図である。昇圧比(Vout/Vin)が2未満の場合には、制御ユニット20は、IL2に囲まれた領域を4つに分けて電荷(Q1,Q2,Q3,Q4)を算出し、以下の式によってIL2avgを算出する。
【0058】
【数9】

【0059】
上記式(19)におけるQ1,Q2,Q3,Q4は、以下の式によって算出することができる。
【0060】
【数10】

【0061】
以上のように、昇圧比(Vout/Vin)が2未満の場合であっても、制御ユニット20は、IL2avg及びIFCavgを算出することができるため、IFCavgを測定するための電流測定器を省略することができる。この結果、電流測定器の数を減らすことができ、部品点数や組付け工数の削減、コストの低減等を実現することができる。
【0062】
なお、スイッチング素子S1は、本発明における主スイッチング素子に相当し、スイッチング素子S2は、本発明における補助スイッチング素子に相当し、リアクトルL1は、本発明における主リアクトルに相当し、リアクトルL2は、本発明における補助リアクトルに相当する。また、電流測定器60は、本発明における主リアクトル電流を測定する電流測定器に相当し、制御ユニット20は、本発明における演算部に相当する。
【0063】
B.第2実施例:
図14は、第2実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50bの回路構成を示す説明図である。第2実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50bは、主回路51及び補助回路52を備えるチョッパ回路を3相(U相,V相,W相)備えている。各相のチョッパ回路には、各相のリアクトルL1における電流を測定する電流測定器60U,60V,60Wがそれぞれ設けられている。各相の電流は、以下の式を満たしている。
【0064】
【数11】

【0065】
上記式(24)におけるU,V,Wの下付きの添え字は、それぞれU相,V相,W相における電流値であることを示している。
【0066】
上記式(24)のうち、U相のリアクトルL1を流れる電流の平均値IL1avgは、U相の電流測定器60Uによって測定され、U相のリアクトルL2を流れる電流の平均値IL2avgは、第1実施例と同様の計算によって求めることができる。同様に、V相及びW相におけるIL1avg及びIL2avgも、測定及び計算によって求めることができる。したがって、IFCavgは、式(24)によって求めることができる。
【0067】
本実施例では、電流測定器60U,60V,60Wが各相のリアクトルL1を流れる電流の平均値IL1avgをそれぞれ測定し、制御ユニット20がIFCavgを算出するため、IFCavgを測定するための電流測定器を省略することができる。この結果、第1実施例と同様に、電流測定器の数を減らすことができ、部品点数や組付け工数の削減、コストの低減等を実現することができる。
【0068】
C.第3実施例:
図15は、第3実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50cの回路構成を示す説明図である。図14に示した第2実施例との違いは、W相のリアクトルL1を流れる電流を測定する電流測定器60Wが省略されている点と、IFCavgを測定するための電流測定器65が設けられているという点だけであり、他の構成は第2実施例と同じである。各相の電流は、上記式(24)を満たしている。
【0069】
上記式(24)のうち、左辺のIFCavgは電流測定器65によって測定され、U相及びV相におけるIL1avg及びIL2avgも測定及び計算によって求めることができる。ここで、上記第1実施例からも理解できるように、W相におけるIL2avgは、W相におけるIL1avgを唯一の未知数として含んでいる。すなわち、上記式(24)の右辺第3項は、IL1avgを唯一の未知数として含んでいる。したがって、W相におけるIL1avg及びIL2avgは、式(24)によって求めることができる。
【0070】
本実施例では、電流測定器60U,60VがU相,V相のリアクトルL1を流れる電流の平均値IL1avgをそれぞれ測定し、電流測定器65がIFCavgを測定し、制御ユニット20がW相におけるIL1avg及びIL2avgを算出するため、W相におけるIL1avgを測定するための電流測定器60Wを省略することができる。この結果、第1及び第2実施例と同様に、電流測定器の数を減らすことができ、部品点数や組付け工数の削減、コストの低減等を実現することができる。
【0071】
なお、IFCavgは、本発明における供給電流に相当し、電流測定器65は、本発明における供給電流を測定する電流測定器に相当する。電流測定器60U,60Vは、本発明におけるN−1個の電流測定器に相当する。
【0072】
D.第4実施例:
図16は、第4実施例におけるソフトスイッチングコンバータ50dの回路構成を示す説明図である。図14に示した第2実施例との違いは、各相のリアクトルL1を流れる電流を測定する電流測定器60U,60V,60Wが省略されている点と、IFCavgを測定するための電流測定器65が設けられているという点だけであり、他の構成は第2実施例と同じである。
【0073】
本実施例では、各相のチョッパ回路におけるIL1avgの値がほぼ同一であり、また、各相のチョッパ回路におけるIL2avgの値もほぼ同一であるという前提を元に考える。そうすると、上記式(24)は、以下の式(25)となる。なお、式(25)におけるnは整数であり、チョッパ回路の相の数を示している。
【0074】
【数12】

【0075】
上記第1実施例から理解できるように、IL2avgは、IL1avgを唯一の未知数として含んでいる。すなわち、上記式の右辺は、IL1avgを唯一の未知数として含んでいる。したがって、IFCavgの値が与えられれば、IL1avg及びIL2avgの値を計算によって求めることができる。
【0076】
本実施例では、電流測定器65がIFCavgを測定し、制御ユニット20が各相におけるIL1avg及びIL2avgを算出するため、各相のリアクトルL1を流れる電流を測定する電流測定器60U,60V,60Wを省略することができる。この結果、第1ないし第3実施例と同様に、部品点数や組付け工数の削減、コストの低減等を実現することができる。
【0077】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0078】
変形例1:
上記実施例では、1相または3相のチョッパ回路を含むソフトスイッチングコンバータについて説明したが、本発明は、2相または4相以上のチョッパ回路を含むソフトスイッチングコンバータに対しても適用することができる。
【0079】
変形例2:
上記実施例において示された数式は一例であり、制御ユニット20は、上記数式とは異なる数式を用いて、IFCavgや、IL1avg、IL2avgを算出することとしてもよい。
【0080】
変形例3:
上記第3実施例では、W相における電流測定器60Wを省略することができるものとして説明したが、電流測定器60Wを省略する代わりに、電流測定器60Uまたは電流測定器60Vを省略することもできる。
【0081】
変形例4:
上記実施例では、車両に搭載されたDC/DCコンバータを例に説明したが、これに限ることなく、本発明は、直流を昇圧または降圧して電力を機器に供給する種々のDC/DCコンバータに適用することができる。
【0082】
変形例5:
上記実施例では、燃料電池を電源の一例として説明したが、燃料電池の代わりに、直流電力を供給することのできる電源を用いることとしてもよい。例えば、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の二次電池を用いることとしてもよい。
【0083】
変形例6:
上記実施例では、ソフトスイッチング動作を用いたDC/DCコンバータを例に説明したが、これに限らず、ソフトスイッチング動作を用いたチョッパ回路に対して、本発明を適用することができる。例えば、ソフトスイッチング動作を用いたチョッパ回路としては、上記説明したDC/DCコンバータや、AC/DCコンバータ、PFC回路(Power Factor Correction回路:力率改善回路)、UPS(UPS:Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)、パワーコンディショナ等の電力変換装置、周波数変換装置等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0084】
10…燃料電池システム
20…制御ユニット
30…電源装置
50…ソフトスイッチングコンバータ
50b…ソフトスイッチングコンバータ
50c…ソフトスイッチングコンバータ
50d…ソフトスイッチングコンバータ
51…主回路
52…補助回路
LOAD…負荷
E…直流電源
C1…フィルタコンデンサ
D1…ダイオード
S1…スイッチング素子
L1…リアクトル
L2…リアクトル
D2…ダイオード
C2…スナバコンデンサ
S2…スイッチング素子
D3…スナバダイオード
C3…平滑コンデンサ
D4…ダイオード
D5…ダイオード
FC…燃料電池
WH…ワイヤーハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置であって、
主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路を有し、前記補助スイッチング素子のスイッチングによって、前記主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、
前記主リアクトルに流れる電流である主リアクトル電流を測定する電流測定器と、
前記測定された主リアクトル電流に基づいて、前記ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出する演算部と
を備える電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記ソフトスイッチングコンバータは、前記チョッパ回路を複数有し、
前記電流測定器は、前記各チョッパ回路にそれぞれ設けられており、
前記各チョッパ回路の電流測定器は、前記各チョッパ回路における主リアクトル電流をそれぞれ測定し、
前記演算部は、前記測定された各チョッパ回路における主リアクトル電流に基づいて、前記ソフトスイッチングコンバータに供給される電流を算出する
電力変換装置。
【請求項3】
電力変換装置であって、
主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路をN相(Nは2以上の整数)有し、前記補助スイッチング素子のスイッチングによって、前記主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、
前記ソフトスイッチングコンバータに供給される電流である供給電流を測定する電流測定器と、
前記N相のチョッパ回路のうち1つの特定のチョッパ回路を除く各チョッパ回路にそれぞれ設けられ、前記各チョッパ回路における主リアクトルに流れる電流である主リアクトル電流をそれぞれ測定するN−1個の電流測定器と、
前記測定された供給電流と前記測定された各チョッパ回路における主リアクトル電流とに基づいて、前記特定のチョッパ回路における主リアクトル電流を算出する演算部と
を備える電力変換装置。
【請求項4】
電力変換装置であって、
主リアクトルと主スイッチング素子とを含む主回路と、補助リアクトルと補助スイッチング素子とを含む補助回路とによって構成されるチョッパ回路を複数有し、前記補助スイッチング素子のスイッチングによって、前記主スイッチング素子がターンオンする際の該主スイッチング素子への印加電圧を制御するソフトスイッチング動作を行なうソフトスイッチングコンバータと、
前記チョッパ回路に供給される電流である供給電流を測定する電流測定器と、
前記測定された供給電流に基づいて、前記各チョッパ回路における主リアクトルに流れる電流を算出する演算部と
を備える電力変換装置。
【請求項5】
電源供給装置であって、
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置と、
前記電力変換装置に対して直流電力を供給する燃料電池と
を備え、
前記電力変換装置は、前記燃料電池から供給された直流電力の電圧を変換し、前記電圧が変換された直流電力を負荷に対して出力するDC/DCコンバータである
電源供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−60822(P2012−60822A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203103(P2010−203103)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】