説明

電力用半導体素子のゲート回路

【課題】損失が少なく且つ適切なゲート電圧得ることが可能な電力用半導体素子のゲート回路を提供する。
【解決手段】電力用半導体素子1用のゲート駆動回路3と、ゲート駆動回路3の制御電源と並列に接続された入力コンデンサ4と、入力コンデンサ4と電力用半導体素子1の正極間に接続された可変抵抗器10と、入力コンデンサ4と並列に接続された電圧安定化回路5と、入力コンデンサ4の電圧を検出する電圧検出器8と、可変抵抗器10及び電圧安定化回路5を制御するための電圧制御手段20とで構成する。電圧制御手段20は、起動時には可変抵抗器10が第1の抵抗値となるように制御し、定常運転時には、制御電源電圧が所定の電圧範囲となるように可変抵抗器10を平均して前記第1の抵抗値より大きい第2の抵抗値となるように制御し、制御電源電圧が過電圧レベルを超えたとき、電圧安定化回路5を投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体素子のゲート回路に係り、特に主回路から電源を供給するようにした電力用半導体素子のゲート回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電力用変換装置は大容量化が進んでおり、その1つに変換装置の電圧の高電圧化がある。電圧の高電圧化には、例えば代表的な電圧型半導体素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を複数個多直列接続にして変換装置を構成する。
【0003】
IGBTを多直列接続した場合に問題となるのが、各IGBTのゲート回路への電力供給方法である。ゲート回路はIGBTのエミッタ電位と等しくなるため、外部電源をそのままゲート回路に接続することはできない。一般的な方法としては、絶縁変圧器を介してゲート回路へ電力を供給する方法を採る。しかしながら、接続されるIGBTの直列数が増加すると、絶縁変圧器としては高耐圧の変圧器が必要となる。この場合、変圧器の大型化・高コスト化が大きな問題となる。
【0004】
そこで、IGBT多直列接続時のゲート回路の小型化・低コスト化を図るため、ゲート回路としてIGBTに印加される自素子電圧から自ゲート回路へ電力を供給する主回路給電方式が考えられる。この主回路給電方式を採用する場合、電力用変換装置の運転時にゲート回路用電源回路に設けたコンデンサに必要以上の電圧が供給され、電源過電圧になる恐れがあるので、この過電圧を防止するための提案が為されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−281737号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
主回路給電方式のゲート回路用電源回路では、ゲート回路の電源を確立させるIGBTの素子電圧値が問題となる。すなわち、IGBTの誤動作を防止するため、IGBTに電圧が印加されたらゲート回路の電源を素早く確立させる必要がある。この場合、変換装置のIGBTに印加される定格素子電圧値よりも相当低い素子電圧値からゲート回路の電源を確立させることになる。そのために特許文献1に示されたような分圧回路を用いると、分圧抵抗を小さく選定する必要がある。このようにすると、定常時すなわち定格素子電圧時には充電抵抗器に流れる充電電流が大きくなり、ゲート回路で使用されない余剰電力も大きくなる。従って充電抵抗器および電圧定圧化回路内の抵抗の損失が大きくなり、かつそれに見合った電力定格の抵抗器が必要となりこれが大型化し、コストも高くなる。また、分圧回路からコンデンサへの充電電荷とコンデンサからゲートへの放電電荷のバランスはIGBTのオンオフ状態によって左右されるので、運転中に適切なゲート電圧が常に得られるように配慮することも重要な課題である。
【0006】
本発明の目的は上記問題点を解決するものであり、損失が少なく且つ適切なゲート電圧得ることが可能な電力用半導体素子のゲート回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電力用半導体素子のゲート回路は、電力用半導体素子の負極とゲート間にゲートパルスを供給するためのゲート駆動回路と、一端が前記電力用半導体素子の負極に接続され、前記ゲート駆動回路の制御電源と並列に接続された入力コンデンサと、前記入力コンデンサの他端と前記電力用半導体素子の正極間に接続された可変抵抗器と、前記入力コンデンサと並列に接続され、前記入力コンデンサの電荷を放電するための電圧安定化回路と、前記入力コンデンサに印加される電圧を検出する電圧検出器と、前記可変抵抗器及び前記電圧安定化回路を制御するための電圧制御手段とを具備し、前記電圧制御手段は、前記電力用半導体素子の起動時には前記可変抵抗器が第1の抵抗値となるように制御し、前記電力用半導体素子が定常運転されたときには、前記電圧検出器で検出された電圧が所定の電圧範囲となるように前記可変抵抗器を平均して前記第1の抵抗値より大きい第2の抵抗値に制御し、前記電圧検出器で検出された電圧が所定の過電圧レベルを超えたとき、前記電圧安定化回路を投入するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主回路給電方式のゲート回路において、損失が少なく且つ適切なゲート電圧得ることが可能な電力用半導体素子のゲート回路を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例1に係る電力用半導体素子のゲート回路を図1乃至図3を参照して説明する。
【0011】
図1は本発明の実施例1に係る電力用半導体素子のゲート回路の回路構成図である。図1において、電力用半導体素子であるIGBT1にはフライホイールダイオード2が逆並列に接続され、図示しない変換回路の変換アームの一部を形成している。IGBT1の負極であるエミッタ端子Eと正極であるコレクタ端子Cとの間に主回路電圧を加え、ゲート駆動回路3からエミッタ端子Eとゲート端子G間に適切な電圧のオンパルスを加えたとき、IGBT1はオンし、適切な逆電圧のオフパルスを加えたときIGBT1はオフする。これらのオンパルス、オフパルスの元となる信号は制御回路から与えられるが、その図示は省略している。
【0012】
ゲート駆動回路3の制御電源は入力コンデンサ4から与えられる。そして入力コンデンサ4と並列に電圧定圧化回路5が接続され、この投入によって入力コンデンサ4の電荷を放電することが可能な構成となっている。入力コンデンサ4を充電するために充電抵抗器6a、6bが夫々切替スイッチ7a、7bを介してIGBT1のコレクタ端子Cと入力コンデンサ4の正極の間に並列に接続されている。切替スイッチ7a、7bの各々を投入、開放することによって充電抵抗器の抵抗値が変化するので、充電抵抗器6a、6b及び切替スイッチ7a、7bは可変抵抗器10を形成している。尚、充電抵抗器6aの抵抗値は充電抵抗器6bの抵抗値より低い値を選定する。
【0013】
電圧定圧化回路5及び可変抵抗器10の切替スイッチ7a、7bの投入、開放の制御は電圧制御回路20からの信号によって行われている。電圧制御回路20には、電圧定圧化回路5及び可変抵抗器10の適切な制御を行うため、入力コンデンサ4の電圧を電圧検出器8で検出した信号が与えられている。
【0014】
以下、図2及び図3も参照して図1に示した電力用半導体素子のゲート回路の動作を説明する。図2は電力用半導体素子のゲート回路の制御電源の動作タイムチャート、図3は電圧制御回路20の動作フローチャートである。
【0015】
まず、IGBT1のエミッタ端子Eとコレクタ端子Cとの間に主回路電圧が印加された状態で充電抵抗器6aを投入する(図3におけるステップS1)。ここで、電圧制御回路20の制御電源が別電源でない場合はこの制御電源が確立していないことが考えられるが、その場合は切替スイッチ7aをノルマリーオン型のスイッチとしておけば良い。
【0016】
このスイッチ7aの投入によって入力コンデンサ4に印加される入力コンデンサ電圧Vは充電抵抗器6aと入力コンデンサ4の時定数で決まる充電カーブで上昇する。そして図2に示したゲート回路電源確立電圧V0に到達したとき、ゲート駆動回路は動作可能となり、時刻t=T0で運転開始すなわちIGBT1のオンオフのスイチング動作が開始する。IGBT1の運転が開始されると、ゲート駆動回路1はゲート電力をIGBT1に供給することになるので入力コンデンサ電圧Vの充電カーブの傾斜はやや緩やかになる。
【0017】
そして入力コンデンサ電圧Vの電圧が時刻t=T1でMAX制御電圧V1に到達したとき(ステップS2)、電圧制御回路20は切替スイッチ7a、7bを操作して可変抵抗器10の充電抵抗器を6aから6bに切替える(ステップS3)。ここで充電抵抗器6bは、上述のゲート電力を僅かに供給し切れない程度の高抵抗を選定しておく。そして入力コンデンサ電圧Vが過電圧レベルV3以下の状態で(ステップS4)MIN制御電圧V2以下となったとき(ステップS5)、電圧制御回路20は切替スイッチ7a、7bを操作して可変抵抗器10の充電抵抗器を再び6bから6aに切替える(ステップS6)。このようにステップS2からステップS6までを繰り返すと入力コンデンサ電圧VはMIN制御電圧V2とMAX制御電圧V1の間の電圧に制御されるのでゲート駆動回路3に対して安定な制御電圧を供給することが可能となる。
【0018】
一方、ステップS4において入力コンデンサ電圧Vが過電圧レベルV3を超えたとき、電圧制御回路20は電圧安定化回路5を投入する(ステップS7)。これは図2における時刻t=T3の時点に相当する。前述したように電圧安定化回路5は入力コンデンサ4の電荷を直接放電するので通常であればこの投入によって入力コンデンサ電圧Vは低下していく。そして入力コンデンサ電圧VがMAX制御電圧V1以下となったとき(ステップS8)、電圧制御回路20は電圧安定化回路5を開放する(ステップS9)。入力コンデンサ電圧Vが過電圧レベルV3を超える要因としては、主回路電圧が定格電圧を超えたことが考えられる。この要因が一時的なものであれば、制御電圧である入力コンデンサ電圧Vの制御は元通りとなりステップS2からステップS6の繰り返しループに戻る。また、この要因が継続している間は、ステップS4からステップS9の繰り返しループとなって入力コンデンサ電圧VはMAX制御電圧と過電圧レベルV3の間で制御される。
【0019】
以上説明したように、可変抵抗器10の抵抗値を制御して主回路からの充電電流を一定値以下に制御することによって、過大な電力の充電による損失を抑えることができ、充電用抵抗の電力定格を小さくすることができる。
【0020】
尚、上述したように定常運転時における充電抵抗器6bからの充電電力がゲート駆動回路が消費する電力と同等か若干少なくなるように、充電抵抗器6bの抵抗値を選定しておけば、充電抵抗器6a、6bの切替頻度を低減することができる。そしてこの場合電圧安定化回路5は過電圧時にのみ動作することになるので更に定常時の損失が低減される。
【実施例2】
【0021】
図4は本発明の実施例2に係る電力用半導体素子のゲート回路の回路構成図である。この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係る電力用半導体素子のゲート回路の回路構成図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、可変抵抗器10aにおける切替スイッチ7bを省略し、充電抵抗器6bは常に主回路とゲート駆動回路3の正極間に接続された状態とした点である。
【0022】
このように入力コンデンサ4が常時充電抵抗器6bによって充電される状態としておいても、実施例1の場合とほぼ同様に電圧制御回路20aによってゲート駆動回路3の電源電圧の制御が可能となる。
【0023】
図5は、電圧制御回路20aの動作フローチャートである。この動作フローチャート
が図3に示した実施例1の電圧制御回路20の動作フローチャートと異なる点は、ステップS3で充電抵抗器6aから充電抵抗器6bに切替えていたのをステップS3Aで単に充電抵抗器6bを開放するようにした点、また、ステップS6で充電抵抗器6bから充電抵抗器6aに切替えていたのをステップS6Aで単に充電抵抗6aを投入するようにした点である。
【0024】
この実施例2によれば、実施例1における充電抵抗器6aによる充電動作が充電抵抗器6aと充電抵抗器6bの並列回路による充電動作に変更されたことになり基本的な動作は同一となる。また実施例1のように起動時の電圧制御回路20aの制御電圧が不足して充電抵抗器6aの投入遅れが問題となる場合には切替スイッチ7aをノルマリーオン型のものを選定すれば良い。
【0025】
以上説明したように本発明によれば、起動時は素早く入力コンデンサ4の充電を行い、定常時には可変抵抗器10または10aによって充電抵抗器を変化させて入力コンデンサ4の電圧すなわちゲート駆動回路3の電源電圧を所定範囲に制御するようにしたので、損失が少なく且つ適切なゲート電圧得ることが可能な電力用半導体素子のゲート回路を得ることができる。また、充電抵抗器の通電容量を適切に選定することができる。
【0026】
尚、可変抵抗器は実施例1及び実施例2で説明したものに限定する必要はなく、例えば3台以上の充電抵抗器を切替えて切替回数をなるべく減らす工夫などを行なっても良く、また、充電抵抗とチョッパの直列回路として充電抵抗の充電電流を制御するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1に係る電力用半導体素子のゲート回路の回路構成図。
【図2】本発明の実施例1に係る電力用半導体素子のゲート回路の制御電源の動作タイムチャート。
【図3】本発明の実施例1に係る電力用半導体素子のゲート回路の電圧制御回路の動作フローチャート。
【図4】本発明の実施例2に係る電力用半導体素子のゲート回路の回路構成図。
【図5】本発明の実施例2に係る電力用半導体素子のゲート回路の電圧制御回路の動作フローチャート。
【符号の説明】
【0028】
1 IGBT
2 フライホイールダイオード
3 ゲート駆動回路
4 入力コンデンサ
5 電圧定圧化回路
6a、6b 充電抵抗器
7a、7b 切替スイッチ
8 電圧検出器
10、10a 可変抵抗器
20、20a 電圧制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子の負極とゲート間にゲートパルスを供給するためのゲート駆動回路と、
一端が前記電力用半導体素子の負極に接続され、前記ゲート駆動回路の制御電源と並列に接続された入力コンデンサと、
前記入力コンデンサの他端と前記電力用半導体素子の正極間に接続された可変抵抗器と、
前記入力コンデンサと並列に接続され、前記入力コンデンサの電荷を放電するための電圧安定化回路と、
前記入力コンデンサに印加される電圧を検出する電圧検出器と、
前記可変抵抗器及び前記電圧安定化回路を制御するための電圧制御手段と
を具備し、
前記電圧制御手段は、
前記電力用半導体素子の起動時には前記可変抵抗器が第1の抵抗値となるように制御し、
前記電力用半導体素子が定常運転されたときには、前記電圧検出器で検出された電圧が所定の電圧範囲となるように前記可変抵抗器を平均して前記第1の抵抗値より大きい第2の抵抗値となるように制御し、
前記電圧検出器で検出された電圧が所定の過電圧レベルを超えたとき、前記電圧安定化回路を投入するようにしたことを特徴とする電力用半導体素子のゲート回路。
【請求項2】
前記可変抵抗器は、前記第1の抵抗値を持つ第1の固定抵抗器と前記第1の抵抗値より大きい抵抗値を持つ第2の固定抵抗器とを有し、
前記前記電圧制御手段は、
前記起動時には前記可変抵抗器の前記第1の固定抵抗器を選択し、
前記定常運転時には、前記可変抵抗器の抵抗値が平均して前記第2の抵抗値となるように前記第1の固定抵抗器と前記第2の第2の固定抵抗器の選択を切替えるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体素子のゲート回路。
【請求項3】
前記可変抵抗器は、
常時接続されている第3の固定抵抗器と、
この第3の固定抵抗器より小さい抵抗値を有し、前記第3の固定抵抗器とオンオフ制御可能な状態で並列に接続された第4の固定抵抗器とから成り、
前記前記電圧制御手段は、
前記起動時には前記第4の可変抵抗器を投入し、
前記定常運転時には、前記可変抵抗器の抵抗値が平均して前記第2の抵抗値となるように前記第4の固定抵抗器をオンオフ制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体素子のゲート回路。
【請求項4】
前記定常運転時における前記第2の固定抵抗器の充電電流による前記入力コンデンサへの入力電力が、前記ゲート駆動回路が消費する電力と同等かそれより小さくなるように前記第2の固定抵抗器の抵抗値を選定したことを特徴とする請求項2に記載の電力用半導体素子のゲート回路。
【請求項5】
前記定常運転時における前記第3の固定抵抗器の充電電流による前記入力コンデンサへの入力電力が、前記ゲート駆動回路が消費する電力と同等かそれより小さくなるように前記第3の固定抵抗器の抵抗値を選定したことを特徴とする請求項3に記載の電力用半導体素子のゲート回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate