説明

電動機およびそれを備えた電気機器

【課題】軸受に発生する軸電圧を低く抑え、電食の発生を抑制した電動機を提供する。
【解決手段】本発明の電動機は、固定子鉄心に固定子巻線を巻装した固定子と、回転軸を中心に回転体を含む回転子と、回転軸を支持する軸受と、軸受を固定する2つの導電性のブラケットとを備える。回転体は、固定子に対向して磁石を保持するとともに、その中央を貫通するように回転軸に締結される。そして、回転体において、回転軸と回転体の外周との間に誘電体層を設ける。そして、誘電体層は、回転軸を中心に多角形とし、この多角形の角の頂点は、回転軸を中心に回転体に保持されている磁石に着磁された極の中心に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機およびその電動機を備えた電気機器に関し、特に、内蔵した電動機の軸受における電食の発生を抑制するように改良された電動機およびそれを備えた電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器の1つとして冷暖房などの空気調和を行う空気調和機は、一般に、送風を行うためのファンおよびそのファンを回転駆動するための電動機を備えている。また、近年、電動機は、いわゆるブラシレスモータを採用するケースが多くなってきている。このようなブラシレスモータは、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、適宜、PWM方式という)のインバータが用いられる。一方、PWM方式は、高周波のパルスを利用してスイッチングを行うため、ブラシレスモータから不要な高周波信号が輻射されやすかった。
【0003】
このため、このような電動機から輻射される高周波ノイズの低減を図った空気調和機が従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような、空気調和機は、ノイズが輻射されやすい箇所をシールドケースで覆い、シールドケースを空気調和機内部のアース線に接続するような手法が用いられている。
【0004】
また、電動機がPWM方式のインバータ駆動の場合、巻線の中性点電位が零とならないため、軸受の外輪と内輪間に電位差(以下、軸電圧という)を発生させる。軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、軸電圧が軸受内部の油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部に微小電流が流れ軸受内部に電食が発生する。電食が進行した場合、軸受内輪、軸受外輪または軸受ボールに波状摩耗現象が発生して異常音に至ることがあり、電動機における不具合の主要因の1つとなっていた。
【0005】
このように、PWM方式を用いた電動機は、ノイズとなるような不要な高周波信号を発生しやすく、さらに、このような不要な電磁輻射によって軸受に電食が発生しやすいという課題があった。
【0006】
従来、電食を抑制するためには、以下のような対策が考えられている。
(1)軸受内輪と軸受外輪を導通状態にする。
(2)軸受内輪と軸受外輪を絶縁状態にする。
(3)軸電圧を低減する。
【0007】
上記(1)の具体的方法としては、軸受の潤滑剤を導電性にすることが挙げられる。但し、導電性潤滑剤は、時間経過とともに導電性が悪化することや摺動信頼性に欠けるなどの課題がある。また、回転軸にブラシを設置し、導通状態にする方法も考えられるが、この方法もブラシ摩耗粉やスペースが必要となるなどの課題がある。
【0008】
上記(2)の具体的方法としては、軸受内部の鉄ボールを非導電性のセラミックボールに変更することが挙げられる。この方法は、電食抑制の効果は非常に高いが、コストが高い課題があり、汎用的な電動機には採用できない。
【0009】
上記(3)の具体的方法としては、固定子鉄心と導電性を有した金属製のブラケットとを電気的に短絡させることで、静電容量を変化させて軸電圧を低減する方法が、従来、公知である(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
特許文献2では、固定子鉄心とブラケットとを短絡させることにより、固定子側のインピーダンスを低くし、これによって軸受の電食を抑制している。
【0011】
すなわち、一般的に、洗濯機や食器洗い乾燥機などの水まわりで使用され、感電のおそれのある電動機は、充電部の絶縁(基礎絶縁)以外に、独立した絶縁を追加(以下、付加絶縁という)する必要がある。一方、空気調和機に使用される電動機は、感電のおそれがないため、付加絶縁は必要としない。
【0012】
したがって、空気調和機に使用される電動機は、通常、回転子を絶縁構造としていないために、回転子側(軸受内輪側)のインピーダンスは、低い状態にある。それに対して、固定子側(軸受外輪側)は、絶縁構造となっているため、インピーダンスは高い状態にある。この場合、インピーダンスによる電圧降下の差が生じ、軸受内輪側の電位は高いのに対して軸受外輪側の電位は低いためアンバランス状態となり、高い軸電圧が発生してしまうこととなる。そして、このような高い軸電圧により軸受に電食が発生する可能性があった。
【0013】
このような状態を避けるために、特許文献2は、固定子鉄心とブラケットとを短絡させることで、その間の静電容量成分をなくし、上述したように固定子側(軸受外輪側)のインピーダンスを低くし、回転子側(軸受内輪側)のインピーダンスに近似させる方法を採用している。
【0014】
特に、一般的なブラシレスモータの構造の場合、固定子側のインピーダンスとして、固定子鉄心から軸受の外輪までの間を考えると、通常、両間は、電気的には接続されておらず、ある程度の間隔を持って配置されるため、この間のインピーダンスは高い状態といえる。さらに、この間のインピーダンスは高いため、固定子鉄心から発生した高周波信号は減衰して軸受の外輪に達し、その結果、軸受の外輪には低電位の高周波の電圧が生じるものと考えられる。
【0015】
一方、回転子側のインピーダンスとして、固定子鉄心から軸受の内輪までの間を考えると、固定子鉄心と回転子とはわずかな空隙を介して対面しているとともに、通常回転子および回転軸は導電体の金属であるため、この間のインピーダンスは低い状態といえる。さらに、この間のインピーダンスは低いため、固定子鉄心から発生した高周波信号は減衰せずに軸受の内輪に達し、その結果、軸受の内輪には高電位の高周波の電圧が生じるものと考えられる。
【0016】
このように、ブラシレスモータ自体の構造によっても、回転子側と固定子側とのインピーダンスがアンバランス状態となりやすく、軸受の内輪と外輪との間に電位差、すなわち軸電圧が生じ、軸受に電食が発生すると考えられる。また、このような軸電圧を発生させる信号の発生源としては、PWM方式の高周波のスイッチングで駆動される巻線を巻装した固定子鉄心が主な発生源と考えられる。すなわち、固定子鉄心は、高周波の電流で駆動される巻線を巻装しているため、固定子鉄心には、駆動電流によって発生する磁束とともに駆動高周波による高周波信号も発生し、発生した高周波信号が空間を介して軸受内輪および軸受外輪にも誘導されると考えられる。
【0017】
また、近年、固定子側の固定子鉄心などの固定部材をモールド材などでモールドして、信頼性を高めたモールドモータが提案されている。そこで、金属製のブラケットに代えてこのような絶縁性のモールド材で軸受を固定し、軸受外輪側に発生する不要な高周波電圧や軸受内外輪間を流れる不要な高周波電流を抑制することが考えられる。ところが、このようなモールド材は樹脂であり軸受を固定するには強度が不十分であったり、樹脂成形の
ため寸法精度が悪く、軸受のクリープ不具合が発生しやすくなったりするなどの課題があった。
【0018】
すなわち、ベアリングのような軸受は一般的に、例えば外輪とハウジング内周面との間に隙間がある場合、伝達負荷によって回転軸にラジアル方向の力が発生する。このような力が発生すると、径方向の相対差によって滑り現象が発生しやすくなり、このような滑り現象がクリープと呼ばれている。このようなクリープは、一般的に、外輪をブラケットなどのハウジングに強固に固定することで抑制できる。また、近年の電動機の高出力化に伴い、軸受をより強固に固定することが必要となっている。
【0019】
このため、例えば、予め鋼板で加工され寸法精度の良好な金属製のブラケットを軸受の固定に採用するなど、クリープ対策を施すことが必要不可欠となっている。とりわけ、軸受は回転軸に対して2箇所で受ける構造が一般的であるが、ここで述べた強度的な面や実施の容易性などの理由から、2つの軸受に対して金属製のブラケットで固定することが好ましい。
【0020】
電食を抑制する手法として、特許文献2のような従来の方法は、次のような課題があった。すなわち、この従来の方法は固定子側のインピーダンスを変更して軸受内輪と軸受外輪との間の電位バランスを保ち、電食を抑制しようとする方法である。このような方法の場合、電動機の使用環境によって、インピーダンスのバランスが崩れてしまうと、逆に軸電圧が高くなり電食が発生しやすくなってしまうというケースも可能性として考察された。
【0021】
特に、室内機としての空気調和機の場合、通常金属で形成される熱交換器が空気調和機内部を占める割合が大きい。さらに、この熱交換器に対面して、回転軸に接続されたファンが配置されることになるため、熱交換器とファンとの間で大きな静電容量が形成されやすくなる。このため、このような空気調和機の場合、この静電容量が影響して、電動機でのインピーダンスのバランスも崩れる可能性が高くなる。すなわち、例えば、固定子鉄心から輻射された高周波信号が、熱交換器およびファンを介して回転軸に高周波電流として流れ込み、軸受内輪側の電位がさらに高くなる可能性もあった。
【0022】
また、上述のような強度的な理由から、2つの軸受それぞれを金属製のブラケットで固定する場合、通常、一方のブラケットと他方のブラケットとの形状や配置状態が異なるため、両ブラケットのインピーダンスは異なる。このため、一方のブラケットに誘起される電位と他方のブラケットに誘起される電位とは異なることになる。このため、2つの軸受で軸電圧も異なることとなり、一方の軸受で電食が発生しなくても、他方の軸受で電食が発生するというような不具合を生じるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2007−198628号公報
【特許文献2】特開2007−159302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は2つの軸受に発生する軸電圧を低く抑え、電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の電動機は、固定子鉄心に固定子巻線を巻装した固定子と、固定子に対向して磁
石を保持した回転体と回転体の中央を貫通するように回転体を締結した回転軸とを含む回転子と、回転軸を支持する軸受と、軸受を固定する2つの導電性のブラケットとを備えている。そして、回転軸と回転体の外周との間に誘電体層を設け、かつ、誘電体層は回転軸を中心に多角形とした構成である。
【0026】
また、誘電体層の多角形の角数は回転体に保持されている磁石の着磁極数と同数とし、また、誘電体層の多角形の角の頂点は、回転軸を中心に、回転体に保持されている磁石に着磁された極の中心に位置した構成である。
【0027】
このような構成により、回転子側のインピーダンスを調整することが可能となり、固定子側のインピーダンスとのバランスを保つことで、軸受内輪と軸受外輪との間の軸電圧を低減することが可能となる。このように、導電性のブラケットでそれぞれ固定された2つの軸受に対して、軸受内輪と外輪との間の電位差を低くできるため、軸受の固定強度を確保しながら、PWMなどによる高周波によって生じる軸受の電食の発生を抑制することが可能となる。また、誘電体層を多角形にすることで、回転子の内側鉄心と外側鉄心の回転による空転を防止することができる。
【0028】
また、誘電体層の多角形の角数を回転体に保持されている磁石の着磁極数と同数とすることで、回転により発生するアンバランスを最小限に抑制することができる。また、誘電体層の多角形の角の頂点を、回転軸を中心に、回転体に保持されている磁石に着磁された極の中心に位置することで、磁石から発生する磁束の流れを妨げることなく、誘電体層を配置できる。
【0029】
また、誘電体層の多角形の角の頂点をR形状にすることで、回転子鉄心の加工性を容易にすることができる。また、本発明の電動機は、回転体が誘電体層の外周側に複数の挿入孔を有し、挿入孔に磁石をそれぞれ挿入した構成である。また、誘電体層が、回転体の軸方向両面の少なくとも磁石を覆う構成としている。このような構成により、磁石のずれを防止することができる。
【0030】
また、本発明の電動機は、2つのブラケットを電気的に接続した構成である。このような構成により、両ブラケットを同電位とし、回転軸を介しての高周波電流の流れを抑制している。さらに、両ブラケットを同電位とすることで、一方の軸受内輪外輪間の電位差と他方の軸受内輪外輪間の電位差とを近似あるいは同一とすることが可能となる。
【0031】
また、本発明の電動機は、固定子鉄心を接地部に電気的に接続した構成としてもよい。また、本発明の電動機は、互いに電気的に接続した2つのブラケットを、さらに接地部に電気的に接続した構成としてもよい。
【0032】
また、本発明の電動機は、固定子鉄心に巻装した固定子巻線が、パルス幅変調方式のインバータにより駆動される構成である。
【0033】
さらに、本発明の電気機器は、上述の電動機を備えた構成である。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明の電動機によれば、2つの軸受に発生する軸電圧を低く抑えることができるため、電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1における電動機の断面を示した構造図
【図2】(a)は同電動機の回転体の構成例を示した図、(b)は(a)における2B−2Bの断面を示した図
【図3】同電動機の回転体の他の構成例を示した図
【図4】本発明の実施の形態2における電気機器の一例としての空気調和機の構成図
【図5】本発明の実施の形態3における電気機器の一例としての空気調和機の構成図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態を、実施の形態にて図面を参照しながら説明する。
【0037】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電動機104の断面を示した構造図である。本実施の形態では、電動機104として、PWM方式を利用したブラシレスモータの一例を挙げて説明する。また、本実施の形態では、回転子が固定子の内周側に回転自在に配置されたインナロータ型のブラシレスモータの例を挙げて説明する。
【0038】
図1において、固定子鉄心11には、インシュレータなどを介在させて、固定子巻線12が巻装されている。この固定子巻線12は、パルス幅変調方式のインバータで駆動される。そして、このような固定子鉄心11は、他の固定部材とともにモールド材としての絶縁樹脂13にてモールド成形されている。本実施の形態では、これらの部材をこのようにモールド一体成形することにより、外形が概略円筒形状をなす固定子10が構成されている。
【0039】
固定子10の内側には、空隙を介して回転子14が挿入されている。回転子14は、金属製の回転子鉄心31を含む円板あるいは円筒状の回転体30と、回転体30の中央を貫通するようにして回転体30を締結した回転軸16とを有している。回転体30は、固定子10の内周側に対向して磁石32を保持している。また、回転体30は、最外周部から内周側の回転軸16に向かって、回転子鉄心31の外周部を構成する外側鉄心31a、誘電体層50、回転子鉄心31の内周部を構成する内側鉄心31bと順に配置するような構造を有している。
【0040】
図1では、回転体30として、回転子鉄心31に軸方向に貫通する複数の挿入孔と、複数の挿入孔にそれぞれ挿入された磁石と誘電体層50を備えた構成例を示しているが、回転子鉄心31の最外周に磁石が装着された回転体でも同様の効果が得られる。このように、固定子10の内周側と回転体30の外周側とが対向するように配置されている。
【0041】
回転子14の回転軸16には、回転軸16を支持する2つの軸受15が取り付けられている。軸受15は、複数の鉄ボールを有した円筒形状のベアリングであり、軸受15の内輪側が回転軸16に固定されている。図1では、回転軸16が電動機104本体から突出した側となる出力軸側において、軸受15aが回転軸16を支持し、その反対側(以下、反出力軸側と呼ぶ)において、軸受15bが回転軸16を支持している。そして、これらの軸受15は、それぞれ導電性を有した金属製の2つのブラケットにより、軸受15の外輪側が固定されている。
【0042】
図1では、出力軸側の軸受15aがブラケット17により固定され、反出力軸側の軸受15bがブラケット19により固定されている。以上のような構成により、回転軸16が2つの軸受15に支承され、回転子14が回転自在に回転する。
【0043】
さらに、電動機104には制御回路や駆動回路を実装したプリント基板18が内蔵されている。例えば、プリント基板18には、固定子巻線12を駆動するためにインバータが実装されている。また、プリント基板18には、駆動回路の電源、グランド線や制御信号
などの接続線20が接続されている。
【0044】
そして、本実施の形態では、導通ピン22がブラケット19に予め電気的に接続された状態でモールド一体成形されており、固定子10の出力軸側端面には、導通ピン22の先端が露出し、この先端がブラケット17と電気的に接続されている。この導通ピン22を備えた構成により、ブラケット17とブラケット19とは電動機104内部で互いに電気的に接続されている。
【0045】
さらに、本実施の形態では、モールド材である絶縁樹脂13の一部に貫通孔23を設け、貫通孔23を通して固定子鉄心11に接続された接続ピン24の一端を外部へ突出させている。
【0046】
以上のように構成された電動機104に対して、接続線20を介して各電源電圧および制御信号を供給することにより、プリント基板18の駆動回路によって固定子巻線12に駆動電流が流れ、固定子鉄心11から磁界が発生する。そして、固定子鉄心11からの磁界と磁石32からの磁界とにより、それら磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によって回転軸16を中心に回転子14が回転する。
【0047】
次に、電動機104の構造におけるより詳細な構成について説明する。
【0048】
まず、電動機104は、上述したように、回転軸16が2つの軸受15で支持されるとともに、それぞれの軸受15もブラケットにより固定され、支持されている。さらに、上述したようなクリープによる不具合を抑制するため、本実施の形態では、それぞれの軸受15が、導電性を有した金属製のブラケットにより固定されるような構成としている。すなわち、本実施の形態では、予め鋼板で加工され寸法精度の良好な導電性のブラケットを軸受15の固定に採用している。特に、電動機104の高出力化が要求される場合には、このような構成とすることがより好ましい。
【0049】
具体的には、まず、反出力軸側の軸受15bに対して、軸受15bの外周径とほぼ等しい外周径のブラケット19により固定している。また、このブラケット19は、絶縁樹脂13とモールド一体成形されている。すなわち、図1に示すように、反出力軸側における絶縁樹脂13の形状は、本ブラシレスモータ本体から反出力軸方向へと突出する本体突出部13aを有した形状である。この本体突出部13aの本体内部側に、インナーブラケットとしてブラケット19を配置し、絶縁樹脂13とモールド一体成形している。
【0050】
ブラケット19は中空円筒状となるカップ形状を有しており、より具体的には、一方を開いた円筒部19aと、開いた側の円筒端部から外方向に少しだけ広がった環状のつば部19bとを有している。円筒部19aの内周径は軸受15bの外周径とほぼ等しく、円筒部19aに軸受15bを挿入することにより、軸受15bはブラケット19を介するようにして絶縁樹脂13にも固定されることになる。このように構成することで、軸受15bの外輪側は金属製のブラケット19に固定されるため、クリープによる不具合を抑制できる。
【0051】
また、つば部19bの外周径は軸受15bの外周径よりも少しだけ大きくしている。すなわち、つば部19bの外周径は、軸受15bの外周径よりも大きく、かつ少なくとも回転体30の外周径よりも小さくしている。ブラケット19をこのような形状とすることにより、例えばつば部が回転体30の外周を超えて固定子鉄心11まで広がるような構造に比べて、コスト高となる金属材料の使用を抑制している。
【0052】
また、このように金属製のブラケット19の面積を抑制し、さらに絶縁樹脂13でブラ
ケット19の外郭を覆うようにモールド一体成形しているため、軸受15bから発生する騒音を抑制することもできる。
【0053】
次に、出力軸側の軸受15aに対しては、固定子10の外周径とほぼ等しい外周径のブラケット17により固定している。ブラケット17は概略円板形状であり、円板の中央部に軸受15aの外周径とほぼ等しい径の突出部を有しており、この突出部の内側は中空となっている。プリント基板18を内蔵したのち、ブラケット17の突出部の内側に軸受15aが配置されるように挿入するとともに、ブラケット17の外周に設けた接続端部と固定子10の接続端部とが嵌合するように、ブラケット17を固定子10に圧入することにより、電動機104が形成される。このように構成することで、軸受15aの外輪側は金属製のブラケット17に固定されるため、クリープによる不具合を抑制できる。
【0054】
次に、本実施の形態における電食を抑制するための構成について説明する。本実施の形態では、概略、次のようにして電食を抑制している。まず、電動機104の回転体30において誘電体層50を設けることにより、回転子側のインピーダンスを高くし、インピーダンスの高い固定子側に近似させている。これによって、軸受の内輪と外輪との間の電位差、すなわち軸電圧を低くしている。また、例えば、電動機104を空気調和機の室内機に用いるような場合、この誘電体層50を設けた構成によって、固定子鉄心11で発生した高周波信号がファンや熱交換器まで伝達するのを抑制し、ファンなどからの不要な輻射による軸電圧を低減している。
【0055】
また、誘電体層50を多角形にすることで、回転子の内側鉄心31bと外側鉄心31aの回転による空転を防止することができる。また、誘電体層50の多角形の角数を回転体に保持されている磁石の着磁極数と同数とすることで、回転により発生するアンバランスを最小限に抑制することができる。
【0056】
図1で示す電動機は磁石の着磁を8極で実施しているため、誘電体層50は8角形の形状にしている。また、誘電体層50の多角形の角の頂点を、回転軸を中心に、回転体に保持されている磁石に着磁された極の中心に位置することで、磁石から発生する磁束の流れを妨げることなく、誘電体層を配置できる。また、誘電体層50の多角形の角の頂点を、R(丸み)形状にすることで回転子鉄心の加工性を容易にすることができる。
【0057】
そして、さらに、固定子鉄心11を、接続ピン24を介して接地部に電気的に接続することで、固定子鉄心11から発生する高周波信号を減衰させ、これによっても軸電圧を低減している。また、ブラケット17とブラケット19とを電気的に接続した構成とすることで、両ブラケットが同電位となるようにし、一方のブラケットの軸電圧が高くなるような不具合を抑制している。
【0058】
以下、このようにして電食を抑制するための詳細な構成について説明する。
【0059】
図2(a)および図2(b)は、本実施の形態の電動機104の回転体30の構成例を示した図である。図2(a)は、回転体30を上面から見た構成を示している。また、図2(b)は、図2(a)における2B−2Bの断面を示している。
【0060】
図2(a)および図2(b)に示すように、回転体30は、回転軸16と回転体30の外周との間に誘電体層50を設けた構成である。誘電体層50は、回転軸16を中心とする多角形の形状であり、この多角形の形状で軸方向に延伸するように回転体30内に配置されている。回転体30として、外側鉄心31aに軸方向に貫通する複数の挿入孔33と、複数の挿入孔33にそれぞれ挿入された磁石32を配置し、さらに、内周側に向かって、誘電体層50、回転子鉄心31を構成する内側鉄心31bと順に配置されている。すな
わち、IPM(Interior Permanent Magnet、埋込磁石)型構造である。
【0061】
また、誘電体層50は、絶縁樹脂で形成された層である。図2(a)および図2(b)では、外側鉄心31aにおいて、挿入孔33を8個有し、磁石32を8枚挿入し、8極着磁している。そして、このような外側鉄心31aに対し、8角形の誘電体層50が、誘電体層50の多角形の角の頂点を、回転軸を中心に、磁石32に着磁された極の中心に位置するように形成された一例を示している。回転体30は、このように、磁石32、外側鉄心31a、誘電体層50を形成する絶縁樹脂、および内側鉄心31bが一体形成された構成である。また、内側鉄心31bの内周の締結部35において、回転体30が回転軸16に締結される。これにより、軸受15に支承された回転子14が構成される。
【0062】
また、図3は、回転体30の他の構成例の断面を示した図である。図3の構成では、図2(a)および図2(b)と同様に誘電体層50が回転体30内に配置され、さらに誘電体層50が回転体30の軸方向両面を覆うような構成としている。すなわち、図3のように、回転体30の軸方向両面で少なくとも磁石32を覆うように、磁石32の軸方向の上下端面も誘電体層50で一体的に成形することで、磁石32のずれを防止することができる。
【0063】
回転体30において、誘電体層50は、絶縁物である絶縁樹脂で形成された層であり、外側鉄心31aと内側鉄心31bとを直列的に絶縁分離している。本実施の形態では、このような誘電体層50を設けることにより、回転子側のインピーダンスが固定子側のインピーダンスに近似するように、回転子側のインピーダンスを高くしている。
【0064】
なお、図2(b)や図3では、誘電体層50が回転体30の軸方向一面から他面まで、回転体30内を貫通するように配置した例を示しているが、部分的に空洞部を設けるような構成であってもよい。要するに、外側鉄心31aと内側鉄心31bとを絶縁分離するような構成であればよい。また、ここで、固定子側のインピーダンスは、固定子鉄心11から軸受15の外輪までの間のインピーダンスであり、回転子側のインピーダンスは、固定子鉄心11から回転子14を介して軸受15の内輪までの間のインピーダンスである。
【0065】
このように、回転体30の中間部に誘電体層50を設けることで、回転子側の等価回路として、誘電体層50による静電容量が直列接続された構成となり、回転子14のインピーダンスを高くできる。そして、固定子鉄心11で発生した高周波信号が回転体30を介して回転軸16へと高周波電流として流れる経路において、回転子14のインピーダンスを高くすることにより、高周波の電圧降下が大きくなる。なお、このような高周波信号は、PWM方式に基づくスイッチングなどにより主に固定子鉄心11から発生する信号である。
【0066】
このため、高周波電流により回転軸16に発生する電位、すなわち軸受15の内輪側の電位を低くできる。そして、軸受15の内輪側の電位を低くして、軸受15の外輪側の電位に近似させ、軸受内外輪間の電位差、すなわち軸電圧を低く抑えている。これによって、軸受内輪と軸受外輪との間は、常に電位が低い状態で、その電位差が少なくなるようにバランスが保たれている状態となる。
【0067】
本実施の形態では、このようにして軸電圧を低く抑え、軸電圧による軸受の電食の発生を防止し、かつ、外側鉄心31aと内側鉄心31bと誘電体層50の回転によるずれを防止し、かつ、磁石32から発生している磁束の流れを妨害しないため、モータの効率も低下させることはない。特に、本実施の形態では、軸受内外輪それぞれの電位が低い状態で軸電圧を低く抑える構成であるため、軸受内外輪それぞれの電位が高い状態で軸電圧のバ
ランスをとるような手法に比べて、電位差が少なくなるようにバランスをとりやすい。また、バランスが崩れたとしても低電圧であるため、電食発生に対する影響は少なくてすむ。
【0068】
なお、誘電体層50は不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレートやポリアミド等の熱可塑性樹脂、エラストマーや加硫型ゴムのような弾性体を使用している。このような誘電体層50の材料を変えることに加えて、その形状や肉厚なども変えることによって任意にインピーダンスを調整することができるため、回転子側のインピーダンスを最適に設定することもできる。
【0069】
さらに、本実施の形態では、電食を抑制するために、次に説明するような構成を有している。
【0070】
軸電圧を発生させる高周波信号の主な発生源である固定子鉄心11は、接続ピン24を介して接地部に電気的に接続されている。このため、固定子鉄心11から発生する高周波信号も大地へと流れ込むため、固定子鉄心11に発生する高周波信号を減衰させることができ、軸受の内輪と外輪に生じる電位を抑えることができる。
【0071】
さらに、本実施の形態では、2つのブラケット、すなわち、ブラケット17とブラケット19とを導通ピン22により電気的に接続した構成としている。このような構成とすることで、両ブラケットを同電位とし、回転軸を介しての高周波電流の流れを抑制している。さらに、両ブラケットを同電位とすることで、軸受15aの内輪外輪間の電位差と、軸受15bの内輪外輪間の電位差とを近似あるいは同一とすることが可能となる。このため、一方のブラケットのみに電食が集中して発生するような不具合を抑制することができる。
【0072】
以上説明したように、電動機104は、回転体30に誘電体層50を設け、さらに固定子鉄心11も接地部に電気的に接続している。さらに、ブラケット17とブラケット19と互いに電気的に接続している。このため、軸受15aおよび軸受15bそれぞれの軸電圧を低く抑えることができ、これによって電食の発生を抑制することが可能となる。
【0073】
なお、以上の説明では、固定子鉄心11を接地部に電気的に接続するような例を挙げて説明したが、互いに電気的に接続したブラケット17とブラケット19とをさらに、接地部に電気的に接続するような構成としてもよい。
【0074】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における空気調和機の構成図である。本実施の形態では、室内機として室内に設置される空気調和機を、本発明の電気機器の一例として挙げて説明する。図4に示すように、空気調和機100は、筐体101内に、熱交換器102と、ファン103と、実施の形態1で説明した電動機104とを備える。
【0075】
熱交換器102は、導電性金属部材を含み構成され、暖房や冷房のために、吸入部から取り込んだ空気の熱交換を行う。ファン103は、クロスフローファンであり、熱交換器102により空気調和された空気を送風する。電動機104は、電動機104の回転軸16を介してファン103に接続されており、ファン103を回転駆動する。このような空気調和機100の構成により、熱交換器102により空気調和された空気が、ファン103の回転により、例えば室内に送風される。
【0076】
このように、空気調和機100は、実施の形態1の電動機104を搭載した構成である。特に、電動機104を、このような室内機である空気調和機100として使用した場合
、固定子鉄心11で発生した高周波信号は、回転体30から回転軸16を経由してファン103まで伝達しやすく、さらにファン103から熱交換器102まで伝達したりする。
【0077】
そして、このような室内機としての空気調和機100の場合、ファン103や熱交換器102は面積や体積が大きいため、これらに伝達した高周波信号は不要な信号として輻射されやすく、輻射された信号が軸受15に回り込み軸電圧に影響を与える可能性がある。このような不具合に対し、誘電体層50は固定子鉄心11からファン103までの間に直列接続されたインピーダンス成分として作用するため、誘電体層50によって、ファン103まで伝達する高周波信号を減衰させることができる。すなわち、ファン103や熱交換器102からの不要な輻射による軸電圧の発生も抑制することができる。
【0078】
このように、実施の形態1の電動機104を、室内機である空気調和機100に使用した場合、電食の発生を効果よく抑制できる。
【0079】
(実施の形態3)
次に、本発明の電気機器の他の例として、空気調和機の室外機の構成を実施の形態3として、詳細に説明する。
【0080】
図5において、空気調和機の室外機301は、筐体311の内部に、実施の形態1の電動機104を搭載している。その電動機104は回転軸16にファン312を取り付けており、送風用電動機として機能する。
【0081】
室外機301は、筐体311の底板302に立設した仕切り板304により、圧縮機室306と熱交換器室309とに区画されている。圧縮機室306には圧縮機305が配設されている。熱交換器室309には熱交換器307および送風用電動機が配設されている。仕切り板304の上部には電装品箱310が配設されている。
【0082】
その送風用電動機は、電装品箱310内に収容された電動機駆動装置303により駆動される電動機104の回転に伴い、ファン312が回転し、熱交換器307を通して熱交換器室309に送風する。
【0083】
本発明の電気機器は、電動機と、その電動機が搭載された筐体とを備え、電動機として上記構成の本発明の電動機を採用したものである。
【0084】
以上説明したように、本発明の電動機は、固定子鉄心に巻線を巻装した固定子と、回転軸を中心に固定子に対向して配置された回転子と、誘電体層を設けた回転体と、回転軸を支持する軸受と、軸受を固定する2つの導電性のブラケットとを備える。そして、回転軸と回転体の外周との間に誘電体層を設けた構成である。そして、誘電体層は回転軸を中心に多角形とし、その多角形の角数は回転体に保持されている磁石の着磁極数と同数とし、かつ、誘電体層の多角形の角の頂点は、回転軸を中心に、回転体に保持されている磁石に着磁された極の中心に位置した構成である。
【0085】
また、本発明の電気機器は、本発明の電動機を搭載した構成である。このような構成により、回転子の外側鉄心と誘電体層と内側鉄心の回転によるずれを防止し、かつ、モータの効率を低下させずに、固定子側と回転子側のインピーダンスバランスを保つことができ、軸電圧を低減させることができる。このため、軸受の外輪と内輪間に電位差、すなわち軸電圧を極めて低く抑えることができ、電食の発生も抑制できる。したがって、本発明によれば、軸受における電食の発生を抑制した電動機およびそれを備えた電気機器を提供することができる。
【0086】
なお、以上、本発明の電気機器の例として空気調和機の室内機や室外機の例を挙げて説明したが、その他、給湯機、空気清浄機、洗濯機などの電気機器にも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の電動機や電気機器は、電動機の軸電圧を低減させることが可能であり、軸受の電食発生を抑制するのに最適である。このため、空気調和機の室内機などに有効である。
【符号の説明】
【0088】
10 固定子
11 固定子鉄心
12 固定子巻線
13 絶縁樹脂
13a 本体突出部
14 回転子
15,15a,15b 軸受
16 回転軸
17,19 ブラケット
18 プリント基板
20 接続線
22 導通ピン
23 貫通孔
24 接続ピン
30 回転体
31 回転子鉄心
31a 外側鉄心
31b 内側鉄心
32 磁石
33 挿入孔
35 締結部
50 誘電体層
100 空気調和機
101,311 筐体
102 熱交換器
103 ファン
104 電動機
301 室外機
302 底板
303 電動機駆動装置
304 仕切り板
305 圧縮機
306 圧縮機室
307 熱交換器
309 熱交換器室
310 電装品箱
312 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心に固定子巻線を巻装した固定子と、
前記固定子に対向して磁石を保持した回転体と、前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結した回転軸とを含む回転子と、
前記回転軸を支持する軸受と、
前記軸受を固定する2つの導電性のブラケットとを備え、
前記回転軸と前記回転体の外周との間に誘電体層を設け、
前記誘電体層は前記回転軸を中心に多角形とし、
前記誘電体層の多角形の角の頂点は、前記回転軸を中心に、前記回転体に保持されている磁石に着磁された極の中心に位置したことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記誘電体層の多角形の角数は、前記回転体に保持されている磁石の着磁極数と同数としたことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記誘電体層の多角形の角の頂点は、R形状を施したことを特徴とする請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
前記回転体は、前記誘電体層の外周側に複数の挿入孔を有し、前記挿入孔に前記磁石をそれぞれ挿入したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
前記誘電体層は、前記回転体の軸方向両面の少なくとも前記磁石を覆う構成としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項6】
前記2つのブラケットを互いに電気的に接続したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項7】
前記固定子鉄心を接地したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項8】
互いに電気的に接続した前記2つのブラケットと前記固定子鉄心を接地したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項9】
前記固定子鉄心に巻装した前記固定子巻線は、パルス幅変調方式のインバータにより駆動されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電動機を搭載したことを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−249522(P2012−249522A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−205262(P2012−205262)
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【分割の表示】特願2012−535491(P2012−535491)の分割
【原出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】