説明

電動アクチュエータ

【課題】一部に故障が生じても動作機能が担保される好適な電動アクチュエータを実現する。
【解決手段】第一の出力部材5を作動させる第一の回動部材3と、第二の出力部材6を作動させる第二の回動部材4との間にトルクリミッタ7を介設している。何れかの出力部材5、6がジャミングを起こした状態で、他方の回動部材4、3を駆動しようとすると、トルクリミッタ7による両回動部材3、4の接続が遮断される。結果、回動部材4、3の一方が他方に対して相対回動することが許容され、ジャミングを起こしていない出力部材6、5の動作機能が維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、一般産業機械等の駆動系に用いられる電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機の操舵面駆動システムは、主翼の前後縁部にスラット、フラップ等の舵面を配しつつ、それら舵面の動作を惹起するアクチュエータを付設して構成される。アクチュエータには、下記特許文献に開示されているような油圧駆動式のものが多く実用されている。
【特許文献1】特開2002−323010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
油圧駆動アクチュエータは、油圧源となるポンプ、油圧の供給回路及び作動油を必要とし、システムを重量化するきらいがある。加えて、作動油の漏出を完全には回避できず、メンテナンスにも手間がかかる。このような事情から、油圧駆動アクチュエータを(油圧を使用しない)電動アクチュエータに置き換えることが検討されている。一方で、特に航空機に実装する場合には、アクチュエータの一部に故障が生じたとしても機能を維持できるような多重化の仕組みが必須要件となる。
【0004】
以上に鑑みてなされた本発明は、一部に故障が生じても動作機能が担保される好適な電動アクチュエータを実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電動アクチュエータは、第一のモータと、前記第一のモータが出力する駆動力を受けて回動する第一の回動部材と、前記第一の回動部材を介して伝達される駆動力に起因して作動する第一の出力部材と、第二のモータと、前記第二のモータが出力する駆動力を受けて回動する第二の回動部材と、前記第二の回動部材を介して伝達される駆動力に起因して作動する第二の出力部材と、前記第一の回動部材と前記第二の回動部材との間でトルクを伝達可能とし、かつ所定以上の過大な伝達トルクが作用した際には一方の回動部材が他方の回動部材に対して相対的に回動することを許容するトルク伝達機構とを具備してなる。
【0006】
本電動アクチュエータは、平常時、第一のモータが主体となって第一の出力部材を作動させ、第二のモータが主体となって第二の出力部材を作動させるものであり、これら出力部材の動作を利用してシステムにおける所要の構成部材を駆動し得る。その上で、第一の回動部材と第二の回動部材とがトルク伝達機構を介して接続していることから、第一のモータによって第二の出力部材を作動させることも、第二のモータによって第一の出力部材を作動させることも可能である。故に、電気系統の故障等で何れかのモータが起動不能になったとしても、もう一方のモータが起動可能であれば出力部材の動作機能は維持される。
【0007】
さらに、何れかの出力部材がジャミングを起こして動作不良に陥った暁には、該当の出力部材に対応する側の回動部材が回動困難となるが、相対する側の回動部材を回動駆動すれば、トルク伝達機構に所定以上の過大な伝達トルクが作用して、結果両回動部材の接続が実質的に解除される。これにより、ジャミングを起こしていない出力部材の動作機能は依然維持される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一部に故障が生じても動作機能が担保される好適な電動アクチュエータを実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態の電動アクチュエータは、第一の出力部材5と第二の出力部材6とを略同心軸上に配置し、両出力部材5、6を互いに相反する動作方向に作動させ得るようにしたものである。この電動アクチュエータは、例えば、航空機の舵面駆動システムに実装される。即ち、一方の出力部材6の先端を航空機の機体側に接続し、他方の出力部材5の先端を舵面側に接続して、舵面を進退または揺動させるべく用いられる。
【0010】
本電動アクチュエータは、複数基の電動モータ1、2を備え、これらモータ1、2が出力する駆動力によって出力部材5、6を駆動する。詳述すると、第一のモータ1は、第一の伝動機構8を介して第一の回動部材3を回動させ、この回動部材3の回動を通じて第一の出力部材5を作動させる。第二のモータ2は、第二の伝動機構9を介して第二の回動部材4を回動させ、この回動部材4の回動を通じて第二の出力部材6を作動させる。第一の伝動機構8、第二の伝動機構9はそれぞれ、噛合する歯車列を要素とした歯車伝動機構である。伝動機構8、9、回動部材3、4及び出力部材5、6の基端部位はケーシング内に収めてあり、出力部材5、6の先端部位のみがケーシング外に突出している。
【0011】
回動部材3、4と出力部材5、6との間には、回動部材3、4の回動を出力部材5、6の進退移動に変換する動作変換機構を介設している。本実施形態では、回動部材3、4と出力部材5、6とのうち一方(図示例では、出力部材5、6)にねじ軸部51、61を設け、他方(回動部材3、4)にねじナット部31、41を設けて、両者の螺合によるねじ送り機構、特にボールねじ機構を構成している。回動部材3、4が軸心A回りに回動したとき、出力部材5、6は軸心A方向に沿って進出または退入する。
【0012】
並びに、第一の回動部材3と第二の回動部材4との間には、トルク伝達機構たるトルクリミッタ7を介設している。このトルクリミッタ7により、第一の回動部材3から第二の回動部材4へ、また第二の回動部材4から第一の回動部材3へ、相互にトルクを伝達可能である。但し、トルクリミッタ7に作用する伝達トルクが所定以上となったときには、そのトルクの伝達を遮断し、一方の回動部材3、4が他方の回動部材4、3に対して相対的に回動することを許容する。
【0013】
平常時には、第一のモータ1が第一の回動部材3を回動駆動し、第二のモータ2が第二の回動部材4を回動駆動して、以て第一の出力部材5及び第二の出力部材6を作動させる。両回動部材3、4がトルクリミッタ7を介して接続していることから、これら回動部材3、4はフォースファイトしながら同方向に回動し、両出力部材5、6を互いに相反する方向に移動させる。つまり、モータ1、2の駆動方向に応じて、両出力部材5、6の先端間の距離が伸長または収縮する。
【0014】
そして、電気系統の故障等が発生して何れかのモータ1、2が起動不能になったとしても、もう一方のモータ2、1が起動可能であれば、両出力部材5、6を作動させることができる。
【0015】
また、ボールねじの内部に異物が進入したり、ボールが破損したり、あるいは伝動機構8、9における歯車の歯が損傷したりすると、出力部材5、6が動作不良に陥るジャミング状態となる。何れかの出力部材5、6が動作不良に陥ると、その出力部材5、6に対応する側の回動部材3、4も回動困難となる。このときに、相対する側の回動部材4、3を回動駆動すると、トルクリミッタ7に所定以上の過大な伝達トルクが作用することとなり、トルクリミッタ7の機能によってトルクの伝達が遮断される。結果、両回動部材3、4の接続が実質的に解除され、一方の回動部材4、3が他方の回動部材3、4に対して相対的に回動可能となる。換言すれば、第一の出力部材5を作動させる系列と、第二の出力部材6を作動させる系列とが機械的に切り離される。これにより、ジャミングを起こしていない出力部材6、5は依然として作動させることができる。
【0016】
本実施形態の電動アクチュエータは、第一のモータ1と、前記第一のモータ1が出力する駆動力を受けて回動する第一の回動部材3と、前記第一の回動部材3を介して伝達される駆動力に起因して作動する第一の出力部材5と、第二のモータ2と、前記第二のモータ2が出力する駆動力を受けて回動する第二の回動部材4と、前記第二の回動部材4を介して伝達される駆動力に起因して作動する第二の出力部材6と、前記第一の回動部材3と前記第二の回動部材4との間でトルクを伝達可能とし、かつ所定以上の過大な伝達トルクが作用した際には一方の回動部材4、3が他方の回動部材3、4に対して相対的に回動することを許容するトルク伝達機構7とを具備してなり、何れかのモータ1、2が起動できなくとも残るモータ2、1で出力部材6、5を作動させることが可能である。のみならず、何れかの出力部材5、6が動作不良に陥ったとしても依然としてもう一方の出力部材6、5は作動させることが可能である。
【0017】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、トルク伝達機構は、過大トルク作用時に両回動部材の接続を遮断するトルクリミッタに限定されない。複数枚の摩擦板の摩擦を通じてトルクを伝達し、過大トルク作用時にすべりを発生させて伝達トルクを制限する摩擦クラッチ(スリップクラッチ)等をトルク伝達機構として採用することも考えられる。
【0018】
伝動機構は、歯車伝動機構であるとは限られず、ベルトやチェーン等を使用した巻掛伝動機構等であっても構わない。
【0019】
また、出力部材は、軸心方向に沿って進退移動するとは限られない。出力部材が、軸心回りに回動するものであってもよく、このときには回動部材の回動を出力部材の進退移動に変換する動作変換機構は不要となる。
【0020】
その他各部の具体的構成は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の電動アクチュエータを示す断面図。
【符号の説明】
【0022】
1…第一のモータ
2…第二のモータ
3…第一の回動部材
4…第二の回動部材
5…第一の出力部材
6…第二の出力部材
7…トルク伝達機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のモータと、
前記第一のモータが出力する駆動力を受けて回動する第一の回動部材と、
前記第一の回動部材を介して伝達される駆動力に起因して作動する第一の出力部材と、
第二のモータと、
前記第二のモータが出力する駆動力を受けて回動する第二の回動部材と、
前記第二の回動部材を介して伝達される駆動力に起因して作動する第二の出力部材と、
前記第一の回動部材と前記第二の回動部材との間でトルクを伝達可能とし、かつ所定以上の過大な伝達トルクが作用した際には一方の回動部材が他方の回動部材に対して相対的に回動することを許容するトルク伝達機構と
を具備する電動アクチュエータ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−8470(P2008−8470A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182266(P2006−182266)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】