説明

電力変換装置

【課題】装置の構成を簡略化して小型化、低価格化を図ると共に、長寿命化を可能にする。
【解決手段】単相交流電源の電圧を所望の振幅及び周波数の単相交流電圧に変換するユニットを3つ形成して3つのユニットの交流出力側を直列接続したものを1つの組とし、前記1つの組、または、n(nは複数)個の組の交流出力側を直列接続したものを一相分の群として、この群を三相分設け、これらの群の各一方の交流出力端子がそれぞれ単相交流出力端子として負荷に接続される電力変換装置であって、各組において、第1〜第3のユニットがそれぞれ接続される3つの単相交流電源は、互いに電気的に絶縁されて各電源電圧の位相差が電気角で120°ずつ異なり、かつ、n個の組の全体において、第1〜第3のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間で、各電源電圧がそれぞれ所定の位相差を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流電圧を出力する電力変換装置に関し、詳しくは、電力変換用のユニットを多段に接続して高圧の三相交流電圧を発生させ、高圧電動機等の負荷に供給する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9は、この種の電力変換装置の従来技術を示しており、例えば非特許文献1に記載されているものである。
図9において、三相交流電源100の各相(R,S,T相)には変圧器Trの一次巻線Trが接続され、その二次巻線TrsU1,TrsU2,TrsU3,TrsV1,TrsV2,TrsV3,TrsW1,TrsW2,TrsW3からは等しい変圧比により降圧した三相交流電圧が出力される。なお、一次巻線Trは三相巻線であるが、図9では便宜的に単線図にて表示している。
【0003】
U相の二次巻線TrsU1,TrsU2,TrsU3には、同一構成のユニットU,U,Uがそれぞれ接続されてU群変換器200Uが構成されており、各ユニットU,U,Uは、整流回路を構成するダイオードD1PR,D1PS,D1PT,D1NR,D1NS,D1NT、ダイオードD2PR,D2PS,D2PT,D2NR,D2NS,D2NT、ダイオードD3PR,D3PS,D3PT,D3NR,D3NS,D3NTと、整流された電圧を平滑する平滑コンデンサC,C,C(電圧をEとする)と、単相インバータを構成する単方向スイッチU1PA,U1PB,U1NA,U1NB、単方向スイッチU2PA,U2PB,U2NA,U2NB、単方向スイッチU3PA,U3PB,U3NA,U3NBと、をそれぞれ備えている。
【0004】
ここで、例えばU群変換器200Uに接続される二次巻線TrsU1,TrsU2,TrsU3の出力電圧の位相は、電気角で20°ずつの位相差を持っている。また、ユニットU,U,Uの交流出力側は直列に接続されており、ユニットUの一方の交流出力端子がU相出力端子として高圧誘導電動機等の電動機300に接続されている。
【0005】
V群変換器200V、W群変換器200Wの構成もU群変換器200Uと同一であり、V群変換器200Vは、二次巻線TrsV1,TrsV2,TrsV3に接続されたユニットV,V,Vからなり、W群変換器200Wは、二次巻線TrsW1,TrsW2,TrsW3に接続されたユニットW,W,Wからなっている。
そして、ユニットV,Wの各一方の交流出力端子がV相,W相出力端子として電動機300に接続されている。
すなわち、この従来技術では、変圧器Trの二次側に接続されたユニットU,U,Uを直列接続してU群変換器200Uを構成すると共に、同様にV群変換器200V、W群変換器200Wを構成し、これらを電動機300にY結線することによって三相出力の電力変換装置を構成している。
【0006】
次に、この電力変換装置の動作を簡単に説明する。
図10は、図9における出力一相分の電圧(例えばU相出力電圧VoUN)の波形を示しており、ここでは、図10における期間Aの動作を説明する。
期間Aでは、図11に示すように、U群変換器200U内の単方向スイッチU3PA,U3NB,U2PA,U2NB,U1NBを常時オンし、単方向スイッチU1PA,U1NAを適切な変調率で交互にオン・オフする。この場合、ユニットUの出力電圧は、二次巻線TrsU3から出力される三相交流電圧を整流して平滑した直流電圧Eとなり、ユニットUの出力電圧=E、ユニットUの出力電圧=E×変調率となる。このため、期間AにおけるU相の出力相電圧VoUNは、VoUN=(E)+(E)+(E×変調率)となる。
【0007】
一方、他の例として、図10における期間Bの動作を説明する。
この場合には、図12に示すように、単方向スイッチU3PB,U3NA,U2PB,U2NA,U1PAを常時オンし、単方向スイッチU1PB,U1NBを適切な変調率で交互にオン・オフする。これにより、ユニットUの出力電圧=−E、ユニットUの出力電圧=−E、ユニットUの出力電圧=−E×変調率となるため、U相出力電圧VoUNは、VoUN=−(E)−(E)−(E×変調率)となり、期間Aと比べると出力電圧の極性が反転する。
【0008】
以上の説明から分かるように、U群変換器200U内の適切な単方向スイッチを常時オンすると共に、適切な単方向スイッチを適切な変調率で交互にオン・オフすることにより、任意の振幅及び周波数の単相交流電圧を出力することができ、V群変換器200V,W群変換器200Wについても同様に動作させることで、昇圧変圧器を用いずに高圧の三相交流電圧を発生させることが可能である。
【0009】
また、図9のような回路構成にすれば、各ユニットに入力される電圧は変圧器Trにより降圧された電圧になるので、電源電圧に対して低い電圧定格の単方向スイッチを用いることができる。更に、図10の波形に示したように各相の出力電圧は複数の電圧レベルを持った波形となり、1回のスイッチングによる電圧の変化量が少なくなるため、負荷として接続される電動機300の絶縁劣化を抑制することができる。
加えて、前述したように、変圧器Trの二次巻線の出力電圧に位相差を設けているため、変圧器Trの一次側では、電流に含まれる高調波成分が打ち消し合い、ひずみの少ない電流波形を得ることができる。
【0010】
なお、図9に示した回路構成では、ダイオードからなる整流回路を用いているため、電動機300が持つエネルギーを電源に回生することは原理的に不可能である。回生が必要な場合には、各ユニットの整流回路を構成するダイオードを、ダイオードとIGBT等の自己消弧形半導体スイッチとの並列接続回路からなる単方向スイッチにそれぞれ置き換えればよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】下浦他,「省エネルギー高圧ダイレクトACドライブ装置」,東芝レビュー,Vol.54,No.1,pp.57−60(1999年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図9に示した従来技術によれば、単方向スイッチとして電源電圧よりも十分に低い電圧定格の半導体スイッチを使用することができるが、半導体スイッチの電圧定格を更に低下させることができれば装置を一層低価格にすることができる。
ここで、半導体スイッチの定格電圧を下げるには、直列接続されるユニットの数を増やせばよいことが容易に想像できる。しかし、その場合、変圧器Trの二次巻線数が増加して構成がより複雑になるため、結果として装置の低価格化を妨げると共に、電流が通過する半導体スイッチの数が増加して効率の悪化を招くことになる。
【0013】
更に、従来技術では、整流後の直流電圧を平滑する平滑コンデンサCが、装置の小型化、低価格化の障害となっている。この種の平滑コンデンサCには、一般にエネルギー密度の高い電解コンデンサが用いられるが、この電解コンデンサが装置の長寿命化の妨げとなっていた。
【0014】
そこで、本発明の解決課題は、装置の構成を簡略化して小型化、低価格化を図ると共に、長寿命化を可能にした電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、交流電圧を任意の振幅及び周波数の三相交流電圧に変換する電力変換装置において、
半導体スイッチのスイッチング動作により、単相交流電源の電圧を所望の振幅及び周波数の単相交流電圧に変換するユニットを3つ形成してこれら第1〜第3のユニットの交流出力側を直列接続したものを1つの組とし、
前記1つの組、または、n(nは複数)個の組の交流出力側を直列接続したものを一相分の群として、この群を三相分設け、これら三相分の群の各一方の交流出力端子がそれぞれ単相交流出力端子として負荷に接続される電力変換装置であって、
各組において、前記第1〜第3のユニットがそれぞれ接続される3つの単相交流電源は、互いに電気的に絶縁されて各電源電圧の位相差が電気角で120°ずつ異なり、かつ、前記n個の組の全体において、第1のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間、第2のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間、第3のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間で、各電源電圧がそれぞれ所定の位相差を持つことを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した電力変換装置において、前記単相交流電源を、一次側が三相交流電源に接続された変圧器の二次巻線により構成し、かつ、前記単相交流電源によって構成される全相数が3以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載した電力変換装置において、前記ユニットは、2つの双方向スイッチを直列接続した双方向スイッチ直列接続回路を2つ並列に接続し、この並列接続回路を前記単相交流電源に並列接続すると共に、前記双方向スイッチ直列接続回路における双方向スイッチ同士の直列接続点を単相交流出力端子としたことを特徴とする.
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも電圧定格の低い半導体素子を使用することができ、変圧器の二次巻線の巻線数を減少させて変圧器の構成を簡略化することができるため、装置の構成の簡略化、小型化、低価格化が可能である。また、整流電圧を平滑する平滑コンデンサを不要にして、装置の長寿命化を図ることができる。
更に、これらの効果は、半導体素子における損失を従来と同等以下に抑えながら実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態を示す回路図である。
【図2】本発明の実施形態における変圧器二次巻線の電圧の位相関係を示す波形図である。
【図3】本発明の実施形態における出力電圧の境界値を示す波形図である。
【図4】本発明の実施形態の動作を示すU相出力電圧の波形図である。
【図5】本発明の実施形態の動作を説明するためのU群変換器の回路図である。
【図6】本発明の実施形態の動作を説明するためのU群変換器の回路図である。
【図7】本発明の実施形態におけるU相出力電圧の波形図である。
【図8】本発明の他の実施形態における主要部の回路図である。
【図9】従来技術を示す回路図である。
【図10】図9におけるU相出力電圧の波形図である。
【図11】図9の動作を説明するためのU群変換器の回路図である。
【図12】図9の動作を説明するためのU群変換器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は、本発明の実施形態の全体構成を示す回路図である。
この実施形態では、2つの双方向スイッチを直列接続した双方向スイッチ直列接続回路を2つ並列接続し、この並列接続回路を変圧器の二次巻線により構成される単相交流電源に並列に接続して単相−単相電力変換器を構成する。ここで、前記二次巻線に接続される双方向スイッチ直列接続回路の並列接続回路をユニットと呼び、3つのユニットの交流出力側を直列接続したものを1つの組とする。また、上記の組を2つ直列接続して一相分の群変換器を構成し、三相各相(U,V,W相)について構成したU群変換器,V群変換器,W群変換器の各1つの交流出力端子を負荷の電動機に対してY結線するものである。
なお、この実施形態における双方向スイッチには、例えば、逆方向の耐圧を有する逆阻止IGBTが用いられる。
【0021】
すなわち、図1において、100は三相交流電源、Trは一次巻線Trが三相交流電源100に接続された変圧器であり、各々が互いに絶縁された単相交流電源としての二次巻線TrsRU1,TrsSU1,TrsTU1,TrsRU2,TrsSU2,TrsTU2には、双方向スイッチRU1PA,RU1PB,RU1NA,RU1NB,SU1PA,SU1PB,SU1NA,SU1NB,TU1PA,TU1PB,TU1NA,TU1NB,RU2PA,RU2PB,RU2NA,RU2NB,SU2PA,SU2PB,SU2NA,SU2NB,TU2PA,TU2PB,TU2NA,TU2NBからなる6つのU相のユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUがそれぞれ接続されている。なお、一次巻線Trは三相巻線であるが、図1では便宜的に単線図にて表示している。
ユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUの交流出力側はすべて直列接続されており、二次巻線TrsRU1,TrsSU1,TrsTU1及びユニットRU,SU,TUにより第1組が、二次巻線TrsRU2,TrsSU2,TrsTU2及びユニットRU,SU,TUにより第2組が構成されると共に、これらの第1組及び第2組によってU群変換器201Uが構成されている。
【0022】
同様にして、変圧器Trの二次巻線TrsRV1,TrsSV1,TrsTV1,TrsRV2,TrsSV2,TrsTV2には、各二次巻線にそれぞれ対応する6つのV相のユニットRV,SV,TV,RV,SV,TVが接続されている。ユニットRV,SV,TV,RV,SV,TVの交流出力側はすべて直列接続されており、二次巻線TrsRV1,TrsSV1,TrsTV1及びユニットRV,SV,TVにより第1組が、二次巻線TrsRV2,TrsSV2,TrsTV2及びユニットRV,SV,TVにより第2組が構成され、これらの第1組及び第2組によってV群変換器201Vが構成されている。
【0023】
更に、変圧器Trの二次巻線TrsRW1,TrsSW1,TrsTW1,TrsRW2,TrsSW2,TrsTW2には、各二次巻線にそれぞれ対応する6つのV相のユニットRW,SW,TW,RW,SW,TWが接続されている。ユニットRW,SW,TW,RW,SW,TWの交流出力側はすべて直列接続されており、二次巻線TrsRW1,TrsSW1,TrsTW1及びユニットRW,SW,TWにより第1組が、二次巻線TrsRW2,TrsSW2,TrsTW2及びユニットRW,SW,TWにより第2組が構成され、これらの第1組及び第2組によってW群変換器201Wが構成されている。
【0024】
なお、各ユニットの直列接続状態を詳述すると、例えばU群変換器201Uでは、最下段のユニットTUの一方の交流出力端子が中性点Nとなり、他方の交流出力端子がその上段のユニットSUの一方の交流出力端子に接続され、以後、同様にユニットRU〜RUまで接続されて最上段のユニットRUの他方の交流出力端子がU相出力端子として電動機300に接続されている。
V群変換器201V,W群変換器201Wの直列接続状態も上記と同様であり、それぞれの最下段のユニットTW,TVの各一方の交流出力端子が中性点Nとなり、最上段のユニットRV,RWの各他方の出力端子がV相出力端子,W相出力端子として電動機300に接続されている。
【0025】
また、変圧器Trの二次巻線から得られる各組内のユニットの単相電源電圧には、電気角で120度ずつの位相差が設けられる。例えば、U群変換器201Uの第1組の二次巻線TrsRU1,TrsSU1,TrsTU1の電圧には、互いに120°の位相差が設けられている。
更に、各組の間において同一相のユニットの単相電源電圧の間にも位相差が設けられており、その位相差は、60°÷n(nは組数)とする。例えば、図1の例ではn=2であるため、U群変換器201Uの第1組の二次巻線TrsRU1の電圧と第2組の二次巻線TrsRU2の電圧との間には、60°÷2=30°の位相差が設けられている。
【0026】
図2は、図1のように組数nが2の場合における変圧器Trの二次巻線の電圧の位相関係を示しており、一例として、U群変換器201Uの二次巻線TrsRU1,TrsSU1,TrsTU1,TrsRU2,TrsSU2,TrsTU2の電圧波形(ユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUの入力電圧波形)ViRU1,ViSU1,ViTU1,ViRU2,ViSU2,ViTU2を示している。
ここでは、電圧の位相関係を説明することを目的にしているため、各電圧波形は振幅が1の正弦波により表示されている。
【0027】
図1の第1組(ユニットRU,SU,TU)において、各二次巻線TrsRU1,TrsSU1,TrsTU1の電圧位相としてViRU1を基準に考えると、図2に示すごとく、ViSU1は120°遅れ、ViTU1は240°遅れとなる。一方、第2組(ユニットRU,SU,TU)において、前述したようにn=2の場合には二次巻線TrsRU1,TrsRU2の電圧に30°の位相差があるので、ViRU1に対して、ViRU2は30°進み、ViSU2は90°遅れ、ViTU2は210°遅れとなる。
【0028】
次に、この実施形態における基本的な動作を説明する。
図3は、本実施形態の基になる出力電圧の境界値を示す波形である。まず、U相の第1組における3つの単相電源電圧のそれぞれについて絶対値をとったもののうち、最大の大きさとなる電圧をMax、中間の大きさとなる電圧をMid、最小の大きさとなる電圧をMinと定義する。また、U相の第2組についても、同様に、最大の大きさとなる電圧をMax、中間の大きさとなる電圧をMid、最小の大きさとなる電圧をMinと定義する。
ここで、U群変換器201Uは、第1組,第2組のユニットRV,SV,TV,RV,SV,TVの交流出力側がすべて直列に接続されているから、先に定義した単相電源電圧の絶対値の最大値、中間値、最小値を用いて、U群変換器201Uの出力電圧(図1におけるU相出力端子−中性点N間の電圧)VoUNの値として、以下の境界値を考える。
【0029】
LEVEL=0
LEVEL=Min+LEVEL
LEVEL=Mid+LEVEL
LEVEL=Max+LEVEL
LEVEL=Min+LEVEL
LEVEL=Mid+LEVEL
LEVEL=Max+LEVEL
【0030】
この出力電圧の境界値に基づいて、本実施形態におけるU群変換器201Uの動作を説明する。
図4は、前述した出力電圧の境界値と2つの出力電圧指令Voref1,Voref2の波形例を示している。ここで、出力電圧指令Voref1,Voref2としては、位相が180°異なり、かつ、振幅が異なる場合を例示してある。
【0031】
まず、出力電圧指令がVoref1である場合について、図4に⇔で示した期間(電気角90°〜120°の網掛け部分)の動作を説明する。
この場合、出力電圧指令Voref1の極性が正であり、その絶対値Voref1absがLevel以上でLevel未満であるときに、各ユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUの単相電源電圧の極性に注意して、図5に示すように、各ユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUを構成する双方向スイッチのオン・オフを決定する。
【0032】
この場合、図5に示すように、ユニットRUでは双方向スイッチRU1NBを常時オンさせてRU1PA,RU1NAを適切な変調率で交互にオン・オフさせ、ユニットSUでは双方向スイッチSU1PB,SU1NAを常時オンさせ、ユニットTUでは双方向スイッチTU1PB,TU1NAを常時オンさせ、ユニットRUでは双方向スイッチRU2PA,RU2NBを常時オンさせ、ユニットSUでは双方向スイッチSU2PA,SU2NBを常時オンさせ、ユニットTUでは双方向スイッチTU2PB,TU2NAを常時オンさせることにより、ユニットRU,SU,TU,TU,SUは、各ユニットの電源電圧を直接出力するか、あるいは、電源電圧の極性を反転させて出力することになる。このとき、前述したように、ユニットRUでは、双方向スイッチRU1NBを常時オン、RU1PA,RU1NAを適切な変調率で交互にオン・オフすることにより、PWM(パルス幅変調)制御を行う。
【0033】
ここで、すべてのユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUの交流出力側は直列接続されているので、U相の出力電圧VoUNは、各ユニットの出力電圧の総和となり、数式1により表すことができる。この数式1から明らかなように、ユニットRUにおける変調率を適切に調整することにより、出力電圧指令通りの正の単相交流電圧VoUNを出力することができる。
[数式1]
oUN=(変調率×|ViRU1|)+|ViTU1|+|ViSU1|+|ViTU2|+|ViRU2|+|ViSU2
【0034】
この場合における、出力電圧指令Voref1の極性、出力電圧指令の絶対値Voref1absが存在する領域、各組における単相電源電圧絶対値の最大、中間、最小(Max,Mid,Min、及び、Max,Mid,Min)に該当するユニット、各ユニットを構成する双方向スイッチの状態、各ユニットの出力電圧を表1に整理する。
【0035】
【表1】

【0036】
次に、出力電圧指令がVoref2の場合について、図4の⇔で示した期間の動作を説明する。
この場合には、出力電圧指令Voref2の極性が負であり、その絶対値Voref2absがLevel以上でLevel未満であるときに、各ユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUの電源電圧の極性に注意して、図6に示すように、各ユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUを構成する双方向スイッチのオン・オフを決定する。
【0037】
この場合、図6に示すように、ユニットRUでは双方向スイッチRU1NA,RU1NBを常時オンさせ、ユニットSUでは双方向スイッチSU1PA,SU1NBを常時オンさせ、ユニットTUでは双方向スイッチTU1PAを常時オンさせると共にTU1PB,TU1NBを適切な変調率で交互にオン・オフさせ、ユニットRUでは双方向スイッチRU2NA,RU2PBを常時オンさせ、ユニットSUでは双方向スイッチSU2PB,SU2NAを常時オンさせ、ユニットTUでは双方向スイッチTU2PA,TU2NBを常時オンさせることにより、ユニットRU,SU,TU,SUは、各ユニットの電源電圧を直接出力するか、あるいは、電源電圧の極性を反転させて出力することになる。
このとき、前述したように、ユニットTUは、双方向スイッチTU1PAを常時オンさせてTU1PB,TU1NBを適切な変調率で交互にオン・オフさせることにより、PWM制御を行う。また、ユニットRUは、双方向スイッチRU1NA,RU1NBを常時オンさせることにより、出力電圧はゼロとなる。
【0038】
ここで、すべてのユニットRU,SU,TU,RU,SU,TUの交流出力側は直列接続されているため、U相の出力電圧VoUNは、各ユニットの出力電圧の総和となり、数式2により表すことができる。この数式2から明らかなように、ユニットTUにおける変調率を適切に調整することにより、出力電圧指令通りの負の極性の単相交流電圧VoUNを出力することができる。
[数式2]
oUN=−(変調率×|ViTU1|)−|ViSU1|−|ViTU2|−|ViRU2|−|ViSU2
【0039】
この場合における、出力電圧指令Voref1の極性、出力電圧指令の絶対値Voref1absが存在する領域、各組における単相交流電圧絶対値の最大、中間、最小(Max,Mid,Min、及び、Max,Mid,Min)に該当するユニット、各ユニットを構成する双方向スイッチの状態、各ユニットの出力電圧を表2に整理する。
【0040】
【表2】

【0041】
図7は、本実施形態における出力相電圧の波形、例えばU群変換器201Uの出力相電圧の波形例である。図示するように、一相分の出力電圧はPWM波形となっている。
なお、図1におけるV群変換器201V,W群変換器201Wの動作は基本的にU群変換器201Vと同一であり、電動機300には位相が120°ずつ、ずれた三相交流電圧が供給されることになる。
一方、負荷電流の波形は、電動機300等の負荷の誘導性成分の作用により連続した波形となる。本実施形態では、連続した負荷電流を各ユニットの双方向スイッチにより遮断するため、各ユニットの単相交流電源には、双方向スイッチのスイッチングによる高周波成分を含む電流が流れる。この高周波成分を抑制するためには、図8に示す他の実施形態のように、各ユニットの変圧器Trの二次巻線(符号Trで代表する)に、リアクトルLとコンデンサCとからなるフィルタを接続すればよい。ここで、リアクトルLは、変圧器Trの漏れインダクタンスによって代用することも可能である。
【0042】
以上の説明から明らかなように、この実施形態によれば、双方向スイッチのオン・オフ動作により、三相交流電圧を任意の振幅及び周波数の三相交流電圧に変換することができる。また、前述したように、変圧器Trの二次巻線の電圧に位相差を設けているため、変圧器Trの一次側では、電流に含まれる高調波成分が打ち消し合うので、ひずみの少ない電流波形を得ることができる。
【0043】
以下、従来技術と本実施形態とについて、作用効果を比較する。
まず、半導体素子に印加される電圧について検討する。
図9に示した従来技術の場合、変圧器Trの二次巻線の出力線間電圧の振幅を1とすると、各ユニットにおける直流電圧Eも1となり、各相についてユニットの直列接続数が3であるから、出力一相当たりの電圧(相電圧)の最大振幅は3となる。
一方、図1に示した本実施形態では、変圧器Trの二次巻線の出力線間電圧の振幅を1とすると、各相についてユニットを3つ直列接続した組を2つ直列接続しているため、出力一相当たりの電圧(相電圧)の最大振幅は、図3に示したLEVELの電圧脈動を考慮すると約3.73となる。
【0044】
このことは、従来技術と本実施形態とを比較した場合、変圧器Trの二次巻線の線間電圧の振幅が同一であった場合、本実施形態の方が従来技術よりも高い電圧を出力できることを意味する。換言すると、装置の最大出力電圧を両者ともに同等とするならば、本実施形態の方が従来技術よりも変圧器Trの二次側の出力電圧を低減することができ、本実施形態における半導体素子の定格電圧は従来技術の約80%程度で済むことになる。
【0045】
次に、変圧器Trの二次巻線の巻線数について比較する。なお、以下は、出力一相分についての比較である。
図9の従来技術では、1ユニットの入力が三相であり、出力一相について3つのユニットが直列接続されている。従って、変圧器Trの二次巻線の巻線数は合計で9つとなる。一方、図1の本実施形態では、1ユニットの入力が単相であり、変圧器Trの二次巻線の巻線数は合計で6つとなる。すなわち、本実施形態によれば、変圧器Trの構成を従来技術よりも簡略化することができる。
【0046】
次いで、半導体素子の数について考える。なお、図9に示した従来技術では、回生動作が不可能であるのに対し、本実施形態では、各ユニット内に整流回路を持たず、交流-交流変換を行っているため回生動作が可能である。従って、条件を揃える目的で、従来技術では、図9に示した整流回路のダイオードをIGBTとダイオードとが逆並列接続されたスイッチに置き換えて考えることとする。
この場合、出力一相分について考えると、従来技術ではIGBTが30個、ダイオードが30個の合計60個の半導体素子が必要となる。これに対し、本実施形態では、IGBTが48個となる。すなわち、本実施形態によれば、使用する半導体素子の数が従来技術よりも少なくなる。
【0047】
次に、コンデンサについて比較する。
従来技術の場合、各ユニットに入力される交流電圧を直流電圧に変換する整流回路が必要であり、整流後の電圧を平滑する目的でコンデンサCが接続されている。この場合、平滑効果を高めるには、通常、電解コンデンサ等の静電容量の大きいコンデンサが使用される。
一方、本実施形態においても、図8に示したように、双方向スイッチのスイッチングに伴う高周波成分が電源側に流出するのを抑制するために、コンデンサCを設けることが望ましいが、コンデンサCに要求される静電容量値は高周波成分を除去する程度に小さくてよく、電解コンデンサに対して寿命が長いフィルムコンデンサ等を用いることができる。
従って、本実施形態によれば、従来技術に比べてコンデンサの体積を低減できると共に、装置の長寿命化が可能である。
【0048】
最後に、負荷電流が通過する半導体素子の数を比較する。
従来技術の場合、1つのユニット当たり、電源から負荷に流れる電流が通過する半導体素子の数は4個であり、3つのユニットが直列接続されているから、負荷電流は、出力一相につき合計で12個の半導体素子を通過することになる。
一方、本実施形態の場合、負荷電流は、1つのユニット当たり2個の半導体素子を通過する。本実施形態では、出力一相につき6つのユニットが直列接続されているから、負荷電流は、合計で12個の半導体素子を通過する。
このため、負荷電流が通過する半導体素子の数に関しては、本実施形態と従来技術との間に差異はないと言える。
【0049】
以上の比較から明らかなように、本実施形態では、負荷電流が通過する半導体素子の数は従来技術と同等であり、言い換えれば、従来技術と比べて半導体素子により生じる損失を増やすことなく、装置構成の簡略化、小型化、低価格化、及び長寿命化を達成することができる。
【0050】
なお、上記実施形態では、U群変換器201U,V群変換器201V,W群変換器201Wを構成する組の数を何れも2としてあるが、これらの組の数は1または3以上であってもよい。何れの場合にも、変圧器の二次巻線からなる単相交流電源によって構成される全相数は、3の倍数となる。
【符号の説明】
【0051】
100:三相交流電源
201U:U群変換器
201V:V群変換器
201W:W群変換器
300:電動機
Tr:変圧器
Tr:一次巻線
TrsRU1,TrsSU1,TrsTU1,TrsRU2,TrsSU2,TrsTU2,TrsRV1,TrsSV1,TrsTV1,TrsRW2,TrsSW2,TrsTW2,Tr:二次巻線
RU,RU,SU,SU,TU,TU,RV,RV,SV,SV,TV,TV,RW,RW,SW,SW,TW,TW:ユニット
RU1PA,RU1PB,RU1NA,RU1NB,SU1PA,SU1PB,SU1NA,SU1NB,TU1PA,TU1PB,TU1NA,TU1NB,RU2PA,RU2PB,RU2NA,RU2NB,SU2PA,SU2PB,SU2NA,SU2NB,TU2PA,TU2PB,TU2NA,TU2NB:双方向スイッチ
L:リアクトル
C:コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を任意の振幅及び周波数の三相交流電圧に変換する電力変換装置において、
半導体スイッチのスイッチング動作により、単相交流電源の電圧を所望の振幅及び周波数の単相交流電圧に変換するユニットを3つ形成してこれら第1〜第3のユニットの交流出力側を直列接続したものを1つの組とし、
前記1つの組、または、n(nは複数)個の組の交流出力側を直列接続したものを一相分の群として、この群を三相分設け、これら三相分の群の各一方の交流出力端子がそれぞれ単相交流出力端子として負荷に接続される電力変換装置であって、
各組において、前記第1〜第3のユニットがそれぞれ接続される3つの単相交流電源は、互いに電気的に絶縁されて各電源電圧の位相差が電気角で120°ずつ異なり、かつ、前記n個の組の全体において、第1のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間、第2のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間、第3のユニットがそれぞれ接続されるn個の単相交流電源の間で、各電源電圧がそれぞれ所定の位相差を持つことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電力変換装置において、
前記単相交流電源を、一次側が三相交流電源に接続された変圧器の二次巻線により構成し、かつ、前記単相交流電源によって構成される全相数が3の倍数であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した電力変換装置において、
前記ユニットは、2つの双方向スイッチを直列接続した双方向スイッチ直列接続回路を2つ並列に接続し、この並列接続回路を前記単相交流電源に並列接続すると共に、前記双方向スイッチ直列接続回路における双方向スイッチ同士の直列接続点を単相交流出力端子としたことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−110939(P2013−110939A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256453(P2011−256453)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】