説明

電動パワーステアリング装置

【課題】制御ユニット装着面の平面加工処理を必要最小限として加工費を低減するとともに、減速ギヤボックスに制御ユニットを装着した後に、放熱グリースが塗布されているか否かを容易に確認することができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルクが伝達されるステアリングシャフトに連結された減速機構を内装する減速ギヤボックス4に、電動モータを駆動制御する制御ユニットを装着する制御ユニット装着面20aが形成され、該制御ユニット装着面20aは、放熱グリースを塗布する平面加工処理されたグリース塗布面20cと、該グリース塗布面に連接して形成された当該グリース塗布面の高さより一段低い外周取付面20dとで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵トルクが伝達されるステアリングシャフトを内装するステアリングコラムと、前記ステアリングシャフトに連結された減速機構を内蔵する減速ギヤボックスと、該減速ギヤボックスに装着されて前記減速機構を介して前記ステアリングシャフトに操舵補助力を伝達する電動モータとを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動パワーステアリング装置として、例えばハンドルに対して補助するトルクに応じて電動モータの電流を切り換えるための複数の半導体スイッチング素子、前記電流のリップルを吸収するコンデンサを含む大電流部品から構成されたパワー本体と、前記ハンドルの操舵トルクに基づいて前記半導体スイッチング素子の駆動を制御するための駆動信号を生成するマイクロコンピュータを含む複数の小電流部品から構成された制御本体と、絶縁層及び配線パターンを形成する導体層が複数層積層されているとともに、スルーホールが形成され、前記パワー本体及び前記制御本体を搭載した回路基板と、この回路基板を収納しているとともに、高熱伝導率の金属材料で構成された方形枠状のヒートシンクとを備え、前記大電流部品、前記小電流部品は、前記回路基板の両面に搭載され、前記導体層、前記スルーホールを通じて電気的に接続され、前記ヒートシンクが電動モータの外周面に形成されたブラケットに装着された構成を有する電動式パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、電動モータで発生する操舵補助力を減速ギヤボックス内の減速機構を介してステアリングシャフトに伝達し、減速ギヤボックスに電動モータを制御する制御ユニットが装着され、この制御ユニットは電動モータの駆動指令値を演算する指令値演算部を実装した制御基板と、指令値演算部からの駆動指令値に基づいて電動モータを駆動制御する発熱を伴うパワーモジュールを実装したパワーモジュール基板とを少なくとも含み、前記パワーモジュールが高熱伝導板部を介して減速ギヤボックスの制御ユニット装着面に装着され、高熱伝導板部と制御ユニット装着面との間に放熱グリースが塗布された構成を有する電動パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−237790号公報
【特許文献2】特開2007−276741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、複数の半導体スイッチング素子、前記電流のリップルを吸収するコンデンサを含む大電流部品から構成されたパワー本体と小電流部品から構成された制御本体とを回路基板の両面に搭載し、パワー本体が熱伝導性絶縁シートを介してヒートシンクに接触されているが、ヒートシンク自体は全体が電動モータのブラケットに固定されているものではなく、ヒートシンクの一部が電動モータのブラケットに固定されているだけであるので、大きな放熱効果を期待することはできず、ヒートシンクの大型化という未解決の課題がある。
【0005】
また、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、熱容量の大きい減速ギヤボックスに制御ユニットを装着する制御ユニット装着面を形成し、この制御ユニット装着面に放熱グリースを塗布し、その上に高熱伝導板部を介してパワーモジュールを装着するので、十分な放熱効果を得ることができるものであるが、より高い放熱効果を得るためには、制御ユニット装着面を平面加工処理して表面を平坦化する必要があり、制御ユニット装着面が広いことから加工費が嵩むとともに、制御ユニットを装着した状態で、放熱グリースが塗布されているか否かの確認を行うことができないという未解決の課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、制御ユニット装着面の平面加工処理を必要最小限として加工費を低減するとともに、減速ギヤボックスに制御ユニットを装着した後に、放熱グリースが塗布されているか否かを容易に確認することができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る電動パワーステアリング装置は、操舵トルクが伝達されるステアリングシャフトを内装するステアリングコラムと、前記ステアリングシャフトに連結された減速機構を内蔵する減速ギヤボックスと、該減速ギヤボックスに装着されて前記減速機構を介して前記ステアリングシャフトに操舵補助力を伝達する電動モータとを備えた電動パワーステアリング装置であって、前記減速ギヤボックスに、前記電動モータを駆動制御する制御ユニットを装着する制御ユニット装着面が形成され、該制御ユニット装着面は、放熱グリースを塗布する平面加工処理されたグリース塗布面と、該グリース塗布面に連接して形成された当該グリース塗布面の高さより一段低い外周取付面とで構成されている。
【0008】
また、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記制御ユニットは、少なくとも前記電動モータを駆動するパワー素子を実装したパワー基板と、前記電動モータの駆動指令値を演算する指令値演算部を実装した制御基板とを備え、前記前記グリース塗布面は、前記パワー基板の装着位置に当該パワー基板と対向して形成されている。
さらに、本発明のさらに他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記グリース塗布面に放熱グリースを塗布した状態で、前記パワー基板が放熱プレートを介して装着されている。
【0009】
さらにまた、本発明のさらに他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記グリース塗布面に塗布する放熱グリースの塗布量を、放熱グリースをグリース塗布面に定量塗布した状態で、前記放熱プレートを固定部材で固定した際に、前記放熱グリースが圧延されて外周面に溢れ出る量に選定されている。
なおさらに、本発明のさらに他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記放熱グリースの前記グリース塗布面への塗布をディスペンサ装置で定量塗布することにより行う。
【0010】
また、本発明のさらに他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記グリース塗布面における前記放熱グリースの圧延による侵入を拒む部位と前記放熱グリースの定量塗布位置との間にグリース溜め溝を形成した構成を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電動モータを駆動制御する制御ユニットを装着する制御ユニット装着面が、平面加工処理されたグリース塗布面と、このグリース塗布面の周囲に形成されたグリース塗布面の高さより一段低い外周面とで構成されているので、グリース塗布面を熱電動に必要最小限の面積とすることにより、制御ユニット装着面の全面を平面加工処理する場合に比較して加工費を低減することができるという効果が得られる。ここで、グリース塗布面の面積は制御ユニットを構成する発熱を伴うパワー基板の面積を包含できる最小限の面積に設定する事が好ましい。
【0012】
また、グリース塗布面の外側に一段下がった外周面が形成されているので、グリース塗布面に塗布するグリース量をグリース塗布の全面に行き渡るより多めに設定することにより、放熱グリースを外周面に溢れださせて制御ユニットの装着後に放熱グリースが塗布されているか否かを視認することが可能となるという効果が得られる。
さらに、グリース塗布面におけるグリースの圧延による侵入を拒む部位と放熱グリースの定量塗布位置との間にグリース溜め溝を形成することにより、圧延されてくる放熱グリースをグリース溜め溝に回収して放熱グリースがその侵入を拒む部位侵入することを阻止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を右ハンドル車に適用した場合の一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を左方向から示した斜視図、図2は制御ユニットを装着していない状態の減速ギヤボックスを示す斜視図、図3は制御ユニットを装着していない状態の減速ギヤボックスを示す正面図、図4は制御ユニットを装着していない状態の減速ギヤボックスを示す右側面図、図5は制御ユニットを装着した状態の減速ギヤボックスを示す正面図、図6は減速ギヤボックス位置における要部を拡大して示す断面図、図7は電動モータを示す斜視図、図8は制御ユニットの分解斜視図、図9は電動モータ及び制御ユニットを装着した減速ギヤボックスを示す斜視図、図10は電動パワーステアリング装置の一実施形態を車両前方側から示した斜視図である。
【0014】
図1において、コラム型の電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール(図示せず)に連結されたステアリングシャフト2を回転自在に内装するステアリングコラム3を有する。このステアリングコラム3に、減速ギヤボックス4が連結され、この減速ギヤボックス4に、軸方向がステアリングコラム3の軸方向と直交する左方向に延長された電動モータ5が配設されている。
【0015】
ステアリングコラム3は、内管3a及び外管3bの2重管構造となっている。そして、ステアリングコラム3の外管3b及び減速ギヤボックス4が、アッパ取付ブラケット6及びロア取付ブラケット7によって車体側に取付けられている。ロア取付ブラケット7は、車体側部材(不図示)に取付けられる取付板部7aと、この取付板部7aの下面から左右方向に所定間隔を保って平行に延長する一対の支持板部7bとで形成されている。そして、支持板部7bの下端が、図6に示すように減速ギヤボックス4の車両前方側に設けられたボックスカバー4bに一体形成された支持部4cに枢軸7cを介して回動自在に連結されている。
【0016】
アッパ取付ブラケット6は、車体側部材(不図示)に取付けられる取付板部6aと、この取付板部6aの下端に固定されて左右(車幅)方向に離間している1対の支持板部6bと、これら一対の支持板部6bに形成されたステアリングコラム3の外管3bを支持するチルト機構6cとを備えている。そして、チルト機構6cのチルトレバー6gを回動させ、外管3bの支持状態を解除することにより、ステアリングコラム3をロア取付ブラケット7の枢軸7cを中心として上下にチルト位置調整可能とされている。
【0017】
ステアリングシャフト2は、図6に示すように、上端がステアリングホイール(図示せず)に連結される入力軸2aと、この入力軸2aの下端にトーションバー2bを介して連結されたトーションバー2bを覆う出力軸2cとで構成されている。
減速ギヤボックス4は、高熱伝導性を有する材料例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム及びマグネシウム合金の何れか1つを例えばダイキャスト成型することにより形成されている。
【0018】
この減速ギヤボックス4は、図2〜図4に示すように、図7に示す電動モータ5の出力軸5aに連接されたウォーム11を収納するウォーム収納部12と、このウォーム収納部12の下側にその中心軸と直交する中心軸を有しウォーム11に噛合するウォームホイール13を収納するウォームホイール収納部14と、このウォームホイール収納部14の車両後方側に一体に同軸的に連結されたトルクセンサ15を収納するトルクセンサ収納部16と、ウォーム収納部12の開放端面に形成された電動モータ5を取付けるモータ取付部17と、トルクセンサ収納部16の車両後端に形成された筒状のコラム取付部18と、ウォーム収納部12とウォームホイール収納部14の一部に跨がって形成された制御ユニット19を装着する制御ユニット装着部20とを備えている。
【0019】
そして、ウォームホイール収納部14の車両前方側に形成された開口部がボックスカバー4bによって閉塞されている。このボックスカバー4b及びウォームホイール収納部14に、ステアリングシャフト2の出力軸2c及びこの出力軸2cに嵌合されたウォームホイール13が転がり軸受4d及び14aによって回転自在に支持されている。また、減速ギヤボックス4のコラム取付部18に、ステアリングコラム3の車両前端部が外嵌されて連結されている。
【0020】
ここで、トルクセンサ15は、図6に示すように、ステアリングシャフト2の入力軸2a及び出力軸2c間の捩じれ状態を磁気的に検出してステアリングシャフトに伝達された操舵トルクを一対の検出コイル15a及び15bで検出するように構成され、これら一対の検出コイル15a,15bの巻き始め及び巻き終わりに夫々ステアリングコラム3の中心軸と直交する上方に突出する外部接続端子15c,15d及び15e,15fが接続されている。
【0021】
外部接続端子15c〜15fには、図6に示すように、後述する制御ユニット19の制御基板25に接続されている。
一方、電動モータ5は、図7に示すように、その取付フランジ5bに近い位置における制御ユニット装着部20に装着された制御ユニット19に近接対向する位置に電力受給接続部としての接続端子5c,5dが形成されている。
【0022】
減速ギヤボックス4に形成された制御ユニット装着部20は、図2〜図4に示すように、ウォーム収納部12とその下側のウォームホイール収納部14の上部側とで車体後方側を向いて形成されている取付面20aと、この取付面20a及びトルクセンサ収納部16の上面に形成した取付面20aに対して直交し、水平方向に延在する矩形状のユニット載置面20bとで図4で見てL字状に形成されている。
【0023】
取付面20aは、図3及び図4で特に明らかなように、中央部に後述する制御ユニット19のパワー基板23を装着する位置に、表面粗さが細かく平坦度が高い平面加工処理された長方形のグリース塗布面20cが形成され、このグリース塗布面20cの左右位置に連接してグリース塗布面20cより一段低く(例えば1mm程度)ダイキャスト成形時の粗い表面粗さの外周面としての外周取付面20dが形成され、さらにグリース塗布面20cの上面側に切欠部でなるグリース視認部20eが形成されている。
【0024】
ここで、取付面20aのグリース塗布面20cにおけるユニット載置面20b側端部の左右方向の中央部には、図3に示すように、円弧状のグリースの侵入を防ぐグリース留め溝20fが形成され、このグリース留め溝20fの下側に、トルクセンサ15を収納しているトルクセンサ収納部16の内部空間に連通する開口部20gが形成されている。この開口部20fを通過してトルクセンサ15の外部接続端子15c〜15fがユニット載置面20bの上方に突出して配設されている。
【0025】
そして、後述するように、制御ユニット装着部20に制御ユニット19を装着する際に、グリース塗布面20cにおける略中央位置の1ポイントに、図3で一点鎖線図示のように、ディスペンサ装置を使用して熱伝導グリース20hを定量塗布する。このときの、熱伝導グリースの塗布量は、塗布した熱伝導グリース20gに制御ユニット19の放熱プレート21の底面を当接させて放熱プレート21を外周取付面20dにねじ留めしたときの圧接力で熱伝導グリース20gが圧延されてグリース塗布面20cの全面に拡がり、その一部が外周取付面20d及びグリース視認部20eに溢れる出す程度の量に設定されている。
【0026】
また、モータ取付部17の車体後端面にも、平坦取付面20aと平行でこの平坦取付面20aより車体後方側の位置に幅狭のフレーム取付面20iが形成されている。
制御ユニット装着部20に装着される制御ユニット19は、図8に示すように、熱伝動率の高い金属製の放熱プレート21と、パワー基板23と、合成樹脂製フレーム24と、制御基板25と、ユニットカバー26とを備えている。
【0027】
放熱プレート21は、制御ユニット装着部20の平坦取付面20aに放熱グリースを介して直接固定される。パワー基板23は、放熱プレート21上に例えばネジ止めによって固定されている。このパワー基板23は、電動モータ5を駆動制御する電界効果トランジスタ等のパワースイッチング素子で構成されるHブリッジ回路やこのHブリッジ回路のパワースイッチング素子を駆動するパルス幅変調回路等のディスクリート部品23aが実装される。合成樹脂製フレーム24は長方形枠上に形成されてパワー基板23を囲繞する。
【0028】
制御基板25は、合成樹脂製フレーム24の正面に取付けられ、トルクセンサ15の外部接続端子15c〜15fが挿通されるスルーホール25a〜25dが穿設され、トルクセンサ15からのトルク検出値や図示しない車速センサからの車速検出値に基づいて操舵補助電流指令値を算出し、この操舵補助電流指令値と電動モータ5に出力するモータ電流の検出値とに基づいて電流フィードバック制御を行ってパワー基板23のパルス幅変調回路への電圧指令値を算出することにより、電動モータ5で発生させる操舵補助力を制御するマイクロコントロールユニット(MCU)やその周辺機器等のディスクリート部品25eが実装されている。
【0029】
ユニットカバー26は、パワー基板23、合成樹脂製フレーム24及び制御基板25を覆うように下端を開放した箱状に形成されている。
合成樹脂製フレーム24は、長方形枠状のフレーム本体24aと、このフレーム本体24aの左端に形成され、減速ギヤボックス4のフレーム取付面20iに固定される取付板部24bと、この取付板部24b上に固定され電動モータ5の接続端子5c,5dに電気的に接続する電力送給接続部としての端子台24cと、フレーム本体24aの右端に固定された雌型コネクタ45とを備えている。雌型コネクタ45は、バッテリ(図示せず)に電源用雄型コネクタ(図示せず)を介して接続される電源コネクタ45aと、車体の各部の制御機器とのデータの授受を行うCANなどのネットワークに接続する信号コネクタ45bとを備えている。パワー基板23及び制御基板25は、接続端子23bを介して接続されている。
【0030】
そして、上記構成を有する制御ユニット19は、減速ギヤボックス4の制御ユニット装着部20に装着され、図9に示すように、合成樹脂製フレーム24の取付板部24bに固定されている端子台24cと、電動モータ5の接続端子5c,5dとが電気的に接続される。
また、電動モータ5の接続端子5c,5dと端子台24cとの固定部でなる電気的接続部が図1に示すように合成樹脂材で一体成形された端子カバー27で覆われている。
【0031】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
先ず、電動パワーステアリング装置1を組み立てるには、減速ギヤボックス4のトルクセンサ収納部16内に、トルクセンサ15をその外部接続端子15c〜15fの先端が第1及び第2の平坦取付面20a及び20bの境界部に形成された開口20cを通じて、ユニット載置面20bと平行に車両後方に延長するように固定配置する。
【0032】
次いで、減速ギヤボックス4のウォーム収納部12にウォーム軸11を回転自在に支持すると共に、ボックスカバー4b及びウォームホイール収納部14で、転がり軸受4d及び14aによってステアリングシャフト2の入力軸2aをトーションバー2bを介して連結した出力軸2c及びウォームホイール13を回転自在に支持する。
次いで、減速ギヤボックス4の制御ユニット装着部20に制御ユニット19を装着する。この場合、制御ユニット19は、予め放熱プレート21、パワー基板23、樹脂フレーム24、制御基板25及びユニットカバー26を組付けた状態としておく。この制御ユニット19の装着は、先ず、取付面20aのグリース塗布面20cに、図3で一点鎖線図示のように、中央やや左寄り位置の1ポイントにディスペンサ装置を使用して熱伝導グリース20hを円形に定量塗布する。
【0033】
このときの、熱伝導グリース20hの塗布量が、後述するように、放熱プレート21を外周取付部20dにねじ留めによって固定したときに、その底面によって圧延されてグリース塗布面20cの全面に拡がり、その一部が外周側の外周取付面20d及びグリース視認部20eに溢れる程度の量に設定されている。
その後、組付けられた制御ユニット19の放熱プレート21をグリース塗布面20c及び外周取付面20d上の所定位置に載置し、ユニットカバー26を外周取付面20dにねじによって放熱プレート21と共締めすることにより、制御ユニット19の装着を完了する。
【0034】
このように制御ユニット19を外周取付面20dにねじ留めによって固定すると、放熱プレート21のねじ留め時の軸力で、放熱プレート21の底面がグリース塗布面20cに圧接し、この圧接力で熱伝導グリース20hがグリース塗布面20cの全面に圧延され、その一部が左右の一段低い外周取付面20d及び上方のグリース視認部20eに溢れ出す。このとき、グリース塗布面20cの下面側に形成された熱伝導グリース20hの侵入を拒む部位となるトルクセンサ15の外部接続端子15c〜15fを突出させた開口部20g側にも熱伝導グリース20hが圧延されるが、開口部20gの上方側に円弧状のグリース留め溝20fが形成されているので、このグリース留め溝20fに圧延された熱伝導グリース20hが溜められることになり、開口部20gへの熱伝導グリース20hの侵入が阻止される。
【0035】
このように、放熱プレート21の外周取付面21dへのねじ留めによって、グリース塗布面20cから熱伝導グリース20hが左右の外周取付面20d及び上側のグリース視認部20eに溢れ出すので、制御ユニット装着部20への制御ユニット19の装着後に、例えば図10に示すように、車両前方側からグリース視認部20eへ溢れ出している熱伝導グリース20hを視認することにより、グリース塗布面20cへ熱伝導グリース20hが塗布されているか否かを容易に把握することができ、熱伝導グリース20hの塗布漏れを確実に防止することができる。しかも、グリース視認部20eは上方に位置するので、溢れた熱伝導グリース20hが滴下することを防止することができる。
【0036】
さらに、外周取付面20dがグリース塗布面20cより一段低く形成されているので、放熱プレート21を外周取付面20dにねじ留めしたときに、放熱プレート21の底面が確実にグリース塗布面20cに接触することになり、熱伝導グリース20hの圧延を良好に行なうことができる。
また、熱伝導グリース20hを塗布するグリース塗布面20cが発熱を伴うパワー素子等を実装したパワー基板23を装着する位置に対向して形成され、その表面が高精度で平面加工処理されているので、放熱プレート21の圧接時に熱伝導グリース20hの圧延が良好に行なわれて、熱伝導グリース20hの塗布膜厚を均一化することができ、良好な放熱効果を発揮することができる。しかも、平面加工処理されたグリース塗布面20cがパワー基板23に相当する必要最小限の面積とされているので、制御ユニット装着面20a全体を平面加工処理する場合に比較して加工費を低減できるとともに、加工時間を短縮することができる。
【0037】
このように、制御ユニット19を構成する発熱を伴うパワー基板23がアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム及びマグネシウム合金の何れか1つで形成された減速ギヤボックス4の制御ユニット装着部20における取付面20aにおけるグリース塗布面20cに放熱プレート21及び放熱グリースを介して直接接触されるので、パワー基板23の発熱を熱容量の大きいヒートマスとなる減速ギヤボックス4に放散することができ、パワー基板23が過熱状態となることを確実に防止することができる。
【0038】
次いで、減速ギヤボックス4のモータ装着部17に電動モータ5を装着する。この電動モータ5の装着は、先ず、電動モータ5の出力軸5aと減速ギヤボックス4のウォーム収納部12に収納されたウォーム11を取付けたウォーム軸(図示せず)とを両者の端面を当接させた状態で電動モータ5を円周方向に回転させながら浅くスプライン結合又はセレーション結合する。この浅いスプライン結合又はセレーション結合が完了すると、再度電動モータ5を円周方向に回転させて取付フランジ5bをモータ装着部17のフランジ部17aに対向させると共に、接続端子5c及び5dを制御ユニット19の合成樹脂フレーム24に形成された端子台24cに対向させた状態で、電動モータ5を減速ギヤボックス4に押し込んでインロー結合させる。
【0039】
この状態となると、接続端子5c及び5dが端子台24cに面接触するので、この状態でネジ回し等の工具で接続端子5c及び5dと端子台24cとをねじ止め固定する。そして、接続端子5c及び5dと端子台24cとの固定が完了すると、端子台24c及び接続端子5c及び5dの電気的接続部を覆うように端子カバー27を端子台24cに装着する。
【0040】
なお、電動モータ5の装着時に、接続端子5c及び5dが軸方向と直交する方向に突出しているので、電動モータ5全体を回動させる際に、接続端子5c及び5dが端子台24cに干渉することを確実に阻止することができる。
また、接続端子5c及び5dを端子台24cに面接触させて最短距離で強固に取付けることができるので、接続端子5c,5d及び端子台24c間をモータハーネスを介することなく電気的に直接接続することができると共に、トルクセンサ15の外部接続端子15c〜15fと制御基板25のスルーホール25a〜25dとをセンサハーネスを介することなく電気的に直接接続することができる。このため、制御ユニット19と電動モータ5及びトルクセンサ15との間の電気的接続長さを最小として、配線抵抗を最小とすることができ、電力損失を抑制することができると共に、電気ノイズが乗ることも低減することができる。
【0041】
また、電動モータ5及び制御ユニット19間にモータハーネスを設ける必要がないので、モータハーネスから放射されるノイズが少なくなり、ラジオノイズに対する影響を軽減させることができる。
さらに、減速ボックス4のトルクセンサ収納部16の上部に制御ユニット19を配置することにより、減速ギヤボックス4全体の軸方向長さを短縮して小型化を図ることができる。
【0042】
この状態で、アッパ取付ブラケット6及びロア取付ブラケット7を車体側部材に取付けてから制御ユニット19における合成樹脂フレーム24に形成された電源コネクタ45a及び信号コネクタ45bに夫々バッテリ及びアースポイントに接続された外部接続コネクタ並びにCANなどのネットワークの接続コネクタを装着することにより、電動パワーステアリング装置1の組付けを完了する。
【0043】
このように電動パワーステアリング装置1の組付けを完了すると、車両の図示しないイグニッションスイッチをオン状態としてパワー基板23及び制御基板25にバッテリから電力を供給すると、マイクロコントロールユニット(MCU)によって操舵補助制御処理が実行されて、トルクセンサ15及び図示しない車速センサの検出値に基づいて操舵補助電流指令値が算出される。この操舵補助電流指令値とモータ電流検出部で検出したモータ電流とに基づいて電流フィードバック処理を実行して、電圧指令値を算出する。この電圧指令値をパワー基板23のゲート駆動回路に供給してHブリッジ回路を制御することにより、電動モータ5にモータ駆動電流が流れて電動モータ5を正転又は逆転方向に必要とする操舵補助力を発生するように駆動する。
【0044】
このため、電動モータ5からステアリングホイールの操舵トルクに応じた操舵補助力が発生され、この操舵補助力がウォーム11及びウォームホイール13を介してステアリングシャフト2の出力軸2cに伝達されることにより、ステアリングホイールを軽い操舵力で操舵することができる。
なお、上記実施形態においては、グリース塗布面20cの1ポイントに熱伝導グリース20hを定量塗布する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、2ポイント以上の複数ポイントに熱伝導グリース20hを塗布するようにしてもよく、塗布した熱伝導グリースを塗り広げるようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、熱伝導グリース20hが外周取付面20d及びグリース視認部20eの双方に溢れ出すようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、少なくともグリース視認部20eに溢れ出るようにすればよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、グリース視認部20eを切欠部で構成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、外周取付部20dと同一の段差としてもよく、要は溢れ出る熱伝導グリース20hを外部から視認できればよいものである。
さらに、上記実施形態においては、電動モータ5としてブラシモータを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ブラシレスモータを適用するようにしてもよく、この場合には、ブラシレスモータに駆動交流の相数に応じた電力受給側端子を突出形成し、端子台24cにも交流相数に応じた電力送給側端子を形成し、さらにパワー基板23にブラシレスモータを駆動する例えば電界効果トランジスタ(FET)を有するインバータ回路及びインバータ回路の電界効果トランジスタ等のスイッチング素子のゲートをパルス幅変調信号で駆動するゲート駆動回路を実装すればよい。この場合、ブラシレスモータの回転位置を検出するレゾルバ等の回転位置検出部をブラシレスモータに内蔵する場合には、これら回転位置検出部の信号接続部も端子カバーで覆うようにしてもよい。
【0046】
さらにまた、上記実施形態においては、本発明を右ハンドル車に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、左ハンドル車に適用する場合には、減速ギヤボックス4、電動モータ5及び制御ユニット19の配置をステアリングコラム3の中心軸を通る垂直面を挟んで面対称に即ち制御ユニット19の右側に電動モータ5を配置し、制御ユニット19の雌型コネクタ45及び端子台24cを左側に配置すればよく、さらには電動モータ5を車両外側に、雌型コネクタ45及び端子台24cを車両内側に配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を右ハンドル車に適用した場合の左方向から示した斜視図である。
【図2】図1の減速ギヤボックスを示す斜視図である。
【図3】制御ユニット装着前の減速ギヤボックスを示す正面図である。
【図4】制御ユニット装着前の減速ギヤボックスを示す右側面図である。
【図5】制御ユニット装着後の減速ギヤボックスを示す正面図である。
【図6】電動パワーステアリング装置を構成する減速ギヤボックスの要部を示す縦断面図である。
【図7】電動モータを示す斜視図である。
【図8】制御ユニットの分解斜視図である。
【図9】電動モータ及び制御ユニットを装着した状態の減速ギヤボックスを示す斜視図である。
【図10】電動パワーステアリングを車両前方側から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
2…ステアリングシャフト、2a…入力軸、2b…トーションバー、2c…出力軸、3…ステアリングコラム、3a…内管、3b…外管、4…減速ギヤボックス、4b…支持部、5…電動モータ、5b…取付フランジ、5c,5d…接続端子、5f…ブラシ支持体、5g,5h…ブラシ、5i,5j…接続端子、6…アッパ取付ブラケット、6a…取付板部、6b…支持板部、6c…チルト機構、6g…チルトレバー、7…ロア取付ブラケット、7a…取付板部、7b…支持板部、7c…枢軸、11…ウォーム、12…ウォーム収納部、13…ウォームホイール、14…ウォームホイール収納部、15…トルクセンサ、15a,15b…検出コイル、15c〜15f…外部接続端子、16…トルクセンサ収納部、17…モータ取付部、18…コラム取付部、19…制御ユニット、20…制御ユニット装着部、20a…取付面、20b…ユニット載置面、20c…グリース塗布面、20d…外周取付面、20e…グリース視認部、20f…グリース留め溝、20f…開口部、20h…熱伝導グリース、20i…フレーム取付面、21…放熱プレート、23…パワー基板、23a…ディスクリート部品、24…合成樹脂製フレーム、24a…フレーム本体、24b…取付板部、24c…端子台、24d…上端面、24e…下端面、24f…係止爪、25…制御基板、25a〜25d…スルーホール、25e…ディスクリート部品、26…ユニットカバー、27…端子カバー、45…雌型コネクタ、45a…電源コネクタ、45b…信号コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵トルクが伝達されるステアリングシャフトを内装するステアリングコラムと、前記ステアリングシャフトに連結された減速機構を内蔵する減速ギヤボックスと、該減速ギヤボックスに装着されて前記減速機構を介して前記ステアリングシャフトに操舵補助力を伝達する電動モータとを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記減速ギヤボックスに、前記電動モータを駆動制御する制御ユニットを装着する制御ユニット装着面が形成され、
該制御ユニット装着面は、放熱グリースを塗布する平面加工処理されたグリース塗布面と、該グリース塗布面に連接して形成された当該グリース塗布面の高さより一段低い外周取付面とで構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、少なくとも前記電動モータを駆動するパワー素子を実装したパワー基板と、前記電動モータの駆動指令値を演算する指令値演算部を実装した制御基板とを備え、前記前記グリース塗布面は、前記パワー基板の装着位置に当該パワー基板と対向して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記グリース塗布面に放熱グリースを塗布した状態で、前記パワー基板が放熱プレートを介して装着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記グリース塗布面に塗布する放熱グリースの塗布量を、放熱グリースをグリース塗布面に定量塗布した状態で、前記放熱プレートを固定部材で固定した際に、前記放熱グリースが圧延されて外周面に溢れ出る量に選定されていることを特徴とする請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記放熱グリースの前記グリース塗布面への塗布をディスペンサ装置で定量塗布することにより行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記グリース塗布面における前記放熱グリースの圧延による侵入を拒む部位と前記放熱グリースの定量塗布位置との間にグリース溜め溝を形成したことを特徴とする請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−111247(P2010−111247A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285116(P2008−285116)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】