説明

電動機およびそれを備えた電気機器

【課題】PWM方式でインバータ駆動される電動機において、軸受の電食の発生を抑制する。
【解決手段】巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に永久磁石を保持した回転子と、前記回転子の中央を貫通するように前記回転子を締結したシャフトとを含む回転体と、前記シャフトを支持する軸受と、前記軸受を固定する2つのブラケットとを備え、前記軸受単体の耐電圧よりも、前記軸受の軸受内輪と軸受外輪との間に現れる軸電圧が抑えられている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関するもので、特に軸受の電食の発生を抑制するように改良された電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動機はパルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、PWM方式という)のインバータにより駆動する方式を採用するケースが多くなってきている。こうしたPWM方式のインバータ駆動の場合、巻線の中性点電位が零とならないため、軸受の外輪と内輪間に電位差(以下、軸電圧という)を発生させる。軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、軸電圧が軸受内部の油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部に微小電流が流れ軸受内部に電食が発生する。電食が進行した場合、軸受内輪、軸受外輪または軸受ボールに波状摩耗現象が発生して異常音に至ることがあり、電動機における不具合の主要因の1つとなっている。
【0003】
従来、電食を抑制するためには、以下のような対策が考えられている。
(1)軸受内輪と軸受外輪を導通状態にする。
(2)軸受内輪と軸受外輪を絶縁状態にする。
(3)軸電圧を低減する。
【0004】
上記(1)の具体的方法としては、軸受の潤滑剤を導電性にすることが挙げられる。但し、導電性潤滑剤は、時間経過とともに導電性が悪化することや摺動信頼性に欠けるなどの課題がある。また、回転軸にブラシを設置し、導通状態にする方法も考えられるが、この方法もブラシ摩耗粉やスペースが必要となるなどの課題がある。
【0005】
上記(2)の具体的方法としては、軸受内部の鉄ボールを非導電性のセラミックボールに変更することが挙げられる。この方法は、電食抑制の効果は非常に高いが、コストが高い課題があり、汎用的な電動機には採用できない。
【0006】
上記(3)の具体的方法としては、固定子鉄心と導電性を有した金属製のブラケットとを電気的に短絡させることで、静電容量を変化させて軸電圧を低減する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、電動機の固定子鉄心などを大地のアースへ電気的に接続する構成も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ところで、近年、固定子側の固定子鉄心などの固定部材をモールド材などでモールドして、信頼性を高めたモールドモータが提案されている。そこで、金属製のブラケットに代えてこのような絶縁性のモールド材で軸受を固定し、軸受外輪側に発生する不要な高周波電圧や軸受内外輪間を流れる不要な高周波電流を抑制することが考えられる。
【0008】
ところが、このようなモールド材は樹脂であり軸受を固定するには強度が不十分な場合がある。また玉軸受のような軸受は一般的に、例えば外輪とハウジング内周面との間に隙間がある場合、伝達負荷によってシャフトにラジアル方向の力が発生する。このような力が発生すると、径方向の相対差によって滑り現象が発生しやすくなる(このような滑り現象はクリープと呼ばれている)。このようなクリープは、一般的に外輪をブラケットなどのハウジングに強固に固定することで抑制できるが、固定部材が樹脂成形のため寸法精度が悪く、軸受のクリープ不具合が発生しやすくなったりするなどの課題があった。
【0009】
なお、近年の電動機の高出力化に伴い、軸受をより強固に固定することが必要となっているが、予め鋼板で加工され寸法精度の良好な金属製のブラケットを軸受の固定に採用するなど、クリープ対策を施すことが必要不可欠となっている。とりわけ、軸受は回転軸に対して2箇所で受ける構造が一般的であるが、強度的な面や実施の容易性などの理由から、2つの軸受に対して金属製のブラケットで固定することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−159302号公報
【特許文献2】特開2004−229429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のような従来の方法は短絡させる方法なので、軸電圧が高くなってしまう場合があった。
【0012】
また、電動機をPWM方式にてインバータ駆動する駆動回路(制御回路などを含む)の電源供給回路と、その電源供給回路の1次側回路および1次側回路側の大地へのアースとは電気的に絶縁された構成である場合、特許文献2のように電動機の固定子鉄心などを大地のアースへ電気的に接続する構成を採用しても、軸電圧の低減は困難であった。
【0013】
本発明の電動機は、上記課題に鑑みなされたものであり、軸受における電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電動機は、上記目的を達成するために、巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に永久磁石を保持した回転子と、前記回転子と締結したシャフトと、前記回転子の前後でシャフトを支持する軸受と、前記軸受を固定するブラケットとを備え、前記軸受の軸受内輪と軸受外輪との間の軸電圧は、前記軸受単体の耐電圧よりも低く抑えられている電動機である。
【0015】
軸受が回転中に軸受内のグリスで潤滑効果を発生させることにより、内輪と玉、かつ、外輪と玉の間に静電容量が発生し、軸電圧が発生する。この軸受に発生する軸電圧より高い耐電圧の軸受を電動機に付与することで、軸電圧が耐電圧を超えることで発生する軸受内輪と軸受外輪の電気的な短絡現象を防止し、電食を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の電動機は、軸受単体の耐電圧を前記軸受単体のグリスによる油膜厚さとグリスの耐電圧から求めたものである。軸受単体の耐電圧は、グリスによる油膜の厚さとグリス単体の耐電圧の関係から軸受単体の耐電圧を求めることができる。この求まった耐電圧よりも軸電圧が低い電動機であれば、軸電圧が耐電圧を超えることで発生する軸受内輪と軸受外輪の電気的な短絡現象を防止できる効果により、電食を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の電動機は、軸受単体のグリスの静電正接の大きさが0.1以内である。グリスの静電正接の大きさが0.1以内であれば、グリスに掛ける電圧と電流の位相差の大きさが5°以内となり、ほぼ理想的なコンデンサ構造となっている。そのため、コンデンサの内部抵抗をほぼ無視できるため、内部抵抗による絶縁劣化を防止することが可能であるため、軸電圧が耐電圧を超えることで発生する軸受内輪と軸受外輪の電気的な短絡現象を防止できる効果により、電食を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の電動機は、シャフトと回転子の外周との間に誘電体層を設けた構成である。回転体に誘電体層を設けることで回転子側のインピーダンスを調整することが可能となり、固定子側のインピーダンスとのバランスを保つことで、軸受内輪と軸受外輪との間の軸電圧を低減することが可能となる。
【0019】
また、本発明の電動機は、2つのブラケットが電気的に接続されるとともに固定子鉄心とは絶縁された構成である。このような構成により、2つのブラケットの電気的電位を同じにすることができ、軸電圧を安定させることができ、使用環境などに影響されることなく軸電圧を抑制できる。
【0020】
また、本発明の電動機は、2つのブラケットの少なくとも一方と固定子鉄心とが絶縁樹脂により一体成形された構成である。このような構成により、2つの導電性ブラケットを電動機内部でリード線などを介して電気的に接続することで、使用環境や外部応力などに対して、信頼性の高い電気的接続とすることができる。
【0021】
また、本発明の電動機は、回転子が固定子の内周側に回転自在に配置された構成である。また、本発明の電気機器は、上述した電動機を備えたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電動機によれば、軸受における電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1におけるエアコン室内機の構成図
【図2】本発明の実施の形態1におけるブラシレスモータの部分断面図
【図3】同モータの回転体の斜視図
【図4】軸受とグリスの関係を示す図
【図5】シャフトと回転体の最外円周面間の静電容量の測定方法を示す図
【図6】軸電圧の測定方法を示す図
【図7】実施例1における軸電圧4.0V時の電圧波形を示す図
【図8】実施例1における軸電圧8.0V時の電圧波形を示す図
【図9】実施例1における軸電圧20.0V時の電圧波形を示す図
【図10】実施例1の評価結果を示す図
【図11】他の構成例としてのアウタロータ型の電動機の断面図
【図12】本発明の実施の形態2におけるエアコン室外機の構成図
【図13】本発明の実施の形態3における給湯機の構成図
【図14】本発明の実施の形態4における空気清浄機の構成図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態及び実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
図1は本発明にかかる電気機器の例として、エアコン室内機の構成を示したものである。同図において、エアコン室内機101の筐体102内には電動機103が搭載されている。その電動機103の回転軸にはクロスフローファン104が取り付けられている。電動機103は電動機駆動装置105によって駆動される。電動機駆動装置105からの通電により、電動機103が回転し、それに伴いクロスフローファン104が回転する。そのクロスフローファン104の回転により、室内機用熱交換器(図示せず)を介して空気調和された空気を室内に送風する。
【0026】
次に、電動機103について説明する。図2において、固定子鉄心11には、固定子鉄心11を絶縁するインシュレータとしての樹脂21が介在して、固定子巻線12が巻装されている。そして、このような固定子鉄心11は、他の固定部材とともにモールド材としての絶縁樹脂13にてモールド成形されている。ここでは絶縁樹脂13に不飽和ポリエステル樹脂成形材料を使用した。これらの部材をこのようにモールド一体成形することにより、外形が概略円筒形状をなす固定子10が構成されている。そして固定子10の内側には、空隙を介して回転体30(図3参照)が挿入されている。
【0027】
回転子14のシャフト16には、シャフト16を支持する2つの軸受15a、15bが取り付けられている。軸受15a、15bは複数の鉄ボールを有した円筒形状の玉軸受であり、内輪側がシャフト16に固定されている。図2では、シャフト16がブラシレスモータ本体から突出した側となる出力軸側において、軸受15aがシャフト16を支持し、その反対側(以下、反出力軸側と呼ぶ)において、軸受15bがシャフト16を支持している。以上のような構成により、シャフト16が2つの軸受15a、15bに支承され、回転子14が回転自在に回転する。
【0028】
そして、これらの軸受15a、15bは、上述したようなクリープによる不具合を抑制するため、予め鋼板で加工され寸法精度の良好な、導電性を有した金属製のブラケットにより外輪側が固定されている。電動機の高出力化が要求される場合には、このような構成が有効である。図2では、出力軸側の軸受15aが予圧バネ33を挿入されたブラケット17により固定され、反出力軸側の軸受15bがブラケット19により固定されている。
【0029】
ブラケット17は概略円板形状であり、円板の中央部に軸受15aの外周径とほぼ等しい径の突出部を有しおり、この突出部の内側は中空となっている。プリント基板18を内蔵したのち、このようなブラケット17の突出部の内側に予圧バネ33を挿入し軸受15aに圧入するとともに、ブラケット17の外周に設けた接続端部と固定子10の接続端部とが嵌合するように、ブラケット17を固定子10に圧入することにより、本ブラシレスモータが形成される。このように構成することで、組立作業の容易化を図るとともに、軸受15aの外輪側は金属製のブラケット17に固定されるため、クリープによる不具合も抑制し、予圧バネ33によりシャフト16の振れや共振による異音を防止している。
【0030】
また、ブラケット19には、導通ピン22が予め電気的に接続されている。すなわち、図2に示すように、ブラケット19のつば部19bに導通ピン22の一方の先端が接続されている。導通ピン22は絶縁樹脂13の内部に配置され、ブラケット19と同様に絶縁樹脂13とモールド一体成形されている。なお、導通ピン22を電動機内部として絶縁樹脂13の内部に配置することで、導通ピン22を錆や外力などから予防し、使用環境や外部応力などに対して、信頼性の高い電気的接続としている。
【0031】
そして導通ピン22は、絶縁樹脂13の内部において、つば部19bから本ブラシレスモータの外周方向へと延伸し、本ブラシレスモータの外周近辺からシャフト16とほぼ平行して出力軸側へとさらに延伸している。そして、絶縁樹脂13の出力軸側の端面から、導通ピン22の他方の先端が露出しており、その先端には導通ピン22をブラケット17に電気接続するための導通ピン23が接続されている。すなわち、ブラケット17を固定子10に圧入したとき、導通ピン23がブラケット17に接触し、ブラケット17と導通ピン23との導通が確保される。
【0032】
このような構成により、ブラケット17とブラケット19との2つのブラケットは、導通ピン22を介して電気的に接続される。また、ブラケット17およびブラケット19は、絶縁樹脂13により固定子鉄心11と絶縁された状態で、この2つのブラケットが電気的に接続される。つまりブラケット17とブラケット19とを電気的に接続し両ブラケットを同電位とすることで、シャフト16を介しての高周波電流が流れにくい状態としている。
【0033】
次に、図3は回転体30の斜視図で、回転子鉄心31を含む円板状の回転子14と、回転子14の中央を貫通するようにして回転子14を締結したシャフト16とを有している。回転子14は、固定子10の内周側に対向して周方向に永久磁石であるフェライト樹脂磁石32を保持している。なおフェライト樹脂磁石32はフェライト焼結磁石や希土類ネオジウム系焼結磁石であってもよい。最外周部のフェライト樹脂磁石32から内周側のシャフト16に向かって、回転子鉄心31の外周部を構成する外側鉄心31a、誘電体層50、回転子鉄心31の内周部を構成する内側鉄心31bと順に配置するような構造を有している。
【0034】
誘電体層50を設けることで回転子14側のインピーダンスを調整することが可能となり、固定子10側のインピーダンスとのバランスを保つことで、軸受内輪と軸受外輪との間の軸電圧を低減することが可能となる。すなわち、このインピーダンスを調整することで、軸電圧(すなわち中性点電位から固定子鉄心11、固定子10と回転子14間の空間、回転子14、誘電体層50、シャフト16を介して誘起される軸受の内輪に発生する電圧と、中性点電位からブラケットを介して誘起される軸受の外輪に発生する電圧との差)を同電位に近づけることで軸電圧を小さくし、軸受内輪と軸受外輪の電気的な短絡現象を防止できる効果により、電食を抑制することができる。
【0035】
なお、このブラシレスモータには制御回路を含めた駆動回路を実装したプリント基板18が内蔵されている。このプリント基板18を内蔵したのち、ブラケット17を固定子10に圧入することにより、ブラシレスモータが形成される。また、プリント基板18には、巻線の電源電圧Vdc、制御回路の電源電圧Vccおよび回転数を制御する制御電圧Vspを印加するリード線や制御回路のグランド線などの接続線20が接続されている。
【0036】
接続線20を介して各電源電圧および制御信号を供給することにより、プリント基板18の駆動回路により、固定子巻線12に駆動電流が流れ、固定子鉄心11から磁界が発生する。そして、固定子鉄心11からの磁界とフェライト樹脂磁石32からの磁界とにより、それら磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によってシャフト16を中心に回転子14が回転する。
【0037】
なお、駆動回路を実装したプリント基板18上のゼロ電位点部は、大地のアースおよび1次側(電源)回路とは絶縁され、大地のアースおよび1次側電源回路の電位とは、フローティングされた状態である。ここで、ゼロ電位点部とはプリント基板18上における基準電位としての0ボルト電位の配線のことであり、通常グランドと呼ばれるグランド配線を示している。接続線20に含まれるグランド線は、このゼロ電位点部、すなわちグランド配線に接続される。
【0038】
つまり、駆動回路が実装されたプリント基板18に接続される巻線の電源電圧を供給する電源回路、制御回路の電源電圧を供給する電源回路、制御電圧を印加するリード線および制御回路のグランド線などは、巻線の電源電圧を供給する電源回路に対する1次側(電源)回路、制御回路の電源電圧を供給する電源回路に対する1次側(電源)回路、これら1次側(電源)回路と接続された大地のアースおよび独立して接地された大地のアースのいずれとも電気的に絶縁されている。
【0039】
ここで1次側(電源)回路電位および大地のアースの電位に対して、プリント基板18に実装された駆動回路は電気的に絶縁された状態であることから、電位が浮いた状態となっている。これは電位がフローティングされた状態とも表現され、よく知られている。また、このようなことから、プリント基板18に接続される巻線の電源電圧を供給する電源回路および制御回路の電源電圧を供給する電源回路の構成は、フローティング電源とも呼称され、これもよく知られた表現である。
【0040】
次に、図4は軸受とグリスの関係を示す図である。軸受は、軸受内輪62と軸受外輪61と軸受玉70とグリスより構成されており、グリスは予圧バネ33からの予圧Fによりグリス油膜71を形成し、軸受内輪62と軸受外輪61および軸受玉70が接触面積Sの面積で油膜厚さhcのグリス油膜71を介し、潤滑されている。
【0041】
このグリスは絶縁体であり、軸受の導電体によりコンデンサを形成しており、その耐電圧はグリスの油膜厚さhcとグリス単体の耐電圧から、以下の(式1)により表される。
【0042】
【数1】

すなわち、軸受が油膜形成されている状態であれば、その耐電圧は油膜厚さhcとグリス単体の耐電圧V25dに比例する。
【0043】
また、Hamrock−Dowsonによれば、油膜厚さhcは以下の(式2)により表される。
【0044】
【数2】

すなわち、油膜厚さhcは、速度の0.68乗に比例し、予圧の−0.073乗に比例する。
【0045】
このように式(1)と式(2)に記載のパラメータが決まるとことにより、耐電圧Vbdは一意に求めることができる。この耐電圧Vbdが、軸受の外輪と内輪間に発生する軸電圧より大きいと、軸受内部に微小電流が流れるという放電現象を防止することができ、電食の進行がない状態を保つことが可能である。
【0046】
また、軸受の静電容量Cは、以下の(式3)により表される。
【0047】
【数3】

すなわち、軸受の静電容量Cは、軸受内輪62と軸受外輪61および軸受玉70により構成される接触面積Sに比例し、グリス油膜71の油膜厚さhcに反比例の関係にある。
【0048】
また、Hertzによれば、接触面積Sは以下の(式4)により表される。
【0049】
【数4】

すなわち、接触面積Sは予圧の2/3乗に比例する。
【0050】
また、軸受をコンデンサと考えると、その静電正接は以下の(式5)で表される。
【0051】
【数5】

すなわち、静電正接は、小さければ抵抗成分が小さく損失が小さくなる。これは、軸受15a・軸受15bが絶縁体とした場合に抵抗成分があると絶縁耐力の低下に繋がり、上記グリス単体の耐電圧V25dの低下に繋がる。
【0052】
また、軸受に掛かる電圧と電流の位相差は、コンデンサに掛かる電圧と電流の位相差の90°が理想的であるが、通常±5°以内であると絶縁体として絶縁耐力の低下を抑えることができる。
【0053】
この位相差±5°以内は静電正接では±0.1以内である。すなわち、静電正接±0.1以内のグリスを選択し、軸受15a・軸受15bの耐電圧Vbdが軸受15a・軸受15bに発生する軸電圧Vbよりも大きく調整することも可能となる。
【0054】
このように、軸受の静電容量は、速度が一定とすると予圧Fの変化により油膜厚さhcも一定となり影響がほぼ無く、接触面積Sが予圧の2/3乗に比例し変化する。
【0055】
次に、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。
【実施例1】
【0056】
図2に示すような構成で、ベアリングの耐電圧Vbdが7.0Vのときに軸電圧が4.0V、8.0V、20.0Vとなるよう電動機を作成した。軸電圧の調整は、回転体30に形成された誘電体層50の幅にて調整しており、静電容量はそれぞれ、5pF、10pF、25pFとなった。この誘電体層50の静電容量は図5のように回転体30の外周とシャフト16の間をLCRメーター60を使用し、測定周波数10kHz、測定温度20℃、測定電圧1Vで測定した。軸電圧の測定は、同一固定子を使用し、それぞれの回転子を入れ替える方法で測定を実施した。
【0057】
図6は、本実施例1の軸電圧の測定方法を示す図である。軸電圧測定時には直流安定化電源を使用し、巻線の電源電圧Vdcを391V、制御回路の電源電圧Vccを15Vとし、回転数1000r/minの同一運転条件下で測定を行った。なお、回転数は制御電圧Vspにて調整し、運転時のブラシレスモータ姿勢はシャフト水平とした。また、ブラシレスモータは厚さ20mmの木製板の上に設置した。
【0058】
軸電圧の測定は、デジタルオシロスコープ130(テクトロニクス製DPO7104)と高電圧差動プローブ120(テクトロニクス製P5205)により、電圧波形を観測して、波形崩れが発生しないかどうか確認を行い、ピーク−ピーク間の測定電圧を軸電圧とした。なお、デジタルオシロスコープ130は、絶縁トランス140にて絶縁している。
【0059】
また、高電圧差動プローブ120の+側120aは、長さ約30cmのリード線110を介し、リード線の導体を直径約15mmのループ状にして、その内周をシャフト16の外周に導電接触させることで、シャフト16に電気的に接続している。高電圧差動プローブ120の−側120bは、長さ約30cmのリード線111を介し、ブラケット17にリード線111の先端を導電性テープ112にて導電接触させることで、ブラケット17に電気的に接続している。
【0060】
計測した電圧波形は、完全波形崩れ、一部波形崩れ、波形崩れなしの3分類に区分けした。完全波形崩れは軸電圧のパルス状の波形が完全になくなっている状態であり、一部波形崩れは軸電圧のパルス状の波形が数個単位でなくなっている状態であり、波形崩れなしは軸電圧のパルス状の波形が連続して発生しておりかつ一部部分でもなくなっていない状態とする。波形崩れなしの状態は軸受内部の油膜が絶縁破壊を起こしていない状態であり、電食の発生を防止できる状態である。また、波形崩れの状態は軸受内部の油膜が絶縁破壊を起こしている状態であり、運転時間によっては電食を発生させる状態である。
【0061】
図7は軸電圧が20.0V、図8は軸電圧が8.0V、図9は軸電圧が4.0Vのときの電圧波形を示している。図7の波形は完全波形崩れの状態にあり、図8の波形は一部波形崩れの状態にあり、図9の波形は波形崩れなしの状態にある。
【0062】
図10はこれらの結果をまとめたものであるが、軸電圧Vbが耐電圧Vbd以上の場合では、波形崩れがあり放電現象が起きている。軸電圧Vbが耐電圧Vbdより小さい場合では、波形崩れがなく、放電現象が発生していない。
【0063】
これらの結果からもわかるように、軸受単体の耐電圧よりも、軸受の軸受内輪と軸受外輪との間に現れる軸電圧を抑えることで、軸電圧が耐電圧を超えることで発生する軸受内輪と軸受外輪の電気的な短絡現象を防止し、電食を抑制することができる。
【0064】
なお、本実施形態では回転子が固定子の内周側に回転自在に配置されたインナロータ型のブラシレスモータである電動機の例を挙げて説明したが、回転子が固定子の外周側に配置されたアウタロータ型の電動機にも本発明を適用することができる。図11は、本実施の形態における他の構成例としてのアウタロータ型の電動機の断面を示した構成図である。なお、図2と同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0065】
同図において、固定子巻線12が巻装された固定子鉄心11は絶縁樹脂13にてモールド成形されて、固定子10が構成されている。さらに、固定子10にはブラケット17およびブラケット19が一体成形されており、ブラケット17に軸受15aが固定され、ブラケット19に軸受15bが固定されている。軸受15aおよび軸受15bの内輪側にはシャフト16が貫通し、シャフト16の一方の端部に中空円筒形状の回転子14が締結されている。
【0066】
また、回転体30の内周側中空部に固定子鉄心11が配置される。そして、回転体30において、外側鉄心31aと内側鉄心31bとで挟むようにして、環状の誘電体層50を設けている。また、軸受15aと軸受15bとを導通ピン22などで電気的に接続している。このようなアウタロータ型の電動機においても、図1のような構成と同様、図11に示すように誘電体層50を設け、かつブラケット17とブラケット19を電気的に接続する構造を設けることにより、同様の効果を得ることができる。
【0067】
(実施の形態2)
次に、本発明にかかる電気機器の例として、エアコン室外機の構成を説明する。図12において、エアコン室外機は筐体201の底板202に立設した仕切り板203により、
圧縮機室204と熱交換器室205とに区画されている。圧縮機室204には圧縮機206が配設されている。熱交換器室205には熱交換器207および電動機208が配設されている。仕切り板203の上部には電装品箱209が配設されている。
【0068】
電動機208は電装品箱209内に収容された電動機駆動装置210により駆動され、その電動機208の回転に伴い、ファン211が回転し、熱交換器207を通して熱交換器室205に送風する。
【0069】
(実施の形態3)
次に、本発明にかかる電気機器の例として、給湯機の構成を説明する。図13において、給湯器の筐体301内には電動機302が搭載されている。その電動機302の回転軸にはファン303が取り付けられている。電動機302は電動機駆動装置304によって駆動される。電動機駆動装置304からの通電により、電動機302が回転し、それに伴いファン303が回転する。そのファン303の回転により、燃料気化室(図示せず)に対して燃焼に必要な空気を送風する。
【0070】
(実施の形態4)
次に、本発明にかかる電気機器の例として、空気清浄機の構成を説明する。図14において、空気清浄機の筐体401内には電動機402が搭載されている。その電動機402の回転軸には空気循環用ファン403が取り付けられている。電動機402は電動機駆動装置404によって駆動される。電動機駆動装置404からの通電により、電動機402が回転し、それに伴いファン403が回転する。そのファン403の回転により空気を循環する。
【0071】
なお、上述の説明では、本発明にかかる電気機器の実施例として、エアコン室外機、エアコン室内機、給湯機、空気清浄機などに搭載される電動機を取り上げたが、その他の電動機にも、また、各種情報機器に搭載される電動機や、産業機器に使用される電動機にも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の電動機は、軸電圧を減少させることが可能であり、軸受の電食発生を抑制したもので、主に電動機の低価格化および高寿命化が要望される機器で、例えばエアコン室内機、エアコン室外機、給湯機、空気清浄機などに搭載される電動機に有効である。
【符号の説明】
【0073】
10 固定子
13 絶縁樹脂
14 回転子
15a 軸受
15b 軸受
16 シャフト
17 ブラケット
19 ブラケット
30 回転体
31 回転子鉄心
32 フェライト樹脂磁石
50 誘電体層
61 軸受外輪
62 軸受内輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に永久磁石を保持した回転子と、前記回転子に締結したシャフトと、前記回転子の前後でシャフトを支持する軸受と、前記軸受を固定するブラケットとを備え、
前記軸受の軸受内輪と軸受外輪との間の軸電圧は、前記軸受単体の耐電圧よりも低く抑えられている電動機。
【請求項2】
前記軸受単体の耐電圧は、前記軸受単体のグリスによる油膜厚さとグリスの耐電圧から求めたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
前記軸受単体のグリスの静電正接の大きさが0.1以内であることを特徴とする請求項1または2記載の電動機。
【請求項4】
前記シャフトと前記回転子の外周との間に誘電体層を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
前記ブラケット同士は電気的に接続されるとともに、前記固定子鉄心とは絶縁されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項6】
前記ブラケットの少なくとも一方と前記固定子鉄心とは、絶縁樹脂により一体成形されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項7】
前記回転子は、前記固定子の内周側に回転自在に配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電動機を備えたことを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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