説明

電動自転車

【課題】 補助機能を有する電動自転車において、体力増進のために使用する場合に、操作者の感覚を加味して運動負荷強度を変更する電動自転車を提供することを課題とする。
【解決手段】 操作者の踏力による人力駆動力と走行の補助および発電を行うモータの補助力を用いた電動自転車であって、ペダルと、該ペダルにかかる前記踏力を検出する踏力検出部と、操作者の生体情報を検出するセンサを有する生体情報検出部と、該生体情報検出部の検出結果から、快適軸方向および覚醒軸方向の2因子に関する情報を算出して、該情報から前記操作者の感覚を推定する感覚推定部を有し、当該推定された感覚が所定の範囲内に含まれるかどうかの判断結果および前記踏力検出部の検出結果に基づき、前記モータの補助力の制御を行う、または前記モータを発電機として使用するか否かの制御を行う制御部とを備えることを特徴とする電動自転車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動自転車に関するものであり、特に、電動自転車を操作者の感覚を推定して運動負荷強度等が変更可能な健康器具などとして用いる場合に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
最近、電動モータを備え、登坂の場合などにおいて当該電動モータからの補助力により、操作者の運動負荷の強さ(以下、運動負荷強度)を例えば1/2に軽減させる電動自転車が用いられる様になってきている。
【0003】
一方で、操作者への運動負荷強度を増やすことで、当該補助機能を有する電動自転車を体力増進のために使用する考え方も提案されている(特許文献1)。当該電動自転車では、操作者の心拍数などの情報に応じて運動負荷強度の増減を制御している。
【特許文献1】特許第3086475号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、当該補助機能を有する電動自転車を体力増進のために使用する場合において、かかる従来技術によれば操作者の心拍数などの情報に応じて運動負荷強度の増減の制御をすることはできるが、操作者の心理状態(以下、操作者の感覚と呼ぶ)を加味して運動負荷強度の増減の制御をすることはできない。操作者の状態によっては、効果的な有酸素運動を行えていない場合があり、操作者の感覚を加味した電動自転車が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、補助機能を有する電動自転車において、体力増進のために使用する場合に、操作者の感覚を加味して運動負荷強度を変更する電動自転車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動自転車は、操作者の踏力による人力駆動力に、該人力駆動力の補助を行うモータの補助力を加える事で運動負荷強度を制御して走行可能とされた電動自転車であって、ペダルと、該ペダルにかかる前記踏力を検出する踏力検出部と、操作者の生体情報を検出するセンサを有する生体情報検出部と、該生体情報検出部の検出結果から、操作者の感覚における快適軸方向および覚醒軸方向の2因子に関する情報を算出して、該情報から前記操作者の感覚を推定する感覚推定部を有し、当該推定された感覚と前記踏力検出部の検出結果とに基づき、前記モータの補助力の制御を行うことにより、前記運動負荷強度の制御を行う制御部とを備えることを特徴とする。
【0007】
前記制御部が行う運動負荷強度の制御には、前記モータによる前記人力駆動力への補助力の制御の他、前記モータを発電機として使用することにより前記人力駆動力へ加わる負荷の制御を含んでもよい。
【0008】
上記電動自転車において、前記センサは、生体情報として心電位を検出するセンサ、または、脈拍、皮膚温、皮膚電気反射を検出するセンサ、のうちの少なくとも一方であってよい。
【0009】
また、前記センサは、生体情報として心電位を検出するセンサであり、前記制御部は、所定期間内における、操作者の心電位波形の各極大値部分Rのピーク間隔の時間軸方向の特性において、該ピーク間隔の変化勾配と周波数解析の結果から算出される所定周波数値におけるパワー値を算出して、前記快適軸方向および覚醒軸方向の2因子に関する快適度Cと覚醒度Aを算出し、前記快適軸方向における第一の閾値Lcと、覚醒軸方向における第二の閾値Laおよび第二の閾値より大きい値である第三の閾値H、に対して、快適度Cが前記第一の閾値Lc未満の時は運動負荷強度を弱くし、覚醒度Aが前記第二の閾値La未満の時は運動負荷強度を強くし、覚醒度Aが前記第三の閾値H超過の時は運動負荷強度を弱くする2因子制御を行ってもよい。
【0010】
上記電動自転車において、時間の経過に連れて前記操作者への前記補助力を減少させるモード、前記操作者への前記補助力を一定に維持するモード、時間の経過に連れて前記操作者への前記補助力を増加させるモードを有し、また前記各モードは少なくとも強段階、弱段階の運動負荷強度を有し、各モードにおいて、前記制御部の前記2因子制御の結果、時間の経過に対して強段階、弱段階の運動負荷強度を切り替える強弱切替部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、補助機能を有する電動自転車において、体力増進のために使用する場合に、操作者の感覚を加味して運動負荷強度を変更する電動自転車を提供することができる。
【0012】
本発明の意義ないし効果は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。
【0013】
ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明の一つの実施形態であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以下の実施の形態に記載されたものに制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
【0015】
まず、図1に実施の形態に係る電動自転車100の構成の模式図を示す。また、図2に電動自転車100の制御系の機能ブロック図を示す。
【0016】
同図によると、電動自転車100は、自転車に乗った操作者が推進力を得るために踏み込むペダル1、ペダルに加わる操作者の踏力を検出する踏力検出部2、前輪8と、後輪である駆動輪7、電動補助用および発電用モータ3、ハンドル、サドル等からなる。バッテリ4はモータ3に接続され、モータ3が操作者の踏力を補助する際の電源となり、および発電の際の蓄電の対象となる。なお、図1ではモータ3が後輪に搭載されている場合を例示している。
【0017】
5は操作者の生体情報を検出するセンサ(生体情報検出部)で、その検出結果は感覚推定部6Aに入力される。感覚推定部6Aでは、後述の様に、センサの検出結果から、操作者の感覚における快適軸方向および覚醒軸方向の2因子に関する情報を算出して、該情報から前記操作者の感覚を推定する。
【0018】
制御部6は、感覚推定部6Aとコントローラ6Bからなる。コントローラ6Bは、モータ3を制御するコントローラで、上記推定された操作者の感覚と踏力検出部2の検出結果に基づき、モータ3の補助力の制御を行うことにより、運動負荷強度の制御を行う。なお、当該制御には前記モータを発電機として使用することにより人力駆動力へ加わる負荷の制御も含む。この場合には補助力は操作者に対して負荷を課す向きの力(負荷力)となる。これらのことは後で詳しく述べる。
【0019】
制御部6は、CPU、メモリなどで構成され、上記に加え、その他の演算、制御、判断等を行う。
【0020】
踏力検出部2は、磁歪素子などの力センサが使用される。なお、図1では、ペダル受け軸の位置に搭載されて、操作者の踏力を検出する場合で例示されているが、踏力検出部2の位置はここに限られない。
【0021】
モータ3は、1個のみ電動自転車100に搭載され、電動補助の用に供する場合は駆動機として、発電の用に供する場合は発電機として機能する。登坂時には操作者の負担軽減のために駆動機として使用され、降坂時にはその降坂の運動エネルギーの有効利用やブレーキ効果の点から発電機として使用される。なお、後述の様に体力増進(以下、トレーニングと書く)のために使用する場合には操作者への運動負荷を科すために、駆動機として使用すべきケースにおいて発電機として使用する場合がある。図2には、モータ3が当該2つの機能を有する様が明示されている。
【0022】
センサ5は、生体情報として、少なくとも、脈拍、心拍、心電位、皮膚温、皮膚電気反射を検出するセンサのうちの一つを表す。以下の実施例等では、場合に応じて、センサの別を明示する。なお、図1、図2では、心電位センサとして明示されている。なお、心電位は、ハンドル・グリップ部に取り付けた心電位センサ(2組以上の電極)を用いて操作者の両手の掌から計測される。
【0023】
本実施形態の電動自転車100は、上で述べたような、ペダル1とチェーンを使用した操作者の踏力による人力駆動力に、当該人力駆動の補助および発電を行うモータの補助力および負荷力を加えることで操作者に対する運動負荷強度を制御して走行可能とされた電動自転車である。さらに、電動自転車100は、操作者への補助機能を有するだけでなく、体力増進のために使用できるトレーニング機能を有し、当該トレーニングの際に操作者の感覚を推定し、それを加味して運動負荷強度を変更する機能を有する。
【0024】
次に、先述の快適軸方向および覚醒軸方向の2因子と、操作者の感覚推定について述べる。
【0025】
心理学において、感覚の表現法として快適軸方向(快−不快)および覚醒軸方向(興奮[覚醒レベル高]−鎮静[覚醒レベル低])の2因子的アプローチが知られている。例えば、快適感にはリラックスした快適(鎮静状態)と、気分が高揚したワクワクする快適(興奮状態)とがあり、不快感には退屈な不快感(鎮静状態)と、気が立ったイライラさせる不快感(興奮状態)とがあるように、快適感、不快感には質的な違いが存在する。これまでの心理学の研究から、この質的違いに着目することで従来以上の確度で人間の感覚を推定できることが見出されている(「快適さの客観的計測と評価」計測と制御41,(10),696-701 2002吉田倫幸)。
【0026】
以下では、補助機能を有する電動自転車を用いてトレーニングに使用する場合に、操作者の感覚を推定して当該推定結果を加味して運動負荷強度を変更する電動自転車について実施例を挙げて説明する。具体的には、異なる生体情報を使用した実施例を2つ挙げ、操作者の感覚推定の具体的手法、運動負荷強度を変更するためのモータ3の制御方法について述べる。
【0027】
なお、本実施形態の電動自転車100は、時間の経過に連れて操作者への補助力を減少させる又はモータを発電機として使用し操作者に負荷力を課すウォームアップモード、操作者への補助力を一定に維持するモードでありかつ最大酸素摂取量の60〜70%に相当する運動負荷を操作者へ課する有酸素運動を行う有酸素運動モード、時間の経過に連れて操作者への補助力を増加させる又は前記モータを発電機として使用することを停止するクーリングダウンモードの3つのモードを有し、各モードは強段階、中段階、弱段階の3つの運動負荷強度を有している。なお、有酸素運動モードは操作者への補助力を一定に維持するモードの一例であり、当該操作者への補助力を一定に維持するモードは有酸素運動モードに限られない。コントローラ6B内部に、各モードにおいて運動負荷強度を切り替える強弱切替部6Cを備えている。
【実施例1】
【0028】
本実施例では、具体的例として、人間の感覚に応じて変化する交感神経系、副交感神経系のからなる自律神経系の影響を受ける心電位の波形に注目する。すなわち、本実施例ではセンサ5は心電位センサであり、その検出結果を用いる。
【0029】
図3に、模式的な心電位波形(心電図)を示す。同図(a)は同図(b)における波形図の一波長分を取り出し拡大した拡大図である。本実施形態では、同図に示す心電位波形の極大値部分R(以下、当該部分をR波と呼ぶ)のピーク間隔(以下、RRI[アール・アール・インターバル;RR間隔]と呼ぶ。[単位:ΔmSec])を計測し、RRIの変化勾配([単位:ΔmSec/s])と周波数解析の結果から快適軸方向および覚醒軸方向の2因子を算出し、操作者の感覚推定を行う。RRIの変化勾配については、後述の様に20秒間の各RRIの増減(図3(d)の実線波形)の傾向に着目し、周波数解析結果については図3(c)に示すようなFFT(高速フーリエ変換)演算の結果から算出される周波数領域における0.3Hz近傍のパワー値に着目する(以下、HFと呼ぶ。[単位:ms/Hz])。なお、同図(c)に示す周波数領域波形は同図(d)に示す心電位のRRIをFFTで演算したものである。同図(d)に示す破線曲線は、同図の実線波形が含む低周波数成分0.1Hz近傍の周波数成分を表している。図3(d)の実線波形は、同図(c)に示されるように、低周波数成分0.1Hz近傍と、高周波数成分0.3Hz近傍(HF)の2箇所に周波数分布を有している。HFが後述の様に副交感神経活動を直接反映することから、上記の様にそのパワー値に着目する。
【0030】
一方、20秒間の各RRIの増減の傾向(変化勾配)は、例えば同図(d)における時刻T、T(=T+20sec)間において、最小二乗法で求めた直線の傾きである。なお、時刻T、TにおけるRRIをRRI、RRIとした場合に、計算式「(RRI−RRI)/20」で求めた値を当該傾向として用いてもよい。更に、当該傾向として時刻T、T間における各RRI値の平均値を用いてもよく、また前述の計算式などと併用してもよい。
【0031】
上述の快適軸(横軸)−覚醒軸(縦)平面における操作者の感覚(心理状態)を図4(a)に示す。快適軸は快適度を示し、軸右方向は快適度が上昇し、左方向は快適度が下降し不快さが上昇する。覚醒軸は覚醒度を示し、軸上方向は覚醒レベルが高く興奮の程度が増し、下方向は覚醒レベルが低く鎮静の度合いが増す。同図(a)より、快適さと鎮静度が高い場合はリラックスした快適状態であり、快適さと興奮度が高い場合は高揚したワクワクする快適状態である。また、不快感と興奮度が高い場合はイライラした不快感状態である。
【0032】
図4(b)には、快適軸(横軸)−覚醒軸(縦)平面において、操作者が体力増進目的で電動自転車100を用いて有酸素運動した場合に効率よく運動できる領域と効率が低い領域とが示されている。図4(a)と図4(b)とを組み合わせることで操作者の感覚と、効率よく有酸素運動ができる領域との対応関係が後述のとおり分かる。
【0033】
さて、心電位波形から得られるRRIの変化勾配、およびHFと、図4に示される快適軸方向および覚醒軸方向の2因子との関係について述べる。RRIの変化勾配が増加傾向を示すほど快適感が高く、減少傾向を示すほど不快感が高いことを、当発明者らは見出した。更に、HFが大きいほど鎮静度が高く、HFが小さいほど興奮度が高いことを、当発明者らは見出した。これらは、人が快適感を感じる時はRRIが増加して心拍数が低下すること、またHFが副交感神経活動を直接反映するのでHF増減は鎮静度の上昇低下を表すことが理由と考えられる。
【0034】
図5は、本実施例および実施例2における制御部6の構成図を表している。本実施例にかかる制御部6を図5(a)に示す。感覚推定部6Aにおいて、心電位センサ5からの信号を受け、心電位波形から得られるRRIの変化勾配、およびHFを算出する。
【0035】
コントローラ6Bでは、操作者のRRI変化勾配、およびHFが上記快適軸−覚醒軸平面上において効率よく有酸素運動ができる領域に含まれるかどうか判断する。この結果、運動負荷強度、すなわちモータ3の操作者への補助力の大きさを決定する、またはモータ3を発電機として使用するか(運動負荷として用いるか)決定する。つまり、運動負荷強度を下げたい場合は補助力を上昇させ、運動負荷強度を上げたい場合は補助力を低下させる。補助力がゼロになっても運動負荷強度を上げたい場合は、モータ3を発電機として使用することで負荷力として用いることができ、運動負荷強度を上げることができる。このことは、例えば、モータ3からの補助力を受けて登坂している場合に、コントローラ6Bが運動負荷強度を上げる制御を行ったときには、モータ3からの補助力を低下させる、更にはモータ3を発電機として機能させる制御もありうることを示している。
【0036】
なお、強弱切替部6Cが運動負荷強度を切り替えるので、その運動負荷強度の切り替えも加味して、コントローラ6Bが上記補助力、負荷力の制御を行う。
【0037】
以上の動作を、図6のフローチャートを用いて説明する。なお、当該フローチャートの場合では、図4(b)における効率よく有酸素運動ができる領域が、覚醒度(Aとする)、快適度(Cとする)が所定の閾値La(第二の閾値)、Lc(第一の閾値)、H(第三の閾値)に対して、La≦A≦H、かつ、Lc≦Cである領域であるとして処理を行っている。
【0038】
電動自転車100の電源がONされることでステップ1へ移行する。
【0039】
ステップS1では、センサ5のより操作者の心電位が計測される。
【0040】
ステップS2では、感覚推定部6Aにおいて、計測された心電位波形からRRIの変化勾配の算出と、周波数解析がなされる。
【0041】
ステップS3では、感覚推定部6Aにおいて、操作者の快適度(C)、覚醒度(A)が前述のようなFFTや最小二乗法等を用いて算出される。
【0042】
ステップS4では、コントローラ6Bにおいて、覚醒度(A)が所定の閾値Hよりも大きいか否か判断される。大きい場合は、図4(b)より、現在の操作者の心理状態は効率よい有酸素運動が可能な領域に含まれないと推定されるとして、ステップS5へ移行し、それ以外はステップS6へ移行する。
【0043】
ステップS5では、覚醒度を低下させるため、運動負荷強度を弱くする。運動負荷強度を小さくすることで運動刺激による興奮が低下するので、覚醒度低下が達成される。なお、運動負荷強度が想定された下限値に達していた場合は運動負荷強度は所謂底打ち状態となるので、運動負荷強度の変更は行わない。上で述べた様にモータ3による運動負荷強度は、操作者への補助力の大きさ、またはモータ3を発電機として使用するか(運動負荷として用いるか)によって決定される。その後、ステップS1へ戻る。
【0044】
ステップS6では、コントローラ6Bにおいて、覚醒度(A)が所定の閾値Laよりも小さいか否か判断される。小さい場合は、図4(b)より、現在の操作者の心理状態は効率よい有酸素運動が可能な領域に含まれないと推定されるとして、ステップS7へ移行し、それ以外はステップS8へ移行する。
【0045】
ステップS7では、覚醒度を上昇させるため、運動負荷強度を強くする。運動負荷強度を大きくすることで運動刺激による興奮が上昇するので、覚醒度上昇が達成される。なお、運動負荷強度が想定された上限値に達していた場合は運動負荷強度は所謂頭打ち状態となるので、運動負荷強度の変更は行わない。その後、ステップS1へ戻る。
【0046】
ステップS8では、コントローラ6Bにおいて、快適度(C)が所定の閾値Lcよりも小さいか否か判断される。小さい場合は、図4(b)より、現在の操作者の心理状態は効率よい有酸素運動が可能な領域に含まれないと推定されるとして、ステップS9へ移行し、それ以外はステップS10へ移行する。
【0047】
ステップS9では、快適度を上昇させるため、運動負荷強度を弱くする。運動負荷強度を小さくすることで過度な運動刺激による不快感が減少し、快適度上昇が達成される。なお、運動負荷強度が想定された下限値に達していた場合は運動負荷強度は所謂底打ち状態となるので、運動負荷強度の変更は行わない。その後、ステップS1へ戻る。
【0048】
ステップS10では、図4(b)より、現在の操作者の心理状態は効率よい有酸素運動が可能な領域に含まれていると推定されるとして、モータ3による運動負荷強度の変更は行わない。その後、ステップS1へ戻る。
【0049】
なお、上述の閾値La、Lc、Hは、被験者実験にて求められた運動負荷強度および自律神経系指標のデータに関して、クラスター分析を実施することで境界域を算出することが出来るので、これによって求めることが出来る。具体的には複数の被験者に対して実験を行い、運動負荷強度および心電位波形のデータをサンプリングする。閾値La、Hは例えば−10、70(単位無)の値が、閾値Lcは例えば−40(単位無)の値が使用される。また、快適度(C)、覚醒度(A)は、例えば以下の式で与えられる。
【0050】
C = Com×10
A = (200−Aro)/2
(Com:RRIの変化勾配の値、Aro:HFの値)
図7は、トレーニング機能を使用する場合における前記3つのモードおよび前記3つの運動負荷強度を用いたトレーニングメニューの一例について、制御部6の動作を説明する図である。なお、途中に登坂する場合や降坂する場合が含まれると説明が複雑となるので、本実施例では平地における場合で説明する。なお、途中に登坂する場合や降坂する場合が含まれるケースでは、単純には、前者では平地に比べて運動負荷強度を小さくし、後者では平地に比べて運動負荷強度を大きくすればよい。操作者が登坂しているのか、降坂しているのかは踏力検出部2の検出値(およびその履歴等)から判明する。例えば、踏力検出部2の検出値の過去の履歴を用い、踏力が増加傾向にあり最大値近傍で一定値となれば登坂状態にある、踏力が減少傾向にあり最小近傍で一定値となれば降坂状態にある。
【0051】
同図において、横軸がトレーニングの経過時間を表し、縦軸が運動負荷強度(補助力、または発電による負荷力)を示している。これまで述べてきたように、運動負荷強度は、操作者への補助力の大きさ、およびモータ3を発電機として使用するか否かに依存している。同図中の縦軸において、下方へ向かうほど運動負荷強度が増すので、モータ3の補助力は低下し、補助力がゼロになったら、モータ3を発電機として使用することで運動負荷強度を更に増すことができる(同図(a)中の網掛け部分)。
【0052】
時刻0(トレーニング開始時刻)〜時刻Tはウォームアップモードが適用され、時刻T〜時刻Tは有酸素運動モードが適用され、時刻T〜時刻T(トレーニング終了時刻)はクーリングダウンモードが適用される。また、各モードは弱・中・強の3段階の運動負荷強度を有している。これら3つのモードは、同図に示される様に運動負荷強度曲線が折線となる様に関係している。当該運動負荷強度曲線は、運動負荷強度に応じて3本存在する。この3段階の運動負荷強度の切り替えは強弱切替部6Cが行う。なお、時刻T、時刻Tや、各時間における運動負荷強度の値は例えばメモリに格納されており(図示無し)、強弱切替部6Cがメモリからこれらの情報を読み出す。
【0053】
トレーニング中の具体的な運動負荷強度の移り変わりについて、同図(b)を用いて説明する。なお、初期状態では運動負荷強度曲線は中のものが設定されているものとする。
【0054】
時刻0〜時刻Tはウォームアップモードであり、運動負荷強度が時間と共に増加する。それに連れて、操作者の状態も変化する。
【0055】
時刻Tにおいて、操作者の心理状態において覚醒度が高いまたは快適度が低いと前述の推定手法により推定されたため、運動負荷強度が1ランク減少され、運動負荷強度曲線は弱のものに切り替わる。その後、時刻Tにおいて、操作者の心理状態が覚醒度が低いと推定された結果、運動負荷強度が1ランク増加され、運動負荷強度曲線は中のものに切り替わっている。
【0056】
時刻T〜時刻Tは有酸素運動モードであり、運動負荷強度は時間に対して一定値である。
【0057】
時刻Tにおいて、操作者の心理状態が覚醒度が低いと推定された結果、運動負荷強度が1ランク増加され、運動負荷強度曲線は強のものに切り替わっている。この場合、モータ3の補助力をゼロにしても所定の運動負荷強度にならないため、モータ3を発電機として使用して運動負荷が更に増している。時刻Tにおいては、操作者の心理状態が覚醒度が高いまたは快適度が低いと推定された結果、運動負荷強度が1ランク減少され、運動負荷強度曲線は中のものに切り替わっている。この場合、モータ3を発電機として使用するのを停止して、駆動機として使用し、補助力を印加して運動負荷を弱めている。時刻Tにおいては、操作者の心理状態が覚醒度が高いまたは快適度が低いと推定された結果、運動負荷強度が1ランク減少され、運動負荷強度曲線は弱のものに切り替わっている。
【0058】
時刻T〜時刻Tはクーリングダウンモードであり、運動負荷強度が時間と共に減少する。
【0059】
時刻Tにおいて、操作者の心理状態が覚醒度が低いと推定された結果、運動負荷強度が1ランク増加され、運動負荷強度曲線は中のものに切り替わっている。時刻T10において、操作者の心理状態が覚醒度が高いまたは快適度が低いと推定された結果、運動負荷強度が1ランク減少され、運動負荷強度曲線は弱のものに切り替わっている。
【0060】
なお、覚醒度(A)が所定値Hより大きくても、快適度(C)が高い状態(例えば、所謂ランナーズハイの状態)も考えられるが、操作者が体を壊す可能性が考えられることから、本実施例では考慮しない。
【0061】
以上のように、心電位波形から得られるRRIの変化勾配、周波数解析結果から快適軸方向および覚醒軸方向の2因子を算出することで操作者の感覚が推定でき、当該推定結果、すなわち前記算出結果が効率よく有酸素運動ができる領域に含まれるか否かを判断することで、操作者への運動負荷強度が決定される。このことにより、本実施例にかかる補助機能を有する電動自転車100において、体力増進のために使用する場合に、操作者の感覚を推定し、それを加味して運動負荷強度を変更する電動自転車を提供することができる。
【実施例2】
【0062】
本実施例では、図5(b)に示されるように、感覚に応じて変化する自律神経活動の影響を受ける操作者の皮膚電気反応(GSR:Galvanic Skin Response)、末梢皮膚温(T)、脈拍(P)を検出するセンサ5を生体情報として使用して、快適度、覚醒度を算出する例を説明する。使用する生体情報が異なる点以外は実施例1と同じであり、それらについては本実施例では説明を省略し、相違点のみ説明する。
【0063】
具体的には、GSR、皮膚温T、脈拍Pの20秒間の変化勾配を計測して,これらの変化勾配から,「快−不快(快適軸)」,「鎮静−興奮(覚醒軸)」の2因子を算出する。変化勾配の求め方は、RRIの時と同様である。なお、一般に脈拍波形は心拍波形とは異なるデータを与える(心拍と脈拍のカウント数は原則同じである)。
【0064】
GSRは心理学的には興奮、鎮静などの情緒の鋭敏な指標として注目されており,不快刺激などにより汗腺細胞が興奮して,皮膚抵抗が1〜2秒の潜時にて低下し,皮膚抵抗反応が一時的に上昇する現象を示す。これは精神性発汗部位である手掌などの末梢部は交感神経活動を直接に反映する。末梢皮膚温Tは、皮膚交感神経が活性化時に皮膚血管の収縮を起こし、皮膚部に輸送される熱量が減少することにより低下する。緊張やストレス刺激に対して末梢皮膚温は一過的に低下し、逆に、入眠時など副交感神経が有意な時には皮膚温は上昇する。脈拍Pは、心臓交感神経と心臓副交感神経の拮抗支配を受けている。身体的負荷や精神的負荷により。心臓交感神経の賦活あるいは副交感神経の低下が起これば心拍数や脈拍数は上昇する。脈拍の上昇は作業負荷超過の指標として用いられ、脈拍の上昇は不快の度合いの上昇を示し、脈拍の低下はリラックスの度合いの上昇を示す。
【0065】
上述の様に、自律神経系の生体情報を用いることで、快適感、覚醒感の質を良好に判別することができる。
【0066】
ここで、図5(b)について、説明する。
【0067】
感覚推定部6Aにおいて、脈拍センサ、皮膚温センサ、GSRセンサの各センサ5からの信号を受ける。上述のように、脈拍Pの上昇により不快の度合いが増し、脈拍低下によりリラックスの度合いが増すことから、脈拍から、主に快適度算出に用いられる。GSRは、被験者の覚醒の度合いに密接に関連する交感神経活動を直接に反映することから主に覚醒度の算出に用いられ、また皮膚温Tは緊張状態にあるか、ストレス状態にあるかの指標とできることから、補助的に覚醒度の算出に用いられ、GSRからの算出の補完的役割を果たす。以上の事から、脈拍センサ、皮膚温センサ、GSRセンサの各検出値が快適軸−覚醒軸平面に変換される。なお、図8に上から順に、GSR、脈拍(pulse)、皮膚温(skin temperature)の実際の測定波形の一例を示す。
【0068】
コントローラ6Bでは、実施例1と同様に上記快適軸−覚醒軸平面上の座標が効率よく有酸素運動ができる領域に含まれるかどうか判断する。その他の動作、制御も実施例1と同様である。
【0069】
以上により、本実施例にかかる補助機能を有する電動自転車100において、体力増進のために使用する場合に、操作者の感覚を推定し、それを加味して運動負荷強度を変更する電動自転車を提供することができる。
【0070】
なお、本実施の形態における感覚推定部は、ハードウェアでは、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIなどで実現できる。また、ソフトウェアでは、メモリにロードされた感覚推定機能のあるプログラムなどによって実現される。図1、図2には、ハードウェアおよびソフトウェアによって実現される機能ブロックが示されている。ただし、これらの機能ブロックが、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、あるいは、それらの組合せ等、いろいろな形態で実現できることは言うまでもない。
【0071】
本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施の形態に係る電動自転車の構成の模式図である。
【図2】実施の形態に係る電動自転車の制御系の機能ブロック図である。
【図3】実施の形態に係る心電図である。
【図4】実施の形態に係る快適軸−覚醒軸平面における操作者の感覚を示す図である。
【図5】実施の形態に係る制御部を説明する図である。
【図6】実施の形態に係るフローチャートである。
【図7】実施の形態に係る運動負荷強度を用いたトレーニングメニューの一例について説明する図である。
【図8】実施の形態に係るGSR、脈拍、皮膚温の測定波形である。
【符号の説明】
【0073】
1 ペダル
2 踏力検出部
3 モータ
4 バッテリ
5 センサ
6 制御部
6A 感覚推定部
6B コントローラ
6C 強弱切替部
7 駆動輪
8 前輪
100 電動自転車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者の踏力による人力駆動力に、該人力駆動力の補助を行うモータの補助力を加える事で操作者に対する運動負荷強度を制御して走行可能とされた電動自転車であって、
ペダルと、
該ペダルにかかる前記踏力を検出する踏力検出部と、
操作者の生体情報を検出するセンサを有する生体情報検出部と、
該生体情報検出部の検出結果から、操作者の感覚における快適軸方向および覚醒軸方向の2因子に関する情報を算出して、該情報から前記操作者の感覚を推定する感覚推定部を有し、当該推定された感覚と前記踏力検出部の検出結果とに基づき、前記モータの補助力の制御を行うことにより、前記運動負荷強度の制御を行う制御部と
を備えることを特徴とする電動自転車。
【請求項2】
前記制御部が行う運動負荷強度の制御には、前記モータによる前記人力駆動力への補助力の制御の他、前記モータを発電機として使用することにより前記人力駆動力へ加わる負荷の制御を含むことを特徴とする。
【請求項3】
前記センサは、生体情報として心電位を検出するセンサ、または、脈拍、皮膚温、皮膚電気反射を検出するセンサ、のうちの少なくとも一つである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電動自転車。
【請求項4】
前記センサは、生体情報として心電位を検出するセンサであり、
前記制御部は、
所定期間内における、操作者の心電位波形の各極大値部分Rのピーク間隔の時間軸方向の特性において、該ピーク間隔の変化勾配と周波数解析の結果から算出される所定周波数値におけるパワー値を算出して、前記快適軸方向および覚醒軸方向の2因子に関する快適度Cと覚醒度Aを算出し、
前記快適軸方向における第一の閾値Lcと、覚醒軸方向における第二の閾値Laおよび第二の閾値より大きい値である第三の閾値H、に対して、
快適度Cが前記第一の閾値Lc未満の時は運動負荷強度を弱くし、
覚醒度Aが前記第二の閾値La未満の時は運動負荷強度を強くし、
覚醒度Aが前記第三の閾値H超過の時は運動負荷強度を弱くする2因子制御を行う
ことを特徴とする請求項3に記載の電動自転車。
【請求項5】
時間の経過に連れて前記操作者への前記補助力を減少させるモード、前記操作者への前記補助力を一定に維持するモード、時間の経過に連れて前記操作者への前記補助力を増加させるモードを有し、また前記各モードは少なくとも強段階、弱段階の運動負荷強度を有し、
各モードにおいて、前記制御部の前記2因子制御の結果、時間の経過に対して強段階、弱段階の運動負荷強度を切り替える強弱切替部を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の電動自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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