説明

電動機及び電動機の樹脂絶縁と固定子の組み付け固定方法

【課題】
電動機の固定子に樹脂絶縁を確実に組み付けることができ、騒音、振動の少ない電動機と、その固定方法を提供する。
【解決手段】
固定子10は円周方向に伸びた環状ヨーク部11と、前記環状ヨーク部11から径方向に伸びる複数のティース部12を備え、前記固定子10の環状ヨーク部11と複数のティース部12の軸方向端面に面対向する樹脂絶縁100が施され、固定子10のスロット内は、フィルム状のスロット絶縁38が施された固定子10において、
前記樹脂絶縁100の凸部34の突起と前記固定子軸方向端面の凹部13の溝との固定子内径中心からの距離が異なるようにした電動機とし、樹脂絶縁100と固定子10のどちらか一方を加熱して組み付けた固定方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子の両端面を樹脂絶縁で絶縁しスロット内をフィルム状のスロット絶縁で絶縁した電動機において、固定子のティースの絶縁に直接巻線を巻き付けた集中巻き方式の電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような電動機は特許文献1(特開2003−319593号公報)及び特許文献2(特開2004−194413号公報)に示すような電動機の固定子がある。特許文献1及び特許文献2には、固定子の円周方向に伸びた環状ヨーク部と、環状ヨーク部から固定子内径方向に向かい複数のティース部を備えた電動機において、固定子の環状ヨーク部とティース部と面対向した樹脂絶縁が施され、固定子のスロット内はフィルム状のスロット絶縁が施された固定子が示されている。
【0003】
樹脂絶縁は環状ヨーク部に円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁と、複数のティース部に環状ヨーク部樹脂絶縁から径方向に伸びるティース部樹脂絶縁で構成され、ティース部樹脂絶縁は、直接巻線を巻き付けるための巻線胴部と、巻線胴部の固定子内径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁を有し、環状ヨーク部樹脂絶縁は、固定子外径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる外径樹脂壁を有している。また、固定子軸方向端面と面対向する樹脂絶縁端面には、固定子と樹脂絶縁がずれない様にするための凸部が設けられ、固定子軸方向端面には樹脂絶縁の凸部に対応する凹部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−319593号公報
【特許文献2】特開2004−194413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような固定子軸方向両端面に樹脂絶縁を施し、スロット内にフィルム状の絶縁を施し固定子のティースに直接巻線を巻き付けた集中巻き方式の電動機において、固定子軸方向両端面と面対向した樹脂絶縁端面に、固定子と樹脂絶縁がずれない様に固定子軸方向両端面と面対向した樹脂絶縁端面側に凸部を設け、固定子軸方向端面には樹脂絶縁端面側の凸部と対応する凹部が設けられている。しかしながら樹脂絶縁端面側の凸部と固定子軸方向端面側の凹部との間に隙間を生じ、緩くなっていると、固定子のティース部の樹脂絶縁に直接巻線を巻き付ける電工作業時、固定子軸方向端面側から樹脂絶縁が脱落し易くなってしまう。特に、樹脂絶縁端面側の凸部と固定子軸方向端面の凹部との間に隙間が生じると電動機駆動時に固定子を起因とした、樹脂絶縁端面の凸部と固定子軸方向端面側の凹部との固定強度のバラツキによる騒音、振動が発生する。
【0006】
また、逆に固定子軸方向端面側から樹脂絶縁が脱落しないように樹脂絶縁端面側の凸部の突起部分を固定子軸方向端面側の凹部の溝に近い寸法とすると固定子軸方向端面側の凹部の溝に樹脂絶縁の凸部の突起を嵌め込むのに困難を要する。尚、固定子軸方向端面側の凹部の溝に樹脂絶縁の凸部の突起部分を無理に嵌め込もうとすると固定子軸方向端面に設けた凹部の溝により樹脂絶縁の凸部の突起部分が削られ樹脂の削り屑が発生する。この様な場合、空調機や冷凍機などに用いられる密閉型電動圧縮機においては、この削り屑により圧縮機自体の目詰まりを起こし故障の原因となってしまう。
【0007】
本願発明は、このような問題点を解決するものであり、樹脂絶縁端面側の凸部の突起部分が固定子軸方向端面側の凹部の溝より脱落することなく、樹脂絶縁を固定子端面に容易に取り付けることができ、樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面側の凹部の溝との固定強度を維持しつつ騒音、振動などを低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固定子は円周方向に伸びた環状ヨーク部と、環状ヨーク部から径方向に伸びる複数のティース部を備え、固定子の軸方向端面に面対向する樹脂絶縁が施され、固定子のスロット内は、フィルム状のスロット絶縁が施された固定子において、樹脂絶縁は環状ヨーク部に円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁と、複数のティース部に環状ヨーク部樹脂絶縁から径方向に伸びるティース部樹脂絶縁で構成され、ティース部樹脂絶縁には直接巻線を巻き付けるための巻線胴部と、前記巻線胴部の固定子内径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁と、前記環状ヨーク部樹脂絶縁の固定子外径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる外径樹脂壁を有した樹脂絶縁であって、固定子軸方向端面と面対向する樹脂絶縁端面には、固定子と樹脂絶縁がずれない様にするための凸部の突起が設けられ、固定子軸方向端面には樹脂絶縁の凸部の突起に対応する凹部の溝が設けられ、樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面の凹部の溝との固定子内径中心からの距離を異ならせた電動機とする。
【0009】
樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面の凹部の溝とは、樹脂絶縁もしくは固定子のどちらか一方を加熱して、固定子と樹脂絶縁がずれない様に組み付けた電動機とする。
【0010】
樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より短い場合、樹脂絶縁を加熱して固定子に組み付けた電動機とする。
【0011】
樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より長い場合、固定子を加熱して樹脂絶縁を組み付けた電動機とする。
【0012】
また、前記電動機の樹脂絶縁と固定子の組み付け方法は、樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面の凹部の溝とのどちらか一方を加熱して、固定子と樹脂絶縁を固定する組み付け方法とする。
【0013】
例えば、樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より短い場合、樹脂絶縁を加熱して固定子に組み付ける固定方法とする。
【0014】
或いは、樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より長い場合、固定子を加熱して樹脂絶縁を組み付ける固定方法とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂絶縁は、樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面の凹部の溝との固定子内径中心からの距離を若干異ならせることにより確実な締め代を設け、樹脂絶縁端面側の凸部の突起部分を固定子軸方向端面側の凹部の溝に確実に固定することができ、樹脂絶縁が固定子に組み込めない組み付け不良や、樹脂絶縁が固定子から脱落するといった不良を低減することができる。
【0016】
尚、固定子軸方向端面の凹部の溝との固定子内径中心からの距離を若干異ならせた電動機では、樹脂絶縁端面に凸部の突起部分を設けた樹脂絶縁もしくは固定子軸方向端面側に凹部の溝を設けた固定子のどちらか一方を加熱することにより容易に組み付けることができる。
【0017】
具体的には、樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より短い場合、樹脂絶縁を加熱して固定子に組み付けることにより容易組み付けることができる。
【0018】
また、樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より長い場合、固定子を加熱して樹脂絶縁を組み付けることにより容易に組み付けることができる。
【0019】
このような電動機及び、この電動機の組み付け方法を用いることにより、樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面の凹部の溝との固定子内径中心からの距離を若干異ならせて、どちらか一方を加熱して組み付けることにより容易に組み付けることができ、組み付け後、製品が冷却した後は確実な締め代を有し、樹脂絶縁端面側の凸部の突起部分を固定子軸方向端面側の凹部の溝に確実に固定することができる。これにより樹脂絶縁が固定子に組み込めない組み付け不良や、樹脂絶縁が固定子から脱落するといった不良を低減した最良の組み付け方法とすることができる。
【0020】
また、固定子軸方向端面側の凹部の溝に樹脂絶縁の凸部の突起部分を無理に嵌め込むことがないので樹脂の削り屑もなくなり空調機や冷凍機などに用いられる密閉型電動圧縮機の圧縮機自体の目詰まりも低減することができる。
【0021】
さらに、樹脂絶縁端面の凸部の突起と固定子軸方向端面側の凹部の溝との固定強度を維持しつつ騒音、振動などを低減した電動機とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の電動機の固定子を上から見た図。
【図2】図1における電動機の固定子のA−O―A’断面図。
【図3】本実施形態の樹脂絶縁の図。
【図4】図3に示した樹脂絶縁の裏側から見た図。
【図5】本実施形態の固定子の図。
【図6】本実施形態における電動機の固有値周波数に対する引張強度のグラフ。
【図7】本実施形態における樹脂絶縁の加振特性。
【図8】本実施形態における電動機の固有値周波数に対する騒音のグラフ。
【図9】樹脂絶縁の凸部の突起と、固定子軸方向端面の凹部の溝の位置関係を説明する詳細図。
【図10】樹脂絶縁の凸部の突起と、固定子軸方向端面の凹部の溝の位置関係を説明する詳細図。
【図11】樹脂絶縁の凸部の突起と、固定子軸方向端面の凹部の溝の位置関係を説明する詳細図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1は本実施形態の電動機の固定子を上から見た図である。図2は図1で示した電動機の固定子のA−O−A’断面図である。尚、図1には図2に記載した各巻線2から引き出したリード線3及び各リード線3をまとめ電源側に接続するクラスタ4は図面をわかり易くするために記載を省略している。また、図5には実施形態における固定子10の形状を説明するための図である。
【0024】
本実施形態の固定子10は、図5に示しているように円周方向に伸びた環状ヨーク部11と、前記環状ヨーク部11から径方向に伸びる複数のティース部12で構成されている。また、図1及び図2に示しているように固定子10の軸方向両端面に樹脂絶縁100が施されている。この樹脂絶縁100は固定子10の軸方向の一方端面に上部絶縁端板30、他方端面に下部樹脂絶縁板40として構成している。
【0025】
図3には図1及び図2に示した樹脂絶縁100の上部絶縁端板30である。上部絶縁端板30は、固定子10の環状ヨーク部11に円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁36と、固定子10の複数のティース部12に環状ヨーク部樹脂絶縁36から固定子内径方向に伸びるティース部樹脂絶縁37で構成され、この複数のティース部12のティース部樹脂絶縁37には直接巻線2を巻き付けるための巻線胴部33と、この巻線胴部33の固定子内径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁32と、環状ヨーク部樹脂絶縁36の固定子外径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる外径樹脂壁31で構成されている。
【0026】
本実施形態の図1及び図2に示した樹脂絶縁100の下部絶縁端板40の構造は図3に示した上部絶縁端板30と同様の構造であるため、図3に下部絶縁端板40の符号を付して説明する。下部絶縁端板40は、固定子10の環状ヨーク部11に円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁46と、固定子10の複数のティース部12に環状ヨーク部樹脂絶縁46から固定子内径方向に伸びるティース部樹脂絶縁47で構成され、この複数のティース部12のティース部樹脂絶縁47には直接巻線2を巻き付けるための巻線胴部43と、この巻線胴部43の固定子内径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁42と、環状ヨーク部樹脂絶縁46の固定子外径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる外径樹脂壁41で構成されている。
【0027】
また、固定子10の隣り合うティース12によって構成されるスロット14には、フィルム状のスロット絶縁38が施されている。このスロット絶縁38は、一方の固定子軸方向端面の上部絶縁端板30から、他方の固定子軸方向端面の下部絶縁端板40までスロット内を貫通して、スロット側面を覆うように絶縁されている。
尚、このスロット絶縁38は、固定子軸方向端面に面対向している樹脂絶縁100のティース部樹脂絶縁37(もしくは47)の巻線胴部33(もしくは43)から、固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁32(もしくは42)からスロット14に被さるように固定子周方向に伸びる鍔部32a(もしくは42a)に引っ掛かりスロット絶縁38が固定子軸方向から飛び出ないようにしている。このスロット絶縁38がスロット14から飛び出ない構造は、上部絶縁端板30及び下部絶縁端板40で同様の構造を有している。この鍔部32a(もしくは42a)によりフィルム状のスロット絶縁38は固定子10のスロット内に確実に固定することができ、脱落を防ぐことができる。(以降、下部絶縁端板40の説明は上部絶縁端板30と同様であるため説明を省略する。)
【0028】
従って、図1及び図2に示した本発明における樹脂絶縁100は、環状ヨーク部11に円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁36と、複数のティース部12に環状ヨーク部樹脂絶縁36から径方向に伸びるティース部樹脂絶縁37で構成され、複数のティース部12のティース部樹脂絶縁37には直接巻線2を巻き付けるための巻線胴部33と、前記巻線胴部33の固定子内径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁32と、前記環状ヨーク部樹脂絶縁36の固定子外径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる外径樹脂壁31を有した樹脂絶縁100である。また、このティース部樹脂絶縁37の根元部の環状ヨーク部樹脂絶縁36が接続した部分には、固定子軸方向端面の固定子径方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁36の平端面が設けられている。これにより固定子の樹脂絶縁100を施したティース部12に巻線2を直接巻き付ける際の逃がし部分となっている。
【0029】
この環状ヨーク部樹脂絶縁36の平端面の逃がし部分により巻線2の高さ方向の膨らみを緩和することができる。また、この環状ヨーク部樹脂絶縁36の平端面があることにより固定子10のティース部12に直接巻き付けた巻線2の巻き始め、巻き終わりの引出線の引出口となり、引出線の引出を容易にしている。これにより引出線が邪魔になることなく固定子10のティース部12に巻き付けた巻線2を整列巻きにすることができ巻線高さを極力低くすることができる。更にこの環状ヨーク部樹脂絶縁36の平端面に各巻線2から引き出した引出線を接続した接続点部を収納することもできる。
【0030】
図4は、図3に示した樹脂絶縁100の固定子軸方向端面と面対向した樹脂絶縁100の裏側から見た図である。樹脂絶縁端板100の裏側の固定子10の円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁36と、環状ヨーク部樹脂絶縁36から径方向に伸びる複数のティース部樹脂絶縁37には、樹脂絶縁100の重量低減及び原材料の削減のため凹溝35が設けられている。尚、樹脂絶縁100の材質としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等がある。
【0031】
図3及び図4に示した本実施形態の樹脂絶縁端板100には、樹脂絶縁端板100の固定子軸方向端面と面対向した樹脂絶縁100の裏側の固定子10の円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁36と、環状ヨーク部樹脂絶縁36から径方向に伸びる複数のティース部樹脂絶縁37の根元部(樹脂絶縁100の環状ヨーク部樹脂絶縁36の裏側平端部)に固定子軸方向端面側に突き出した凸部34の突起部を有している。
【0032】
この凸部34の突起部が設けられた樹脂絶縁100と面対向するように、固定子10の円周方向に伸びた環状ヨーク部11の固定子軸方向端面に凹部13の溝を設けている。この固定子軸方向端面に設けた凹部13の溝の位置は、樹脂絶縁100の端面に設けた凸部34の突起部の位置とは、固定子内径中心からの距離が若干異ならせている。これにより若干の締め代を持たせ樹脂絶縁100に設けた凸部34の突起部を確実に固定子軸方向端面に設けた凹部13の溝に固定することができる。
【0033】
図4の環状ヨーク部樹脂絶縁36の平端面の裏側部から固定子軸方向端面側に突き出した凸部34の突起部は、6本のティース部樹脂絶縁37の根元部(樹脂絶縁100の環状ヨーク部樹脂絶縁36の裏側平端部)の全てに設けているが、固定子10と樹脂絶縁100が確実に固定できればよいので全てのティース部12に設ける必要はない。また、固定子10と樹脂絶縁100を強固に固定できればよいので凸部34の突起部の数や場所はこだわらない。
【0034】
また、この環状ヨーク部樹脂絶縁36の平端面の裏側部から固定子軸方向端面側に突き出した凸部34の突起部は、固定子10と樹脂絶縁100との組み付け間違いを防止する場合、1つのみ凸部34の突起部の固定子内径中心からの距離を変えることによって位置決め(ばかよけ)をすることもできる。前記した凸部34の突起部の大きさは、固定子10の組み付けに支障のない深さにすることが望ましいが、本実施形態では凸部34の突起部の直径約3.5mm程度で、高さ約3.5mm程度である。
【0035】
また、樹脂絶縁100に設けた凸部34の突起部を確実に固定子軸方向端面に設けた凹部13の溝に固定することにより、電動機の固定子10を起因とする騒音、振動などを低減することができる。図6には樹脂絶縁100に設けた凸部34の突起部を確実に固定子軸方向端面に設けた凹部13の溝に強固に固定することにより騒音、振動などが下がることを示すグラフを示している。
【0036】
図6は、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を固定子軸方向端面の凹部13の溝に固定した場合の強度と、樹脂絶縁100の楕円変形モードの固有値の周波数との関係を示している。尚、この場合の樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を、固定子軸方向端面の凹部13の溝に固定した場合の強度は、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を固定子軸方向端面の凹部13の溝に固定した後、固定子軸方向端面の凹部13の溝から樹脂絶縁100の凸部34の突起部を引き離す引張強度である。本実験では固有値周波数を測定した後、引張強度を測定している。
【0037】
図6のグラフは、縦軸を引張強度とし、横軸に固定子10に組み付けられた樹脂絶縁100の楕円変形モードの固有値周波数として記載している。グラフより明らかなように引張強度、つまり樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を、固定子軸方向端面の凹部13の溝に組み付けた組み付け強度が強固であればある程、固有値周波数が高くなる傾向が解る。尚、本実験では固有値周波数が370Hz未満(A未満)では、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起と、固定子軸方向端面の凹部13の溝との隙間が大きくなり(締め代を有していない)樹脂絶縁100が脱落して測定することができない。また、逆に固有値周波数が560Hz以上(E以上)は、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起と、固定子軸方向端面の凹部13の溝とを実施可能な方法(例えば接着剤等で固定する)で隙間なく強固に固定しているため固有値周波数が560Hz以上では引張強度は大きく変わらない。
【0038】
図7のグラフは、図6のグラフで示した電動機の固定子10、つまり樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を、固定子軸方向端面の凹部13の溝に組み付けた後の固定子10完成後の樹脂絶縁100の径方向の加振特性を示している。縦軸に伝達関数のイナータンスを示し、横軸に周波数を示す。図6のグラフで説明したように樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を、固定子軸方向端面の凹部13の溝に強固に組み付けることにより樹脂絶縁100の楕円変形モードの固有値周波数が高くなる傾向を示している。
【0039】
次に、固定子10に組み付けられた樹脂絶縁100の楕円変形モードの固有値周波数とインバータ電源のキャリア成分(4000Hz)に起因する騒音の相関関係を図8のグラフに示す。このグラフは縦軸をキャリア成分の騒音、横軸に樹脂絶縁100の楕円変形モードの固有値周波数を表している。固有値周波数が高いほど、インバータ電源のキャリア成分に起因する騒音のレベルが低減できることが解る。
【0040】
即ち、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を、固定子軸方向端面の凹部13の溝に強固に組み付けることにより、巻線2に流れる電流、特にインバータ電源のキャリア成分に起因する固定子10に組み付けられた樹脂絶縁100の振動を低減することができ、結果として電動機のキャリア成分に起因する騒音を低減出来ることが解る。本実施形態では、この樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起を、固定子軸方向端面の凹部13の溝に強固に組み付ける方法として、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起部と固定子軸方向端面の凹部13の溝との固定子内径中心からの距離を異ならせた電動機としている。この樹脂絶縁100と固定子10とを組み付ける方法として、樹脂絶縁100もしくは固定子10のどちらか一方を加熱して、固定子10と樹脂絶縁100がずれて脱落しない様に組み付けている。
【0041】
具体的に樹脂絶縁100の構造と固定子10の構造を図9〜図11に示している。
図9〜図10は、例えば図4に示した樹脂絶縁100の裏側端面の凸部34の突起の1つを、図5に示した固定子10の固定子軸方向端面の凹部13の溝の1つに組み付けた際の位置関係を解るようにした詳細図である。
【0042】
図9は図4で示した樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起の固定子内径中心からの距離Xを、図5で示した固定子軸方向端面の凹部13の溝の固定子内径中心からの距離Yより短くしている(X<Y)。この場合の樹脂絶縁100と固定子10の組み付け固定方法は、樹脂絶縁100を加熱して、図11に示すような樹脂絶縁100の裏側端面の凸部34の突起と、固定子10の固定子軸方向端面の凹部13の溝との位置関係になるようにして組み付ける。その後、樹脂絶縁100が冷却されると図9に示すように樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起の固定子10の内径側が、固定子軸方向端面の凹部13の溝の固定子10の内径側で保持され強固に組み付けることができる。
【0043】
また、同様に図10は図4で示した樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起の固定子内径中心からの距離Xを、図5で示した固定子軸方向端面の凹部13の溝の固定子内径中心からの距離Yより長くしている(X>Y)。この場合の樹脂絶縁100と固定子10の組み付け固定方法は、固定子10を加熱して、図11に示すような樹脂絶縁100の裏側端面の凸部34の突起と、固定子10の固定子軸方向端面の凹部13の溝との位置関係にして組み付ける。その後、固定子10が冷却されると図10に示すように樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起の固定子10の外径側が、固定子軸方向端面の凹部13の溝の固定子10の外径側で保持され強固に組み付けることができる。
【0044】
従って、このような方法によって電動機の固定子10に樹脂絶縁100を組み付けることにより確実に樹脂絶縁100を固定子10に組み付けることができ、樹脂絶縁100の端面に凸部34の突起部を有する樹脂絶縁100と固定子軸方向端面の凹部13の溝とを強固に固定することにより騒音・振動などを低減した電動機の固定子10とすることができる。
【0045】
これにより、樹脂絶縁100の裏側の凸部34の突起部分が固定子軸方向端面側の凹部13の溝より脱落することなく、樹脂絶縁100を固定子10の端面に容易に取り付けることができ、樹脂絶縁100の端面の凸部34の突起と固定子軸方向端面側の凹部13の溝との固定強度を維持しつつ騒音、振動などを低減することができる。
【符号の説明】
【0046】
2・・・巻線
3・・・リード線
4・・・クラスタ
10・・・固定子
11・・・環状ヨーク部
12・・・ティース部
13・・・凹部の溝
14・・・スロット
30・・・上部絶縁端板
31、41・・・外径樹脂壁
32、42・・・内径樹脂壁
32a、42a・・・鍔部
33、43・・・胴部
34、44・・・凸部の突起
35、45・・・樹脂絶縁の凹部溝
36、46・・・環状ヨーク部樹脂絶縁
37、47・・・ティース部樹脂絶縁
38・・・スロット絶縁
40・・・下部絶縁端板
100・・・樹脂絶縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子は円周方向に伸びた環状ヨーク部と、環状ヨーク部から径方向に伸びる複数のティース部を備え、前記固定子の軸方向端面に面対向する樹脂絶縁が施され、固定子のスロット内は、フィルム状のスロット絶縁が施された固定子において、
前記樹脂絶縁は環状ヨーク部に円周方向に伸びる環状ヨーク部樹脂絶縁と、複数のティース部に環状ヨーク部樹脂絶縁から径方向に伸びるティース部樹脂絶縁で構成され、前記ティース部樹脂絶縁には直接巻線を巻き付けるための巻線胴部と、前記巻線胴部の前記固定子内径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる内径樹脂壁と、前記環状ヨーク部樹脂絶縁の前記固定子外径側から固定子軸方向端面側とは逆の軸方向に伸びる外径樹脂壁を有した樹脂絶縁であって、
前記固定子軸方向端面と面対向する前記樹脂絶縁端面には、前記固定子と前記樹脂絶縁がずれない様にするための凸部の突起が設けられ、前記固定子軸方向端面には前記樹脂絶縁の凸部の突起に対応する凹部の溝が設けられ、
前記樹脂絶縁端面の凸部の突起と前記固定子軸方向端面の凹部の溝との固定子内径中心からの距離が異なっていることを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記樹脂絶縁端面の凸部の突起と前記固定子軸方向端面の凹部の溝とは、前記樹脂絶縁もしくは前記固定子のどちらか一方を加熱して、前記固定子と前記樹脂絶縁がずれない様に組み付けたことを特徴とする請求項1項記載の電動機。
【請求項3】
前記樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、前記固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より短い場合、前記樹脂絶縁を加熱して前記固定子に組み付けたことを特徴とする請求項1項記載の電動機。
【請求項4】
前記樹脂絶縁端面の凸部の突起の固定子内径中心からの距離が、前記固定子軸方向端面の凹部の溝の固定子内径中心からの距離より長い場合、前記固定子を加熱して前記樹脂絶縁を組み付けたことを特徴とする請求項1項記載の電動機。
【請求項5】
請求項2項〜請求項4項いずれか記載の電動機の前記樹脂絶縁と前記固定子の組み付け固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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